孫悟空とウマ娘   作:猫ネコ

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注意

・捏造あり

・実況・解説はテレビに向かって話しているためレース会場には聞こえてない

・視点がたまに変わります

・語彙力不足により、今作やこれまでの作品を含めて、似た表現あり



勝利への渇望と敗北への恐怖

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

キング「本当にごめんなさい…」

 

スカイ「だからもういいって!許s、」

 

グラス「許しません」

 

スペ「こーら!」

 

エル「ハァ……」ヤレヤレ

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

実況「さぁ!とうとうこの時が来ました!龍球ステークス!他のG2レースよりも、ここからG1ウマ娘を生み出す確率が高い事からスーパーG2とまで呼ばれています!」

 

解説「クラシックを走る彼女達からすれば、このレースに合わせてローテーションを組むウマ娘も少なくないでしょう。それほどまでに格式の高いレースになりますね」

 

実況「はい!その中でも注目視されるのは何と言ってもセイウンスカイVSハルウララ!」

 

解説「セイウンスカイといえば皐月賞を獲ってますからね。黄金の一角を担う彼女に、有馬チャレンジ2連勝のハルウララがどこまで喰らいつけるかがポイントです」

 

実況「解説さんはこの龍球ステークスのレース展開をどう予想しますか?」

 

解説「そうですね…。能力の高いウマ娘揃いなのは理解していますが、この場合はセイウンスカイとハルウララに注目しますね。

その2人で考えるのなら、セイウンスカイに軍配が上がっていると思いますよ」

 

実況「セイウンスカイですか。やはり皐月賞バだからですか?」

 

解説「もちろんそれもあります。皐月賞と同じ距離ですからね。後はダービーで負けたといえども4着は充分評価に値します。

しかも、それに加えて最内1番。逃げウマ娘にとって最高のゲートなんですよ」

 

実況「なるほど。さまざまな観点から見てもセイウンスカイがやや有利ですね」

 

解説「って、普段なら言いますけど…。」

 

実況「???」

 

解説「常識外れをするのがハルウララなんですよね…。・・・すみません!私には分かりません!」

 

実況「あはははっ!皆さま申し訳ありません!解説さんが放り投げてしまう程のレースになると思ってください!」フフッ

 

解説「……お恥ずかしい。申し訳ありません」

 

実況「いえいえ!今回のは私も全く読めませんからね!しょうがないですよ!

…さっ、では出走まで時間がありますので皆様も、もうしばらくお待ちください」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

〈出走ウマ娘の控え室。悟空とウララは軽いストレッチをしながらレースについて話し合っていた〉

 

 

悟空「もう少しだな。んじゃ最後にもう一回だけ確認すんぞ」

 

ウララ「うん!」

 

悟空「まず初めにスカイは1番ゲートでウララは8番ゲート。この時点でも不利にはなるけど、」

 

ウララ「負ける要因にはならない…だよね!」

 

悟空「フッ…ああ、その通りだ。そんでキントレの話だと敵はスカイだけだと思っても良いらしい。

逃げるアイツだけに集中すんのは楽だけど、裏を返せばスカイが段違いに強ぇって事になる」

 

ウララ「うん…」

 

悟空「だからこれまでの期間は逃げウマ対策をやってきた。が、レースでは何が起こるか想像もつかねぇ」

 

ウララ「集中しないと、だね」

  

悟空「そうだな。だけど怖気付く必要はねぇぞ?おめぇには、そんな奴らに勝てるだけの力をつけてきたんだ!」

 

ウララ「!!!」

 

悟空「この龍球ステークスで勝って!まとめて有馬記念も制覇する勢いで行こうぜ!!」

 

ウララ「うん。そーだね!」

 

悟空「よし、そんじゃあいつものだな!」

 

ウララ「悟空さんお願いね!」

 

悟空「おう……っ…頑張んぞぉっ!!!」

 

ウララ「おーーっ!!!」

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

〈その後も、100%の力を出す為に身体を暖め、精神を統一し、気がつけば出走時間まできていた〉

 

 

ウララ「それじゃあ、行ってくるね!」

 

悟空「おう!行ってこい!・・・・あ、ちょっと待てウララ」

 

ウララ「ほえ?なぁに?」

 

 

〈出来る事は全て話した筈なのにと、不思議そうな顔をして振り返る。

すると悟空は表情から笑みを消していた。

それは敵地に足を踏み入れた様な…悟空自身が戦う様な険しい顔。

ウララは自然と顔を引き締めた〉

 

 

ウララ「…悟空、さん?」

 

悟空「ウララ…前にも言ったけど、スカイを甘く見るんじゃねぇぞ」

 

ウララ「………ホッ。なんだぁ…お顔がちょっぴり怖かったからビックリしちゃったよ。

だーいじょーぶっ!セイちゃんとは何回か一緒に走った事あるし悟空さん心配しすぎだよ!」

 

悟空「それでもだ」

 

ウララ「それにセイちゃんとだったら、ウララはもっと楽しく走れると思う。今までだって一緒になって笑ってたんだもん!」

 

悟空「っ!……ウララそうじゃ、」

 

ウララ「まぁまぁ、見ててよ悟空さん!今のウララ、結構ワクワクしてるんだぁ!……ウララは勝つよ。絶対に!」

 

 

〈ウララの目はこれ以上ないくらいに前を向いていた。スカイに対する油断も気後れもせず、果敢に立ち向かう。

 

ーーーーーーそう、ウララはいつも通りだ。

 

悟空はすっかり置いてけぼりをくらい、誰もいない部屋で1人呟く〉

 

 

悟空(ワクワクかぁ…オラも戦う時は思ってたけど…)

 

 

 

 

   「それだけじゃあ、なかったぞ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーーカツカツカツ

 

〈控え室からターフへ向かう裏通路に足音を反響させながら歩く1人のウマ娘〉

 

 

 

実況「続々とターフに姿を現せてきたウマ娘達!1番人気のセイウンスカイは堂々…というよりも平然と佇んでますね」

 

解説「マイペースこそ彼女の強さですからね。万全な状態と言っても良いと思います」

 

 

 

〈悠々と歩く姿に迷いは見えない。ただ勝利だけを信じ、光のさす未来へひたすら歩き続ける〉

 

 

 

実況「なるほど。調子は万全。そして皐月賞で勝った距離と同じ2000m、ゲートは最内1番。かなりの好条件が揃ってます!」

 

解説「そうですね。それに対してハルウララは大外枠。この時点で不利にはなりますが、もはや常識では考えられない事をしてますからねぇ。覆せる力はあると思いますよ」

 

実況「これはセイウンスカイとハルウララの一騎打ちになりますかね。……あっ!」

 

 

 

 

〈薄暗い通路に日が差すとそのウマ娘は僅かに口角を上げ、目を妖しく光らせた〉

 

 

 

    〈…さぁ、勝負をしよう〉

 

 

 

 

 

ーーーっっ………ワアアアアアアアッ!!!

 

 

実況「あ、ついに来ました!!」

 

 

 

 

〈黄金の壁を壊すためハルウララ戦場に立つ〉

 

 

 

実況「ハルウララだああああ!セイウンスカイと同じ様に一層強く湧き上がる大歓声ッ!! 

満を持してハルウララ、ターフに足を踏み入れます!」

 

 

 

 

    

 

 

ー side ハルウララ ー

 

 

 

裏通路から太陽の下に出ると、ダート出身のウララでも見慣れてしまった緑のターフ。

靴越しに芝の感覚を味わうと、身体全身を叩かれるような見えない刺激が襲ってきた。

 

 

ワアアアアアアアッ!!!

 

「ウララー!応援してるぞー!頑張れぇ!!」

「黄金世代なんてぶっ倒せー!」

「絶対勝てるよ!頑張れウララちゃん!!」

 

 

みんなが応援してくれている。

それに前に比べて"勝って"っていう言葉をよく聞く。一生懸命とか楽しんで、とかよりも。

みんながウララの勝利を信じてくれているんだ。

 

 

「ありがとー!ウララぜっっったいに勝つからねー!」

 

 

観客席へ両手を振り回して言うと爆発みたいな音で返ってきた。それを肌で感じると嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。

ウララは1人じゃない。応援してくれる人達のためにも勝たないと。

 

やる気を出して拳を握ると、頭の後ろで手を組んでいるセイちゃんを見つけた。

まずは挨拶をしなくちゃ。そう思ってセイちゃんに近づいていく。

 

セイウンスカイ…セイちゃん。1つの世代に怪物級が何人もいる事から黄金世代と呼ばれ、その中でもトップクラスの位置にいるウマ娘。

 

 

(キングちゃんやグラスちゃんは分かるけど、普段のセイちゃんからは想像できないんだよねぇ…)

 

 

それでも強いのは知ってる。遊びでだけど、たまにやる併走で思い知らされた。

結局は笑っちゃったりして真面目には出来てなかったんだけどね!

他のみんなを含めて最初に公式レースで走るのはセイちゃんが初めて。

きっと楽しいレースになると思う!

 

 

「おーい!セイちゃ、、、、、っ!」

 

 

手を組んで微動だにしないセイちゃんを後ろから呼びかけたけど、、、おかしい。

急に言葉が出なくなった。呼吸も荒い気がする。まだ走ってもないのに…。

 

悟空さんとの修行で、自分の身体の事は細かい所まで把握しろって言われてる。

心身に異常があれば、出来ることが限られてしまうから、らしい。

だから身体の自己分析は徹底的にやれって言われて、怪我の事には詳しくなったつもりだけど、

 

……こんな心臓を握り締められているような感覚、ウララは知らない。

 

ウララの身体に何か起きちゃったのかな?

〜っ!だめっ。怖くなってきちゃって涙まで出そうになってきた。

 

そんな異常事態が起きていたのに、突然スーッと"それ"はなくなった。

 

 

「ウララ大丈夫?泣きそうな顔してるけど…」

 

 

途中まで呼んだ事に気づいたのかセイちゃんが近づいてきてくれた。

ウララの顔を覗き込むようにして頭を撫でてくれている。

だけど、それも触れるだけ。すぐに手を引っ込めてしまう。

 

 

「セイちゃん…。うん、ごめんね!なんかいきなり気分悪くなっちゃって…。もう大丈夫だよ!」

 

「そう?平気なら良いけどさぁ〜。セイちゃんだってウララと走るのは楽しみにしてたんだから気をつけてよねぇ〜」

 

「あはは!ごめんごめん!………楽しみにしてくれていたんだね」

 

「…もちろん。私はウララのファンだからねぇ」

 

「そうだったの!?嬉しい!けど、セイちゃん適当な事言うからなぁ。普段と違う事言ったら8割は適当だと思えって言われてるし」

 

「なにそれ心外!誰に言われたの!?」

 

「キングちゃん」

 

「………あの、へっぽこお嬢様め。まぁいいや。もうすぐ始まるし、平気なら行こうかな。

…楽しいレースになると良いね」

 

「うん!ウララ絶対勝つからね!セイちゃん超えしちゃうよ!」

 

「ほー、そかそか。セイちゃん超えかぁ…。ならセイちゃんも、

 

ーー絶対に負けられないし、頑張ろっかな」

 

 

一段と声を低くして離れて行く。

ウララもセイちゃんから視線を外して観客席の方へ向くと、後ろから【じゅー】って誰かが呟いた。

 

意味は分からないけど、自分の事に集中しなくちゃ!

 

 

 

 

 

 

〈ハルウララから離れてゲートに近づくセイウンスカイ。彼女の視線は客席ではなく、ゲートやコース、ゴール板を流し見る様にして、小さく口を開く〉

 

 

スカイ(絶対に勝つ、かぁ…)「さーん」

 

 

 

 

 

(意気込みは大事だけどねぇ)「にーい」

 

 

 

 

 

("あの程度"の事で狼狽えてるヒトに絶対の言葉は早いんじゃないかなぁ)「いーち」

 

 

 

(それに……戦いはもう始まってるよ)

 

 

 

 

     「ぜーろっ♪」

 

 

実況「ハルウララ。客席を見回し3度の深呼吸。この後に来るのはいつものっ、……出ましたあああ!ハルウララのルーティーン。手を合わせてお辞儀!独特かつ清楚な振る舞いから、大人気の仕草!」

 

解説「ファンの間ではアレを"女神の祈り"と呼んでいるみたいですよ」

 

実況「なんとっ!またもや名前がつきましたか!有馬チャレンジに続いて、女神の祈り!ハルウララ伝説は止まる事を知りません!」

 

 

 

 

 

ーーーふぅ。

目を開けるとウララの真似をして、手を合わせている人がチラホラいる。

ファンの人かな?暖かい気持ちになる。

そんな時ファンファーレが鳴った。スイッチを切り替えるように心が熱くなってくる。ここで勝てば、ウララの走りが通用する事が、しょーめーされる。係の人に導かれてゲートに入った。

 

 

ーーー勝負だよ!セイちゃん!!

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〈続々とゲートに入るウマ娘達。それを見るキングとキントレの面持ちは険しかった〉

 

 

キング「・・・・・」

 

キントレ「…ねぇ、キング。もしウララがスカイに勝ったらどう思う?」

 

キング「……あなたも中々残酷な事聞くわね」

 

キントレ「いやぁたまに考えるんだけど、なんか複雑でさ、もちろん喜びはするけど、悔しいとも思うかな」

 

キング「……似たようなもんよ」

 

キントレ「そっか」

 

キング「それより悟空さんはどこにいるの?」

 

キントレ「さあ?どっかで見てるんじゃーーーっ!」

 

 

〈ゴオォォォ!っと、キング達の周辺で突風が吹き荒れる。キング達だけでなく他の人達も目をギュッと閉じて、風がおさまるのを待った〉

 

 

キントレ「・・・ぷはぁ、大丈夫だった?凄い強い風だったね。レースに影響出ないといいけど、」

 

キング「…………もう、起こらないから大丈夫よ」

 

キントレ「そうなんだ。………なんで分かr」

 

 

〈キントレがキングの方を見ると、答えが目の前にあった〉

 

 

キントレ「……何やってんですか?」

 

悟空「ん?何って…ウララのレース見るだけだけど」

 

 

〈"いつもの事じゃねぇか"と悟空は言うが、そういう意味ではない。だが、全部問いただすと、周りの人達に聞こえてしまうため小さい声で話した〉

 

 

キントレ「そうじゃないですよ。……もしかして瞬間移動しました?こんな人目の多い所でっ!」

 

キング「落ち着きなさいトレーナー。瞬間移動じゃないわ。独特の風切り音は聞こえなかったし、瞬間移動なら風は発生しないはずよ。

どうやって来たかは分からないけどね」

 

悟空「さすがキングだ、9割あってる。来た方法は1回ターフに着地して前から入ったんだ。

後ろからじゃあ、人が多くてとても入れなかったからな」

 

キントレ「なるほど。超スピードで風を起こして、その隙に………ハァ、」

 

キング「考えるのはよしなさいな。悟空さんは、このキングの辞書に諦めるという単語を書き加えた人よ」

 

キントレ「……なにその説得力の塊。抵抗する事もなく綺麗に諦めれるよ」

 

悟空「おめぇ達。何言ってっか知らねぇけど、始まんぞ」

 

キング・キントレ

((…一発で良いから思いっきり殴りたい))

 

 

 

〈キング達は唇を噛み締めてゲートに目を向ける。出走ウマ娘が全員ゲートに入ると沈黙が訪れた〉

 

 

 

実況「さぁ……体制完了。龍球ステークス、芝2000m。

 

……スタートしましたあああ!ーーーっ!」

 

 

〈実況がほんの少し言葉に詰まると、ざわめき出す客席。悟空達も例外なく叫んだ〉

 

 

キング「そんなバ鹿なっ!!!」

 

キントレ「……ありえない…っ!」

 

悟空「こいつは……どうしたんだ、アイツ…」

 

 

〈時間にして3秒。実況が我に返る〉

 

 

実況「っ、番狂わせなスタートだ!1番人気、最内枠1番のセイウンスカイ!

  

出遅れだあっ!!!後方からのスタートになります!」

 

 

解説「ハルウララや他のウマ娘も綺麗な飛び出しですね。盛り返そうとセイウンスカイが内から先頭争いに加わります。

ですが、これで体力を温存する事は出来なくなってしまったと思いますよ。厳しいレース展開になりそうです」

 

実況「それを吉と、とったウマ娘、ペースを上げます」

 

 

〈そして慌てているのは観客だけではない。もっと、それ以上に困惑しているのは出走ウマ娘の方だ。

その出来事はハルウララの平常心を奪うものだった〉

 

 

ウララ(あのセイちゃんが出遅れ!?…急いで先頭にたったみたいだけど、、っ。だめだめ!集中ッ!

セイちゃんに悪いけど、これはチャンスなんだ!」

 

 

〈惑わされるのは一瞬の事。ハルウララの精神は簡単にブレはしない。ハイペースになりつつある、隊列の中団の位置に構えた。

しかし、ハプニングはそれだけでは終わらない〉

 

 

実況「………これは一体どういう事でしょうか…。先頭にたったセイウンスカイ…2番手追走してるウマ娘より5バ身、前にいます!

出遅れからの大逃げはリスクしかありません!これは掛かっていると見ても良いのでしょうか?」

 

解説「そうですね…普通ならここで掛かっていると見るのが当然ですが…それをやっているのは、あのセイウンスカイなんですよね。何か考えがあると思ってしまいます」

 

実況「なるほど。それは他のウマ娘も同じ事を考えているようです。

逃げに逃げまくっているセイウンスカイから目を離さず、ジリジリとペースを上げていく!」

 

 

〈先頭のセイウンスカイは早くも向正面から3コーナーへ。その時、状況は一変する〉

 

 

ウララ(!!!…あれは………よしっ!)

 

 

 

実況「3コーナーに入った所でセイウンスカイが減速!やはりあれは掛かっていたのか!

スタミナ切れを逸早く察知したハルウララがペースをさらに上げてセイウンスカイに襲い掛かる!」

 

解説「さすがに無茶な走りでしたか、ね。一方でハルウララはいつも通りの追い上げより少し早いですけど、捉えにいってます!」

 

 

〈途中までの勢いはなかったみたいに超失速。僅かに脚がブレたり、回転が鈍くなっている。

そんなスカイをウララは見逃す事をしない。外から回って、カーブとともに速度を上げる。

 

そんなセイウンスカイを茫然と見るものが観客席に2人〉

 

 

キング「そんな…あのヒトがペース配分を間違えるなんてっ」

 

キントレ「……レースは完璧じゃない。それは分かっているけど、あのスカイが……。」

 

 

〈セイウンスカイの敗北。力を全てを出しきって、ウララが勝ったのなら複雑ながらも喜べるだろう。

だが、出遅れからの掛かって、最後はスタミナ切れなんて、セイウンスカイを目標に戦って来た2人には受け入れ難い出来事だった〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      「本当にそうか?」

 

 

 

 

 

キング「・・・・え?」

 

キントレ「ご、くう、、さん?」

 

 

〈ポツリと呟く悟空を見ると、2人は驚いた。

悟空は腕を組みながらターフを…スカイを見る。いや、見るなんて生易しいものではない。

一挙一動、全てのものを見逃さないようにする視線は、自分に向けられたものではないに関わらず、背筋に寒気が走るほど。

戦士と呼べる姿がそこにあった〉

 

 

悟空(…………これがセイウンスカイか。ウララのやつは…)

 

キング「悟空さん?」

 

 

 

〈キングは再度悟空に問いかけるが、客席の叫び声でターフに意識を戻した〉

 

 

 

実況「さあ!龍球ステークスの大詰め!第4コーナー中間!

ハルウララ、セイウンスカイまで後2バ身!」

 

解説「失速するセイウンスカイに加速するハルウララ。直線に入る頃には追いついてそうです!」

 

 

ーーーーーー

 

 

はぁはぁはぁ、、、、あはっ!

セイちゃんが手の届く位置にいる。疲れたのに笑いが込み上げてきた。

この調子だと直線までには追い越せそう。セイちゃんだけが相手じゃないから、先頭に立った後でも気をつけないと。

 

 

 

実況「ハルウララ!セイウンスカイまで半バ身!怒涛の末脚で龍球ステークスの覇者になれるか!」

 

 

直線に入るとセイちゃんが横に見えた。

ウララが先頭だ!このまま行ける!勝つんだ!!

セイちゃんも、黄金世代と呼ばれる皆だって、全員まとめてウララが勝って!有馬記念でも勝つんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦いはどんな過酷な道のりを歩いても結果が全てだよ」

 

 

 

 

………え、

 

 

 

 

 

実況「これは信じられないっ!

直線に入った所でスタミナが切れ、ハルウララに先頭をとられたセイウンスカイがなんとっ!

内からもう一度差し返したああっ!!!」

 

 

 

そんなっ!

セイちゃんはもう限界な筈!残りの力を振り絞ったんだ。一時的なものならもう一回!!

 

 

〈ウララは一段と身体を小さくして再加速をした。それでも差は縮まらない。それどころかスカイの背中が遠のく一方だった〉

 

 

クッ!…ゴールまで後少し、勝つんだ。絶対にウララが勝つんだ!!

脚が壊れても良いから今まで以上に強く踏み込もうとした時。

また"あの感覚"がウララを襲って来た。

 

 

  …ゾワッ

 

 

出走前に感じた時よりも強い悪寒。レースも最終だから暑いくらいなのに、いきなり水風呂に放り投げられたような感覚。ウララは恐怖と困惑で頭がおかしくなりそうだった。

 

何で今なるの!?大事な場面なのに!!だめだめ!ぜぇぇぇったいにダメ!!集中するんだ!

 

セイちゃんの隙を見逃さないようにしっかりと見て、

 

 

 

  ーーーーーゾクッ!!!!!

 

 

 

 

   …っ………ぁ…わかっちゃった……

 

 

 

 

    …ウララ………かてない…

 

 

    ごめんね…悟空さん…みんな……

 

 

 

 

 ごめんね…………………トレーナー…。

 

 

 

 

 

実況「ハルウララ懸命に追いかけるが届かない!

セイウンスカイが魅せた!これが黄金を担う一角!皐月賞バ、セイウンスカイ!!

 

龍球ステークス、逃げ切って1着でゴールイン!!

 

2着は4バ身離されたハルウララ!有馬チャレンジ3戦目にて敗北!!やはり黄金の壁は高かったのか!壁を壊す事が出来ませんでした!!」

 

解説「いやー、ハルウララ惜しかったですねぇ。これは相手が悪かったとしか言えません。それほどまでにセイウンスカイが強すぎたレースだと思います」

 

実況「それにしても解説さん。セイウンスカイのレース展開に謎が多く感じますが、説明出来そうですか?」

 

解説「……確証はありませんが、考えられる事は1つだけ思い浮かんでます」

 

実況「本当ですか!?ぜひ聞かせてください!」

 

解説「はい。セイウンスカイ目線になりますが、レースが始まる前からネタを仕組んでいたと思います。

逃げのセイウンスカイは1枠1番。差しのハルウララは8枠16番。

この時点でセイウンスカイが有利ですが、あえてこのゲートをトラップとして仕掛けました」

 

実況「ゲートの仕掛け……出遅れの事ですか?」

 

解説「はい。スタートを完璧に決めるより、出遅れた事で困惑するウマ娘が多かったと思います。"あの"セイウンスカイが出遅れた。自分が勝てる材料が増えた。とか」

 

実況「その後は暴走に似た逃げでしたね」

 

解説「そこがトラップ2です。セイウンスカイが逃げた。大逃げに近い走り。一見掛かったように思えても、相手は"あの"セイウンスカイ。何かやるつもりだと、ウマ娘達は自分のペースではなく、セイウンスカイのペースに合わせて走りました」

 

実況「ハイペース寄りの走りでしたね」

 

解説「それで、その考えを捨てる出来事。第3コーナー付近のセイウンスカイ失速です」

 

実況「もしかしてそれも!?」

 

解説「はい。トラップ3です。ウマ娘達は我々も感じたようにセイウンスカイが掛かっていたと考えます。でも実はこの時セイウンスカイは休んでいて、脚を溜めている最中なんですよ」

 

実況「なんとっ!そこまで考えられていた事だったのですか!?」

 

解説「恐らくは…その事を知らないウマ娘達はそれを機にハルウララも含めて、セイウンスカイに襲いかかりました」

 

実況「なるほど。引っかかったポイントは全てセイウンスカイの罠だったという事ですね。では今回のレース展開とはっ」

 

解説「はい。"あの"セイウンスカイが出遅れたからチャンスだと思ってスピードを上げて。

"あの"セイウンスカイが大逃げに近い無謀な走りをしても、何かあると考え、距離を詰める。

"あの"セイウンスカイが失速。脚を溜めている事に気づかず、掛かっていたと考え、怒涛の末脚を披露。

 

セイウンスカイが悠々と走ってる間、他のウマ娘達は休む事なく2000mをフルスピードのまま駆けていました。

 

脚を溜めていたセイウンスカイ。脚を使いすぎたハルウララ。

最後の直線でどちらが有利かは結果を見れば一目瞭然」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キントレ「…と、そういう事ですか?悟空さん」

 

 

〈時同じくして、客席の方でもレース展開について話し合っていた。何かを感じ取った悟空は要所要所キントレに説明をして、それを当てはめると解説と同じ結論に達した〉

 

 

悟空「ああ。細けぇ理由までは分からなかったけど、スカイの動きは全部意図的だと思う。

確かにスピードは落ちていくし、ふらついていた時もあった。あれは多分わざとだ。スカイの身体の軸は全くブレちゃいなかった。手足の連動もしっかりしてたしな」

 

キントレ「…まんまと策にハマりましたね」

 

キング(………ウララさん)

 

 

〈勝ち方なんてどうでもいい。今考えるのはウララの事だと、キングはゴール板から少し離れた位置を見る。

そこには力無く地面に手をついているウララの姿があった〉

 

 

 

 

……まけた………から、下を向いてる訳じゃない。怖いんだ。

最後の直線の時、セイちゃんを見て分かっちゃった。ウララが出走前に感じた寒気と同じ感覚。

"アレ"を相手にウララが戦えるはずがなかったんだ。

 

 

   ーーーザッザッザ

 

「…ウララ」

 

 

目の前から声が聞こえた。少し前を向くと足が見える。

 

 

「セイちゃん……」

 

 

走り終わった後だからかな。心臓の音がうるさく聞こえる。

ちょっと苦しいけど、声をかけてくれたんだから、ちゃんとお顔見ないと。

少しずつ顔を上げていく。足、お腹、胸、……そして。

 

 

ーーーーーヒュッ

 

 

喉から声にならない音が漏れた。

 

 

「ウララ?」

 

「ぁ…ぁあ……っ……こないで」

 

 

は、はは。もう、わけがわからない。

セイちゃんに…お友達に、こないでなんて、酷いこと言っちゃって…。

でも、ごめんなさい。…ウララは…怖い。

 

 

「っ!……ウララ、聞いて。今感じてる想いはきっとウララの力になる」

 

 

お友達なのに怖がってごめんなさい。

でもね、あなたがおかしいんだよ?…あんな威圧感だけで動きを止めてくるなんて…。

 

 

「まだ時間はある。諦めないで、立ち上がって」

 

 

ウララだって頑張ったんだよ?

血が滲むどころか、、死にそうになってまでトレーニングして…悟空さんの事だから本当に死にはしないけど…。でもさ、誰よりも必死でやってきたって自信があったんだ。

 

…それを簡単に潰したあなたが怖い。これまでのトレーニングが全部無かったことにされちゃった。

 

 

「お願い、私の声を聞いて」

 

 

多分セイちゃんだけじゃないよね。本気のセイちゃんに立ち向かうキングちゃん。ダービーで勝ったスペちゃん。そのスペちゃんに勝ったグラスちゃんに、同じくらい速いエルちゃん。そして有馬記念に出走するヒト全員……。

 

……………ははっ。…最初からウララが相手になる訳なかったんだ。

 

 

「私程度で怯えちゃダメだ。ウララなら、」

 

「…ぁ…ごめっ…な、さい………もう許して」

 

「っ!!!ウラっ!……………そう」

 

 

〈手と膝をついたまま、ウララはぎこちなく歪んだ笑みを浮かべて言った。

スカイは目を見開いて近づこうと足を一歩踏み出したが、それで終わる。

たった一言だけを呟いて踵を返した。

 

その様子は周りからどう見えたのだろう。鎬を削った相手として讃えあったと見えたのか。

スカイとウララを賞賛する声が観客席から響く。

凄まじいレースを見て興奮しているのだから気づく者は1人もいない。

ウララから離れるスカイの、力強く握りしめた掌から血が滴り落ちている事を…〉

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

〈キングは表情を変える事なく、ただスカイとウララを見ていた。スカイの目的に予想をつけて、ウララの心境には思い当たる事がある。

そんな2つの重く冷たい感情から目を逸らないつもりだったのに、急遽視線を外した。

隣から空気を読まない声が流れて来たからだ〉

 

 

悟空「いやー!スカイの奴とんでもねぇ強さだったな!けど、ウララだって負けてなかった。まだまだ強くなれるだろうから早速修行してぇな!」

 

キング「・・・・・」ピクッ

 

 

〈これが悟空の強さだ。例え負けたとしても、強さを求めて修行の旅に出る。戦いの中で後悔が残る所があったのなら、それを無くせばもう一段強くなる。

それが悟空のやり方であり、強さの秘密だ。悟空を知る者なら全員が呆れて笑ったほどである。 

 

だけど、それは悟空だから出来た事。

 

その考えを、一生に一度、時間の決められたレースの中だけで戦うウマ娘が、どう受け取るのか。

悟空の言葉にキングヘイローのトレーナーが返した〉

 

 

キントレ「悟空さん。とりあえず今日は何もしないようにお願いします」

 

悟空「え、そうなんか?オラはレースの事を覚えてる内に少しでもやった方がいいと思うけどなぁ」

 

キントレ「いえ………やめましょう」

 

悟空「…そっか。おめぇがそこまで言うなら、その方が良さそうだ」

 

キントレ「そして、これから言う事を忘れないようにお願いします」

 

悟空「言う事?」

 

キントレ「はい……もしも、ウララがトレーニングをやらなくなったら、早いうちに僕の所に来てください」

 

悟空「???…そんな事あるんか?だってあいつは、」

 

キントレ「いいですね?」

 

悟空「・・・分かった。けど、そんな事を言うだけの何かがあんのか?」

 

キントレ「……はい」

 

悟空「なんだ?」

 

 

 

キントレ「ウマ娘に僕達トレーナーがつく本当の理由がそこにあります」

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:(オグリキャップ)

 

 

オグリキャップだ。よろしく頼む。

 

このレースの恐ろしい所が出てしまったな。1着を獲った者と力の差を感じ、畏怖を抱く。

それが龍球ステークスに魔物が住むとされる所以だ。

上に行ける者と行けない者の差がハッキリしてしまう。

 

最近のレースでハルウララはG1並みの圧力を与える側だった。しかし今日、本物のG1ウマ娘の圧力を正面から喰らった。

ウララの場合は想像を絶するトレーニングをしてきたが、友達のレースにおける裏の顔を見たのは初めてだろう。精神ダメージを人一倍強く負ったはずだ。

 

だが、臆することはない。

1着を獲った者が他の同年代より早く本格化を迎えただけなんだ。

だからそれは一時的なもの、すぐに追いつける。龍球で勝った私だってその後何度も負けた。諦めなければ何度だって戦えるんだ。

 

………諦めさえしなければ、な。

 

 

 

次回、悟空とウララの関係。

 

 

 

なんだ悟空、そんな顔をして、

 

 

 

   …とりあえず一緒にご飯を食べようか。

 

 

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