孫悟空とウマ娘   作:猫ネコ

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すみません。
長くなりそうなので秋天編は前、中、後と分けます。


捏造あり


静まり返った秋の天皇賞 ー 中編 ー

 

 

 

 

 

 

 

日本中、さらには世界までもが震撼した。

 

ーーサイレンススズカの故障。

 

倒れる直前、彼女の体をスペが守った事により最悪の事態は防げたが、彼女が目を開ける事は無い。

 

 

スペ「す、ずか、さん……っ、もう、大丈夫ですよ、…トレーナーさんもすぐにっ………来てくれますから」

 

 

意識を失っても彼女に心配かけまいと、ぎこちない微笑みを浮かべるスペ。

 

 

沖野「スズカぁっ!」

 

 

救護班を引き連れて来た沖野はスズカへ駆け寄ると、患部に目を向けた途端に口元を強く抑えた。

 

 

沖野「ッ!!……うそ、だ、ろ…」

スペ(トレーナーさん?)

 

 

目の前の現実から逃げるように後退りする沖野。

周囲には既に救護班と救急車が待機していた。

 

 

救護班「後はこちらで対応します!離れて!」

 

 

患部を応急処置して担架に乗せる。そんな彼らの行う迅速な行動を、ただ見てる事しか出来ないスペは、沖野へと歩み寄った。

 

 

スペ「……トレーナーさん」

 

沖野「ッ!!何だ、……っと、悪いな。トレーナーの俺が取り乱したら不安にもなるよな…。すまない」

 

スペ「……いえ、……………スズカさんの脚。何か分かっていますよね?」

 

沖野「!!?……い、いや……俺は医師じゃないから何とも、」

 

スペ「トレーナーさん」

 

沖野「…………、」

 

 

チームスピカのトレーナーである沖野は、トレーニングに置いて"適当,,だ。リギルのトレーナー、東條からもたまに白い目を向けられている。

しかし、その2人を含む彼の近くにいるヒト達は知っているのだ。

ーー沖野は優秀だからこそ適当なのだと。

だからスペは確信を持って問い詰める。

 

 

スペ「トレーナーさん……っ、あなたは何を知っているんですか!教えてください!」

沖野「…………確証はない。まだアイツらには言わないでくれ」

 

 

こちらに向かって来ているチームスピカの面々を見ながら言うと、スペは頷いた。

 

 

沖野「……ッ、…ぁ、…………くるぶし周辺の、……足根骨って呼ばれる部分。…イヤな腫れ方をしてる。多分………"粉砕骨折,,をしている…っ」

 

スペ「ふんさい………ッ!でもっ、治療すればまた!」

 

沖野「……………分からない」

スペ「そん、なぁ」

 

 

明確な言葉を使わない事こそが沖野の最大限の配慮だ。

沖野は誰よりも分かっている。粉砕骨折をしたウマ娘の末路を。だが全てが分かっていながらも沖野は決して目を背けない。

 

 

沖野「ーーー諦めないからな」

 

スペ「え、」

 

沖野「俺は絶対諦めない。スズカがもう一度走れるように。たとえ可能性が0だとしても、最後まで足掻き続けてやるッ」

 

スペ「トレーナーさん。………、」

 

 

スペの手のひら。力なく開いていた手を強く握りしめると踵を返した。

 

 

沖野「スペ?」

 

スペ「…スズカさんの事、よろしくお願いします」

 

沖野「っ、待て!」

 

スペ「………、」

 

沖野「……病院、ついてこないのか?お前がいないとスズカ悲しむぞ」

 

スペ「…………すみません!私も可能性に縋り付きたいんですっ!」

 

 

潤んだ瞳を沖野に見せ、救急車の中へ運び込まれるスズカへ視線を移す。

それらを振り切るようにスペは駆け出した。遅れてやって来るスピカのメンバーとすれ違いになるように。

 

 

テイオー「スペちゃん!?」

 

ゴルシ「あいつ、どこに行くつもりだ?」

 

沖野(…………スペ)

 

 

 

 

 

混雑した府中レース場を強引に走り抜け、列を作るタクシー乗り場を通り過ぎて"彼,,の元へ一直線に向かう。

 

 

スペ(このままじゃイヤだよぉ。お願いっ、助けて。ーー悟空さん!)

 

 

 

彼女は走る。長い道のりを。肺が苦しくなっても、足が鉛のように重くなっても。

不可能を可能に変えてしまう彼の元へ。

 

 

 

しかし彼女は忘れていた。

 

 

 

 

悟空に傷を治す力は存在しない事を。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

サイレンススズカの故障。それは多くの人を悲しませた。

しかしウマ娘の長い歴史の中では特別な事ではない。

多くもないが少なくもないのだ。ウマ娘の故障というのは。

ゆえにレース上で誰がどのように故障しようが物語は続行される。

システム上。それが例えどんなに辛い心境だとしても、1着を獲った者としての責務がある。

 

 

グラス「………」

 

 

そう。 

責任をもって務める義務。

1着を獲った者として記念を納め、祝いと今後のためのインタビューを受けて、ファンと喜びを分かち合うためのウイニングライブを行う。

 

 

いや正確には、ーー行ったのだ。

 

完璧に、模範になり得る姿で。

 

 

グラス「〜〜〜ッッッッ!!!!!!」

 

 

ーーガシャンッッッ!!!!!

 

 

 

 

エル「……荒れてマスね」

 

東条「…だな」

 

 

控え室の外にいる東条ハナとエルは、そんな衝撃音を耳にした

 

 

東条「…本当に良いのか?」

 

エル「ハイ。トレーナーさんには申し訳ありマセンが、ワタシに任せてほしいデス」

 

 

エルは再三に渡って東条へ伝えていた。グラスの傍には自分がついていると。

もちろん東条はグラスのトレーナーとして受け入れ難いものではあったが、同世代の方が落ち着けるだろうと、しぶしぶ首を縦に振った。

 

 

東条「……これからどうする予定だ?」

 

エル「とりあえず学園に戻ろうかと思いマス」

 

東条「そうか。…もし、ほんの少しでも手が欲しくなったらすぐに連絡しろ。何時でも良いから」

 

エル「ハイ。ありがとうございマス。……トレーナーさんは行くんデスか?」

 

東条「?……あぁ、スズカの所ね。行くつもりよ。スズカの事は心配だし、……あそこのトレーナー、強気で立ち振る舞うくせに根本は弱い人だから付いててあげないと」

 

エル「…そうデスか」

 

 

ヤレヤレとばかりにため息を吐いているが、どこか温かい目をしている彼女は心の底から気掛かりなのだろう。

エルは僅かに口元を緩めると、エルの肩に東条の手が置かれた。

 

 

東条「エル」

 

エル「ハイ」

 

東条「…………すまない。グラスの事、頼んだわよ」

 

 

エルは静かに頷くと、東条はポンポンと優しく2回叩いて去って行った。

 

 

 

エル「……………………さて、」

 

 

グラスの控え室であるドアに目を向ける。

内側からは防音にも関わらず聞こえてくるのだ。彼女の声が。

 

 

エル「…………、」

 

 

カチャリ。

ゆっくりドアノブを下げて部屋へと入る。

 

その瞬間。

 

 

エルの五感全てはグラスの痛みを感じ取った。

 

 

 

グラス「〜〜〜ッッッ、何なんですかあのヒトは!!」

 

 

ダンッ!ダンッ!…と、本来の意味で前掻きをしているグラス。

 

 

グラス「何で怪我なんてしてるんですか!私との勝負はッ、先頭の景色を見続けるのではなかったのですかッ!!!」

 

 

悲鳴にも似た心の叫び。部屋の隅には椅子が転がっている。溢れ出る怒りを自分の中だけに留めて置けないのだろう。

 

 

エル「………グラス」

 

 

静かに呼ぶと、首が捩じ切れんばかりに勢い良く振り返って来た。極限まで開いた目がエルの瞳を貫く。

 

 

グラス「え、、る、………ッ!!!」

 

 

ボソリと呟いたのも束の間。グラスは地面を蹴るとエルへと襲いかかり、肩を持って壁へ押し付けた。

 

 

エル「ッッッッ、…………………グラス」

 

 

とてつもない衝撃がエルに伝わるが、奥歯を強く噛んで我慢すると平坦な口調で名を呼んだ。

俯いていてグラスの顔は見えない。ただ肩を掴む手が震えているのは分かった。

 

 

グラス「エル、……ねぇ、聞いて…エル」

 

エル「…ハイ。ちゃんと聞いてマスよ」

 

グラス「…私は全部見ていたんです。…マークについていたのだから当然ですよね……」

 

エル「グラス……、」

 

 

 

グラス「スズカさんがふらついてからコースを外れる所まで!私は全部見えていたんですッ!様子がおかしいという次元ではない!レース人生を揺るがす程のナニカが起きているという事は一目瞭然だった!他の皆さんの動揺だって感じ取れた!!」

 

 

 

エル「…………、」

 

グラス「にも関わらず!私はゴールを目指した!」

 

エル「………ウマ娘なら、当然の事デス」

 

グラス「私は勝った!力を出し切れなかった先輩方やスズカさんを繰り上がっただけなのに!」

 

 

あの天皇賞を見た者なら言うはずだ。

ちゃんとグラスの実力で勝ったレースだと。確かにグラスの言う通り他のウマ娘もスズカに意識を奪われたが、最終直線には力の限り走っていたのだ。

そして、もし仮に動揺して自分の走りが出来なくなったとしても、それは単なる実力不足として数えられる。

 

しかし、今のグラスは正常な思考回路をしていない。

スズカを見捨てた罪悪感が。

スズカが強制的に戦線を離脱した事が。

1着を"とらされた,,と思ってしまう惨めな現実が。

 

 

グラス「………いで、…」

 

 

日本刀の刀身のように、鋭くも美しかった彼女の心を傷つけた。

 

 

グラス「だれもッ!……わたしの事を勝者って、呼ばないで…」

 

 

懇願するように、エルの胸元へ顔を沈める。

 

 

 

しかしグラスは体ごと引き離されてしまった。困惑しながらも充血した目をエルへ向ける。

 

 

グラス「え、る、?」

 

エル「…………準備」

 

グラス「え?」

 

エル「帰る準備をしてくだサイ!」

 

 

そう言って、着ている勝負服を脱ぐように言い放ち、グラスの私物を鞄に押し詰めていく。

 

 

グラス「エル………?」

 

エル「………グラスの気持ちは良く分かりマス。もしもワタシが同じ立場なら同じような反応をするでしょう。そんなワタシだからあえて言いマス。ーー今こそ前を向け!」

 

グラス「っ!!!」

 

エル「今日のレースが不満なら先輩達に……スズカさんに言ってやれば良いんデス。"来年,,のリベンジ待ってるって。それは1着を獲った者だけが言える言葉。グラスは紛れもない勝者なんデスよ」

 

グラス「ぁ、……、」

 

エル「それなのに呼ぶななどと、……驕りが過ぎマス」

 

グラス「……………」

 

エル「厳しいと思いマスか?…でも、その道を歩くと選んだのはグラス自身です」

 

グラス「………わたし、は、」

 

 

ボスッ。

グラスは当てもなく彷徨っていた視線を自身の胸へと向ける。そこにあるのは学園の制服。

エルが自分の手で持てと訴えてくるようにグイグイと押し付けてきていた。

 

 

 

エル「事故とはいえ、スズカさんの事はワタシもショックデス。………だからと言って立ち止まっているのは性に合わない。ーー行きマスよ。"悟空さんの所に,,」

 

グラス「ッ!?エル、悟空さんは傷を治せないはずではっ、」

 

エル「ええ。承知の上デス。悟空さんには酷な事でしょうが無理なら無理とワタシの耳で聞きたい。それにもしかしたら他に何か手があるのかも知れない」

 

グラス「ほかって…、」

 

エル「………」

 

グラス「いくら悟空さんでも、それは…」

 

エル「ッ、もぉぉおおおおっ!さっきから否定的な事ばかりウザいデェス!!!」

 

グラス「ぇ、う、うざっ、!?」

 

エル「いつまでも待ち切れマセン!エルは手を差し伸べマシタからネ!それでも歩き出せないならボサっとしてれば良いんデェス!ただしその場合はグラスの"不退転,,をマンボに食べさせるので二度と語る事は許しマセン!ではお先に失礼シマス!!!」

 

 

バタンッッッ!!!!!

人よりも遥かに強いウマ娘の力で思いっきりドアを閉めて出て行った。

グラスは思わず肩をすくめて耳を前に倒す。尻尾をへにゃりと垂らしながら渡された制服を見る。傍には既に荷物がまとめられていた。

 

 

グラス「……私も、……行かなくては…」

 

 

正直、未だに目の前は薄暗いままだ。あれだけ言われたにも関わらず心の灯火は今にも消えそう。

それでも彼女が道を作ってくれたんだ。ここで歩かなければ今後エルの隣に立つ事は出来ないだろうし、自身も胸を張って立つ事する出来ないだろう。

 

グラスは、もたつく腕や足を何とか動かして制服に身を包むと慌てて部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「!………行きましょう。グラス」

 

「はい」

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ー トレセン学園 ー

 

 

 

エルとグラスは無言のままタクシーに揺らされ学園へと帰ると、門の前にはいつも通りたづなが立っていた。

 

 

たづな「お帰りなさい。グラスワンダーさん。エルコンドルパサーさん」

 

 

ただ一つ普段の違う点があるとするなら、優しく温和な笑みが無いくらいだ。

 

 

エル「ただいまデス」

 

グラス「……ただいま戻りました」

 

 

それは2人も同じだった。

特に会話もなく、たづなの横を通り過ぎようとした時、小さな声が聞こえた。

 

 

たづな「"彼,,はタキオンさんの部屋にいます」

 

エル「!!!」

 

たづな「それと、先程スペシャルウィークさんがお見えになりました」

 

エル「!……ありがとうございマス」

 

グラス(……………スペちゃん)

 

 

向かう先が分かっても走る事はしない。2人は導かれるようにフラフラと目的地まで向う。 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

 

 

 

ー タキオン研究室 ー

 

 

 

エル達は扉の前にいた。

この扉を開ければ幸か不幸かの現実がハッキリと分かる。

エルは、不安を胸に抱えたまま静かに扉を開けた。

 

 

瞬間。

 

 

ーーおねがいしますっ!!!

 

 

そんな彼女の泣き叫ぶ声が部屋中に響いた。

 

 

グラス(…スペちゃん)

 

 

部屋にいるウマ娘はスペだけではない。

 

平静を保つようにカップに口を付けるタキオン。

少し離れた位置から瞳に涙を浮かべて見ているウララ。

 

そして。

 

 

悟空「……っ、………スペ、」

 

スペ「おねがいです!悟空さんっ!スズカさんを……っ、スズカさんを助けてください!!」

 

 

悟空に詰め寄るスペ。

しかしスペと悟空の間には彼女がいた。

 

 

キング「よしなさい!!出来るのならこの人が黙っている訳ないでしょう!!」

 

 

キングヘイロー。彼女は悟空を庇うように力づくでスペを止めている。

 

 

スペ「……んで、どうしてっ!悟空さんは何でも出来るじゃないですかっ!」  

 

キング「だ、からっ、落ち着きなさいっ、て、……言ってるでしょ!」

 

スペ「スズカさんが走れなくなるのに悠長な事言ってる場合じゃないんです!」

 

キング「走れなくなるって…、まだ分からないじゃない!」

 

スペ「分かるよ!!……私のトレーナーさんが見た………足首周辺の…っ、粉砕骨折…だって」

 

 

『ッッッ!!?!?!?』

  

ウララ「そんなぁ…」

 

グラス「粉砕骨折って……ッ、」

 

エル「それじゃあスズカさんは、もう…」

 

タキオン「………………」

 

 

 

 

スペ「だから、……だからっ!」

 

キング「ーー悟空さんに何とかしてもらうって?」

 

スペ「ッ!」

 

キング「あなただってもう分かってるでしょう。いつまでも出来ない事を言ってどうするのよ。冷静になりなさい」

 

スペ「〜〜〜ッッッ!!!!」

 

 

親が子供に言い聞かせるように、穏やかで芯のこもった言葉。

それは今のスペにとって逆上する言葉でしかない。

掴んでくるキングの手を払いのけて、キングの襟元を両手で握りしめた。

 

 

スペ「きっ、キングちゃんはスズカさんの事を知らないから言えるんです!同じチームでもないし!どーせ友達じゃないウマ娘の事なん、、て…………っ!!!」

 

キング「…………」

 

 

そして、ほんの少しも揺るぎない視線を浴び続け、スペはふらつくように後ろに下がった。

 

 

スペ「…………ごめん。言い過ぎた…」

 

キング「別に構わないわ。私も前に同じ事したもの。友達の失言程度は受け入れるわ。でも、少しでも我に返ったのなら考えてみなさい」

 

スペ「え、」

 

キング「あなたは今泣いている。辛くて、悲しくて、何も出来ない自分が嫌なのでしょう」

 

スペ「………………うん」

 

キング「でもね、強大な力を持ちながらも唯一の事が出来ない悟空さんの方が辛いに決まってるはずよ」

 

スペ「ぁ……っ、」

 

悟空「キング、オラは別に、」

 

キング「貴方だって!…特定の場所の中心から物が散乱してる。……抑えきれなかったんでしょ」

 

悟空「………、」

 

キング「なら黙っているのではなく、ちゃんと言葉にして伝えてあげて。そうすれ、ば……っ、歪でも、前を向いて歩けるはず、だから……」

 

 

掠れ気味なりながら伝える。

ーーその瞳から一筋の雫を流して。

 

 

悟空「!…………スペ」

 

スペ「ご、くうさん……!」

 

 

悟空はスペの前まで行くと、スペの後頭部に手を回して抱き寄せた。

 

 

スペ「ぅ、、っ、ぁぁっ、、悟空、さんっ、」

 

悟空「…すまねぇ。オラに傷を治す力はねぇんだ。…力が足らねぇばかりにっ、……ほんと、すまねぇ」

 

 

スペは首を振った。

嗚咽が混ざってまともに話せないからだ。

"ごめんなさい,,…そう伝えるように悟空の背中を強く抱きしめる。

 

 

悟空「……………悪いな、スペ。……そして、」

 

 

"スズカ,,

悟空の口から溢れた彼女の名前を聞いてスペは声を上げた。

 

 

スペ「っ、ぅぁっ、わあああああああああっッッッ!!!!!!」

 

 

憧れのヒトと走る事は二度と叶わないのだ。走る事が大好きなあのヒトが、先頭の景色を見る事は、ーーもう無い。

スペの泣き叫ぶ声は、その場にいる他の者へと伝染した。

 

エルはグラスの震える手を強く握り。

スペと同じように声を出して泣くウララをキングが抱きしめて。

タキオンは壁に背中を預けて、顔を手で覆っていた。

 

 

 

 

 

"彼女,,が部屋の扉を壊す勢いで入ってくる、その時まで。ーー。

 

 

 

「アグネスタキオンッ!!!!!」

 

 

 

同期。友達。ライバル。いつもいるメンバーの最後の1人。

 

 

悟空「スカイ……?」

 

 

トリックスター、セイウンスカイ。

 

 

彼女の登場により全員からの視線を浴びるが、スカイは一目散にタキオンの正面へと移動した。

 

 

タキオン「……スカイ君か。用があるのは私で良いのかい?」

 

 

スカイは息を切らしながら頷いた。

 

 

タキオン「なら先に言っておこうか。私にスズカ君をどうにかする事は不可能だ。そして孫くんにも治せない。……断るにも一苦労でねぇ。申し訳ないがそれ以外で頼むよ」

 

スカイ「ハァ、ハァ……ッ……な、治すのが、スズカさん本人なら、どう?」

 

タキオン「!……どういう事だ」

 

 

スカイは悟空に、そしてスペに目を向けるとすぐにタキオンへ向き直った。

 

 

スカイ「……私は前に悟空さんと山へ遊びに行った。その山の水は綺麗だったけど、魚は少しだけ。木々は少しずつ緑を失くして、生物はお腹を空かしていた。山に慣れている悟空さんでさえ木の実を見つけるのは大変だったらしい」

 

タキオン「……それで?」

 

スカイ「でも、その場所は私の好きな場所だからって、帰り際に悟空さんが山に"気,,を分けてくれた。その時は特に何も変わってなかったんだけど、最近行ったらーー山は、緑で生い茂っていた」

 

タキオン「!!!」

 

スカイ「私でも見つけれるくらいに木の実は成って、以前よりも空気が澄んでいた!」

 

タキオン「まさかっ」

 

スカイ「山は悟空さんが直接なおしたんじゃない!山が、自然が悟空さんの"気,,を養分にして独りでに育ったんだ!!」

 

タキオン「っ、骨を構築する栄養素を"気,,で補うつもりか!?」

 

 

 

キング「………」

 

ウララ「キングちゃん、"気,,を栄養って…」

 

キング「……体は部位に該当する栄養から成り立ってる。この場合で言うと、骨に関係する栄養素。カルシウム、タンパク質。ビタミン系のCや、D、K。それを自然の回復から"気,,でも代用出来ると考えたみたいね…」

 

グラス「でも、それなら日頃ウララちゃんがマッサージを受けているのと同じなのでは。仮に粉砕骨折が治るような栄養なら、もっと、その、、怪物みたいな脚になってもおかしくないかと、」

 

悟空「………やり方が違うんだ」

 

スペ「やりかた……?」

 

悟空「ああ。山には確かにオラの"気,,を分けた。そんでウララにやってるマッサージは、オラの手に"気,,を纏わせているだけ。ウララの体に流し込んでる訳じゃねぇ」

 

エル「それなら!」

 

タキオン「……だが致命的な相違点が多い」

 

スカイ「………、」

 

タキオン「まず、山はあらゆる環境に対応出来るようになっている。膨大な栄養を感じ取れば容易に吸収するだろう。対して人体…もとい、ウマ娘の体は複雑だ。ピンポイントに当てはまった栄養しか吸収しないし、頭では分かっていても体が有害だと判断すれば弾き出す。それどころか"気,,がどんな作用を及ぼすのか検討もつかない」

 

スペ「っ、でも!」

 

タキオン「落ち着きたまえ。いま言った事は考えられる範疇でしかない」

 

スカイ「……答えは?」

 

タキオン「この数ヶ月で調べた私が言うんだ。"気,,の概念はこの世界の常識には当てはまらない!試す価値は充分にあるぞ!!」

 

 

不安要素を多く残すも、暴論だと吐き捨てるには勿体無い例だ。

タキオンの脳内では既に何通りものの、治療に関する案が浮かび上がっている。

だがもちろんの事。

可能性は見出せても喜びの声を上げる者はいない。まだ始まってすらいないのだから。

 

 

それでも、歩き出せる道が存在したんだ。

 

 

スカイ「スペちゃん」

 

スペ「せ、い、、ちゃ、」

 

スカイ「キミに泣いてる暇はないよ。今どうなっているのか分からないけど、壊れた脚をスズカさんが見たら絶望に陥ると思う。それを受け止めるのがキミの役目なんだ。ウマ娘たるもの未来()に走らなきゃ」

 

スペ「う、ん………うんっ!」

 

 

 

悟空「…………、」

 

 

 

 







11月18日
作中の最後にあった下記のセリフ。話しの都合により消させていただきます。

悟空(……………未来、か…)
【歴史を大きく歪めてはいけないッ!!!】
悟空(…………トランクス。おめぇは…)
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