短いです。本当はもう少し長かったのですが、ここは別のところでやったほうがいいんじゃないかなと思い削ったら短くなってしまいました。
短い上に相変わらずの駆け足気味ですが、どうぞよろしくお願いします。
不定期な更新となっておりますが来年も是非よろしくお願います。
「まさか、護衛任務開始前に護衛対象が行方不明とは……」
捜索までは仕事に入っていないが、どうしようか、など内心ボヤきながらも壊れた船の残骸で生き埋めに近い状態になっているアルディギアの騎士や王女の従者たちを要は救助していく。魔族故の人外の怪力で要は瓦礫を積み木感覚で持ち上げていき、普通の人間の数十人分の働きはしているであろう。
そして、救助した人の中でも重傷者を乗ってきたヘリに乗せて先に絃神島に送るための作業を数時間に渡り、要は繰り返している。
「これで一応瓦礫の下敷きになっている奴はあらかた掘り返せたか」
「すみません、お手数お掛けしました」
「大した手間じゃないから気にしなくていい」
しかし、これからどうしたものか。と要は考える。ヘリは重傷を負った者の搬送に使う上に、もしかしたら襲撃者がまたこの船を襲ってくる可能性もゼロとは言い切れない。この二つの条件から要が船に残るのは決定事項ではある。
(しかし、暇だな)
重傷者はヘリで運ぶし、他の者も基本的な処置は終えている。つまりやる事がないのだ。このような事態が起きていながら内心暇だと思っているなど不謹慎極まりないが、要はこのような状況下でも暇を嫌う性分だった。
「できれば襲撃者の情報が欲しいんだけど構わないか?」
「はい……二人の魔族とそして、アレは天使でした」
「天使? 力の比喩か? それとも外見も含めた両方か?」
「両方です、純白の翼を持ち、神々しい光を放っていました」
「純白の翼ねぇ……翼……羽か。そして襲撃の目的は王女……」
確かアルディギアの王族は極めて高い霊媒素養を持っていたな、と要は思い出していた。それが理由か、あるいは政治的な理由でか。王女という理由だけで襲われる理由などいくらでも増えるのだ。自分が考えたところで仕方ないと要は思考を切り替えた。
自分が那月とともにここ数日追っていた羽付きのことだ。
要はまだデータでしか確認していないが、人型の生物に翼がついているから羽根つきと呼んでいるのだが、今回の天使と見た目が似ている。そして、自分や那月ですら出現する寸前までその気配に気がつかない存在。それが天使という存在であれば自分達が察知できないのも漠然とだが理由にはなる。
「ただの偶然ならいいんだけど。こういう時の嫌な予感は九割程度は当たるんだよな」
携帯を取り出し電波を確認する。しかし、ここは海の上、衛星電話でもない携帯に電波が立っている訳もない。
「まあ、当然か。済まないが、紙とペンはあるか?」
「え、ええ」
紙とペンを受け取った要は急いで紙上にペンを走らせていく。簡単に言えば自分たちの追っている羽根つきと、襲撃犯が同一人物かもしれない、と。
◆
重傷者を乗せてヘリは飛び立とうとしている。
とんでもない仕事になってしまったものだとパイロットは思う。そして自分の操縦に複数の重傷者が乗っていると思うと重苦しいものを感じてしまう。
つまり、自分の操縦が下手だったり遅れたせいで死人が出たら、と考えてしまうと気が滅入るというものだ。
そんな時だった、要がやってきたのは。
「なあ、一つ頼みがあるんだけど」
「な、なんすか? うちはさん」
要の目から見て、パイロットは明らかに緊張していた。
「その前に気負いすぎだ。怪我人を乗せているとは言え、来た時と同じように操縦すればいい。意外と快適だったぞお前の操縦」
あのマシンガントークさえなければな、と言いたいところを長寿者として鍛えられた、強靭な精神で抑え込んだ。
「うす、それでうちはさん、頼みとは?」
「これを向こうに着いたら那月に渡してくれ」
そう言い一枚の封筒を差し出す。中身は先ほど要が書いた那月あての手紙だ。
「ここからじゃ電波が届かない、船の通信機器もやられている状態だ。となればこれしか手がない。重要なことが書いてあるからしっかり頼むぞ」
◆
空き部屋を一室を借りた要は「何かあったら呼んでくれ」と言い、室内の椅子に腰掛けた。
少なくとも救助隊が来るまで半日はかかる。その間海上で燦々と降りかかる日光を浴び続けるのも吸血鬼的にきついからだ。
だからといって休んでいるだけでは、時間がもったいない。故に要は現在の情報を整理した。
(羽根つきと舟を襲った相手が同一の存在だと仮定したとしよう。まずアレが本物の天使か否か・・・・・・推測だが恐らく違う)
推測と言っても間違いないと要は確信を持っていた。物的というほどの証拠でもないが、船の襲撃者の魔力の残りなど感じ取りそう思ったのだ。理論的に説明しろと言われても出来ないのであくまで直感によるものであるがゆえに推測であると念頭に置いているのだ。
(ならアレは模造天使とみていいか。模造天使を造る、そして天使同士で戦わせる、蠱毒みたいなものか? それなら目的はより強力な天使を生み出すこと。つまり強力な天使が必要、利用目的は恐らく兵器。兵器が必要とされるのは、軍隊、テロリスト、兵器を取り扱う企業)
とはいえ要は軍隊はまずないと考えていた。単独でせこい真似をする輩がいるというのならともかく、これだけ大規模なことがアイランドガード内で行われていたら、那月が見逃すはずがない。
テロリストも可能性は低い。以前の黒死皇派の事件以降テロ関連には特に過敏なっている時期だ。となれば、消去法で残りは企業となる。
(事件の発生状況から恐らく絃神島内の企業か・・・・・・次に模造天使を生み出す製造過程はどうなのか。ゼロから生んでいるのか、既存生物を元に改造しているか。蠱毒で単一性能の向上を目指しているなら、霊的資質の高い人間を元にしてる可能性が高いか。だとしたら、今回の襲撃、アルディギア王女誘拐の理由にも繋がるか)
目頭を押さえながら要は思考の海に没頭する。かなり強引な考え方だ。その自覚を持ちながらも、とりあえず思い浮かんだ内容は最後まで考えてみる。
(仮に羽つきと今回の襲撃が繋がっていたら、絃神島の企業がアルディギアを襲撃した、って厄介な状況になるわけだが)
現在の仮説状況。全てが繋がっていたら、最悪という言葉がこれ以上相応しくない状況になる。
(いや、そもそもこの仮説が成立するには、なにより腕の立つ魔術師が必要だな……あ)
そして、ふと有ること気がついた。
あるのだ。それらの条件を全て満たす企業が。
「叶瀬賢生……メイガスクラフトか?」
しかも叶瀬夏音という非常に高い霊的資質を持つ娘までいる。
「考え過ぎか――」
少なくとも要の知る限り、叶瀬賢生は夏音に深い愛情を注いでいた。そんな夏音を利用するとは思えなかった。
そもそも、この考え自体要が今回の襲撃と羽根つきの事件を無理やりつないだ結果思いついただけの話である。状況的にありえるかもしれない程度の内容なのだ。
(念のため調べるだけ調べておくか)
どちらにせよ絃神島での事件は蠱毒の可能性が高く、舟の襲撃者が同一である可能性は高い。逆にそれ以外の情報はない。ならば、安心のためにもまずメイガスクラフトに探りを入れるのもありだろうという結論に至った。
王女が狙われた理由がその霊的資質を欲したからという理由であれば、叶瀬賢生の養女であり、加えて強力な霊的資質を持つ夏音にも危険が及ぶ可能性もある。
もちろん、すべて要が連想ゲームなみの発想で思いついた内容ではあるのだが。
「――これ以上厄介な事件にならないといいんだけど」
天使との戦いに心惹かれるものは確かにある要だが、優先順位としては夏音の安全だ。確定したわけではないが、僅かでも、可能性がある以上見過ごす選択肢はない。
事件を引っ掻き回すことに定評のある要が、静かに終わってくれるならそのほうがいいとさえ思い始めていた。
「仕方ない。救助隊が来たら、本格的に動くか」
要の目に鋭い光が宿っていた。