「そういえば、姫柊。要とヴァトラーの奴は知り合いのなのか?」
ヴァトラーのパーティーに招かれた翌日、朝からトラブルに見舞われながらも無事登校することができた古城は自らの監視役である少女に訪ねた。
「……知り合いといえば知り合いなんでしょうね。あまり込み入った内容までは知りませんが、数十年前に起きた二人の戦いは攻魔官の間では比較的有名な話ですよ。なにせ戦王領域の一角を消し飛ばした挙句、ロストウォーロード自ら止めに出たほどですから」
「……マジか?」
俄かには信じがたい話だが雪菜の表情は真剣そのものであり、それがタチの悪い冗談でないことは明白だった。
「幸いというべきか、人的被害は皆無だったのですが」
「何やってんだよアイツは?」
古城は呆れながらそう呟いた。
「いえ、実質仕掛けたのはアルデアル公だったそうですけど」
首を振りながら雪菜はそう言う。実際偶然アルデアル公国に滞在していた要にいきなり喧嘩をふっかけてきたのはヴァトラーだった。
「というより、うちはさんは自分から争いの発端になる事はあまりないそうですよ。世界中回りながら厄介事を見つけると嬉々として引っ掻き回していくだけで……」
そのため政府からは何をするかわからない上に要が来る=厄介事が起きると思われているため政府からは好かれていない(例外が一国だけある)、そして厄介ごとの被害を受けていた者からは賞賛、加害者からは罵倒を浴びるという境遇になっているが、当の本人はあまり気にしていなかった。
「けど、国の一角を吹き飛ばすなんて大事件が起きたのにニュースになったり、責任問題とかの騒ぎにならなかったのか?」
「私たちが生まれるよりも前の話ですからね。当時は結構話題になったそうですけど。それに、国の君主自ら国土を吹き飛ばしたなんて表沙汰にも出来ず、情報規制の末うちはさんは関わっていなかったことになって、アルデアル公は侵略者を迎撃した。ということなっていたそうですよ」
真相を知っているのは当時の攻魔官と政府関係者くらいのものです。と雪菜は続けた。
「……そんな二人がパーティ会場にいたってのも怖いな。仲悪いんじゃねえのか?」
「どうなんでしょう? 二人共バトルマニアとして有名ですから、似た者同士で気が合うんじゃないでしょうか?」
実際の所は要はあまり関わりたくないと思っていて、ヴァトラーは要のことを気に入っているためちょっかいを出そうとしている、という状態である。簡単に言えばお互い一方通行に嫌悪と好意を向けているという状態である。
勿論他人がそんなことを知る訳もない。周囲からは戦闘狂どうし気が合うんだろう、と別称されているくらいだ。実際要と付き合いの長い那月ですら(本人が話さなかったのもあるが)二人がどういう関係か数日前まで把握していなかった。
「でもよ、あの時の要のあの薄ら寒い笑みを見るととても気の合う奴と思えないぞ?」
ほんの一瞬ではあったがあの背筋が凍りつくような酷薄な表情を思い出し古城と雪菜は思わず身震いした。
「そうですね……」
「ま、まあ、要もよく分からない所があるからな」
取り敢えずは被害はなかったんだから、と二人は考えるのをやめた。
◆
一方二人の話題に二人の話題に上がっている男、うちは要はというと。
「なにやってんだろうね、この人は」
「あ、あの第四性犯罪者ァ~~~!!」
とあるビルの屋上で黒のスリーピースを着こなし、日差し対策のサングラスをかけた要と、式紙から送られた映像を見ながら手すりを握り締めミシミシと鳴かせている少女がいた。
「第四真祖な、真祖。つか、性犯罪者って流石にそこまではやってないはずだけど」
「黙りなさい!」
「……」
鬼の形相で睨まれ要は沈黙した。
そもそもこんな状況になっているのは、要が気まぐれで朝から散歩していた時に怪しげな彼女を見かけ声をかけたのが始まりだった。今と同じような形相で「古城殺す、古城殺す、古城殺す!」と呟いていれば見過ごすわけにもいかなかったのだ。
「う~~、雪菜が……私の天使が!」
「もうただのストーカー……というより危ない人か。取り敢えず一旦落ち着け。古城はそんな悪い男じゃない」
ドウドウ、と馬を沈めるような態度で接する要だが、そんな彼を尻目に紗矢華の怒りのボルテージは上がっていく。その内噴火してしまうだろう。彼女の場合溶岩の代わりに呪詛が溢れてくるのだろうが。
「そりゃ私だって、相手は第四真祖だから! 高貴で清潔で、年収は一千万以上、雪菜に服従を誓って去勢するなら認めてあげても良かったけど!!」
ワナワナと震えながらそう言う紗矢華を見て、彼女が本心では心底不本意ですけど! と思っていることが手に取るように要にはわかった。
「……お前かなりの男嫌いだろ?」
その瞬間、紗矢華が雷に撃たれたような表情をして固まった。
そして楽器ケースから剣を取り出し素早く要から距離を取る。
その反応に流石の要も驚いてしまった。まさか、ここまで過剰に反応するとは思わなかったからだ。
「貴方、私のこと調べたの?」
「まさか。昨日の今日で調べるなんて無理だよ。けどまあ、当然のように去勢云々なんて言うって事は男に対して碌でもない印象しか持ってないってことじゃないのか? って思っただけだ」
ついでに言うのであれば獅子王機関が才能ある孤児を集めて養成しているという実態もある。その辺から推測していけば可能性は十分にありえた。そしてあくまで推測でしかなかったそれは紗矢華の反応から確信に変わった。
油断なく剣を構える紗矢華とそれに対して特に何もせず無防備な状態で対峙している要。
数秒か数十秒か、もしくは数分かもしれない時間、紗矢華は要を睨みつけ、要はそんな視線を受け流している。
やがて紗矢華は構えを解き剣を下ろした。
「――ふん、男なんて大嫌いよ。貴方もこれ以上私に近寄らないで、妊娠するから」
「はいはい。つか、それで妊娠って……人間はいつからそんなびっくり生物になったんだよ……それより、いいのか? 古城と姫柊行っちまったぞ」
「……え?」
慌てて式紙と感覚を同化させると式紙の知覚範囲から古城と雪菜は外れていた。本来であれば相手の移動に合わせて式紙も自動で移動させていくのだが、今回紗矢華はリアルタイムで指示を出していたこと、そして要との小競り合いの最中は一切指示を出さなかったために古城たちを見失ってしまった。
「……そう、最初からそのつもりだったのね。私の注意を引きつけて暁古城を雪菜と……」
「取り敢えず言わせてくれ。完全な誤解だ。というか君の被害妄想――」
平和な絃神島の朝。そこには平和な学生たちの登校風景と、大きな剣を振り回すスタイルの良い少女とその少女に追い掛け回され必死に逃げ回る吸血鬼の姿が目撃された。
そして、その通報聞いたとある魔女が盛大なため息をついたのは余談である。
◆
「朝は舞威媛に追いかけられて、今度は治安維持活動かよ」
「お前は自分から騒動は起こさない主義じゃなかったのか?」
日傘をさした那月は不機嫌そうに言う。実際午前中に大きな剣を持った少女に追いかけられている男がいるという内容の通報が何件もあったのだ。その通報内容を聞いた那月が「要か暁のどっちだ?」と思わずぼやいてしまったのは仕方のないことだろう。
「まあいい。お前の推測通り蛇使いが黒死皇派と組んでいるのなら私だけでは些か面倒だ。だから、お前も手伝え」
「それはいいんだけど」
気になるのは紗矢華の事だ。できるだけ古城に対する誤解を解こうとは頑張ったが、実際の所彼女が聞き入れたかは怪しいところだ。それこそ、古城に闇討ち紛いのことをしかねないのではないかと思ってしまうほど。
(男嫌いの反動か、姫柊に対する愛情はカンストレベルみたいだし――一応しっかり忠告しておくか)
「那月ちゃん、悪い。少し電話してくる」
「ああ」
タブレット端末の携帯を取り出し古城へと電話をかける。
「…………出ないな」
この時、要が想像した通りの展開に、古城が紗矢華に襲われているという展開が広がっているとは当然ながら要には分からなかった。
呼び出しを終了させ要は考え込む。
紗矢華は雪菜と違い見習いではない舞威媛だ。雪菜も才能があり努力も怠らない生真面目な性格から見習いながら高い能力を持っているが、紗矢華はそれ以上の能力を持っているというのが要の見解だった。
仮に要の想定通りに事が起きていたら、いくら第四真祖といえど戦闘経験の少なさ、そして、眷獣は一体のみという古城では分が悪いだろう。
「一度様子を見に行ったほうが――っ!」
言い切る瞬間、要は膨大な魔力の波動を感じ取った。
「――コレは、九番目か? なんでこのタイミングで?」
魔力の波動が収まると同時に那月が転移してきた。
「要、今すぐ彩海学園に戻るぞ――」
那月の言葉に被せる様に爆音が響いた。
要たちが振り返ると、そこにはクモのような形状の何かがいた。
最悪のタイミングで唐突に現れたそれを見た那月と要は思わず同時に舌打ちしてしまった。後一時間くらい、もしくは永久に目覚めないで欲しかったと思うのが二人の本音である。
「アレがナラクヴェーラか……思ったより早く――要、アレは私とアイランドガードで何とかする、お前は暁を頼む。その後できるだけ早く戻って来い」
「俺が残ったほうが確実だと思うけど?」
実際単純な戦闘能力だけで考えれば那月より要のほうが高い。ナラクヴェーラを倒すことだけを考えるなら要が残ったほうが確実だ。ついで、ちょっぴりだけナラクヴェーラと戦いたいという欲求があるのは内緒である。
「お前の指示をアイランドガードの連中が素直に従うか? 避難誘導や怪我人の救助にも人員を割かなくてならん。だから私が残る。お前はさっさと暁の問題を解決して戻って来い」
要は吸血鬼である。そして、それだけでなく那月の右腕のような立ち位置にいる要はアイランドガードの人間から非常に嫌われていた。
この非常時にそんな事を気にしているような馬鹿はいないと思いたいが、もしもということもある。下手に指揮に従わず無闇に動き回れば余計な被害を生むことは分かりきっているだ。
そしてナラクヴェーラにしろ、第四真祖の眷獣にしろ、どちらも島を沈めるに値する脅威となるのも明白な事実だ。ならば片方を素早く確実に対処した上で残りに総力で取り掛かる方がいいだろう。
「……すぐに戻る――」
アイランドガードの隊員が使用しているバイクにまたがり要は彩海学園へ向かった。
◆
サイレンを鳴らしているとはいえ法定速度など完全に無視して要はバイクを走らせる。普通の人間であれば交通事故に遭うのは確実といっても過言ではない速度だ。
吸血鬼である要だからこそ当然のように扱っているが、加速していくバイクはまるで暴れ馬のように乗り手を振り落としかねない振動もある。殆ど力任せにそれを押さえ込み要は彩海学園に向かう。
「本当にどういう状況だよ!?」
到着した彩海学園は要の知っている光景とはやや違っていた。
窓ガラスが割れて荒れている校舎。
そして中に入れば半壊した保健室に、血濡れで倒れるアスタルテとその治療を行っている紗矢華とそれを見守る古城。
はっきり言って何が起きたのか全くわからなかった。
「学校にテロリストでも来たのか?」
「凪沙たちが!」
「凪沙ちゃんがどうした?」
「誘拐されたんだ、浅葱も姫柊」
三人が連れ去られたと聞いて要は首をかしげる。ある意味三人とも重要人物だ。第四真祖の近しい人物というだけでなくそれ以上の理由がる。
「誰を狙っていたか分かるか?」
「分からねえよ! 俺たちが来た時はもうこの状態だったんだ」
そう叫ぶ古城を尻目に治療をこなっている紗矢華の横に腰を下ろし、アスタルテと視線を合わせる。
「アスタルテ話せるか?」
「……問題ありません」
相変わらずの無表情でアスタルテは答える。しかし、息が上がっており苦しそうだ。銃弾で脇腹を撃たれたのだから当然かもしれないが。
「無理はしなくていい、ここで何が起きたのか、そして三人を誘拐した奴らが誰を狙っていたのか分かれば教えてくれ」
「
「マスター、おそらく黒死皇派です。ミス藍羽が目的のようでした」
「浅葱が……?」
浅葱が誘拐された、電子の女帝として狙われたのか、それとももう一つの理由で彼女を連れ去ったのか。
おそらくは前者であろうと要は結論した。凪沙と雪菜を誘拐したのは浅葱に目当ての仕事をさせるために人質としてだろう。
「黒死皇派ってことは、ナラクヴェーラか、つーと、戻らねえとまずいな。アスタルテ、お前は無理をする必要はないからしっかり休んでろ」
そう言い残して要は保健室をあとにした。
最近友人からの勧めで艦これを始めました。
まだ初めて一週間程ですが榛名を出したくて躍起になっております。
理由は無論可愛いから!!
SAOの設定だけ考えている私ですがユニークスキル飛天御剣流とか使わせたいなあと実写版を見ながら考えてました。
本編ですが夏音があまり絡んでいなかったから誘拐組の中に夏音を混ぜようと思って一度書いたんですがいろいろあって没にしました。
今後とも宜しくお願いします