色んな意味でやりすぎた……けど、後悔はしてません。
グラスが強大な力に挑む話です。
注意
・独自設定あり
ー 前回のあらすじ ー
キング「とりあえず」
グラス「セイちゃんに」
エル「どん引きしマシタ!」
スカイ「ック………悟空さんのせいだ」ボソッ
スペ・ウララ「「ふえ〜〜〜〜〜」」カポーン
悟空「きもちぃなぁ〜〜〜」カポポーン
ーーーーーーー
ある日の午後。
悟空「ふわぁぁぁ……ん、今日も平和だなぁ」
たづな「そうですねぇ」
警備員の制服を着た悟空はたづなと2人で歩いていた。
悟空「もう秋か」
たづな「肌寒い季節になりましたね」
悟空「ああ。そのおかげかウマ娘も元気だ。暑さバテ気にしなくていいのは楽だもんな」
たづな「悟空さんは猛暑でも元気でしたね」
悟空「そりゃ鍛えてっからな」
たづな「鍛えても暑さに耐えれるとは別だと思いますが、」
悟空「んでもオラからすりゃあ、おめぇも中々だっただろ」
たづな「何の事です?」
悟空「下に履いてる長ぇ靴下みてぇなやつ。見てて暑苦しかったぞ」
たづな「……あなた…どこを見てるんですか」
悟空「? だからその下のやつ。それにジャケットもか。よく着れたよなぁ。脱げば良かったのに」
たづな「…………これが私の戦闘服なんです」
悟空「あ、そういう事か。だから平気だったんだな」
たづな「はい。……、」
・
・
・
たづな「あ、悟空さん。前から言おうと思っていたのですが」
悟空「なんだ?」
たづな「外出用の服を買って来てください」
悟空「……めんどくせぇから嫌だ」
たづな「だめです。あまり外出する機会がないので不必要だと思っていましたが、いつどこで必要になるのか分かりませんからね。武道着でレースを見に行く事自体間違っていたんです」
悟空「えー、服っつったってオラ分かんねぇぞ?必要ならキントレに借りてれば良いじゃねぇか。買った所でオラはもうすぐこの世界から消えるんだしよぉ」
たづな「………」
悟空(?………あ、やべ。確かキントレから消える発言すんなって言われてたんだった…)
たづな「……ともかくお願いしますね?服代は学園が費用出しますから」
悟空「いや、服くれぇ自分で出すけど……そうだ!たづな一緒に来てくれよ!そんで買うやつを決めてくれ!」
たづな「えっ、、、そうしてあげたいのは山々なんですけど、お出かけする時間が取れないものでして…」
悟空「そっかぁ、、、んじゃアイツらの誰か連れて行くか」
たづな「それが良いのかも知れませんね。……フフッ。噂をすれば何とやら」
悟空「ははっ!本当元気な奴らだな」
『悟空さーん!』
走ってくるのは仲良し5人組。(もう1人は補修)
グラス「たづなさん、こんにちは」
たづな「こんにちは、グラスワンダーさん」
礼儀正しく頭を下げる2人の横で、エルは空を舞った。
エル「ハァーイ悟空さん!フライングボディプレスデース!」ピョン
悟空「よっ、と!オラには効かねぇなぁ!」ガシッ
エル「オーゥ捕まってしまいマシター!」ジタバタ
悟空「おぉっ、暴れたら危ねぇぞ〜」ヒョイ
エル「おー、肩車なんて何年振りデスかね。ちょっと恥ずかしいデスけど…」
グラス「こら、エル。悟空さんに失礼でしょう!」
悟空「ん、オラなら平気だぞ」
エル「ヘッヘーン!」
グラス「っもう。エルったら」
スカイ「にしてもエル懐いたね〜」ジー
キング「傍から見たらあなたも似たようなもんよ」
スカイ「え"っ、私あんなんなの?」
キング「ええ」
スペ「そういうキングちゃんは悟空さんに抱っこされるのが好きなんだよね?」
キング「だっ!は、え、、はぁぁああ!?」
スカイ「あらあら?ん?…あー、なるほどなるほどぉ……抱っことは甘えレベルが高いですなぁ」ププッ
キング「うるさいわよ!そもそもどこ情報よ!ガセにも程があるわ!」
スペ「ウララちゃんが目の前で見たって言うから嘘じゃないと思うけど。2回も」
スカイ「2回!これは言い逃れ出来ないねぇ」
キング「私のは事故だわ!誤解よ!」
スカイ「自己!?」
スペ「5回!?」
スカイ・スペ「「フゥゥウウウ⤴︎」」
キング「おだまり!このへっぽこ達!」
たづな「ふふっ、一気に賑やかになりましたね」
悟空「だな。おめぇ達は何か用だったんか?」
グラス「はい。私達悟空さんと遊ぼうって事になって探してたんですけど……お仕事中ですよね」
悟空「そうだな。わりぃけど…「あ、良いですよ」…ん?」
たづな「行ってらっしゃいませ」
悟空「……さすがに仕事無視すんのはマズくねぇか?」
たづな「無視じゃありませんよ。初出勤の時言ったじゃないですか。時と場合にもよりますけど、ウマ娘のストレス発散にもなるから遊んであげてくださいと」
悟空「あー、そんな事言ってたなぁ」
たづな「警備の栄澤さんには私から伝えておきますので、悟空さんは着替えだけしてください」
悟空「おう。何から何まですまねぇな」
たづな「今に始まった事ではないので。……それにしても買い物は今度のようですね」
悟空「ははっ、みてぇだな。…んじゃそっちは頼む」
たづな「はい。では失礼します」
そう言ってたづなは立ち去った。
悟空「さてと、オラは着替えてくっけど、、、、どうした?」
振り返ると全員が目を丸くしてキョトンとしており、頭の上からも、"オー,,と感心の声が上がった。
とりあえず訳を聞くためエルを下ろした。
キング「…貴方って、トレーナーやたづなさんと話す時だけ年相応に見えるわよね」
スペ「大人っぽいというか、かっこいいですよね」
エル「エル達といる時は年の離れたお兄さんって感じがしマスけど」
悟空「そんな事か。ははっ!オラだってもう30歳は超えてるからな!決める時は決めるさ」
エル・キング・グラス・スカイ・スペ『おぉぉ…』
悟空「よしっ!じゃあ着替えてくるな。おめぇ達は先に行っててくれ!」ビュン!ブワァッ
悟空は軽く走った。
初速からウマ娘のスパート時と同じくらいの速度で。
その風圧がスペ達の髪を靡かせた。
スカイ「……最後の最後は決めれなかったね」
キング「あれで目立つなって方が無理な話よ…」
スペ「最低限の力でもウマ娘以上はあるもんね」
エル・グラス「「……」」コクリ
・
・
・
悟空「さて!いっちょやっか!」
道着を身につけた悟空が言うと全員がキョロキョロとお互いの目を見合わせた。
スペ「…何するか決めたっけ?」
スカイ「いんやぁ。悟空さんを呼ぼうってなっただけで特に何も」
キング「キングにあるまじき失態だわ…」
悟空「ありゃ。そんじゃあ何かしてぇ事はねぇのか?オラは何でも良いぞ」
エル「悟空さんトレーニングがしたいデェス!」
キング「チームが違うから却下ね。何かあってからじゃ遅いし」
エル「………けちキング」ボソッ、
キング「何ですって!?」
グラス「まぁまぁ、……でも、確かに悟空さんならではの事がしたいですね」
キング「グラスさんまで…」ハァ
悟空「そうだなぁ………おしっ!ゲームすっか!」
スペ「ゲーム?」
悟空「おう。前にウララとやったんだけど、それなら修行にもなるし、怪我なんてこれっぽっちも考えなくて良い」
スカイ「えー、そんな都合の良いゲームなんてある〜?」
グラス「ゲーム内容はなんですか?」
悟空「簡単だ。オラにタッチ出来た奴が勝ちだ」
エル・キング・グラス・スカイ・スペ
『……………………』ジー
何が簡単だ………全員の考える事は容易に一致した。
悟空「ん?どうした?」
スカイ「しつもーん!悟空さん追いかけるならレース以上に疲れそうなんだけどぉ」
悟空「オラはその場から動かねぇぞ」
キング「動かない?………ふん、そう言って私達には分からない速さで動くのでしょう。見え見えよ」
悟空「だから動かねえって。突っ立ったままだ」
スペ「へ?ほんとのほんとにその場に立って、なーんにもしないんですか?」
悟空「おう!」
グラス「それゲームになりますか?」
悟空「へへっ。やってみれば分かるんじゃねぇか?」
グラス「っ、…望む所です」
その一言に全員が膝を緩めて臨戦態勢の構えをとった。
悟空(……やっぱ、良い"気,,してんなぁ)
悟空は少し距離をとるために歩きながら思う。
黄金世代。今のレースを語る上では欠かせない程の実力者が集まる1つの世代。
その中でも上位に君臨する者達の圧力を浴びて、悟空は楽しそうに笑った。
そして、
スペ達から10mほど離れた位置で立ち止まる。
悟空「制限時間は何分くれぇが良いかなぁ」
キング「そんなの必要ある?」
悟空「ああ。決めねぇといつまで経っても終わんねぇだろ?」
キング「っ!」
悟空の発言が意図的なのかは不明だが、暗に伝わる。
ーーお前達が勝つ事はない、と。
グラス(何というか、自然と身が引き締まります。これがウララちゃんが日々感じている悟空さんの姿ですか)
グラスは昂る鼓動を抑えるように深呼吸をした。
それに伴い、各々が体を伸ばしたり、屈伸したりと準備運動を行う。
少しの間見ていた悟空は頃合いだと判断し、口を開いた。
悟空「そんじゃあ、ゲームスタートだ!」
直後に訪れたのは沈黙。
一番最初にタッチした者が勝ちと言う事は理解しているが、まずは悟空と他のウマ娘の動きを様子見する選択をした。
1人を除いて。
エル「先手はエルがもらいマース!」
ズザッ!と地を蹴ると勢いのまま加速した。
たかが10m。人間でもすぐの所。
誰も声を出す前に、エルは悟空の間合いへと侵入し、手を伸ばした。
エル「ゲームスタートと同時!ゲームクリアデェス!」
悟空「・・・」
ーーーーーースカッ。
エル「………ほぇ?」
情けない声が出た。
無理もない。確実に当たる距離で空振ったのだから。
悟空「惜しかったな、エル」
呆然とするエルを見る悟空。
その横からスペが地を駆けた。
スペ(隙ありだよ!悟空さん)
エルを見ていた悟空は、ゆっくりと横を向いてスペと視線を交わした。
何をしてももう遅い。スペは勝ちを確信してダイブした。
ーーエルの所へ。
エル「ケ?…ッッッ!ちょ、スペちゃ!?」
スペ「へ?うわぁあああああ!!!」
ドシャッと音がなると、そのままゴロゴロと転がってしまう。やがてエルを下敷きにして止まると、目を回しながら訴えた。
スペ「なんで邪魔するのぉぉぉぉ」
エル「スペちゃんがワタシに飛び込んで来たんデース…」
体力を回復するためか、寝そべって動かない2人に悟空は佇んだまま声をかけた。
悟空「エル、スペ。怪我はねぇかー?」
エル・スペ「「だ、だいじょーぶでーす……」
あの様子なら心配ないかと悟空は思い、意識を2人から"背後,,へと向けた。
悟空「おめぇらしいな、スカイ」
スカイ「…やっぱり分かっちゃいますよね〜」
悟空の死角となる背後にスカイが居るのに関わらず、悟空は前を見続ける。
スカイの動きを読んだのは悟空だけじゃない。勝手に連携を取ろうとキングが迫って来ていた。
キング「謎は解けないけど、同時ならどうかしら?」
宣言通り、寸分の狂いなく同時に手を出した。
悟空「悪くねぇ。けど…、」
"それだけじゃあ無理だな,,と呟くと、前後の手が空を切ったのを感じた。
キング「くっ!」
スカイ「ダメかーっ!」
キングとスカイは悟空を挟んだ状態で何度も手を伸ばすが結果は変わらない。すり抜けるように空振ってしまう。
キング「わ、分かったわ!悟空さん分身しているのでしょ!悟空さんは動いてないけど分身だから手がすり抜ける!どうよ!?違う!!?」ドヤァッッッ!
悟空「違うな」
キング「え、………違うの?」
悟空「ああ。おめぇが言ってんのは残像拳っちゅー技で、その名の通り残像を残してるだけだ。言ったら高速移動の応用だな。今は一歩も動いてねぇから出来ねぇ技だ」
キング「…………そうなのね」
スカイ「ぷっ、くくくっ!キングすっごいドヤ顔してたねぇ」
キング「う、うるさいっ!」
キングは恥ずかしさから後退。スカイは分析するためにキングの後を追った。
エルとスペも体勢を整えてはいるものの、すぐには来ないらしい。
悟空は最後の1人に話しかけた。
悟空「何か意外だったな」
グラス「…何がですか?」
悟空「おめぇが2.3番手くらいに来ると思ってたからよぉ。随分と勿体ぶるじゃねぇか。何か良い手見つかったか?」
キング(この人って何で勝負事になると煽りスキルが上がるのよ)
グラス「っ、…行きますよ」
スペ(グラスちゃんって結構流される所あるんだよね)
4人からの注目を集める中、グラスはすり足気味に歩きだした。
1歩、2歩、、と、どんどん間合いに入っていく。
エル(グラスは何かに気付いたんデスかね)
スカイ(超ゆっくりやったら当たるとか?)
キング(それより近過ぎない?手どころか体が当たりそうなのだけど)
スペ(体ごといくのは私失敗だったよ。…何故かエルちゃんの方に行っちゃったけど)
グラス「・・・・」
悟空「・・・・・」
至近距離で睨み合うかのように見つめる悟空とグラス。
悟空に触れるだけというゲームなのに、何故かとてつもない緊張感が周囲一帯に漂いはじめた。
外から眺めるスペ達が生唾を飲み込む。一際強い風が吹き荒れ、グラスの髪が感情を表すかのように乱れると、
グラス「・・・・」
ーーークルッと踵を返した。
エル・キング・スカイ・スペ
『何それ!!!!?』
思わずツッコミを入る。
顔を真っ赤にしながら戻って来るグラスを取り囲んだ。
グラス「み、見ないでくださいっ」
エル「あんなに思わせぶりな事しといて恥ずかしがっている場合デスか!」
キング「あなた今のは酷いわよ!」
スカイ「あんな雰囲気出して何もしないは、ちょっとねぇ〜?」
グラス「〜〜〜っ!」
怒涛の如く詰め寄られても、グラス自身もそう思っているのかプルプルと震えるだけだった。
そんなグラスの肩にスペは優しく手を置いた。
スペ「もー、みんな言い過ぎだよ。グラスちゃんだって頑張ったんだから」
グラス「す、ぺちゃんっ…」
エル「…あれのどこを見て頑張ったと言いマスか?」
キング「庇ってる様だけど、ツッコミが1番早かったのスペさんよね?」
スカイ「うん。私もそう思う」
グラス「スペちゃん?」
スペ「………よしっ!次行こっか!」
スカイ「スペちゃん……天然さんだったのに、強かな子になったね」
その一言にエルとキングはもちろん、グラスまでもが頷いた。
・
・
・
開始から30分が経過。
悟空の周りには5つの抜け殻があった。
悟空「もう終ぇか、おめぇ達」
エル・スペ「「無ぅ理ぃぃぃ…」」グッタリ
悟空「だらしがねぇなぁ」
スペ「そんな事言っても、タッチしたら」
エル「空振りィィィ」
スペ「飛び込んだら」
エル「ハズレェェェ」
エル・スペ「「どうしろって言うんですか!」」
悟空「頑張れ!」
エル「くぅぅぅっ!スペちゃん!もっともっと頑張りマスよ!」
スペ「ムムムッ!ようし!行こうエルちゃん!」
悟空「おう。来い!」
熱意だけは凄まじく、スペとエルは空振り続けた。
スカイ「あーくそー。何で触れないんだよ〜」
スカイは座りながら両手を伸ばして嘆くと、そのままゴロンと横になった。
眩しく照らす太陽が目に入るが、それに重なるようにキングが現れる。
スカイ「…何さキング。パンツ見えるよ」
キング「ズボンなのに見える訳ないじゃない」フンッ
スカイ「透けてるよ」
キング「えっ!嘘でしょ!?」
スカイ「うん、嘘」
キング「………このまま踏んでも許される気がするわ」
スカイ「ごめんて。んで、セイちゃんに何か用ですかな?」
キング「ええ。……あなた疲れてるわよね?」
スカイ「ん?まぁ、そりゃあ…」
キング「ただ止まってる悟空さんにタッチするだけなのに、ウマ娘である私達が何で疲れるのかしら」
スカイ「………何が言いたいの?」
キング「分からない?この運動量と疲労がマッチしない事が前にもあったじゃない」
スカイ「?……………あっ!感覚トレーニングだ!」
グラス(感覚トレーニング?)ミミピコピコ
密かに左耳を傾けていたグラスは右耳も向けた。
キング「そうよ。五感を使うトレーニングに加え、悟空さんの"気,,を感じ取っていた時、それと疲労の感じが似ているのよ」
スカイ「…にゃるほどねぇ〜。言われてみると確かに。そんじゃあ当たらないのは悟空さんの"気,,が原因なのかなぁ」
キング「可能性はあると思うわ」
グラス(……ふむふむ。だとすると、がむしゃらにやっても結果は同じという事ですね〜)ピコピコ
キング「ん?」
グラス(失礼しました〜)
キングの視線を受けてグラスは耳を元に戻した。
スカイ「それよりキング。私に教えて良かったの?勝っちゃうよ?」
キング「善意な訳ないでしょう。答え合わせよ。私が先にタッチするわ」
スカイ「へぇ〜、……お先っ!」ダッ
キング「あっ、待ちなさい!」ダダダッ
走りゆく2人を尻目に、グラスは情報をまとめていた。
グラス(…さっきの会話を前提に置くと、初めに私が何もせず戻ってしまったのは悟空さんの"気,,によるもの、みたいですね)
みんなからは責められてしまったが、1番困惑したのはグラスだった。気がついたら悟空から離れていたのだから。
グラス(しかし、"気,,がどのような役割を果たしているのかが分かりません。考えられるとしたら"気,,で私達の体を操ってるという事になりますが、そんな事は可能なのでしょうか?)
それに操ってたとしたらトレーニングにならないだろう。
その考えをボツにすると、答えが出ないまま闇雲に突っ込もうとした。
瞬間。
悟空のすぐ目の前にいるスペの後ろ姿を見てグラスは叫んだ。
グラス「っ、スペちゃん!!!!!」
それはヒートアップしたウマ娘の動きを止めるほどの大きな声。
エル達は視線を浴びせ、ビクリと肩を振るわせたスペは勢いよく振り返った。
スペ「ど、どうしたの、グラスちゃん!?」
駆け足気味にグラスの元へ。
そして目の前に立つと、グラスが首を傾げた。
グラス「? スペちゃん?」
スペ「何ですか?」
グラス「…………あら?」コテン
スペ「???」コテン
グラスはスペの全身を上から下まで何往復もさせると、逆方向に首を倒した。
グラス「……スペちゃん。その……怒ってますか?」
スペ「? 全然怒ってないよ」
グラス「ですよね……」
スペ「はい。…えっ、と。グラスちゃんは大丈夫、なのかな?」
グラス「あっ、は、はい!驚かせてすみませんでした!」
スペ「ううん。大丈夫なら良いんだけど、無理しないでね?」
グラス「はい、ありがとうございます」
グラスに異常が無いと分かると、スペは再度挑戦しに行った。
"アレ,,は見間違いだったのか。グラスは挑戦中のスカイを見た。
グラス(………………やっぱり。間違いじゃないですよね)
どう見ても"立ってる,,
スカイの耳は後ろ向きに、尻尾は猛烈に逆立っている。
グラス(でも、さっきのスペちゃんからは怒りなど全く感じなかった)
ウマ娘の耳や尻尾は感情を強く表す。
嬉しい時はピンと立ち。尻尾はユラユラと。
悲しい時は前に倒れ。尻尾は垂れ下がる。
そして怒っている時は、今のように耳は後ろに倒れ、尻尾の毛は全て逆立つ。
さっき悟空の近くにいたスペは、その怒ってる状態だったため、宥めようとグラスが声をかけたのだが、当のスペからは逆に心配されてしまった。
グラス(まぁ、他にも興奮してる時などにもなるので、特別おかしい話では無いのですが……)
理解はすれどスッキリはしない。
腑に落ちない点は違和感として残り、グラスの心に棲みついてしまった。
グラス(……試してみますか)
己の体を実験台に決めると、最初の時のように歩き出した。
エル「おっ、今度はグラスが行きマスか」ハァ、ハァ、
スカイ「が、頑張ってねぇ〜」ゼー、ハー、
もはや早い者勝ちというより、悟空の鼻を明かしたいから誰か早く触れという状態になっている。
それでも意地があるのか。コンビネーションやフェイントなど相談をしないあたり、あくまで勝者は1人という事だ。
グラス(悟空さんから約10歩。触る事ではなく、謎を解く事に集中)
じっくりと、一歩ずつ。反応が起こるであろう境界線を確かめながら歩いた。
キング「? やけに遅いわね」
スペ「最初と一緒だし、何か考えがあるのかな」
グラス(明鏡止水。感情に左右されぬよう、無になるのです)
今でこそ考えて行動しているが、それまではグラスも何十回と悟空に立ち向かっていた。
故に肩で息をするほどの疲労も蓄積されている。だが、耳と尻尾が逆立つ謎を解明するには、邪魔な要素を全て取り除かないといけない。
グラスは運動後の心拍を深呼吸で調整しながら歩みを進めた。
そして、
ついに"アレ,,が起こった。
グラス(っ、立った!立ちました!)
興奮のあまり、逆立った尻尾や耳を触りまくる。しかし触らなければ自覚症状がない事に驚いた。
悟空「グラス?」
グラス「…………なるほど〜」
すぐ目の前には悟空がいる。なら発生条件は悟空の近く。更に言えば、
グラス(悟空さんの間合い。これに一歩でも侵入するとなりました)
偶然なんかじゃないだろう。
悟空が意図的に何かをしてる事が判明した。
悟空「ぐ、グラス?何か言えよ…」
悟空がたじろぐ。
それもそのはず。グラスは思案中ずっと悟空の目を見続けているからだ。
無垢な瞳は瞬きすることもなく、ただひたすらと。…正直不気味だった。
グラス(試しに一手)
これまたゆっくり手を伸ばす。
すると悟空を避けるようにグラスの体が傾き、手は悟空の横を通った。
エル「へーい!グラスどんまいデース!」
スペ「次だよ次ーっ!」
背後から聞こえる声援っぽいものを聞きながら、グラスは1つの仮定を導き出した。
グラス「…………ねぇ、悟空さん」
悟空「お、おう。おめぇ…気味悪ぃけど大丈夫か?」
グラス「悟空さん。ーーーー漫画や映画などである"殺気,,というのは実在しますか?」
悟空「!………ああ。確かにある」
グラス「……そうですか」
一言呟いてグラスは背を向けた。
悟空「………来ねぇんか?」
グラス「次で決めます」
それは勝利宣言だった。
悟空は口角だけ上がった状態で、"待ってんぞ,,とだけ言った。
その2人の会話が聞こえなかったエル達は、仕切り直しとばかりに活気付く。
1人離れたグラスは仮定が確定になった事で歓喜に震えた。
グラス(間違いない。私の考えは合っています!)
仮定を決める段階でグラスは自分に言い聞かせた。
曰く、相手は孫悟空。この世の常識を当てはめるな、と。
その上で頭の中にキーワードを箇条書きにした。
・孫悟空に触れない。飛びつく事も不可能。
・孫悟空は動いていない。
・孫悟空は"気,,を使用してる。
・孫悟空の近くにいる時だけ耳の尻尾が逆立つ。
そして、グラスが直に聞いた"殺気,,の事。その答えで全てが結び付いた。
悟空に触れなかった理由。それは…
グラス(私達ウマ娘の"本能だけ,,に伝わる殺気。触れなかったのは、私達が無意識のうちに悟空さんから逃げていた)
悟空は自分の間合いにだけ、"気,,を張った。
だからその内に入った時だけ無意識に疲れ、尻尾と耳が反応。
手で触れる瞬間だけ、とても小さく。それでいて濃厚な殺気が、感覚に敏感なウマ娘の本能だけを刺激した。
グラス(最初にスペちゃんが飛び込んだのに、何故かエルに突撃したのは接触する事を恐れたから)
自分達がどれだけ模索しようとも、武術を極めた悟空ならフェイントかどうか見極める事なんて容易いだろう。
グラス(ですが、謎が分かれば後は簡単。恐怖を乗り越えるため自分の意思をしっかり持てば触れるはず)
思わず笑みが浮かんだ。
グラスとてスペ達と変わらない学生だ。ゲームをクリアする事の喜びは計り知れない。
グラスは笑顔のまま振り返り、悟空を見た。
グラス「ッッッッッッッッ!!!!!!!」
一瞬止まったのは呼吸。今度は耳と尻尾が逆立った事に自覚があった。
それだけではない。今も10mほど離れているのに足が勝手に後退していく。
ズリズリと砂利を擦る音が耳を刺激した。
グラス(愚かなっ…私は大バカ者です……思い違いも甚だしいっ!)
悟空はゲーム中、ウマ娘の"本能だけ,,に殺気を飛ばし、"気,,で無意識のうちに刺激して疲れさせた。
それなら、謎を解いて無意識を意識してしまったら……。
本能だけでなく、身体全体で理解してしまったら……。
孫悟空という戦士の全貌が明らかになってしまったら。
次に襲い掛かるのは覆しようがない程の実力差。
グラス(っ、怖い!悟空さんがとてつもなく恐ろしい!)
以前スーパーサイヤ人の力を見た時とは違う。明確に、1人の対戦相手として悟空の圧力を感じとってしまった。
当然だが相手にすらならない。ウマ娘の本領である脚力でも、この男の前ではジョギング程度にしかならないのをグラスは知っている。
まるで罠に掛かった動物だ。後はじっくりと狩られるだけにしかならない。
周囲では和気藹々とゲームをしている中でただ独り、グラスは顔が真っ青のまま震えていた。
グラス(だ、めです。このままここに居てはとても耐えきれないっ。適当に理由つけて消えないと…)
この時グラスは殺されるとまで思っていた。もちろんそんな事は万に一つもない。しかしこれまでの悟空との関係を壊すほど、悟空の事が恐怖の対象になっていた。
【呆気なかったなグラス。結構期待してたんだけどなぁ】
グラス「っ、これは…」
突如脳内に響く声。何度も経験した事。
引き寄せられるように見た声の主は、こちらを見ずにスペ達と笑い合っていた。
【すまなかったな。おめぇ達なら…グラスなら行けるんじゃねぇかって、少しやり過ぎた。スペ達には上手い事言っとくからよぉ】
【そのまま"逃げて良いぞ,,】
グラス「に、げ、、、、っ、」
グラスは必死に言い返した。
グラス【確かに逃げですが、間違ってません!このまま居ても無理なんですよ!レベルが違い過ぎます!言わば戦略的な事でもあるんですっ!!!】
今までと同じように、確かにテレパシーを返した。
なのに、
悟空「ははは!どうしたスカイ、キング。そんなとこで寝てたら風邪引くぞー!」
スカイ「セイちゃんは休憩中でーす!後10秒したら、揉みくちゃにしちゃうからね!」
キング「き、キングだって視点変えて見てるだけよ!寝てなんてないわ!」
スペ「それはちょっと無理があるよ…」
エル「この間にエルが勝利しマース!」
グラスは取り残されてるようだった。
グラス(なん…で、、、私は、)
勝負なら立ち向かう。
だけどこれは勝負じゃない。無謀だ。
グラスの目の前には死が存在しているように見えている。
危険な事からは逃げても良いはずだ。そう思った。
グラス(だから悪徳記者が来た時も逃げようとした)
助けに来てくれた駿川たづなを置いて。
グラス(違うっ!あのまま居たら邪魔になっていたんです!だから…)
刃物を出される前は強気だったにも関わらず。
グラス(…………)
所詮は力関係の中で生きる者だ。
グラス(………………………)
グラスの心を蝕む言葉。それは深層心理だろう。グラスの心に根付いでいた過去が、次から次へと掘り起こされていった。
その中に1つだけ、光輝くモノが出てきた。
グラス(……無様な。何が、ーー不退転か)
己が掲げた誓い。"不退転,,
退かない事。
屈しない事。
信じて心を曲げない事。
それは状況によって崩しても良いモノなのか。
あの悪徳記者の時の行動は本当に正しい事だったのか。
断言出来る。正しい事だ。
ーーグラスワンダー以外の者ならば。
グラス(……後悔…していたんですかね、私は。死を恐れ悪に屈した事を……それでは、今逃げたら私はどうなるのか……考えるまでもありませんね)
(逃げて言い訳をして生き恥晒すのなら…)
(また同じように後悔するのならっ)
グラス(ここで死になさい!グラスワンダー!!)
ーーーードンっ!!!
悟空「・・・・」
スペ「ん?何の音?」
エル「後ろから聞こえマシタね」
悟空を含めた全員が音のする方を見た。
グラス「…………っ!」グシャッ!!!
スカイ「ちょ、、っと、嘘でしょ…アレって…」
キング「"前掻き,,……よね…」
信じられないとばかりに、目を見開く。
"前掻き,,とは、自身の足を地面に叩きつけて、砂を掻く動作の事。
しかしそれはウマ娘の中でもする者はごく僅か。とても品が無い行為とされている。
エル「っ!グラァス!それは駄目デス!!」
グラスのメンツに関わる事だからと、必死になって止めようとした。…が、
悟空「エル!グラスを止めるな!」
鋭い声が待ったをかける。
スペ「で、でも!アレをやるって事は、グラスちゃんとても追い詰められているって事ですよ!黙って見てるなんて出来ません!」
悟空「………いや、アイツは追い詰められてねぇ」
スペ「え?」
悟空「逆に、"気,,が安定してきてる」
そう言って悟空が見つめるように、スペ達も心配そうに見つめた。
ドン!グシャッ!ーー、
ドン!グシャッ!ーー、
グラス(甘い考えなど捨てなさい!悟空さんだから大丈夫でない!相手が誰であろうと退く事は許されない!もう一度心に誓うのです!ーーー不退転をっ!)ドンッ!グシャッ!
最後に強く地面に叩きつけると、その場で深く息をついた。
悟空「………おめぇ達は下がってろ」
エル「……グラス」
スペ「エルちゃん…」
スカイ「とりあえず、離れよう……」
キング「そうね…」
グラス「・・・・・」
今日で3度目となる静かな歩み。
だが1回目と2回目で異なる事は、その歩みに迷いが無い。スタスタと当たり前のように悟空の懐へと潜り込んだ。
グラス「お待たせしました」
悟空「ああ。待ちくたびれたぜ」
グラス「それは失礼しました。勝手ついでに申し訳ありませんが、私の全てを受け取って下さい」
悟空「もちろんだ」
淡々と会話を楽しむ2人。
悟空に釣られたのか、グラスは笑みを浮かべた。
グラス「………………いざ」
悟空「尋常に」
悟空・グラス「「勝負ッ!」」
掛け声と同時。
スペ達は、ドスンッ!という鈍い音を耳にした。
悟空「……」
グラス「……」
悟空「…………効いたぜ」
悟空は自分の腹にめり込んだ拳を見ながら呟いた。
グラス「…ふふっ、ウマ娘のパンチを食らったのなら、少しは怯んでもらいたいのですけどねぇ〜」
悟空「そう簡単には無理だな。オラも鍛えてっから」
グラス「鍛えてるの一言で納得するのは悟空さんくらいのものですよ」
悟空「ははっ!かもな。まぁとにかく、ゲームクリアだ」
グラス「…ヤッタ……やりましたぁ!」クルッ
バンザーイと両手をあげて振り返った。
エル「……」
キング「……」
スカイ「……」
スペ「……」
グラス「……あら?」
無言だった。
寒暖の差が激しく、ゆっくり手を下ろすと勇気を込めて呟いた。
グラス「あ、あの……」
スペ「……グラスちゃん、大丈夫なの?」
グラス「? 何の事でしょうか?」
キング「あんな事しておいて何の事も何も無いでしょう!!!」ピキピキピキ
グラス「ヒッ!…き、きんぐちゃん?」
スカイ「いやー驚いたなぁ。うん、ビックリした。一緒にいたのに置いてけぼり食らってるもん。現在進行形でね?」
グラス「セイちゃん…あ、悟空さんの謎解明したんですよ」
エル「ヘェー。その調子でグラスの謎も教えてくれると助かるのデスが」
グラス「私の謎…………あっ!前掻きの事ですかっ!し、失礼しました!あれは自分を奮い立たせるためにっ、」
スペ「あー、いや、それより先にゲームクリアしたんだからご褒美あげようよ」
グラス「ほっ、ほうび、とは?」
キング「あぁ。良いわね。せっかくだし胴上げしましょうか」
グラス「あの……みなさんは先程から何を…」オドオド
スカイ「ねぇ、悟空さん。後は頼んでも良い?」
エル「出来る限り高く。10回くらいお願いしマス」
グラス「え、えーと……お断r」
シュン!と音が鳴ると、グラスは既に悟空によって持ち上げられており、冷や汗を垂らしながら見下ろす形になっていた。
悟空「にひひ〜。まっ、そういう事みてぇだから楽しもうぜ?」
グラス「い、いや…ごめ、許してくだ、ーーー」
瞬間。
スペ達は少女の声で10回ほどのドップラー効果を聞きながら笑っていた。
・
・
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キング「なるほど。本能にね。それは気付かなかったわ」
スカイ「やっぱり"気,,も使ってたみたいだしね〜。今回のはやられたかな」
スペ「グラスちゃん凄ーい!」
エル「さっすがグラァス!エルも今回ばかりは負けを認めマース!」
グラス「」グッタリ
もう全部言った。
悟空の謎の全てと。前掻きに至るまでの経緯。それを言ったら、"相談しろ!,,と怒られたが、討論する力はグラスに残ってなかった。
悟空「いやー!でも今回はオラもヒヤヒヤしたぞ!さすがに言い過ぎたなぁって思ってたんだ!」ハハッ
グラス「い、いえ、、、おかげで私も吹っ切れる事が出来たので…」
スペ「ちょっと危なっかしい感じするけど……監視が必要かな?なんちゃって」
グラス「スペちゃんの監視…………はい!必要かと思i」
スカイ「そういえばさぁ、悟空さん。ウララも同じゲームやってクリアしたんだよね?」
グラス(かき消されました………でも気になりますね)
悟空「ああ」
スカイ「何分くらいで出来たの?」
エル「私達…というよりグラスは約45分って所デスね」
悟空「ウララかぁ、早かったぞ。こんくれぇだ」
そう言って悟空は手をパーにした。
スペ「5分!?」
キング「さすがに早すぎでしょう!15分とかじゃないかしら?」
悟空「いや5秒だ」
『ーーーーーは?』
悟空「あれにはオラもどうしようかと思ったぞ。おめぇ達の言う通り本能が察知するギリギリに殺気ぶつけたんだけどよぉ」
ーーー
ウララ《ーーーーゲームは悟空さんに触ったら勝ちって事で良いのかな?》
悟空《おう!簡単で良いだろー》
ウララ《うん!面白そう!何で動かないのか分からないけど、ウララ本気で行っちゃうからね!》
悟空《当たりめぇだ。んじゃ行くぞ?よーい、スタート》
ウララ《わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!》ズドドドドドドド!!!!
悟空《!!?》ビクッ
ウララ《タァァァァァッチィィィィ!!!!!》ポン
悟空《あ、》
ウララ《え?》
悟空《……》
ウララ《……》
悟空《何で触れんだ?》
ウララ《何でなにもしないの?》
ーーー
悟空「ってな感じでよぉ。良くも悪くも、なんっっっにも考えてなかったんだよウララは」
スカイ「そんなのあり?」
スペ「ん?でも私も最初は何も考えてなかったよ?」
悟空「スペやエルと違う所は力の出し方だな。アイツは開始早々に120%の力で来たから本能が感じる以前だったのかも知れねぇ。
まっ、今回のゲームで大事なのは時間っつーよりクリア方法だからな。グラスもあんま気にする事ねぇぞ」
グラス「……5秒…ふふっ、面白いですよウララちゃん。雌雄を決する相手として不足なしです」
エル「ケー…駄目デスね、これは」
次回予告:セイウンスカイ
悟空さんの話題で盛り上がってたんだけど、グラスちゃんが自分だけ話せるエピソードがない事に気付いて悟空さんとお出掛けしに行くらしいよ。
「予告適当すぎませんか!?」