孫悟空とウマ娘   作:猫ネコ

49 / 62


これまた長く、そして遅くなりそうなので、回を分けて先に投稿します。
………なんで出走前の話しで一万字を超えてしまうのか…。


ジャパンカップ ー 前編 ー

 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

エル「スペちゃんは負けない」

 

ブロワイエ「アレを見て本当にそう思うかい?」

 

エル「…………………モチロンデス」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

ファンの期待。トレーナーの夢。黄金世代の意地。そして有マ記念への切符。

スペはあまりにも多くのモノを丸ごと背負う。しかし押し潰される事はない。

全てスペ自身が望んだ事だから。一つ一つの想いが、戦うための力に変わってくれるから。

応援する人々の想いを胸に、スペは最後の仕上げをおこなっていた。

 

 

 

ー ジャパンカップ、控え室 ー

 

 

 

悟空「ーーーそんで、ベジータって奴と一緒に倒したんだ」

 

スペ「おぉーっ!やりましたね!」

 

 

勝負服に身を包み、出走まで残り数分の間、控え室に招き入れたのは孫悟空。

彼にこれまでの超絶凄いヤバかった戦いを尋ねた所から始まった。

 

 

悟空「そうだな。倒したんだ………倒したと、思ってたんだよ」

 

スペ「へ…?」

 

 

雰囲気作りのせいか、悟空は俯いてボソボソと呟く。

 

 

悟空「やっとこさ倒したってのによぉ、粉々にしたっちゅーのに……」

 

スペ「な、何かあったんですか…?」

 

悟空「………疲れて休んでる時、どっからか石の転がる音がした」

 

スペ「………」ゴクリ

 

悟空「オラは特に何も考えず顔を上げた………その時っ!」

 

スペ「ッ!」

 

悟空「いたんだよ!崖の上に500体は軽く超えるほどのメタルクウラが!!!」

 

スペ「ぎゃああああああっ!!!!」

 

 

孫悟空の戦闘記録は、世間の怖い話を凌駕する程の恐ろしさがある。

スペは恐怖のあまりカバンを強く抱きしめた。

 

 

スペ「な、ななななしてぇっ!?やっつけたんじゃないんですか!?」

 

悟空「奴の話だと星のエネルギーを使って何体でも作る事は可能らしい。さっき言った自己修復もそのせいだ」

 

スペ「卑怯な…!1体でもなんとか倒せたのに500体以上って…………大丈夫でしたか?」

 

悟空「そりゃあもう酷いもんだったぞ」

 

スペ「うわ…」

 

悟空「最初は大軍を"気,,で吹っ飛ばす所から始まって、オラもベジータも死に物狂いで戦ったけど、ありゃあ無理だ。だっていくら倒しても意味ねぇんだもん」

 

スペ「星のエネルギーで元に戻っちゃいますもんね………で、でも勝ったんですよね?」

 

悟空「おう!クウラの核っちゅー所を破壊してやったら全部消えた」

 

スペ「…………今度こそ終わりました…?」ビクビク

 

悟空「完全に終わったぞ。オラの勝ちだ!」

 

スペ「いえーい!やったーっ!」 

 

悟空「へへっ」

 

スペ「それにしても今の話しは恐怖でした。超絶凄いヤバいランキング1位です」

 

悟空「あー…、わり、今のは1位じゃねえや」

 

スペ「え?……あ、あー!そうですよね!セルがいましたもんね!……悟空さんが死んでしまった元凶。まさに恐怖そのもの、」

 

悟空「いや別に?」

 

スペ「ほえ?」

 

悟空「ボコボコにされたし、死んじまったからあんまり偉そうな事は言えねぇけど、クウラやセルは心のどこかで何とかなるって思ってたんだ」

 

スペ「め、目の前に500体以上現れたのにですか…?」

 

悟空「ああ。それでもオラ達はとことんやる気だったかんなぁ。まだ戦う意志は残ってた」

 

スペ「………それ以上の事があったとなると………まるで悟空さんの戦う意志が無くなったように聞こえるのですが…」

 

悟空「戦って最中にな。正直、生まれて初めて投げ出したくなった」

 

スペ「そんなっ、………それ程までに強い相手って事ですよね?」

 

悟空「んー、そうだなぁ。おめぇ達に例えて言うと、………スタミナが無限にあるスズカと勝負する感じかな」

 

 

レースに絶対は無い。どれだけ強いウマ娘がいてもレース展開次第では抜け出せずバ群に沈む事もある。

その点、大逃げをするサイレンススズカは関係ない。

キモとなる所はスタミナだが、それが無限にあると仮定した場合。彼女は最強無敵のウマ娘となる。

勝ち負けの話ではない。勝つ事が約束されているのだ。そんな彼女と走るウマ娘達は当然心が折れる。

 

 

悟空「どうだスペ。そんなスズカと勝負出来るか?」

 

スペ「オワッタ、ムリダヨ、カテナイ………」ブツブツ

 

悟空「あらら……。まぁ、でもそんな奴がいてさ。オラもだんだん腹立ってきて言ってやったんだ」

 

スペ「……なんて?」

 

悟空「『ちょっとは手加減しろー!!!』ってな」

 

スペ「気持ちは良く分かります。けど、生死が関係する戦いの場で相手は聞いてくれたんですか?」

 

悟空「『手加減ってなんだ?』…って返された」

 

スペ「こわああああああああああ!!!!!」

 

悟空「なあスペ。後ろから大量のグラスが迫って来んのと、スピードが落ちないスズカだったらどっちが良い?」

 

 

なるほど。

心臓、脳、爪の先や産毛の先端まですり潰す重圧と、追っても追っても差が広がっていく無謀な現実か…。

 

 

スペ「……………やめ、て……やめてやめてやめて!!ブロワイエさんが可愛く思えちゃう事言わないで!私をこれ以上困らせないでよぉ!!!」

 

 

必死に懇願する。

しかし彼女の絶叫を塗り潰したのは、携帯から鳴る音だった。

 

 

スペ「っ、ウソでしょ!?このタイミングでアラーム鳴るの!!?」

 

悟空「やっとこさ出番が来たみてぇだな」

 

スペ「…………なんてこと………気後れしないようにって悟空さんの話しを聞いた事が裏目に出るなんて…」

 

悟空「おーい」

 

スペ「やっぱり栗毛だ。栗毛のウマ娘が私の心を揺さぶって、」

 

悟空「スペー、日本一が待ってんぞー」

 

スペ「!……………………よし」

 

 

目的を思い出した。

悟空に話しを聞こうと思った目的を。

 

 

スペ「悟空さん。その超絶凄いヤバいランキング1位の怪物には、結局立ち向かったって事ですよね?」

 

悟空「当たりめぇだ。そこで絶対に倒さなきゃいけなかったからな」

 

スペ「…………あはは!そうですよね!」

 

 

絶対に倒さなければいけないから心が折れかかっても拳を握り、無謀にも等しい敵に挑む。そして勝つ。

それがどれだけ怖く困難なことかなんて、畑違いにも戦いの場に身を置くスペは痛感した。

 

 

スペ(ほんと、強い人ですよ。悟空さん)

 

 

彼女は椅子を引き立ち上がる。ふと鏡が視野に入った時、自分が笑っている事に気付いた。ひどく気持ち悪い笑みだ。

 

 

スペ「悟空さんも一緒に行きますか………って、裏通路を歩いていたらさすがに怪しいですかね」

 

悟空「そうだな。それに、」

 

 

彼はドアを見つめる。

 

 

スペ「どうしました?」

 

悟空「あいつらはともかく。強ぇ "気,,を持った奴がいる。たしか……、初めの頃ルドルフと一緒にいた奴、だったかな?」

 

スペ「???」

 

悟空「ん、まぁ良いや。オラはこのまま客席に向かうぞ」

 

スペ「そうですか。………悟空さん」

 

悟空「ん?」

 

 

彼女は衣類を整えて、勝負服に必要なリストバンドを付けた。

ドア正面。

悟空に背を向けたまま、不動の構えで佇む。

 

 

スペ「渾身の1発、お願いします!!」

 

悟空「…ははっ、任せとけ!」

 

 

彼が背後に立つ。

既に彼女の肩には色んな想いが乗せられていた。夢、希望、期待、それでも彼女は更に求める。

 

ーー戦士の魂を。

 

 

悟空「っしゃあ!行って来いスペぇええええ!!!」

 

 

スペは大きく息を吸って止めた。

その瞬間。

 

バシンッッッッッッ!!!

 

 

スペ「ぐぇええっ…!!」

 

 

大きな手のひらが彼女の背中に叩きつけられた。

 

 

スペ「〜〜〜っ、くぅ…ッ!」

 

 

歯を食いしばって耐える。

拳を握りしめて耐える。

1ミリの隙間も無いほどに目を瞑って耐える。

ただならぬ衝撃でも足を一歩も動かさない。彼の気合いを逃がさないために。全身で受け止めるのだと。

 

 

スペ「ょ、……よっしゃあああああ!!!スペシャルウィーク行って来まぁぁぁす!!」

 

 

気合い充分。

彼女は滲み出る涙を無視して戦場への入り口を開けた。

 

 

 

 

・

・

・

 

 

 

 

スペがまだ控え室にいる時。

部屋の前ではウマ娘が集まっていた。

 

 

ウララ「ねぇ、やっぱりお邪魔になっちゃうかな?」

 

スカイ「集中してるだろうからねぇ」

 

エル「でも、直接応援の一言を言いたいデス…」

 

キング「そうね。………聞き耳立ててみる?中の様子が分かるかもしれないわよ」

 

スカイ「防音なのに聞こえるかなぁ」

 

グラス「………試してみましょうか」

 

 

そう言って彼女はドアに頬をつけた。

 

 

キング「………ダメね。耳が前向いてるから意味ないわ」

 

ウララ「そうみたいだね…」

 

グラス「んん〜〜?」

 

 

彼女は目を閉じる。呼吸を整えて精神を集中させると、

 

 

グラス「ーーーほっ」ヒュイ、ピトッ

 

 

あろう事か、彼女の耳は真横を向いてドアと接着した。

 

 

スカイ(なにいまの…。そんな簡単に出来たっけ?)

 

エル(さすがグラス。身体の隅々までコントロール出来るとは。………って事にさせてくだサイ)

 

キング(慣れ過ぎでしょ。……………まさか……いえ、ほんとにまさかのまさか、………日頃からやってる訳じゃないわよね?)

 

 

彼女達の脳裏にはとあるシーンが浮かび上がった。

特定の、とある部屋に同じ事をやっている。そんな場面が。

 

 

グラス「ん〜、っと…」 

 

スカイ「どう?」

 

グラス「なにか………ぼんやり……と…」

 

キング「話し声がするなら誰かと一緒かしら?」

 

グラス「…さあ、どうでしょう………あ!」

 

エル「グラス?」

 

グラス「…いま、何やら叫び声のような…」

 

ウララ「えっ、大丈夫かな?……ね、ウララも一緒にやっていーい?」

 

グラス「……はい……お隣でどうぞご一緒に…」

 

 

グラスは耳を当てたまま移動し、ウララにその場所を譲ると、

 

 

キング「やめなさい」

スカイ「そんな変態行動」

エル「デス」

 

 

キング達が行かせないように道を阻んだ。

 

 

グラス「はあああっ!!?」

 

 

彼女は思わず3人に詰め寄った。

 

 

グラス「何ですかその言い方は!先程まで状況を尋ねて来たクセに…!」

 

キング「………悪意はないのよ?」

 

グラス「悪意しか感じませんでしたが!?」

 

スカイ「あ、はは………グラスちゃん器用だね〜」

 

グラス「適当に褒めないでください!ほお引き攣ってますよ!」

 

エル「…………グラス、お願いしマス。ケーサツだけは、……ケーサツのお世話にだけはっ、ならないでくだサイ!」

 

グラス「ぇ、……そんな本気で言う程、ですか…?」

 

 

事あるごとに煽って来るはずのエルが精一杯の懇願。これには堪らずグラスの心は深い傷を負う。

 

 

「あなた達、何やってるの!」

 

 

突然、通路に響く叱声。

 

 

エル「あっ、マルゼンスキー先輩」

 

 

そう彼女の名を呼んだ。

 

 

マルゼン「ダメじゃない、こんな所で騒いでいたら!」

 

スカイ「すみません。……でも私達、スペちゃんに勝ってほしいって伝えたくて…」

 

マルゼン「…………遊んでるようにしか見えなかったけど?」

 

エル・キング・グラス・スカイ『…………』

 

ウララ「ごめんなさいっ!」

 

マルゼン「ウララちゃん?」

 

ウララ「スペちゃん、集中してたら迷惑かなって思って、それでどうしようか相談してて…」

 

マルゼン「あら、そうだったのね」

 

エル・キング・グラス・スカイ(釈然としない…………けど、ナイス!)グッ

 

 

背中の後ろで親指を立てる彼女達。

その瞬間だった。

 

ガチャ。

 

 

スペ「あっ」

 

エル・キング・グラス・スカイ「あっ」

 

ウララ「スペちゃん!」

 

スペ「来てくれたんだね、ウララちゃん!」モギュ!

 

ウララ「もちろんだよー!」ムギュ!

 

エル・キング・グラス・スカイ(私達は何故にスルー…?)

 

スペ「マルゼンスキー先輩も!」

 

マルゼン「大切な後輩がこんな大きな舞台で走るんだもの。じっとしてられなくて来ちゃった!」

 

スペ「ありがとうございます!いやぁ、大きな "気,,はマルゼンスキー先輩だったんですね。ドッキリくらった気分ですよ!」

 

エル・ウララ・キング・グラス・スカイ『!!?』

 

マルゼン「え、大きな木?」

 

スペ「ーーーーーコヒュッ!」

 

キング「っ、」ドン

 

スカイ「!………あ、あれれ〜?スペちゃん何だか涙目じゃない?怖くなっちゃったのかな〜?」

 

スペ「!……う、うん!喝入れるために背中叩いてもらったんだけど、……えへへ、生理現象かな?」

 

マルゼン「へえ、良いわねぇ。だとするとトレーナーさんが中に居るのかしら?」チラッ

 

スペ「ーーーーーーかひゅっ!」

 

グラス「ッ!」ギロッ!

 

エル「あーっ!………じ、地面に、デスよね?私もたまにやりマァス!背中から倒れるヤツ!あれで結構気合い入りマス!」

 

マルゼン「せっ、背中から倒れるって…」

 

エル「……………もちろん受け身はとってるので大丈夫デスよ?」

 

マルゼン「そういう問題じゃあ、………えっ、と、近頃のルーティーンはそういうのが流行り、なのかしら?…………何にせよ怪我じゃ済まなくなるからもうしないように」

 

エル「…………ハイ、スミマセン…」

 

スカイ「ご心配痛み入ります…」

 

キング・グラス「「申し訳ありません」」

 

ウララ「ごめんなさい」

 

マルゼン「みんなもやってたの!?」

 

 

スペ(私のせいで嘘つかせちゃってごめんねぇぇぇ…)

 

 

ともあれ、決戦の時間は迫っている。

せっかく昂らせた気合いを落とす訳にはいかない。

 

 

スペ「……………マルゼンスキー先輩」

 

マルゼン「ん?」

 

スペ「私、行って来ます!」

 

マルゼン「ええ!行ってらっしゃい!」

 

 

ようやくだ。

 

 

スペ「……………さて、と」

 

 

ようやくスペはライバル達に目を向けた。

 

 

グラス「…………スペちゃん、頑張ってください」

 

スペ「頑張るよ。ちゃんと見ててね」

 

スカイ「まぁ、ほどほどにね〜。肩の力抜かないと上手く走れないよ〜」

 

スペ「コンディションおーけー、完璧です」

 

キング「この私に勝ち越しているんだもの。負けたら許さないわよ」

 

スペ「キングちゃんのためにも必ず勝ちます」

 

ウララ「応援してるからね!一緒に有マ記念走ろう!」

 

スペ「私に聞こえるくらいの応援お願いしますね。そしたら一緒に走れるから」

 

エル「………とりあえず、世界最強くらいには勝っておきマスか」

 

スペ「私に、まかせとけ…!」スッ

 

エル「!………オーケー!」コツン

 

 

そして、身を翻す前にもう一個大事なことを……。

 

 

スペ「あ、そうだ。エルちゃんに聞こうと思ってたんだけど」

 

エル「ケ?」

 

スペ「良い勝負をしましょうって、フランス語ではなんて言うの?」

 

エル「イイショーブ?」

 

スペ「うん。ブロワイエさんに直接言いたいなって思って」

 

エル「ああ、そういう…。……………ばふっ!」

 

スペ「うえええっ、どうしたの!?」

 

エル「いっ、いえいえ、……ちょーっと耳お借りしマスネ〜」

 

 

彼女はコソコソ話しのようにゼロ距離まで耳に近づけると、ちゃんと、しっかりと、これ以上にないほど的を射たフランス語のセリフを伝えた。

 

 

スペ「んーっと、……ラ、ヴィ、ーー」

 

エル「へいへーい!間違ってないのでソレはブロワイエに言ってあげてくだサァイ!」

 

スペ「そう?……ん、分かった!それじゃあ行って来るね!」

 

 

 

 

 

・

・

・

 

 

 

 

実況「エルコンドルパサーを差し切ったブロワイエをはじめ、有力なウマ娘達が遠い海を超えてココに集いました。ジャパンカップまもなく出走です!」

 

 

ウマ娘と観客のボルテージが上がる。

裏通路から続々とターフに出て来るウマ娘。スペは既に登場しており、客席の先頭にいるチームスピカの所にいた。

 

 

沖野「スペ。最終確認だ」

 

スペ「はい」

 

沖野「今日のレース、大きく引っ張る奴はいないからスローペースと見て良い。お前やブロワイエ、他のウマ娘も末脚に賭けるだろう」

 

スペ「……仕掛け所が大事、ですね」

 

沖野「そうだ。そして凱旋門賞の走りを見るとブロワイエはお前をマークする可能性が高い。………ここからは俺の予想であり作戦なんだが、」

 

スペ「何ですか?」

 

沖野「……………一度でも前をとられると、負けるかもしれない」

 

スペ「ッ!」

 

沖野「………奴の末脚は本物だ。 "あの,,エルコンドルパサーを完璧に差し切ったんだからな。加えて理想のレース展開をする。スペが勝つとしたら、奴の前を走り一度でも抜かせない事だ」 

 

ゴルシ「一度でもって所がプレッシャーだな」

 

マックイーン「脚を溜めつつ、ペースを握るのはスペシャルウィークさん」

 

テイオー「ブロワイエを自由にさせたら駄目って事だよね…」

 

スカーレット「で、スペ先輩はレース中真後ろにずっとブロワイエを待機させてる状態で走らなきゃいけない…」

 

ウオッカ「掛かったら最悪だな…」

 

 

スズカ「………一度でも、抜かせない…??」

 

 

スペが行うレース展開の重要キーワードを復唱するスズカ。彼女は考える。そして悩む。

何故みんなはそんなに深く考えているのだろうかと疑問に思うのだ。

 

ーー1+1の答えに悩む事なんてあるのか、と。

 

 

 

スズカ「そんなの当たり前の事でしょ?」

 

 

 

事も無げに。1+1の答えは2だと教えてあげるかのように。

優しい顔で、穏やかな声でそう言った。

 

 

スピカs『…………』

 

沖野「…………」

 

スペ「………ふ、…くくっ………あははは!」

 

スズカ「え…、えっ、なに!?私、変な事言ったかしら?」

 

スペ「ぜーんぜんっ!そうですよね!………トレーナーさん」

 

沖野「…?」

 

スペ「結局それが答えです。そしてなにより1番簡単な方法。変に小細工いれるよりも手っ取り早く済みます」

 

沖野「ッ!?………ったく、お前らはほんとうに…」

 

 

ここで同列に考えてはいけないのはスズカの存在だ。

スペを始めとしてキングやグラス、エル、スカイ、ウララ達は、悟空の戦士としての姿により、ウマ娘の本能を強く刺激されて好戦的な考えをするようになった。

が、スズカは違う。

彼女は至って普通に、全くの素の状態で言っているのだ。

誰かが言った、"孫悟空に1番近い考え,,のウマ娘はサイレンススズカというのも、あながちハズレではないのかもしれない。

 

 

スペ「トレーナーさん、作戦は分かりました。………あと、私の力になるものをください」

 

沖野「!…………正直、押し付け過ぎてスペが潰れてしまう事を考えてる」

 

スペ「大丈夫です」

 

沖野「……ふっ、全く。お前はそうだよな」

 

スペ「………」

 

沖野「スペ。俺はお前と会った時からずっと、……あの日にお前の脚を触った時からずっと、日本一になる所を夢に見てた」

 

  

 

テイオー「………すごい。世界で8番目に最悪な告白聞いちゃった」

 

スズカ「私は、『お前のしなやかな脚に惚れたぜ』…って言われたわ」

 

テイオー「おぉぉ…、7番目も知っちゃった。すごく忘れたいっ!」

 

 

 

スペ「トレーナーさんは私の夢を笑わないでくれました。応援してくれて。……だから私は、貴方の夢を叶えます」

 

沖野「俺の夢とお前の夢は同じだ。………頼む、勝ってくれ…!」

 

スペ「はいっ、勝ちます!!!」

 

 

トレーナーとしての想い。そして彼女達もぶつける。

 

 

ゴルシ「スペ!出遅れだけには気を付けろよ!」

 

マックイーン「斜行もですわ!勝利したとしても失格になってしまえば元も子もありませんもの!」

 

スペ「はい!」

 

 

その時。

率直に思ったのは、何か爆発でも起きたのかという事だった。

だが思案までもなく答えはすぐに分かる。爆発かと思う程の空間を裂く音の正体は『声』だ。

 

 

実況「ーーブロワイエです!青と白を基調とした勝負服に身を包み、満を持してターフに現れました!!」

 

 

空気を震わせる大歓声。

もはや世界最強のアイドルだ。彼女の美貌に目を奪われたファン達は一生懸命に応援のうちわを振るう。

 

 

スカーレット「かっ、かっこいい…」

 

ウオッカ「おーい、あれは敵だぞ」

 

スカーレット「そ、そーだけど…」

 

ウオッカ「まぁ、同感だけどな」

 

スカーレット「なによそれ!」

 

沖野「それにしても見事な仕上がりだ」

 

テイオー「うん、ここからでもハッキリと分かる。さすが世界最強だね」

 

沖野「スペ。そろそろ始まるけど、準備は良いか?」

 

スペ「……………」

 

沖野「スペ、どうした……ッ!」

 

スズカ「!…………スペちゃん」

 

スペ「………あ、私そろそろ行きますね。ブロワイエさんに挨拶しなきゃ」

 

ゴルシ「お、おう……、頑張ってな!」

 

スペ「はい」

 

 

ゴルシだけでも声援を送れて良かったと言えるだろう。他の者達はかける言葉は思いつかなかった。

 

 

沖野「………あいつ、笑ってたな」

 

ゴルシ「……"アレ,,を笑うって言って良いのか分かんねーけどな」

 

 

 

 

・

・

・

 

 

 

 

実況「さあ!ジャパンカップ出走まで残り5分!ターフに全てのウマ娘が出揃いました!」

 

 

ファンファーレが鳴るまでの間、各ウマ娘は最後の仕上げに入る。適度に身体をほぐし、呼吸を整える。見える範囲でバ場状態を確認。

 

 

実況「今年の凱旋門バ、ブロワイエの参戦という事で非常に盛り上がりを見せていますが、注目はブロワイエだけではありません!香港の勇、英国の星。それぞれの国で名を上げているウマ娘がココに揃っています!」

 

 

最初に気付いたのは観客の1人か、それとも出走ウマ娘の1人か。とある一点だけを目にするヒトが次から次に増えていく。

 

 

実況「強者を迎え撃つ日本勢。その中でも注目なっているのが、黄金世代スペシャルウィーク……ッ、と、ここで進展!スペシャルウィークがブロワイエに近づいて行きます!!」

 

 

不思議な感覚。

負けたら有マ記念は無いというのに緊張感が持てない。それどころか気分が高揚する一方。まるでケーキの最後に食べようと思っていたイチゴを目の前にしている感じだ。

 

 

スペ(………実際は全然甘くは無いんだけど)

 

 

そう思い。足を止めた。

 

 

ブロワイエ「…………」

 

 

世界最強の目の前で。

 

 

スペ(………怖さは、少し出て来た。バ群の中にいるようなプレッシャーを1人のウマ娘から感じる…)

 

ブロワイエ(なん、だ…この、射るような眼光は…!………とても先日にニンジン持って走っていたウマ娘とは思えんっ)

 

スペ(まぁ、そりゃそうだよね)

 

ブロワイエ(…………しかし、これで腑に落ちた)

 

スペ(あのエルちゃんに真っ向から勝ったんだもん。普通じゃない事なんて最初から分かってた)

 

ブロワイエ(あのエルコンドルパサーが認めた相手。私に勝つと即答したウマ娘。……こうでなければならない) 

 

 

第三者から見たら何を思うのか。

笑顔が眩しい彼女は、妖しく不敵な笑みを作り。

紳士のように振る舞う彼女は、冷たさ宿る眼で見下している。

そんな普段とは真逆の彼女達。ただならない雰囲気に行末を見守るしかない。

 

その時だった。

 

 

ブロワイエ「ーーーーー」

 

 

彼女が口を開く。

 

 

スペ「ッ…!」

 

 

それはただの挨拶か。それとも宣戦布告か。彼女の言葉を感じ取ったスペは即座に行動する。

両手の中指と薬指を折り曲げて、身体を捻り、顔色を青くした。

忘れていた訳ではない。不意を突かれたのだ。だから叫ばずにはいられない。

 

 

スペ「ふっ、……フランス語だったぁああああ!!?」

 

ブロワイエ「」ビクッ!

 

 

その声は客席までも轟き、

 

 

沖野「………」

 

ゴルシ「……」

 

マックイーン「……お二人とも、顔を伏せてますが、いかがなさいましたか?」

 

沖野「……いや、なんか…」

 

ゴルシ「……思わせぶりな雰囲気晒したのが恥ずかしくて…」

 

テイオー「共感性羞恥って言うんだっけ……ボクまで恥ずかしくなってきた…」

 

 

それは別の場所でも、

 

 

スカイ「いいぞースペちゃん!」

 

エル「それでこそスペちゃん!」

 

ウララ「可愛いよスペちゃん!」

 

悟空「先手とられてんぞー!やり返せスペー!」

 

 

彼らは大いに盛り上がっていた。

 

 

キング「ちょっと貴方達、野次なんて飛ばさないでちょうだい。下品よ」

 

グラス「そうですよ。応援は力になるのですから、しっかりと心を込めて伝えてないと…」

 

悟空・ウララ・エル・スカイ『あ、』

 

キング「どうしt……………あ、」

 

グラス「?………」チラッ

 

 

 

 

グラス「ーーーあ?」

 

 

 

 

・

・

・

 

 

 

 

スペ(って、私バカじゃん!フランス語に決まってるよ!)

 

 

わたわたと慌てふためく。仕切り直しをするために奇妙なポーズをやめて、再びブロワイエと対面した。

 

 

スペ「ぶ、ブロワイエさん!ボンジュール!」

 

ブロワイエ「!……bonjour」

 

 

一瞬だけ、目をぱちくりさせるとブロワイエは笑顔で応えた。その事に安堵をするスペ。

だがこれがゴールではない。誠心誠意、力の限り戦う者としてエルコンドルパサーより受け継いだ言葉を発さなくてはならない。

正しい発音なんて分からない。けれど真っ直ぐ、彼女の目を見ながら言えば心で通じ合える。そう信じて。

 

ーー良い勝負にしようと伝えるのだ。

 

 

スペ「ラ ヴィクトワール エタ モア!(調子にのんな!)」

 

 

言えた!

スペは確信した。やはり辿々しい言い方ではあったが、語感としては伝わったはず……なのだが、

 

 

ブロワイエ「…………」ジー

 

 

感情を含まない、無の視線がスペを貫いている。

 

 

スペ(う、そ……間違えちゃったかな…?)

 

 

彼女は考えた。

 

 

スペ「ラヴィクト ワール エタモア?(調子にのんな?)」

 

 

イントネーションを変えようと。

 

 

ブロワイエ「………」ジー

 

スペ「ッ!…ら、ゔぃくとわーるえたもあっ!!(調子にのんなぁっ!!)」

 

ブロワイエ「………ふふっ」

 

スペ「!!!」

 

 

進展があった。

勢いよく伸ばした手を掴んでくれたのだ。……かと、思えばその手を引き寄せられて、気が付けば…、

 

 

ーーちゅっ。

 

 

スペ「〜〜〜っ、!!、?!!」

 

 

頬に感じた柔らかいモノ。耳元で聞こえたリップ音。

"そっち,,方面の知識は全く無くてもこれだけは分かる。

 

 

スペ「ち、ちち、ちゅぅ…!?」

 

ブロワイエ「ーーー」フッ

 

 

顔を赤らめて佇むスペに一言呟き、ブロワイエは黄色い声が蔓延する客席へと歩いて行った。

厳密に言えば、お遊びが過ぎたコンドルへ挨拶するために。

 

 

 

 

・

・

・

 

 

 

 

エル「…………ニヒヒ、」

 

 

奇妙な笑いが溢れる。

 

 

ブロワイエ「やってくれたな。エルコンドルパサー」

 

エル「ワタシ流の挨拶は喜んでもらえマシタか?」

 

ブロワイエ「ああ、最高だったよ」

 

 

>チョット、オチツキナサイッテバ!

>アバレチャダメダヨ!

 

 

エル「一応言っておきマスが、スペちゃんは良い勝負にしようと伝えたかったらしいデス」

 

ブロワイエ「そんな所だろうね。ちゃんと伝わったさ」

 

 

>ゴクウサン! "キ,,デナントカシテ!

>コンナトコロジャムリダ!

 

 

エル「それなら良かったデス」

 

ブロワイエ「ああ。………ところでエルコンドルパサー。聞きたい事があるのだが、」

 

エル「……やめた方が良いかと、」

 

ブロワイエ「さすがにそれは無理だ。………彼女は一体どうしたんだ?」

 

 

 

グラス「○¥々→♪→=°%…!!!!!!!」ジタバタ

 

 

 

まるで腹を空かせた肉食獣が獲物を掻っ攫われたかの如く、恐ろしい形相をしているのはグラスワンダー。

彼女は狭い空間でありながら暴れようとしている所を仲間達に止められている。もしも離してしまうととんでもない事態になるだろう。

とはいえ密かに悟空も手助けしているため、グラスは身動き一つ取れない。

 

 

エル「………スペちゃんの過激なファンデス。ブロワイエがスペちゃんにチューなんてするから…」

 

ブロワイエ「………そういう事か。………ん?そういえば彼女はあの時の………あの日本の魂を宿した美しいウマ娘ではなかったか!?」

 

エル「………性格は1つじゃありマセン」

 

ブロワイエ「……そのようだな」

 

エル「ブロワイエ」

 

ブロワイエ「?」

 

エル「頑張ってくだサイ」

 

ブロワイエ「ッ!………キミが私を応援するのか?」

 

エル「ハイ。勝ってくれとは言えマセンが、一言伝えるくらいは構わないデショウ」

 

ブロワイエ「……ふっ、それなら頑張るとしようか」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

実況「さあ、舞台の準備が整いました。黄金世代スペシャルウィークは13番。凱旋門賞ウマ娘のブロワイエはその隣、14番に入ります」

 

 

ブロワイエ(見せてもらおう。日本のウマ娘よ。そして見せつけてやろう。最強の力を)

 

スペ(よしっ、いっちょやっか!…………フフッ)

 

 

 

実況「………体勢を整えて……いまーーースタートですッ!」

 

 

 

 

 

東京、芝2400m 全14人 ジャパンカップ 

 

 

       ー決戦ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。