救助隊が到着し、絃神島に帰還した要は那月と港で合流していた。
アルディギアの従者たちが保護され、慌ただしく状況が動いている中、二人は外に出ていた。
「叶瀬賢生は行方不明か」
「ああ、しかも暁の話が事実なら、羽根つきの容姿が叶瀬夏音に似ていたそうだ」
古城の見間違い。とは要は思わなかった。
彼も先日までは普通の高校生だったが、今は第四真祖。
そしてこの数ヶ月の間に大きな修羅場も潜り抜けてきた。戦闘中に知人と見間違える可能性は低いだろう。
加えて――
「実際、夏音にも連絡がつかない。……どうも、最悪の予想が当たりそうだ」
要の口調は普段と変わらない。
事件の合間、缶コーヒー片手に、那月と情報共有をしていた。
だが、いつもの飄々とした態度から想像もつかない、感情の見えない表情だ。
「那月、頼みがある」
「好きにしろ」
「……いいのか?」
「お前がその目をしている時、私に制御できるとは思っていない。アイランドガードには話を通してある。好きに動け」
手紙の内容と、先日の古城たちの報告で彼女もある程度予測はしていたらしい。
すでに要が自由に動けるように手配してあるのは、長い付き合いのなせる業だった。
いつもの日傘の影になり、要から那月の表情は伺えない。
那月は小さくため息をつきながら続ける。
「私は王女の捜索の件もある。情報共有だけは忘れるな」
「了解」
「当てはあるのか?」
「いや。……だが、メイガスクラフトが関わっているのが確実なら、おおよその見当はつく」
「そうか。それともう一つ、暁たちも動いているようだ」
「古城たちが?」
「ああ」
「もし、本当に蟲毒の類ならマズイな。飛んで火に入る夏のなんとやら、にならなければいいが」
要が歩き出す。
「一応言っておくが、叶瀬賢生を殺すなよ」
「分かってるよ。夏音も悲しむしな。……顔の形までは保証できないけどね」
◇
那月と別れた要は、そのまま空港に向かっていた。
(おそらく、状況は最悪に近い)
拾ったタクシーの中で要が思考にふける。
(古城が出会った羽根つき。それが夏音本人と想定した場合、すでにある程度進んでしまっているとみるべきか)
少なくとも、要が最後に夏音と出会ったとき彼女に異変はなかった。
彼女が高い霊媒資質を持っていることは把握していたが、それだけのはずだった。
(この数日で、いきなり夏音を改造した、ということか。……あの子の素養なら不可能ではないだろうが、リスクは大きい)
果たして本当に、叶瀬賢生が娘を被検体に選ぶだろうか。
その疑問だけは、要は未だに解消できていなかった。
会ったのは数度だが、賢生が娘に向ける愛情は本物だと要は見ている。
目的が見えない。
少なくとも、知的好奇心を満たすためだけに動く男ではないはずだ。
(いや、それは考えても仕方がない。いずれにせよ、蟲毒が進んでいるのであれば――)
要が手元のスマホに目を落とす。
夏音だけではなく、古城、雪菜にも連絡がつかない。
(もし蟲毒が最終段階なら、もう島内に奴らはいない)
叶瀬賢生が行方不明という情報。那月もアイランドガードに捜索させたが、未だに居所が掴めていないことからも確実だろう。
絃神島には那月も要もいる。
実験が最終段階まで進んでいたとする。そして強大な力を手に入れたとしても、二人を敵に回すことは避けたいはずだ。
そこまで考えたところで、スマホの通知が鳴る。
(来たか)
アイランドガードに依頼していた、絃神島近海にあるメイガスクラフト所有の実験場。
その中でも兵器の実験に使われている所在地のデータだ。
◇
「いや流石ですねうちはさん、まさかセスナの操縦まで出来るなんて。俺マジで感動ですよ! あ、それはそうとさっきはありがとうございます! うちはさんに励ましてもらったおかげで自信もって輸送できましたよ! あ、ガム噛みますか?」
「……いたのか」
空港に着いた要を出迎えたのは、ヘリのパイロットだった。
「ええ、怪我人搬送後、一時ここで待機が命じられてまして。ところでうちはさん大丈夫ですか?」
「ああ、セスナの操縦は久しぶりだが、俺一人なら多少粗くても問題ない」
「あ、いやそっちじゃなくて、なんか昨日より表情が強張ってる気がして」
あのマシンガントークの中でも人の表情を見ていたのか、と要は少し驚く。
「……そうかもな」
「王女の件はうちはさんのせいじゃないですよ」
パイロットは夏音のことを知らない。
要の今の状況は昨日の事件のことを、悔やんでいるのではないかと推測していた。
「ああ、そっちは那月が動いてるから大丈夫だ」
「そうなんですか、じゃあ他のヤバい案件ってことですか?」
要の個人的な事情も大きいが、実際にメイガスクラフトが関わっていた場合、外交問題に発展する可能性もある。
中らずと雖も遠からず、といったところだった。
とはいえ、それをただのパイロットに教えるわけにもいかない。
「まあ、そんなところだ」
そんな風にぼかしながら伝える。
パイロットにはそれで充分だった。
自分が関われるレベルの話ではない。そう判断した。
「そうですか、俺に協力できることあったら何でも言ってください!」
「はは、そうだな。じゃあ、俺が遭難したら迎えに来てくれ」
「任せてください! 地の果てでも飛んでいきますよ!」
「コイツじゃそんな遠くまでは無理だな」
苦笑しながらセスナに乗り込む。
少しだけ気分が軽くなったような気がした。
「さて、行くか」
ここまで自分の推測が外れてほしいと思うのは初めてだが、行って確認しないことには始まらない。
「外れたら無人島で待ちぼうけになるがな」
それでもかまわないと思った。