孫悟空とウマ娘   作:猫ネコ

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今回の話しは何やら書きにくかったです。
説明文は難しいですね。要点だけでも掴めていただける事を祈ってます。





注意
・新聞配達の時間は実際よりも遅くしてます。
・食堂の開店時間は適当。
・寮の外出可能時間は不明。
・セイウンスカイは1人部屋。
・捏造あり。






リスクを冒してでも

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚まし時計のアラームが鳴る瞬間。布団の中からニョキっと手が飛び出た。

 

ーーーカチッ。

 

アラームが作動したのは1秒にも満たない。

もはや条件反射だ。日々の積み重ねで当たり前になった日常が、今日もまたやって来た。

 

「…………さむぃ」

 

しかし彼女は布団から出れない。一瞬しか出していないのにもう既に手が冷たくなっている。

これは悪魔の連鎖だ。

寒いと感じ布団に潜れば、その暖かさで睡魔が襲ってくる。

まるで砂漠のど真ん中で体内の水分が渇ききった時には現れる泉。オアシスだ。

こんなエデンから抜け出せる者は誰もいない。

 

「うん、起きよ」

 

アホな事を考えている場合ではない。

自主練ならともかく、自分はお仕事に行くんだ。遅刻をすれば多くの人を困らせてしまう。

彼女はそう考えると、思いっきり布団を蹴り飛ばしてベッドから降りた。

 

(さっっっむっ!)

 

今日はいつもより一段と冷え込む日だったらしい。

想定以上の寒さを感じた彼女は、反対側のベッドに向かった。

 

(5……いや10分!他の作業を切り詰めればまだ寝れる!)

 

自分のベッドは布団を蹴飛ばしてしまったが故に冷たい物になっている。

入り込むのは、今も目の前でぬくぬくと気持ち良さそうに寝ているウマ娘の所だ。

 

(それじゃあ、しつれーしまぁす)

 

起きないようにゆっくりと掛け布団を捲る。

 

 

直後。

 

 

もの凄いスピードで布団が閉じられた。

 

 

「二度寝禁止」

 

 

ぱちり…とノーモーションで開いた瞼。寝起きだというのに強い意志を感じさせる赤みを帯びた茶色い瞳。

彼女は100年振りに再会を果たす恋人のように布団を強く抱きしめた。

 

「ご、めんね?起こしちゃったかな?」

「二度寝禁止」

「ぉぉぅ…」

「にどね……きん…し…」

「ありゃ」

 

時刻は朝の4時00分。

朝練がオフの彼女はまだまだお眠なはずだ。

 

「………おやすみ、キングちゃん」

 

欲に負けたせいで睡眠の邪魔をしてしまった。

ウララはすっかり覚醒し、キングの寝ている布団を整えると荷物をまとめた。

新聞配達の準備だ。

トレーニングも兼ねた新聞配達は走って行われる。そのためエネルギーの源でもある朝食を摂ることは必須。

ウララは運動着に身を包み、赤いハチマキを気合いと共に締めた。

 

「…いってきまーす」

 

ボソリ。

自分でもちゃんと声が出たのか分からない程の声量で呟くと、

 

「いって……しゃい………がんば……て…」

 

そんな声が返って来た。

 

「!………うひひっ」

 

そんな言葉が全力で頑張れる動力だった。

 

 

 

 

 

 

 

調理室。

毎朝ウララは一度ここで悩む。

 

「なに食べよっかな〜」

 

これは好きな物を食べれるからその選択肢の多さに悩んでいる……という訳ではない。

食べる物でなく、食べ方が問題なのだ。

 

(悟空さんみたいにお腹いっぱい食べる?……でもその状態で走るのは大変だよね……でもでも悟空さんはそれで元気100倍だし…)

 

現在みんなの共通の認識である、孫悟空は頼りになるけど参考にはならないという常識。

その事はもちろん分かっているが、あの食べっぷりが強さの素になっていると考えると、惹かれてしまうのも無理はない。

 

「ん〜っ!………むりだね、はいちゃいそう。って事でいっただっきまーす!」

 

そう。何度も考えるが、その度にこの答えで終わる。

ウララは慣れた手付きでプロテインの粉と牛乳を混ぜてシェイクしている間に、梅干しの入ったおにぎりを口に入れた。 

その後完成したプロテインを一気に飲み干す。

 

「〜〜〜っ、ぷは!えーと、これで炭水化物とタンパク質。梅干しの……あみん酸?…………なんか違う気するけど、タキオンさん何て言ってたっけなぁ…」

 

ウララは思考を巡らせた。

最近新たに加わった修行の1つ。アグネスタキオンの勉強会。走るために必要は筋肉、骨、栄養素などを教わっていた。

身体を把握するために教えてもらえ、と悟空の助言によるものだ。

そして悟空もそう言ったからにはちゃんと手伝っている。

講義中、彼は上半身裸だ。

リアル人体模型としてタキオンの助手を務めているのだ。

 

「………ん。思い出せないから次の時に教えてもーらおっ!ごちそーさまでした!」

 

正直成果はあまりよろしくない。それでも知ると知らないとでは天と地ほどの差が出てくる。

ウララは飲み終わった容器を洗い。歯磨き、洗顔、配達終了後すぐに食べる予定のニンジンを鞄に入れて準備完了。

 

「よーし!今日も一日頑張るぞーっ!」

 

 

 

ハルウララ。

大きなレースで勝つ事を目標にしている彼女。夢を叶えるために今日もまた、過酷な一日が始まる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

  

 

午前4時15分過ぎ。

学園の門前にウララが辿り着くと、既に悟空の姿があった。

 

 

ウララ「悟空さーん!」  

 

悟空「オッス、ウララ!」

 

ウララ「おはよー!今日も一緒に頑張ろうね!」

 

悟空「そうだな。んじゃ早速行こうぜ」

 

ウララ「うん!」

 

 

ここからは準備運動も兼ねてランニングで勤務先へと向かう。

 

 

タッタッタッーーーー。

 

 

 

ウララ「そういえば、さっきスペちゃんのトレーナーさんと会ったよ」

 

悟空「沖野さんか?こんな時間から起きてるって事は、ちゃんと早寝早起きをしたんだな。にして早起き過ぎるような気もすっけど」

 

ウララ「んーん。これから寝るんだって」

 

悟空「なんてこった…」

 

ウララ「トレーナーさん大丈夫かな?」

 

悟空「すげぇボロボロって訳じゃねえけど、体は悲鳴あげてたな」 

 

ウララ「ゆっくり休んでくれると良いんだけど…」

 

悟空「つってもオラ達じゃどうしようもねぇしなあ。………スペとスズカに告げ口すっか。早く休ませねぇと沖野さん死んじまうぞーって」

 

ウララ「………死んじゃうはやめよ?悟空さんが言うと冗談に聞こえないから」

 

悟空「そうけ?じゃあ、ぶっ倒れちまうぞー…は?」

 

ウララ「うん、だいじょーぶ!」

 

悟空「ならそう伝えとくか。そんでこれでもかってくれぇに叱ってもらおう。スピカの奴ら全員でせめれば、さすがの沖野さんも休むだろ」

 

ウララ「そうまでしなきゃ休んでくれないって、トレーナーって大変なお仕事なんだね」

 

悟空「そいつはどうだろうな。大変なのは間違いねぇけど、キントレの奴は元気だぞ」

 

ウララ「あ、そっか。………ね、ねぇもしもさ…」

 

悟空「?」

 

ウララ「キングちゃんのトレーナーがスピカのトレーナーさんだったら、どうなるんだろうね」

 

悟空「! そりゃあおめぇ、ぜってえ怒られんだろ!」ククッ

 

ウララ「だよね!だよね!」

 

悟空「一流のウマ娘のトレーナーとして自覚が足らない!みてぇなこと言ってよぉ!」

 

ウララ「あははは!悟空さん似てるぅ!キングちゃんのセリフまんまじゃん!」

 

悟空「へへっ、オラも中々出来るようになって来たけど、真似ならキントレの奴がうめぇぞ。実際にそう言われたんじゃねぇかってくれぇに簡単に想像出来るんだ」

 

ウララ「おーっ!さすがキントレさん!キングちゃんの事分かってるね〜!」 

 

悟空「んじゃそれを聞いた時のキングの反応はどんなんだと思う?」

 

ウララ「むむっ!………そのくらい分かっててもらわないと……こ、こまるわっ!……みたいな感じ?」

 

悟空「んー、なんかしっくり来ねぇな。もうちょい、こう…上からっつーか偉そうな具合に…」

 

ウララ「えーっ、じゃあ悟空さんは?キングちゃんの前で、キントレさんはキングちゃんの事よく分かってるね!と、言いまし……た!」

 

悟空「コホン………一流のウマ娘のトレーナーは一流のトレーナー!一流の者同士は考えてる事まで分かるのよ!」

 

ウララ「………なんか微妙じゃない?」

 

悟空「ありゃ、そうか?」

 

ウララ「いや、言いそうな感じはするんだけど、そんなに一流一流言ってたっけ?」

 

悟空「言ってんじゃねえか?オラ、とりあえず一流つっとけば何でもキングになると思ってっけど」

 

ウララ「あ、言っとこ」

 

悟空「え」

 

ウララ「いひひっ」

 

悟空「ウララ…?」

 

ウララ「悟空さんがキングちゃんの事、一流としか言わないウマ娘だって言っちゃおおおおお!」ダダッ!

 

悟空「ひ、卑怯だぞウララ!おめぇだって真似してたくせに!ヘンテコだったけど!」ダダッ!

 

ウララ「あーっ!ヘンテコなんてひどい!もぉ絶対に言っちゃうもんねーーー!」ダダダダッ!

 

悟空「ならせめてオラが言ったまんまを伝えてくれー!ウララの言い方だと誤解生んじまうよ!」ダダダダッ!

 

 

まだ先の長い道のりを無意味に加速していく彼女達。準備運動にしてはハード過ぎる運動量。

しかしハイテンションの域に達したウララは車両が少ない事を理由に、縦横無尽に駆けずり回る。

後ろから追いかける悟空も蛇行気味だ。

もはや暴走族と化した鬼ごっこは勤務先まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもちろんの事、到着が普段よりも随分と早い。

その反動がウララの身に起こっていた。

 

 

悟空「おーい。でぇーじょーぶかー?」

 

 

手をメガホン代わりにして叫ぶ。先程まで大いにはしゃいでいたウマ娘は今、膝に手をついて荒々しい呼吸をしていた。

 

 

ウララ「は、はぁ、はぁ、はぁ…、〜〜〜っ、オエ」

 

悟空「目的地が決まってんのにペース配分がめちゃくちゃだ。面白ぇくらいに掛かってたぞ」

 

ウララ「ひゅ、ごほっ、か、はっ、はっ…!」

 

悟空「こいつはおめぇの悪ぃ癖だ。その場の雰囲気にのまれて後先考えず、自分の持ってる力を存分に振るっちまう。まぁ何に対しても全力でぶつかるって考えオラは好きだけど、レースじゃどんな事が起こるか分からねぇから、そのために自制心はコントロール出来た方が良いな」

 

ウララ「ごほっ、ごほっ、……ご、くさ…」

 

悟空「ん?」

 

ウララ「ちょ、と……きゅう、けー…しよ…?」

 

悟空「なぁに言ってんだ。する訳ねぇだろ」

 

ウララ「そんなぁ!」

 

悟空「ちょうど良いや。動きながら休む方法を覚えといてくれ」

 

ウララ「動きながら?……そうゆーの知ってるよ。矛盾って言うんだ」

 

悟空「へー。そんでその休むコツなんだけど、」

 

ウララ(ながされた…)

 

 

2人がいるのは新聞販売所の目の前。

そこで悟空の修行は始まった。

 

 

悟空「疲れて動くのが大変な時。体の奥底から力を振り絞るやり方と、必要のない力を使わないっちゅーのがある」

 

ウララ「うん」

 

 

いくら疲れていようが修行が始まれば関係ない。ウララはフラフラになりながらも悟空に向き直る。

 

 

悟空「まぁ最初に言った方の力を振り絞るやり方については言葉のままだ」

 

ウララ「根性大爆発だね」

 

悟空「そういう事。んでもって必要のない力を使わないってのも言葉のままだな」

 

ウララ「……前にキングちゃんと一緒にやった "無駄を無くす走り方,,と同じ?」

 

悟空「それの応用ってところかな。ま、サクサクっと出来るからやっちまおうぜ」

 

ウララ「うん!」

 

悟空「まずは自分の体の辛い所を知っておく!」

 

ウララ「足が重い!息苦しい!肩が痛い!」

 

悟空「背すじを伸ばして深呼吸!回復するならまずは呼吸から。そんで疲れている事を相手にバレないようコッソリとするんだ」

 

ウララ「………」スー…ハァ…

 

悟空「腹の下だけに力を入れて他は脱力。でもリラックスすんのと無気力になんのは別だかんな。そういう時でも周りには気を配り、目を動かす」

 

ウララ「ふぅ。…………、」キョロキョロ

 

悟空「体を休め、音を聞き、用心する。今のウララが理想の状態だ。今は立ち止まったままやってっけど、これをふとした時に簡単に出来て一流。レース中の合間を見つけて出来たら超一流って感じかな」

 

ウララ「………………これだけ?」

 

悟空「ん?おう」

 

ウララ「ぜんっぜん休めてる感じしないんだけど!?」

 

悟空「そりゃあそうだろ。コツを教えただけなんだから」

 

ウララ「じゃあここからどうするの?」

 

悟空「オラが言えんのはここまでだ。あとはウララ自身で習得してくれ」

 

ウララ「えーっ!むせきにんだぁー!」

 

悟空「違うって。技と違って技術には決まったやり方がねぇんだよ。ウララが出来たと思えばそれが正解だ」

 

ウララ「なにそれぇ…。どんなものか分からないなら答えの出しようがないよぉ」

 

悟空「ーー空のように静かに。雷のように速く」

 

ウララ「?」

 

悟空「これがどんな意味か分かるか?」

 

ウララ「? そのまんまじゃないの?静かにして、ものすごく速く動くみたいな」

 

悟空「そうだな。でもオラはそれが出来るまでに何日もかかった」

 

ウララ「えっ!?」

 

悟空「静かにするのは心を無にして自然と一体化する事。雷のように速くっつーのは、正しく言うと雷 "よりも,, 速くって意味だったんだ」

 

ウララ「自然?……かみなり、よりも…?」

 

悟空「雷を敵として考えると分かりやすいか……。例えば雷を落ちる時は敵が攻撃して来る時だとして、」

 

ウララ「うん」

 

悟空「攻撃を見てから避けるんじゃ遅いから、攻撃して来る直前を狙って動くんだ」

 

ウララ「……それって雷が落ちる時を分かってないとって事だよね?そんなの分かるの?」

 

悟空「オラが今言った事を思い返してみろ」

 

ウララ「ほぇ?んーと、動きながら休む方法…」

 

悟空「あ。そこまで戻んなくて良いぞ」

 

ウララ「?……空のようにしずかに、雷のように速く…」

 

悟空「うん。んで空のように静かにするためには?」

 

ウララ「心を無に自然と……、自然と一体化だ!」

 

悟空「そうだ。実は繋がってたんだ、その二つは」

 

ウララ「わぁーっ!すごいすごーい!!教えてくれた人凄いね!」

 

悟空「ははっ、人かどうかは分かんねぇけどオラの師匠の1人だ」 

 

ウララ「悟空さんのお師匠さん!」

 

悟空「ああ。まぁ雷のようにっつーのは無駄な動きをなくす意味もあるけど、そんな感じで技術には奥が深いって事を伝えてぇんだ」

 

ウララ「うんっ、伝わったよ!ウララだけの動きながら休む方法を見つければ良いんだね!」

 

悟空「そんな事があったなー程度に思っとくと、ふとした時全く関係ねぇ場所でも閃く事がある。その時が来たならどんな場面でもすぐに復習するんだぞ」

 

ウララ「はーい!」

 

悟空「よし!じゃあちょうど良い時間だから仕事始めっか!」

 

ウララ「頑張ろうね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空・ウララ「「おはよーございます!」」

 

 

仕事が始まる前の慌ただしい事務所に元気いっぱいな声が響き渡った。

その瞬間、社員達は一斉に目を向けて挨拶を返す。全員が笑顔だ。

彼らがやって来るまではどこかピリピリした様子だったが、週の半分に訪れるこの光景がみんなの心に余裕を持たせるようになっていた。

 

 

社長「おーっ!待っていたよ。ちょっとこっちに来ておくれ」

 

 

奥の席で手招きをしている。

悟空達は特に考える事なく歩を進めた。

 

 

悟空「オッス!」

 

ウララ「おはよーございます!社長さん!」

 

社長「うん。おはよう孫さん。ウララちゃん」

 

悟空「なんか急いでるみてぇだけどどうかしたか?」

 

社長「そうなんだよ。さっき社員の子から電話もらったんだけど、体調を崩したみたいで急遽休みになったんだ」

 

悟空「あー、最近寒くなってきたからなぁ。そいつは大丈夫なんか?」

 

社長「うん、熱は大した事ないから病気行って安静にしておけば治るみたい、なんだけど!」

 

悟空・ウララ「「けど?」」

 

社長「今日彼の代役を頼める人がいないんだ。元々今日の出勤人数が少なくて…」

 

悟空「あちゃー、そりゃあまじぃな…」

 

社長「だろう?そこで非常に申し訳ないんだが、孫さんとウララちゃんに頼む事は出来ないだろうか」

 

悟空「ん、良いぞ」

 

社長「ほ、本当かい!?」

 

悟空「うん。だってその方が多く走れるって事だろ?」

 

社長「そうなるけど………ただ、無理を言ってすまないが、出来れば時間内に…」

 

悟空「ははっ、そんなの当たり前ぇじゃねえか。もしウララが出来なくてもオラが何とかしてやるさ」

 

社長「……ウマ娘であるウララちゃんが出来ないのに孫さんが出来るというのは、色々と変じゃないかい?」

 

ウララ「!」

 

悟空「あ、あはははは…!そっ、そんなに変かぁ?」

 

社長「…………まぁ良いさ。それじゃあ頼むよ。孫さん。ウララちゃん」

 

悟空「お、おう!」

 

ウララ「はい!」

 

社長(……………)

 

 

あれは確か、彼がボランティアとして活動するようになって間もない頃だった。

ある時彼が言った。

『オラ達はあまり目立ちたくないから色々穏便に頼む』…と。

こちらとしても世間に公表すると余計なバッシングを貰いかねないから、その提案はのんだ。

 

 

社長(目立たせたくないのはウララちゃんの事だと思っていたけど、これは彼の方かな)

 

 

ウマ娘よりも自分の方が能力高いとも受け取れる言い方をする彼。人の身でウマ娘より優れてるなんて事はあり得ないのが一般常識。

しかし彼の纏う雰囲気。言動。様々な観点から見ていると、その常識に彼は当てはまらないのではないか……という疑心が沸いてこようとしている。

 

 

社長(………ま、そこまで分かっていながら黙認している僕も僕か)

 

 

思わず口角を緩める。

途端。彼らが配達する新聞をカバンに詰めて出て行こうとする所を呼び止めた。

 

 

社長「………孫さん、ウララちゃん。ちょっと待ってくれ」

 

悟空・ウララ「「???」」コテン

 

社長「うん。とりあえずその、ーー甲羅を外そうか」

 

悟空・ウララ「「えっ…!?」」

 

 

対面で話していると気付かなかった。

2人の背中にはとても大きな亀の甲羅がくっついていた。

 

 

悟空「だ、だめか?」

 

社長「だめだねぇ」

 

悟空「やっとウララの体が出来上がってきたからレベル上げてみようと思ったんだけど…」

 

社長「かなり目立つよ?」

 

悟空「え、でもまだ朝早ぇし…」

 

社長「このご時世、物珍しい光景を見ればすぐ写真を撮ってSNSに載せる。ただそれだけで世界中に広がるんだ。割に合わないと思わないかい?」

 

悟空「……思う」

 

社長「それなら置いていこう。事務所の表ならどこに置いていても良いからさ」

 

悟空「分かった……」

 

ウララ「それじゃあ行ってきまーす!」

 

社長「うん。行ってらっしゃい」

 

 

社長は事務所から出ていく2人を見送る。心なしか悟空の背中が折れ曲がっていた。甲羅を背負えなかったのがそんなに落ち込む事だったのだろうかと思っていると、

 

 

ーー今日も張り切って行くぞーーーっ!

 

ーーおーーっ!!!

 

 

……と、外からそんな声が聞こえてきた。

1人分多く加わった新聞配達の量。時間内に間に合わないかも…という不安はもう既に、社長の脳裏には存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからはまさに掛かりっぱなしのレースのようだった。

 

 

悟空「ーーしゃあ次ぃっ!」

 

 

いつも通りの時間に出勤し、1人分多くなった配達の量。時間には猶予がなく、問題を解決するには走るスピードを速くするしか方法がないのだ。

 

 

ウララ「ハァハァ、ちょ、っと…まっ…」

 

 

しかし。それは口でいうほど単純なものではない。既に人間でも追い付けそうなくらいウララは遅かった。

たとえ距離が延びても、いつものウララならばペースは遅くなろうともここまでとはならない。仕事が始まる前に余計な体力を使ってしまった事が原因だ。

 

 

悟空「次だ次!ささっと片付けちまおうぜ!」

 

ウララ「ーーーー」

 

 

もう言葉が出なかった。息を切らしながらウララはジェスチャーを送る。悟空に1人で行ってくれと伝えた。

 

 

悟空「ウララ。息が吐いてばっかで吸えてねぇぞ。肩と背中に余計な力入ってるし、逆に腹には力入ってねぇから腰に負担がかかってる。さっき言ったのを思い出せてねぇって事は頭が回ってない証拠だ」

 

 

ジェスチャーの意味を理解しているのかどうかは分からないが、運動面に対しての指摘が返ってきた。

悟空からそう言われれば、ウララは応えない訳にいかない。

 

 

ウララ「ハァ、ハァ、ハァ……………スゥゥゥ……はぁぁ…」

 

悟空「そうそう。深呼吸してる間は辛ぇけど、そうしなきゃいけねぇかんな」

 

ウララ「スゥゥ…はああぁ……」

 

悟空「疲れてる時にどれだけ工夫出来るかが進化の決め手だ!頑張れウララ!」

 

ウララ「ーーーようし!まだまだ頑張るよ!」

 

悟空「おう!」

 

 

活気を取り戻すウララ。

甲羅を背負ってなくて良かったと、心から安堵していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

地図を見ながら駆けずり回る。

朝日が昇って来た頃には、全ての新聞を届けられていた。

 

 

女性「その頑張った結果がコレなのね」

 

悟空「そうなんな」

 

 

 

ウララ「」シーン

 

 

 

新聞配達を始めてから時々話すこの女性。悟空はゴール地点をこの家に決めていた。

 

 

ウララ「……お、ね…ぇ………さん……?」

 

 

意識が戻ってきたのか、プルプルと震えながら顔を上げた。

 

 

女性「ええ、お疲れ様。今日は一段と凄い事になってるわね」

 

ウララ「……悟空さんがね?無茶な事ばかり言うの」

 

悟空「あーっ、またそうやってすぐ人に言う!告げ口ばっかりだなおめぇは!」

 

ウララ「だぁってぇ!」

 

悟空「大体おめぇが早く力つけたら良い話しじゃねえか。こんくれぇサクサクってこなしてみろよ」

 

ウララ「ほら!今の!聞いたでしょ!?」

 

女性「うーん…。私には難しいわねぇ…」

 

ウララ「えぇっ!」

 

悟空「へへっ、味方になってくんなくて残念だったなウララ」

 

女性「それにしても孫さんはいつも通りなのね。汗一つかいてないじゃない」

 

悟空「そりゃあーー」

 

女性「鍛えてるから?」

 

悟空「ん?……へへっ、先に言われちまったけど、そうだな」

 

女性「もう驚く所がないわ。孫さんについていけるウララちゃんが凄いって思うくらいよ」

 

ウララ「だよね!もっと褒めて!」

 

悟空「いーやだめだ。おめぇ調子にのるとすーぐダメになるもん」

 

ウララ「ひどいっ!」

 

女性「ふふっ。でもほんとに凄いと思うわ。最初の時を知っていると信じられないほどの成長だもの」

 

ウララ「ほんと!?ほんとにそうおもう?」

 

女性「ええ。ほんとにほんとよ」

 

ウララ「……うひひっ、うれしいなぁー!頑張ってる所を知ってもらえるのは元気がわいてくるよ!」

 

女性「それは良かった」

 

悟空「んじゃ元気が出てきたんなら競争しながら帰るか」

 

ウララ「またそーゆー事言う!もぉ体力が無いんだってば!」

 

悟空「そう言うなよぉ。ちゃんと加減すっからさ。もしウララの方が早く着いたらアイスでも買ってやんぞ」

 

ウララ「寒いから肉まんが良いっ!」

 

悟空「肉まん……オラも食いてえ!」

 

ウララ「それじゃあ早く帰って一緒に食べよ!」

 

悟空「だな!」

 

女性(競争しなくて良いのかしら?)

 

悟空「ーーっと、帰ぇる前に1個聞いときてぇんだった」

 

女性「?」

 

悟空「もしもさ、でっけえ亀の甲羅背負って走ってる奴がいたら、あんたどうする?」

 

女性「かめ?………想像もつかないから何とも言えないけれど、写真で撮って主人に見せるとか?」

 

悟空「………やっぱ撮んのか」

 

ウララ「外では諦めた方が良いのかもね」

 

悟空「みてぇだな」

 

女性「なにかあったの?」

 

悟空「いや、なんでもねぇさ」

 

ウララ「じゃーね、お姉さん!今日も楽しい1日になると良いね!」

 

 

トン……。

軽快な音が鳴ると悟空達は数メートル先に飛び出していた。それは先程話していた競争ではない。ただ、ウマ娘とそれ以上に力を持った怪物が適当に走り出しただけなのだ。

 

 

女性「相変わらず速いわねぇ」

 

 

誰に聞かせるでもなくボソリと呟く。

そして。

 

 

女性「……もうとっくに楽しい1日になってしまったわ」

 

 

あまり表情豊かではない彼女は、クスッと笑みを浮かべて家の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空達は新聞配達を終えてからの帰り道。

肉まんを求めてコンビニへ向かう途中に事件は起こった。

 

 

ウララ「………悟空さん。かなり大変な事になっちゃったかも…」

 

悟空「どうした?」

 

ウララ「ウララね?」

 

悟空「うん」

 

ウララ「とても眠たくなってきたの」

 

悟空「あらら…、んじゃ肉まんはやめて学園に戻るか」

 

ウララ「……んーん………そーゆー事じゃなくて…」ピタッ

 

悟空「?」

 

ウララ「も、う……ねま……す…」フラッ

 

悟空「なっ…!?」

 

 

久しぶりに本気の速さで移動する悟空。

1秒も経たずウララを腕の中に抱え込むと、遅れて猛烈な風が巻き起こった。

 

 

悟空「あっぶねぇ……」フゥ

 

 

顔を覗くと瞼は完全に閉じられている。

ウララはすっかり夢の中に旅立ったみたいだ。

   

 

悟空「………ははっ、変わんねぇな。ウララ」

 

 

悟空は周囲に"気,,を配り、誰もいない事を確認する。

その後ウララの靴を脱がして手に持ち、額に指を当てると同室であるウマ娘の"気,,を見つけて消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

" シュン! ,,

 

 

悟空(寝かせる前に体を拭いときてえんだけど)

 

 

彼は空中に浮きながら考える。

女というのは匂いや汗、汚れを気にする生き物だ。このままベッドに寝かせたら怒られてしまうかもしれない。

そもそも大量に汗をかいているから、体を拭かないと風邪を引いてしまうだろう。

しかし。

 

 

悟空(ウララ抱えてっから何も出来ねぇ…)

 

 

悩んだ末。

彼はウララを床に置く事にした。

 

 

悟空(さて、タオルはどこかなあ)

 

 

フワァ…と、幽霊のように移動する。

適当な押し入れに手を掛けた時、ふと視線を感じた。

 

 

悟空「ん?」クルッ

 

キング「…………おはよう」

 

悟空「お、おっす…」

 

 

同室の彼女だ。

布団に包まりながら顔だけだして、訝し気な視線を送っていた。

 

 

悟空「すまねぇ。起こしちまったか?」

 

キング「いいえ。そろそろ起きる時間だっただけよ。眠りが浅くなっている時に瞬間移動の音が聞こえたから」

 

悟空「へぇ、早起きなんだな」

 

キング「今日は遅いくらいだわ。……それで?どういう状況なのかしら?」

 

悟空「今日は色々と動き過ぎてな。疲れて寝ちまった」

 

キング「ハァ…。まぁそんな所よね。でもなんで床なの?」

 

悟空「汗くせぇのに布団はイヤだろうと思って」

 

キング「くさいは余計だけれど良い配慮ね。お湯持ってくるから少し待っててちょうだい」

 

悟空「ゆ…?」

 

 

首を傾げる悟空には反応せず、キングは薄緑色のカーディガンを羽織って部屋から出て行くと、

床では死んだように眠るウララと空中で胡座をかく悟空だけが残された。

 

 

 

 

 

キング「お待たせ」

 

 

数分後。戻って来たキングは両手で桶を抱えていた。そこから発生する湯気の多さで熱さ加減がうかがえる。

 

 

キング「悟空さん。悪いけどお手伝い頼んでも良いかしら?」

 

悟空「おう。構わねぇぞ」

 

キング「ありがとう。それじゃあこのタオルでウララさんの体を拭いてちょうだい。その間に私は着替えを用意するから」

 

悟空「ん。……ん?」

 

キング「ん?」

 

悟空「オラがやっても良いんか?」

 

キング「え?ええ、良いけど……なにかあった?」

 

悟空「ほら、裸見られんのがぁ……とか何とか」

 

キング「?………あ、下着は私が取り替えるわ」

 

悟空「おう」

 

 

2人は各々の役割に手をつけながら口を開く。

 

 

キング「ねえ」ガサゴソ

 

悟空「んー」フキフキ

 

キング「昨日は大丈夫だったの?」

 

悟空「昨日?」

 

キング「チームスピカの所に行ってたんでしょ?」

 

悟空「スピカ…………あー、沖野さんのとこか」

 

キング「ええ」

 

悟空「もちろん大丈夫だぞ。少しだけやばかった所もあったけど、スペとスズカが助けてくれたかんな」

 

キング「そう。………ちなみにスペさんは怒ったりしてなかった?」

 

悟空「怒る?いや、んな事なかったと思うけど」

 

キング「……そうなのね」ホッ

 

悟空「なんかあったんか?」

 

キング「…………いえ、何でもないわ」

 

悟空「そうか?」

 

キング「ええ。マヨネーズ塗られて食べられそうだったから、ちょっと不安になって」

 

悟空「何でもなくねぇじゃねえか…。さすがのオラもキングを食おうとは考えねえぞ」

 

キング「ぅぅ………マヨネーズとか持ってたらどうしましょう……」ズーン

 

悟空「おめぇにしちゃかなり堪えてんな」

 

キング「悪いのは私達だからよ。もし彼女に食べられるのなら反撃は出来ないわ……」

 

悟空「達って事はアイツらもか。何をやったのかは分からねえけど、スペをあんまからかうなよ?」

 

キング「原因は悟空さんだけどね」

 

悟空「またオラぁ!?おめぇ達って、なにかにつけてオラのせいにしてねぇか?」

 

キング「だって本当の事なんだもん」

 

悟空「えー…、オラなんもしてねぇつもりだけどなぁ。……あ、体拭けたぞ」

 

キング「あら、ありがとう。代わるわ」

 

 

そう言うとキングは着替え一式を持ってウララの元に腰を下ろした。

目の前には下着だけを身につけたウララ。やはり寒いのだろう。小さな手で自分の体を抱きしめて縮こまっている。

悟空にはこっちを見るなと伝え、その隙に新しい服を身につけていく。

 

 

悟空「……へぇ」

 

キング「なによ」テキパキ

 

悟空「良い動きだ。おめぇ、寝てる奴着替えさせんの慣れ過ぎだろ」

 

キング「っ!なに見てっ……ないわね。"気,,で分かったの?」

 

悟空「ああ」

 

キング「ふーん。……ま、文字通り慣れる程繰り返したのよ」

 

悟空「最初の頃とか大変だったろ」

 

キング「まあね。悟空さんは?」

 

悟空「ん?」

 

キング「今の。経験談のように聞こえたけど?」

 

悟空「!…………おめぇって奴はほんとにーーーそっくりだな」

 

キング「え、今なんて…?」

 

悟空「いんや。………オラん時はなぁ、かなり苦労したぞ」

 

キング「手先は器用だと思ってたけど、そう上手くいかなかったのね」

 

悟空「悟飯のやつは寝てても力強ぇし。無理矢理やろうとしたらチチが怒るし。てんでダメだった…」ハァァ

 

キング「ふふっ、情けないお父様だこと」

 

悟空「ははっ、全くだ。でもあれだぞ?手ぇ焼いたのは最初だけで途中からは完璧だったさ」

 

キング「そこはさすがと言うべきね。コツさえ掴めばって事かしら?」

 

悟空「だな。その頃は力加減も危うかったし。赤ん坊の悟飯なんて下手すりゃ潰しか、ね………………」

 

キング「?………どうしたの?」

 

悟空「!……ん、何がだ?」

 

キング「いえ、いきなり止まったから」

 

悟空「あー、……なんか力出ねぇって思ってたらさ、」

 

キング「はいはい、そういう事ね。もう食堂が開いてるだろうから行って来なさいな」

 

悟空「おう。おめぇも一緒に食うか?」

 

キング「そうねぇ……………やめとくわ。この子が起きたら朝ご飯あるし」

 

悟空「おめぇ、そんなんばっかやってっから母ちゃん呼ばわりされんじゃねぇんか?」

 

キング「おばか。細かい所にも気を遣える一流のウマ娘が私ってだけよ」

 

悟空「相変わらずだな、おめぇもよお」

 

 

クルン。

悟空は空中で回転すると出窓に向かった。

 

 

悟空「あ、ウララの奴ベッドに置くか?」

 

キング「そのくらいは私がやるわ」

 

 

これまた慣れた手付きでウララを持ち上げる。

しかし。ウララを寝かせた所はキングのベッドだった。

 

 

悟空「なんでおめぇの所に寝かせんだ?」

 

キング「運動後に体を冷やすのはタブー。ついさっきまで寝ていた私の布団なら暖かいでしょう」

 

悟空「良いんか?体を拭いたっつっても運動して来た後だぞ?」

 

キング「些細な事ね」

 

悟空「………おめぇ、そいうとこあるよなぁ」

 

キング「何それ。褒めてくれてるの?」

 

悟空「そんなもんかな」

 

 

やはりところどころで血の繋がりを感じる。

離れて暮らしているのにここまで似る事があるのか…と、悟空は少し嬉しく感じていた。

 

 

キング「ーーあっ!悟空さんちょっと待って!」

 

悟空「どうした?」

 

 

窓を開けようとする直前。

 

 

 

彼女は言った。

 

 

 

キング「今そこを開けるととても寒いわ。申し訳ないけれどスカイさんの所に行ってもらってもいいかしら?」

 

悟空「ほんっと、おめぇそーゆーとこあるよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

" シュン! ,,

 

 

キングの頼みを素直に聞き入れるとスカイの部屋に瞬間移動した。

 

 

悟空「………」

 

スカイ「……………………スー……………」

 

悟空(やっぱ変な寝方すんなぁ。"気,,読めてなきゃ死んでんのかと思うぞ)

 

 

幸せそうに眠る彼女を一目見ると、そのまま窓の方に向かい、音を立てないように気を付けながらそっと開けた。

すると。

 

ビューーーーッ!!!!

 

運悪く、強い冷気がなだれこんできた。

 

 

スカイ「スー……………ッ!? さっっっむ!なになに!?」   

 

 

ズボッと布団の中に潜り込むと、冷気の根源を探るべく隙間から視線をさまよわせた。

 

 

悟空「………」

 

スカイ「………………なに……どろぼう?」

 

悟空「いや、これから出るところ…」

 

スカイ「わけわかんない」

 

悟空「心配ぇすんな!これは夢なんだ!気にせず寝りゃあ良いさ!」

 

スカイ「…………とりあえず窓閉めて?」

 

悟空「おう」スッ

 

スカイ「ちょい。悟空さんは中にいて」

 

悟空「………おう」パタン

 

 

まるで雪だるまのように掛け布団を纏うスカイ。ベッドの縁に座ると、同じ目線になるように悟空は空中で正座した。

 

 

スカイ「………」

 

悟空「…………」

 

スカイ「……………どゆこと?」

 

悟空「キングが悪い」

 

スカイ「ハァ、またエセお嬢様のせいか。……なんて言ってた?」

 

悟空「訳あってキング達の部屋にいたんだけど、部屋の窓開けたら寒ぃからスカイの所に行ってからにしろって」

 

スカイ「くっそ………私に何の恨みがあるんだよぉ…」

 

悟空「併走の約束を破ったとかか?」

 

スカイ「…………んーん。最近はしてないかな」

 

悟空「そっか」

 

スカイ「うん」

 

 

 

スカイ「併走の約束を寝過ごしたのなんて2週間前だし」

 

悟空「めちゃくちゃ最近じゃねえか」

 

 

 

スカイ「はーあ…………てか今何時なのさ」

 

悟空「6時半前だぞ」

 

スカイ「はやっ!まだまだ寝てる時間あるのに目が覚めちゃったよぉ〜。セイちゃんショーック……」

 

悟空「起きんのなら飯行かねえか?」

 

スカイ「ふむふむ。朝ごはんかぁ……………あっ!なら朝マック行きませんか?」

 

悟空「あさまっく?なんだそれ、食いもんの名前か?」

 

スカイ「ちょっと違うかな〜。食べ物の名前はマフィンだよ。朝の数時間限定でしか食べれないの」

 

悟空「限定って事は………かなりうめぇって事か!?」

 

スカイ「………いやー、かなりって訳じゃないけど、滅多にない機会だから美味しく感じると思うよ?」

 

悟空「ふーん。ならそこに行こうぜ!」

 

スカイ「7時開店でございまーす!」

 

悟空「食堂行こう」

 

スカイ「まぁまぁ。私も着替えたりしたいし、移動してたらちょうど良い時間になるからさ。…ね?」  

 

悟空「分かったよ。でも朝っぱらから外で食って何か言われたらイヤだから人間のフリしといてくれ。耳と尻尾を隠してな」

 

スカイ「はーい」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

同日。午後3時。

悟空とウララはターフの上にいた。

現役ウマ娘が使用するターフではない。整備不良により使われていないターフ。

タキオンの実験場と化し、グラスワンダーへっぽこ事件の際にもグラスの目を覚まさせるために、彼女達と悟空が模擬レースをおこなった場所だ。

 

 

「ここでやるのも久しぶりだね!スーパーサイヤ人になるの?」

 

「いや違ぇ。ここに来たのは誰にも聞かれないようにするためだ」

 

 

それなら他にも方法があるのでは?

1番確実なやり方はテレパシーだ。あれなら聞かれるどころか会話をしている事すら認識されない。

そんな事を思ったウララだが、疑問は一瞬で解決された。

大切な事は、テレパシーなど使わずに正面で話しをしてくれるからだ。

 

 

「……なにかな?」

 

 

今この場に天真爛漫なハルウララはいない。

孫悟空の弟子ハルウララとして、気を引き締めた。

その様子を感じ取った悟空は、「ああ…」と言って切り出した。

 

 

「………ウララ。ハッキリ言う。今のおめぇじゃあ有マで勝つ事は出来ねえ」

 

「え?うん」

 

 

即答だった。

 

 

「あり?驚かねぇんか?」

 

 

想定外の反応に悟空はパチクリと目を丸くする。

 

 

「んー、さすがにねぇ…。ウララも分かって来る事だってあるんだよ?」

 

 

ウララは自身の小さな手を開いて握ってを繰り返して、静かに語った。

 

 

「前みたいに走る事だけを楽しんでる間、みんなは一着を求めて頑張ってた。 今は誰よりもトレーニングしてるんだって自信はあるけど、………その差を埋めれたとは思わないかな」

 

 

ウララは強くなった。

力をつけ。知識を蓄え。そしてなにより向上心が芽生えた。

始まりはトレーナーとの約束をはたすためだ。それを忘れた事はない。

けれど今となっては負けられない理由がたくさん増えた。日常的に笑い合っている彼女達に勝ちたいという想いが溢れて来た。

しかし。

 

実力が身につく程。

知識が深まる程。

 

 

ーー彼女達は世代の頂点に立つ怪物なのだという事を思い知らされた。

 

 

「でも、それでどうするの? 勝てないと分かっても諦めたくはないなぁ」

 

「心配ぇすんな。勝てないって言ったのは真っ向からやり合った場合の時だ」

 

「! それって……」

 

「ああ。考えついたぜ!おめぇが勝てる作戦がよぉ!」

 

 

やや興奮気味に言ってから、ウララの目が細くなっていることに気付いた。

 

 

「ウララ…?」

 

「…………なんでそれを最初に言ってくれないの?」

 

「え、あ、ははは…………ちっとばかし怖がらせてみようと思って…」

 

「もぉーっ!悟空さんってたまに意地悪な事するよね!みんなに追いつけないって分かってても実際に言われたら傷付くんだからね!?」

 

「す、すまねぇ……」

 

 

と、悟空はそう言い。ウララも理解しているが、彼女達との差はそこまで広がっている訳ではない。

同等まで持っていけない理由としては、単純に時間が足らないのだ。

むしろ縮まりつつある力の差は、策を弄すれば覆せる程になっている。

 

 

「んじゃまあ、もったいぶんのは無しだ。有マ記念での走り方を言うぞ」

 

「おー!…………って、いくらなんでも早くない?枠どころか誰が走るのかも分かってないよ」

 

「大ぇ丈夫。この作戦は枠とかバ場状態、出走ウマ娘は関係ねえ。 " アイツらが出る ,,ってだけで成り立つ作戦だ」

 

「ほぇー、すっかりトレーナーさんだね。悟空さん」

 

「いんや、逆だ。トレーナーじゃねえから考えついた」

 

「そうなんだ。……あっ、作戦ならノートに書いておいた方が良いよね」

 

「やらなくて良いんじゃねえか?作戦を完璧に行うために口酸っぱく言うし、イヤでも体に染み込むだろ」

 

「ぉぉ…聞くのが不安になってきた……。でもっ、お願いします!」

 

「おう!んじゃ有マでの走り方を順番に言うとだなーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーここまでが作戦。そこから先はフルパワーで走り切る!」

 

 

悟空が悩みに悩んだ末に編み出した作戦。

それを聞いたウララはいつもの笑顔を見せる事が出来ない。ペタンと垂れた耳がウララの心情を表していた。

 

 

「………悟空さんがさ、ウララに自分の持ってる力を把握しろっていうから、出来る限り自分の事を見つめるようにしてたけど、………無理、じゃないかな?」

 

 

諦めなければ必ず出来るの範疇を超えている。

師の作戦を実行出来る自信がないというより、出来ないと決めつけても良い。

ウララは悔しい気持ちを何とか押さえ込み、

 

" その事が分かっているはずの悟空に答えを求めた ,,

 

 

「ーー体力、だろ?」   

 

 

やはりと言うべき言葉が返って来るとウララは小さく頷く。

 

 

「オラもそこだけがずっと引っ掛かってた。でもな?昨日、良い技を教えてもらったんだ」

 

「昨日?………あっ!」

 

 

本当ならチームスピカのトレーニングを見学した後、悟空とウララはトレーニングをする予定だった。

しかし悟空は中止にすると伝えた。

今日これから行う修行を、万全な状態でやりたかったからだ。

 

 

「その技は体力の温存になる!」

 

「!」

 

「特定のウマ娘に対してプレッシャーを与えれる!」

 

「おおっ!!」

 

「そしてその名前はっ」

 

 

ゴクリ…!

期待に満ちた瞳。歓喜により震え出した握り拳。

今か今かと待ち構えているのに、

 

 

「名前はっ!」

 

 

また引っ張り続けている。

 

 

「そりっ………?」

 

「?」

 

「すとらっぷ………すりっぱ…………やっぱ、そ…か?………ソリット!は、違うな…」

 

「…………」

 

「ぁ、……な、名前はなぁっ!」

 

 

アセアセとうろたえる悟空。技の内容に気を取られ名前をすっかり忘れてしまっていた。

 

 

「……ウララ、どーせなら技の名前を覚えて必殺技みたいに走りたいかも」

 

「分かってる!そうだよな!もうちょっとだけ待っててくれ!この辺まで出かかってんだ…」

 

 

頭頂から左にそれた部分を指先でトントンと叩く。テンポよく、スとソから始まる単語を片っ端から呟く。その中には単語として存在しない言葉もいくつかあった。

 

 

「ソフトクリーム………スプリント?は短距離の事だっけ………あ」

 

 

トントンと叩いていた指先が突如、ズンッ…!と鈍い音を出した。

 

 

「おっもい出したああああああっ!」

 

「いや頭だいじょーぶなの!?変な音したよ!!?」

 

「気にすんな!技の名前はなぁ、ストリップストリームだ!」

 

「す、とりっぷすとりーむ…?」

 

「ちゃんとしっくりきたし合ってんだろ!はーっスッキリした!」

 

 

そう。しっくりきたのだ。

幼い頃にカメハウスで幾度となく聞いた単語だ。視覚からの情報はなくとも聴覚だけは勝手に作動していた。

ストリップがどういう意味かを知らない悟空が、それと結び付けてしまうのは無理もない。

 

 

「ストリップストリームかぁ。………かっこいーーっ!!」

 

 

それは横文字が苦手なウララも同じだった。

 

 

「だろ?んで話し戻すけど、おめぇにはこの技を極めてもらう!」

 

「体力の温存になるんだっけ?どういう事をするの?」

 

「簡単に言やぁ、ウマ娘の真後ろについて走る。そうすると空気抵抗ってのが関係してめちゃくちゃ楽に走れるらしい」

 

「らしい?」

 

「オラもまだ試してねぇんだ。でもその技をしてくれたテイオーを見るかぎり間違いねぇと思う」

 

「おおおおっ!………ん?でもさ、そんなに凄い技ならみんなもすれば良いんじゃないの?」

 

 

それか自分が知らないだけでみんなも使っているのかも。

そう考えるウララだが、待ってましたと言わばかりに悟空は食い付いた。

 

 

「おめぇもそう思うだろ?でもこれにはリスクが多いんだ」

 

「?」

 

「真後ろについて走るっちゅー事は、そいつを誰にするか1人に絞らなきゃいけねぇ。んで、まず最初に考えるのは脚質だ」

 

「………そっか。走り方が全然違う子の後ろについたら大変だもんね」

 

「そういう事。そして気を付けなきゃいけねぇのが距離感。真後ろにつこうとするあまり、近付き過ぎて前の奴の脚にでも触れたら妨害とされ、逆に離れ過ぎたら意味がなくなる」

 

「妨害………頑張ってる子の邪魔はしたくないよね」

 

「ああ。それにおめぇも罰になり、仮に一着を獲ったとしても降着。おまけに上手くくっつけてもペースを乱されたら終わりだ。体力温存のつもりが逆の結果を招く」

 

 

妨害や降着。レースにおいて恐ろしい用語が吐き出される。

しかし。それよりも恐ろしいのは低い声で淡々と話す彼だ。

いつものような軽い振る舞いが無い。明るく元気に言った方がウララのモチベーションが上がるのだがそれよりも、リスクがある技だという事に緊張感を持って欲しいという、悟空の計らいによるものだ。

 

 

「失敗したら終わり……」

 

 

その考えが知らずのうちに伝わったのか、ウララは噛み締めるように呟く。

 

 

「………オラにも、リスクのある技がある」

 

「!」

 

「力が信じられねぇくらいに上がる技だ。でもそれを使えば使うほど身体は悲鳴を上げ、結局全身の骨がボロボロに砕けた」

 

 

直後ウララは口を手で覆った。声にならない声が漏れ出す。想像してしまったのか瞳は大きく開かれた。

 

 

「……なん、で………そこまでしたの…?」

 

「そうしなきゃ負けるからだ」

 

「ッ…!!」

 

「もしオラが負けてたら地球は終わっている。それと同じだぞウララ」

 

「え?」

 

「リスクがあるからといって持ってる全ての力だけで挑んでも良い。けどそれで負けちまったら後悔が残り、おめぇの世界は死んだも同然」

 

「…………」

 

「ーーーーやんぞウララ。これまでにその技を使ってきたウマ娘とは比べ物にならねぇほど、完全に極めるんだ!」

 

 

たしかに怖気付いていた気持ちはあった。けれど元より覚悟は決まっている。

ハルウララは一度も曲がっていない背すじを強引に引き伸ばすと、

 

 

「はいっ!ししょー!!」

 

 

満面な笑みでそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ストリップストリーム……もとい、スリップストリームは前を走るウマ娘の真後ろについて走る。

そこで必要な技術とは動きを読む力なのだと、悟空は思った。

 

 

「これだけは慣れるしかねぇ。他の修行を減らしてでもコレを毎日する」

 

「うん」

 

 

まだウララは何をするのかは分かっていない。

ストリップストリームを完成させる練習をやるからといってポジションについたのは、悟空の後ろだ。

しかし。ターフの隅っこにいるのだから、走るのではないと推測出来る。

 

 

「良いか、ウララ。とりあえずオラのする事を真似してくれ」

 

「うん。でも何をーー」

 

 

するのか。そう聞こうとした時。

ズバッ!と悟空の左手が空気を裂いた。

 

 

「ぇ」

 

 

パンチだ。

後ろからしか見えないが、左手でパンチをしたんだ。

 

 

「ほれ、ウララ」

 

「あ、よぅし………そりゃ!」

 

 

とりあえず真似をする。

 

 

「ん。ほい」

 

 

今度は右手だ。空気の壁を叩いた右手はその形で止まっている。

 

 

「えい!」

 

「あ、言うの忘れてたけど肘は伸ばし切らないようにな。怪我すっからよぉ」

 

「わ、分かった!」

 

「んじゃ、どんどんいくぞ」

 

 

ウララの動体視力でもしっかり見えるように悟空は動く。

左手で突き、右側へ右肘を打ち、右膝を前に繰り出すと、左足を大きく振り回した。

一つ一つがコマ送りのような動作だ。

だから悟空の指示通りに手足を動かす事など、ウララにとっても楽勝なものだ。

 

 

「へへん!ウララだってウイニングライブで振り付けの練習してるからね!簡単簡単♪」

 

「………ウララ。オラは左足で蹴る前に、右足は体の真下に動かしたはずだぞ」

 

「ふぇ?」

 

 

大体の動きはそっくりだった。

違いがあるとするなら悟空の言った通り。

ウララは右膝を繰り出した後、そのまま下におろしているため体の前に置いてある事になる。

 

 

「えーっ!でもさぁ、左足を動かす時には右足は真下にあったよ?」

 

「そりゃあ体ごと動いて行ったからだろ。オラは足を寄せたんだ」

 

「結果同じじゃん!」

 

「んじゃおめぇ今のでペースを乱されたな」

 

「!?」

 

 

クルリと体を向ける悟空。腰に手を置いて人差し指をピンと立てた。

 

 

「今はまだ最初だから真似をしろって言ってるけど、コレの本質は真似じゃなくて " 読む ,, 」

 

「よむ…?」

 

「ああ。動きを読むんだ。オラの全体を観て次に何をするのか予測する」

 

「………うん。まったくわからない!」

 

「例えばパンチをする前は肘が下がる。もっといえば肩甲骨が動く。蹴りもそうだ。左足のつま先が斜め向いたら右足の蹴りが飛ぶ。そうやって動く所の一瞬前を見つけて、次の動作を分かっておくんだ」

 

「はいムリぃいいいい!久しぶりに無茶苦茶なの来たね!?ウララも武道家になっちゃうよ!」

 

「ははっ!もしなったら毎日組み手が出来るな!」

 

「嬉しそうに言わないで!」

 

 

地団駄を踏み、不満をぶちまける。

 

 

「大体こんな事してどうするの!?悟空さんの後ろを走るような実践練習の方がよくない!?」

 

「もちろんそれもすっけどよぉ、それはあくまでおさらいって感じかなぁ」

 

「おさらい!?いつもみたいに走りながら教えてくれたら良いじゃん!」

 

「いやぁ、走り方の技術に関しちゃ、オラはウマ娘に敵わなねぇから無理だ」

 

「どういうこと!?」

 

「もしもストリップストリームをやってる事に気付かれて対策でもされたらおめぇは負ける。オラもその返し方は分からねぇから教えようがない。それなら何をされてもへっちゃらだって言えるように、相手の動きを完璧に読めた方が良いだろ?」

 

「むぐ…!」

 

 

ウララの怒りモードは初めてではない。むしろ無茶なトレーニングに対して言う事は多々ある。

そういう時、悟空は強引に話しを進めない。

 

 

「………ごめんなさい。続き、おねがいします」

 

 

一個ずつ考えを伝えていたら、こうなるのだと知っているからだ。

 

 

「ん。もういいんか?」

 

「うん。覚えないと負けちゃうもんね。ウララ頑張るよ!」

 

「その調子だ!最初に言ったと思うけど、これは慣れるしかねぇ。そんでオラの動きを読み切って、ほぼ同時に動けるようにする!スピードは上げてくけど、ちゃんと見えるくらいに抑えとくからな!」

 

「同時……だね。よーし!今日はずっとしよう!」

 

「毎日だ!」

 

「かかってこぉーい!」

 

 

 

 

 

有マ記念のレース展開は能力よりも戦術特化。

戦士の知識をフル活用した作戦でどこまで立ち向かう事が出来るのか。

 

彼らの修行に終わりはない。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

\次回予告/

 

 

 

「………やっぱおめぇ、友達いねぇんじゃ…」

ーー宇宙一強い奴:孫悟空

 

 

「い、いちごだいふくっ…!」

ーー最速の機能美:サイレンススズカ

 

 

 

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