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01
要が那月から受け取った手紙は獅子王機関からのものだった。
要約すれば監視役が決まったという通達だ。
これが来るということは近い内に監視役が自分の前に現れるということだ。
実際その日はすぐに来た。
「本日より第四真祖、及びうちは要さんの監視役を任命されました、姫柊雪菜です!」
(堂々と監視役とか言われても――)
ある夏の日の昼、彩海学園中等部校舎で要は自身の監視役の少女と対面していた。
整いすぎているというほど整った顔立ちの少女だ。彩海学園中等部の制服を着ていることから中学生だろう。仮に監視役と知らなくとも意志の強そうな眼差しを見ればただの少女ではないことが分かりそうな雰囲気も持っていた。
「監視役が来るとは知っていたが、まさか一人で二人の監視をするつもりなのか?」
「はい」
雪菜は「何か問題でも?」といった感じで不思議そうな表情をしている。
“神格振動波駆動術式”を組み込んだ武装、雪霞狼を使いこなせる者が限られている中では仕方がないのか。と、思い要はその話題をすぐに忘れた。
というよりそれ以上の衝撃を受けて忘れたというべきか、少女の腹部から鳴った音で。
「――――っ!」
「……腹、減ってるのか?」
「そ、そんなことはありません! 私は獅子王機関の剣凪ですから!!」
「いや、腹が減るのに剣凪は関係ないんじゃないかな。吸血鬼だって飯食うし」
「し、仕方ないじゃないですか!? 財布を落としてしまって……あっ――」
「そっか、財布を落としたのか」
学生でそれは辛かろうと頷く要。雪菜は顔を赤くして俯いている。
要が時計を見る。正午を回る少し前。昼にはちょうどいい時間帯だった。
「昼ぐらいなら奢ってやるぞ?」
「いえ、そういうわけには……」
再び雪菜の腹部が鳴った。
「――――っ!」
恥ずかしいのか雪菜は俯いてしまった。
「俺も飯に行く、監視役ならついておいで」
要が深く追求せず、短く言うと雪菜は小さく頷き要に着いてった。
◆
昼食の前に職員室へ寄っていくという雪菜に合わせ、要も彼女に合わせて歩いていく。
そもそも、彼女と
職員室へ向かう道中二人は見た。
財布の匂いを嗅いで鼻血を出している第四真祖を――
(何やっているんだアイツ――)
さしもの要も呆れてしまった。要と違い雪菜は古城に近づきハンカチを渡している。
要も近づき古城に話しかけた。
「お前いくらなんでも……」
「違うって言ってるだろ! お前俺の体質知ってるだろ!?」
「知ってるけど。つまり財布の匂いに少なからず興奮した、というわけか?」
「違う! 昨日のことを思い出しただけだ!」
昨日のこととは雪菜が吸血鬼にナンパされた後に起こったちょっとしたゴタゴタのこと――厳密に言えばゴタゴタの後のオチ――なのだが要に分かるはずもない。
「き、昨日のことは忘れてください!」
精一杯冷静さを装った口調で雪菜が言う。
「ほう、昨日のことというと?」
「聞かないでください!」
要が尋ねてみるとバッサリと切り捨てられた。
「いや、忘れろと言われても……」
「忘れてください」
「…………」
雪菜に睨まれ古城は肩をすくめた。要も深く追求するのはやめた。なぜならこれ以上追求すればギターケースから槍を抜きかねないような剣呑な眼差しをしていたからだ。
「あー、取り敢えず情報交換も兼ねてどっかの店に行かないか? ちょうど昼時だしな」
要が一区切りつけようとそう言い二人は頷いた。
◆
「――もともとは平安時代に宮中を怨霊や妖の類から護っていた滝
口武者が源流なので、今の日本政府より古い組織なんです」
「源流とかはよくわからないけど……要するに公安警察みたいなものか」
有名ハンバーガーチェーン店の一席で雪菜が古城に獅子王機関の説明をしていた。
要は自分が出すから、学生は気にするな。と言ったのだが、二人はそれでも気を遣い比較的安い店を選んだのだった。
店は一部学生客などで賑わっていたが混んでいるというほどではなく、三人はその集団から離れた席に陣取っている。
賑わいのおかげで三人の会話が盗み聞きされることもなかった。
「で、何で俺を尾けてきたんだ? 魔導災害やテロの対策なら俺とは関係ないだろ」
「あの、暁……先輩? ひょっとしてご存じないんですか?」
そういや全然説明してなかったなとは思い古城に説明した。
「真祖の力は一国の軍隊以上の脅威として扱われるんだ。要は個人でテロや災害扱いされるわけだが――」
「マジかよ……って! なんでそういうことを早く教えてくれないんだよ!?」
「おお、スマン。失念してた」
軽く言う要に、古城がジト目を向けるが、要はこういう奴だし、昼食を奢ってもらう身分で文句は言えないと、ポテトつまんだ。
実際のところは、まだ第四真祖の力を受け継いで日が浅い古城に要が気を遣ったのだが、今回はタイミング悪く監視役が先に付いてしまったという訳だ。
「生物扱いすらされてねえとか…俺は何もしてねえぞ。するつもりもねーし、支配するような帝国なんてどこにもないし」
「そうですね、わたしもそれを訊きたいと思ってました。先輩方はここで何をするつもりですか?」
雪菜からすれば古城や要が異質な存在に見えるのだろう。強大な力を持つ者ほど支配欲などを強く持つものだ。しかし、この二人に関してはそれに当て嵌らないのだから。
「正体を隠して魔族特区に潜伏しているのは目的があるんじゃないですか? うちはさんも正体を隠していますし、それに仲もいいみたいですし。二人で同盟を組んで絃神島を影から支配して登録魔族を自分たちの軍隊に加えようとしているとか。あるいは自分の快楽のために彼らを虐殺しようとしているとか……なんて恐ろしい!」
外からはそう見られてんのかと要は複雑な心境になる。妙に納得する要と違い古城は納得がいかなかったのか雪菜に反論した。
「まてまて、姫柊は何か誤解しているぞ」
「誤解?」
「潜伏もなにも、俺は吸血鬼になる前にこの街に住んでいたんだ。この体質になったのは今年の春だし」
「ちなみに俺は吸血鬼になってからこの島に来た」
雪菜は信じられない、というふうに首を振る。要に関しては分かりきっているので二人ともスルーである。
「そんなはずありません。第四真祖が人間だったなんて」
「そんなこといわれても事実そうなんだよ。俺は先代の第四真祖にこの厄介な体質を押し付けられただけだ」
「先代の!? 本物の焔光の夜伯にですか!? どうして第四真祖が暁先輩に……そもそもなぜあの焔光の夜伯に遭遇したりしたんです?」
「それは……」
「っ!? 古城思い出そうとするな!」
雪菜の質問に何かを思い出そうとする古城。その様子を見て要は慌てて声を上げて止めようとする。だが一歩遅かった。古城は激しい頭痛に襲われて顔を歪ませている。
「あ、暁先輩!? ……うちはさんこれはどういう…」
突然苦しみ出す古城を見て雪菜は狼狽える。古城を気遣いながら雪菜に説明した。
「先代から引き継いだ時の記憶が欠落しててな。無理に思い出そうとするとこうなる」
痛みが引いてきた古城が息を整え落ち着かせている。
「記憶が欠落……。うちはさん何かご存知では?」
「……固有堆積時間を奪われた。としか、今は言えないかな」
実際細かいことまで知らない要にはそう言うしかできなかった。
落ち着いた古城が雪菜に声をかける。
「で、姫柊はこれからどうするんだ?」
「え、あ、はい。もちろん暁先輩とうちはさんの監視任務につきます」
「マジか……ちなみに俺に拒否権は?」
「ありません」
雪菜はバッサリと言い切った。古城は項垂れ、要は内心申し訳なく思っていた。
「ていうか、姫柊一人で俺たち二人の監視なんてできるのか?」
「完璧には無理ですね。一応本来の担当は第四真祖の先輩なので、先輩を優先的に監視するように指示は受けています。うちはさんには後に応援の人が来るはずですが」
「いや、いらないけど?」
「俺もだよ」
そんな男二人の嘆きを雪菜は華麗にスルーした。
次回には眷獣を出せると思います