ストライク・ザ・ブラッド ALTERATION   作:霧島楓

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取り敢えずオリジナル回――というより、主人公の周囲との人間関係のようなものを書きました。


01

 

 常夏の島絃神島。早朝ならまだ比較的過ごしやすいが昼前にもなると吸血鬼にとっては辛い時間帯になる。日差しを浴びて死ぬことはないが、夜の方が過ごしやすいためだ。

 そんな吸血鬼である要が昼前に出かけているのは知人との約束があるためだ。

 

「古城じゃないが、暑い、焦げる、灰になりそうだ……」

 

 要は降り注ぐ日差しに悪態を付きながら気だるそうに歩いていた。

 黒のスリーピースをラフに着こなし日差し対策のためかサングラスをかけている。

 端正な顔立ちとスタイルの良さから、さりげなく視線を向ける者もいるが、要は敵意もないという理由から特に気にすることもなく歩いていく。

 

(車で来れば良かったか? いやでもあそこまで車じゃいけないか……)

 

 等と考えながら歩いていると待ち合わせ場所の公園まで来ていた。

 公園には既に待ち人の少女が待っていた。

 ベンチに腰掛け空を眺めている。その少女に要は近づき声をかけた。

 

「ごめんな夏音。待たせたか?」

「あ、お兄さん。私も今来たところでした」

 

 要を兄と呼ぶ少女は叶瀬夏音という。兄と呼ばれているが実妹という訳ではない。彩海学園の中等部に在籍しており数ヶ月前に偶然知り合ってから兄と慕っているのだ。

 

「ん? 今日は何時もより多いな……」

 

 ベンチの横に置いてあった缶詰が大量に入った鞄を持ち上げながらそう言う。普段は買い出しも一緒に行っているのだが今回は要の都合が合わず夏音一人に任せることになっていた。

 

「新しい子も増えましたから。あ、私も持ちますお兄さん」

 

 そう言い夏音は手を伸ばしてきたが要は軽く笑いながら制した。

 

「力仕事は任せろ。今度は買い出しも付き合えるようにするから」

 

 実際吸血鬼の要にとってそれほど苦労するほどの重さではないが、華奢な夏音では大変だろう。むしろ公園までよく持ってこれたものだ、と感心するほどだった。

 

「ありがとうございます。お兄さん」

「じゃあ、行こうか。腹を減らして変なもの食ってたら困るしな」

「はい」

 

 二人は公園から出て目的の場所へ向かう。

 二人とも――特に夏音は目立つ容姿であるためか、或はスーツを着た男と中等部の制服を着た少女との関係性に興味を持ってか、より視線を集めていた。

 念のため補足しておくのであれば二人はデートをしているわけではない。

 夏音はまだ中学生であるし、要も実年齢は兎も角として外見年齢は十代後半程度であり、夏音が学校のことを楽しそうに話し、要が相槌を打ちながら時折笑っている姿は、見ようによっては少し年の離れたカップルのように見えたかもしれないが……。

 二人が向かっているのは、天井や壁が壊れた――廃墟と言ってもいい場所だった。

 彩海学園の裏手の丘にある修道院の跡地。天井や壁は崩れかけている。

 夏音は残っていた扉へと手をかけ開いた。

 中には十数匹の猫がいた。入ってきた二人を見て警戒することもなく、むしろ、餌を持った親鳥に群がる雛鳥のように二人に近づいてくる。

 

「って、おい? よじ登るな、くすぐったい!!」

 

 要が鞄を床に置いた瞬間を見計らったように数匹の猫が要のスラックスからよじ登ってきた。

 その横では夏音も猫に囲まれているが、要と違い動じることなく缶詰を開け、手際よく猫たちに配っていく。 

 そんな夏音の様子を見ながら要は、シスターに向いているというのはこういう子なんだろうな。と思った。猫を全身に貼り付けたまま――

 

「どうしました? お兄さん」

 

 要の視線に気が付いた夏音が首を傾げながら問う。まるで小動物のような仕草に要は思わず苦笑してしまった。

 

「いや、夏音はシスターみたいだなと思ってね…」

「ありがとうございます。その言葉だけで、私には……十分でした」

 

 微笑みながら夏音はそう言った。

 

 

 

 猫の世話を一通り終えた要は夏音と別れ彩海学園の校舎へと来ていた。

 学生ではない要は本来部外者として入ることは出来ないのだが、那月の知り合いということで自由に出入りはできている。彼女の権力は一介の英語教師をはるかに凌駕している。

 

(そういや那月ちゃんの部屋は一番高いところだったな……)

 

 彼女の学校の執務室は校長室より高く広い部屋だったりする。高いところの部屋と言うと重要人物の部屋というイメージがある。そのイメージと違わず彼女は学校どころか世界レベルで重要な人物である。

 

「あ、うちはさんじゃないですか」

 

 廊下を歩いていると見知った顔の少女から声をかけられた。

 

「お、築島か。久しぶり」

 

 要に話しかけたのは那月の担当するクラスの生徒、築島倫だった。

 

「久しぶりですね。那月ちゃんに用ですか?」

「ああ、さっき呼び出された」

「だったら教室にいますよ。暁くんの追試で」

「――あいつ、いくつ追試があるんだ?」

 

 知り合いの少年の追試と聞き要は驚いた。この前も追試を受けていたのを見ているためまだ残っているのか、と。少年の事情を知っているがために呆れはしなかったが。

 

「浅葱もよく勉強を見てあげているそうですけどね――進展はなしで」

「そうか……。古城の場合、遠回しなアプローチよりストレートに行ったほうがいいような気もするけどな」

「今の関係を壊したくないって思いもあるんだと思いますよ、きっと」

「それもそうか」

 

 古城と出会う前の浅葱を知っている身としては築島の指摘は的を射ていると思った。そして同時になにか起爆剤のようなものがあれば進展するのではないかとも。

 

「まあ、それ以上に単純に素直じゃないっていうもあると思いますけど――照れ屋というか」

「かもな」

 

 苦笑しながら言う築島に要もまた苦笑で返した。

 

 

 築島と別れ一年B組へと向かう。その教室が那月の担当しているクラスだからだ。

 

「失礼します、っと」

 

 扉を開いて中に入ると、高校の教室とは思えない状態だった。

 机に突っ伏しながら「お、終わった……」と、ぐったりしている少年暁古城。まあ、こちらはまだ高校生らしいのかもしれない。しかし、問題なのは。

 

「その椅子どこから持ってきたんだよ――」

 

 恐ろしく豪華な椅子に座りながらティーカップ片手に古城の追試を見ている南宮那月だった。こちらが高校の教室とは思えない状態の正体だった。

 

「転移を使えば大した労働にもならん」

 

 要を見向きもせずボールペンを取り出し手早く採点を済ませていく。

 

「まあ、いいだろう。明後日も遅刻するなよ」

「ああ、分かったよ那月ちゃん」

「教師をちゃん付けで呼ぶな!」

 

 扇が一閃して古城の額に飛来した。

 

「古城? 無事か?」

「死にそうだぜ――」

 

 パーカーを羽織った少年が呻きながら立ち上がった。

 

「つーか、前にも思ったけど二人とも暑そうな格好だよな」

 

 要が素直に思ったことを言う。那月はフリルまみれのドレス、古城はパーカー。古城の方はまだしも那月の格好は常夏の絃神島にしては暑そうな格好だった。しかし、

 

「「お前に言われたくない」」

 

 那月と古城は冷静に返した。その理屈で行くなら黒のスリーピースを揃えている要も十分暑そうな服装をしているからだ。むしろ白いパーカーという点では古城の方が絃神島に合っていると言える。

 

「何を言う? クールビズを意識してネクタイは締めていないじゃないか」

「せめて上着を脱げよ……若しくはベストを――」

 

 そう言う古城。結論から言えば、三人とも暑そうな格好だった

 

「そういえば那月ちゃん、用事は何?」

 

 ふと、呼び出されたことを思い出し尋ねる。

 

「ああ、コレを渡しておこうと思ってな」

 

 そう言い手紙を差し出す。手紙から魔力の残滓を感じ取り要はそれが式紙として送られてきたものだとわかった。

 

「――後で読んどく」

 

 一応古城がいるため詳細は聞かずに、とりあえず受け取ることにした。

 

「では、二人とも今日は帰れ。私はこれから用事がある」

「うっす」

「はいはい」

 

 古城と要は気のない返事をして教室から出て行った。

 

 

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