孫悟空とウマ娘   作:猫ネコ

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いやーエル編が長過ぎマシタね!デスが、意外にも1番手応えのある回になりマシタ!


注意
・アニメ軸辿っているので、モンジューではなく、ブロワイエです。
・結構犯罪じみてますが、無断の国移動は突っ込まないでください。
・ルドルフの話し方は四字熟語が難しいので無しにしてます。


Q「言語の壁ってどうなってるの?」

A「今作で言うならフランスのトレーナーとブロワイエはフランス語。エルもある程度話せます。言うなら悟空とスペとウララ以外は話せる予定です」






凱旋門賞

 

 

 

 

 

 

 

〜 前回のあらすじ 〜

 

 

 

悟空「フッ、これでオレも凱旋門賞を見られそうだ」

 

たづな「いえ、そのままだと観客はおろか、ウマ娘まで萎縮してしまいます…」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

エル「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、………」

 

 

フランスの地でターフを走るエルコンドルパサー。

日本とは感触の違う芝の加減に慣れるためトレーニングをしていた。

ゴールまでもう少し。そこにはストップウォッチを見るトレーナーがいた。

 

 

トレーナー「57.58.59………よし、オーケーだ!」

 

エル「あ、ありがとうございマァス」ハァ…ハァ…

 

 

ゴールの瞬間に聞こえてきたトレーナーの声。ゆっくりと歩きながら近寄る。

 

 

トレーナー「良い走りだ!日本のウマ娘はこのトレーニングの段階でも苦労するものもいるが、君はフランスの芝があっているようだ」

 

 

彼はフランスの名トレーナー。

一目でエルの特徴を見抜き、トレーニングと共に分析をしていた。

 

 

エル「本当デスか!?ふっふっ、これでまた世界一が近づきマシタね」

 

トレーナー「まぁ、それでもブロワイエと同じスタートラインに立ったくらいだけどな!」

 

エル「充分デェス!あとはエルがこう、けちょんけちょんのギッタギタにしてやりマース!」

 

トレーナー「はっはっはっ!あのブロワイエにそんな事が言えるとはな!」

 

エル「トレーナーさんはブロワイエの事知ってマスか?」

 

トレーナー「ああ、もちろんだ」

 

エル「じゃあじゃあ!好きな食べ物とか知ってマスか!?好きなトレーニングとか!他にも日常的に欠かしてない事や好きな筋トレ道具のメーカーとか!」

 

 

グイッグイッと詰め寄るエルを手で静止をかけた。

 

 

トレーナー「お、おいおいエルコンドルパサー。いきなりどうしたと言うんだ」 

 

エル「ぁ、すみマセン。つい…」

 

トレーナー「ブロワイエの事が気になるのか?」

 

エル「……ブロワイエはワタシの夢の実現者デス。もちろん凱旋門賞で負けるつもりはありマセンが、1人のウマ娘として最強がどんな生活を送っているのか気になりマス」

 

トレーナー「なるほどな。……クッ、フフッ、」

 

エル「ケ?トレーナーさん?」

 

トレーナー「アハハハハハハ!」

 

エル「えぇぇえええ!何で急に笑ってるんデスカ!?エルついていけてないデェス!」

 

トレーナー「くふふっ。いやー、ごめんごめん。ライバルとして気になるってよりも、さっきの君はまるで、恋する乙女だったから笑ってしまったよ」

 

エル「コイスルオトメ?………なぁっはっはっは!そんな事ありえまセェン!エルを色ボケグラスと一緒にしないでくだサーイ!」

 

トレーナー(いろぼけぐらす?)

 

エル「…でも、的外れという程でもありマセン。恋ではないデスが、エルはブロワイエに焦がれてマスから」

 

トレーナー「エルコンドルパサー…」

 

 

一途に見つめるエルの瞳は熱を帯びている。エルの言う通り恋ではないだろう。そんな可愛いものじゃない。けれど恋並みの情熱を秘めている目は、一瞬だけだがトレーナーの目をも奪った。

 

 

トレーナー「っ、…コホン……あー、さっきの話に戻させてもらうが、ブロワイエのプライベートは知らないな。好きな食べ物すらも」

 

エル「ソウデスカ…。何か分かればと思ったのデスが、」

 

トレーナー「まぁそんな事を読み取っても限度があるだろう。それにお話しはこれくらいにしてトレーニングに戻ろうか」

 

エル「オーゥイエース!次はロードワークでしたよネ!」

 

トレーナー「その通り!その間に別のトレーニングの準備をしておくからフランスの景色でも楽しんでくると良い!」

 

エル「ハイ!では行ってきマース!」

 

トレーナー「迷子にはならないでくれよー!」

 

エル「ノープロブレムデェス!」

 

 

そう言ってエルは首にタオルを巻いたまま走りに行った。

 

 

トレーナー「元気なウマ娘だ、、、あのポジティブ精神が彼女の強みになるんだなぁ」

 

 

気持ちの奥底から溢れる感情は、ワクワクとした少年のような心。彼女なら本当に一泡吹かすかも知れない。能力を最高到達点に持っていくのは自分の仕事。トレーナーは機材を設置していくが、ふと思った。

 

 

(………休めるスペース作っとこうかな)

 

 

彼女の事だ。戻って来たらフランスの街並みを鼻息を荒くしながら話すだろう。

トレーナーの脳にはエルの笑顔が鮮明に浮かんだ。

 

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

 

 

トレーナー「ん?」

 

 

ふと、何かに気づいた。

 

 

トレーナー「あ、おかえり!フランスはどうだっ、、た、、、」

 

 

エルは帰って来た。

 

 

エル「…………そんな事より、ブロワイエの倒し方を決めまショウ」

 

 

仏頂面で圧力を振り撒き、行く時とは正反対の感情を持ちながら。

 

 

トレーナー(なんでそうなった……)

 

 

 

 

 

 

遡ること10分前。

 

 

prrr…prrr.…prガチャ

 

エル『もっしもーし!こんにちはデース!カイチョー!』

 

 

ロードワークも終盤。

クールダウンも兼ねて景色を見ながら歩いていると、ルドルフから電話が来た。

 

 

ルドルフ『ふふ、こちらはこんばんは、だがな。急な電話すまない。トレーニング中だったか?』

 

エル『ハイ!ロードワークしてマシタ!あ、テレビ電話にしマスね〜』

 

 

そう言って携帯画面をタップすると画面にはお互いの顔が映った。

 

 

エル『ォー、カイチョーだ…少し見ないだけで凄く久しぶりに感じマァス!』

 

ルドルフ『そうだな。エルも元気そうで良かった』

 

エル『ベリー元気デスよ!そちらは…アノ……平和デスか?』

 

ルドルフ『ん?……あー、誰のせいとは言わないが、ハルウララがダートに埋まった以外は平和だ』

 

エル『oh…』

 

ルドルフ『・・・・、』

 

エル『っ、そ、そういえばっ!エルさっきブロワイエに会ったんデスよ!』

 

ルドルフ『なに!?…そうか、あの欧州最強にか。ウマ娘同士の縁が結びつけたのかも知れないな。会ってみてどうだった?』

 

エル『それがデスねぇ、通訳の本見ながら話そうって思ったら本を取られてソコにサイン書かれてしまいマシタ』 

 

 

街中にいたブロワイエ。周囲にファンが多く囲んでいた。

 

 

ルドルフ『ふふっ、ファンの1人だと思われたのだろうな』

 

エル『みたいデスねぇ〜、……あった』

 

 

エルはサイン付きの本を携帯カメラに映してルドルフにも見せた。

表紙に書かれたフランス語の文字。エルはサインを貰ったと言っていたが、ルドルフはそれを見ると眉間に皺が寄った。

 

 

ルドルフ『…………エルコンドルパサーは何て書いてあるか分かるか?』

 

エル『ケ?いえ全く分かりマセェン。まぁサインなんて大体の言葉は決まってマスからね』

 

ルドルフ『そう、か…』  

 

エル『デスが…エルだと気付かれなかった事がショックデス………あ、でもそれほど取るに足らない相手だと思われれば奇襲を仕掛ける事が出来マスね!』

 

 

電話口で、これはチャンスだと、エルの弾んだ声が聞こえる。

だがしかし、ルドルフは頭を悩ませていた。

 

 

ルドルフ(はてさて……どうしたものか…)

 

 

エルが見せてきたブロワイエのサイン。実はサインなどと可愛いものではなかった。解読出来なかったエルが吉と出るか凶と出るかは分からない。ここはあえて言わないべきか。

慣れてない海外での走り。"普通なら,,ウマ娘の能力を最大限に発揮できるように何のストレスも与えないのが1番。

だからブロワイエの文字の意味も黙っておくのが最適だ。

 

 

ーーー普通ならそうだ。

 

 

 

ルドルフ("彼,,の周りにいるあの子達は全員もれなく好戦的になったな。…私も便乗してみるか)

 

 

あの黄金世代などと騒がれてる連中は少し他とは違う。

思い描くレースをするために平静を保つ。…ではなく、思い描く白星を手に入れるために昂る精神で走っている。

 

だからこれは良い着火剤になるだろう。

 

 

 

ルドルフ『なぁ、エルコンドルパサー』

 

エル『なんデスか?』

 

ルドルフ『・・・・、』

 

エル『? カイチョー?』

 

ルドルフ『「私はコンドルより速く飛ぶ事が出来る」』

 

エル『ほぇ?』

 

ルドルフ『お前がサインだと思ってるやつを訳すとこれだ』

 

エル『!!?…………コンドルより、速く……』

 

ルドルフ『ああ。奴はお前をファンの1人じゃなく、凱旋門賞を走るエルコンドルパサーと認識していた。その上で書いてきた』

 

エル『・・・・・・・・・・・・、』

 

ルドルフ『だがこれも少し回りくどく聞こえるな。分かりやすいように言うと、喧嘩を売られているぞ。エルコンドルパサー』

 

 

訪れるのは沈黙。

エルは無表情そのものだった。

 

 

エル『………………カイチョー』

 

ルドルフ『何だ?』

 

エル『エルのフランス語は日常会話レベル。だから教えてくだサイ。奴にぶつける一言を』

 

 

ここでハッキリとエルは表情を変え、感情を露わにした。

耳を極限まで絞り、目は最大に見開かれている。

リスペクトしていたらコレだ。レースの数日前だから油断した自分が甘かった。そのせいで先手を取られた。

リスペクトならレースが終わった後ですれば良い。だがその前にやり返してやらないと気が済まない。

 

 

ルドルフ『良いのがある。…が、私自身が言うならともかく、他の子に教えるのは少々マズい。他言無用で頼むぞ』

 

エル『ハイ』

 

ルドルフ『これは日本語に直すと、勝利は私のモノ…になる。だが言葉は言う時によって意味合いが変わる。言うのは出走の直前。その時エルコンドルパサーはありったけの感情を込めて言ってやれば良い。〜〜〜〜〜〜〜と、な』

 

 

エルは一度復唱するとニタリと嗤った。

 

 

エル『オーケーデェス!すみマセンカイチョー。エルはトレーニングに戻りマス!』

 

ルドルフ『ああ。健闘を祈る』

 

 

電話が切れると、すぐにエルは走り出した。勝てる要因を1つでも多く作るために。

 

 

 

そして、

 

 

  

 

エル「ブロワイエを倒す。今までのレースにエルコンドルパサーがいなかったから世界最強の称号を得たのだと思い知らせてやりマス」  

 

 

 

 

トレーナー(……まるで出走寸前のウマ娘だな)

 

 

数多のレースに関わってきたトレーナーは、エルの溢れる闘気を前にそんな事を思うと、エルと視線を交わした。

 

 

トレーナー「エルコンドルパサー。凱旋門賞の作戦は、君自身や君のトレーナーの考えもあるだろうが、俺の意見も取り入れてみないか?」

 

エル「それをやれば勝てマスか?」

 

トレーナー「その質問には答えられない。だって"勝負はやってみるまで分からない,,だろう?」

 

エル「!!!」

 

 

突如。エルはお腹を抱えるほど大きく笑いだした。 

 

 

トレーナー「? 何かおかしい事言ったかい?」

 

エル「あはははっ!いやーすみマセン!この地でその言葉を聞くとは思ってなかったので!」

 

トレーナー「???」

 

エル「では教えてくだサイ!トレーナーさんの作戦を!」

 

トレーナー「あ、ああ。まず君たち日本のウマ娘と他の国のウマ娘とでは走り方に大きな違いが2つある」

 

エル「ふむふむ」

 

トレーナー「1つは接触。日本のレースに比べ、ウマ娘同士ぶつかる事が多い。故意にすればもちろんアウトだが、それで日本のウマ娘が潰れる事が多い」

 

エル「ナルホドォ」

 

トレーナー「そしてもう1つはゲートだ」

 

エル「ゲートぉ?」

 

トレーナー「そうだ。君達からしたら考えられないかも知れないが、他の国のウマ娘はゲートの練習をほとんどしない。ゆえに日本風に言えば、みんなが出遅れ状態だ」

 

エル「まじデスか!?」

 

トレーナー「マジだ。その2つを視野に入れると、接触しないような位置取り、君だけが好スタート。だから?」

 

エル「最初からハナに立つ。という事デスね!」

 

トレーナー「そうだ。そこで注意点としては、"逃げ,,ではなく、あくまで普段通りの"先行策,,で走るんだ。先頭にこだわる必要はない。」

 

エル「途中でハナを奪ってこようとしても張り合わないって事デスね」

 

トレーナー「ああ。海外の直線は凄く長い。張り合ってると最後は持たないからな」

 

エル「………ハイ!エルの走り方にも合ってますし、それで行きマス!」

 

トレーナー「それじゃあ残りはゲートを中心にトレーニングをしよう」

 

エル「ハイ!」

 

 

作戦が決まると、やる気が何倍も出てくる。

打倒ブロワイエに向けて最終調整が始まった。

 

 

 

 

 

 

そしてついに世界一を決めるレースの幕開けの日が来た。

 

 

 

 

一方、現在の日本は時差が生じて夜だった。

 

 

 

ー キングヘイローのトレーナー室  ー

 

 

悟空「また着んのか」

 

キントレ「当然ですよ」

 

 

超サイヤ人化した悟空は見た事あるシャツとズボンを手にしていた。

 

 

キントレ「たづなさんから散々言われてるんですから、ここで道着なんて着たら減給されてしまいます」

 

悟空「いやまぁ、着るけどよ、お前のズボン硬ぇんだよなぁ。動きずれぇ」

 

キントレ「ジーンズなんてそんなものです。さぁ、シャツも着てください。悟空さんがボタン取ったんですから」

 

悟空「勝手にとれたんじゃねぇか」

 

キントレ(そんな胸筋してればボタンだって耐えれませんよ)

 

 

ぶつくさ言いながらも悟空は着替えていく。ズボンを履き、ベルトを締め、シャツを羽織り、ボタンを閉めると。

 

 

パァンッ!

 

キントレの眉間に何かが当たった。

 

 

悟空「あ、」

 

キントレ「〜〜〜っ、何でまたボタンが弾けるんですか!前着たのと同じシャツですよ!?」

 

悟空「んー、、、あっ!超サイヤ人になってるからだ!前の時でもギリギリだったから、少しデカくなっただけで限界が来たんだろうな」

 

キントレ「な、なんというワガママボディ…」

 

 

げんなりとした顔で見ると、第3ボタンが吹っ飛び、胸の中心から、やや下の所がシャツから覗いていた。

 

 

悟空「・・・・まぁいっか。んじゃオラ、」

 

キントレ「いやダメですって!……Tシャツ。うん。黒Tシャツでいきましょう!」

 

悟空「お、おう…」

 

 

結果的に前より目立たなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

悟空「エル。もうそろそろ良いか?ーーーーーーーー分かった。んじゃ行くぞ。ーーーおう」

 

 

人差し指をこめかみに当て話す。

キントレはもう何とも思わないほど見慣れた光景だった。

すると悟空は指を離してキントレを見た。

 

 

キントレ「行けそうですか?」

 

悟空「ああ。まずは控室で少し会いてぇって事だから、もう行く」

 

キントレ「そうですか……。一応言っときますけど、知らない人について行っては駄目ですからね?誰かに声をかけられても……って、言語が違うからそこはいいか」

 

悟空「? まぁオラも気をつけっから心配ぇすんな」

 

 

そう言うと、悟空は額に人差し指と中指を置くと、エルの"気,,を探る。

 

 

悟空「ーーー!…あー、バレちまったみてぇだ」

 

キントレ「え、それはどういう…………あ、」

 

 

 

 

 

 

 

ー エルの控え室 ー

 

 

エル「フゥ……」

 

 

出走まで後10分。手伝ってくれたトレーナーと最後にまとめをすると、後は休めと言って1人にしてくれた。

結構ありがたい。トレーナーには申し訳ないが、日本から来る友達を見せるわけにはいかないのだから。

 

 

"シュン!!,,

 

風切り音が聞こえ、エルはすぐに振り向いた。

 

 

エル「! 悟空さん!待ってマシ「エールちゃん!」タぁぁええええええええっ!……す、スペちゃん!!?」

 

 

悟空に飛び掛かる勢いで迫るエルにくっついたのはスペだった。スペの肩越しに見える人影が5人。

悟空の超サイヤ人は見た事あったからすぐに分かるが、残りの4人は……、

 

 

悟空「よっ」

 

エル「悟空さん!……と、……あの、他の方々はエルの知ってるフレンズで合ってマス?」

 

グラス「せっかく来たのに随分なご挨拶ですねぇ〜。エル」

 

スカイ「まぁ無理もないんじゃない?一目で分かったら意味ないしぃ」

 

 

聞き慣れた声。

自分の知ってる2人なはず。なのに姿形が何一つ当てはまらない。

 

 

キング「私達こそ見つかったら大事よ。可能性の問題じゃなく絶対にバレては駄目。それこれ私達がウマ娘じゃないと思わせなければね」

 

 

そう。ウマ娘特有の耳や尻尾が見当たらない。

髪色が違うからカツラをしているのだろう。加えて帽子を被ってる。だがアレがない。いくらズボンに押し込んでも盛り上がってしまうアレが…。

 

 

エル「しっぽ……皆サン尻尾はどこいったんデスか…」

 

スペ「あはっ、やっぱり分からないよね!ちょっとココ触ってみてよ」

 

 

そう言ってエルの手を自分のお腹に持っていった。

 

 

ーーーーふにぃぃ、

 

 

エル「…………尻尾、デスか?」

 

スペ「うんっ。お腹の周りに巻き付けてるの!これならバレないでしょ!」

 

エル「はえぇぇフニフニ確かにフニフニ見ただけではフニフニ分からないフニフニデスねぇフニフニフニフニ」

 

スペ「あ、あのエルちゃん?ちょっとくすぐったいかなーって、」

 

エル「エルは大丈夫デスよ……っ、」

 

 

服の上から尻尾を触っていると、エルの手が掴まれた。

その手はスペとは違う方向から、伸びる手を辿っていくと至近距離で目が合った。

 

 

グラス「エーーールーーーーーー!!!!!」

 

エル「oh…….…す、スキンシップデース…」

 

グラス「………腹を切るのは日本に帰ってきてからにしてあげます」

 

エル「あ、切る事は決まっているんデスね。…それにしても尻尾をお腹に巻くとは考えマシタねぇ」

 

ウララ「悟空さんが教えてくれたの!」

 

悟空(あんな奴ら(サイヤ人)がヒントになるとは思わなかったけどな)

 

エル「ウララ………ダートに埋まったって聞きマシタけど、大丈夫デシタ?」

 

ウララ「あ、…………も、もう少しで出走だね!応援に来たよ!」

 

 

あのウララがはぐらかす程の事があったのだろう。心配させまいと。そんな健気なウララにエルは込み上げるものを感じた。

 

 

エル「ウッ…ウッ……ウララ。強く生きてくだサイ」

 

ウララ「ありがとっ、エルちゃん…っ、」

 

キング「なにを小ネタ披露してるのよ。そんな場合じゃないでしょうに」

 

スカイ「何分後には世界一を決めるってのに、何だか教室にいるみたいだね」

 

 

全員が感じていた事。緊張感が無いとも言えるが、リラックス出来るとも言える。

同時に、エルが我慢して押さえ込んでいたストッパーを緩める事でもあった。

 

 

 

 

 

エル「っ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

喉を壊しかねない勢いで叫ぶ。

防音設備が無かったら何人もの係員が押し寄せてくるだろう。予期しないエルに全員が驚愕に染まった。

 

 

グラス「っ、どうしたのエル!?」

 

キング「何が起こって…」

 

スペ「エルちゃ、「フンヌッ!」ぅえええ!?」

 

 

スペは驚くが動けない。エルが抱きしめて来たからだ。

 

 

スカイ「……………え、何やってんの?」

 

ウララ「エルちゃんってスペちゃんの事好きだよねー」

 

悟空「オラもよく分かんねぇけど、多分そういうんじゃねぇと思うぞ?」

 

スペ「え、エルちゃん?どうしたの?」

 

エル「すっっっっっっっっっっごく怖いデェスッ!」

 

グラス(・・・・・)

 

 

感情に身を任せてスペを強く抱きしめる。

只事ではないエルの様子を悟るとスペは背中をさすり、悟空達は黙って見ていた。

 

 

エル「みんなに来てもらってエルは心の底から嬉しいデス。でもやっぱり負けた時の事を考えてしまって怖くなってしまいマス…」

 

悟空「また変な事考えてんなぁ」

 

キング「そういう事言わないの」

 

エル「うぅぅぅ…………悟空さんの、天下一武道会って言いマシタっけ。挑む時どんな事思ってマシタ?3年に1度なんデスよね?1番を目指すためのプレッシャーってどんなデシタ?」

 

悟空「ん?オラは別に1番を目指した訳じゃねぇから緊張しなかったぞ?」

 

エル「ケ?」

 

悟空「オラは強ぇ奴と戦って勝ちたかった。だから別に武道会じゃなくても戦えればそれで良かった」

 

エル「ち、小さい頃はどうデシタ?もっと、こう、自分が最強だー!みたいな」

 

悟空「オラが子供の頃は、かめせn……師匠に修行の一環で行けって言われただけだな。そん時は自分の力を試してぇってだけだったぞ」

 

エル「ぁぅ…」

 

スカイ(悟空さんって頼りになるけど、参考にはならないんだよねぇ〜)

 

エル「………エルも悟空さんみたいな気持ちで挑んだ方が強くなれマスかね…」

 

 

ボソリと呟く。

それを聞いたスペはさすっていた手を止め、思いっきり体から引き離した。

 

 

エル「っ、スペちゃん」

 

スペ「エルちゃん。他の人の気持ちを真似しても限界はすぐに来るよ。自分の意思が揺らいだら駄目だと思う」

 

悟空「エル。オラもそう思うぞ」

 

エル「悟空さん…」

 

悟空「気持ちは大事かも知んねぇけど、気持ちの意味は全員違う。考えてもみろよ。

スペの夢は日本一のウマ娘になる事。そいつは世界一を目指すおめぇよりも小さい。

キングはスペのやつよりも小さいG1で勝つ事。

ウララなんて今でこそ有マ記念だけど、元々は大きいレースで勝つ事っちゅー適当な感じだったじゃねぇか」

 

エル「確かに……」

 

 

グラス(私の名前がない………やはり早々に悟空さんとの時間をとらないとっ)

スカイ(グラスちゃんが決死の覚悟を決めた目つきしてる件について)

 

 

悟空「つまんねぇ事考えてねぇで思うようにやってみろって。組み手した日おめぇ言ってたじゃねぇか。世界最強の座を奪いに行くってよ」

 

エル「!!!」

 

悟空「おめぇにはオラ達がついてんだ。思いっきりやって来い!」

エル「っハイ!」

 

 

スペ「エルちゃん!頑張って!世界一になったエルちゃんに私が勝てば自然と世界一になるから!」

エル「ズルいデスよ!でも…スペちゃんありがとう」

 

 

キング「そもそもこのキングのライバルが弱音を吐く事は許さないわ。その分相手にぶつけなさい!」

エル「オーケー!良いセリフがあるので言ってやりマァス!」

 

 

スカイ「あ、つぎ私かぁ…頑張ってねぇ〜」

エル「オーウ…気の抜けそうな声援。でもそれはエルにとって最大の活力になりマス!」

 

 

ウララ「エルちゃん。レースはね、楽しいんだよ!だからまずは笑顔だよ!」

エル「なぁーはっはっは!エルはいつも笑顔100%デース!楽しんで来マスよーっ!」

 

 

グラス「・・・、」

エル「グラス。……スペちゃんに抱きついたの怒ってマスか?」

グラス「怒ってます…………エルが自分を信じてない事に」

エル「!……もう大丈夫デス」

グラス「そうですか…」

エル「グラス。行ってきマス」

グラス「ええ。行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

それから数分後。穏やかな風が芝を靡かせるその上で、待ち侘びた再会を果たした。

 

 

ブロワイエ「やあ、これで会うのは2度目だね。私のサインは喜んでもらえたかな?」

 

エル「ええ。あんな所に書かれたので、せっかく用意した色紙が真っ白のままデス。なのでレースが終わったら色紙にワタシのサインを書いてプレゼントしマス。……世界一になって1枚目のサインは激レアでしょうから自慢していいデスよ」

 

ブロワイエ「!…驚いた。今時のコンドルは口が達者なようだ」

 

エル「達者なのは口だけだと思わない方がいいデス」

 

ブロワイエ「フッ、……良いレースを」

 

 

ブロワイエが手を差し出す。

ゲート前の時間。最強と最強が大勢の観客の前でする握手は絵になるだろう。興奮と熱意で高まった声が空気を震わせた。

 

 

エル(カイチョー……エル、いきマス)

 

 

ブロワイエの手をガッシリと掴む。その瞬間に客席から爆発音みたいな音が発せられるが、エルの世界の中ではシン……と静まり返っていた。

ブロワイエが握手を解こうとすると、エルは一際強く握り、手を引いた。

 

 

ブロワイエ「っ、」

 

 

 

ブロワイエは見た。コンドルの名に恥じない猛禽類が如き眼を。    

 

 

 

エル「La victoire est à moi!(調子に乗んな!!)」(ラヴィクトワールエタモタ!!)

 

ブロワイエ「! なるほど。想像以上に愉しいレースになりそうだ」

 

 

 

 

世界一を決めるまで残り僅か。

 

 

日本でも、大画面の前にウマ娘達が集まって応援していた。

 

 

 

 

ー トレセン学園 ー

 

 

時刻は夜。エルが所属するチームリギルだけでなく、様々なウマ娘が集まっていた。

 

そこに遅れながらも登場したのは生徒会長シンボリルドルフ。

 

 

トウカイテイオー(テイオー)「あっ!カイチョー!こっちこっち!」

 

ルドルフ「ん、ああ」

 

テイオー「もー、遅いよぉ!もうすぐ始まっちゃう所だったんだから!」

 

ルドルフ「ふふ、すまないな。間に合って良かった…………ん?グラスはいないのか?」

 

テイオー「うん。グラスはスペちゃん達同期組で見るって」

 

ルドルフ「そう、か」

 

 

何となく。理由もなく、ただ違和感を持った。同期組で見る事は特別おかしい事ではないだろうと、ルドルフは自問自答をしながら、買ってきたミネラルウォーターを口に含む。

 

 

ルドルフ「ゴクゴク………ん、ブフォファッッッ!!!!!」

 

 

盛大に吹き出した。

 

 

テイオー「ええええええっ!カイチョー大丈夫!!?」

 

 

ルドルフはテイオーの呼びかけに応えず、画面に釘付けだった。レースはまだ始まらない。客席が映ってるだけだ。

ポタポタと口から滴り落ちても微動だにしない。彼女の異変には、そこにいる全員が注目し、彼女やエルのトレーナーである東條ハナが近寄った。

 

 

東條ハナ「お、おい、ルドルフ。どうした」

 

ルドルフ「トレーナー…………ハッ、申し訳ありません。少し体調が優れないので自室で見ます。では」

 

テイオー「えーっ!カイチョぉぉぉぉおおお!」

 

 

テイオーはルドルフの吹き出した水で髪を濡らしながら叫ぶが、ルドルフはスタスタと歩いて行ってしまった。

そして、部屋から出て扉を閉めた後、ルドルフは猛スピードで走り出した。

 

 

 

 

 

ー タキオン研究室 ー

 

 

ドバァン!!!

 

 

タキオン「ぶはっ!」

 

 

椅子に座り紅茶を飲んでいたタキオンは、力一杯開かれたドアの音にビックリしてしまう。

 

 

タキオン「〜〜〜っ孫くん!静かに開けろと何回言え、ば…………ふむ。模範の鑑たる生徒会長がご挨拶だな」

 

ルドルフ「アグネスタキオン……キミが関与している訳ではないのか」

 

タキオン「…どこぞのサイヤ人じゃないんだ。心を読めない私に1から説明してくれ」

 

 

ルドルフは黙ってテレビを指で差した。画面が切り替わってなかったため、ルドルフの言いたい事がすぐに特定出来た。

 

 

タキオン「………………………ほう?良い考えだ。確かに超サイヤ人なら何があっても対処できる」

 

 

客席に固定された映像。偶然にも知る人ぞ知るサイヤ人がいた。

 

 

ルドルフ「………グラスは同期達と共に見るようで集まってる所にはいなかった」

 

タキオン「なるほどぉ。…では孫くんの周りにいる年頃の娘が彼女達という訳か。……しかし、彼女達だと言われても判別出来ないねぇ。よく出来てる」

 

ルドルフ「…………危険すぎる」

 

タキオン「もう遅いよ。それに彼の独断とは思えん。勝手な奴だがバ鹿ではない。きっと誰かの許可を得ての事だろう。変装も完璧だしな」

 

ルドルフ「! たづなさんか。…何を考えてるんだ」

 

タキオン「さて、ね。私に言える事は、1つの情景から短絡的に考えて部屋に突撃して来た生徒会長よりは考えてると思うよ」

 

ルドルフ「キミ…さては根に持ってるな?」

 

タキオン「お陰様で資料が水浸しになったのでな」

 

ルドルフ「私もテイオーの髪を濡らして来た。…ふふっ、同じだな」

 

タキオン「謝りたまえ」

 

ルドルフ「すまない」

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

 

タキオン「どうぞ。会長殿」

 

ルドルフ「ああ。ありがとう」

 

 

タキオンは紅茶を渡す。もう時期にファンファーレがなるだろう。ルドルフはこの部屋でレースを見る事に決めた。 

 

テレビの前にあるソファに座っていると、タキオンがその横に座り、何かをルドルフに渡した。

 

 

タキオン「ほら、これで応援するといい」

 

ルドルフ「これは……うちわか、」

 

 

赤い面に黄色い文字でエルコンドルパサー頑張れ!と書かれたうちわ。熱狂的ファンが持っているのを見た事ある。

 

 

ルドルフ「……買ったのか?」

 

タキオン「いや作った」

 

ルドルフ「キミがか!?」

 

タキオン「ウララくんが盛大に応援したいって言うから、ねぇ」

 

ルドルフ「ぁ、、、ご愁傷様、だな」

 

 

言った張本人は現地入り。タキオンの心境を感じ取ったルドルフはうちわを構えた。

 

そんな時、テレビからファンファーレが流れた。

 

 

 

タキオン「キミはどう見るんだい?」

 

ルドルフ「エルコンドルパサーとブロワイエの一騎打ちになるだろう」

 

タキオン「やはりそうか」

 

ルドルフ「あとは芝の具合だな。予想よりも遥かに荒れてるらしい。軍配としてブロワイエが上なようだ」

 

タキオン「ほほう。…………ところで、キミはここで見て正解だったな」

 

ルドルフ「? どういう意味かな?」

 

タキオン「鏡が必要かい?とても生徒の長がして良い顔ではないよ」

 

ルドルフ「………そうか」

 

 

自覚はあるのか。一言呟いてゲートに入るウマ娘を見た。

 

 

 

ルドルフ「個人的に興味がある。今の時代の"絶対,,と呼ばれるウマ娘がどんな力を持っているのか。……私とどっちが速いのか……とかな」

 

タキオン「ふぅん。………さすが、孫くんを父と呼ぶほどのヒトだな」

 

ルドルフ「!!! 何故お前が知っている!?」

 

タキオン「内緒だが、ーーーー始まるぞ」 

  

 

同時にテレビからガタンとゲートが開く音がした。

 

 

タキオン「コンドルくんはゲート上手いな。先頭争いに加わるようだ」

 

ルドルフ「…いや、恐らく争わない。エルが先頭のまま行くつもりだ」

 

タキオン「彼女は先行策だろう。逃げた事あるのかい?」

 

ルドルフ「さぁな。そこまでは知らないが、良い作戦だ。海外勢の競り合いには私も苦労した。無駄に張り合うよりは単独で逃げた方が良い」

 

タキオン「ふむ。理に適っているな。ーーー向正面過ぎても先頭。対するブロワイエは後方寄りだねぇ」

 

ルドルフ「ロンシャン競バ場はブロワイエの慣れたコースだ。そこが絶好の位置だと分かっているんだろう」

 

タキオン「……にしてもコンドルくんは落ち着いているな。まだ温存しているように見える」

 

ルドルフ「だな。…だが私たちに分かるという事は、奴も分かっているはず」

 

タキオン「ああ。ーーー第3コーナー回った。最後の直線だ」

 

ルドルフ「!!! やはり来るか。…もっと逃げろエルっ、」

 

 

 

 

 

 

ルドルフ「ブロワイエが来たぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界に誰1人ウマ娘が見えない。

先頭のまま直線に入ったエルコンドルパサーは誰よりも早くゴールを目視した。

 

 

エル(っ、夢が……見えたッッッ!!!)

 

 

先程捉えに来たウマ娘を1人突き放した。今では2番手と1バ身くらいは離れているだろう。

体力も力もまだ残っている。エルは500mの直線を駆け抜けようとスパートをかけた。

 

 

エル「はぁああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

後方勢を突き放す。

 

 

 

(・・・・・・・なるほどな)

 

 

 

が、内側の4番手の位置。

 

 

(キミは強い。世界一の座を口にするだけの事はある)

 

 

ヤツはいた。

 

 

ブロワイエ「私がいなければ勝てただろうに、残念だ」

 

 

一瞬だった。

バ群の合間を縫ったと思えばエルの隣に並んだ。

 

 

エル「〜〜〜〜ッッッ!」

 

 

声にもならない声を出す。

その光景はゴール前の客席からも見えていた。

 

 

スカイ「やばいね。ブロワイエの方が伸びてる……っ、行けええええええ!」

 

スペ「っ、頑張れぇえええええええ!エルちゃああああああああん!!!」

 

キング「もうすぐでゴールよ!駆け抜けなさい!」

 

ウララ「がんばってええええええええ!!!!!」

 

グラス「……エル………っ、エルっ!走れッ!!!」

 

 

そんな友達の言葉は、

 

 

エル(ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、、、、くっ、夢が手の届くところにあるのにっ。世界一になれるのに!)

 

 

無情にも届かない。

そんなエルと力の差を見せつけるかの如く、ブロワイエは先頭に立った。

 

 

ブロワイエ(礼を言おう。キミのおかげでまた1つ、私は強くなったよ)

 

 

残り100mを切っている。時間にして10秒もない。

ゴールを邪魔するように視界には黄色の髪が揺れていた。

 

 

その時、黙って見続けていた男が口を開く。

 

 

 

 

「エルッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 

ヒートアップした客席の大声援よりも大きく。

最高峰のウマ娘が作り出す足音よりも強い。

 

そんなバカげた声を出す男がエルの友達にいた。

 

 

エル「っ、ご、くう、、さ、、ん」

 

 

弱弱しく呟く。そんなエルを知ってか知らずか悟空は叫んだ。

 

 

悟空「まだ終わってねぇぞ!!!おめぇの本当の力を見せてやれッッッ!!!!!」

 

エル(!!! そうだ。勝負は終わってない)

 

 

意識的に息を吸い、地面を強く蹴った。

 

 

エル(日本のウマ娘を舐めるなぁっ!!!)

 

 

 

 

 

あと数歩、足を出したらゴールだ。

 

 

ブロワイエ(ふふっ、私の勝ちだ)

 

 

勝利を確信して歓喜に震える。興奮して胸が高鳴る。

 

そして、

 

ブロワイエ「な、ぜ、っっっ」

 

 

横に並ぶ赤い勝負服が見えて恐怖に陥った。

 

 

ブロワイエ(!!!!? なぜだっ、キミは終わったはずだ。なぜ再び私の横に立っているッ。エルコンドルパサー!!)

 

エル「ーーーーーーーッッッ」

 

 

恐怖や困惑で、ブロワイエの心臓の鼓動が強く叩く。

2400mを走ったのとは関係なく呼吸が乱れる。何が起こっているのか状況を理解する前に、ゴールを通り過ぎていた。

 

 

 

実況「エルコンドルパサーが怒涛の追い上げ!ほぼ同着でゴールしました!!!」

 

 

エル「・・・・・・、」

 

ブロワイエ「ハア、………ハァ、……ハァ、…っ」

 

 

 

……………………っ…クソ……、

 

 

 

実況「勝ったのはブロワイエ!クビ差でエルコンドルパサーが敗れました!!」

 

 

エル「・・・・・、」

 

 

立ち止まるエルの横をウマ娘が次々と通り過ぎていく。

エルは動かない。空を見ていて顔すら見れない。

だから拳を強く握りしめる所は他の人から見えても、頬を伝う雫は誰にも見えなかった。

 

 

 

 

 

グラス「エル……」

 

 

客席で呟く。レースに絶対はないが、それでも負ける所など少しも思っていなかった。

 

 

スカイ「でも…凄いよ。あそこから追い上げたんだもん。結果が全てってだけで終わらせられない」

 

キング「そうね。……恐ろしいヒトだわ…同時に誇らしく思うほどに」

 

スペ「そうだね」(…ブロワイエ…さん、かぁ…)

 

ウララ「エルちゃん…残念だったけど、ブロワイエさんも強かったね。やっぱり最強って凄いなぁ」

 

悟空「ああ。………つっても、その最強を相手に、エルは爪痕を残せたみてぇだけどな」

 

ウララ「え?」

 

 

 

悟空が指を差す方向。つられるようにウララ達全員が見ると、ブロワイエは歯を剥き出しにして目付きを鋭くし、モデル顔負けの姿はそこになかった。

 

 

ブロワイエ(…勝った。……私が勝った。………日本のウマ娘に怯えながら?……ふざけるなっ!)

 

 

レースの中どころか、生涯1度たりとも怯えた事はない。しかも、負ける恐怖ではない。横に並ぶ少し前から、喉元に刃を向けられているような圧力を感じた。エルコンドルパサーというウマ娘1人に恐怖を抱いたのだ。

 

 

ブロワイエ(この私が!欧州最強のブロワイエがぁっ!)

 

 

 

エル「ブロワイエ」

 

ブロワイエ「っ、」ギョロリ

 

 

背後からの声に目を見開きながら振り向いた。興奮のあまり、フーッ!フーッ!と荒くしながら。

 

 

エル「! くっ、ふふっ!鼻を明かせたようで良かったデス!………ナイスファイト。ブロワイエ」

 

ブロワイエ「・・・、」

 

 

少し目が赤い。けれども笑顔で手を差し出すエル。

ブロワイエは1回、2回、、、合計で6回の深呼吸をすると、同じく笑みを浮かべて応えた。

 

 

ブロワイエ「……何故だろうな」

 

エル「???」

 

ブロワイエ「白熱したレースが終わったばかりだと言うのに、まだキミを強く感じていたいと思うよ」

 

エル「……ワタシもデス。エルからの一方通行じゃなくて安心しマシタ」

 

 

会話はそこで終わり、異国の地に存在するライバルを目に焼き付けようと、お互いただ見つめ合った。

 

 

ブロワイエ「…エルコンドルパサー」

 

エル「何デス?ブロワイエ」

 

ブロワイエ「(キミと戦うために)私は日本のレースに出たいのだが、何を選択すれば良い?」

 

エル「ケ?そうデスねぇ、(海外バの出走権の関係もあるし)ジャパンカップデース!」

 

ブロワイエ「ジャパンカップ……それに出れば、(キミとまた)走れるんだな?」

 

エル「イェース!ジャパンカップは毎年強敵揃いで、(スペちゃんが出ますし)手強いデスよ!」

 

ブロワイエ「望む所だ。(日本のレースでもキミに勝つ。そして、)最強の力を見せてやろう」

 

エル「あはは!(スペちゃんに)勝てマスかねぇ?」

 

ブロワイエ「(キミに)勝つさ」

 

エル「…………また会いまショウ」

 

ブロワイエ「ああ。少しの間さよならだ。我が愛しのコンドルよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

インタビューもトレーナーとの挨拶も終わり、エルは自室にいた。

 

 

"シュン!!,,

 

 

悟空「よっ!」

 

エル「あっ、悟空さ「エールちゃん!」ぅええええ!何かデジャヴ感じマース!」

 

 

悟空達が来た時と同じように抱きつくスペ。

違う所があるなら、悟空を抜いた全員がスペごと抱きしめに飛びかかった。

 

 

スカイ「おっつかれさまー!のムッギュムギュ〜!」

 

キング「って、苦しいわよ!」

 

ウララ「ウララ潰れちゃってるよ〜!」

 

グラス「ふふっ、それそれぇ〜」

 

スペ「むむむむむむむっ」

 

エル「わ、わわっ、…あっはっはっは!暑苦しいデース!」

 

 

一塊の団子のようになると、悟空は目を輝かせた。

 

 

悟空「おっ!うひひっ、おめぇ達落ちねぇように気ぃつけろよー!」

 

『へ?………わ、わ、わ、、』

 

 

外側のグラスとスカイの腰付近に手を置くと、巧みな重心移動と怪力で悟空の頭上まで持ち上げた。

 

 

スカイ「危なっ!なにこれ私達どーなってるの!?」

 

キング「ちょ、おろしなさい!」

 

ウララ「あはははは!ウララ達浮いてる〜!」

 

 

怖がる者。叫ぶ者。楽しむ者。

エルの一室はパーティでもしているかのように明るく楽しい声が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「よし、んじゃオラに触れるか、手ぇ繋げ。瞬間移動すっぞ」

 

 

わらわらと悟空に集まる全員を視野に入れると、エルは見送るために正面に立った。

 

 

エル「皆さん。来てもらってありがとうございマシタ。……せっかく応援してもらったのに、こんな結果で…」

 

キング「ストップ。あなた自身を卑下するのは、あなたを誇りに思うこのキングを侮辱している事に繋がるわ。自分を貶めるのはやめなさい」

 

エル「・・・・・キング。誇りと思ってくれてたのデスね」

 

キング「さぁ、悟空さん帰りましょう。早く」カァァァ

 

エル「あはは。……本当にありがとうございマシタ。時期にエルも日本に帰るのでまたよろしくデース!」

 

ウララ「待ってるからねぇ〜!」

 

 

それぞれが挨拶をすると、瞬間移動の準備をした。

 

 

スカイ「ほい、グラスちゃん。お手をどーぞぉ」

 

グラス「はい」

 

スカイ「ん、……ん?…そういうつもり?」コソ

 

グラス「………悟空さんには迎えは夜明けに、と。それと一応セイちゃんの部屋に泊まるようになってますが、もしもの時はお願いします」コソコソ

 

スカイ「…良いけど……グラスちゃんっていつか刺されるよ?」コソコソ

 

グラス「? なぜ今言うのか分かりませんが、差されても差し返します」コソコソ

 

スカイ「…字が違うんだよなぁ」ボソッ

 

グラス「なにか?」コソコソ

 

スカイ「いや何も……1つ貸しね」コソコソ

 

グラス「もちろんです」コソコソ

 

 

何かを企む2人は手を繋いだ。ーーように見せた。

 

 

 

悟空はウララ達を見渡すと、エルを見た。

 

 

悟空「それじゃあ………あ、ちょっとこっち来い」

 

エル「ケ?」

 

 

スタスタと悟空の元に行くと、ポンと頭に手が乗った。

 

 

悟空「よく頑張ったなエル!」

 

エル「っ、ハイ!エルすっごく頑張りマシタ!」

 

悟空「……へへっ、んじゃオラ達帰るけど、おめぇも帰ってきたらまた組み手しような!」

 

エル「もーっ!悟空さんそればっかりデース。……でも、しょうがないデスね。一緒に遊びまショウ!」

 

悟空「ひひっ!……またな、エル」

 

エル「ハイ。また」

 

 

自然と口角が上がり全員が手を振る中で、"シュン,,という音とともにその場から消えた。

 

 

ただ1人を残して。

 

 

 

エル「……………え、」

 

グラス「あら?置いていかれちゃいました」

 

 

中々とんでもない事だろうに、グラスからは焦りが見えない。

 

 

エル「け、け、ケェェェェ!?え、ちょっ、どうするんデスか!?あ、でも悟空さんが気づいて、」

 

グラス「エル。…エール」

 

 

慌てふためくエルをよそに、グラスはソファに座り、隣をポンポンと叩いた。

 

 

エル「グラス?」

 

グラス「悟空さんならちゃんと来てくれますから。それまでお話しでもしませんか?恥ずかしながらエルのいない寮部屋は静かすぎて落ち着かなかったんですよ」

 

エル「!!!」

 

 

グラスがそう言うと合点がいった。色々言いたい言葉があったのに、口がパクパクと開くだけ。

ふらふらと導かれるように横に座ると、グラスにもたれかかった。

 

 

エル「…………負けちゃいマシタ」

 

グラス「ええ。見てましたよ」

 

エル「エルの本気。届かなかったデス」

 

グラス「とても格好良かったですよ」

 

エル「……ちょっと疲れマシタ…」

 

グラス「お疲れさまでした。今は私がいるので存分に休んでください」

 

 

肩から滑り落ちるようにグラスの膝に頭を乗せた。

 

 

 

「ありがとデース」

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

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