鳥山明様。
ご冥福をお祈りいたします。
この投稿は、私なりの哀悼作品となります。
本来なら、このような事を創作に手掛ける事は失礼に当たるかも知れません。
ですが私にとっては1から10まで全て。
この連載の中で孫悟空という、鳥山明様が生み出してくれたキャラクターを書き続けてきた情熱があります。
どうか身勝手な作品をお許しください。
※連載には影響しません。
・急いで作成したため、受け入れ難い所があるかも知れません。ご容赦ください。
思えばこの数日、落ち着かない時が何回かあった。
この地で知り合いなどいるはずもないのに、気がつけば "誰か,,を探しているように見渡している。
当てもなく彷徨い歩き、適当に寝そべってみても違和感だけが胸に募る。空に手を伸ばすと、不思議と心が温かくなった。
(おめぇは、そっちにいんのか…?)
脳裏にぼんやりと浮かぶ人影。
悟空は引き寄せられるように、ふわりと空を飛んだ。
急上昇はしない。まるで海の底へ沈むように、ゆっくりと空に落ちていく。
大空が近づくにつれ、ちらほらと輝く星々が見えてくる。
当然の事だが辺りには人影一つとして無い。"気,,だって感じられない。
それなのに。
(……なんか、落ち着くなぁ)
何故だろうか。感覚から連想されるのは祖父の懐だ。
どこの誰かも分からない。そもそも気のせいかも知れない。
それなのに、この雲と宇宙の狭間では安らぎへと導いてくれるナニカがある。
(姿は見えねぇ。"気,,も感じない。そんでも近くに誰かいる。……多分)
いくら考えようとも、これ以上はどうしようもない。
だから悟空は別の考えを求めるため、額に指を当てて、その場から消えた。
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ニャー。ニャー…!
我が愛猫の鳴き声。
彼女はうつらうつらしながら声をかけた。
「ん…、……騒然。……まだ朝ではないだろう…」
「ああ。0時前ってとこかな」
「…夜中じゃないか。…まだ寝るじか………ッ!!?」
カッ!…と目が大きく開かれる。
彼女は掛け布団を手繰り寄せてバリケードを作った。
「な、な、なななッ…!!?!?!」
瞠目して見つめる先には、月明かりに照らされながら猫を抱く彼。
「オッス。起こして悪いな。やよい」
そう。悟空が訪ねた相手とは、日本ウマ娘トレーニングセンター学園の理事長を務める、秋川やよい。そのヒトである。
「ぶ、無礼ッ!!いくら悟空さんでも度が過ぎて……、…………何かあったのか?」
やよいはすぐさま表情を切り替えて端的に問うた。彼女は既に平静を取り戻している。
「……やっぱ分かっちまうのか?」
「違和感程度、だがな」
やよいは傍に置いてある肩掛けを羽織ると正しく座り直した。
「用件を聞こうか」
「んー、…誤解しねぇでほしいんだけど」
「うむ」
「この世界では死んだ奴をどうやって弔ってんだ?」
「ッ…!?」
予想だにしない言葉。やよいは息を呑んだ。
しかし理事長というのは肩書きだけではない。
静かに深呼吸をして、止まりかけていた思考を強引に巡らせた。
「……確認。それは、ウマ娘と関係あるのか?」
「いや、全くねぇ。おかしな事言うけど、オラ自身誰を弔いてぇのか分かってねぇんだ…」
「…………ふ、む…」
違和感の正体。
普段はあっけらかんとしている彼に、翳りが差しているのだ。
それは以前の、ハルウララの時とは違い、彼自身にも分かっていないから混乱していると見える。
「こちらから、いくつか聞いても良いか?」
「ん?ああ」
「弔いという考えが出たのは何故だ?」
「…1週間くれぇ前からオラは妙に落ち着きがなかった。ムズムズっつーか、ソワソワみてぇな。そんで気がつけば誰かを探している」
やよいは頷きながら続きを促す。
「思ったのはついさっき。空から温かい感じがした」
「…この季節にこの時間。不可解な事だな」
「ああ。そんで感覚だけを頼りにして空に行った時、当たり前だけど何にもなかった。気のせいかと思ったんだけど、これだけは無視しちゃいけねぇ。そう思ったんだ」
「……理解。姿が見えない相手に何かするには、この世界で既存している、亡くなった人に対する所作を
「まぁ、そんなとこだ」
まとめてはみたものの暴論極まりない。
とはいえ、彼は至って真剣に言っているのだと身に染みて感じた。
「…率直に言うと、この世界で亡くなったヒトは火葬を第一にする。遺骨を骨壺に入れ、家や墓所に置く。姿がなくとも持ち物や写真を使用する事などもあるが、悟空さんのケースにはどれも当てはまらない」
「…………そっか。ならしゃあねぇか」
「だから別のやり方をしようッ!!」
ペタン。
やよいはベッドから飛び降りると、ウロウロしている愛猫を捕まえて悟空に預けた。
「ちょっとこの子の相手をしていてくれ。準備をしてくる!」
「えっ、や、やよい!?準備って、…………行っちまった」
手持ち無沙汰になった悟空は、猫の両脇に手を入れて持ち上げた。
何を考えているのか分からないクリクリとした瞳。液体のように伸びた身体が悟空を和ませた。
「なあ…、おめぇの飼い主は何をしてんだ?」
>なぁーん
「だよな。オラとここにいんだから、そりゃあおめぇにも分からねぇよな」
・
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・
「完了ッ!!待たせて申し訳ない!」
「おう。………お?」
戻って来たやよいは、すっかり目が覚めたらしく生き生きとしている。反対に、悟空はやよいを見て目を丸くした。
全身黒い恰好など見た事なかったからだ。
「おめぇ…、何だ、その服…?」
「これはな、この世界で死者を弔う時に使用する衣類で、喪服という」
「……弔うったって、出来ないんじゃなかったか?」
「それは正式な事が出来ないだけで、他をやってはいけないという理由にはならない!」
未だ呆けてる悟空の手を引っ張ってベランダへと向かった。
「ほらっ、悟空さん!思い立ったら即実行ッ、だぞ!」
「……は、ははっ!そうだなぁ。とりあえず行ってみっか!」
悟空はやよいを抱えて暗闇に紛れながら飛んだ。
向かう先は空ではない。
比較的高さがあり、彼らが勤務先となる場所。
トレセン学園の屋上である。
「っと、寒くねぇか?」
「問題ないッ!それより、今は感じるか?」
「ああ…」
やよいは悟空を見ると笑みを溢した。
「わははっ!誰だか分からないという割に、随分と穏やかな顔をするではないか!」
「!…うーん」
「どうした?腑に落ちんのか…?」
「ああ。この話しって、正直言うと不気味だろ?」
「まぁ、否定は出来ん。我々ならともかく、悟空さんが探知出来ないんだからなぁ」
「そうだろ?それなのにオラは、この感覚が心地良い。まるでずっと一緒に戦ってきた戦友みてぇにも感じるし、じいちゃんの傍にいるような安心感もある」
悟空が空に向かって手を伸ばす。見えない相手にコミュニケーションをとろうとしているようだ。
ほんの少しだけやよいは、居心地の悪さを感じた。
何一つ感じる所がない。それは置いてけぼりをくらっているよう。
「やよい。オラ達はこっからどうすんだ?」
「んー…、」
けれど、悟空が言うことに疑いはしない。
悟空がナニカを感じて安らぎを覚えるならば、きっと相手は良い人に違いない。
「…………問うても答えは返ってこない。ならば、こちらの心を一方的に伝えてしまえば良い」
「え…?」
悟空から小さな声が漏れる。
そんな事などおかまいなしに、やよいは空に向かって両手を広げた。
息を吸い。吐き出すと同時に想いをぶつける。
「名前も姿も知らぬお人よ!あなたのお陰で孫悟空という男と出会えた!心より感謝するッ!!」
夜中、学園の屋上に響く声。
隣にいる悟空は開いた口が塞がらなかった。
「ふぅ。…………よしっ!」
「……い、いや、何やってんだ…?」
「ん?ただ礼を言っただけだが?」
「礼って…、………そいつのお陰っつっても、オラ何もしてもらってねぇぞ?この地に来たのはエンマ様のせいだし」
「経緯はそうでも、何かしら悟空さんに関わっとるかも知れんではないか。心地良いのだろ?」
「まぁそうだけど…、んでも気のせいかも知んねぇぞ?」
「先程。気のせいだとしても、無視しては駄目と聞いたが?」
「…言ったなぁ」
「それに、気のせいなら笑い話になるが、本当にいた場合、私達に残るのは後悔だけだ」
「!!!」
答えを知る時は来ないかもしれない。
けれど何かの拍子に知る時が来るかも知れない。
そうなったら一言一句、こう思うはずだ。
何であの時にああしなかったんだろう、…と。
「それに私は嘘偽りを言った覚えはない。ずっと誰かに言いたかったんだ。……悟空さん。私は貴方と出会えて良かった」
「やよい…」
「見えないお人には申し訳ないが、この場を借りて伝えてさせてもらったに過ぎん。追悼には程遠いが、なっ!」
やよいは小さな体で思いっきりジャンプすると、悟空の背中を叩いた。
「いっ、てー……なぁにすんだよぉ」
「今度は悟空さんの番だ!」
「い"い"っ…!オラも言うんかぁ!?」
「当然ッ!!言わなければ、見えないお人が休めんだろう!」
「………もうそれ、死んでる奴前提じゃねぇか」
「私には判断つかないのだから他に選択肢はないッ!ほら!」
「あ、ああ……分かった」
悟空が一歩前に出る。
手を伸ばすと、やはり温かい。
何を言えば良いのだろうか。かける言葉が見つからない訳でなく、思う事が多すぎる。
温かい。心地良い。頼もしい。………。
色々思い浮かぶが、何故だかお礼を言いたくなった。
「………なあ、やよい。意味分かんねぇ事言ったら、アイツ困るかな?」
「心配無用!意味不明の事なら私が先に言ったぞ!一人から二人になろうが見えないお人は困らんッ!」
「……よし。んじゃオラもーー」
「何だこいつら…と呆れるかも知れんがな」
「おいっ!?」
「ふはははっ!冗談だ!」
「ったく、もー。……、」
一呼吸置くと、悟空は手のひらに"気,,を集めた。
ポワッと、輝く小さな光。それはホタルのようにフワフワと、宙を散歩しながら空へ向かう。
パチン。
悟空は指で音を鳴らした。
屋上からは見えないが、"気,,を破裂させた合図だ。
それが悟空に出来る最期の手向けとなる。
「え…っと、………オラは!いっぱい戦えて!色んな奴らと出会って!すげー楽しいぞ!だから…、」
「生んでくれてサンキューな!」
「……それは"親,,に向かって言う言葉だな…。私以上に意味不明で安心したぞ」
「だぁってよぉっ!これが思った事なんだからしょーがねぇだろ!オラだって変なのは分かってたさ!」
「………うむ。まぁ、内容は置いといて、例の感覚はどうなんだ?」
「ん。……うん?……あ、ちょっと待てよ…?」
悟空は手を伸ばすのをやめて、屋上から姿を消した。
次に現れたのは雲の中。腕を広げ、目を瞑る。
(………そっか)
何も感じない。
心安らぐ感覚が消えた。
でも、それは決して悲しいものじゃない。
無事に向こう側へ辿り着けた証拠だから。
「……オラは、生きていようと死んでいようと、拳が握れる限り戦い続ける。 だから後の事は、オラに任せてゆっくり休んでくれ」