注意
・捏造あり
・ブロワイエが多く喋ります。キャラ設定の解釈違いの場合は申し訳ありません。
・日本語とフランス語の違いは前文、後文で区別出来るようにしてあります。分かりにくい方はメッセージなどください。ついでにアドバイスも。
ー 前回のあらすじ ー
沖野「有マ記念は諦めてくれ」
スペ「私は決着をつけたい。チームスピカのスペシャルウィークとして」
ーーーーーーー
週末にジャパンカップを控えた彼女は今日、大勢の人に囲まれ、人の数と同じくらいのカメラを向けられていた。
記者「スペシャルウィークさん!こちらに目線をお願いしまーす!」
スペ「わ、は、はい!」
慣れない動作で顔を傾ける。同時にカシャカシャカシャ…というシャッター音が鳴り、笑えと言われてぎこちない笑みを浮かべる。
そう。彼女はジャパンカップに向けた取材の真っ最中なのだ。
沖野「お前さぁ、そろそろ慣れたらどうなんだ?」
スペ「だ、だってぇ…」
ウマ娘の中にはシャッター音が怖いヒトもいる。カメラのフラッシュなんて苦手なヒトも少なくない。
この場合彼女がタジタジしているのは、何を隠そう。注目の的になっている事だ。
幾度なく経験した事だが、一向に慣れない。
ど田舎で生まれ育った代償として、大勢の人の前に出るとどうしても肩を狭くしてしまう。
しかし。
沖野「そんな弱腰じゃあ誰も夢を託してこないぞ。もっと堂々としろ!」
スペ「!………はいっ!」
一度喝が入れば何のその。
世代最強の一角スペシャルウィークはレース以外だと出遅れがちなのだ。
記者「ジャパンカップに向けて、スペシャルウィークさんの仕上がり具合はいかがですか?」
沖野「完璧と言って良いでしょう」
記者「出走ウマ娘の中には凱旋門賞でエルコンドルパサーを倒し、1着に輝いたブロワイエがいます。やはり気になりますか?」
沖野「いえ、全く気にしていません。私達の走りは誰にも影響されないので」
淡々と返すベテランの風格。自分の言葉に嘘偽りは存在しないと言わんばかりだ。
記者の中でも、おー!という、期待の込められた声が上がる。
スペ「ぅええええっ!!?私めちゃくちゃ気にしてますよ!?対戦相手はしっかり捉えないと!」
それを彼女は全て台無しにした。
沖野「ばっ、ちが…!こういう時は余裕の態度を示すんだよ!あなたなんて相手にしてませんってな!」コソコソ
スペ「えーっ!?先に言ってくれないと困ります!」コソッ
沖野「いつもは割り込んで来なかっただろ!」コソコソ
スペ「うぅぅぅ…、恥ずかしいっ」
記者「は、あはは……」
密かに話していた事だが、目の前の報道陣にはハッキリと聞こえていたようだ。
渇いた愛想笑いに思わず顔を覆い隠す。
記者「えっ、と……続きましてスペシャルウィークさん」
スペ「ひゃいっ!………ぁぅ」
またも赤くなる顔。
今度は手をぎゅっと握りしめて耐えた。
記者「ジャパンカップ。ブロワイエ対スペシャルウィークには因縁対決という意味も込めて日本中…いや、世界中が注目しています。これにはどのようなお考えですか?」
スペ「……………………因縁…?」
こてん…と効果音が付きそうな程に首を傾げる彼女。
初めて直接会うのに因縁も何もないが…。
そんな彼女の意を見越してか、沖野は心の中で深いため息をついた。
沖野「エルコンドルパサーだよ。おまえの同期じゃないか」
スペ「はい…?……そうですけど、それが何ですか?」
沖野「だからぁ、エルコンドルパサーが負けた相手とやるんだから敵討ちって事になるだろ!」
クラシック路線を駆け抜けたセイウンスカイ、キングヘイローと並び、エルコンドルパサーも黄金世代と数えられる1人だ。
そして彼女達が非常に仲の良い友人同士であるのは周知の事実である。
スペ「ああっ!そういう事ですか!」
記者「言葉足らずですみません」
スペ「いえいえとんでもありませんっ!」
記者「ではもう一度お尋ねしますが、此度の決戦は同期エルコンドルパサーの敵討ちという名目でもあると思います。スペシャルウィークさんはエルコンドルパサーの惜敗をどのように受け止め、どのように背負いますか?」
スペ「はい!」
考えるまでもない。
答えは既に決まっている。
彼女は自信満々に答えた。
スペ「エルちゃんの応援だけは受け取ります!けれど彼女が負けた事に私は何の関係もありません!」
記者「!……そ、れは…、」
スペは満面の笑みだ。
反対に記者達の表情から笑顔は消えた。困惑一色である。
スペ(あれ…?何か間違えたかなぁ)
先程の答えは分かりづらかったらしい。今度は頭の中でちゃんと言葉を整えた。
スペ「えっと、……エルちゃんのレースはエルちゃんだけのもので…、多分エルちゃんも私に敵討ちは望んでいないと思います!」
記者「す、スペシャルウィークさんは凱旋門賞の事でエルコンドルパサーと何か会話をしましたか?」
スペ「会話かぁ、…………あっ、ブロワイエさんが速かったって言ってました!」
記者「………それだけ、ですか?」
スペ「ほぇ…?んー、その時から私がジャパンカップを目標にしてたのを知っているので、ブロワイエさんが出て来たら頑張ってね、と言われたくらいしか…」
記者「そ、そうですか。…ありがとうございます。では次にーー」
質疑応答は続き、彼女の考えてる事は全て語った。
エルコンドルパサーとの事についてもそう。
来年は自分がリベンジするから今年は頑張れ!と激をくれて。
同期として、黄金世代としての誇りを背負うと話し合い。
ブロワイエに必ず勝つから有マ記念で共に走ろうと約束した。
彼女は自信を持って答えた。(つもり)
全て言った。(つもり)
頭の中でちゃんと整えた。(つもり)
だから彼女はドンと胸を張る。
記者「ーーーーではスペシャルウィークさん。最後に一言お願いします!」
スペ「はい!私は応援してくれるみんなの夢を背負い、必ず勝ちます!!」
そんな彼女の堂々たる風格に、多くの人々は無意識のうちに期待と夢を込めるようになっていた。
そんな彼女を見て彼は思う。
沖野(……………オワッタ…)
違和感に気付いた時には、すでに遅かった。
ちょうどエルコンドルパサーを題材にしていた時だ。今、彼の頭の頂上から魂が飛び出してしまった。
ーーーーーーー
そして、翌日。
教室でバサリと広げられた新聞紙。
注目する箇所は隅っこに書かれる程小さく、けれど現在ネットで持ちきりになっている話題があった。
グラス「『実は不仲!?黄金世代の裏側に隠れた関係性!』……あらまぁ」
キング「エルさんが負けた事は自分に関係ないとハッキリ言ったのが悪手よね。言い方ってものがあるでしょうに」
スペ「違うんだよぉ……、そんなつもりじゃないんだよぅ」ムギゥゥゥ
スカイ「うんうん。私達は分かってるから。でもね〜、スペちゃんの言い方じゃ、エルの事はどうでも良いって言う風に聞こえるよ。そしてちょっと離れてほしいな」モチャァ
ウララ「ウララもテレビ見てたけど、記者さん達困ってたね」
キング「あんなに笑顔で言われたら誰だって困るわよ」
グラス「エルは笑っていましたね。『良く言ったスペちゃん!』とか言って」
エル「来年、もう一度凱旋門賞でブロワイエに挑戦するつもりですからネ。ジャパンカップでスペちゃんが勝ってワタシの敵が取れたなんて事になったら、ワタシの立場が無くなっちゃいマース」
スペ「ぅぅ……ネットでは擬似友情とか書かれてるの見ちゃったし、酷いとかも書かれてましたぁああああ…」モチモチ
スカイ「中には分かってくれる人いたよ。『エルコンドルパサーは自分で勝つから敵討ちはいらない』『スペシャルウィークは正しい』……とか。だから離れて?」
再度、スカイは懇願する。
"ゼロ距離,,にいるスペに向けて。
スカイ「キミの頬っぺたは柔らかくて気持ち良いけど、絶妙な生温かさが気持ち悪いんだ」
スペ「何でそんな事言うんですかぁ…慰めてくださいよ〜」
まさにモチ肌と言うべきスペの頬がスカイの頬に合わさっている。
初めの頃は抑止していたが、あまりの強さに根負けしてしまったようだ。
スカイ「大丈夫だよスペちゃん。安心して。……はい、慰めたから離れようか」
スペ「………心がこもってないです…」ムギュ
スカイ「この子めんどくさっ!」
グラス「ふふっ、仲睦まじいのは良い事ですが、そろそろ離れてはいかがですか?セイちゃん」
スカイ「いやセイちゃんは離れようとしてるから。出来ればスペちゃんに言ってほしいんだけど」
グラス「………はい?」ピキッ
スカイ「ぇ…?」
グラス「何ですかその、離れたいけど相手が離してくれない、なんて言い方はっ」
スカイ「これ以上ないくらいに的射てるじゃん!グラスちゃんは何が言いたいのさ!」
グラス「………べつに…、何でもありません…」プクー
スカイ「この子もめんどくさいよ!どうしたの今日は!?梅雨終わってんのにジトジトしてる!」
大和撫子として、日頃から凛とした清楚な振る舞いをするグラスだが、たまに不満を表す時がある。
その8割の原因にはスペシャルウィークが関わっているもよう。
キング「ふん。相変わらず飽きないわねぇ」
グラス「どういう意味ですか…?」
キング「貴女、恋人が出来たら束縛するタイプでしょ」
グラス「なっ…!わ、私はその方のありのままを愛するつもりです!束縛などと、活動範囲で狭めるようは真似はしません!!」
キング「つもりなだけでしょう。それじゃあスペさんの会見と同じね」
スペ「飛び火してきたーーーッ!」モチャモチャ
スカイ「……ほんとにね…」ゲンナリ
グラス「むむむっ、………む?」
言われっぱなしは癪だと、何とか反撃の糸口を探すグラス。
するとどうだろう。
ピンク色の髪をした彼女が笑顔でスカイ達に近付いてるではないか。
ウララ「スペちゃん楽しそーだね!ウララもやるぅ!」モチンッ
スカイ「ウソでしょ…」
横並びだがピンク、白、黒のだんご3姉妹が完成した。
グラス「……じゃあキングちゃんは、アレを見て何とも思わないんですか?」
キング「全く。特に何も」
グラス「……そうですか」
キング「貴女はもっと余裕でいなさいな。そう、このキングのようにね」
グラス「精進します……」
キング「ええ」
ウララ「えへへ。セイちゃんの髪くすぐったーい!」
スカイ「ごめんね〜……」
ウララ「んーん!すごくフワフワで気持ち良いよ!」
スカイ「あー、最近寒くなってきたからかなぁ」
ウララ「このフワフワは、…………うん!キングちゃん "よりも,,フワフワだよ!」
キング「ーーーッ!」
スカイ「そりゃ光栄だね〜。そんでセイちゃんは未来が見えたかもしれない」
ウララ「未来を見るのは悟空さんでも無理そうなのに、セイちゃん凄いね!」
スカイ「100%冗談なのに、悟空さんがいる事によってリアルに考えられてる件について」
スペ「私も失礼しまs………ッ!これはクセになっちゃいます!」
ウララ「ねー!」
真ん中でげんなりしている彼女を置いてキャッキャ、キャッキャと騒ぎたてる。
そんな彼女達の傍で、いかにも面白くなさそうな顔をしているのが……、
グラス「………」
キング「………なるほどね。……なるほど…………なるほど…」フゥゥ
グラス「どうかしましたか?」
キング「グラスさん。今日はネコ鍋にしましょうか」
グラス「!……寒くなってきましたし、ちょうど良さそうですね〜」
キング「でしょ?調理は私に任せなさい」
グラス「あら?キングちゃん料理は、目玉焼きでも作れるようになったんです?」
キング「3回に1回は焦げるわ。けれど今から作るネコ鍋は焦げる事が前提よ」
グラス「excellent…!!」
感極まったのか、1人で拍手を繰り広げている。
スカイ「はい不穏な会話が聞こえたよ〜。キミ達の専属警備員達怖すぎ。どうにかしてくれないかな?」
スペ「んー、なんのことですか?」モチモチ
スカイ「そういう所だよスペちゃん。なおしていこ」
ウララ「コレだよコレ。このモフモフ。あのキングちゃんが比べ物にならないなんてっ」モフッ
スカイ「まずはその比べるのやめようか」
死神の足音が、すぐそばまで近付いている。
だが回避するための手はある。
こんな条件付き暴走ウマ娘達とは違い、常識的なウマ娘がいるのだ。
スカイ「エールーー!へるぷみー!」
彼女は叫んだ。
その求めたウマ娘はと言うと…、
ルドルフ「良いのか?エルコンドルパサー。呼ばれているようだが」
エル「ハイ!ほっといて大丈夫デス。そんな事よりエルに用事とは何デスか?」
我関せずと言わんばかりに廊下に出ていた。
シンボリルドルフが直々に呼びに来るとは何とも珍しいことだろう。
ルドルフ「あ、ああ…、すこし生徒会室まで来てもらいたくてな」
エル「でしたら早く行きまショウ!」グイグイ
ルドルフ「おいおい、引っ張るなよ」
生徒会室の向けて歩を進める2人。
教室ではセイウンスカイと呼ばれる彼女は今、身動きが取れない状態にいた。
左右にはウララとスペ。そして前後にはキングとグラスがくっついている。
一見楽しそうな様子でスペとウララは笑っているが、実はそうではない。
スカイは狭い所を極端に嫌う。レース出走前のゲートですら抵抗がある。
そんな彼女がゲートよりも狭い所で囲まれているのだ。
何とかして逃れようともがいているが、おしくらまんじゅうのようだとスペとウララは終始笑顔。グラスとキングに関しては声だけ明るく、真顔そのものだった。
・
・
・
マンモス校であるトレセン学園は生徒会室へ行くにしても中々の距離だ。
道中、会話に花を咲かせるくらいには充分な時間がある。
エル「すみませんカイチョー。わざわざ来てもらったのにお見苦しいものを見せてしまって….」
ルドルフ「先程の彼女達か。賑やかで良いじゃないか。見苦しいなんて思わないよ」
エル「そう言っていただけるなら良かったデス」
ルドルフ「しかし意外だな。エルコンドルパサーも先程のようなやり取りは好んでいると思っていたが」
エル「はしゃぐのは好きデスよ。ですがグラスやキングのように心を振り回されていけマセーン。皆のお手本になるウマ娘は、いついかなる時でも余裕を見せつけるべきデェス!」
ルドルフ「……………如何なる時でも余裕、か…」
エル「カイチョー…?」
ルドルフ「…何でもない」
エル「今更な事を聞きますが、エルはこれから何をするんデスか?」
ルドルフ「ほんとに今更だな」
エル「生徒会室に行くとか何とか」
ルドルフ「ああ。御客がいらっしゃっているんだが、そのヒトがお前に会いたいと言っていてな。1人置いてくるのは失礼に値するが、私としてもちょっと…な」
エル「ほえー、もしかして!ワタシのファンとかデスか!?握手とかした方が良いデスかね!?」
ルドルフ「いや、ファン…ではないかな」
エル「ケ?そうですか。けれどエルがご指名とは、中々ワタシも有名になりマシタねー」
ルドルフ「今のウマ娘界を騒がせているのは君達だ。有名なのは間違いないだろう」
エル「イェーイ!エルが目立ってるぅうう!……ん?でもそれならワタシに何の用事なんですかねぇ…?」
ルドルフ「まぁ、後の事は本人に聞いてくれ。くれぐれも節度を保ってな」
エル「カイチョーはさっきのグラス達を見たから不安でしょうが、エルを一緒にしないでほしいデス。プロフェッショナルとしての心得はちゃんとありマスから」
ルドルフ「……………だと良いんだが…」
不安を胸に抱くと立ち止まる。目の前にはもう生徒会室だ。
ルドルフはエルに合図を入れて、扉を開けた。
ルドルフ「お待たせして申し訳ない」
エル「!?」
この時エルは動揺した。
ルドルフが話した言語は異国のものだ。そしてその言語とは、
???「ボンジュール」
厳かな雰囲気を纏い、ソファに座る彼女の黄色い髪が眩しく光る。
エル「ぶ…、ぶぶ、ぶろわいぇえええええええええええッ!!!!?」
忘れもしない。最強を決めるレース凱旋門賞。
異国の地で競い合ったウマ娘ブロワイエ、そのヒトである。
ブロワイエ「久しいn」
エル「ブロワイエ!ブロワイエ!なずぇココに!?さては凱旋門賞バをクビになりましたか!?ウェヘヘ…!なっつかしーデスネ!ワタシ今でもあの時の事を思い出しマス!血の気が湧き立つあの瞬間!ブロワイエの顔を見たら鳥肌ものデスよ!見ます!?それにしても来るなら来ると連絡をいただけたら迎えに行きマスのに、……あ、連絡先知らなかったデスね。それなら今すぐ交換を…!」
ルドルフ「エルコンドルパサー!!!」
エル「ほえ?」
大きな声を出してどうしたんだと、首を傾げるエル。
彼女は知らないだろう。名前を呼ばれるのはコレで4回目なのだ。
ルドルフ「ほえ、じゃない!如何なる時でも振る舞う余裕はどこにいった!プロフェッショナルの心得はどうしたんだ!」
エル「あ。…………い、いやー、これは適応外…だったりして」タハハ
ルドルフ(……やはりか。この世代の奴を甘く見た私が悪かったな)
ブロワイエ「???」
ルドルフ「!……コホン、失礼しました。エルも座ってくれ」
エル「ハイ。ブロワイエ、となり失礼、」
ルドルフ「こっちに座れ」
エル「ハァイ…」
しぶしぶと肩を落として移動するエル。
ゆっくり座ってお話を。そんな流れを悟ったブロワイエは、エルに向かって手のひらをつきだした。
エル「ブロワイエ…?」
ブロワイエ「………再会を喜んでくれたのは私としても嬉しいかぎりだ。だが楽しく話しをするためにキミを呼んだ訳ではない」
エル「ケ?」
ブロワイエ「この学園に来たのもソレが目的なんだ」
エル「ケー…、………カイチョー。何かしたんデス?ブロワイエぴりぴりしてマスけど…」
ルドルフ「どう考えてもエルにだろう。お前が来るまでは悠々閑々で篤実温厚な様だったよ」
それが事実だったかを示すようにブロワイエはエルだけを睨みつけ不敵に笑った。
ブロワイエ「……ふふっ、この私が誑かされたのは初めてだよ。なぁ?我が宿敵のコンドルよ」
エル「…………は?」
自身のフランス語を読み取る能力が著しいせいか。ブロワイエの言っている意味が出来ずにいる。
エル「誰かと間違えてマセンか?」
ブロワイエ「私の周りでコンドルはキミだけしかいない」
エル「……と言われましても、ワタシは何が何だか…」
ブロワイエ「ヒントはジャパンカップだ。キミの事を鳥頭だと思わせないでくれ」
エル「!……遠回しにしか話さず、答えを出し惜しみする典型的なフランスウマ娘デスネ。分かって欲しいならさっさと言ったらどうデス?」
ブロワイエ「…………ふぅん」
バチバチとして視線が交錯する中、我が城でありながらルドルフは居心地の悪さを覚えていた。
ルドルフ(外でやってくれないかな……)
ブロワイエ「それなら言おうか。エルコンドルパサー、何故キミはジャパンカップに出ないんだ?」
エル「え、何故…とは?」
ブロワイエ「キミが言ったんだ。ジャパンカップに出ればもう一度、エルコンドルパサーと素晴らしいレースが出来ると」
エル「ケッ!?エルはその時から有マ記念を想定していたので言う訳ないデェス!」
ブロワイエ「言ったから私はジャパンカップに出走表明したんだ!……またキミと走れると思っていたのにっ」
彼女の肩が震えている。
悲しくて、悔しくて、……そんなちっぽけな感情では無い。ヒト前では見せた事のない怒りの感情そのものだ。
というのも、彼女はずっと待ち焦がれていた。
出走登録が確定する日には部屋に篭り、満面の笑みを浮かべながらパソコンを起動。
出走ウマ娘欄を往復する事5回。表情はどんどん無へと返り、居ても立っても居られずに、そのパソコン画面から飛行機のチケットを取る程だった。
ブロワイエ「この嘘つきめ!よくも我々の誇りある約束を穢してくれたな!」
エル「言いがかりはやめてください!ワタシ達の再戦は来年の凱旋門賞デショウ!」
ブロワイエ「ホームグラウンドで勝ったから次は日本で戦う予定だった!」
エル「ワタシのホームグラウンドで走ったってエルが勝つ事は目に見えてマース!そっちに合わせてあげマスから大人しくフランスで待っていなサイ!」
ブロワイエ「待つも何も私だけジャパンカップに出走するんだ!キミが嘘をついたせいでな!」
エル「しつこっ!!!凱旋門賞バのクセにみみっちぃデス!」
ルドルフ「………あー、すまない。少し聞いてもらっても良いかな?」
ブロワイエ「!………騒がしくして申し訳ない、シンボリルドルフ。だが今は口を挟まないでいただきたいんだ」
ルドルフ「いや、恐らく話しを続けた所で意味はないだろう」
ブロワイエ「???」
ルドルフ「そこのエルコンドルパサーはお調子者だが、レースに関して虚言を吐いたりはしない。今一度、当時の会話を振り返ってみてはどうだろうか」
ブロワイエはルドルフからエルに視線を移すと、エルは静かに頷いた。
ブロワイエ「……………レースの後、私達は話し合った」
エル「ハイ。貴女が日本のレースに出たいと言うから出走出来るレースを教えマシタ」
ブロワイエ「ああ。日本のレースでも私の強さを見せつけようと思って」
エル「それでジャパンカップにはスペちゃんが出るから手強いと、」
ブロワイエ「スペチャンとは誰だ」
エル「スペちゃんはスペちゃんデス」
ブロワイエ「……………シンボリルドルフ。すまないが…、」
知りたい事が知れないと分かったのだろう。
気の強そうな面影はなくなり、へにょりと曲がった眉にルドルフは同情した。
ルドルフ「……薄々分かってはいたが、単なる食い違いだな。ブロワイエはエルと勝負するために日本のレースに出ようとした」
ブロワイエ「そうだ」
ルドルフ「片やエルはブロワイエが単純に日本のレースに興味があるのだろうと考えジャパンカップを提案した」
エル「その通りデス」
ルドルフ「一言一句、どのような会話をしたのかは知らないが、上手く噛み合った結果がコレという事だろう」
ブロワイエ「…………………本当に、」
エル「……」
ブロワイエ「……本当に、私はエルコンドルパサーと走れないのだな…」
エル「!……ブロワイエ、ごめんなさいデス」
ブロワイエ「…いや、……私の方こそすまない…」
気まずさ漂う生徒会室。ルドルフはある提案をした。
ルドルフ「ブロワイエ」
ブロワイエ「?」
ルドルフ「貴女はスペシャルウィークというウマ娘を知っているかい?」
ブロワイエ「ジャパンカップに出走するウマ娘だね。日本ダービーで優勝した」
ルドルフ「そうだ。そして彼女がエルの言うスペちゃんだ」
ブロワイエ「スペチャン?……ニックネームのようなものかな。そのスペシャルウィークがなにか?」
ルドルフ「一目見たくないかい?」
ブロワイエ「!?」
ルドルフ「もちろんアポは取ってないため遠目からになるが少しくらいは見れるだろう。せっかく学園に来た訳だから覗いてきてはいかがかな?」
ブロワイエ「………興味深い。厚意に甘えさせてもらうとしよう」
ルドルフ「エル。そういう訳だ。後は頼めるか?」
エル「任せてくだサイ!」
ルドルフ「ああ」
今の2人に不安を拭えた訳ではないが、今出来る最善の選択だろうとルドルフは考えて、半ば追い出すように背中を押した。
ーーーーーーー
sideエルコンドルパサー
目的地はスペちゃんのチームが日頃トレーニングしているターフ。けれど今は関係ない所を歩いていた。
というのも…。
「ふむ…。入って来た時も思ったが良い所だな。日本のトレセン学園は」
「ありがとうございマァス」
ブロワイエがトレセン学園を見て周りたいと言った所から始まった。
ワタシとしてはすぐにでもスペちゃんの所に向かいたかったが、子犬のような目でお願いされては頷かない訳にはいかない。
「そして何よりウマ娘達が幸せそうだ」
上京したてのヒトみたいに周囲を見渡している。先程の言い合いもそうだが、彼女は考えてたよりずっと馴染みやすい性格のようだ。
「何だ…?」
ふと足を止める。彼女の視線辿る前に独特な声が聞こえた。
>くっそおおお!また負けたーーーッ!!
トンネル内のようにこもった声。
トレセン名物が一つ。深い窪みがある切り株に鬱憤をぶちまけよう、だ。
「恐らく併走か何かで負けてしまったのでショウ。嫌な気持ちを溜め込まないように全力で吐き出しているんデス。かなりストレス発散になりマスよ」
「素晴らしい!古風だが立派なメンタルケアだ!生物の理に適っている!」
正直、他人に弱い所を見せるなどと…と、言われそうな感じがしていたがそうではないらしい。
あろう事か彼女はその切り株に向かって歩き出した。
「ちょっと、ブロワイエ!何をするつもりデスか!」
「私もしよう」
「やめてくだサイ!」
このトレセン学園において彼女を知らないヒトはいない。さらにワタシを含めて憧れているものは多い。
幻滅とまではいかずとも、絶大なイメージブレイカーになる事は目に見えて分かる。
「もーっ!行きマスよ!!」
彼女は口が良く回る。説得するよりも力づくで連れて行こうと思い、彼女の手を引っ張った。
・
・
・
「こんな風に歩くのはいつぶりだろうか」
空に視線を投げて彼女は言った。
「ケ?普段は歩かないんでデス?乗り物移動…?」
「そうではない。歩きはするが、楽しく歩いた事があまりないんだ」
「…………そうデスか」
ワタシには理解できない。けれど何を示しているのかは分かる。
「友達、いなかったらつまんないデスよね…」
「違う!歩いているだけだとその時間が勿体無いから他の事を同時進行しているんだ!」
「あ、そういう…。さすがは一流のウマ娘!一分一秒を無駄にしない所は尊敬シマァス!」
「………、」
彼女はワタシの顔を見ると軽く溜め息をこぼした。
「……まぁいい。そんな訳だから私にとってこの時間は新鮮味溢れるものなんだよ」
「エルのおかげで?」
「………シンボリルドルフが言った通り、君はお調子者だな」
呆れたように言い放つ彼女はどこか笑っているように見える。少しぎこちないような感じだけど無理をしてる風には思えない。
とはいえ、顔色ばかり伺うのは彼女にも申し訳ないでしょうし、ワタシにとっても面倒くさい。
嫌な事があれば言ってくるだろう。……そう思った時、ブロワイエは足を止めた。
「あれは…!」
とある場所に視線を固定して釘付け状態になると、だんだん歓喜に満ちた表情へ変わっていった。
ワタシも彼女の視線を追いかける。
(……………でた…)
秋の風に吹かれ。紅葉が舞う木の下。
赤い敷物の上で正座をしているのは栗毛のウマ娘。定規でも刺さっているかのようにピンと伸びた背すじ。毛先まで整えられた艶やかな長い髪が静かに揺れている。
「………美しい…」
隣からゴクンと唾を飲み込む音が聞こえた。見惚れるとはこの事だろう。
「……………サドウ、と言ったか。日本の伝統文化の」
「ハイ」
栗毛のウマ娘は慣れた手付きで優雅に動く。今は既に最終段階のようだ。茶杓と呼ばれる道具で茶碗を混ぜていた。
「……必要最低限の力を出しているのか。静かな動きなのに力強さを感じる」
「雑念は味に出る。ゆえに心を鎮め、その空間にあるもの全てと心を通ずる。あの栗毛のウマ娘はそんな事を言ってマシタ」
「……………そうか」
ブロワイエは小さく呟く。
よほど興味を惹かれたみたいだ。それか、この場合だとあの栗毛に惹かれたのかもしれない。
スペシャルウィークというウマ娘が関わらなければワタシも尊敬するウマ娘だ。
心を奪われるのはしょうがないと言っても良い。
そして。ここで一つの疑問。
ブロワイエは栗毛のウマ娘 "以外,,が見えているのだろうか。
栗毛のウマ娘と対面の位置に、山吹色の武道着を着て寝転ぶ男と、その男の腹を枕にして寝ている芦毛のウマ娘がいるのだが……。
(見事に雰囲気ぶち壊してマスね)
不釣り合いな光景。しかし皆が心底リラックスしているように見えるから、これはこれでアリなのかもしれない。
「!見ろ、エルコンドルパサー…、飲むみたいだ」
「見てマスよー」
興味津々の子供のように肩を叩いてくるブロワイエ。
栗毛の彼女が二つの茶碗を並べて置くと、彼らはのそのそと起き上がり茶碗の目の前に腰を下ろした。
そしてビックリ。
なんと武道着の彼が正座しているではないか。その様子に芦毛のウマ娘がポカンと口を開けると、真似をするように正座になった。
(確かこの後茶碗を二回まわすんデスよね。でも、あの二人は知らないデショウ)
恐らく栗毛の彼女は礼儀を事細かく説明していないだろう。好きに飲んでもらうのが一番美味しい飲み方とか言いそうだ。
そんな事を思っていると、彼らは茶碗に口をつけた。
>>苦っっっ!
>は?
………聞こえてしまった。これは中々マズい流れかも知れない。
「ど、どうしたんだ?あの二人舌を出しているようだが…」
日本語は分からなくてもジェスチャークイズのように何となく察しているだろう。
だけど正直この展開は読めていた。加えるならこの先の展開も薄々読めている。
(お願いシマス。どうか落ち着いてくだサイヨ…)
そんなワタシの懇願が無意味だと言う事はすぐに分かった。
言い合いの末、栗毛のウマ娘がどこからともなく現れた薙刀を手にすると、武道着の彼が挑発。
>さあ来いッ!
>グラスワンダー、参ります!!
彼が正座の構えから後方宙返りで敷物から出ると、即座に詰め寄ったあの栗毛。薙刀と手刀の鍔迫り合いが始まった。
「…………………行きまショウ、ブロワイエ」
「なっ…!止めないのか!?」
「大丈夫デス。あれは "演劇,,の練習なので」
「劇…だと?」
そう、これは劇だ。そうしよう。これでは本当に嘘吐きになってしまうが、そうしなくてはならない。
「確かに…、ウマ娘との力比べで人が勝っているし、カンフーのような衣装も普段では着まい……」
「でしょう」
実は彼に勝てるウマ娘はいないんです。あの武道着は彼の普段着です。
もしそう言った時、ブロワイエはどのような顔をするのだろうか。イタズラ心が芽吹くが後に訪れる厄介事を考えると、黙っている方が賢明という結論が出た。
「さ、次行きまショウか」
「……ああ」
ーーーーーーーー
悟空「んー、ブロ……ブロ………?」
グラス「悟空さん!集中してください!」
掠りすらしない薙刀を一心不乱で振り回す。
悟空「あ、すまねぇ。けどおめぇはいつになったら峰じゃなくて刃を向けてくるんだ?」
グラス「ッ…!」
実の所、このような手合わせは何度もしている。
なんの気兼ねなく刃物を振り回せる相手は彼しかいない。だからグラスも喜んで手合わせをしていたが、その度に言われていた。
切るつもりで刃を向けて来いと。
しかし、いくら傷一つつかないと言われても簡単に出来る事ではない。
万が一の可能性がグラスの心に宿っていた。
グラス「こ、今度にします!」
悟空「ハァ….、おめぇにしちゃあ臆病だなぁ」
グラス「…だって……」
彼女は構えを解いた。それは手合わせ終了の意味を含む。
悟空「一応言っとくとオラが楽しめるから刃を向けて来いって言ってる訳じゃねぇんだぞ」
スカイ「え〜、ほんとに〜?」
悟空「ああ。中途半端な技術だと刃のついた得物は自分までも傷つける。例えその気が無くても、本当にエルの腹を掻っ捌いちまうぞ」
グラス「…………エルのお腹が…」
悟空「そうだ。おめぇも嫌だろ?エルの腹を斬んのは」
グラス「はい……」
スカイ(いや、まず刃物持ち出すのを止めようよ)
悟空「武器は自分の手足の延長だ。使いこなさなきゃ意味がねぇ」
グラス「はい」
悟空「心身共に鍛えるためにも、おめぇの課題は刃と向き合う事。コレに関しちゃオラの専門だから一緒にやろうな」
グラス「はい!」
悟空「そんで早くオラと戦おうぜ!」
グラス「はi……え?」
スカイ「あ、やっぱりそこが終点なんだ」
悟空「へへっ、まぁな!」
スカイ「てかさ〜、終わったんならもう一回お茶淹れてよ〜」
グラス「えぇぇ……、先程不味そうな反応したじゃないですか」
スカイ「いやいや不味くないって!苦かっただけで。なんか、こう…クセになるような味わいでした〜」
悟空「うん。分かんぞ、スカイ」
スカイ「だよね〜」
悟空「あー、話してたらオラも飲みたくなったなぁ」
グラス「悟空さんまで…。………もぉー、今度は変な事言わないでくださいね?」
悟空「へーい」
スカイ「ほ〜い」
グラス「では準備を……あら、そういえば」
悟空「ん?」
グラス「先程、ブロブロ言って悩んでいた様子でしたが、もう平気なんです?」
悟空「ああ、さっき知っている奴がいたんだけど、分かんねぇからもう良いや。他の嫌な奴が頭に浮かんできて気持ち悪ぃし」
スカイ「嫌な奴?」
悟空「おう。だからもう考えたくねぇ。今はグラスのお茶の方が大事だしな!」
グラス「うふふ、お上手なんですから」
スカイ「悟空さんはグラスちゃんのお茶が楽しみなんだねぇ」
悟空「楽しみ……に、なんのかなぁ?」
スカイ「貴女のお茶を毎日飲みたい……みたいな?」
グラス「!!!」
悟空「いや毎日はいらね」
グラス「………」
スカイ「………グラスちゃん、振られちゃったね…。でも大丈夫!キミには私達がついてるからさ!」
グラス「もう一度狭い所に閉じ込めてしまいましょうか」
スカイ「ごめんなさい」
ーーーーーーー
「ん、あれではないのか?」
歩いていると視界に飛び込んできたターフ場。
「ええ。スペちゃんはココじゃありマセン」
足を緩める事もしない。
大丈夫だとは思うが、このターフにも不安因子がいる。会わない方が良いだろう。
「…………彼女達、良い走りをするな」
「ケ?」
今日はつくづく運が悪い。
振り返るとブロワイエは立ち止まっていた。
坂の上から見下ろすターフ場。カーブから目の前の直線にかけて走っている2人のウマ娘。
「特に緑のメンコを付けてる方。力みが無くフォームが良い…が、惜しいな。もう少し身体を倒したら良くなるだろうに」
「彼女曰く、王は誰よりも頭が高くなくてはいけない、だとか」
「……なるほど。大義だな」
彼女は不思議と納得をした。賞賛に値する何かがあったのだろう。
ブロワイエは走り抜ける2人を見続けた。
そして。
>短距離はスプリンター!長距離はステイヤー!中距離の別名を答えなさい!
>うん!!
ピンク色の髪をしたウマ娘はコースを脱線。脇に置いてある段ボールで出来た机?の所まで行くと何やらペンを動かしている。
「……………」
「……………」
もしかすると、天下のブロワイエのアホ面というレアな顔を拝んだのはワタシが初めてなのかもしれない。
ちなみにワタシも似たような顔をしている。鏡がなくても分かる。
>はい!ミドルスタンスホース!
>違う!ミドルディスタンスホースよ!
「……エルコンドルパサーよ。彼女達は一体何をしているんだ…?」
至って普通の質問が飛んできた。
「多分、勉強をしているのだと……」
「…し、しかし。勉強のついでにしては先程の走りは本物だった…。いや、クイズ形式を前提走っていたのか?……それにしては机まで組み立てて…………?????」
あのへっぽこお嬢様め。日頃の常識人ぶってるクセに突然妙な事をするから、へっぽこ呼ばわりされていると気付いてないのか。
"あの,,ブロワイエをここまで困惑させるのはアナタくらいデスよ…。
(………一緒にいる時は何とも思わなかったデスが、エルの同期+a、変なヒトしかいない…)
>何で間違えるのよ!ついさっき確認したじゃない!
>そんなの走ってる最中に忘れちゃったよぉ!もう勉強はやめて普通に走ろうよー!
>本当なら勉強だけをするつもりだったのよ!それなのに貴女がつまらないって言うからレースと合体させたのに!
(何で合体させるの…。時間決めて1つの事に集中した方が効果的デショウ)
>……まぁ良いわ。次は1600mね。今度はレースの名前を問題にするから。
>分かった!
(走り過ぎデェス!1つの問題に何m走ってるんデスか!)
ダメだ…。
彼女の脳は筋肉で埋め尽くされている。
「!…また走り出したぞ」
「……………エル達も行きまショウか」
・
・
・
「……………これから向かうスペシャルウィークもキミと同期だったはず。そうだな…?」
「そうデスよ」
「………最初に見た、……とても素晴らしいものだったが、学園の適当な木の下で劇の練習をしていた彼女達は、キミの友人…」
「…………」
「……そして今の。走っているのか勉強しているのか。何を目標にしてやっているのか全く分からない彼女達も、………キミの友人」
「……………何が言いたいんデスか?」
「………とても気が合う友人達と出会えたようだね」
「…………」
何だか素直に喜べない事を言われた。
「その……、スペシャルウィークは、大丈夫なのかな?」
「大丈夫の意味が分っかりマセーン」
「何と言えば良いのか…、…………私の思い描くトレーニングをしているウマ娘なのかと聞きたい」
「当然!スペちゃんはトレーニングに手を抜かないので想像以上だと思いマスよ!」
「!……やけにスペシャルウィークの事を買っているのだな」
「ケ?」
直感的に思った事だけど、ブロワイエの言葉に棘のようなもの感じた。
表情から読み取ろうにも、明後日の方向を向いていて分からない。
「スペちゃんを軽く見るヒトはいないと思いマスよ」
「………キミと私は最強の座を懸けて争った」
「?まぁ、はい」
「そして私が勝利した」
ピクリとこめかみが動く。
眉間に皺が寄ったのも感じた。
「なーんなんデスかぁ!?思い出語りたいなら相手を選んだ方が、ーー」
「エルコンドルパサー」
「ッ…!」
ふと。彼女と目が合った。…いや、合わされたのだろう。
笑みも無く、睨んでいると言っても過言ではないような鋭い目で。
「ブロワイエ…?」
「聞かせてくれ。ジャパンカップでスペシャルウィークと私。どちらが勝つと思う…?」
「スペちゃん」
「ッ…………即答、か」
勝つと、勝ってほしいの区別は付いている。
「キミに勝った私が、スペシャルウィークに負ける。それならキミはスペシャルウィークよりも弱いのか?」
「その問答が無意味な事くらい分かっているデショウ。レースはジャンケンじゃありマセン」
「ならなぜキミは即答した?憶測では答えられないと言うのなら理解出来るが」
「………確かにそうデスネ」
我ながら矛盾しているみたい。けれど深い意味なんてこれっぽっちも無いのだ。
「ただ単純にスペちゃんの方が速いと思ったからデス。それ以上でもそれ以下でもありマセン」
スペちゃんが負けるかも、という選択肢が最初から無かった。
これがもし出走するのが他のウマ娘なら、スペちゃんに勝ったグラス、スカイ。後一歩まで追い詰めてるキング。彼女達なら多分ワタシは答えられない。
ジャパンカップに出走してブロワイエと戦うのがスペシャルウィークだから。
水溜まり並みに浅い考えで、ワタシはそう思った。
「ふぅん。………………早く行こうか」
そう言って彼女は競歩並みの速度で歩き出した。
「ちょ、ちょっと待つデース!先に行っても場所分からないデショ!」
「 」
「いま何か言いマシタ!?離れてて聞こえマセンよ!」
「………キミは私の後ろにいるのが好きなようだと言ったんだ」
「こ、こやつっ!いきなり喧嘩うってくるとは何事デェス!?」
・
・
・
あれから自分勝手な最強と適当な会話をしながら歩くこと五分。
目の前にはターフが現れた。
「……………あれがスペシャルウィークか?」
「………………ハイ」
アポなしだから目的のウマ娘を見つけても近付く事は出来ない。そして近づこうとも思わない。
ワタシの脚をメデューサに石に変えられたのか、ピクリとも動かない。
さらに五右衛門風呂に入っているのか、顔がとてつもなく熱い。
「………確認するが、」
彼女の呟きに肩が震える。
ワタシは地面を歩く小さな虫をひたすらに見つめた。
「今、ポニーテールの娘と併走しているのがスペシャルウィークだな?」
「…………………ハイ」
「走りながら…、……両手にニンジンを持ち、口にニンジンを咥えているウマ娘がスペシャルウィーク、だな?」
「…………」
声が出せず、静かに頷いた。
「……………たった今!走り終わった拍子に!咥えていたニンジンを食べ始めたのがスペシャルウィーク!間違いないんだな!?」
「……ハイ、そうデス…」
やりやがった、あの黒鹿毛…!
ただ案内するだけならここまでダメージを負わなかったのに!
「先程キミは何と言った?スペシャルウィークが勝つと即答したな!?私が思い描くトレーニングをするウマ娘なのかと聞いた時、トレーニングに手を抜かないから想像以上のものだと言っていたな!」
そう、これだ。
偉そうに、自信満々にスペちゃんの事を評価していた。それが全てマイナスの方に転がってしまった。
「で、でもっ、アレは栄養補給を軸にしたトレーニングで、走り終わったらすぐ筋肉に変えて…!ニンジンを持つ事で…あの、………バトンの役割を果たし、リレーでのバトン渡しがスムーズに……」
「………………………やはり、キミの友人だな」
「はひゅっ…!?」
だめだ。みんな揃ってクセが強すぎる…。
震えていた足も力をなくし、ついには地面に膝をついた。
「…………門の場所は大体分かるから、ここで帰るとしよう」
「ぶろわいえ…、」
引き寄せられるようにブロワイエの方を見る。すると彼女は同じように膝をついてワタシに顔を寄せた。
「ジャパンカップ当日、東京レース場で再び会おう。そしてそこで見ていると良い。キミと同じ運命を辿る、友の姿を」
満足したのだろう。軽く鼻を鳴らすと彼女は去って行った。
そして。
(…………………………行くか…)
ワタシは復讐を決意した。
ー エルside 終了 ー
ーーーーーーー
とあるターフ場。
コースの傍で体を動かしているのはチームスピカの面々だ。
沖野「クールダウンはしっかりやれよー!」
トレーニングが終わったのだろう。
軽いランニングや柔軟体操など、それぞれが別の行動をしていた。
そこに。
エル「おっつかれ様デェス!」
復讐者が現れた。
スペ「エルちゃん?お疲れさまー!」
エル「頑張った皆さんに差し入れ持って来ましたヨー!」ガサガサ
テイオー「えっ、ホント!?ボクのもあるの?」
エル「もちろんデェス。トウカイテイオーは頑張り屋さんですからネー」
テイオー「イェーイ!さすがエルコンドルパサー!」
エル「それじゃあまずは、ウオッカちゃんと、スカーレットちゃん!スポドリどうぞー!」ハイ
ウオッカ「お、おれ達の分まで!」
スカーレット「ありがとうございます!エルコンドルパサー先輩!」
エル「そしてこれはトウカイテイオーとメジロマックイーンもスポドリデース」ハイ
テイオー「ありがとねー!」
マックイーン「ありがとうございますわ」
エル「ゴールドシップには、……ドクペ!」ホイ
ゴルシ「おっ!ナイスチョイスだぜ!」
エル「それとグラスが今度遊びたいと言ってマシタよ」
ゴルシ「オーケーオーケー。おもしれぇゲームが手に入ったから声かけるわ」
エル「そうしてくだサイ!」
エル「そしてスズカさんには、牛乳!カルシウムは骨に良いですからネ!」ソイ
スズカ「あ、ありがと……」
彼女は牛乳を見続けながら胸元を強く握りしめた。
エル「牛乳はイヤでしたか?」
スズカ「あっ、ううん。……その、他意はないのよね?」
エル「他意…?」
スズカ「ごっ、ごめんなさい!何でもないわ!」
エル「よく分かりマセンけど、グラスが毎朝飲んでいたので栄養は豊富かと」
スズカ「………そう。グラスちゃんが…」
エル「なんでしたら今度ワタシの愛用牛乳教えてマスよ!それも栄養価高iーー」
スズカ「お願いします!!!!!」
エル「ケッ…!?」
スズカ「ぁ、……その、他意はないんだけど、ね?出来れば今日中に教えてほしいわ。もちろん他意はないわよ」
エル「分かりマシタ。…………っ」
スズカ「……?」
エル「〜〜〜っ!」プルプルプル
スズカ「………エル?」
エル「ぶふぉっ!!!」
スズカ「他意しかなかった!?」
エル「むぐっ、プププ!…………フゥ、トレーナーさんにはコーヒーで良かったデスかネ?」
沖野「俺の分まであるのか。ありがたく貰うとしようかな」パシッ
エル「ふふんっ。それを受け取ったという事はワタシのトレーナーさんへの口添えお願いしマァス!」
沖野「ははっ、ちゃっかりしてるな。おハナさんにはちゃんと言っとくよ」
エル「へへっ。そして最後、スペちゃん!」
スペ「待ってましたー!」
エル「スペちゃんは今日頑張りマシタか?」
スペ「はい!」
エル「良い子にしてマシタか?」
スペ「とっても良い子です!」
エル「よろしい。そんなアナタにはコレをあげましょー!」
エルの持つ黒い袋。何が出てくるのかとスペは尻尾を踊らせた。
エル「じゃじゃーん!ロイヤルビタージュースぅぅぅ!!!」
スペ「ろっっっ…!!!?」
缶ジュースにしては非常に高い金額だが、元気がもりもりと溢れるエナジードリンクだ。
その代償として、この世の物とは思えない程にマズい味である。
テイオー「…………ボク、気持ち悪くなって来たかも…」
マックイーン「アレを見てはいけませんわ。舌が思い出してしまいますわよ」
ウオッカ「罰ゲームでもネタにしなかったのに」
スカーレット「手を出してはいけない代物よね…」
ゴルシ「うぇ…」
スペ「え、エルちゃん…」ジリジリ
エル「何で後退しているんデスか?せっかく買ってきたんだから飲んでくだサイよー」ジリジリ
スペ「い、いや………こないで…、それに目…こわいよ?」
エル「怖くなーい怖くなーい!…………………メ…」
スペ「ぇ」
エル「のめェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!」ガバッ
スペ「きゃああああああああああ!!!!!」
数分後。
スペ「」チーン
彼女はロイヤルビタージュースで溺れてしまった。
エル「ふん。モチ肌スペスペまんじゅうめ。ブロワイエに舐められた失態とでも思ってくだサイ」
スズカ「ブロワイエ…って、どういう事?」
エル「さっき一緒に見に来たんです。そしたらスペちゃんがニンジン星人になってて」
沖野「ッ、ブロワイエが来てたのか!?」
ゴルシ「まじか……」
テイオー「…………ライバルの偵察だね」
エル「お陰で恥をかいてしマシタ。これならエルがジャパンカップに出た方が良かったデェス」
スペ「!!!」ピクッ
スペ「………それは、どういう意味ですか」
ダメージは深いが沈んでいる場合じゃない。彼女は日本一を夢に持つ威信にかけて立ち上がった。
エル「分かりマセンか?」
スペ「私じゃ力不足って言ってるように聞こえます」
エル「遠からず」
スペ「………そういえばエルちゃんとは本気で走った事がなかったよね」
沖野「ッ、おい!やめないか!」
彼が感じとった明確な闘気。膝を緩め、腰を落とす姿はまさに臨戦態勢だ。
エル「スペちゃんは、ワタシやグラスがクラシック戦に出れなかった事を喜ぶべきデス」
スペ「出たとしても結果は変わらないよ」
エル「スペちゃんの中ではそうデショウ。けど、エルはそう思わない」
テイオー「ねぇ喧嘩はやめようよ!」
スカーレット「さっきまで楽しくしていたじゃないですか!」
彼女達の声は届かない。
エルとスペの五感全て、お互いのライバルに向けられている。
エル「……ダービー、2400m」
スペ「!」
エル「ワタシも得意な距離。そこにエルが出ていたのなら違う結末を辿る事になる」
スペ「夢物語だね。それじゃあ私が2着って事かな?」
エル「いえ」
スペ「ん?」
エル「恐らく同着になるデショウ!」
スペ「………あれ?そういう時って自分が勝つって言うんじゃないの?」
エル「いえいえそんな!あの時のスペちゃんめちゃくちゃ速かったですし!」
スペ「………あはっ、私速かった?」
エル「ええ!とても!それにカッコ良かったデェス!」
スペ「もぉ〜、そんなハッキリ言わないでくださいよ〜」テレテレ
エル「わぁお!スペちゃん顔真っ赤!デビュー戦の棒立ちウイニングライブを思い出しマスネ!」
スペ「やめて!傷口に塩を塗らないでー!」
エル「スペちゃんグネグネしてる!小動物みたいで可愛いデース!」
和気藹々とした緩やかな雰囲気から、殺伐とした不穏な雰囲気に。それが今やハグをしてイチャイチャした雰囲気を醸し出している。
沖野「………頼む。誰か俺に説明してくれ…」ゲンナリ
彼らは当然の事ながら、ジェットコースターなみに激しい修羅場の温度差についていけなかった。
テイオー「えっと、……とりあえず喧嘩は終わったって事かな?」
マックイーン「終わったというか、あれはそもそも喧嘩ですの?」
ウオッカ「……あんなスペ先輩見た事なかったし、怖かったな」
スカーレット「なに、アンタびびってたの?」
ウオッカ「おまえだって涙目だっただろ!」
エル「スペちゃん」
スペ「ん」
繋がれた手はそのままで、2人は距離をとった。
エル「今、ワタシが来たのには理由がありマス!」
スペ「………私にアレ飲ませるためですよね?」ジト
エル「あ。………まぁ、理由が二つあって、一つはそれですネ。もう一つは必殺技を授けに来マシタ!」
スペ「必殺技…?」
エル「イエス!とある人が言いました。必殺技を決めると何倍もの力が出る…ような気がすると!」
スペ「!それって…」
エル「とある人、デスよ」
スペ「うん。…………でもエルちゃん教えてもらうのはなぁ…」
エル「分かってマス。自分の力で戦いたいんでしょう。だからワタシは戦法をアドバイスするだけ。言わばワタシが秘伝の書デス!」
スペ「おぉ〜…。必殺技や秘伝の書って、何だかカッコいいね!」
エル「ですよネ!」
スペ「トレーナーさん、良いですか?もしかしたら勝つための何かが分かるかも知れないので」
沖野「ああ。他でもない、凱旋門であの走りをしたエルコンドルパサーのアドバイスだ。有意義なものになるだろう」
スペ「やったー!エルちゃん、早速!」
エル「ハイ!決めまショウ!」
スペ・エル「「必殺技の名前を!」」
ゴルシ「いや、先に内容を決めろよ」
それからというもの。エルとスペは30分かけて名前を考案し、10秒で内容を決めた。
その内容を聞いたスピカの面々は、時間を無駄にしたと頭を抱えるが、当人達は達成感があったらしく両手をあげて喜んでいた。
ーーーーーーー
\次回予告/
東京レース場に集いし強者達。
ブロワイエを含め、各国の最強を相手にするのはスペシャルウィーク。
沖野との約束により、有マ記念に出るには1着を獲る事が最低条件。
彼女は今、己の全てを懸けてターフに降り立つ。
「勝負だ世界最強!私が日本一だぁああああああ!!!」
ーー日本総大将:スペシャルウィーク
激アツMADを見つけてしまった…。
許可をとらずに宣伝してしまいますが、ニコニコ動画にあるウマ娘mad。
『ROAD_TO_THE_TOP』の『HEART』がもうヤバい。語彙力がナリタトップロードになります。見た事ない方は是非どうぞ!