孫悟空とウマ娘   作:猫ネコ

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最後に投稿してから早二ヶ月。
皆様のアンケートを元に劇場版を書いている途中ですが。


申し訳ありません。
終わらないです。


言い訳になってしまいますが、物語の内容が決まってないという訳ではなく、内容のスケールが大きくなり過ぎて単純に時間が足りません。

ズルズルと引き伸ばしても、いつ投稿出来るのか分からないため、連載と並行しながら書こうと思います。
いつかは劇場版の回を投稿するつもりなので、お待ちいただけると助かります。

確定事項でお伝えして申し訳ありませんが、次回は連載の続きを投稿します。

せめてものお詫びとして。
ほんの少しですが、どのような内容かだけでも楽しみください。



劇場版延長のお知らせ。 

 

 

 

 

 

 

「……………はあ、」

 

駿川たづな。

彼女は今、2桁は軽く超える溜め息をこぼした。

というのも、先日。サイレンススズカの一件で悟空に当たり散らした事を根に持っていた。

身勝手の極みともいえる八つ当たり。それに対し悟空は受け止めてくれた。否定する事もなく、すまないと。そして、ありがとう…と。

その後に悟空の気持ちを聞いたたづなは、心に溜まっていた黒いモノが浄化されたようにスッキリとしたのだが、次の日には罪悪感で押し潰されそうになっている。

 

そこで何かお礼を考えているのだが…。

 

 

(彼が好むもの。……………ダメですね。食事しか思いつきません)

 

一言目には腹へった。二言目には修行。三言目には、もうすぐ飯の時間。悟空を知る者なら全員が分かる程の口癖。

加えて彼には物欲というものが無い。強いて言うならウマ娘のトレーニング機材だが、それですら学園の物や彼自身で組み立てたりしている。

貰って喜びそうな物となれば食料以外考えられないのだ。

それならいっその事、満漢全席でも用意して好きなだけ食べてと言ってもいい。しかし、手間暇かけたモノをいつものように食い散らかされては正直不服に思う。

 

(何かさせてくれと頼んでも、どーーーせ笑いながら断ってくるんでしょうね…)

 

他人の気持ちに鈍感な彼は、裏表なく言葉を放つ。

それゆえ、礼はいらないと言われれば本当にいらないのだろう。押し付けの善意ほど厄介なモノはない。

 

「詰みました」

 

たづながそう結論付けるのは当然の事だ。なんせ答えが存在しないのだから。

 

(せっかく仕事に区切りがついて時間が空いたというのに、これでは悩むだけで終わってしまう。…それなら空いた時間で仕事した方が有意、義……?)

 

もはや混沌の渦にのまれそうになっていた時、後ろから声をかける者がいた。

 

「たづなさん」

 

当人達以外に誰もいない学園の廊下。落ち着きのある静かな声に反応し、たづなはゆっくりと振り向いた。

 

「あら?こんにちは。アグネスタキオンさん」

「ええ。こんにちは」

 

何か作業中だったのか、制服の上に白衣を纏うタキオン。

そんな彼女を見たたづなは目を丸くした。

 

「タキオンさん?何やらお疲れのご様子ですが…、大丈夫ですか?」

 

実験実験、さらに実験という日々を過ごすタキオン。日頃から健康第一とは言い難い風貌だが、今日は度を越している。顔は青白く血の気を失った色をしており、目元に隈を出現させ、瞳はどこか濁っているように見える。

痛々しさが満載だった。

 

「……まぁ、…はい」

「……?」

「それよりたづなさんはお手隙ですか?可能ならお時間をいただきたくて」

「………私個人に用事、ですか」

 

嫌な予感が脳内を駆け巡る。

そもそもこんな風にタキオンが話しかけてくる事は今まで無かった。ある日を境に始まったのだ。

 

「……………"彼,,の事だったりします?」

 

正直確認をするまでもない。タキオンは間を置かずに頷く。

非現実的が通常運行の彼…孫悟空。何を聞かされるのかとヒヤヒヤしながら、たづなは口を開いた。

 

「…時間とは、どれほど必要ですか?」

「たづなさんの答え次第です。断るならすぐに終わりますし、受け入れるならば、……1日は必要かも知れません」

「いっ!1日もですか!?」

「はい」

「それはちょっと、……困りましたねぇ」

 

休憩時間の合間どころではなかった。

個人的な仕事だけでなく、他の業務にも影響が出るだろう。それでも即座に拒否出来ない理由があった。

孫悟空と件で1日を費やすと聞けば、ただならない事があるに違いない。

 

「………………先に、お話しだけ伺っても良いですか?」

「もちろんです」

 

タキオンは踵を返すと歩きはじめ、たづなも後を追った。

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

案内されたのはタキオンの研究室だった。

 

「失礼します」

 

中に入るや否や、物の散らかり具合に驚いた。だがそこは無頓着である彼女らしさがある。もちろん褒められたものではないが…。

 

「タキオンさん。話しというのは…?」

「……少しだけ待ってください」

 

そう言ってタキオンは部屋中のカーテンを全て閉めてドアにも鍵をかける。

外の世界と切り離すような空間を作っていくタキオンに、たづなは平静を装いながらも、かなり強めの心音を発していた。

 

(な、何が始まるんでしょうか…。まさかとは思いますが私を実験台にしたりしませんよね…?)

 

ゼロとはいえない可能性が頭をよぎるが、その考えは一瞬にして消えた。

何を考えていても彼女が見せた表情から違和感を拭えないのだ。

 

「お待たせして申し訳ない。こちらにどうぞ」

 

タキオンはたづなに近づくと椅子に座るよう誘導した。たづなは会釈をして座ると、タキオンが持つ機械が視界に入った。

 

「それは……VR、ですか?」

 

目を覆い隠すような形。頭に固定するリング。どう見てもVRゴーグルだった。

ただし世に出回っているものとは少し違い、本体に繋がれたケーブルの先に異様な機材が置かれている。

 

「性能的には似たような物です。中身の容量は桁違いだけど」

 

それより、とタキオンの機材を叩きながら続けた。

 

「本題はここからです」

「流れから察するにソレを見るか見ないか、という事ですよね?」

「そうです。絶対に他言無用。たづなさんが見ても見なくても最後には壊すつもりです」

「壊すって、一体何が入ってるんですか……」

 

タキオンが自分のトレーナーを実験台にして、レインボーに光る体に仕立て上げたのは有名な話しだ。

今度は何をやらかすのか。タキオンの不穏な言葉に、たづなの気分は少しずつ下がっていく。

しかしその反面。

今も尚、青白い表情の中に存在する真剣な瞳から逃れる事が出来ずにいた。

 

「これはヒトの記憶を映し出す機械」

「き、おく……?」

 

ドクンッ……!

一際大きく心臓が飛び上がる。

うっすらとタキオンが言わんとしている事が分かってしまったからだ。

 

「はい。記憶。……そしてその記憶の持ち主が」

 

 

 

「孫悟空。彼が生前…いや、今日まで過ごして来た記憶がインプットされています」

 

 

 

は……、とたづなの口から言葉にならない声が漏れる。百歩譲って記憶を再現する機械の事は理解出来よう。

しかし、これはあまりにも度を超えた実験だ。

 

「タキオンさん!いくら何でも酷すぎます!悟空さんと話し合って記憶を読み取ったのでしょうが、それを他人に見せて良い訳ないでしょう!」

 

DVDの貸し借りではないのだ。モラルに反するとたづなは声を荒げるが、タキオンはゆっくりと首を振った。

 

「孫くんには許可を貰ってます」

「だ、だとしてもっ、」

「それに孫くんにとって記憶を見られる事は何の抵抗もないようだった」

 

タキオンは先日の事を思い出す。

頭に装置を付けるのが嫌だという理由で断られていたが、好奇心から伴う必死な懇願と、一回の食べ放題と引き換えに了承をもらった。

読み取りが完了した直後、タキオンは悟空に、他のみんなにも見せても良いかと聞いた所、あっさりと許可を得た。

 

ただし。

 

 

「孫くん曰く、見せる相手は考えろとの事でした。私としても同じ考えです。なんせ私が見るのを途中で止めてしまったくらいなので」

 

たづなはタキオンの顔をじっと見つめた。

彼女の言動から察するに、顔色が悪くなっている原因は彼の記憶を見たからで間違いはないだろう。さらに掘り下げていくと段々と見えてくるものがある。

 

あのVRもどきを見るか見ないかは自分次第。

1日はかかるほどの内容。

好奇心の塊であるタキオンが見るのを止め、彼を知る者達には見せないと決めているらしい。

 

「………そういう事ですか」

 

要点だけを絞れば理解は出来た。

 

「悟空さんの過去は想像を絶するものであり、彼のイメージを崩しかねないから他の子には見せない。…という事ですね」

「…はい」

 

皆が皆、無意識に深く考えなかったのだろう。

彼は戦闘民族なのだ。拳を振るえば風を起こし、脚を振り回せば空気が裂ける。ヒトの気配を見るより知り、その気になれば音速なんて簡単に超える。そもそも時空すら飛び越えているんだ。

そんな力が必要な世界の戦闘なんて、この世界のフィクション映像でさえ比べものにならない。

 

しかし、1つだけ解せない事がある。

 

 

「タキオンさん。…何故、私なんですか?」

 

言っては何だが、自分も彼に対する価値観は彼女達と似たり寄ったり。自分だけに伝える意図は全く無いと思う。

そんなたづなの質問にタキオンは…、

 

「深い意味はないですよ?」

 

事も無げに、さらっと口にした。

 

「え?」

「消去法みたいな感じです。比較的彼の近くにいる彼女達は論外。言ってもよさそうなのは会長くらいだが、彼女が唯一の甘えれる所を邪魔したくない。その反面。あなたなら彼を知り、受け止める。そう思っただけですよ」

「…………」

 

腑に落ちないが、願ってもないチャンスでもある。

孫悟空という人物を知れば、心に寄り添えるかも知れない。どことなく一線置かれているような距離を埋めれるのかも知れない。恩返し出来る方法が見つかる可能性だってある。

記憶を見るなどとプライバシーの欠片もない行為だが、本人が承諾してくれているなら話しは別だ。

 

「……少し待っていて下さい。理事長に許可を貰って来ます」

 

はたして突然の休暇を貰えるだろうか。

たづなは期待と興奮と不安と罪悪感を胸に、理事長室へと足を運んだ。

 

 

 

そして。

 

 

 

「………………休む気になったのなら早く帰れと…、追い出されました……」

「でしょうね」

 

ルドルフに負けず劣らずのワーカーホリック。嬉々として背中を押す、やよいの姿が目に浮かぶ。

 

「では早速始めましょうか」

 

座らせたたづなの頭にVRもどきを装着し、手には小型のリモコンを持たせた。

 

「これで一時停止と再生。そして早送りで巻き戻し。視聴中は分からないだろうから場所で覚えてください」

「はい。………まるで映画を見る気分ですね」

「臨場感が桁違いだけどねぇ」

「そうなんですか?」

「ええ。これは孫くんの記憶だから、彼の一人称視点。音は脳に直接響くように聞こえてくるから余計に彼の物語を間近で見ている感じになる」

「なるほど。何か注意する事はありますか?」

「特に何もないさ」

「分かりました」

 

ポチポチとタキオンは複数あるボタンを押していく。そして残る最後のボタンに指をかけ、動きを止めた。

 

「…………たづなさん」

「はい?」

「…………、」

「タキオンさん…?」

「これから始まるのは孫くんの記憶。ぼんやりとしか覚えていない所は、チグハグになったり時間を飛び越えます」

「ええ」

「ですが鮮明に覚えている所は、彼の心と共有するようにたづなさんの心にも降りかかります」

「…………承知の上です」

「無理だと思えばすぐにでもゴーグルを外してください。私は孫くんが大人になる前にやめましたから」

「ッ!………はい」

 

たづなの声色に迷いは存在しない。すでに心に誓っているのだ。どんな事が待っていても受け入れてみせると。

そんなたづなを尻目にタキオンは口元を緩め、たづなを孫悟空の歴史の始まりへ送り出した。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

【じいちゃーん!】

【おお!悟空や。こっちおいで】

【にひひ!うんっ】

 

とても幼い彼の声。低い目線。昔だから当然というべきか、飛び飛びに進む映像。お腹にしがみついて戯れている。

 

(祖父と暮らしていたんですね)

 

いきなり新事実が発覚した。

仲が良すぎる人達だ。純粋、無邪気という単語が似合う彼の声色。優しすぎる瞳で見つかるおじいさん。

それでも、ただ優しい訳ではない。

 

【悟空!早く立って構えるんじゃ!敵は待ってくれんぞ!】

【ん〜でもぉ、オラいてぇよ…】

【修行の最中に甘えてはいかん!ゆくぞ!】

 

真剣な眼。迫力のある声。

とても同一人物には見えないが、彼の根本から成り立っているのだという事が分かる。

 

(ゴハンじいちゃん…?確か悟空さんのお子さんの名前も。…………ふふっ、そういう事でしたか)

 

まるで好きな授業を受けているような感覚。彼を知る一つ一つの事が嬉しく思う。

思わずニヤけてしまう。傍から見ているタキオンに気持ち悪いと思われないだろうか。

 

たづなはそんな事を思うも、次の場面で笑みは完全に消え去った。

 

 

【じぃちゃん………たのむよ、め、あけてくれよぉ……っ、じいちゃぁぁあああああん!!!!】

 

 

横たわるおじいさんに覆い被さっている。ポツリポツリと顔に滴るのは彼の涙だろう。

泣きながら彼の体離れる。おじいさんの全身が映し出される。

 

(ッ!!?……う、そ、………)

 

手足の関節なんて無かったかのように、歪な方向に折れ曲がっている。

視界の端には地面が窪んだ跡がある。考えられないが何かとてつもない巨大な落下物に巻き込まれたのだろうか。

いやそれよりも…、

 

(早すぎるっ!こんな別れ…)

 

愛する者との死別。幸せだった日々は一瞬にして帰らないものとなった。

たづな必死で歯を食いしばる。泣こうが喚こうがどうにもならない事なのだ。

 

 

それからというもの、彼はおじいさんに教わった生きる術を頼りに生活していた。

おじいさんの魂を、ーーオレンジ色の球に見立て挨拶をしながら。

 

彼の一日を追う。

起きて、修行して、ご飯食べて、寝る。

娯楽は無い……と、たづなは思っていても、彼にとって動物と戯れる事が娯楽に等しい事だった。

 

 

その時。

 

 

(ん?……車?)

 

 

見慣れた乗り物。

彼の驚いた声がすると、完全に轢かれた。

出て来たのは女性だった。

おじいさん以外の人を見るのが初めての彼は敵意をあらわにしている。

どこか軽そうな話し方や風貌。名をブルマと言った。

 

【あーっ!ドラゴンボール!!】

【これはじいちゃんの形見だ!女だって触っちゃダメなんだぞッ!】

 

彼がおじいさんだと祀っていた星のマークがあるオレンジ色の球体。

語られたのは七つ揃うと何でも願いが叶うという代物。

嘘くさいと切り捨てれる伝説だが、そういう事か…とたづなは納得した。

 

(以前、赤織の悪徳記者が来た時、悟空さん言ってましたね。 "この世界にはドラゴンボールがない。死んだら終わりなんだ,, って)

 

色々とゴタついた事もあり、その後は聞く事もなかった。

だがそれが本当だとすると不可解な事がある。

 

(逆を言えば、ドラゴンボールがあれば亡くなっても大丈夫。つまり生き返れる。……それなら悟空さんも天国ではなく、現世に帰れるのでは…?)

 

 

 

孫悟空の物語は始まったばかり。

駿川たづなは踏み込んでしまったのだ。孫悟空という人物を知ると共に、一歩ずつ迫る地獄へと。

 

 

 

 

BOM…!!!

ブルマの手から放り投げられたカプセルは音を立てて、家が出現した。

 

(…先程もバイクが出て来ましたが、原理がバグってますね。質量保存の法則を無視してるじゃないですか…)

 

それを使った張本人がブルマなのだから尚更意味不明だ。

見た目15.6歳くらいなのに…。

彼の記憶はボヤけている。特に何もなかったのだろう。

次に映されたのは、ベッドでスヤスヤと寝ているブルマだった。

 

(………ハァ、何となく分かってましたけど、ブルマさん無警戒にも程があるでしょう…。下着見えてますし………って、貴方も目くらい逸らしなさい)

 

もう凝視と言っても過言では無い。集中的に見ているのだ。大っぴらげにされたパンツを。

 

【……じいちゃんのフカフカキンタマクラ。思い出すな!】

(………………今、なんて…?)

【ひさしぶりにやってみよっと!】

 

広がる天井。

彼の口から疑問の声が漏れた。

起き上がり、さっきより近くに見えるパンツ。数回股を叩き、あろう事かずり下げた。

 

そして絶叫。

 

【ぎゃあああああああああああああああああ!!!!】

 

飛び上がるブルマ。

 

【なっ、なに!?どうしたの!!?】

 

驚愕に染まるブルマに彼は言った。

 

【たっ、…タマがねぇ。…………チンも…】

 

 

(…………、)

 

 

 

 

 

「あっっったり前じゃないですかぁああああ!!!!」

 

勢いよくゴーグルを取ったたづなは椅子から立ち上がった。向かう先はドア。いざ元凶の元へ。

 

「ちょっ、ちょ、た、たづなさん!落ち着くんだ!!」

 

タキオンはずりずりと引きずられながらも、たづなのお腹にしがみついて必死に食い止めた。

 

「女性にそんなもの付いてる訳ないでしょう!」

「あっ、アレを見たんだね!ほらっ、彼だって女性を見たのは初めてなんだ!付いてる付いてないなんて分からなくて当然だよ!」

「むっ、………ん、まぁ、確かに…」

 

たづなな力を抜くと、タキオンは息をついた。

 

「それに、あれだけ鮮明に覚えていたんだ。彼にはとてつもない衝撃だったと思う」

「………………そう、ですね…。すみません、取り乱しました。再開します」

 

そう言って再びゴーグルを装着した。

 

 

 

 

 

ドラゴンレーダーを頼りに進み、海の事を水たまりと表現する彼。

海亀を助けたら恩返しにと、アロハシャツのおじいさんを連れて来た。

 

(……亀がしゃべった…)

 

設定は竜宮城か、ただその後には筋斗雲と呼ばれる雲が飛んでくる。物語は西遊記なのかもしれない。

 

 

 

「んぶっっっ!」

 

ボヤける映像。

途切れて映るのは、ブルマがスカートを捲り上げて亀仙人に見せている所だった。

途切れがちな映像を推測するに、亀仙人が持っているドラゴンボールと交換する条件なのだろう。

 

(確か、亀仙人といえば彼のお師匠様。そして、す…スケベな方だと言ってましたね…)

 

そう聞いた時には単純におちゃらけて言っているとばかり思っていたが、何も誇張はしておらず、その通りの人だった。

 

 

その後も彼とブルマの旅は続く。

 

 

ウーロンという意地悪でスケベで情けない生物を仲間に加え、

 

(……ブタが、しゃべった…)

 

 

 

盗賊ヤムチャという男との交戦。ここに来て初めて彼はまともに戦った。

 

(盗賊って…、久々に聞きましたね)

 

彼の記憶がぼんやりとする。

また壊れたDVDのように内容が飛びながら進んだ。

そして目にするのは、とんでもない規模の火事。フライパン山という場所一帯を、燃え盛る炎が覆い尽くしている。

ーーしかし。それよりもインパクトの強いものが断片的に映った。

 

(なん、で…、……何でブルマさんはバニーガールになってるんですかぁっ!?)

 

チラッと見えた。胸元の開いた服に黒くて長い耳。まず間違いない。だからこそ尚更意味が分からない。

さらに。

突如、どアップに映し出されたのは牛魔王と呼ばれるヒト?巨大な体格にも関わらず、目線があっているという事は筋斗雲にでも乗っているのだろうか。

どうやら山火事の火を消すための道具を持って来てもらうように頼まれているらしい。

 

【昨日オラの1人娘のチチに武天老師様を探して来てけろって遣いに出しちまっただよ】

 

牛魔王というヒト?娘の写真を見せながらは言った。武天老師というのは亀仙人の本名だったはず。

たづなは答え合わせのように思考を巡らせると、とある名前に注目した。

 

(……チチ?………えっ、チチって…?……チチ、………あのチチさん!?)

 

それは彼の妻の名前だったはず。

こんなに早く出会っていたのか。写真の人物は本当に牛魔王の子供なのか。似ても似つかない女の子だ。

たづなはツッコミどころが多過ぎて脳のキャパシティがショート寸前まで追い込まれていた。

 

 

 

筋斗雲に乗り、天を駆け巡る。

見つけた彼女は、どういう趣味ですか…と、聞きたくなるようなビキニアーマーを身に纏っていた。

そしていつもの。

 

ーーパン、パン。

 

【やっぱりチンチンないな。おまえ女だろ!】

 

やはりやった。

少しずつ性別の判断が出来てきて嬉しかったのか。純粋な動機で不純な行動をする映像は綺麗に再生されていた。

 

「…………、」

 

たづなの手は自然と動く。ゆっくりとゴーグルを外し、席を立つ。

 

「たづなさん」

 

タキオンと目が合う。席に戻れと言わんばかりに椅子を指で差していた。

 

「………なんの事かお分かりですか?」

「ええ。そろそろかと思っていたので」

「…………彼、とうとう足でパンパンするようになったんですけど…?」

「…………………筋斗雲に立ったままだったので、やりやすかったんでしょう。続きをどうぞ」

「……はい」

 

 

 

 

【ふぅううううう……っ、…はぁあああ……】

 

獣のような唸り声。発しているのは上半身裸の亀仙人。大火事と対面するかの如く、不動の構えで佇んでいる。

 

(背中の湿布凄いですね。苦労したんでしょう)

 

呑気に思うたづな。

だが、あえて言おう。これは現実逃避だ。

それもそうだろう。通常の5倍程大きくなった岩石のような腕を見て平常心ではいられない。

 

【あわっ、わわわっ!】

 

当然ながら彼らも同じだった。

彼の視点は亀仙人に釘付けだ。丸太より太い腕を動かし、祈るように両手を合わせ、息を深く吐いている。

 

【フゥ、…………フンッッッ!!!!】

【うわぁあああああ!!!!】

(かっ、亀仙人様ぁあああああ!!?)

 

ボゴンッ!と擬音化出来そうなくらいに膨れ上がる上半身。観客に一体感が生まれた。

亀仙人はもう止まる事を知らない。人外な気迫を発し、腰の位置で両手を構えた。

 

【…かぁ……めぇ…、】

 

薄らと見えてくる光の球。

 

【はぁ……めえ………っ!】

 

それはハッキリと立派な球体になり、青白い光を帯びた状態で両手の中に存在した。

 

【ーー波ぁあああああああ……ッ!!!!!】

 

両手を前に突き出すと光の球は閃光のように発射され、轟音を撒き散らしながら巨大な炎の中へ貫いていく。

辺り一面に衝撃波が襲う。粉塵が舞い、濁った視界が晴れていくと、大規模な山火事は綺麗さっぱり無くなっていた。ちなみにフライパン山も吹き飛んだ。

 

 

 

「……………………、」

 

呆然とたづなは固まってしまう。話しが進んでいても頭の中には入ってこない。

程なくするとゴーグルを外した。

 

「………、」

 

力なく手を動かして目の前へと持って来る。右と左の手のひらを交互に見つめ、口が勝手に動き出す。

 

「……………………かぁ、…め、」

「たづなさん!!!」

 

タキオンの声が響いた。

 

「ッ!?………わ、私は一体…!?」

 

何故か困惑した様子。

完全に無意識の行動だったのだろう。そうでなければ今世の汚点に残る程の恥ずかしい事をする訳がない。

彼女が疲れている事を悟ったタキオンは、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、たづなの肩に手を置いた。

 

「もう少し進むとキリが良い所になるので、そこで休憩にしましょうか」

「え、は、はい」

 

やや強引にゴーグルを付けさせ、タキオンは胸に手を当てて深い息をついた。

 

(実行する前に止めれて良かった…。"アレ,,をやって出なかった時の虚しさを知るのは、私だけで充分だからな…)

 

墓場まで持っていくものが増えてしまったと、タキオンは静かに唇を噛み締める。

 

 

 

 

 

冒険の旅の果て。ドラゴンボールが全て集まる時。それは奪われた。彼が持っていた1つのドラゴンボールだけを除いて。

彼らは盗んだ相手を追いかけ、とある城に辿り着いた。

盗人の名はピラフ。ドラゴンボールを使って世界征服を企むという、小さな体の割に大き過ぎる野望を持っていた。

 

(…彼は、………敵だった人達の仲良くなるんですね)

 

そんな中、たづなは少しズレた所に観点を持った。

ブルマやウーロンは別として、ヤムチャと呼ばれた人は殺し合いをしたくらいだ。

彼の視点を見ていれば分かる。何一つ警戒をしていないのだ。彼にとっては些細な事だったのだろうか。

彼を知りたいと思えば思うほど、価値観のズレが邪魔をする。

 

(なんだか、置いてけぼりくらっているようです…)

 

不満を露わに頬を膨らませると、ふと気がついた。

 

【やばーいっ!あいつらドラゴンボール7個揃えちゃった!!】

 

彼らは、いつのまにか捕まっていた。

無数のブロックに覆われた部屋で身動きが取れず、頼みの綱である彼はお腹が減って力が出ないらしい。

 

(アンパンマンの真似ですか。そんな事言ってる場合じゃないでしょうに)

 

それでも世界征服などという野望を叶えさせてはならない。

彼は力を振り絞り、"かめはめ波,,で小さな穴を開けた。そこから飛び出すのはコウモリに変化したウーロンとプーアル。

 

(ま、間に合うのでしょうか…)

 

逆に間に合わなければ、すでに世界はピラフのものになっているだろう。結果的には間に合うはずだが手に汗を握る展開。

彼も、黙っていられないとばかりに、先程よりも大きな "かめはめ波,, が炸裂。見事に壁を破壊して外に出たのだが…、

 

(ッ!……ぁ、あ、……あれ、が…っ)

 

空一面に黒いペンキを撒き散らしたかのような純黒な色。その中に君臨するのは神話の世界で存在した生物。

一目見るだけで分かる。確認をする必要はない。

 

【さあ、願いをいえ】

 

神龍。

どんな願いも一つだけ叶えるという伝説の龍。

その神々しい存在感は映像越しのたづなに畏怖の念を抱かせた。

 

(ま、だ、願いは叶えられてない…?)

 

神龍の言葉から察する。しかし、それも束の間。

 

【私を世界のーー】

 

彼のいる離れた所まで届くピラフの声。

 

(やばいです!早くなんとかしないとっ!)

 

ハラハラと忙しなく手を動かすたづな。

 

【私を世界の王にーー】

 

 

【ギャルのパンティおくれーーーっ!!!!】

 

 

ピラフの声に被せた豚の声を神龍を聞き入れた。

 

【願いは叶えてやった。ではさらばだ】

 

(………………、)

 

 

 

 

 

 

「私の気持ちを返してくださいよ!!!」

 

たづなはゴーグルを外すと開口一番に叫んだ。

 

「ええ!確かにキリが良い所で終わりましたよ!?タキオンさんの言う通りです!ですがこんなの……っ!慌てていた私がバカみたいじゃないですか!」

 

色んな意味を含んだ羞恥心がたづなを襲う。

 

「あー、ま、まぁ、豚くんの願いで世界は救われたのだから、良しとしましょう」

「こんなに後味の悪いハッピーエンドを見たのは生まれて初めてですよ…」

「それについては同感ですが、続きを見ていただいても良いですか?」

「え?キリが良い所で休憩って言ってませんでした?」

「確かに言ったが、私が言っているのはその次なんですよ」

 

たづなは首を傾げてタキオンを見つめた。

 

「……ちょっとした疑問ですが、タキオンさんは私が見ている所がどこか分かっているのですか?」

「確実ではない。経過の予測と貴女の反応で分かる程度です。……それに、」

「?」

「私が言うキリの良い所を見たら、休憩をしたくなりますよ」

 

不穏な空気を漂わせ、笑みをつくっている。だがその笑顔は強引に口角だけを上げており、ひどく痛々しく見えた。

 

 

 

 

 

神龍への願いを横取りされた事に憤るピラフ。怒り狂ったピラフは再び彼らを捕まえた。

今度は先程とは違い、分厚いコンクリートに囲まれている。彼の体力は底をつき、脱出は困難とされた。

しかも天井はガラス張りになっており、真昼間には太陽が真上を通過するらしい。

逃げ場はないから蒸し焼き状態になるだろう。  

 

(中々残酷な事考えますね、ピラフさんは)

 

呑気に思うのは助かる事が分かっているから。もしも自分が一緒に行動しており、あの場所にいたのなら正気ではいられないと容易に想像ついた。

 

結論からいうと全員パニックを通り越して、もはや諦め状態になっていた。

壁に寄りかかり、抵抗すらしない様子。

 

【?…プーアル。おまえは何やってんだ?】

 

ウーロンが微動だにしないプーアルに話しかけた。

 

【お月さん見てたんだ。今日は満月だからきれいだよ】

 

宙に浮いたプーアルの目線を辿って全員が上を向いた。

いや、彼を除いた全員だ。どうやら彼は興味ないらしい。

 

【満月かぁ…、そういや満月の夜ってすんげえ怪物が出るんだぜ!!】

【ふん。狼男じゃあるまいし】

【嘘じゃねぇぞ!オラのじいちゃんはソイツに踏まれてペチャンコになって死んだんだからな!】

 

(なるほど。貴方はそう解釈したのですね)

 

【どんな奴だったんだ?】

【オラは眠ってたから見た事ねぇんだ。でも、じいちゃんよく言ってたなぁ。ーー満月の夜は月を見ちゃダメだぞ!って】

 

 

 

(……………………え?)

 

彼の記憶の始まりは祖父、孫悟飯の死から始まった。

ゆえに孫悟飯との日々の暮らしはもちろん、そんな会話があった事は全くもって知らない。

おそらく自分は彼の瞳に映っているブルマ達と同じ表情をしているだろう。

開けてはならないパンドラの箱に、鍵を差し込んでいるような感覚。

 

【し、質問していいかしら…?】

 

狭い空間。隅っこに固まりながらブルマは尋ねた。

 

【ん?なんだ?】

【……ぉ、…おじいさんが踏み潰された夜、……あんたは、満月を見た…?】

 

核心に迫る問い。

たづなは無意識に胸元を強く握りしめて、暴れ続ける鼓動を抑える。

 

だが、虚しくも。

 

 

【うん!見ちゃダメって言われたけど、しょんべんしに行く時に、つい…な!】

 

 

彼は言った。

残酷すぎる可能性を肯定する一言を。

 

【そっ、孫くん!?あんた満月見ちゃダメよ!】

 

必死に止めるブルマ達。

気になる彼は引き寄せられるように満月へと目を向ける。

 

 

 

 

次に映る彼の記憶では。

 

 

 

 

太陽がのぼり、周囲の建物が全壊していた。

 

 

 

 

「ッ…!…………タキオン、さん」

 

たづなは半ば強引にゴーグルを外した。

 

「………休憩、しましょう」

 

コトン…と、タキオンは湯気の立つカップを机に置いた。ふわっ、と漂うベルガモットの香りは前に彼が淹れてくれたアールグレイだろう。

今はそれが寂しく思えた。

 

「……タキオンさん。おじいさんは、やはり……」

「崩壊後のブルマさん達の反応から察するに、孫くんで間違いないでしょうね」

「彼は知っているのでしょうか…」

「それは分からない。なんせ何十年も前の事だ。それからも色々あっただろうし、知っていてもおかしい事ではないと思う」

「……タキオンさんが見るのをやめたのはココですか?」

「…………残念ながら…」

「そうですか…」

 

これ以上に残酷な事があるのだろう。しかも子供のうちに。

計り知れない過去に恐怖すら感じる。

それでも何とか堪えようと紅茶を口に含み、無理矢理にでも平静を取り戻す。

ただ事実だけを受け入れたら良いんだ。そこに自分の感情や考えなどは必要じゃない。

 

(…………なんて。開き直れたら簡単なんですけどね)

 

口の中の熱気と共に弱音を吐き出す。

祖父を殺めたのは意識の無い彼だと聞いて、誰が平常心でいられるのだろうか。

正直なところ、同情した。

同情したのだが、タチの悪い事に当の本人である彼が、あっけらかんとしているから余計に脳がバグを起こしている。

 

(悟空さんは前しか見ていない。過去を振り返ってもしょうがないって感じ…? でも鮮明に覚えているのだから、切り捨てている訳ではない。………全て受け入れているんでしょうね)

 

否。まだ子供だから上手な生き方を知らないだけかも知れない。

見た感じ、今と比べてもあまり差はないと思うが…。

 

「たづなさん」

「何ですか?」

「その、私から言っといて何ですが、あまりに辛いようなら無理をなさらずに。…彼の世界の事柄は、私達の理解では及ばない世界ですので……」

「ぁ、………すみません。気を遣わせてしまって。ですが大丈夫です」

「なら良いんですけど…。……結構キツイですよ?」

 

再三に渡る問いかけ。

たづなはフッ…と、笑みを返した。

 

「心配ご無用です。私が彼を知りたくてやっている事ですから」

 

そう。これはタキオンの頼みを聞いた訳でなく、絶好の機会に鉢合わせしただけの事。

いくら悲しい現実を目の当たりにしようとも、やめる選択肢は最初から無い。

 

「紅茶、ご馳走様でした。続きを見ますね」

「ええ。お粗末様です」

 

一度休んだ事により心の余裕が出来た。

たづなは再び、彼の記憶の海へと沈んでゆく。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

いかがでしたでしょうか。

全ての記憶を辿っている訳でなく、重点的な記憶だけを知るようにしました。

加えて、オリジナル会話なども用意しており、ドラゴンボール本編では見られない裏側を書いています。

 

 

いつになるか分かりませんが、お待ちくださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 






誤字脱字、内容の修正などは完成間近に行いますので、こんな話しなんだ…程度に思っていてください。
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