ストライク・ザ・ブラッド ALTERATION   作:霧島楓

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行く年来る年

「カナメ、初詣に行くぞ」

「いってらっしゃい」

 

 カナメが手をひらひら振りながらそう言うとレージングで無理やり部屋から引き釣り出された。そしてカナメは強制的に初詣へ行くことになった。

 

「俺に拒否権とかは?」

「あるわけないだろう」

「断言って傍若無人すぎる」

 

 情けない抗議の声を上げるカナメだが当然その声は聞き入れてもらえなかった。

 

 

 初詣と言っても常夏の島ゆえに、絃神島の年末年始は寒くない。街を歩きながら要は後ろを振り返る。那月、夏音、アスタルテといったいつもの南宮家の面々に加えて煌坂紗矢華、ラ・フォリア・リハヴァイン、妃崎霧葉までいる。知る人が知れば卒倒してしまうような面子だ。紗矢華と霧葉は諸事情あって絃神島にいたので不思議ではないが、ラ・ファリアは年末年始に自国にいなくていいのかとカナメに尋ねられたが笑ってスルーしていた。それでいいのか王女。

 

「まあ、いいか」

 

 カナメはまあ、大丈夫だろうと考えを止めた。何を言ったところでのらりくらりと交わされるのは目に見えているから。ラ・フォリアがここにいて自分が困ることもないので特に気にしない方針にしたのだ。

 

「しかし――似合うな」

 

 那月や紗矢華、霧葉も日本人らしく綺麗に着物を着こなしているが、外国人のラ・フォリアや外国人の血を引く夏音、外見はどう見ても外国人のアスタルテといった面々まで綺麗に着こなしているのだ。

 

「ありがとうございます。お兄さん」

 

 少し照れたように夏音が言う。ラ・フォリアも満更ではなさそうである。

 

「そろそろ着くぞ」

 

 

 

 初詣の行くとそこには古城と雪菜と浅葱がいた。いや、それだけではなく、凪沙、優麻、結瞳、古城の友人である矢瀬までいる。

 

「お、皆さんお揃いだな」

「ん? 矢瀬はあの娘と一緒じゃないのか?」

 

 カナメがそう聞くと矢瀬は苦虫を噛み潰したような表情をした。そしてその表情ですべてを察した。

 

「あー、まああの娘も忙しいから」

「――来年こそは!」

 

 ちなみに矢瀬は去年も同じことを言っている。が、カナメもそこを指摘するほど無慈悲ではなかった。

 

「去年も同じことを言っていたがな」

 

 もっとも担任の教師は慈悲の欠片もなかったが。

 

「ぐっ、痛いところを……要は古城と同じ――いやそれ以上か。そこまで節操無いとか尊敬するぜ」

「誰が節操なしだ?」

 

 など年が離れていながらも悪友のような態度で会話を続ける。年末とは言え至っていつも通りの光景であった。

 

 

「カナメ、これはなんですの?」

「おみくじだ。簡単に言うと自分の一年が幸運か不幸か占ってくれるんだよ。新年初の運試しとでも言うべきか」

 

 日本の初詣に初参加するラ・フォリアは目に映るものが全て新鮮に見えるようである。引いたおみくじの結果を食い入るように見ている。一方で同じように初めて初詣に来るアスタルテはどちらかというと夜店のたい焼きやたこ焼きに目が行っているようだ。一応アスタルテにも今回の初詣用の小遣いを渡しているので自分で買うこともできるのだが、どうすればいいのか迷っているらしい。

 

「ふむ……」

 

 一件無表情だが困っている様子のアスタルテを見て、少し考えたカナメは近くのたい焼き屋に行き、オーソドックスは粒あんのたい焼きを購入した。

 そしてアスタルテの元に戻り

 

「――とりあえずこれ食べてみな。本当はもっと寒いところで食べたほうが美味いと思うが」

 

 ちなみにたい焼きは寒いところでというのはカナメ個人の好みである。

 

「――ありがとうございます、マスター」

 

 たい焼きを受け取り一口噛じるとアスタルテは頬を緩ませる。アスタルテはたい焼きが気に入ったようだ。

 基本的に無表情でいることの多いアスタルテだが、実際のところ動きが少ないだけで意外と表情に出ていたりする。最初の頃は動きもしなかったが、これも彼女の成長の証であると言えるだろう。

 そんなアスタルテを我が子の成長を見守る父親のような心境でカナメは見ている。

 そんなカナメの横に那月がやって来てボンヤリと空を見上げた。

 

「どうかした?」

「いや、お前と出会ってから随分と立つなと思っただけだ」

「……那月からの第一印象は最悪だったろうな」

 

 苦笑しながらカナメはそう言う。カナメと那月が初めて会ったとき、絃神島では連続殺傷事件が起きていた。何か事件が起きていたりすると進んで引っ掻き回すと言われていたカナメはそれはそれは邪魔な存在だったのだ。当初は殺し合いに近い戦いを繰り広げ、後に二人で組んで事件を解決した。

 そして紆余曲折ありカナメは絃神島に留まることになった。

 

「今年もこき使うから覚悟しておけよカナメ」

「――変わらず吸血鬼使いの荒いことで」

 

 そんな会話をしていると霧葉が人混みの中から疲れた顔で出てきた。

 

「どうしたそんなに疲れた顔して?」

「あの二人に当てられね」

 

 カナメは霧葉の指差した方角に視線を向けると

 

「今年もよろしくお願いしますね、先輩」

 

 古城と雪菜が今年の事を振り返っている。色々あったのだ。それこそ、普通の人間なら数十回は死んでる勢いで。それだけの事件に巻き込まれながらも古城と雪菜は切り抜けてきた。時には仲間の力を借りて、時には自分たちだけで。

 

「まあ、姫柊とまた一緒にいられるのは俺も嬉しいけど……」

「先輩――」

 

 古城と雪菜がそんなことを言い、浅葱と優麻、結瞳が据わった目で睨んでいる。

 

「最初は少しからかっていたのだけど――」

 

 カナメは霧葉に同調するわけでも、二人を茶化すわけでも温かい目でも見守ることもしない。いや、しないのではない、できないのだ。なぜなら――

 

「まて、煌坂、今は煌華麟使うような状況じゃないはずだ」

 

 暴走数秒前に突入している煌坂紗矢華を止めなければならないからだ。

 

「離して、切らねばならぬ人がいるの」

 

 そう言って紗矢華が見つめるのは当然のように古城である。当の本人である古城は雪菜を見つめて照れているので気づいていないが。

 

「ふふ、今年の初斬りは第四真祖ね」

「初斬りってなんだ!? マジで落ち着け、すみません落ち着いてください! みんなも止めて!」

 

 要が必死になって止める中、那月、夏音、アスタルテ、ラ・フォリア、霧葉は慣れたようにスルーしている。全員で集まっておみくじを引いたり絵馬を買っている姿を見るに本当にこういう状況に慣れてしまったようだ。ちなみに要はおみくじを引かない。どうせ大凶だと分かっているから。

 

「ああ、今年も去年と変わらないのね」

「さあ、覚悟しなさい暁古城!」

 

 新年も去年とやることが大して変わらないことを直感的に感じ取ったカナメは、途方にくれたような目をしながら沙矢華を止め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、終わればまあ平和な初詣だったのだが。そうはいかなかった。世の中そんなに甘くはないのだ。

 

 ドン!

 

 ドン! ドン!

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 という低い和太鼓の重音が響く。当初少し離れたところからだったが、その和太鼓の音は徐々に近づいてくる。そして石段からその音の正体が登ってくる。巨大な神輿に和太鼓を乗せそれを一人の男が叩いている。音の原因はこれだ。

 そしてその神輿を担ぎ行進してくる集団。その集団はおかしな物で、全員が褌に半被を来てサングラスをかけている。言うまでもないが、あえて言うなら変態集団である。

 当然のように周囲の人間――特に女性は悲鳴を上げ、子供を連れている親は目隠しをする。そして、いそいそと連れ合いを連れて避難していく。

 その集団をみてカナメは嫌な予感しかしなかった。と、いうか自分も逃げ出したい衝動に駆られた。

 

「まさか、な……」

 

 カナメに脳裏に過るのは一人の老人だった。しかし、彼がここにいるはずはないのだ。なにせあの男はいま脱獄不可能なあの場所にいるのだから。けれどこんな馬鹿なことをする連中が彼ら以外にいるだろうか? いや、いないと断言しよう。

 

「貴様がうちはカナメか?」

 

 先頭にいた男がカナメを指差す。

 

「あ、ああ」

 

 できれば違いますと言いたかった要だがそれはそれはカオスなことになると経験上分かりきっているので素直に答えた。そして、ここまでくればこの集団の招待にもおおよその検討がつく。具体的に言うと変態集団+イベント(特に恋人や家族で来る人も多いイベント)=・・・

 

「貴様に会わせたいお方がいる」

 

 そういうと集団が二つに分かれ一つに道を作り出した。そして、その通路は石段まで続いている。

 その男は姿を現した。

 

「マーケ・グミ会長だ!」

「ちょっと待て! 負け組は監獄結界にいるはずだろ」

 

 那月もその姿を見て唖然としている。それはそうだろう、脱獄不可能な監獄結界に閉じ込められているはずの男がこの場に姿を現したのだから。

 

「誰が負け組だ!? ふっ、それに君は忘れたのかね? かつて仙都木阿夜が如何にして監獄結界を破ったかを?」

 

 そう言われカナメは即座に一つの可能性に思い至った。

 

「――まさか、やつの息子? ――いや、しかし子供にしても似すぎている。顔や体格だけじゃない、気配や魔力までも。いや、そもそも奴は童貞のはず――いや、阿夜と同じということは……まさか、お前は」

「ふっ、察したかね? そのとおり私は(オリジナル)のクローンだ。敢えて名乗るならマーケ・グミ2世とでも言うべきかな」

「――そうか、自分のDNAを残しておいたんだな。まったく、用意周到というかなんというか」

「そのとおりだ。同士は世界中にいる。インテリ過ぎて女気のない科学者もな――彼らは(オリジナル)の崇高な意志に深く共感したのだよ。無論この私もな」

「あの男の無駄なカリスマ性は一体どこから」

 

 要は心底不思議だった。まあ、聞いたところで誰も答えてくれないのだが。そのカリスマ性に魅せられた人々はカナメを不倶戴天の敵として見ているし。

 

「遺伝工学の権威たちと同士となった(オリジナル)は右手による自家発電によって遺伝子を提供したのだ」

「いや、最後キモいよ」

 

 周囲も普通に引いてる。というか要自身引きたかったが、背中に怖がる夏音がしがみついているので引くわけにはいかない。ラ・フォリアや霧葉など普段なら飄々と受け流せるであろうメンバーですら引いてる。

 というか、言い方をDNAを託したとか細胞を預けたとか言えばまだ格好がつくのにと思う。

 

「キモイ? 貴様、いまキモいといったな!? 男子たるもの人生初の恋人は右手と決まっておろう!! その恋人をよりにもよってキモイだと!? この賢しき愚か者が!!」

 

 古城と矢瀬が顔を見合わせてから中学生組を避難させ始めた。これ以上純粋な娘たちに聞かせたくないのだ。なにせこの三人、年頃の割に純粋な少女たちなのだから。具体的にうと童貞の意味を知らないくらい。

 だが、そんなカナメたちの事情など知ったことではないとマーケ・グミ2世は憤る。

 

「もはや、許すことなどできない。我らが麗しの右手をこうまで侮辱されてはな。貴様とて最初は右手の世話になっただろう!?」

「え? いや、ないけど」

「……なん……だと」

「う、ううう嘘だ!」

「デタラメを言うな!」

「この悪魔め!」

 

 会員からブーイングが飛ぶ。毎回彼らが絡むたびに聞くのだがカナメはもう二度と聞きたくなかった。頭が痛くなるから。

 そしていつものパターンで会員たちを制するのは――。

 

「待ちたまえ君たち、私は(オリジナル)ほどではないが心眼を使える――では、聞こう。君は右手の世話になったことがあるね?」

 

 マーケ・グミ2世の目に要の心が写る。そしてカナメの心の答えは――

 

 ――NO! NO! NO! NO! NO!

 

「で、では左手?」

 

 ――NO! NO! NO! NO! NO!

 

「も、もしかして、じょせい、とかあああ~?」

 

 ――YES! YES! YES! YES! YES!

 

「Nooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!! ガッデム! オーマイゴッド!! ギルティ! 彼は圧倒的なギルティだ! ギルティ・ヴァンパイアだ! つまり彼に必要なのは~~!?」

「「「「「粛清だ!!」」」」」

「いや、もういいよその流れ!」

 

 彼の様子を見て間違いなくマーケ・グミの遺伝子の持ち主だと確信した要は非常に疲れていた。というより要にとって問題なのは彼らではなく要の後ろにいる女性陣だったりする。据わった目で要を睨んでいるのだ。

 

「クックック、無駄だぞ、うちはカナメ、チノ=リはこちらにある!」

 

 そう言い彼らの後ろから見覚えのある制服男子が現れた。ちなみに何を持って地の利があると判断したのかは永遠の謎だ。

 

「お前ら、彩海学園の生徒だろ」

「その通り。我ら『暁古城とうちは要を呪う会』は『リア充憎悪の会』と同盟を結んだのだ!」

「そういうことやってるからモテないんだよ」

 

 ぼそりとつぶやいた瞬間全員がカナメに向かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以 ☆ 下 ☆ 省 ☆ 略 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要のスサノオに殴り飛ばされマーケ・グミ2世は石段の下に吹き飛ばされる。

 

「くっ、流石は(オリジナル)を下した男だ。だが、覚えておけ、うちは要!! この世にリア充がある限り我々は滅びぬ。私を倒してもいづれ第2第3の私が貴様を倒す――私が死んでも代わりはいるもの――ガクリ」

 

 何だかんだでカナメや那月といった世界有数の戦力の前に『リア充憎悪の会』+『暁古城とうちは要を呪う会』は膝をついた。もはや、イベントに乱入→カナメに絡む→撃退されるが様式美になりつつあるが細かいことを気にしてはいけない。

 どうでもいいことではあるがマーケ・グミ2世は死んでいない。

 

「勘弁してくれ」

 

 そして、古城のお株を奪うセリフと共にカナメは新年を迎えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにマーケ・グミ2世くん、よくあるクローンゆえのコンプレックスとか一切持っておりません
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