この作品はキングヘイローの母が登場します。
そこで提案ですッ!作品を読む前に!
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『ダスカスキー3世』 様の作品で、「キングとお母さま」という題材をご覧ください。
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キャラデザインのイメージとしてお借りしてます。
※許可はいただきました。
ちょっとツンとした顔や話し方。見ると見ないとではイメージ具合がまるで違うと思いますので、どうぞそちらから見てください!
ネットで、"ダスカスキー3世。キングとお母さま,,と調べれば出て来ます。
注意
・捏造あり
・トレセン学園の広さは東京ドーム17個分(漫画、ウマ娘 STARTING GATEより参照)
・解釈違いの方はごめんなさい。
ー 前回のあらすじ ー
グラス「私の怠惰ゆえに、大切な志をマンボくんのご飯にされてしまいました……」
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その日。
京都のレース場は熱狂に包まれていた。
『ーー先頭はセイウンスカイッ!セイウンスカイが4コーナーを単独でまわる!!』
白熱した実況を筆頭に観客のボルテージは高まり続ける。
『さあっ!残す所404mの直線!クラシック最後栄冠 "菊花賞,,は誰の手に渡るのかッ!』
スタート地点から先頭を走り続けたセイウンスカイ。道中はなんと8バ身もの差が開き、観客の中では、このまま行ってしまうのではないかという期待が寄せられていた。
しかしレースとは何が起こるか分からない。
菊花賞を走るウマ娘は出走条件を得た強者達だけだ。
こんなに速いスピードで駆けていくセイウンスカイを捕まえるウマ娘は16人も候補がいる。
スカイ(やっぱり来るか…ッ!)
だがそんな事は彼女が1番分かっている。
最後の直線は客席の目の前を走る。そのため爆撃のような声援が直に伝わるのだ。
それなのに背後からは、ズンッッッ!!…という地を踏み込んだ音がハッキリと聞こえた。
スペ「はぁああああああああああッ!!!!!!」
外に出たスペシャルウィークは全身全霊をかけて末脚を振るう。
『スペシャルウィーク猛追!セイウンスカイまで4バ身を切っているぞ!』
だんだんと芦毛に近づく黒鹿毛。
このワンシーンは誰もが1度目にした。
日本ダービーの再演。
最後の直線で、誰よりも早くセイウンスカイを捕まえたスペシャルウィーク。
ご存知の通り、スペシャルウィークはセイウンスカイを置き去りにしてダービーを勝ち取った。
では今回は、……菊花賞ならどうだ。
『逃げる逃げるセイウンスカイッ!スペシャルウィークの追撃を許さない…!!』
スペ「ッ、こ、の……ッ!」
『スペシャルウィークは届かないッッッ!!!』
スカイ「私のっ、勝ちだぁああああああああああああああああ!!!!!」
『ダービーの借りは返したぞ!セイウンスカイ逃げ切ったーーーーーッッッ!!!!!』
溢れんばかりの大歓声が巻き起こった。
『今日の京都競バ場の上空と同じ!青雲の晴れやかな空の元でセイウンスカイが栄冠を掴んだ!!』
スカイ「…や、やったああああああ!!!」
勝った者だけが出来るウイニングラン。
走り終わったターフを折り返し、応援してくれたファンの前をゆっくり歩く。
その様子をゴール板を過ぎたウマ娘達は見ていた。
スペ「……………………おめでと……」ボソッ
>ね、ねぇ、見てよアレ…。
>うわっ、マジ!?
スペ「?………………!?」
白熱したウマ娘達が目を疑った事実。
それは客席や視聴者にも伝わり、実況が口を開く。
『さ、3分3秒、2………』
静まる客席。
『でっ、出ました!セイウンスカイのタイム3分3秒2!」
それは嵐の前の静けさであり。
『ーーこれは揺るぎない事実ッ!』
次の瞬間、弾け飛んだ。
『ワールドレコードだああああああ!!!セイウンスカイが同期の誰よりも先に世界一の称号を手に入れた!!!』
ドサッ。
黒鹿毛のウマ娘は膝をつく。
スペ「……ま、まけた………ワールドレコードって…」
順位だけでなく、称号すら手に届かない位置にある。
完膚なきまでに負けた。
スペ「……ぅぅっ、……あーーーんっ!私の菊花賞が取られたーーっ!私の二冠目がぁっ!!!」
スカイ「だーから私のだってば。この前からヒトのやつを取らないでくださぁい」
スペ「せ、いちゃん…ッ!」
前を見ると肩を揺らして息をする芦毛の彼女。
ほてった顔は興奮を抑えきれないのだろう。
スペ「むぅぅぅぅ!あんなに大逃げしたくせに何で走り切れたの!」
スカイ「ありゃ?お気付きでない?」
スペ「む?」
スカイ「まぁ、後ろにいたから分かんないか。3から4コーナーに入る時に休ませてもらったんだよ。誰も追いかけて来なかったからね」
スペ「なっ…!?」
スカイ「逃げて休む展開は龍球ステークスで要点だけ掴めてた。これは完成形だよ。私が休憩を挟んだ瞬間をスペちゃんが見てれば、結果は変わってただろうけど」
レースの世界に、たらればは存在しない。
その事を分かってて言って、分かってるから反論をしない。
スペ「……セイちゃんのお腹まっくろくろすけ」
ただし悪口は言う。
スカイ「はっはっは!何とでも言うが良い!この二冠ウマ娘が許してやろうぞー」
すっかり鼻を高くしたスカイは踏ん反り返った。
当然だが、よほど嬉しいのだろう。尻尾が左右に大きく揺れている。
スペ「…………」ジー
その尻尾を目だけで追いかけ、スカイを見上げた。
スカイ「ふふふっ、やった!私つっっよっ!!」
天を仰ぐ彼女。
スペは四つん這いになりながら移動した。
スカイ「こりゃあ主役交代も待ったなし…っ、いだぁあああああぁっ…!!?」
痛覚が刺激され、突然の出来事にのけ反ったスカイは首だけを動かして後ろを見た。
スペ「わうわうっ、がうっ…」
スカイ「し、しししっ、尻尾っ!私の尻尾がぁ!食べられてるーーっ!?」
スペ「ばうわう!ふんす!」
スカイ「こ、らっ!攻撃すんのは御法度でしょ!」
スペ「ひはふもん。おいひほうはとおほっははへらもん」(違うもん。美味しそうだと思っただけだもん)
スカイ「嘘つけ!」
ぶんぶんと尻尾を振るうがスペは離さない。
その時だった。
レース場に新たな刺激の種が落とされる。
『ーーーそして3ハロンが、スペシャルウィークよりも0.1秒早い末脚を披露!最後の直線を34.0秒で走り抜いたのはキングヘイローだ!!』
スペ「へ?」
スカイ「んー?」
『スペシャルウィークにクビ差まで迫ったが、惜しくも3着!次走に大きな期待が募ります!』
キング(……悪い所が特にないわね。ステータスの差、かしら……)
スカイ「……」ジー
スペ「………」ジー
キング「…………なによ」
顎に手を当て自己分析をしていたが、湿り気のある視線に耐えきれなかった。
スペ「……キングちゃん。この前1200走ってなかった?」
スカイ「G3だったけど、勝ってたよね?」
キング「え、ええ。それがなに?」
スカイ「……」チラッ
スペ「………」コクン
スペ・スカイ「「はぁぁぁぁ……」」
キング「は?」イラッ
わざとらしく深いため息に青筋を浮かべるキング。
スカイ「やだやだ、ほんっとにやめてほしいよね〜」
スペ「ね〜」
キング「だから何だって聞いてるんだけど?」
スカイ「あのさぁ、キング。ウララじゃないんだから全部の距離走れるのやめてくれない?」
スペ「同世代に2人もいたら、走れない自分が弱いんじゃ…って思っちゃいますよ」
スペ・スカイ「「ねー!」」
キング「…………ふっ、おーほっほっほっ!この私を誰だと思っているの?キングたるもの不可能なんてないわ!貴女達とは違ってね」
スペ・スカイ「「」」イラッ
キング「良かったわねぇ。また私のお陰で黄金世代の株が上がったわよ。せっかくだから虎の威を借してあげる」
スペ「……確かに、"逃げ,,で走れたりダートも走ってたから凄いと思う」
スカイ「うん。逃げて14着とダート13着は凄いね。色んな意味で」
スペ・スカイ「「ソンケーシマス」」
キング「あ、あなた達…ッ!!!」
スペ「ダービーとった私はキングちゃんの威を借ります。私は狐です」
スカイ「皐月賞と、た っ た 今 ! "菊花賞で勝った,,私もそうします。無冠キングと違って 二冠 ウマ娘なのに」
スペ「!!!」ピクッ
キング「………スペさん。二冠ウマ娘の爪の垢を煎じて飲めば、一冠くれるらしいわよ」
スカイ「はあ?何言って、」
スペ「ほんとですか!?」
スカイ「!?」
キング「ええ。キング嘘つかない」
スカイ「いや嘘しか言ってないから!」
スペ「……ですが、どうやって煎じたら良いんでしょうか」
キング「今は難しいけど、耳をかじれば3倍の効果を得るんだって」
スペ「3、倍…!そ、それじゃあ私はっ…!」
キング「そう。…あなたは三冠ウマ娘になる」
スペ「キングちゃんは天才ですか!?」
キング「まぁね」
スカイ「なるかっ!もうバカばっかじゃん!!キングがふざけたら収拾つかないんだから自重して、って、いだだだだだっ!」
スペ「ひっはほーはわはひのふぁー!」(菊花賞は私のだー!)
スカイ「だから私のだって!……ワールドレコード付きでね?」ドヤッッッ
スペ「…………」ガブッ
スカイ「あ"ーッ!そ、それより称賛はどうしたのさ!栄冠を掴んだウマ娘には褒め称えるべきでしょ!」
スペ「はっひいっは!」(さっき言った!)
キング「私も」
スカイ「セイちゃんのお耳には聞こえて来てないんですけど!?」
誇りと名誉をかけたレースの後には似つかないわちゃわちゃ加減。これには多くのカメラが寄せられた。
実況「は、ははは…。中々シュールというか、あまり見ない場面ですね」
解説「異質な状況になりますからね。レースとは己の全てをかけて競う所。負けて笑える者なんてそういません。……ですが、私個人の意見として彼女達の無邪気な心を尊重したいです」
実況「本当にライバルであり友達…という感じですよね。あっ!セイウンスカイがキングヘイローに噛みつきました!」
解説「普段の威風堂々たるキングヘイローとは思えない光景です」
実況「新たな一面が垣間見えた所で、セイウンスカイはウィナーズサークルに連れて行かれるようです」
見ている人からすれば、緊張感が足りない言う人はいるかもしれない。それは多種多様、感じる人はそれぞれだろう。
その点。
"彼ら,,はテレビの向こう側で頬が攣りそうなくらい笑っていた。
悟空「あはははっ!いーひっひっひっ!!あー、腹いてぇ!あいつら学園にいるんと間違えてんじゃねぇのか!?はしゃぎ過ぎだろ!」
腹を抱えて地面にうずくまる悟空。
ベッドにいる彼女も口元に手で隠すようにしていた。
スズカ「ふふっ、楽しそう。スペちゃんには後で電話してあげないとね」
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ー キングside ー
夜11時。
ウララさんが寝静まった頃。携帯が音を鳴らした。
こんな時間に不躾な…。そう思うも相手を確認したら別におかしい事ではなかった。
「……ちょっと待ってて。移動するから」
そう告げると相手は黙る。
アメリカは日本とは逆の時間だ。お昼前の忙しい時間だろうに電話をして来たのが珍しい。
もっとも、用件は分かり切っているのだが。
ここで話せばウララさんに迷惑だ。
音を立てずにベッドから降ると起毛のあるシャツを羽織った。廊下に出ると冷たい空気が肌に突き刺さる。
(帰ったらウララさんの布団に潜り込もうかしら)
いつもは向こうが勝手に入って来るんだ。一回くらいやり返してもバチは当たらないだろう。
そんな事を考えつつ、辿りついたのは真っ暗なロビー。
電気など付ける必要がないから、暗闇に溶け込むように椅子に座る。
「待たせたわね。寝る前だったけれど別に気にしなくていいわ」
『あら、そうなの。心底申し訳ないと思っていたのだけど、それなら謝罪する必要はなさそうね』
これっぽっちも悪いと思っていない事がハッキリと分かる。
性格の悪そうな言い回し。さぞかし血縁者は苦労しているのだろう。
「……用は何なのかしら?お母様」
さあ同情してくれ。私が血縁者だ。
今日もまた苦労する時間がやって来た。
『レース見たわ。悪くない結果じゃない」
「ええ。そう思うなら褒めてくれていいのよ?」
『…………いつまで続けるの?』
やはりコレか。
「何の事かしら?」
『クラシック路線G1の白星は無し。黄金世代とかいう実力者の数に加えられても、彼女達とは一線を画す』
皐月賞の時だったか、それともダービーの時か。……いや、思えば最初からだったのかも知れない。
『これが貴女の限界よ。学園を辞めて私の所に来なさい』
私は最初から、このヒトの希望にはなれなかった。
「嫌よ」
そして私は、応援してくれないこのヒトの希望になるのは諦めたんだ。
『それは聞き飽きたわ』
「同感ね」
『……ダービーは心の弱さが原因とはいえしょうがないと片付けれる。でも、皐月では頑張って2着。菊花では頑張って3着。……1着を獲らないと意味がない。そう言ったのは貴女自身でしょう』
事実だ。
キングたるもの頂点に立たなければ意味がない。
「旅の途中なのにせっかちね。私の脚はまだ動く」
『……聞き飽きたと言えば、もう一つあったわ。ねえ? "期待外れのキングヘイロー,,』
「ッ…!」
確かに聞き飽きた。
初めて聞いたのは、ラジオたんぱ杯というレースでロードアックスさんに負けた時。
次は頑張ってという声援に隠れて、あのヒト達の子供なのに…という声は少なくなかった。
元より、私にはずっとそれが付き物だった。
キングヘイローとして見てくれる人はいない。記者やトレーナーは私を、偉大なる両親の子供という色眼鏡で見てくる人だけだったのだ。
(本当、トレーナーには恵まれたわ)
その中で、私を私として見てくれる人の手を取った。いや、取り合った。
「悪いわね。出来の悪い娘で」
『ッ!!……………そ、ういう事を言ってる訳じゃないわ。そんな風に言われてまで走る意味はあるのかと聞きたいだけよ』
「ある。どんな理由があろうとキングヘイローが退く理由にはならない。……あぁ、不退転ってやつよ」
背中が暖かくなる。彼女の信念は私にも有効だった。
(ーーッ!………こんな時にエルさんが送って来た動画思い出してしまったわ。鷹に土下座する栗毛って何なのよ。想像を遥かに超える懇願っぷりだったわ)
余計な事を考える私は中々成長したと思う。
ダービーの時の電話では散々怒鳴り散らしてたから。
心境の変化?……否。
間違いなく、悟空さんと出会ったからだ。
『じゃあ聞くわ。貴女はあと何度負けるの?」
「ゼロ。自分の勝利を疑う奴は勝てない」
『次走の予定は?』
「有マ記念。そこで私は勝利を掴む」
『無理よ。既にグラスワンダー、エルコンドルパサー。そして菊花賞後のインタビューでセイウンスカイが有マ出走を表明していたわね』
「あとはハルウララさんね」
『………彼女については未知数。憶測にしかならないから控えさせてもらう』
「そう」
『話しを戻すけれど、そんな怪物集団が出走するのに、わざわざ負けに行く思考が分からない』
「会話を振り返りましょ。私は自分の勝利を疑っていない」
『……何でそんなに自信が持てるの?菊花賞で完敗したばかりじゃない』
"完敗,,
その熟語を脳内で暗唱した。
即座に口元を手で覆う。こんな時間に叫んではダメだ。
迷惑になるし、寮長にバレたら怒られてしまう。
必死に、全力で、精一杯我慢した。
「………くっ、あはははっ!」
無理だった…。だから開き直るように椅子の背もたれに体重をかけて天井を仰ぎ見た。
行儀は悪いが誰も見ていないからセーフだろう。
『………何がおかしいの?』
「あはっ、全部よ。せっかくだから今日の事をトレーナーと話した結果を教えてあげる」
『…………』
「まず、私の走りは完璧だった。上手にゲートから出て、道中もバ群に飲まれる事なく、自分の走りにだけ集中出来た。脚を溜めれて、スパートのタイミングなんてそれはもう絶妙!トレーナーからは絶賛されたわ」
ダービー後のトレーナー室は酷く荒れていた。今日は全くの逆。大いに盛り上がった。もしも誰かがその場面を見ていたら優勝したんだと勘違いするくらいに、明るく話し合っていた。
『貴女の考えてる事が分からない。そこまで完璧だったのなら、どう頑張っても勝てないって言ってるようなものじゃない』
「ええ、勝てない。認めるわ」
情けない事をハッキリと言ってやろう。
「3000mは私の負けよ」
完敗。ワールドレコードなんて出されたらむしろ、同期として鼻が高いと感じるくらい。
『…………………キング』
「決め手はスタミナかしらねぇ。だから菊花より500mも短い有マなら私の本領を発揮出来る」
『彼女達にも言える事だわ。貴女だけ特出する訳じゃない』
「当然よ。そうじゃないと意味がない」
『意味、ですって…?』
「ええ。最高の状態のライバル達に勝つ。G1で勝つ事が全てではないのよ。お母様」
『ッ…!』
息を呑むあのヒト。
『………G1で勝つ事は貴女の目標であり、ウマ娘にとっても名誉な事。…あの子達がそんなに重要?』
「そうね。キングヘイローというウマ娘を構成するのに必要不可欠…程度には重要よ」
『馴れ合いが過ぎるのではなくて?だからレースで負けた直後にあれだけふざけれるのよ』
「記憶にないわね」
『惚けてるの?』
「いえ。だってふざけてないもの」
とはいえ客観的に見たら、理解し難い行動をしている自覚はある。
「私は本当に悲しかった。同時に、ワールドレコードを取った同期が誇らしかった。私はこんなヒト達の頂点に立つんだと血潮が燃えた。私のG1を掻っ攫ったセイウンスカイにムカついた。完璧な走りなのに追い付けなくて悔しかった。そして楽しかった。その結果。私は素の状態でいられた」
『あ、あなた、何言って…!』
あのヒトの口から初めて聞く。動揺を露わにする声。
それもそうだろう。"次は勝つ,, "私は諦めない,, バカの一つ覚えに言っていた前回までとは、まるで違う答えなのだから。
負け過ぎて脳みそがおかしくなったと思われないだけマシだ。
「感情は一つだけじゃない。全てをぶつけ合えるライバル達に出会ってしまったのよ。私は」
……いけない。キングとした事がすっかり忘れていたわ。
「ねぇ、お母様。そういえば先程笑ってしまった意味、まだ言ってなかったわよね?」
『…………』
「ね?」
『………さっさと言いなさい』
生まれて初めてね。あのヒトよりも優位に立てるのは。
「完全敗北したのに楽しいと思えた。それなら完全勝利した暁には、おかしくなりそうなほどの歓喜が押し寄せるんじゃないか。膝をついた同期達の前に立つ私を想像したら笑いが込み上げて来てしまったのよ」
『……中々、稀に見ない歪んだ性格をしているわね』
「ええ。なんたってお母様の血を引いてますから」
直後。
電話口から人を小バ鹿にするような笑い声が聞こえた。
『キング。貴女は都合のいい妄想を見ているだけ。現実を直視している訳ではない。……レースとは、絶対の強さを持つ者には勝てないように出来ている。貴女はただ、運が悪かったのよ』
さすがお母様.私も幾度なく思った事を言う。
ダービー後。強者に勝てない私は、私が弱いんじゃなくて、他が強過ぎるという結論に至った事がある。
スカイさんやスペさんがクラシック路線にいなかったら…って考えたのも片手で数えれる程度じゃない。
『もう懲りたでしょう。有マを走る前にさっさと、ーー」
「『たった一つの策で簡単に戦況がひっくり返るのが闘いよ』」
先日の、グラスワンダーへっぽこ事件の際に私は聞いた。
彼はサラッと言っていたから、特別深い言葉と思っていないかもしれない。
ただ私にとっては、勇気をもらえる言葉だった。
『闘い…?』
「そうよ。死んでも尚、戦い続ける戦士の言葉」
『何を言ってるの?』
「何をって…、徹頭徹尾私はまだ終わってないって話しでしょう」
『まだそんな事を…』
「そうね。そろそろ終わりにしましょうか」
息を吐く。
ほんの少しだけ声量に注意した。
「私の戦場は既に用意されているのだから黙って見ていなさい!!」
…………今、言われたあの人はどんな心境なのだろう。私は心臓がバクバクだ。なんだかんだいって母親に強い口調をぶつけてしまったのは事実。
後悔はないが気持ち良いものではない。
『……………キング』
「お母様。申し訳ないのだけど、そろそろ眠たくなって来たわ」
逃げてない。返答を聞かないために言った訳ではないんだから。急激に睡魔が襲って来ただけなのよ。
『あ…、……そうね。分かったわ。でも勘違いしないように。所詮G1白星の無い貴女は、彼女達の虎の威を借りているだけに過ぎないのだから』
「おやすみなさい、お母様。良い夢見るから心配しないでね」
プツッ。
返答を待たずに切った。
途端に、ただならない疲労が押し寄せて来て、背中に湿り気を感じる。
真っ暗な画面を見ていても連絡はない。一応は無事に終えたという事で良いだろう。
(ふんっ、グチグチと。ハッキリ言えばいいじゃない。これ以上家の評判を下げたくないから走るなって)
分かってる。
私がどれだけの覚悟を決めようとも結果だけが全てだ。それには私も同意してる。
だけど…、
「自分の娘くらい励ましなさいよ……」
何となく呟いたものの、暗い空間が私を惨めに感じさせる。
風邪を引く前に早く戻ろう。そう決めて足早に部屋へ向かった。
これまた出る時と同じく、ウララさんを起こさないようにゆっくりドアを開けると、
「ーーーッ!!?」
部屋のど真ん中に佇む黒い影に、一瞬だけ心臓が止まった。
「う、うら、らさん…?」
「!…………きんぐ、どら?」
「違う」
寝ぼけているみたい。ポケモンの夢を見ていたのだろう。
「んー?………ぁ、きんぐちゃん!」
「正解よ。もう、何やってるのよ。お腹壊しても知らないわよ?」
「えへへ、キングちゃんこそどこに行ってたの?おトイレに行った後見たらいないし、心配だったんだから!」
「寝てたじゃない…。………ちょっと温かい飲み物を飲んできたのよ。寒かったし」
「えー、ズルい!ウララも!」
「また明日ね。今日はもう寝ましょう」
「むー…、うん、わかったぁ…」
そうして私達は何故か同じベッドに向かう。
「…いや、こっちは私のベッドなんだけど…」
「うん、知ってるよ。それじゃあお邪魔しまーす!」
あろう事か、私よりも先にベッドに入る彼女。
「おやすみー!」
「ハァ、まぁ良いけどね」
続いて私も入った。
「冷たっ!なんでこんなに冷えてるのよ!」
「……おトイレ行ったって言ったじゃん」
「全くもぉー。ほら、こっちいらっしゃい」
「はーい」
さすがは子供体温。あっという間に熱が広がる。
これなら本当に良い夢が見れそうだと、自らの意思で瞼を下げた。
ーーーーーーー
ー 同時刻 ー
「………なんなのよ、あの子」
一体自分は誰と話していたのか。分かりきった答えを見に、履歴を確認する。
1番上には "娘,,という一文字で表された登録先があった。
「……口だけは成長したみたいね」
諦めないという一点張りから、打って変わった物言い。
どこまで貫けるのかは知らないが、心意気だけで勝てる程レースの世界は甘くない。
「ふんっ!生意気に育ったもんだわ!そこまで言うなら好きにしなさい!!」
歪に絡み合った複数の感情から、八つ当たりするように携帯をカバンの中に押し込んだ。
そして。
ーーーーーーー
ー トレセン学園 ー
門前に一台のタクシーが止まった。
自動に開いたドアから出てくるのは、一目で高級だと分かる程のスーツに身を包んだ栗毛のウマ娘。一つ一つの動作に気品が宿るそのヒトは、門で佇むたづなの元へ一直線に向かう。
たづな「ようこそトレセン学園においでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか」
「娘がお世話になっております。先日お電話いたしました。キングヘイローの母」
グッバイ「グッバイヘイローと申します」
母降臨。
凛とした口調とは裏腹に、グッバイヘイローは気まずい思いをしていた。
グッバイ(くっ…、まさか来てしまうとは…)
キングとの電話が終わってからは仕事に戻ったものの。頭の片隅の方で引っ掛かっているものがあった。
それは、ーーあのキングを変えたのは誰だ。…という疑問。
我が娘ながら頭の硬さが半端ではない。自我が強く、他人の意見を受け入れないはずだ。
グッバイ(1番影響力のある人物はあの子のトレーナーだけれど、それにしては好戦的だし…)
トレーナーとは、キングが契約する際に一度電話で話した事はある。影響を与えるには性格が違うと感じた。
たづな「ーーーあの、」
グッバイ「ッ!な、何か?」
たづな「いえ、少し体調がよろしくないように思えますが、大丈夫ですか?」
グッバイ「コホン。……お気遣いありがとうございます。少し時差の影響で…」
たづな「そうでしたか」
そこからは、アメリカから持って来た手土産を渡して、簡単な世間話に花を咲かせた。
・
・
・
たづな「ーーあ、すみません長々と。そろそろお嬢様をお呼びしますね」
グッバイ「その事なんですが…」
たづな「???」
グッバイ「娘には私が来てる事を知らせないでいただきたいです」
たづな「なるほどぉ。………秘密ですか?」
グッバイ「秘密です」
たづな「分かりました。そういう事情でしたらお約束します。では私が案内を、」
グッバイ「実は見学を兼ねて1人で歩きたい……とか?」チラッ
たづな「…………在学中のお母様とはいえ、学園内を1人行動するのは看過できないものであります」
グッバイ「……そうですよね。セキュリティがしっかりしている証拠です」
たづな「ですがそれは学園側のみの意見であり、大切なご息女を預けている親御様にとっては不安かと思います。学園の者が先導すると、都合の良い所だけを案内しているという疑心も生まれるでしょうから」
グッバイ「!…それでは、」
たづな「はい。いくつかの条件付きになってしまいますが、許可しますよ」
グッバイ「……ありがとうございます」
・
・
・
たづな「ーーと、ここまでで何か質問はございますか?」
グッバイ「いえ、何も」
たづなが出した条件はとてもシンプルなもの。
・校舎には入らない。
・電子機器を出さない。
・首から下げた特別入館証のネックストラップを出したままにする事。
この3つだけだった。
もしも条件を破ればキングのレース人生に関わる事だと、言わなくても伝わっている。
たづな「学園内には警備の者が巡回しております。質問や要望などの際はその者達にお声かけください」
グッバイ「何から何までご迷惑をおかけします」
たづな「とんでもございません。……ではトレセン学園をどうぞ、ごゆっくりご覧くださいませ」
グッバイ「失礼します」
軽く頭を下げて、グッバイは学園の門を潜り、娘がいる地へと足を踏み込んだ。
たづな「…………」
その後ろ姿を見続けるたづな。
たづな「………雰囲気、似すぎでしょう」
ボソリと呟く本音。
実の所、一目見た時からすぐに分かっていた。キングヘイローが大人になれば、こうなるって言われたら素直に納得するくらいに面影があるからだ。
しかし、楽観的にはいられない。
キングと母親の関係が上手くいっていない事は知っている。トレーナーの間でも、心無い言葉を出す者がいるのは事実だ。
たづな(何事もなければ良いのですが…)
この時たづなは、たった一つ大きなミスをした。
1番注意しなければいけないのは、一体誰か。
"ソレ,,は学園がもっとも隠さなければいけない存在のはず。
東京ドーム17個分というバカでかい広さの中なら邂逅しないと思うのか。
もしそう思ったのなら、たづな唯一の失態である。
ーーーーーーー
グッバイ(さすがは中央トレセン学園。細かい所まで設備が行き届いているわ)
ウマ娘からストレスをなくそう!…みたいなキャッチコピーを徹底的におこなっている。
この調子なら膨大な広さの端っこの方でも綺麗に保っているのだろう。
グッバイは立ち止まると学園案内図を広げた。
グッバイ(……失敗したわ。キングがどこのターフを使っているのか聞けば良かった…)
グッバイ(…………別に、見たいとかではないけどね)
グッバイ(鉢合わせするとマズいから気になるだけで、走りなんて見ようとも思わないし)
グッバイ(ただ…、キングに影響を与えた人がいるかも知れないから、仕方がないけど見に行こうかしら。…………顔や走りを見る必要はないから、遠目から周囲の人だけを見れば良いわね)
とりあえず片っ端からターフを周ろう。
そう決めた彼女。
その時。
「オッス、キング!今日は随分とおめかししてんじゃねぇか。どっか行くんか?」
グッバイ(ッ!しまった!こんなに早くっ、)
若い男の声がした。
ウマ娘には似たような名前は多いが、この場合別人だとは全く思わない。
すぐにキングから離れないと、そう考えてグッバイは男性の視線の先を見るために振り返った。
グッバイ「……………………ぇ」
「?………どうした?」コテン
グッバイ(そんな、………いえ、そういうこと!?)キョロキョロ
「何やってんだよ、キング」
周りには誰もいない。そして、この警備員と思わしき男とは視線が交じり合っている。
結論はこうだ。
グッバイ(こ、この人!私をキングと間違えてる!?)
若く見られていると思って喜んで良いのか。娘が大人びて(老け気味)に見られているのか。
複雑な気持ちが交錯して動けないでいた。
「んー?………あーっ、おめぇ!」
グッバイ(……まぁ、そうよね。分からない方がおかしいわ)
「真ん中の髪だけ白く染めて何やってんだ!スペの真似だか知んねぇけど不良だって言われちまうぞ!」
グッバイ「誰によ!」
もう耐えきれなかった。
「おめぇなぁ、ウララだって真似したら困んだろ。そうなったらおめぇが1番怒、る…って、………なんか髪伸びたか?」
グッバイ「それ以外にも違う所があるでしょ!」
「?………まぁ、髪は伸びたとして…、声も変だな。風邪引く前にゆっくり休め。そんでもう腹出して寝ねぇように気ぃつけろよー」スタスタ
グッバイ「なんで寝てる所まで知って、ちょ、っと、待ちなさい!」
「……?………っ、……はあ!?」バッ!
男は突然立ち止まり、驚愕の一声を上げると明後日の方向へ見上げた。
「えっ!?こりゃどういう……?」
初対面だが、途轍もなく困惑している事が分かる。
直後、男はボソリと呟いた。
とても小さな声。しかしウマ娘であるグッバイの耳にはしっかりと聞こえた。
グッバイ(キガチガウ…?)
日本語を熟知しているグッバイでさえ解読不可能な言葉だ。
「…も、しかして………!」ギギギ…
バツが悪そうに首をすくめた男はゆっくり振り返る。
「な、なぁ…、おめぇ…いや、あんたさぁ、………この学園の中に娘はいるか?」
グッバイ「…………さあ?この学園の中に失礼な警備員がいるのは知ってるわ」
「だめだ、大当たりだチクショウ…。こんな嫌味ったらしい言い方は間違いねぇ。何から何までそっくりだ」
グッバイ「自己解決に浸っている所悪いのだけど、そろそろ良いかしら?」
「な、にが、だ………ですか?」
グッバイ「ただの警備員にしては随分キングヘイローと親しげね。……貴方、何者?」
「おら、あ、違っ、……私は孫悟空と言います!」
グッバイが学園に入ってから30分。
宇宙最強の彼……もとい。トレセン学園警備員所属兼ハルウララ非公式トレーナー、孫悟空と出会った瞬間だった。
そして今の悟空の心境は、というと…。
悟空(やっ、べぇな…!こりゃあ、かなりマズい事になっちまったぞ…)
普段は能天気な悟空だが、こればっかりは危機感をつのらせた。
相手は大人で、しかもよりによって頭の硬いキングの母親ときた。
もしも悟空の正体がバレてしまえば…。
・得体の知れない人を匿った事として学園が全責任を負い、大変な目に。
・トレーナー知識の無い者にウマ娘を託すという学園の杜撰な対応が公に。
・ハルウララの能力が純粋なものではないと疑われる羽目に。
・洗いざらい調べられると存在していない事が分かり、世界中を巻き込む大騒動へ。
・娘であるキングヘイローに何かがどうかなるのかも知れない。←new
悟空(……………ウララの心が折れた時よりもピンチだな…。…………くそ。さっき連絡が入ったのはコイツの事だったんか。しくじった…)
それこそ30分前だ。
巡回中インカムに連絡が入った。しかしちょうどその時、悟空はーーダルマさんが転んだ…をしていた。
相手は青髪でオッドアイの元気なウマ娘と、保護者のような振る舞いだが、転んで鼻血を出して泣いていたウマ娘の2人。
警備員の契約通り、ウマ娘との遊びを優先して、機器の音量を小さくしていた。
途切れがちに聞こえた内容は話しかけられたら対応しろ、程度の事。
まさかそれがキングの母親で、その上キングと間違えて声をかけるなど想像すら出来ない。
悟空(つっても、なっちまったもんは仕方ねぇ。いつまでもオラが足を引っ張る訳にはいかねぇからな。……気合い入れんぜ)
生まれはサイヤ。育ちは地球。
闘いの中で生きた彼は、本気で社会人を演じる事に決めた。
グッバイ「そん、ごくう。…………偽名じゃ、ないわよね?」
悟空「はいっ!本当の名前!です!」
グッバイ「そう。………それで?」
悟空「それで…って。……何を聞きてぇのか分からないです!」
グッバイ「………キングヘイローとは、よく話すのかしら?」
悟空「誰だか知りません!」
グッバイ「嘘おっしゃいッ!」
悟空(ここで惚けんのはマズッたな…)
グッバイ「私と間違えたのでしょう?何で隠すの?それとも……、隠さなければいけない関係、なのかしら?」
悟空「ッ!」ピクッ
グッバイ「反応したわね?」
悟空「してねぇ、です!」
グッバイ「そのふざけた口調も気になるわ。天下の中央トレセン学園に居ていい人材ではないでしょう」
悟空「実際にいるから私に言われても知りません!」
グッバイ「……はっ、貴方みたいなのを雇うとは、中央トレセン……いや、"ジャパン,,そのものの格が落ちたわね」
悟空「?………そのパンの事は知りませんけどっ、学園のパンは美味しいと思います!」
グッバイ「え?」
悟空「………え?」
グッバイ「……………」
沈黙状態が続く。
グッバイの視線が悟空の上から下を何度も往復した。
その間、悟空は姿勢を崩さず、背すじを思いっきり伸ばした状態で堂々としている。
慌てているのは心の中だけだ。
悟空(…なんか、ミスったか?いきなりパンの事言って来たから意味分かんねぇけど…)
グッバイ「………ねえ、」
悟空「はい!」
グッバイ「このままふざけるようなら、上の人を呼んでもらうけど」
悟空「一切ふざけてない、です!」
グッバイ(………そう、なのよ、ねぇ…)
グッバイはデザイナーの社長を務め、人を見る目に関して超一流だ。
ある人の才能を見抜き、ある人の欠点を捉える。そして、ある人の虚勢や嘘を見極めれる。
グッバイ(この人は隠し事が出来ないタイプ。取り繕う事も下手ね。………それなら、今のは本音?)
悟空「???」
グッバイ「…………ジャパン」
悟空「…………そのパンは食べた事がないので分かりません!」
グッバイ「!…………貴方、ここがどこだか分かる?」
悟空「ここ?……トレセン学園」
グッバイ「そのトレセン学園がある場所は?」
悟空「日本です!」
グッバイ「……では日本の首都は?」
悟空「しゅっ、シュト!?」
グッバイ「ええ。………かなり難しい質問だったかしら?」
悟空「!そ…、そうですね。私には難しい、です!」
グッバイ「分かったわ。次々に聞いて悪いのだけど、首相って誰だったかしら?」
悟空「………しゅしょー…?」
グッバイ「偉い人よ」
悟空「ああ、えっと……春……夏?………あ、秋川やよいだ!じゃなくて…、秋川やよい…さま?です!」
グッバイ「秋川やよい……学園の理事長ね?」
悟空「はい!めっちゃくちゃ偉い人で、しゅしょーです!」
グッバイ「………ふふっ、では最後に1つだけ…」
グッバイ「聞かせてちょうだいッ!!」
地面を蹴るとグッバイの姿はブレた。
悟空「なっ…!?」
バシッッッ…!
突き出された拳。受け止めた手のひら。それは悟空の顔の前で拮抗している。
グッバイ(一歩も下がらずウマ娘の力を!?)「………貴方、本当に何者なの?」
目を大きく見開いた後、グッバイの目付きは鋭さを増した。
受け止められた拳を引こうとはせず逆に押し込めるが、それ以上ピクリとも動かない。
悟空「……………警備員だ。そっちこそ、いきなりコレとは随分な事するじゃねぇか」
グッバイ「偽物の警備員を成敗するだけよ」
悟空「偽物?…質問にはちゃんと答えてただろ」
グッバイ「そうね。答えてはいたわ。小、中学生でも分かるような問題が正解率0%だったけれどね」
悟空「マジかよ…」
グッバイ「その程度でエリート揃いの中央トレセン学園に入る事は出来ない。………さっき言った事は訂正する。お前は学園に居て良い人ではなく、学園にいるはずの無い人間ッ!」
先程の突きを簡単に受け止められた事に、孫悟空という人物を只者ではないと判断。
グッバイは拳を引き戻すと同時に脚を振りまわす。狙うは側頭部。手加減無用の一撃が悟空に迫った。
悟空「…………」
当然。悟空にしてみれば止まって見える速度。
のけ反る形で避けた後、その勢いを利用して後方宙返りを披露する。
しかし、足が地に着地する前にグッバイは間合いの中に入って来ていた。
グッバイ「フッ…!」
吐いた息は身体の緊張をほぐす。
ウマ娘の猛スピードで短い距離を即座に詰め、体重を乗せた前蹴りが炸裂した。
脱力に加え見事な体捌き。"普通,,の人間ならば、即刻病院送りになるだろう。
だがそれでも。
悟空「やめだ。少し落ち着け」
彼の腕一本ですら乗り越える事は出来ない。
グッバイ「無理よ。私は止まるわけにはいかない」
悟空「…何でそこまで、」
グッバイ「娘がいるのよ。この学園にっ!しかもその娘は、お前のような得体の知れない怪物と繋がっている…!」
溢れ出る感情を必死に押し殺す。
信じて送り出した場所には警備員を名乗る正体不明の男。その男にウマ娘の力など遠く及ばない。
疑問が増える。
この男が侵入者なら理解は出来る。しかし、トレセン学園に侵入する力はあれど、頭脳は持ち合わせていない。
考えられるのは、学園側が認知しているという事。
目的は何だ。
世界中どこを探してもウマ娘を軽くあしらえる人間なんて存在しない。
そんな男を受け入れている学園は、本当に信じられるのか。
グッバイ「でも、この一連で分かったわ。私ではお前をどうする事も出来ないって。……そして、貴方も力を振るうつもりはないって事も」
悟空「…………」
グッバイ「それでも、これ以上キングに関わるのなら私は意地でも引く訳にはいかない」
グッバイ「だから教えなさいよ。私が求めている答えを」
悟空(…………ああ、そっか。"おめぇ,,に似てんのか)
既視感。
途中から悟空を悩ますナニカがずっと引っ掛かっていた。
それが今、ようやく分かった。
自分の子供を守るため必死に拳を振るい。
絶対的な力の差を理解しながらも、睨み続ける強い意志。
それは生前、同じ道を歩いた妻の姿ではなかったか。
悟空(通りで手を出したくなかった訳だ)
対処法なら既に思い付いていた。
テレパシーでたづなを呼んでも良いし、この女性が気付かない速さで昏倒させてもよかった。
だけど自分の心が受け止めろ…と指示して来たからそれに従ったんだ。
悟空は目を瞑り、自分の中だけでたづなに謝った。
悟空「オラも、あんたには変な事言いたくねぇ。けど、全部話す代わりに約束してくれ」
グッバイ「!………内容を先に聞くわ」
悟空「オラはちゃんと話す。確認したければ、やよいとたづなを連れて来ても良い。それこそキングでも良いさ。ただし部外者の奴に言うのだけはやめてくれ」
グッバイ「理由は?」
悟空「話しが広まると取り返しのつかねぇ事になる。やよい達には迷惑をかけたくねぇんだ」
グッバイ「……約束する。納得出来なくても第三者には話さない」
ただの口約束に過ぎないが、相手はキングヘイローの母。
その肩書きだけで信用性は格段に高くなる。
悟空「よし。んじゃ、話す」
とは言ったものの。話す所と話さなくていい所の境目が分からない。
とりあえず最初の頃みんなに言っていた事を伝えた。
自分は戦闘民族サイヤ人で五年前に死んでいる事。
えんま様の手によって自分の知る地球と異なる地球に送られた。
ウララと知り合い、鍛え、やよいに雇ってもらい。
それからはーーー……。
・
・
・
悟空「ーーと、まぁこんな感じなんだけど…」
グッバイ「…………」(なるほど…。あの子が言っていた、死んでもなお闘い続ける戦士とは実話だったって事ね)
悟空「な、何か言うんなら先に言ってくれ…」ビクビク
グッバイ「?……何で耳塞いでいるのよ」
悟空「だって、どーせ騒ぐんだろ?信じらんねー!とか、嘘つけー!とか。……あれ結構ビックリするんだぞ」
グッバイ「そうでしょうね。容易に想像出来るわ」
悟空「ん…?あんたは普通だな。オラが言うのも何だけど驚かねぇんか?」
グッバイ「驚いてはいる。でも、貴方が学園にいる理由やウマ娘よりも遥かに強い力などを考えると、そうでなければ説明がつかない。私はこの世の常識よりも自分の心を信じるわ」
悟空「はえー、キングが言いそうな事だけど、アイツは最初から最後まで叫んでたなぁ。やっぱさすがは母ちゃんって所だな」
グッバイ「その母から質問があるのだけど」
悟空「何だ?」
グッバイ「キングに変な事してないわよね?」
悟空「出たな、変な事…」
グッバイ「何その反応…………まさかっ!」
悟空「なんもしてねぇって。あれだろ?スケベなやつの事言ってんだろ?」
グッバイ「まぁ、いかがわしい事ね」
悟空「オラがそんなのする訳ねぇだろ」
グッバイ「………寝てる時とか、お腹を出してとか言ってたじゃない」
悟空「それが?」
グッバイ「…あの子の寝顔、見たの?あとお腹」
悟空「ああ。ちょっと用があって部屋に行った時にな。ちゃんと布団は着してやったぞ」
グッバイ「………」ジー
悟空「???」
グッバイ「………下心は無さそうだし、良しとするわ」
悟空(コイツ。頭ん中覗けるなんてことねぇよな…?)
察しが良過ぎて怖い。
並外れた理解力と、敵とあらば即座に拳を出す行動力。表情の変化から心理を読み取る読心術。
一流の者が成長し続けると限界の壁は存在しないらしい。
悟空「まぁ、誤解だと分かってくれたんなら良いや」
グッバイ「ええ。………ごめんなさいね。急に殴りかかってしまって…」
悟空「気にすんな。自分の子供がいる所に変な奴がいたらオラだってそうする………かな?」
グッバイ「あぁ、やっぱり子供いるのね」
悟空「やっぱり?」
グッバイ「なんとなくそんな気がしてたのよ。そして今のセリフ。同意するのに悩んだという事は、正確に自分に置き換えれる場面を想像出来たって事でしょう?」
悟空「…………あんた、頭大丈夫か?」
グッバイ「貴方は言葉を間違えて損するタイプね。ちゃんと褒め言葉として受け取っておくわ」
どんな縁が引き寄せたのかは知らないが、これで娘を変えたであろう人物に出会う事が出来た。
グッバイ「ねえ。この後付き合ってもらっても良いかしら?」
悟空「あちゃー、すまねぇ。この後は用事があんだ。必要なら別の警備員連れてくっけど?」
グッバイ「貴方が良いのよ。用が終わるまで待たせてもらうわ」
悟空「そっか。そういや、あんた名前はなんだ?」
グッバイ「グッバイヘイローよ」
悟空「!………ふーん」
懐かしい記憶。けれども喜べない出来事。
《ーーここまで良くやったなぁ、悟飯》
《お、とうさん…?》
《………母さんに、すまねぇって言っといてくれ。いつも勝手な事ばかりしちゃってよ》
《ッ…!?》
《グッバイ、悟飯!》
《おとうさ…ッ!》
悟空(……………悟飯…)
グッバイ「……ちょっと。ヒトに名前聞いておいて、ふーん…は失礼ではなくて?」
悟空「あ、わりぃわりぃ。んじゃ、ヘイロー。用事済んだら戻ってくっから待っててくれ。それか西のターフでキングがトレーニングしてるから、そこに行ってても良いし」
グッバイ「ふん。別にキングに会うつもりはないわ。仕事の邪魔して悪かったわね。孫悟空」
悟空「構わねぇさ。休憩入った所だしな」
そう言って悟空は背を向けて歩き出した。
悟空「そんじゃあ、出来る限り早く食い終わるからなー!」グゥウウウ!!!
グッバイ「待ちなさい、孫悟空!!」
遠ざかる悟空に待ったをかけた。それも1番大きな声で。
悟空「なんだ?」クルッ
グッバイ「……ごめんなさい。用事って何をするのか聞いても良いかしら?」
悟空「飯食うんだよ。オラ腹が減っちまってさぁ。ずーっと我慢してたんだ」
グッバイ「後にしなさい」
悟空「はあぁっ!?やだよ!」
グッバイ「やだじゃないわよ!客人放って食事なんて許される訳ないでしょう!」
悟空「あんたが勝手に来たんじゃねーか!オラは呼んでねーもん!」
グッバイ「自分が今どんな格好しているのか見なさい!学園に迷惑をかけたくないのなら出来る限りの義務は果たすべきよ!客人をおもてなししなさいな!」
悟空「うわっ、あんた本当にキングの母親だな…。怒った所がそっくりだ」
グッバイ「何うちの娘を怒らせてるのよ」
悟空「アイツがすぐ怒るんだよ」
グッバイ「例えば?」
悟空「んー、夜に後ろから話しかけただけで怒られたぞ」
グッバイ「……………情けない娘だこと…」ハァ…
悟空「なぁ、もういいか?さすがにもうぶっ倒れそうだ」グギュゥウウウ!
グッバイ「さ、さすがに倒れられるのはゴメンだわ…」
悟空「ちゅーか話しがしてぇんならヘイローが来いよ。食いながらでも平気だろ?」
グッバイ「どこで食べるの?」
悟空「食堂」
グッバイ「それなら無理ね。校舎に入る事は契約違反になる」
悟空「契約?誰と何の?」
グッバイ「秘書の方よ。私が1人で学園を周る条件として決めていたの」
悟空「そんならオラがいれば問題ねぇんじゃねぇか?1人じゃねぇし、オラ警備員だし」
グッバイ「……際どいわね。実際に許可がほしいわ」
悟空「許可か、オラが取ってやるよ」
そう言って悟空は無線に電源を入れて、ボタンを押した。
悟空「こちら孫。栄澤さんはいますか?」
繋いだ相手は古くから学園に仕える警備長である。
栄澤『孫さん、栄澤です。今は私1人なのでいつも通りで良いですよ』
悟空「ん。そりゃ楽で良いや」
栄澤『それでどうしたのですか?今は休憩中のはずでは?』
悟空「ああ、その事なんだけど、さっきグッバイヘイローと会ってさぁ」
栄澤『なんとっ!だ、大丈夫でしたか?』
悟空「…………たづなには後で謝るさ」
栄澤『あぁ…、やはり。という事はグッバイヘイロー様と?』
悟空「おう。食堂を使いてぇから、校舎に入ったら駄目っちゅー契約を無視していいか?ずっとオラがついてるからよぉ」
栄澤『良いですよ。他の者には私から連絡しておきますので、孫さんはグッバイヘイロー様のご対応をお願いします』
悟空「サンキュー!」
栄澤『あ、ただ注意として食堂では中央付近の使用は避けてください。目立つと、その…、色々と大変なので』
悟空「分かったぞ」
栄澤『それとグッバイヘイロー様については、孫さんがお見送りまでお願いします。くれぐれも途中で別れるなどと失礼な事をしてはいけませんよ』
悟空「そ、そうなんか?」
栄澤『はい』
悟空「…りょーかい」
会話は終わり、無線をポケットに仕舞い込んだ。
悟空「さて、行くか!」
グッバイ「孫悟空。そういう時にはテレパシーとかいうのは使わないのね。そうすれば直接話せるでしょうに」
悟空「………あんた…、仕事とぷらいべーとはちゃんと分けなくちゃダメ、なんだぞ…?」ヒキッ
グッバイ(あ、怒りが沸いたわ)
・
・
・
ー 食堂 ー
栄澤の助言により、人目につく事を避け、端の方にひっそりと座る2人。
しかし、机の上には何十枚とある空き皿に加え、片や警備員。片やオーラのある高貴な婦人。目立たない事が出来ない2人であった。
グッバイ「ねえ、孫悟空」
悟空「ん、なんは?」ガツガツガツガツ!!
グッバイ「さっきも思ったのだけど、死んでてもお腹は減るの?」
悟空「っん、……ふぅ、………いや、聞いた話しじゃ減らねぇらしいぞ」
グッバイ「でも貴方は?」
悟空「すげぇ減る。んでもって食わねーと力入んね」
グッバイ「戦闘民族……だったわね。身体が強さを維持するために空腹現象が起きるのかしら?」
悟空「さぁな。考えた事もねぇや」
グッバイ「でしょうね」
悟空「………」ガツガツガツガツ
悟空「うまいなコレ!!」
グッバイ「…………ハァ、」
肘をつき、悟空に呆れた目線を送る彼女。
ほどよい熱さのコーヒーを飲むと静かに息をつく。
悟空「…………ん…?」ジー
グッバイ「…なによ」
悟空「なんふぁ、ーー」
グッバイ「待つから。口の物を飲み込んでから話しなさい」
悟空「ん。…………むぐっ!?」
グッバイ「?」
悟空「むぐぐぐぐっ…!!!」ジタバタ!
グッバイ「えっ…!ちょ、詰まらせたの!?」ガタッ!
椅子が倒れるほどの勢いで立つと、机を回り込み、悟空の背中を叩き出した。
グッバイ「お皿の上で良いから吐き出しなさい!」バンバンッ!
悟空「むむ、っ、〜〜〜っ!」ゴキュリ!!
グッバイ「………の、飲み込んだの?」
悟空「………死ぬかと思った…」
グッバイ「………」ペシッ
悟空「あたっ」
ガタリ…!と少し乱暴な動作で椅子に座り直す彼女。
グッバイ「それで、何を言おうとしてたの?」
悟空「ああ、あんたがオラに用があるって言ってた割に何も言わねぇからさ、どうしたって思って」
グッバイ「目の前で大食い選手以上のものを披露されたら言葉だって詰まるわよ」
悟空「へへっ、そいつは悪かったなぁ」
グッバイ「気にしないで。私から頼んだ事だからゆっくりで大丈夫よ」
悟空「そうけ?んでもオラも落ち着いたから何でも聞いて来て良いぞ」
グッバイ「なら聞くわ。キングに何を伝えたの?」
悟空「…って、言われてもなぁ。まるっきし何の事か分かんねぇぞ」
グッバイ「あの子は変わった。負けて笑えるなんてあり得ない」
悟空「……菊花賞のアレの事言ってんのか?」
グッバイ「そうよ」
テレビ中継が捉えた。菊花賞ゴール直後に流れた映像。
セイウンスカイ、スペシャルウィーク、キングヘイローが仲睦まじく戯れあっていた件だ。
悟空「そんで?」
グッバイ「キングは私に言ったわ。自分に勝つライバル達が這いつくばる時を想像したら笑いが込み上げる…と」
悟空「ははっ、言うじゃねぇか」
グッバイ「G1よりも同期達に勝ちたいんだって」
悟空「へえ。まぁそれももうすぐだろ。オラから見てもそんなに差はないと思うぞ」
グッバイ「あの子はどうしてそんな考えに至ったの?貴方は何て言ったのよ」
悟空「………いや、知らねぇけど…?」コテン
グッバイ「は?」
悟空「ちゅーかオラ、キングと2人だけの時ってあんまりねぇし、そういう気持ち?みてぇなのは話した事ねぇぞ」
グッバイ「………嘘よ」
悟空「そう思うか?」
グッバイ「………………思わない」
悟空「だろ?」
グッバイ「……それじゃあ普段キングと何を話しているのよ」
悟空「普段…。2人の時か?」
グッバイ「ええ」
悟空「ならウララに渡す小遣いの管理かな。一気に渡して金使い荒くなったら大変だかんなぁ。オラもどんくれぇ渡したら良いのか知らねえし」
グッバイ「……財布をキングが握ってるってわけ?」
悟空「一部だけな」
グッバイ「…………他には?」
悟空「んー、たまに修行は一緒にするけど根本はキントレが教えてるし、後は他の奴もいる時に話すくれぇだ」
グッバイ「あまりキングとは近い仲って事ではないのね」
悟空「んな事もねぇぞ。ウララを除いて次に一緒にいる時間が長ぇのはキングだ。あいつがウララの近くにいるってのもあるけど横見りゃあ大体いる」
グッバイ「………」
悟空「あ…、でもあれだ。あいつが有マで勝ったら一緒に喜ぼうぜって話しをした。抱っこして、上空に飛ばして、やったな!って褒めてやんだ」
グッバイ「!……ハルウララと師弟関係になっておいて、キングの勝利を喜ぶのはどうなの?」
悟空「もちろん最初は悔しいって思うさ。オラ達の力が負けたんだから」
グッバイ「でしょうね。それが当たり前、ーー」
悟空「んでも多分、そのすぐ後には誇らしく思う。やる事全てやったオラ達に勝った奴はとんでもなく鍛えたんだろうからなぁ」
グッバイ「ッ!…そ、れが………貴方の考えている事なのね」
悟空「まぁな。つっても、もしキングが勝ったらウララが先に喜びそうだけどな!実際ウララにも負けられねぇ理由があるからどうなるかは知らねぇけどよ」
グッバイ「………そう、………そういう事、ね」
結び付いた。
孫悟空の言う事に嘘やデタラメは無い。そしてキングが言った、あのセリフ。
《私は本当に悲しかった。同時に、ワールドレコードを取った同期が誇らしかった。私はこんなヒト達の頂点に立つんだと血潮が燃えた。私のG1を掻っ攫ったセイウンスカイにムカついた。完璧な走りなのに追い付けなくて悔しかった。そして楽しかった。その結果。私は素の状態でいられた》
グッバイ(キングは特別な事を教えられた訳じゃなくて、孫悟空の生き様に影響された)
孫悟空から聞いた生前。
闘いを好み、命の危険さらされながらも強い者を求める思想は自分からすると狂戦士でしかない。
だけどそれが全てではない。
この男は、偶然、好きな事が闘いだったに過ぎないのだ。蹂躙して、支配して、頂点に立つ事を目的としていない。
純粋に強くなる事だけを求めたのだろう。
グッバイ(背中を見る相手が学も無い男とは。ーー観る眼だけは付けたようね)
肩書きに目を取られず、本質を見極める能力。
それは一流になる者にとって大切な事だと、グッバイはトレーニング中の娘を想像して軽く笑みを作った。
・
・
・
悟空「あ、そういやさぁ」
悟空はオレンジジュースをストローで飲みながら口を開く。
グッバイ「?」
悟空「何であんたはキングに会わねぇんだ?」
グッバイ「いきなり何よ…?」
悟空「いやさっき、会うつもりがねぇとか言ってたからさ。せっかく来たんなら顔くれぇ見せても良いんだろうに」
グッバイ「ふん。そんな事、あの子の方が嫌がるわよ。私だって来た目的は会うためではないし」
悟空「なーんだよ。喧嘩でもしてんのか?」
グッバイ「ただ意地をぶつけ合ってるだけよ」
悟空「ははっ、あんた達みてぇな頑固が意地張ったら一生終わらねぇな!」
グッバイ「ほっといてちょうだい。………って訳にもいかないわよね…」
悟空「ん?」
グッバイ「……私はね。キングをレースの世界から遠ざけようとしていたのよ」
悟空「!!!」
グッバイ「有マ記念には出ず、私の所に来るように言ってね」
悟空「…………それは…、あんたがキングの負ける所を見たくねぇからか?」
グッバイ「なっ…!何、で……そう思ったの?」
悟空「少しだけヘイローに似てる奴を知ってんだよ。それを軽く置き換えただけだ」
グッバイ「……半分正解。残りは、負け続きになるとキングがレースを嫌いになる可能性があったから」
悟空「だから、嫌いになる前に強引に辞めさせようって思ったのか」
グッバイ「元々あの子には障害が多すぎる。走る前からくだらないプレッシャーに襲われたはずよ」
悟空「何だそりゃ?」
グッバイ「ウマ娘は血統の能力が強く引き継がれる。G17勝の私といった一流の血が、多くの人に色眼鏡をかけさせた」
悟空「えっ、ヘイローってそんなに強かったんか!?」
グッバイ「ふふっ、これでも若い頃は…ってね」
悟空「はえー、そりゃあ注目されんのも無理はねぇな」
グッバイ「トレセンに入る前は純粋に夢を語っていたわ。私を目標にしてくれて、とても嬉しかった。……でも、成長につれて私は現実を知った」
悟空「………」
グッバイ「夢を語る笑顔を曇らせたくない。
………好きなものを嫌いになるのなら、強制的に親が止めて来た…という口実を逃げ道に作ってやれば良い。そう考えたわ」
その考えを認めてもらおうとは思わない。どんな気持ちを秘めていようとも、娘の道を壊している事実は変わらないのだから。
悟空「ーーーははっ!」
でも、この笑いには黙っていられない。
グッバイ「………孫悟空。私は面白い話をした覚えはないけれど?」
悟空「い、いや、すまねぇ。おかしくて笑った訳じゃねぇんだ」
グッバイ「じゃあ何よ」
悟空「あんたは、いつからキングをやめさそうとしてたんだ?」
グッバイ「最初からよ。本格的に言い出したのは4戦目の弥生賞が終わってから。同期達に怪物がいる事も分かったしね」
悟空「4戦目か…。ならやっぱヘイローにそんな気は無かったんじゃねぇか」
ざわ…ッ!
ピリついた雰囲気が悟空を襲う。しかし悟空は顔色一つ変えずに、瞳孔の開いたグッバイをひたすらに見つめた。
グッバイ「………孫悟空。今話した程度で私の事を知った気でいるなら間違いよ。私は本気で、ーー」
悟空「じゃあキングは既に学園を去ってなきゃおかしい」
グッバイ「だからあの子がそれを認めないから、」
悟空「それが変なんだって。あんた程の奴がキングを言いくるめられない訳がねぇ」
グッバイ「ッ…!!」
悟空「確かにヘイローとは会ったばっかだけど、拳を交えたから分かる。その気になりゃあ、キングなんて一言も言い返させずに連れて帰るくれぇ朝飯前だろ」
グッバイ「…………………」
悟空「なんだかんだ言ってもやっぱ、走る所を見ときてぇんじゃねぇか」
グッバイ「………しょ、しょうがないじゃない!私の娘だもの!でも楽観視して取り返しのつかない事になったら…」
悟空「そん時は一緒になって困ったら良いんじゃねぇか?」
グッバイ「!……いっ、しょに…?」
悟空「ああ。あんた達2人で考えれば出来ねぇ事なんかねぇだろ。……意地さえ張らなきゃな」
最後の一言は置いといて。その考えは盲点だった。
親たるもの子を引っ張る存在でいなければならない。その固定概念が、柔軟な考えをなくしてしまったのかもしれない。
グッバイ「…………ふん。やめよ」
悟空「へそ曲げちまったんか?」
グッバイ「私の事ばかり話すのは不公平よ」
悟空「不公平たって、ヘイローが勝手に話し始めた事なのに」
グッバイ「もう充分。今度はそっちの番」
悟空「へっへーん!わりぃけど、オラは子供と仲良しだったもんねー!あんたみてぇに困ってねぇよーだ!」
グッバイ「………グッバイ」ボソッ
悟空「なあっ、ん!?」
グッバイ「………ふふっ、気のせいかと思ったけど、やっぱり反応してたのね」ニタァ
妖艶。不敵……否。率直に言うと、グッバイは気持ちの悪い笑みを浮かべた。
悟空「ずりぃぞヘイロー!狙ってやがったな!」
グッバイ「さあ?その時偶然感じて、今偶然思い出しただけよ。さあさあ教えなさいな。こういうのは相手の事を何も知らない者同士の方が話せるもんよ」
悟空「そりゃあヘイローは話し終わったばっかだからなぁ!」
グッバイ「ふふん。それで?グッバイがどうしたのよ」
悟空「くそ…。……………死ぬ直前、息子に言ったんだよ」
グッバイ「あら…。それは心に残るわね」
悟空「まぁな。後悔はしてねぇし、強くなったアイツを見れて嬉しくも思う。けど、もうちょい遊んでやりたかったなーって、な」
グッバイ「さっき仲良しって言ってたじゃない」
悟空「仲は良いさ。んでも死んでたり、戦いだったりでアイツとの時間が少なかったんだ」
グッバイ「そうなの?まぁ、でも守れたなら貴方の勝ちでしょ」
悟空「それまでにアイツにはすっっっげぇ助けてもらったけどな」
グッバイ「もらう?助けたんじゃなくて?」
悟空「ああ」
グッバイ「…………聞いていい?」
悟空「…………オラが聞いた話しでもあんだけど、」
グッバイ「え、ええ…」
悟空「4歳ん時に悪い奴に攫われて。強くなるために、微妙に悪い奴との修行で、半年間1人で荒野をさまよった」
グッバイ「よ、4歳!?………その時孫悟空は、」
悟空「死んでた」
グッバイ「……深くは聞かないわ。……でも、それで成長したなら………まぁ、」
悟空「…………まだ終わりじゃねぇぞ」
グッバイ「キュッ!」(………変な声出たわ…)
悟空「5歳、悪い奴と命を懸けて戦った。そして宇宙に飛び立ち、違う星でまた命懸けの戦い。オラが見つけた時は首の骨が折れてて、んで、何とかして生き延びてもらった」
グッバイ「ま、待って!そもそも5歳の子にそんな力って、」
悟空「………」
グッバイ「………なるほどね。戦闘民族サイヤ人の血」
悟空「……ヘイローの血と似てんな」
グッバイ「いえ、これっぽっちも似てないわ。一緒にしないでちょうだい」
悟空「…‥……まぁ、そんな状態が何回もあったって感じだ」
悟空「最終的には9歳で地球の運命を背負わせて戦わせちまった」
悟空「あ、ちなみにアイツは偉い学者になりたいっちゅー夢があったぞ」
グッバイ「…………ねぇ、」
悟空「なんだよ」
グッバイ「その、……自棄になってない?」
悟空「なってる」
グッバイ「……フッ」
悟空「!…ヘイロー、オラは面白ぇ話をした覚えはねぇぞ」
グッバイ「ごめんなさいね。……うふふ、孫悟空。貴方も力はあれど親としては三流みたいね」
悟空「お互い様だろ」
グッバイ「全くだわ」
悟空「上手くいかねぇもんだな」
グッバイ「いつの間にか私自身が、あの子の障害になってるんだもの」
グッバイ「上手くいかないものね」
悟空「何かにつけて地球ぶっ壊そうとしやがって。オラに用があんなら決着つけてさっさと帰れってんだ」
悟空「お疲れさん」
グッバイ「それこそお互い様よ」
ーーーーーーー
グッバイ「ーーねぇ、本当に良いの?」
話しは終わり、用事が済んだグッバイは帰路につく。
悟空の案内で向かった先は裏門だった。
そして、今。グッバイの手には入館証のネックストラップを掲げられている。
悟空「平気だって。たづなにはオラから言っとくからよぉ」
グッバイ「私としては挨拶をしたいのだけど」
悟空「それもオラから言っといてやる」
グッバイ「いえ、杜撰な貴方には分からないだろうけど、こういう時はちゃんと私の口から言うべきだわ」
悟空「心配ぇすんな」
グッバイ「無理よ。……孫悟空。貴方、私を会わせないようにしてないかしら?」
悟空「っ、そ、んな事ねぇぞ!」
グッバイ「はい、反応ありね。理由は?」
悟空「……………オラがココにいる理由をヘイローに話したからだ。あん時も言ったけど、他の奴に知られんのはヤバくてな」
グッバイ「私のせいでそうなったじゃない。尚更私からも謝らせて」
悟空「ばっっかやろぉっ!客に謝らしたらアイツすげぇ怒るぞ!明日から食堂禁止にされちまうよ!」
グッバイ「…清々しい程の保身ね。………けど、分かったわ。これ以上貴方に迷惑かけたくないし。ただし!絶対にお礼言っときなさいよね!」
悟空「任せとけ!」
グッバイ「………不安だわ…」
その時。
あらかじめ呼んでおいたタクシーが到着した。
グッバイ「…………じゃあ行くわね」
悟空「おう」
自動に開くドア。
グッバイは導かれるようにタクシーへ乗り込もうとした。
悟空「あ、ヘイロー!」
グッバイ「っ、……なによ」
悟空「意地張んのも程々にな!死んじまったら何も言えなくなんぞー!」
グッバイ「ッ!…………貴方がそれを言うのは卑怯ではなくて?」
悟空「……………」
グッバイ「…………承知したわ。………孫悟空。貴方が娘と出会ってくれて良かった」
悟空「……オラもさ」
グッバイ「ありがとう」
悟空「ああ。またな」
グッバイ「ええ」
遠ざかるタクシーを見えなくなるまで見送った悟空。
これで栄澤より伝えられた任務を達成し、たづなをどうにかして怒らせないように。という新たな任務に向けて足を進めた。
ーーーーーーー
ー その日の夜 ー
キング「げっ…!」
ベッドに寝転がりながら着信相手を見て奇妙な声を発した。
ウララ「どうしたの?」
キング「……いえ、ちょっと出てくるわね」
ウララ「うん。………、」
部屋から出るキング。
まだ廊下は明るいままだ。
話しながらで良いだろうと考えて応答ボタンをタッチする。
キング「ーーご機嫌ようお母様。ついこの前話した気がするけど何か用かしら?」
グッバイ『ご機嫌よう。電話というのは用があるからするのだけど、それ以外に何かある…?』
キング「最近ではヒマ電話というのがあるのよ、お母様。時間潰しに話すのですって」
グッバイ『あら、そうなの。まぁ、そんな事するつもりないし、私には関係のない事だわ』
キング「でしょうね。私としてもその方がありがたいわ。…で、用件はなんなの?」
グッバイ『……貴女、有マ出るのよね?』
キング「はぁ…、またその話し?……出るわよ」
グッバイ『そう。……12月の最後の日曜日よね?』
キング「予定ではそうよ」
グッバイ『……仕事で日本に行く用事があるから、ついでに見に行くわ。みっともない所は見せないでちょうだいね』
キング「…………………………あ、そう。用はそれだけ?」
グッバイ『え、ええ…』
キング「なら切るわ。おやすみなさ、ーー」
グッバイ『ちょ、ちょっと待ちなさい!』
キング「……何なのよ…」
グッバイ『…………ごめんなさい。嘘ついたわ』
キング「はあ!?」
グッバイ『…有マ記念の日、休暇届出したの。その……応援に行くから、……が、頑張んなさい』
キング「ッ!」
返答する前に切れる電話。
放心状態で暗い画面を見つめると。
キング「き、気持ち悪っっっ!!え、なに!?別人?詐欺?母親詐欺なの!?」
もはやパニックだ。
まだ廊下で周囲の事など気にも止めずに叫び散らす。
キング(………な、んなのよ……今更…)
やるせない思いのまま、キングは部屋へと戻った。
ーーガチャリ。
キング「………ただいま」ハァ
ウララ「おかえ、りぃぃいいい!?」
キング「?……今度はなによ。悪いけどちょっと疲れて、」
ウララ「ね!ね!何があったの?電話だったんでしょ!?」
キング「何もないわよ。というよりテンション高いわね…」
ウララ「だぁって!キングちゃんが凄く嬉しそうな顔してるんだもん!何があったのか聞きたくなっちゃうじゃん!」
キング「………はっ、はぁああああああっ!!?そんな顔してないわよ!」
ウララ「してるから言ってるんだよぉ!顔赤いし!頬っぺたなんてダルダルじゃん!」
キング「し、しししし、してない!ぜーーったいしてない!そんな顔してないんだから!!」
必死に表情を隠すキング。
隙間から見える赤く染まった皮膚は羞恥か、それとも歓喜のせいか。
キングはベッドに飛び込むと布団に包まった。
年相応の、子供のように笑ってしまう顔を見せないように…。