ストライク・ザ・ブラッド ALTERATION   作:霧島楓

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02

 夜の繁華街。

 賑やかな喧騒をBGMとして那月と要は夜の街を歩いていた。

 深夜のデート等という色気のあるものではなく、不良生徒の補導が目的だ。

 『空隙の魔女』と真祖に匹敵する吸血鬼のコンビが不良の補導をしようとしている。知る人が知れば「反則だろっ!!」と突っ込まれてしまっても仕方がない戦力だった。何せこの二人がいれば並のテロ組織ですら壊滅状態に追い込めるだけの戦力だ。

 もっとも要の方のやる気は限りなく低空飛行であった。

 

「なあ、那月ちゃん、帰りたいんだけど?」

「駄目だ。私が働いているのにお前だけソファーでくつろいでいるなど、天が許しても私が許さん」

「理不尽すぎる……」

 

 文句を言いながらも那月について行く要は意外と律儀なのだろうか。

 

「まあ、仕方ないか。那月ちゃん一人じゃ逆に補導される可能性もあるし、痛いっ!」

 

 言い切る前に那月の扇が一閃し要の顔面に吸い込まれていた。

 

「余計なことを言うな! それに今夜は釣れそうな気がする。明日から新学期だというのに出歩いている真祖がな……」

「それ、不良じゃなくて特定の個人狙いだよな?」

 

 実に楽しそうにサディスティックな那月の表情を見て、要は古城に届かぬ祈りを捧げた。

 「悪い那月ちゃんを止められない」と。

 

「フッフッフ、ついでに監視役の転校生も釣れるかもな」

「……特定の二人組狙いだったのか」

 

 そういえば獅子王機関は那月の商売敵だったな。と今更ながらに要は思い出していた。

 ちなみに同じく監視対象である要だが、流石に一人で二人を同時に監視するのは不可能なため要には式神が付けられている。が、それも那月が雪菜にバレないように式神の効果を無効化してしまっているため意味は殆どない状態である。

 

 

 

「おい、そこの二人。彩海学園の生徒だな。こんな時間に何してる?」

(見つかってしまったか――)

 

 後ろからサディスティックで実に楽しそうな声が聞こえてきてクレーンゲームに向かっている二人は固まった。ゲーム機のガラスに映る姿を見て、古城は「げっ」と息を呑む。後ろに立っていたのは南宮那月とうちは要だった。

 那月は楽しそうな笑みを浮かべ、要は古城と雪菜の背中に向けて十字を切っている。世にも珍しい吸血鬼の十字切りだ。

 

「ほう、そっちの男。見覚えのある後ろ姿だがこっちを向いてもらおうか。フードも取ってな」

(那月ちゃんってやっぱり結構なSだよなあ)

 

 那月の声は非常に楽しそうだった。じわじわと獲物を追い詰めていくつもりなのだろう。

 

「どうしたんだ? 意地でも振り向かないつもりならこちらにも考えがあるぞ」

 

 那月が獲物を嬲るような声でそう言いかけた直後だった。

 ズン、と鈍い振動が島を揺るがした。

 要は呆れたように爆発音のした方向を向いた。

 

「この島は本当に治安が不安になるよな」

「ええい、いいところで! あ、待て、逃げるな! お前ら!!」

 

 二人が一瞬気を取られた隙に古城と雪菜は逃げ出していた。那月が急拵えの結界を張るが雪菜が手刀を一閃して破壊した。

 

「ふーん、なるほどね。あの年で監視役に選ばれるわけだ。完全じゃないとはいっても那月ちゃんの結界を壊すなんてな、正直驚いた」 

 

 要は素直に感心していた。剣凪と言っても若すぎるのでは? と思っていたのだが考えを改めるべきだと。若いが実力はあると。

 

「感心している場合か、追え! 絶対に逃がすなよ。私もアイランド・ガードに連絡したら追いかける」

「はいよ」

 

 そう言われ要は人間離れした脚力を持ってその場から離れた。

 

 

 倉庫街では二つの影が火花を散らしていた。

 

「ふっ!」

 

 一人は雪霞狼を持った雪菜であり、もう一つの影に向かって中学生の少女が繰り出しているとは思えない鋭い突きを放つ。

 

「ほう……!」

 

 もう一つの影、巨体に西洋式の鎧を身にまとったロタリンギアの殲教師ルードルフ・オイスタッハが得物である戦斧で受け止め愉快そうに呟いた。

 

「なんと、その槍、七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツアー)ですか!?”神格振動波駆動術式(DOE)”を刻印した、獅子王機関の秘奥兵器! よもやこのような場で目にする機会があろうとは!」

 

 歓喜の笑みを浮かべオイスタッハは大地を蹴って猛然と加速した、強化鎧でアシストされた戦斧は装甲車すら引き裂くレベルだった。しかし、雪菜はその攻撃を見切り反撃する。

 

「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか! 七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツアー)――実に興味深い術式です。素晴らしい!」

 

 破壊された左腕の鎧を眺めながらオイスタッハは笑う。そんな彼の姿に禍々しいものを感じた雪菜は表情を険しくする。

 彼をここで倒さなければならない、と決意する。剣凪の直感が告げていた。この男をこのまま放置すれば、巨大な厄災となると。

 

 

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

「む……これは……」

 

 厳かに祝詞を唱えた雪菜の体内で練り上げられた呪力を七式突撃降魔機槍が増幅。槍から放たれた強力な呪力の波動にオイスタッハが表情を歪める。

 

「ぬお……!」

 

 閃光の如く放たれた槍を戦斧で受け止める。その腕に伝わる衝撃波はオイスタッハを驚愕させた。人間を遥かに凌ぐ力を持つ獣人の攻撃でさえ軽々受け止められる強化鎧が華奢な少女の攻撃に押されているのだ。とはいえ一発の攻撃であればオイスタッハも焦りはしなかっただろう。しかし雪菜の攻撃は嵐のように続いた。

 本来人間である雪菜は単純な速さでは吸血鬼や獣人には遠く及ばない。しかし、霊視によって一瞬先の未来を垣間見る雪菜は誰よりも早く動けるだけの力を持っている。

 その結果凄まじく速い攻撃速度を得ているのだ。

 

「ふむ、なんというパワー……それにこの速度! 成る程、これが獅子王機関の剣巫ですか! 」

 

 見事とオイスタッハ賞賛する。やがて戦斧も雪霞狼の攻撃に耐え切れず罅が入り砕け散った。その瞬間雪菜の攻撃が僅かに止まる。人間であるオイスタッハを傷付けるのに躊躇いが生じてしまったのだ。

 

「いいでしょう! 獅子王機関の秘呪、確かに見せてもらいました――やりなさいアスタルテ!」

 

 その隙を逃さず大きく背後に跳躍するオイスタッハ。代わりに前へ出てきたのはケープコートを羽織った藍色の髪の少女だった。

 

命令受託(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテユロス)

 

 少女のコートを突き破って現れたのは巨大な腕。それは虹色の輝きを持ちながら雪菜を襲う。それを雪菜は迎撃する。巨大な魔力と呪力の激突が大気に耳障りな音を立てさせる。

 

「ぐっ!」

「ああ……っ!」

 

 激突に勝ったのは雪菜だった。眷獣の腕を銀の槍が少しずつ切り裂いていく。眷獣の受けているダメージが逆流しているのか、アスタルテと呼ばれた少女が苦悶の表情で呻き出す。

 

「ああああああああああ――――っ!」

 

 少女の絶叫とともに、彼女の背中を引き裂くようにもう一本の腕が出現した。二体の眷獣という訳ではなく左右一対で一つの眷獣なのだろう。しかし、二つの腕は独立した生き物のように雪菜を襲う。

 

「しまっ――」

 

 

 雪菜の表情が凍り付く。

 雪霞狼の矛先は右腕に突き刺さっている。一瞬でも力を抜けば右腕に押しつぶされるだろう。その状態では振るわれてきている左腕を迎撃することは不可能。旧き世代の眷獣すら凌駕する攻撃を脆弱な人間の肉体しか持たない雪菜が耐えられるはずもない。雪菜に待っているのは死だ。

 優れた剣凪である彼女自身、霊視によって見えてしまった。その光景は明らかなる自身の死。

 ただ最後に一瞬だけ、見知った姿が脳裏をよぎる。ほんの数日前に出会ったばかりの、いつも気怠そうな顔をした少年、。

 死にたくないと思った瞬間、そう思った自分に驚き、そして衝撃が来るのを待ち目を固く閉じた。

 

「姫柊ィィィィィィィイイイッ!!」

 

 第四真祖、暁古城の声が響いた。

 古城が雪菜に迫る腕を自分の拳で殴り飛ばす。第四真祖の力で殴られた眷獣は凄まじい勢いで倉庫へと激突した。

 雪菜は呆然としていた。何故ここに居るのか? と。

 

「何をやってるんですか、先輩!? こんな所で…」

「それはこっちの台詞だ、このバカ!」

「バ、バカ!?」

「様子を見に行くだけじゃなかったのかよ。何でお前が戦っているんだ!」

「そ、それは…」

 

 

「で……結局、こいつら何なんだ?」

「分かりません。ロタリンギアの殲教師らしいのですが……」

 

 そう雪菜が説明するが、ロタリンギアの殲教師が何故、絃神島にいるのかわからないので混乱してしまう。

 

「先程の魔力……只の吸血鬼ではありませんね。貴族と同等かそれ以上……まさか、第四真祖の噂は事実ですか? ではまさか――っ!!」

 

 突如オイスタッハは後ろへ跳躍した。一瞬遅れて橙色の巨大な拳がオイスタッハの立っていた地面をえぐった。そのまま離さず裏拳の要領でオイスタッハたちに追撃をかけるが、オイスタッハとアスタルテはそれを回避し、罪のない倉庫が数個犠牲となった。

 

「話の途中で悪いんだけど、観光ならもう少し穏やかにやってくれないか? こう定期的に爆発やら島が沈むだのって処理する方の身にもなってくれ」

 

 橙色の骸骨の像をまとった要が立っていた。

 

「要! なんでここに!?」

「いや、那月ちゃんに言われてね。覚悟しておいたほうがいいぞ? 那月ちゃん怒り狂ってたから」

 

 少々大げさに言う要だが古城は頭を抱えていた。

 オイスタッハは要を見て苦虫を噛み砕いたような表情をしている。

 

「ほう貴方は、うちは要ですか。この島に貴方と第四真祖がいるという噂は本当だったようですね」

「戦ってもお前達の方が分は悪いと思うけど、諦めて投降したらどうだ?」

 

 一応、要はそう呼びかける。

 もっとも、その瞳には隠し切れない闘争心が宿っている。

 どこぞの公国の君主ほどでは無いが、要も戦闘狂の気がある。特にここ最近は眷獣を使う機会にも恵まれず、少なからず欲求不満に近いものがあった。

 それが今目の前には旧き世代の吸血鬼の眷獣を打倒した者がいる。是非手合わせ願いたいというのが要の本音である。

 が、だからといってオイスタッハとアスタルテが要の望み通り動くかというとそうでもない。オイスタッハは冷静な判断力を持ち、アスタルテは良くも悪くもオイスタッハに従順だ。

 

「ふむ、それが貴方の従える眷獣――『須佐能乎』ですか……真祖に匹敵すると言われる力を相手にするにはまだ分が悪いですね……アスタルテ、ここは一度引きますよ。今はまだこの二人を相手にする時ではありません」

命令受託(アクセプト)

 

 戦況的に振りと悟ったオイスタッハは逃走を決意し、即座に命令した。そしてアスタルテもその命令をすぐに実行に移す。

 

「って、ちょっと待て、いきなり逃げるのかよ」

 

 アスタルテから現れた虹色の腕が地面を殴りつけ地面を砕き地下から逃走しよとする。

 要は逃がすまいと自身の眷獣『須佐能乎』の拳を叩きつける。だが、それは間に合わず、二人は逃走していた。

 

「やれやれ、逃げられたか。つーか、無理に追撃したせいで余計な被害が出たな……那月ちゃんにバレたらヤバイかも」

 

 若干顔を青ざめさせながら残念そうに要は呟いた。

 

 

 

 

 




という訳で眷獣は須佐能乎でした。ちなみにモデルはイタチの須佐能乎です。
正直皆さん反響が気になるのですが、いかがでしょうか。
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