グッバイヘイローの自宅は豪邸であってほしい。使用人とか絶対いる。
注意
・ハルウララ初期の勝負服は無い。
・勝負服の入手方法は適当。
・捏造。
ー 前回のあらすじ ー
アドマイヤベガ「………さようなら、悟空さん」
悟空「おめぇならやれるさ。頑張れよ、アドマイヤ」
ーーーーーーーー
何やら遠くの方で名前を呼ばれた感じがした。
「ん…?」
「わ、わわっ!悟空さん前!ボールっ!」
「あ」
その方向に顔を向けた途端、メキョ…という奇妙な音と共に頬に突き刺さる軟式の野球ボール。
ただのキャッチボールとはいえウマ娘が繰り出すボールはかなり速い。
スピードの乗ったボールが頬に減り込むと、それは一時的に止まった。
そしてゆっくり頬から離れ地面に落ちる。
てん……てん、てん、とボールが地面を転がった所で、ようやく悟空は反応を見せた。
「い、っっってえええええ!!」
頬を抑えながらしゃがみ込むと、キャッチボール相手であるウララは顔面蒼白だ。
「だっ、だいじょーぶ!?」
おろおろと慌てふためきながら近づいて行く。
「おぉぉぉ、いちち…、だ、大丈夫だぞ!」
頬を摩りながら立ち上がる姿を見て、ウララはホッ…と胸を撫で下ろした。
「ごめんね、悟空さん」
「謝る事ねぇさ。オラが余所見したんだし」
「でも不思議。悟空さんって痛がる事あるんだね」
「そりゃあボール当たってんだから痛ぇだろ」
「うーん………悟空さんが言うとなにか違う気する…」
「なんだそりゃ?」
2人揃って首を傾げる。
その時。今度はハッキリと名前が聞こえた。
「悟空さぁあああんっ!!!大変ですーーっ!」
珍しく慌てた様子で駆け寄って来るのは駿川たづなだった。
野球グラウンドのど真ん中を突っ切って、端の方でキャッチボールをしている悟空達の元に来た。
「オッス!今日も元気だな!」
「こんにちは!」
毎度お馴染みの輝かしい笑顔。
たづなは額の汗を拭う仕草をして、走った際に乱れた衣類を整えた。
「はい。こんにちは、ハルウララさん」
満面な笑みをする彼女に、ふふっ…と、微笑みを返す。そしてすぐさま視線は悟空の方へ。
「悟空さん。大変な事が判明しました」
「さっきも言ってたなぁ。すげぇ大変なんか?」
「すっげー大変です」
「「ーーッ!!?」」
悟空とウララは驚愕に目を見開く。
あの、優しくて真面目な学園の秘書から発して良い口調ではなかったからだ。
しかもそれはジョークの類ではない。至って真剣な顔付き。余計に混乱した。
「わ、分かった。とりあえず………ウララ。今日はわりぃけど、」
「う、うん…。遊びは今度だね」
「貴重なオフ日に申し訳ありません」
尚も続く真顔。美人が故に迫力があり、ウララでさえも足を一歩引いた。
「ウララはだいじょーぶだよ。悟空さん、グローブとボールはウララが返しておくから」
「ああ、頼む」
身に付けていたグローブを外してウララに渡す。その後たづなに目配せをした。
たづなは一度ウララに会釈をして、悟空と共にグラウンドから離れて行った。
・
・
・
「ーーーな、なんてこった…」
当てもなく歩きながら訳を聞いた悟空は、冷や汗を垂らした。
「あ、有マで走る時の服がねぇ、だと…?」
「はい……」
有マ記念。
それは重賞の中でも格が違うG1レース。
そのため走る時の恰好は運動着ではなく勝負服。意思や夢、気持ちを込めた自分だけが身に纏う戦闘服だ。
「私達も失念しておりました…。ハルウララさん、G1初めてなんですよね…」
「……………ま、まあ、レース直前じゃなくて良かったじゃねえか!」
「………悟空さんは本当に前向きな方ですね」
「まあな。終わった事考えても仕方ねぇ。それよりはどういう流れになんのか教えてくれ」
そこでたづな一枚の紙を渡した。
「記されている通り、勝負服は学園を仲介に挟んで担当のトレーナーさんに用意していただいています」
「トレーナー?ならキントレはどうした?一応ウララはキントレんとこのチームだろ?」
「実は、悟空さんの前にトレーナーさんを訪ねまして…」
キングヘイローのトレーナーである彼はひどく焦った。
そして、ハルウララの勝負服が無いとたづなが言って来たにも関わらず、勝負服無いの!?…と、同じ事をそのまま返している。
どうするか考えて、考えて…。挙げ句にこう言った。
「『あの人ならきっと何とかしてくれるだろう』…ですって」
清々しいまでの丸投げだった。
「どういう仕組みなのかすら知らなかったのに何とか出来る訳ねぇだろ……」
この世界で出会ってから今までで1番変わったヒトと聞かれたら、悟空は真っ先にキングヘイローのトレーナーと答える。
それほどまでにキントレに対する印象が変化していた。
「それでですね、準備期間が1ヶ月も無いとなると特製の勝負服を仕立てる事が出来ません。デザイナーへの依頼も関係してきますし…」
「!………、」
「なので消去法になりますが、既に作成してある勝負服を購入するというのはどうでしょう」
言いながらファイルからもう一枚紙を取り出した。
「既存の物とはいえ勝負服は世界に1つです。ハルウララさんをモチーフになぞらえた物ではありませんが、片っ端から探してみるのも良いかと」
ヒラヒラと、隣にいる悟空に向けて紙を揺らす。
早く取れと言わんばかりの仕草は続いた。
「今回は私も付き合わせていただくつもりです。もしくは、あえてハルウララさんとご一緒に選んでも良いのかも知れませんね。そこは悟空さんにお任せします」
今もまだ宙を舞う紙の内容は言わばパンフレットだ。
勝負服にも特徴があり、それによって出向く店が変わる。
自分の服ですら人任せの彼の事だからと、たづなが事前に調べ尽くしてはいたが…、
「悟空さん?ーーーーって、いない!?」
いつまでたっても紙を受け取ってくれる人がいない事に気付いた。
右、左、後ろ、"気,, 、どこを探しても悟空の姿が見つけられない。
「こっ、こんな時にぃ……っ!」
ぐしゃりとシワが広がる紙。たづなは想いのまま叫んだ。
「どこに行ったんですかぁあああああああ!!!!」
ーーーーーーー
怒号にも似たたづなの声が絶対に聞こえない場所。
日本より遠く離れたそこは、アメリカ合衆国。
悟空は今そこでーー窮地に立っていた。
「孫悟空」
「はいっ」
否、窮地に立たされながら座っていた。
正座だ。
床暖房のせいか、ほんのりと暖かいフローリングの上で身を小さくしている。相手よりも頭が高くならないように。
恐る恐る見上げると、そこには不機嫌を露わにした女性がいる。
ベッドの縁に腰を掛けて、長くしなやかな足を組み、微かに光沢感のある胸元の開いたナイトウェアが目についた。
「孫悟空。貴方がどこまでこの世界の事を知っているのか分からないけれど、時差によりこの国は深夜だという事は大目に見るわ」
「おお…」
「そして淑女の寝室に無断で入り込んで来た事も見逃してあげる。この私の寛大な心に感謝なさい」
「……っす」
「でもね?どうしても1つだけ腑に落ちないのよ」
足を組み替える。
切れ長で鋭く研ぎ澄まされた瞳に冷たさが宿ると、
「なんで私を起こした…?」
吐き捨てるように彼女は言った。
「あんな?ヘイロー。これには訳があって、」
「当然よ。訳もなくやったのならすぐに警察呼ぶわ」
淡々と答えるそのヒトはキングヘイローの母、グッバイヘイロー。
以前キングの様子を探りにトレセン学園へ来た際に悟空と知り合った、気品に満ちたウマ娘である。
「そんなに怒るなって…。おめぇ、あれだぞ。カリカリばっかしてっと皺が増えちまうんだぞ?」
「流石ね、孫悟空。落ち着かせようとして宥める言葉が一流の煽り文句だわ」
「おめぇも相変わらずだな……」
「褒めてくれてありがとう。けれど質問の答えとは違うわね。私はなんで起こしたのかと聞いているの」
最初は頭の片隅の方で声が聞こえた。
体内時計が正確なグッバイヘイローは、現在が夜中だという事を時計や窓の外を見なくても分かった。
てっきり夫が仕事に手を付けているのだと予想を付けた。
その瞬間に、ふと思い出す。
夫は確か、知人と旅行に行ってるはずではなかったか…?
弾け飛ぶように脳が覚醒した。
クイーンサイズのベッドを飛び越える。
誰がどこに何人いるのかも分からない状況の中で、グッバイヘイローは部屋の角に移動した。
部屋中全てが見通せる位置だ。そこから目撃したのは1人の男。その男は呑気に片手をあげて、
『オッス!まだ1回しか声かけてねぇのにさすがだな、ヘイロー! 』……と、そんな事を言いやがったのだ。
その後即座に『正座しろ』と言い返してやったが。
「い、いやぁ、せっかく来たんだからさ、声くらいかけても良いだろ」
「せっかく……ねぇ? こちらに来た方法は飛んで来たの?それとも瞬間移動?」
「瞬間移動だ。飛ぶと見つかるかも知んねぇし」
「そう。では瞬間移動を使用すると貴方は疲れてしまうのかしら?」
「いや全然。何十回やってもへっちゃらだぞ」
「それなら出直しなさいよ……」
グッバイヘイローは溜め息混じりに重い腰を上げた。
「しょんべんか?なら話しの後にしてくれると助かるんだけど」
「そんな訳ないでしょう。呆れるほどデリカシーに欠ける男ね」
蔑んだ視線を送る。
それは無意味な事だった。
悟空の、寝起きだから機嫌が悪いんだろうなぁ…と言いたげな表情をみてそう思った。
視線をずらしてベッドの脇にある上着を肩にかけると、
「付いてらっしゃい」
部屋を変えるために足を進める。
すっかり目が覚めた。気分を変えるためにはホットドリンクが適している。
それに、これ以上この部屋には居たくないのだ。
「別に移動しなくたって良いんじゃねえか? 用が済んだらさっさと帰るし、その方があんたもすぐに寝れるだろ」
「…………貴方にも妻子がいたのなら分かるでしょ。僅かな時間でも異性と寝室にいるなんて、はしたない真似をするものじゃない」
「はした、ない…?」
何故そうなるのか。
悟空は意味が分からず復唱するが、超一流を自負する彼女は言い方を変える。
「同意を求めた私が悪かったわ。話しを聞くから大人しく付いて来てちょうだい」
「? おう」
・
・
・
所変わってリビング。
無駄にだだっ広い部屋の隅にある設置型の飲料水からお湯を出してマグカップに注ぐ。
「貴方も飲む?コーヒー」
「オラはいいや。苦ぇし。それよりは、」
ぐぅうううう……と空腹を訴える音が鳴った。
それと同時に、グッバイヘイローは木製の器に入っている赤玉を悟空に投げた。
「リンゴしかないわ」
「へへっ、わりぃな!ありがたく貰うぞ!」
「面倒だから切らないわよ」
「おう!ちゅーか…」
言いながらリンゴに齧り付く悟空。
しゃくしゃくとクセになりそうな音を立てて、
「ヘイローはリンゴ切れんのかよ」
そう言い放つ。
「……何が言いたいのかしら?」
「だってキングは無理だし。知ってっか?アイツが切ると皮の部分にめちゃくちゃ実が残ってんだぜ」
「あら、そう」
「………?」
違和感。
悟空には何だか妙に引っかかるものがあった。
「それだけか…?」
「?」
「いや。そんな事も出来ないのかー…とか、我が娘ながら情けないー…だとか。嫌味な事言わねぇのかなぁって」
「…………………そんな事より、本題に入ってもらいたいのだけど?」
「おっ、そうだったな!」
悟空の手の中にはいつの間にか芯だけになったリンゴがあった。それを口に放り込んで話し始める。
「今かなり大変な事になっててよお、たづなとどうするかって話しをしてたんだ」
「学園の秘書さんね。何があったの?」
「ウララ知ってんだろ?ハルウララ」
「ええ」
「そいつのさ、勝負服がねぇんだ。今までG1走った事なかったから。有マももうすぐだし」
ようやく本題に入ったお陰で、悟空も焦っていた事を思い出した。
たった一つ。デザイナーというワードを聞いてから、とっさに行動してグッバイヘイローを訪ねて来たわけだが、
「……ふうん。早とちりしたわね、孫悟空」
彼女は全てを理解した。
「私がデザイナーって事で来たのでしょうけど、秘書さんに相談をしなかったのは間違いだったみたいね」
「え、どう、ーー」
「どうして分かるのかって?」
悟空の声を遮って話しを続ける。
「だって、もしも相談していたのなら彼女は言うはずよ。デザイナーである私の所に来ても衣装は作れない。そんな時間が無い。そもそも連絡も取らず、深夜に訪ねるような事は絶対にするなってね」
「ッ!? 作れ、ーー」
「作れない理由としては、私の仕事はデザインを考案するだけなのよ。衣装制作をする人は別。ただでさえ個人依頼するのにも時間が必要だっていうのに、そこから衣装を作り上げるなんて不可能でしかない」
「………、」
「ええ。貴方は必死だったのでしょうけど、時間の無駄ね」
「じゃ、ーー」
「これからどうするのかは、ごめんなさい。私では力になれないわ。けれど秘書さんの話しを全部聞いていないのなら、まだ希望は残ってそうだけど」
「ど、ーー」
「どういう意味って…、あの秘書さんの事だから、案が1つや2つで終わらないでしょう。それは貴方の方が分かっているのではなくて?」
「?………そんな、ーー」
「言われなかったって、貴方ねぇ……。最後まで聞く前に瞬間移動したのはどこの誰よ」
「………、」
「そうね。よくお分かりで何より。だから早く帰りなさ………………なんで構えてるのよ」
「おめぇ、やっぱ妖術使いか何かだろ。ちょっとだけで良いからオラとやろうぜ!!」
中腰で拳を向ける悟空はまさに戦闘態勢だ。
ギラついた眼。不敵に曲がる口元。急に生き生きとしだした戦闘民族。
グッバイヘイローは猛烈な頭痛に襲われた。
「このっ、戦闘単細胞…! なぜそんな考えに至った!?」
「だっていくら何でも分かりすぎだろ!オラなんにも喋ってねぇぞ!」
「その短絡的な思考回路を読んだだけでしょう!」
「にしちゃあ完璧だった!」
「そうよ!私は完璧よ!ただそれだけだわ!」
「……ふふんっ、オラの事は騙せねぇぞ?」
「ああああああっ!!! 腹が立つ!!」
どうして夜中に起こされてこんなに合わなくてはいけないのか。
一流の振る舞いとは程遠い事は分かっているが我慢ならない。彼女は頭を乱暴に掻きむしった。
そして獅子のたてがみのように広がった髪のまま声を張り上げる。
「思い出しなさい!」
「なにをだ!」
「私達のファーストコンタクトを!」
「ふぁ……こん?」
「私達が初めて会った時!怪しさ満載の貴方を攻撃したわ!仮に私が妙な力を持っていたのなら披露しているわよ!貴方を全力で潰すためにね…!!」
「ーーーーあ、それもそっか」
悟空は構えを解いた。
その瞬間グッバイヘイローの体にドッ…と疲れが生じる。フラフラとした千鳥足で何とか椅子まで歩いて座り込んだ。
「……孫悟空。聞きたい事が終わったのなら、こちらからも良いかしら」
「ん?別に良いけど……キングの事か?」
グッバイヘイローは顔を顰める。
それは図星を指された事を意味していた。
「…………へへっ! はははは!」
「……、」
「なんだよヘイロー。ずいぶんと正直になったじゃねえか!」
「チッ………うるさいわねぇ」
煩わしく思うも、否定や反論が出来ないもどかしさに思わず舌を鳴らす。
「それで、どうなのよ」
「ああ、元気にやってんぞ。最近だと、スズカっちゅー奴と友達になってたしな!」
スズカとはサイレンススズカの事だろうか。
少し前に世界を震撼させたウマ娘だ。他国にいるグッバイヘイローでもすぐに分かった。
「ふうん。そう」
グッバイヘイローは極めて単純な言葉を吐いた。
どんな相手と繋がりを持とうが興味はない。知りたい事はちゃんと悟空が言ったのだから、それ以上深掘りをする必要はないのだ。
「もういいんか?」
「ええ」
「ならさ、オラももう1個良いか?」
「なによ。リンゴならないわよ」
「そうじゃねえ、」
さっきグッバイヘイローが先読みをした中で、悟空にはどうしても捨て置けない事があった。
「あのさ、たづなに何て言えば良いのか教えてくんねえか?」
グッバイヘイローが言った通りの事なら自分の行動は無駄でしかなかった。
それどころか部外者に迷惑かけたのをバレてしまったら、かなり怒るだろう。
隠しても良いが、それだと他にいなくなった理由がない。
とどのつまり、悟空は詰みだ。
「要するに私の口添えが必要って訳ね」
「さっすがヘイローだぜ!その通りだ。頼む!」
「………………………しょうがないわねぇ」
仕事柄、各部屋に必ず設置してあるメモ帳とペンを取りに行く。
「孫悟空の行動は元を正せばウマ娘によるもの。だからと言って他人に迷惑をかけていい訳ではないけれど、情状酌量の余地はある」
スラスラとペンを走らせる。
それはメモ帳程度の枠にはおさまらず2枚、3枚と紙を費やした。
「あ、孫悟空」
「ん?」
「もし次に来るような事があれば必ず連絡なさい。その際返答が無ければ来ないように」
「寝てっからか?」
「色々とあるのよ」
そう言って書き終わった紙を悟空に渡した。
受け取った悟空は、どんな事を書いてくれたんだろうと文字を追う。
しかし、
「何だこりゃ? ヘイローの字って汚ねえんだな」
悟空にはそれが文字だとはどうしても思えない。黒い線が異様な形をして連なっているだけだ。
だがそれは、見る人が見れば感心して声を出す程に達筆なものである。
「おバカ。英語だから見慣れてないだけでしょ」
「ふーん。まあいいや、コレを見せればたづなは許してくれるんだな?」
「ええ。簡単に内容を言うと、孫悟空が来た時には私は既に起きていて話しをしただけ。貴方の突拍子も無い行動の理由は一生懸命だった。貴方からもそんな感じに言えば良いわ」
「分かった!んじゃ、邪魔して悪かったな!ヘイロー」
「構わないわ」
その会話を最後に悟空の姿は消えた。
まるでそこに居たのが彼女1人だったかのように、しんと静まり返った空間が訪れる。
グッバイヘイローは部屋に戻らず椅子に腰をおろした。
足を組み、机に肘を乗せて深い息を吐く。
疲れた。
数時間後にはいつも通り仕事が始まる。最悪な夜だった。
「孫、悟空…」
歌うように名前を呼んだ。
いまさら二度寝など出来ないが、あの男の未来を想像すると少しずつ元気がわいてくる。
「ええ、構わない………私は許してあげる」
冷たく、静かな一室。
そこで鳴るのは不気味な声。彼女が発するくぐもった笑い。
リップクリーム要らずのプルっとした瑞々しい唇を伸ばし、
「貴方はちゃんと罰を受けるのだから」
彼女にしては珍しく、純粋な笑みを浮かべて呟いた。
ーーーーーーー
トレセン学園。
駿川たづなの近くで空気を切り裂いた音がした。
「ーーっ!」
たづなはバッと振り返る。
「よお…!」
タン、と悟空の足が地に着くと同時に、たづなは感情のままに叫んだ。
「悟空さん!」
「待った!!!!!!!!!」
しかしそれ以上、大きな声が悟空から飛び出した。腹の底から発した声だ。
瞬間的にざわめく木々。まるで声に"気,,が宿り、見えない塊がぶつかったかのような現象が起きた。
当然目の前にいたたづなはその咆哮をくらい、くわんくわんと脳が揺れる。
「たづな。これを見てくれ」
彼女のそんな状態など目にもくれず、悟空は例の紙を渡した。
「な、ん………これ……?」
ふにゃりと目を回しながら紙を手に取る。
思い切って頭を振り、強引に正気を戻したたづなは文字を追った。
「あのな、たづな。またオラが勝手に突っ走っちまったのは分かってる。すまねえ事をした」
笑って誤魔化そうとはしない。
適当な場所に視線を向けて、悟空なりに雰囲気づくりに徹した。
「………」
「そこに書いてあると思うんだけど、オラはヘイローの所に行ってたんだ。時差っちゅーのが分かってなくて向こうは夜中だった」
「………」
「けどな、ヘイローの奴は起きててオラの話しを聞いてくれた」
「………」
「まぁ成果は無かったけどオラも、」
「「一生懸命にやっててさぁ」」
「え?………ッ!?」
ゾワッッッ!! と、全身の肌を駆け巡る寒気。
そんなはずはない。嘘だとあってくれ。
そんな事を考えるこの感覚は、むかしにフリーザとの戦闘中、半分の力しか出していないと暴露された時に酷似していた。
「…………」
「たづな…?」
「で?」
「え?」
「続きですよ。一生懸命にやっていたんでしょう?」
「あ、えっ、と……」
だめだ。
これはもう取り返しのつかない事だ。
そうたづなの表情が語っている。
こほん。
わざとらしい咳払いが聞こえた。彼女は壇場で宣告をするように腕を水平に伸ばして、小さな紙に記された内容の要所を読み上げる。
「えー、寝ている所を叩き起こされた」
「!?」
「食料をせがまれ、腹ごなしに組み手を付き合わされそうになった」
「い、いや!なんか違っ………?」
実際にあった事とは違う。けれど否定をするには難しい。
これがグッバイヘイローの策略だ。
真実に嘘を織り交ぜて全く別のシナリオを作り出した。
これにより口下手な悟空は何も言えず、サァァァと顔が青ざめていく。
ギョロリと、彼女の眼球が悟空を捉えた。
「孫悟空さん」
(く、そ……)
言い訳すら出来ない。むしろ誤魔化そうとした事により余計にヒートアップしている。
それもこれも全部あの紙に書かれていたのだろう。全ては自分を嵌めるために。
さっき言葉を合わせて来たのが決定的な答えだ。
「何でそんなに貴方はっ……!」
(ヘイローのヤツやりやがったな…!)
これから訪れるのは回避不可能の口撃。
「人様に迷惑をかけているですかぁあああああ!!!!」
(ほらみろ怒られた!ちくしょうめ!!)
悟空は体を小さくするしかなかった。
ジェンティルドンナが実装されて二週間以上が経ちました…が、全然ドラゴンボールとのクロスオーバーがないんですね…。
あんなにDB要素があるなら増えるだろうと思っていたのに、ちょっと悲しい……。
※今度の作成のためアンケートのご協力をお願いします。