………明けましたね…。遅くなりすみません…。
今後とも見ていただければ幸いです。
さて、今回は人気投票の結果とそのオマケ回。
劇場版については次作になるのでご了承ください。
注意
・今作次作の内容は、連載とはIFの世界なので、干渉しません。
・キャラ崩壊
pixiv + ハーメルン =343
スズカ「この度、複数のご意見と投票にご協力いただきありがとうございます」
>ありがとねー!
>スズカサーン!
スズカ「会場も熱がこもってきましたね。早速1人ずつ呼んでみましょうか」
>イェーイ!!!
スズカ「大差を付けての先頭でゴールしました!93票!駿川たづなです!」
>さすがたづなさん!
>痺れちゃう!
>憧れるね!
たづな「あ、はは…。ちょっと…いえ、かなり恥ずかしいですね…」
スズカ「たづなさん。ヒロイン総選挙第1位おめでとうございます」
たづな「……ありがとうございます。出来れば、…その…ヒロインというのを止めてほしいのですが…」
スズカ「すみません。決まりなので」
たづな「………そうですか」
>カシャシャシャ
>会長、何で写真撮ってるんですか?
>グラス。日頃隙を見せない彼女が顔を赤らめているんだ。写真くらい撮るだろう。
>そういうものですか、ねぇ…?
>不服か。それならスペシャルウィークだったらおまえはどうする?
>撮ります。
>そういう事だ。
>さすが会長です。
スズカ「続いて2着。68票!ハルウララ!」
ウララ「ぃやったー!みんな応援してくれてありがとねー!」
スズカ「安定感のある人気でした。おめでとうございます」
>カシャシャシャ
>…………キング…。
>ん、…スカイさん。……言いたい事は分かってるわ。でもね?ウララさんが表彰台に立ってるの。つまりそういう事よ。
>……もう自分から親バカ路線走ってんじゃん…。
スズカ「半バ身差3着に入りましたのは53票の彼女!セイウンスカイ!」
スカイ「いやー、まさかセイちゃんが3着とは。思ったより応援してくれる人がいてビックリしたよぉ。ありがとね〜」
スズカ「序盤は控えてたけど、中盤からもの凄い追い込みで票が上がっていったものね。おめでとうございます」
>さすがセイちゃん!
>…ネタじゃないの?あのヒトが悟空さんに惚れてる疑惑が読者さんの間で流れてるし。1着にさせて劇場版の内容を悟空さんとの恋愛系でもさせようとしたんじゃない?
>えーっ!ふ、ふ、ふ、ふしだらな!
>スペさん!?
スズカ「さらに1.1/5バ身ひらきました。39票4着!グラスワンダー!」
グラス「ありがとうございます。日々の鍛錬の成果が出ているようで大変嬉しく存じます」
スズカ「グラスちゃんが頑張っているのは皆知っているからね。おめでとうございます」
>…………ん?
>どうかしたのかい?ウララ君。
>んー、何か足らない感じがして…
>………足らない、か….。……まあ今は彼女の名誉を讃えようじゃないか。
>そうだ、ね!グラスちゃんおめでとー!
スズカ「ここで来た。まさかの同着!"39,,票4着!シンボリルドルフ!」
ルドルフ「同着か。……ふふ、レースなら簡単に納得は出来ないが、この場だと誇らしく思うよ。"サンキュー,,」
スズカ「!?…か、会長らしいお言葉ですけど、珍しい言い方しましたね。……おめでとうございます」
>…………、
>?…たづなさん、頭押さえてるけど痛いの?
>…ええ、とても。………………あれほど人前で言うなと言ったのに…。
スズカ「ここから少し離されました。2バ身差19票!5着!キングヘイロー!」
キング「まだキングの魅力が伝わってない人がいるのね。…まぁいいわ。知らない人には教えるし、知っている人には余所見すら出来ないよう夢中にさせてあげるわ」
スズカ「後方から差すのは得意だものね。おめでとうございます」
>ありゃりゃ。まーた大きな口叩いちゃってるよ。
>ふむ…。セイウンスカイ。顔が赤いようだが?
>へあっ!?
>それとも、……何か夢中になる事でも…?
>か、かかかカイチョー!?別に何もないですヨ⤴︎
スズカ「ここ少し並んでます。クビ差15票!6着!スペシャルウィーク!」
スペ「皆さん応援ありがとうございます!……でも、欲を言えばもうちょっと多い方が嬉しかったり、……えへへっ、なんちゃって…」
スズカ「好かれたいと思うのは悪い事じゃないわよ。おめでとうございます」
>カシャシャシャシャシャシャシャシャ!!!!
>知ってた。
>知ってた。
スズカ「さて、前走の影響が出たのか。半バ身差の11票。7着。アグネスタキオン!」
タキオン「ふむ。確かに前回の劇場版は私が主役に近い存在だったからねぇ。要所要所も登場してるし妥当な順位かな」
スズカ「冷めてるわね。でも、おめでとうございます」
>…………、
>……ねぇ。
>……なに…?
>…………いえ、……なにも…。
スズカ「そして最後尾!番狂せの出来事!ゲートを失敗したのか!それとも道中でモタれたか!コンディションを整えるのがトップレベルの彼女!まさかの失速!」
>なんか、煽ってる…?
>そうしないとやってられないんじゃない?スズカさんも。……当人にも。
>……………、
スズカ「では呼びましょう!6票、8着!エルコンドルパサー!」
エル「………………、」
スズカ「………あ、…え、エル?」
エル「………………ぐすっ」
スズカ「!!?」
>居た堪れない!こういう時こそ同室の出番でしょ!
>グラスちゃん!
>ッ!……いえ、エルは落ち込んでいる姿を私に見せたくないと思います。ここはリギルのメンバーであり、生徒の代表であるルドルフ会長にお任せしましょう。
>なッ…!?……コホン。私より適任がいるだろう。ウマ娘の事は彼女に任せておけば大丈夫だ。たづなさんお願いします。
>………勝者が敗者にかける言葉など、……なにも、ありません…。
>…………無力ね。私たちは。
"シュン!,,
悟空「わりぃっ!遅くなった!」
>ヒーーーーロォオオオオオオ!!!!
>やだ、カッコいい…!
エル「………ご、く、……さっ…!」
悟空「ん?なに泣きそうな顔してんだ?」
スズカ「………これを見てください」ペラ
悟空「おう。…………あちゃー…。そういう事か」
エル「……悟空さん、……エルは、楽しみにされていないんでしょうか…」
悟空「そ、そんな事ねぇって!今回のは人気ってだけじゃなくて、1番だった奴が主役になれんだろ?おめぇの場合は凱旋門で主役に立ったばかりじゃねぇか」
エル「でもっ、…その理屈ならグラスはワタシよりも後で主役になってマス…。なのに……」
悟空「あー、……、」
>……悟空さん周り見渡し過ぎじゃない?
>シッ、絶対に目を合わせては駄目よ。
>でも、大丈夫なんですかねぇ。あの人デリカシーないですよ?
>恐らく平気でしょう。下手な事を言わないように助けを求めている訳ですから。
悟空(…コイツら、誰1人とも目が合わねぇ…。ウララですらそっぽ向いてるって……)
エル「ぁぅぁぅぁぁぁ…………あ、エルは不人気なんだ!」
悟空(やべぇな。狂い始めて来やがった)
悟空【おい!おめぇ達!エルが困ってんぞ!】
>……、
>…………、
>………………、
悟空(……だめだ。つーかスペの奴。親指立てて何のつもりだ?頑張れってか?)
エル「ふふふ、多分私がキャラ作ってる感じが嫌なんだよね?それじゃあこれなら大丈夫かな?」
悟空「………ハァ、ったくしょうがねぇなぁ。よっ、と!」
エル「きゃっ!え、ご、悟空さん!?」
>抱っこやり始めたけど?
>何か思いついたんでしょうか…?
>というよりエルちゃん可愛い声出たね。
エル「………悟空さん?」
悟空「……にひひ、今回はカッコ悪かったな!」
エル「ひぐっ、……ぅぅ、」
>え、やばい?デリ0発揮してる?
>その様に見えるが…、どうしたものか。
>……もう少し様子を見ましょう。
悟空「エル。おめぇは悲しいんか?」
エル「……なんか、恥ずかしいんデス。エルだけ一桁なんて…」
悟空「そっか。それならオラが投票してやるよ!」
エル「え?」
悟空「ひひっ、オラの票は超つえーぞ?だからおめぇの投票数は1000006票だ!」
エル「……何ですか、それ…」
悟空「それじゃあダメか?」
エル「……は、あははっ!すっごく嬉しいデェス!」
悟空「よし!良い笑顔だ!そらっ、くるくるくるぅ〜」
エル「あははは!目が回ってしまいマスヨ〜」クワンクワン
>………ふむ。彼らしいじゃないか。
>そうですねぇ。
>良い話なんだが、…二次災害が発生したみたいだ。
スカイ「……私も頑張ったんですけどねぇ〜………ほんとに」
グラス「………エルだけ、なんですね…」
ウララ「あれ?2人ともどうしちゃったの?」
キング「心配しなくていいわ。拗ねてるだけだから」
スペ(や、やっぱりセイちゃんの噂って…)「こ、の…ッ!セイちゃんのふしだら娘っ!」
スカイ「え、どしたの急に?」
スズカ「さて、皆さんが揃いましたので集まってください」
悟空「よっ、スズカ。まとめ役"サンキュー,,な!」
ルドルフ「!……コホン。悟空さん。私は39票だったよ」
悟空「ん?そっか。中々高いじゃねぇか。良かったな!」
ルドルフ「あ、いや……そうではなくて、だな。……39を違う読み方したら、その…サンkyーー」
たづな「それでは最後を締め括りましょうか!!」
ルドルフ「………わざとですか?」
たづな「凍えそうな程の寒気がしたので声を張り上げただけですが何か?」
ションボリルドルフ「…………いえ」
たづな「よろしい」
エル「なあっはっはっは!エルの投票数は1000006!最強はここにイマシタ!」
ウララ「元気になって良かったね!」
スカイ「……さっきの状態動画撮っとけばよかった」
グラス「同感です」
タキオン「条件を呑むならあげよう」
グラス「!…撮ってたんですか?」
タキオン「もちろんだとも」
スカイ「………対価は?」
タキオン「なに、簡単だよ。ある物を口に含んで胃に届ければ良い」
スカイ・グラス「「悟空さんが飲んでくれるからください」」
タキオン「交換条件成立だ。端末に送ろう」
《ーーーふふふ、多分私がキャラ作ってる感じが嫌なんだよね?それじゃあこれなら大丈夫かな?》
エル「ひいいい!エルの黒歴史がぁあああああ…!」
スカイ「幸せの後には不幸が訪れる。それが世の理」
グラス「辛いですねぇ」
スペ「こら!エルちゃんをいじめたらダメだよ!」
キング「スペさん。ちょっと耳貸して」ゴニョゴニョ
スペ「ふむふむ。……………エルちゃんをいじめるからグラスちゃん嫌い」
グラス「えっ!わ、わ、私は何もっ。………セイちゃん、だめじゃないですか〜」
スカイ「まじか!? 1秒で裏切られた…」
悟空「おーい。おめぇ達も遊んでねぇでこっちに来い」
ウララ・エル・キング・グラス・スカイ・スペ
『あ、はーい』
タキオン(やれやれ。純粋な娘達だ)フフッ
悟空「ん、集まったな」
スズカ「最後の挨拶をしたら、すぐ劇場版に入るんですか?」
悟空「その前に1つやるつもりだ。ほら、今はどうか知らねぇけど、昔の映画って本編入る前に短いやつやってたろ?あれをやろうと思ってな」
スズカ「そうですか。凄く楽しみです」
悟空「そんでそれが終われば、人気投票1着のたづなが主役だ。頑張れよ?」
たづな「ええ、よろしくお願いします」
悟空「よし!んじゃ行くぞ?」
悟空「オラ達は何がなんでも最後まで走り抜く!だからそれまではっ!」
スズカ「"孫悟空とウマ娘,,を!」
『よろしくお願いします!!!』
投票。pixiv (ハーメルン)
駿川たづな
37(56)=93
ハルウララ
31(37)=68
セイウンスカイ
44(9)=53
グラスワンダー
27(12)39
シンボリルドルフ
31(8)=39
キングヘイロー
12(7)=19
スペシャルウィーク
12(3)=15
アグネスタキオン
5(6)=11
エルコンドルパサー
5(1)=6
※この投票は12月8日時点の数です。
ーーーーーーー
オラが小っこくなったぁあああああああ!!!!
ー ある日 ー
コンコン、ガチャ。
悟空「オッス!来たぞ、タキオン」
タキオン「やあ。呼び出してすまないねぇ」
悟空「おう。何かあったんか?」
タキオン「そんな所だ。早速本題に入るがコレを飲んでくれたまえ」
目の前に置かれたのはコップ一杯入った水。それを見た瞬間、悟空の顔は歪んだ。
それは当然の事だ。
悟空「………むらさき色になってっけど…?」
そんな水を見れば顔くらい引き攣る。
タキオン「? だから何だい?」
悟空「飲む気がしねぇって言ってんだ」
タキオン「申し訳ないが、この件に関してキミは断れない。交換条件として取引が成り立っているのだから」
悟空「交換条件?なんだそりゃ。んなもんやった覚えねぇぞ」
タキオン「それはそうさ。キミは担保だからな」
悟空「担保って何だ?」
タキオン「要するに肩代わりって意味だよ。スカイ君とワンダー君のね」
悟空「はあ!?肩代わりって、……アイツらは何が欲しかったんだ?」
タキオン「コンドル君の恥ずかしい動画」
悟空「……アイツら性格悪ぃな…。……って、そんなくだらねぇ事にオラが巻き込まれたんか!?」
タキオン「そうとも。さあ、グイッと一気によろしく頼むよ」
悟空「………くそ、恨むぞ。スカイ、グラス…」
約束を破るのか?…というタキオンの視線に耐えきれず、喉越しを決める悟空。
ごくごくごく、と喉仏が上下すると紫の液体は胃に到着する。
悟空「んっ、………飲んだぞ。…っ、な、何だこりゃ…!?」
言った直後。
悟空の体は七色に光り、水蒸気のように吹き出した煙が悟空を包み込んだ。
それで誕生したのが、
悟空「………あり?」
タキオン「ふむ」
タキオン「孫くん。何故キミは縮んでいるんだい?」
悟空「おめぇがそれを言うんか!?」
タキオンは至って普通に口を開いたが、その反面、他が普通ではなかった。
冷えた室内に似つかわしく流れ出る汗。泳ぎながらも見開く瞳。縋りつくように振り乱す手。
パニックの時に出る反応が全て出ていた。
タキオン「こ、こんな筈では…。……とりあえず服を調達しよう…」
そんなこんなで。
・
・
・
悟空「まあ、小さくなるくれぇ別に良いんだけどな」
"ま、いっか,,
不可思議な事が起きても悟空は気に留めない。
どこから用意したのか分からないが、悟空は子供用の服を纏いながら学園内を闊歩していた。
悟空「それにしてもタキオンのやつ。1日で戻るのは良いけど、部屋から出るなってどういう事だったんだ?窮屈で耐えきれねぇよ」
酷く慌てた様子だったのを思い出す。
まるで外の世界には化け物がいるかの如く。土下座でもする勢いで言っていたのだが、タキオンが余所見した瞬間に飛び出してしまった。
悟空「……力が大分減ったなぁ。感覚的には……"ウマ娘と同じくらいか,,」
手をグーパーしたり軽く飛び跳ねてみる。
万全な時の名残りがあるせいか、とんでもなく体が重く感じた。
悟空「ま、これも修行だな。いっその事ウララ達と走っても面白いかもな!」ニヒヒ
かつて自分の足だけで世界を旅し、天下一武道会で争った時の姿。自然と燃えさかる気持ちで昂っていた。
その時だった。
「あなたは……!」
悟空「ん?」
背後から聞き慣れた声。馴染みのある"気,,の横に、知らない2つの"気,,
悟空「オッス!ルドルフ!」
ルドルフ「ぁ……ぇ、……そんな、まさか……」
フラフラとヨレる体。
現実を直視しないかのように顔を力なく振っている。
そんな姿が異常だと、隣にいる2人は口を挟んだ。
生徒会の2人だ。
エアグルーヴ「会長?この子とはお知り合いですか?」
ルドルフ「…………、」
ナリタブライアン「………どうしたんだ?アンタにしては取り乱している様子だが…?」
悟空「ルドルフ?」
三人から注目を浴びるルドルフは俯いていた。
ルドルフ「……ご……うさ……なのか…」ボソ
悟空「ん?」
ルドルフ「…あなたは、私の知ってる……あのヒトで合っているのかい…?」
悟空「あ、ああ…。多分そのオラで合ってっけど」
ルドルフ「そうか。……ふ、くくっ、…アハハ」
ビクリ。
反射的に三人共がルドルフから退いた。
グルーヴ「………キミは会長とどんな関係なんだ?」
悟空「オラか?なんて言えば良いんだろうなぁ…」
グルーヴ「?…複雑、なのか」
ルドルフが異様だと感じた原因が悟空だと判断したグルーヴは悟空へ手を伸ばす。
ルドルフ「その子に触れるなエアグルーヴッ!!!」
グルーヴ「ッ!?」
強烈な圧力だった。
聞いたことの無いルドルフの激昂。心臓が締め付けられ、それよりももっと深い所にある心も傷付いた。
そして。
ルドルフ「………何のつもりだ。ブライアン」
悟空を背に立ち塞がったのはナリタブライアンだ。
ブライアン「今のアンタは普通じゃない。少し落ち着いたらどうだ」
簡潔な言葉。
大きく見開いた目は真っ赤に充血し、もはや血走っているといっても過言ではない。
ルドルフ「私に落ち着けだと?…ふふ、偉くなったものだな。ブライアン」
ブライアン「なんだと…?」
ルドルフ「ブライアン。君は確かレースで喰らい合いたいと言っていたね。………この私に噛み潰されたいのか?」
ブライアン「ッ!!!」
殺意に似た気迫。無意識のうちにブライアンの足が後ろに下がった。
ブライアン「く、そ……!」
ルドルフ「うん。良い子だ。それじゃあ……って、何をしているんだエアグルーヴゥウウウウ!!!」
グルーヴ「ブライアンの言う通りです!子供の前ですよ!?落ち着いてください!」
ルドルフ「これが落ち着ける訳ないだろ!」
グルーヴ「何故ですか!」
ルドルフ「私より先にっ、ーー彼を抱っこするなァアアアアアア!!!!」
グルーヴ「ッ、……怖いだろうが心配するな。私が守ってやるからな」
悟空「く、くるしっ、」
誰がどう見ても悟空は呼吸をしていないだろう。否、呼吸が出来ないと言うべきか。
女帝様の豊満なバストは、悟空の鼻と口を完全に塞いでいた。
ルドルフ「その子は私が面倒見るんだ!歩きながら手を引いて!疲れたら抱っこするのも私だ!頬っぺたを突かせろぉおおお!!!」
気が狂ったように暴れ出す。
力づくで食い止めているブライアンの筋肉は悲鳴を上げた。
ブライアン「くっ…!……オイ!子供だけ逃してお前も手伝え!1人では相手に出来ん!」
グルーヴ「その様だな。……すまない。会長は私達が何とかするから、この場から離れてくれ」
悟空「んんんっ!……ぷはッッッ!ハァハァハァ……この世界で初めて死ぬかと思ったぞ…」
必死に酸素を取り込み、呼吸を整える。
次第に悟空の目に入り込んできた光景は見覚えがあった。
悟空(……アレ、腹を空かせた獣に似てんなぁ…)
言い得て妙な光景。
ルドルフは獣であり、食べられるのは悟空だ。
グルーヴ「何をしている!」
ブライアン「早く行け!」
悟空「お、おお。すまねぇ、言葉に甘えんぞ!」
これまで数多の修羅場を潜り抜けてきた悟空には分かる。
今回は逃げるべきだと。
ルドルフ「んん?…ふ、ふはっ、ひひひ……!遅い!遅いなぁ! まさかとは思うがそれが本気か!? それならキミは私から逃げられない!逃がさないぞぉおおお!!!」
ブライアン「こ、のっ、バ鹿力めっ!」
グルーヴ「ォオオオオオオッ!!!」
エアグルーヴ達は2人がかりでも倒す事は不可能。膠着状態が続き、猛獣の叫び声だけが響いていた。
・
・
・
悟空(………ここまで来れば大ぇ丈夫か)
速さでは勝てずとも、一度離れれば"気,,を読んで近づかなければ良い。
悟空(部屋ん中にいた方がいいんかもな)
あんなのを見てしまえば思わざるを得ない。
そう考える悟空に近づく1つの影。知っている"気,,を持つ彼女のはずなのに、
グラス「」ジー
悟空(…腹減ったなぁ)
悟空は気付かずに歩き続ける。
グラス(………小さい。…普通ならあり得ない。でも、あんな特徴的な髪型は他にいませんし、何より彼はあり得ない事が当たり前)
背後から突き刺す揺るぎない視線。
なんの反応も示さない悟空に違和感を感じながらも、グラスは足音を立てずに近づいた。
その距離。僅か2mの位置まで。
悟空「ッ!?」
バッ!…と勢いよく悟空は振り向いた。
自然な流れで左手は胸の前、右手は腰の位置。緩く握る手は拳を作り、その構えはまさに戦闘態勢だ。
グラス「きゃっ!」ビクッ!
悟空の闘気を誰よりも知っているグラスでさえ腰を抜かし、尻もちをついた。
悟空「ッ!ぐ、らす…?あっ、すまねぇ!」
グラス「い、いえ…、私も後ろからなんて失礼な事をしてしまってすみません。………悟空さん、で合ってますよね?」
悟空「あ、ああ。…………?」
悟空は自問自答の渦に飛び込む。
至近距離までグラスの接近には気付かなかった。さっきルドルフの"気,,を特定したばかりなのに。
悟空(………!もしかして、無意識の時は"気,,の察知が出来てねぇ!? ……体が縮んでも考え方は同じ。だけど"気,,そのものが小さくなってるから、技術が全部中途半端になってんのか…!)
グラス「悟空さん?」
悟空「ん、どうした?」
グラス「何で小さくなっちゃったんです?」
悟空「あー、タキオンの薬飲んだらなった」
グラス「あ、やはりタキオンさんの仕業だったんですね」
悟空「……そんで元々の理由はおめぇとスカイのせいだ」
グラス「!!?」
悟空「覚えねぇか?ちなみにオラはさっき初めて知ったぞ」
グラス「…………あ、」
悟空「思い出したか。それなら言う事があるだろ?」
グラス「……軽率な事をしてしまい申し訳ありませんでした」
悟空「ん。謝ったから許す」
そう言って悟空は踵を上げて背中を反らした。頑張って伸ばした右手はグラスの胸元付近でさまよっている。
グラス「……あの、何をしているのですか?」
悟空「は、はは……。いやぁ、ちゃんと謝れたから頭撫でてやろうと思ってな。……へへっ、届かねぇや」ニヘ
グラス「ーーーーーーコヒュ」
バチバチバチ!!!!
グラスの脳内で花火のような破裂音が響き渡る。脳の伝達速度が上がったのか。それとも脳内物質が弾け飛んだのか。
何にせよグラスの世界に新たな一面が存在した。
悟空「そういや聞いてくれよ」
グラス「…………、」フー
悟空「さっきルドルフの奴に会ったんだけど、何かすげぇ怪物になっちまっててさ」
グラス「……………フー…」
悟空「アイツが何言ってたか分かんなかったけど、またストレス溜まってんのかなぁ」
グラス「…フーッ………フーッ!…!」
悟空「グラスってルドルフと同じチームだろ?最近変わった事ねぇかな…って、……おも、って…」
グラス「フーッ!フーッ!」ギラギラ
悟空「グ、ラス……?」
血走った眼。半開きの口から漏れる荒れた息。その豹変ぶりは先程のルドルフと酷似している。
思わず後退りする悟空。
その全く同じ歩幅でグラスは詰め寄った。
グラス「ゴクウ…サン……」
悟空「ぐ、ぐらす?落ち着けよ?オラは力も一緒に落ちてるから今までのように遊んだら潰れちまうぞ…」
グラス「ーーーッッッ!!?!?!?」ギョロリ!
孫悟空に絶大な力がない。
それはグラスのリミッターを壊すには充分過ぎる程の破壊力だ。
グラス「ぁあぁぁぁぁあゴクウサァアアアアン!!!」
悟空「ッ!やめっ、」
グラス「スペちゃんと写真撮らせてください」
悟空「…………え、」
グラス「お願いします。悟空さんとスペちゃんが並んでいる写真を。どうか私にっ」
悟空「ぁ、、、おう。写真くれぇ構わねぇぞ」
グラス「本当ですか!?ありがとうございます!すぐにスペちゃん呼んできますので待っていてくださいね!」パァアアア!
悟空「………、」
よほど嬉しいのか。満面の笑みで走り去るグラス。
遠ざかる背中を見ながら、悟空は溜め息を溢すと一言言い放った。
悟空「……あんな奴じゃなかったんだけどなぁ…」
・
・
・
あれから10分。
ようやくスペを見つけたグラスは手を引きながらスキップしていた。
スペ「ーーーーへぇ、私と悟空さんの写真かぁ」
グラス「はい!」
スペ「一緒にいたセイちゃんとエルちゃんは呼ばなくて良かったの?悟空さんが小さくなったの知らないままだよね?」
グラス「もちろん後で伝えますよ。でも今はじゃm……スペちゃんにだけ用がありまして」
スペ「ふーん。……もう一回聞くけど写真を撮るんだよね?」
グラス「はい!」
スペ「………体操服、必要だった?」
グラス「はい!」
スペ「………制服だけじゃダメだったの?」
グラス「はい!」
スペ「……そっか」
グラス「ふふっ、……えへへ!」
スペ(この子、こんな笑顔出来たんだ…)
純真無垢な顔とはこういう事を示すのだろう。
とても複雑な気持ち。
釈然としないのに、悪意の無い笑みを止める術はない。
スペは密かな抵抗として、繋がれた手を離したが即座に握りしめられたので諦めた。
そして悟空のいる所に到着したのだが…。
ウララ「わあっ!何回見ても目の位置が一緒!悟空さんが小さくなっちゃったー!」
悟空「ははっ!オラも変な感じがすんなぁ」
ウララ「力も下がってるの?」
悟空「みてぇだ。多分おめぇ達とそんなに差ねぇから後で走ろうぜ!」
ウララ「うん!悟空さんと本気のしょーぶ!ウララ負けないよー!」
悟空「オラだって負けねぇさ!」
グラス「これは一体…?」
スペ「グラスちゃんが離れてる間に見つかったみたいだね。それに、………」チラ
グラス「え?」チラッ
キング「っく…!何で横向くのよ!」カシャカシャカシャ
悟空とウララを離れた場所から携帯を向けるキング。ボソボソと呟いたり角度を変えて悪戦苦闘していた。
キング「このっ…、ん、………あ!今の結構良いんじゃ…!」
グラス「……」
スペ「………」
キング「…………………何よ?」
スペ「………私さ。東京には危ないヒトがいるから気を付けろってお母ちゃんに言われてるんだよね」
キング「………そう。良いお母様ね」
キングは携帯をしまうと、息を吐きながら立ち上がった。
キング「それで、あなた達は何をしているの?」
スペ「グラスちゃんが私と悟空さんの写真を撮りたいんだって」
キング「ふーん。私と同じね」
スペ「いやぁ、キングちゃんのはちょっと犯罪臭が、ーー」
グラス「ふふ、…んふふ、……悟空さんを抱っこするスペちゃん。…スペお姉ちゃん。…ひひ」ボソボソ
スペ「そうだね。同じだった」
キング「それなら悪いのだけど、スペさん達は後にしてちょうだい。今は私の番だから」
ウララ「えへへ!」
悟空「ははっ!」
キャッキャ!キャッキャ!
キング「まるで穢れが存在しない世界。誰であろうとあの2人に混ざる事は出来ないわ」カシャカシャ
スペ「ちょっと言い過ぎな感じするけど、気持ちは分かるなぁ。ずっと笑ってるもんね」
グラス「そうですねぇ。そんな所にスペお姉ちゃんが加われば言う事なしです」
スペ(ん?)
キング「……ふふっ、おばかねぇ。誰であろうとって言ったじゃない。スペさんも例外ではないわ」
グラス「あらぁ。キングちゃんにしては読みが足りませんね〜。楽園でさえずる小鳥達の傍には天使が必要なんですよ〜」
キング「……」
グラス「……」
スペ(あ、はじまる)
スペの脳内で、カーン!という甲高い音が鳴り響いた。
キング「ねぇ」
グラス「何です?」
キング「大和撫子って空気を読む事は出来ないの?」
グラス「読んだ上で提案をしています。良いとこのお嬢様にはご理解いただけなかったようですが」
スペ「あのー、ふ、ふたりとも?」
キング「……そういえばスペさんは何故体操服なんて持ってるの?」
スペ「へ?…あー、グラスちゃんが体操服姿でも撮りたいって言うから」
キング「………ふぅぅぅん。……そ。」
グラス「……なにか?」
キング「べつに?ただ、グラスさんが加工製を好んでいるとは思わなかっただけ。素材の味を楽しむ方だと勝手に思っていたわ」
グラス「か、加工製……ですって?………スペちゃんをバ鹿にすると許しませんよ」
スペ「………、」
キング「それはあなたの勘違い。私がバ鹿にしているのはグラスさんだけだから」
グラス「…………吐いた言葉は飲ませません」
キング「もちろん」
グラス「では、加工製とはどういう意味か。答えてもらいましょうか」
>こんにちは!悟空さん。ウララちゃん!
>あっ!スペちゃんだー!こんにちわー!
>オッス!……ん?グラスは一緒じゃ、……って、キングと何してんだ?
>………さあ?そんな事より本当に小さくなっちゃったんですね。
>まぁな。
キング「あの2人はね?自由に遊んだり話したりしている所に花があるの。にも関わらず何?衣装…?ポーズ…?意図的に作り出した世界に何の価値があるの?悪いけど正気の沙汰とは思えないわ」
グラス「自由=花とは同感です。ただそこにスペちゃんが加われば理想郷になるというもの。言わばスパイス。キングちゃんは、コクが深まるのに調味料を入れないんですか?」
キング「調味料は悟空さんが小さくなった事により既に足りている。必要以上に入れたってクドイだけよ。高血圧になりたいの?」
グラス「………すみません。今にして思えば前提が間違ってました。悟空さんと写るのはスペちゃんだけで良いです」
キング「花が無くて楽園が成り立つ訳ないでしょう」
グラス「スペちゃんがお花畑です」
キング「……スペコンもいい加減にしなさいな」
グラス「ッ!……それはこっちのセリフです。キングちゃんこそ、そろそろ子離れした方が良いのでは?圧力の強いママがいると、お子さんの友達逃げちゃいますよ〜。Ms. Monster Parent?」
キング「ッ!……ふと思ったのだけどスペさんって凄いわね。私だったら湿度90%以上の所では平静にいられないもの。スペさんの寛容さに感謝しなければダメよ。…ね?グラスさん」
グラス「………私がアマゾンの熱帯雨林だと?」
キング「そうは言ってないけれど聞こえたならごめんなさいね。それとも…少しは自覚あったのかしら?」
グラス「……」
キング「……」
グラス「…………投票5着のくせに…」ボソッ
キング「ーーーーーッ」プツン
ワー!ワー!、ギャー!!ギャー!!
ウララ「あれ?キングちゃんとグラスちゃん。…取っ組み合いしてる…?」
>コノ、ヘッポコォォォ!
スペ「………ハァ、」
>キングチャンノワカラズヤッ!
悟空「………さすがに止めるか…」
スペ「あ、悟空さん、ちょっと待ってください!」
一歩踏み出す悟空を見て呼び止める。ーー否。抱き止める。抱っこしてモギュモギュと反発する幼い体を楽しみ、鼻を寄せると青空の下に広がる草原の風景が浮かんだ。同時に漂うミルクの匂い。
時間にして僅か2秒。スペは静かに悟空をおろした。
悟空「……?何だ今の…?」
スペ「ぁ、お、お気になさらず…。それより、あの2人の事は私とウララちゃんに任せてください!」
悟空「オラも手伝うぞ?」
スペ「いえ、悟空さんが行くと火に油になってしまうので…」
ウララ「悟空さんじゃない方がいいって事かな?」
スペ「うん。……あんな事に悟空さんの手を煩わせたくないよ…」
ウララ「? ウララはよく分かんないけど、スペちゃんが言うならその通りにするよ!」
悟空「ならオラも、おめぇ達に任せるとすっか」
ウララ「うん!悟空さんは今小っちゃいんだから気を付けてね!」ニヒヒ!
悟空「お?言ったなぁウララ!力が弱くなってもオラはオラだ!上手いことやってみるさ!」
スペ「………少しでも様子が変なヒトがいたらすぐに逃げてくださいね?」
悟空「なんだよスペまで。でぇじょーぶだって!学園内にそんな奴がいる訳、」
スペ「いや、もう、ほんとーーーーっに!お願いします!約束ですよ!?」
悟空「スペ?」
スペ「確認です!様子が変なヒトがいたら!?」
悟空「どうしたんだ、スペ…?圧がすげぇぞ」
スペ「変なヒトがいたらどうするんですかッ!!?」
悟空「!に、逃げる…?」
スペ「………お願いします、ね?」
悟空「あ、ああ…」
有無を言わさないスペの表情。日頃見せる人懐っこい笑みはなく、ただただ"無,,そのものだった。
・
・
・
悟空(…何か今日はおかしくなる奴が多いなぁ。満月の日に大猿になるのと同じで、ウマ娘にもそういう日があんのかな)
ルドルフから始まりグラス、そしてキング。
全員が真面目の部類にされるはずなのに…と、悟空は不思議に思う。
だからもちろん。小さくなった自分自身に原因があると1ミリたりとも考えない。
当然だ。
孫悟空は人の気持ちに鈍感であり、
悟空(!………………何だアイツ…?)
超戦士は異常を察知するのは敏感である。
???「……………、」
悟空と目が合うウマ娘。
歩いているうちに見つけたのだろう。顔だけを悟空に向けたままだ。
彼女の中で衝撃的だったのか、歩行状態で一時停止をするように固まっている。
悟空(オラの知らねぇ奴だ。……ひょっとしてオラじゃねぇんかな)
周囲を見渡しても誰もいない。その間も全身を品定めするような視線は止まらない。
すると我に返ったのか。彼女は軽く微笑み、悟空に近づいて来た。
???「じっと見つめてしまい申し訳ありません」
礼儀正しく、体の前で手を重ねながらお辞儀をする彼女。
口調はグラスに似ている。が、それ以上にどうしようもなく甘ったるい声と雰囲気。
その温和な彼女の存在に悟空は体の力が抜ける感覚がした。
悟空「構わねぇけど、オラに何か用か?」
???「この学園内に子供がいる事が珍しくて。ご家族の方をお探しでしたらお手伝いしようかと思ったんですよぉ♪」
悟空(確かに、よく考えてみりゃあ変な話しだな)
だからタキオンは部屋から出るなと言ったのかも知れない。
そう考えた悟空は話しを合わせる事に決めた。
悟空「あー、…母ちゃんが忘れもんしたから届けに来たんだ。場所は分かるからオラ1人でも平気だぞ」
???「ッ!か、あちゃん…?…………あらまぁ♡良い子ですねぇ。お母様のためにわざわざ……。でも、1人でなんて寂しいでしょ〜。私にも手伝わせてくれませんかぁ?」
悟空「平気だって。寂しくもねぇし」
???「うふふ。たくましい子ですねぇ〜。いい子♡いい子………あら?」
悟空の頭を撫でようとする彼女。
頭頂部分に辿り着く前に、悟空の小さな手が道を阻んだ。
悟空(………さすがに30過ぎて撫でられんのは勘弁してくれ…)
もちろんそんな事は言える訳でもなく、彼女の手を絡み取ったまま押し返した。
???「……え…?……これ、は?」
彼女が感じたのは驚愕ではなく困惑。
140cmちょっとの男の子に押し返されたのもそうだが、ウマ娘特有の力が出せないのだ。
子供相手に罪悪感を感じつつ、意図的に力を出しても同じ事だった。
動きたい所に動かせない。離れる事も押し返す事も何一つ不可能。
彼女には一生かかっても理解出来ないだろう。
力が同格だとしても技術は格が違う。全ては悟空が力の動きをコントロールしているに他ならない。
悟空「………とにかくオラは平気だ。心配してくれてあんがとな!」
???「…あ、」
悟空は太陽みたいな笑みを浮かべて手を離す。彼女は自身の手を不思議そうに見つめた。
そして。
???「………………ふふ」
ぞわり。
またも悟空は異常を察知した。
悟空「!そ、そんじゃあオラはこれで、」
???「私とした事が申し遅れましたね」
偶然か故意か。
遮ってまで話しを続ける彼女。悟空の返答を待たずして口を開く。
「私の名前はスーパークリークと言います♪あなたの名前をお聞かせ願えませんか?」
うっとりした声。魂まで引き込まれそうな瞳。
それに反する異様な雰囲気。
悟空(スーパークリークか…。コイツには悪ぃけど、逃げた方が良いな。多分スペの言ってた変な奴だろうし)
親切にしてくれているが勘が叫んでいる。
戦いの中、幾度となく頼りにした勘だ。
悟空「すまねぇな。名前とかそういうのは誰にも言うなって言われてんだ。だから、」
ーーキュウウウルルルルルル!!!!
……鳴ってしまった。
悟空の体の中で1番主張の強い部位。我慢の限界だと音を張り上げて来た。
クリーク「あらまぁ♡可愛いらしい音がなっちゃいましたねぇ♡」
悟空「へへっ。みてぇだな」
クリーク「良かったら先にお食事しませんか?お母様でしたらその間に来てくれるかも知れませんし。呼び止めてしまったお詫びにご馳走させてください♪」
悟空「えっ!良いんか!?」
異様だ。危険だ。変な奴だ。
そう何度も勘が警報を鳴らしていたのに、悟空の頭の中は肉と魚で埋め尽くされてしまった。
弱点とは、突かれてしまうと抗えなくなるから、弱点である。
故に悟空の方からクリークに近づくのは必然の行動だった。
クリーク「もちろんです。お腹いっぱい食べて、一緒にお母様探しに行きましょうねぇ〜。……だから、」
ーーそれまで私がママの代わりですよ♡
声には出さず心の中で呟いたクリークは、自然と口角が頬まで上がった。
獲物が罠に嵌まったかの如く、目を細める。
悟空「なあなあ!早く行こうぜ!オラ腹減っちまってよぉ!」
クリーク「うふふ。ええ、行きましょうか。はぐれないように手を繋いで♡」
言いながら、悟空の手を握ろうとした。
その時だった。
???「クリーク!!!」
悟空達の背中に浴びせられた声。
聞き覚えがある悟空は振り返りながら名を呼んだ。
悟空「お!オグリじゃねぇか!」
クリーク「…オグリちゃん?」
普段はクールというか、何も考えていないような彼女だが、この時ばかりは焦っていた。額に汗粒が滲み、肩で息をする程に。
クリーク「オグリちゃん。何かあったんですか?」
オグリ「ハァ、ハァ、ハァ…ごほ…!……ああ、」チラ
悟空「ん?」
オグリ「……2人でどこか行こうとしていたのか?」
クリーク「はい♪この子、お母様に忘れ物を届けに来たみたいなんですけど、その前にこの子のお腹が鳴ってしまって。それで先に食堂へ向かおうとしてたんですよ〜」
オグリ「! それなら私が連れて行こう」
クリーク「ッ!?」
オグリ「この子とは知り合いなんだ」
クリーク「………いえ、私と一緒に行くという話しだったので、私に任せてもらって大丈夫ですよ」
オグリ「!…いや、…ほら、……た、タマが、な?」アセアセ
クリーク「?…タマちゃんが何か?」
オグリ「……………………………無性に甘えたくなったと言って、おしゃぶりを手に持っていたぞ」
クリーク「なッ!?それは大変ですッ!」
クリークはすぐさま膝立ちになり悟空と目線を合わせた。
クリーク「ごめんなさい。私、急用が出来てしまって…。食堂にはオグリちゃんにお任せしたので安心してくださいね」
心の底から申し訳ないと思っているのだろう。
タレ目が一段と垂れて耳もペタンと倒れている。
悟空「おう。何だか良く分かんねぇけど、早く行ってやれ。オラは大ぇ丈夫だからよ!」
クリーク「!…ありがとうございます」
最後に一度抱擁をと思い手を広げると、悟空は後ろに飛び去った。
悟空「それはもういいや。おめぇ達にされっと苦しくてしょうがねぇ」
クリーク「そうですか……。では、私はこれで…」
去り行く大きな背中。
彼女の心境を表すかのように、チャームポイントでもある三つ編みが悲しそうに揺れていた。
その後、地面を強く踏み込むとウマ娘特有の速さで消えて行った。
オグリ(……すまない、タマよ)
悟空「なぁ、オグリ。おめぇ良くオラの事が分かったな」
オグリ「ん?ああ、校舎の窓から見つけたんだ。…間に合って良かった……。あのまま一緒に行っていたら危なかったぞ」
悟空「へ?何でだ?」
オグリ「彼女……クリークは母性の塊だ。小さい子だけじゃなく、友達や先輩後輩、先生、トレーナー。短い時間を共にすると、まるで本当の親子のような関係になるらしい。そしてキミはもう少しでおしゃぶりを咥える所だったんだ」
悟空「……そんな奴、放置してて良いんか?」
オグリ「……それさえなければ彼女は頼りになるんだ。私も尊敬している」
悟空「そっか。ただ変な奴、だったんだな」
オグリ「悪気はないんだろうがな。……それよりタキオンから連絡が来た時は驚いた」
悟空「タキオン?」
オグリ「ああ。悟空が子供になったから守ってほしいとな。意味が分からないまま走っていた」
悟空「ははっ!すまねぇな。オラは大丈夫……なんだけど、他の奴らが変なんだ」
オグリ「どういう事だ?」
悟空「んー、何で言えば良いんだろうなぁ……。ルドルフは獣になったし、グラスとキングはデケェ声で言い合いしてた。いつもなら真面目な奴らなのにな」
オグリ「ふむ。ルドルフまで。………何故だ?」
悟空「さあ?分かんね」
困った時は腹ごなしから始まる。
悟空とオグリはお腹で共鳴すると食堂に向け、歩を進めた。
しかし、その直後。
ルドルフ「見つけたぞ!私の弟!」
先程会った時と変わらず、獣のように犬歯を剥き出しに嗤う彼女。今度は1人だった。
オグリ(……これがルドルフか?…ひどいな…)
悟空「ルドルフ!一緒にいた2人はどうした!」
ルドルフ「ふふっ、愚問だね。落ち着いた姿を見せればあっさり手を引いてくれたよ」
悟空「その落ち着いた姿を今見せてくれねぇか?」
ルドルフ「無理だ」
悟空「断んのはえーよ…」
ルドルフ「諦めてくれ。とりあえず私と生徒会室に行こうか」スッ
オグリ「待て、ルドルフ」ザッ!
ルドルフ「…オグリキャップ。……君まで阻むのか」
オグリ「悟空は今から私とご飯食べに行くんだ。邪魔をしないでくれ」グゥゥ…
ルドルフ「先程諦めてくれと言ったはずだが?」
オグリ「そうか。……だが、私も悟空も空腹なんだ。それを止めるというなら……っ!」
ルドルフ(来るか……っ!)
オグリ「お前を食べる」
ルドルフ「…………ぇ」
オグリ「………、」
ルドルフ「たべ、……え?…なにを……、いや、どこを?」
オグリ「ウマ娘といえばモモ肉だろう」
ルドルフ「……私の?」
オグリ「ぐきゅるるるるる…!」ウン
ルドルフ「ひっ、」
皇帝にあるまじき情けない声が漏れる。
ウマ娘を食べるなど嘘のような話しだが、オグリの前屈みの体勢が、次々に溢れるヨダレが物語っているのだ。
目を離した瞬間に食べてやる…と。
悟空(…すげー、オグリの奴、完全に押してやがる)
もはや何の勝負か不明だが、手に汗を握る攻防だ。
劣勢なのはルドルフ。活路を見出すために視界の範囲内で役に立つモノを探した。
だが当然ながら何も無い。反撃の糸口など置いてあるはずもない。
都合良く、立場を逆転する唯一の方法が転がり込んでくるなど"絶対,,にあり得ない。
しかし。
ルドルフ「…………」
それなら彼女はどうだろうか。
実力、運、精神、全てを超越し、自他共に"絶対はある,,と言わしめた彼女なら。
ルドルフ「……………ふふ、」
絶対に無いと言える事だって、彼女ならあり得るのかも知れない。
例えば。
グラス「会長!」
キング「ルドルフ会長!!」
一発逆転の手札が向こうからやって来る…とか。
ルドルフ「ああ。待っていたよ。我が同志達」
走って来る彼女達。
一目見ればすぐに分かった。
視線が"彼,,に集中しているのだから。(もちろん血走った目付きで)
悟空「スペ?ウララ?」
ウララ「ハァ、ハァ、ご、ごめっ、逃げられちゃった」
スペ「も、ぉおおおおお!……もーーーっ!!!」
オグリ「す、スペシャルウィーク。大丈夫か?」
スペ「おぐりさぁん…っ!聞いてくださいよぉ!あの2人ってば、いがみ合ってたクセに急にアイコンタクトして頷いたと思ったら走り出したんです!」
オグリ「……仲良しだな」
スペ「そーですけど、そーじゃないんですよぉおお!」
ウララ「仲直りするならもっと早くにしてほしかったよね。注目浴びて恥ずかしかったよ……」
悟空「ちゅーか、そもそも何でアイツらは言い合いしてたんだ?オラはグラスから写真を撮りてぇって言われただけなんだけど」
スペ「………自分の考えしか理解出来ないヒト達が醜い争いをしていただけなんです…」
ともあれ、この場に全員が集った。
悟空の側にウララ、スペ、オグリ。少し間をあけてルドルフとグラス、キングが並んでいる。
グラス「みにくいとは辛辣ですねぇ。スペちゃん」
キング「欲望に忠実になるのは駄目な事なの?食欲なら良いの?」
ウララ「もおっ!きんぐちゃん!スペちゃんは食欲だって我慢しているんだから、あんまり言わないであげて!最近ポッコリして来たの気にしてるんだから!」
キング「我慢出来てないじゃない…」
スペ(あれ?ウララちゃんって味方だよね?……スパイ?)
オグリ「ルドルフ…」
ルドルフ「再演といこうか、オグリキャップ。ここにモモ肉が6個もあるが……キミの胃袋は持つのかな?」フフッ
オグリ「ッ!!!」
みんなが分かっていた。
ココが運命の境目となる場所だと。
スペ達は少しでも距離を遠ざけようと、悟空の壁になるように立っている。
そんなスペ達の背中を見ながら悟空は思った。
悟空(オラ、全く理解出来てねぇんだけど、良いんかな…?)
ルドルフが自分に何らかの用事があるのだという事は分かる。
グラスがスペと一緒に写真を撮りたいと言っていたから、それも分かる。
キングに至っては本当に何も分からない。
唯一理解出来ているのはルドルフ達が普段と違い、獣化しているという所だけだ。
悟空(一旦落ち着かせねぇとな)
決意する悟空。
ルドルフ「もう少しで"彼,,を手に入れれる!」
グラス「スペちゃんとの撮影会をっ!」
キング「ウララさんとの撮影会をっ!」
悪役顔負けに高笑いをする3人。
そんな彼女達の正面に悟空は飛び出した。
悟空「オイ!ルドルフ!グラス!キング!オラを見ろ!」
ルドルフ・グラス・キング
「「「ん?」」」
悟空は両手を上げてフリフリと動かす。ルドルフ達の視線が注目すると分かると、前頭葉を覆うように両手をかざした。
これをする前にスペ達にはテレパシーで伝えておいた。
ーー目を強く瞑って下を向いていろ、と。
悟空「太陽拳ーーーーッ!!!!」
ーーカッ!!!!!
幾度となく窮地を脱した奥の手。悟空を中心に放たれる強烈な光は、視界を奪うだけではない。手加減したとはいえ、その光は脳まで届き、思考能力はもちろん、平衡感覚まで混乱の渦に飲み込まれる。
ルドルフ「あああああ!!!!」
グラス「め、め、めめめ……!!!!!」
キング「目が…!…………………ウ、ララさんは…っ、無事なの!?」
約一名。五感が狂いながらも手探りでさまよっているが、その姿を見ているものは、誰1人としていない。
悟空達は既にこの場から立ち去っていた。
悟空「ふぅ。これで少しは落ち着いてくれんだろ」
スペ「………、」
ウララ「……、」
悟空「?……なんでそんな暗い顔してんだ?」
スペ「……悟空、さん」
ウララ「あの、ね……」
スペ・ウララ「「ごめんなさい!」」
悟空「お?何でおめぇ達が謝ってんだ?」
スペ「だってぇ!…グラスちゃん達のおバカな所見せちゃったし……」
ウララ「ウララ達も謝るから嫌いにならないであげてほしいなって……」
項垂れる2人。
悟空は周囲に気を配ると、軽く微笑んで宙に浮いた。
そして2人の頭に優しく手を乗せる。
悟空「嫌いになんてなる訳ねぇだろ」
スペ・ウララ「「!!!」」
悟空「それどころか。おめぇ達はまだ子供なんだから、あんくれぇ弾けた方が良い。良い子でいようなんて思わず好きな事やったら良いじゃねぇか!」
ウララ「怒ってない……?」
悟空「怒る事がねぇからな!…………いや、ほんとに。オラ今でも何が何だか分かんねぇもん」
オグリ「………なぁ、悟空。話をしている最中に悪いんだが…」キュゥウウウ
悟空「あ、すまねぇな!すぐに食堂行く…か……!」
悟空はある事を閃いて満面の笑みを作った。
悟空「なあ!近くにキャンプするような所とかねぇんか?火起こしても良いような所とか!」
オグリ「キャンプ…、………離れに行事用のスペースが設けられていたと思うが」
悟空「ならたづなに許可をもらおう!そんでバーベキューでもしようぜ!」
スペ「バーベキュー!!!!」キラキラ
ウララ「ね!ね!それってみんなも呼んで良いの!?」
悟空「あったりめーだ!もちろんルドルフとグラスやキングもな!」
スペ「やったー!!」パン!
ウララ「いえーい!」パァン!
悟空「つー訳で!たづなと話して場所は作るから、スペとウララは他の奴に声をかけといてくれ!」
スペ「うん!」
ウララ「れっつごー!」ダダダッ
スペ「あ、待ってよー!」ダダダダッ
悟空「ーーーーーよし!んじゃオグリ!バーベキューの前に腹ごなしだ!食堂行くぞ!」
オグリ「ああ!」
・
・
・
日が暮れ始めた頃。
バーベキュー用のコンロが3台も並び立ち、野菜や肉、焼きそばなどが焼かれていた。
誰がいつ来てもすぐに食べれるように。
そして。
悟空「ひゃーっ!うめぇ!」モグモグ
オグリ「そうだな!」パクパク
自分達が待ちきれないからという理由でもあったりする。
「あの……悟空さん…」
悟空「んお?…おーっ!やっと来たか!」
おずおずと。
肩身を狭くやって来たのは、今回のお騒がせウマ娘3人組だった。
ルドルフ「…今日は申し訳ありません。私とした事が、つい」
悟空「そんなん良いって!おめぇがはしゃいでいる所が見れてオラは嬉しかったぞ!」
グラス「私も、その………すみません」
悟空「んー?まぁ、最初は変だったけど、特に何もなかったし謝んなくていいぞ?」
キング「………………あら?……私は何を言えば…?」
悟空「おめぇに関しちゃ本当に何も言う事はねぇな。そもそも何でキングが混ざってたのか分からねぇくらいだし」
キング「そうよ、ね…?……そうよね!私は何もしてないんだもの!今回はお招きいただき感謝するわ!悟空さん!」
悟空「おう!オラは全く気にしてねーから存分に食え!」
悟空「アイツらとの話しが終わったらな」
ルドルフ・グラス・キング「「「え?」」」クルッ
たづな・エル・スカイ「「「…………」」」クイッ
ルドルフ・グラス・キング「「「」」」
スペ「悟空さん!こんばんわ!」
ウララ「みんなにお声かけたよ!キントレさんだけはお仕事で無理だって泣いてたけど」
悟空「あちゃあ…。まあキントレは今度でいっか」
スペ「あ、グラスちゃん達は来ましたか?落ち込みながら喜んでたんだけど」
悟空「おう!さっき来たぞ。ほれ、あっち」
スペ「?………あ」
スペとウララが顔を向ける。
そこには等間隔で正座をするグラス達の前に、腕を組みながら見下ろす彼女達がいた。
エル「………スペちゃんから全部聞きマシタ。この際、悟空さんが小さくなったのを教えてくれなかった事については何も言いマセン」
グラス「………はい」
エル「ですが、悟空さんのフォローはせず、スペちゃんに迷惑をかけて、挙げ句の果てには騒ぎ立てる始末。仲裁に入ったウララが恥ずかしかったと言ってマシタ」
グラス「………」
エル「……もう、マンボに不退転食べさせましょうか?」
グラス「……………申し訳ありませんでした。反省しております」ペコリ
キング「わ、私は誰にも被害を与えてないわよ!?」
スカイ「そうだね〜。でもさ、普通は悟空さんを助けたりしないかな?」
キング「っ、まぁ、そうね」
スカイ「それにグラスちゃんと掴み合いは別にいいとして。…ウララ達の事を隠れて撮影って、何…?……盗撮だよ?変態じゃん。そんなんで一流を豪語出来るの?」
キング「………軽はずみな行動をしてごめんなさい」ペコリ
たづな「………」
ルドルフ「……」ガクガク
タキオン(なぜ私までっ)ブルブル
たづな「……ルドルフさん」
ルドルフ「はい!」
たづな「あなたは、悟空さんの事になると暴走しやすいから注意しなさいと申し付けたはずですが?」
ルドルフ「はい…」
たづな「エアグルーヴさんとナリタブライアンさんから聞きました」
ルドルフ「コヒュッ」
たづな「随分と騒ぎ立てた様で、ねぇ?」
ルドルフ「…私の自分勝手な行いが人様のご迷惑に関わり、」
たづな「そんなマニュアル謝罪は受け付けてません」
ルドルフ「ごめんなさい」
たづな「……ハァ、………タキオンさん。あなたもですよ?」
タキオン「わ、わたしは孫くんが小さくなった時に部屋から出さない様に努めたよ!」
たづな「小さくなった原因を作った事に対して言っています」
タキオン「それはちゃんとした対価で…!スカイ君とワンダー君が孫くんにして良いとっ!」
>あ、悟空さんごめんね〜。薬飲ませちゃって。
>おう!構わねぇけど、今度からは前もって言ってくれ。オラ何の事か分かんなかったんだからよぉ。
>はーい。
たづな「それでは根本を見ましょうか。………ヒトの恥ずかしい所の動画を交換道具に使うとは何事です?」
タキオン「反省してます」
たづな「もうやっちゃだめですよ?」
タキオン「………」
たづな「…………へえ?」ウフフ
タキオン「はい!もうしません!」
悟空「さ!もう説教は終わりにして食おうぜ!せっかくのバーベキューなんだからよ!」
たづな「貴方という人は、小さくなっても変わらないです、ねっっ!!?」
振り返ったたづなは瞠目した。
悟空「ん?どうした」
スペ「悟空さん煙出てる!」
悟空「えっ!焦げたんか!?」
オグリ「違う!悟空から出てるんだ!」
悟空「ほえ?ーーわわっ!何だこりゃ!?」
シュウウウウ!
悟空の体中から吹き出る煙は次第に勢いを増し、収まる様子のない煙は悟空の体全体を覆った。
悟空「っ、たづなぁあああ!」
たづな「ッ…!皆さんこちらへ!悟空さんから離れてください!」
そう言って悟空の近くにいる彼女達を呼び寄せる。心配で遅れがちなヒトにも、たづなは強引に引き寄せた。
タキオン「…………………まさか…」
実験とは、理論や仮説に基づいき事物の確証を得るために人為的な操作を行う事。
もちろん、その過程で頓挫する事もある。結果、考えもしない事が訪れる時もある。
孫悟空が小さくなった時、1日くらいで戻ると言ったが、それはあくまで推論の域でしかない。
タキオン「ーーーそん、」
タキオンが切羽詰まった表情で呼びかけた瞬間。
ボンッッッ!
ナニカの衝撃で煙は全て飛び散った。
悟空「あ、もっ!……戻ったああああああああ!!!」
見慣れた高さ。
湧き上がる力。
孫悟空は今、完全復活を果たした。
『!!!!!!』
悟空「ひゃっほーい!体が軽いぜぇえええ!」
喜びのあまり10回宙返りをして飛び去る。
着地したと思えば即座に拳を繰り出した。続く足。四肢が連動するようの次から次に仮想の敵目掛けて撃ち続ける。
『………………』
その光景を見ながら誰1人声を出せない。
悟空の体が戻っても、直視する者は誰もいない。
何故かなんて、分かりきっている。
キントレのシャツのボタンが耐えきれずに吹き飛んだのに、
子供用の服が悟空の体に耐え切れる訳がない。
悟空「なあなあ!オラ戻ったぞ!これで飯をいっぱい食えるな!」
『………ま、』
悟空「ん?」
単刀直入に言えば、ーー彼は裸だった。
『前を隠せぇえええええええ!!!!!』
パシン!
結果、…本当に最終的には、笑いと笑顔に包まれたバーベキューが行われたのであった。
・
・
・
ー スズカ。病室 ー
シュン!
悟空「オッス!」
スズカ「あら、悟空さん。こんばん、は……?」
悟空「おう!ほれ、バーベキューしたから肉持って来たぞ!」
スズカ「…あ、ありがとう……ございます…」
悟空「? いらなかったか?」
スズカ「いえっ!……嬉しいんですけど、その、……頬っぺたに手の跡が付いて…」
悟空「あー、………今日はちょっと色んな事があってな」
スズカ「何があったんです?」
悟空「薬のんで小さくなって、他の奴が獣になって、肝が冷えるウマ娘と出会って、バーベキューをしながら元に戻ったと思えば、裸になって怒られた」
スズカ「…………そうですか」
スズカは考えるのをやめて、肉にかぶり付いた。
ー 完 ー
ーーーーーーー
楽しんでいただけましたでしょうか。
長くなりましたが、劇場版本編前のオマケ回でした。
連載の中では出せないキャラ崩壊具合。新鮮なものだと思います。
本作では予告をお楽しみくださいませ。
ーーーーーーー
ー 予告 ー
機会が訪れた。
"彼,,を知る。その時が。
「たづなさん。あなたにだけ伝えます」
アグネスタキオン。
彼女にしては珍しく緊張した面持ちだったのを思い出す。
「これは人の記憶を再生出来る装置。この世に出回ってはいけないからすぐに壊す予定です」
「……なぜ、私に?」
「…………………許可をとっています」
その一言を聞くとイヤな汗が伝った。
「なん、…」
誰に何の許可をとっているのか。そもそも記憶なんて見てどうするのか。
問いただそうにも口が渇いて言葉が出てこない。
理解だけは、出来ている。
「孫悟空の記憶。……知りたくないですか?」
【孫悟空】
この地に現れたのは、おとぎ話にでもいそうな人。
とても強くて、周囲のヒトを笑顔にし、誰もがみんな頼ってしまう。
だが、その実。
彼に関する事をほとんど知らない。
妻と子供、戦いの日々。戦闘民族。
大まかな事は知っているが、細かい所は何も知らない。
よくよく考えれば彼の家族。実家にあたる人達の事は聞いた事もない。
何も知らないんだ。
「アグネスタキオンさん…。…………私は、」
彼を知りたい。
そして。
残り僅かなこの地球で、何も考えず、何でも話せる同僚として、彼の隣にいたい。
劇場版:孫悟空とたづな
ー 休み時間のひととき ー
ーーねえ、悟空さん。ここでは命なんて賭けなくていいんです。地球の運命も、仲間の命も、勝敗ですら気にしなくていい。
だから。
「悟空さん」
昔、戦いを純粋に楽しんでいた心を忘れないでください。
「一戦、交えましょう。休憩時間が終わる、その時まで」
あなたの全てを知る私が、遊び相手になりますから。
拳を交えながら怒りも意地もなく、ただただ笑い合いましょう。