孫悟空とウマ娘   作:猫ネコ

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注意
・トレセン学園に野球グラウンドはない。
・ウマ娘専用のバットもないはず。
・校舎の間取りは適当。
・捏造


後書きの確認をお願いします。





遊びはほどほどに

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

 

悟空「ようやくウララの戦闘服を決まったな!」

 

たづな「勝負服と言ってください」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

「おおおおおおっ!!!!」

 

 

天気、晴れ。

気温、4度。

グラウンド状態、良。

バッターボックスに立つエルコンドルパサーは、栗毛のウマ娘が投げたボールを完全に見切り、

 

 

「エルっ、スーパーダイナミック…………フルスイィイイイングッッッ!!!」

 

「なっ…!?」

 

 

ガッキーン……という音と共に弾き返す。 天に昇るかの如く、ものすごい勢いで飛んだ。

ピッチャーであるグラスは打球を追って振り返ると、

 

 

「よっと」

 

 

セカンド上空でボールがグローブにおさまった。

あんぐりとエルは大口を開ける。グラスはホッと胸を撫で下ろして言った。

 

 

「ナイスキャッチです、悟空さん!」

 

「おう!」

 

 

悟空は空中からボールを落とす。緩やかな弧を描いて飛んできたボールをグラスはキャッチして、空から降り立った悟空に駆け寄ると、二人は手のひらを合わせた。

 

 

「いっ、インチキデェス!」

 

 

たまらずエルは叫んだ。

 

 

悟空「いんちきって……、オラなんかズルい事したか?」

 

グラス「いえ、ちゃんとノーバウンドでキャッチしたのでアウトですよ」

 

悟空「だよな」

 

グラス「はい。 エル、アウトになったからといって出鱈目を言うのはやめなさい」

 

エル「いやっ、え、えええええっ!? ワタシが悪いんデスか? どう考えてもホームラン一直線の打球を取った悟空さんが悪いデェス!」

 

グラス「と、言いましても………、プロ野球でもホームランボールをフェンスギリギリに取る事だってありますし」

 

エル「落下してるボールと最高到達点に達したボールを取るのとでは高さが全然違うと思うんデスけど……、悟空さんのジャンプが高すぎて見上げてたじゃないデスか」

 

グラス「……………悟空さ〜ん、エルがアウトを認めてくれません」

 

エル「チクった!?」

 

悟空「らしくねぇなあ、エル」

 

エル「うっ」

 

悟空「ちゅーか、さっきも似たような事なかったか?」

 

グラス「似たようなこと?」

 

悟空「オラが右の線の所に立ってた時に左の線ギリギリに球が飛んでよ、そこでオラが球取ったら 『なんでファーストがサードの球を取るんですか!』 つって叫んでたろ」

 

エル「ヒットだと思ってガッツポーズしてたのが抗議のために振るう拳に変わってマシタよね」

 

グラス「………その節はすみませんでした」

 

悟空「まあでも、どのみちエルはアウトだ。そうだろ?」

 

エル「デスね……、もう認めマス」

 

悟空「ん、じゃあ次いこうぜ。今度はグラスが打つ番だよな」

 

グラス「はい。次こそはかっ飛ばしてみせます…!」

 

エル「…………いえ、先にヒットを打った方が勝ちゲームはやめまショウ」

 

 

この遊びを始めてから30分。

ついにエルがそう言った。

 

 

グラス「やめてしまうのですか? まだ私達どちらもヒット打ててないですけど」

 

エル「もぉおおおおお分かりマシタ。これはゲームとして成り立ちマセン!」

 

グラス「?」コテン

 

エル「なんで分からないんデスか。これ以上続けてもヒットなんて打てないんデスよ」

 

グラス「まだ分からないじゃないですか」

 

エル「分かりマスって。 これはもうワタシとグラスの勝負ではなく、エルとグラス対悟空さんのようなものなんデスよ。 逆サイドに打とうがホームラン打とうが全部取られてしまう……」

 

悟空「へへっ、オラかなり頑張ったんだぜ」

 

エル「っ、………………あーもー。その屈託のない笑顔やめてくだサイってば。情緒がおかしくなりそうデェス」

 

グラス「不満たれてるのに表情がほころびてますね〜、エル」

 

エル「うっさい!グラスうっさいデス!!」

 

悟空「んでどうすんだ? まだ全然動き足りねぇぞ」

 

グラス「そうですね〜。ルールを変えてもう一勝負したい所ですが、エルは何かありますか?」

 

エル「モチロンデェス!」

 

 

そう言うと彼女は悟空を手招きした。

野球グラウンドの中で微妙に盛り上がっている部分、ピッチャーマウンドである。

 

 

エル「先にヒットを打った方が勝ちを改め、先にボールを前に飛ばした方が勝ちゲームデェス!」

 

 

非常に単純なルールだ。

プロ野球やウマ娘の力を遥かに超えた悟空が投げるボールはまさしく豪速球。それはバットに掠めるだけでも困難だろう。

だが、しかし。

 

 

グラス「エル。それだと少々問題が……、」

 

エル「ケ?」

 

グラス「悟空さんが投げたボールを誰が取るんですか? 後ろのフェンスに当て続ければおそらく壊れますよ?」

 

エル「……………………悟空さん」

 

悟空「ん?」

 

エル「軽くで良いので、空に向かってボールを投げてもらって良いデスか?」

 

悟空「空に? 何の意味があんのか分かんねぇけど……、」

 

 

ほれ、と平然と発した声と共にボールを投げた。

というより放った。

体全体を使って腕を振りかぶるのではなく、肘関節を利用しただけの手投げ。

だがそれでも、空を見上げるグラスとエルの視界からボールは消えた。

 

 

グラス「………」

 

エル「…………」

 

悟空「…………」

 

エル「……………………」

 

グラス「…………………悟空さん。どこに投げたんです?」

 

悟空「真上だぞ。今止まりかけてるから、もうすぐ落ちてくるんじゃねえか?」

 

 

太陽を遮るように目の上で手の傘を作る悟空。エル達も同じようにするが全く視界に捉えられない。

その態勢のまましばらくすると、

 

 

悟空「ん?…………げっ!!」

 

エル・グラス「「え」」

 

悟空「やべぇ、やべえ! 風で少し流れてる! おめぇ達ちょっと伏せてろ!」

 

エル「うぇえええっ、当たるの? 直撃コースデスか!?」

 

グラス「あ、あの高さの物が当たれば絶対に痛いです! たんこぶになってしまいますよ!」

 

エル「たんこぶ程度すむ訳ないデショ! なに分かりづらいパニック起こしてるんデスか!」

 

 

千鳥足であっちこっちに動く悟空の足元で、地面と同化する勢いで寝そべる彼女達。気休め程度に頭の上には手を置いている。

 

 

悟空「あ、とととっ、と、っと。………ふぅ、あっぶなかったぁ…!」

 

 

不安定な体勢なまま、伸ばした手のひらにおさまるボール。

ほっ……、悟空が安堵の息をついたのを聞いて彼女達は起き上がると、

 

 

グラス「……………それで、今の球を誰が取るんですか?」

 

エル「仮に取れたとしてもグローブを貫きそうデス……」

 

 

顔色を悪くして呟いた。

 

 

グラス「ですよね……。悟空さん、もう少し遅く投げれますか?」

 

悟空「んー……、今のやつより遅くて、キャッチボールの球より速くって事だろ?」

 

グラス「はい」

 

悟空「……無理だな、加減が出来ねぇ。遅すぎんと速すぎんがたまに出そうだ」

 

エル「もしも速すぎる球になったら、」

 

グラス「目視すら出来ないでしょうね」

 

悟空「そんで真ん中から外れると思う」

 

エル「アウトォオオオオ!ゲームセッツ!!」

 

グラス「かなり危険ですね……。コントロールを維持するには先程投げていただいた速度が必要で、それだとフェンスが破損してしまう」

 

エル「違うルールでも考えマショウか」

 

 

豪速球に立ち向かう事は中々好奇心をくすぐられるものであるが、そのせいで命や公共物を壊す訳にはいかない。

エルの提案にグラスは頷くが、悟空はずっと不思議に思っていた。

 

 

悟空「なあ」

 

グラス「どうしました?」

 

悟空「オラが取ったら良いんじゃねえか?」

 

グラス「え……、ですがそれだとピッチャーが、」

 

悟空「だからオラが投げてオラが取るんだ。それなら何も気にしなくて良いだろ」

 

 

18.44メートル。

これはマウンドからホームベースまでの距離だ。さらに悟空が投げるのは少なくみても300キロは出ている。

どう考えても投げた後にキャッチするなんて不可能。

そして。

その不可能が、悟空ならば可能になると彼女達は知っている。

 

 

エル「その手がありマシタ!」

 

グラス「さすが悟空さんです!」

 

 

さっきは理不尽な守備をくらって騒いでいたが、もともと不可能に近い事だと分かっていた。

いまさら彼の力を疑う事はない。

 

 

悟空「んじゃ早くやろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掠る事すら至難の業であるこのゲーム。

1人5球。思いっきり振っても良いし、バントしても良い。とりあえず前に飛ばす事が勝利条件になる。

時はすでに100球を超えたあたり。

グラウンドにはバットで風をきる音と、少女達の嘆きの声が繰り返されていた。

 

 

エル「カモンッ!」

 

 

例えば野球少年が、全力のストレートだけを投げるプロを相手にした時、最初は空振りの連続だ。

しかし人間は慣れる生き物。

どれだけ速い球を相手にしていても、同じような速度ばかりならばいつかは慣れ、少年でも打てる時が来るだろう。

今回はそれと同じ……ではない。

彼女達が相手にしているのはそんな次元ではなかった。

 

 

悟空「ほっ」

 

 

彼は棒立ちのままサイドスローのように投げた。

 

 

エル「っ、はあああああ!!!」

 

 

ほぼ同時に彼女はバットの位置を調整する。もう振りかぶって狙おうとか考えていない。

バントで良いから当てるのだと必死で高さを合わせた。

直後、バチィイイイン!!! という破裂音がした。

もう何度も聞いた音だ。

具体的に言うと、とてつもない速度の球を素手で受け止めた音。

 

 

悟空「ざーんねんでーしたー」

 

 

そんな声が後ろから掛かる。

振り返ると悟空がホームベースの後ろに座っていて、手の中にはボールがあった。

 

 

エル「オーゥ……」

 

グラス「五振っ、バッターアウト! チェンジですね〜」 

 

エル「むむむ、当たる気配が全くないデェス」

 

グラス「ふふ、決着の時が来ましたね」

 

悟空「ずいぶんと余裕だな。自信あんのか?」

 

グラス「はい」

 

 

即答だった。

エルからバットを受け取り、堂々たる歩みでバッターボックスに入る。

 

 

グラス「悟空さんの呼吸、繰り出されるボールのスピード……。それらは全て見切りました」

 

エル「おお……、グラスの本気モード」

 

悟空「そんじゃあいっちょ勝ちにいくか!」

 

グラス「はい!悟空さんっ、お願いします!」

 

 

そして、

 

 

 

 

グラス「すっ、すぺちゃああああああああああん!!!!」

 

 

 

 

ブォオン! という力強いスイングが空を切った。

 

 

悟空「五球連続空振りで終わったな。……ちゅーか、なんてかけ声でバット振ってんだ」

 

エル「あの豪速球にバントではなく振り抜いたのは凄いデスねぇ。見た目だけはカッコ良かったデスよ!」

 

悟空「エル。手遅れになる前にコイツどうにかした方が良いんじゃねえか? 卒業とかしてスペと離れたら、グラスのやつ壊れちまうぞ」

 

エル「おそらく推しアイドルに向ける感情でしょうから、たまに会えればそれで良いと思いマスよ」

 

 

バッターボックスにて膝をついて項垂れるグラスの横で、好き勝手に言い合う二人。

 

 

グラス「わ、私の見切りが、通用しない…!?」

 

エル「なんかメチャクチャ落ち込んでる……」

 

悟空「元気出せよ、グラス。 掠りもしなかったけど、悪くなかったと思うぞ?」

 

グラス「っ…!」

 

エル「悟空さん。それ励ましてないデス。追い討ちかけてマス」

 

悟空「へ?」

 

グラス「………………………手本」

 

 

ボソリと彼女が言った。

 

 

悟空「なんか言ったか?」

 

グラス「あの球を打った時のお手本が見たいです」

 

エル「あ、確かに。そうするとエル達もタイミングが掴めやすいデェス!」

 

悟空「という事は…………、オラが投げて打ちゃあ良いんだな?」

 

エル「イエス!」

 

グラス「出来ますか?」

 

悟空「取るのが打つのに変わっただけだ。問題ねぇぞ」

 

 

そう言って悟空は、近くに転がったバットに手を伸ばすが、慌てたエルに止められた。

 

 

エル「いくらウマ娘用に改良されて飛ばないバットだとしても、悟空さんが打ったら場外に飛んでしまいマスよ!」

 

悟空「え、あー、そっか。ならどうすっか……」

 

 

プラスチック製のバットもあるが、それだとボールの勢いに潰されて、当たった瞬間にスクラップになってしまう。 とはいえ他の道具を探したところで転がっている訳もない。

 

 

グラス「あっ!」

 

 

その時、辺りを見渡していたグラスが大きな声を出した。

灯台下暗しだと言わんばかりに、身近にあるものを指で差している。

エルはその指先を目で追うと、悟空の足にたどりついた。

 

 

エル「………足、デスか」

 

悟空「へぇ、打つんじゃなくて蹴るんか」

 

グラス「はい。蹴る動作は慣れてるのでしょうけど、大丈夫ですか? 私から提案しておいてなんですけど、とんでもないスピードのボールを蹴り返して、膝から下が吹き飛んだりしませんよね?」

 

悟空「想像すっとやりづれぇなあ……、けど大丈夫だ。やわな鍛え方はしてねえ」

 

グラス「ふふっ、ではお願いしますね」

 

悟空「ああ、よく見とくんだぞ? 次はおめぇ達の番なんだからな」

 

グラス「はい!」

 

エル「………?」

 

 

ピッチャーマウンドに向かう悟空を見ながら、エルの心の中はモヤモヤとした何かが渦巻いていた。

だがそれか何なのかは分からない。どこか引っ掛かる。気のせいかも知れないが、放っておくと取り返しのつかない事が起きるような漠然とした気持ち。

 

 

グラス「なんだか緊張してきましたね〜、エル」

 

エル「そ、そうデスね………」

 

 

ウキウキ気分で楽しみにしているグラスに相談も出来ず、エルは流れに身を任せた。

 

 

エル「グラァス」

 

 

だからこれはごく普通の会話。そのつもりでエルは口を開いた。

 

 

グラス「何ですか?」

 

エル「これって、バットでは飛びすぎるから悟空さんに蹴ってもらうんデスよね?」

 

グラス「ええ、そうですね。 悟空さんほどの怪力ではどこまでボールが飛ぶのか分からないので」

 

エル「ふむふむ。……っ!………………グラスちゃん」

 

グラス「っ!? は、初めてそんな呼び方しましたね……。どうしました〜、エルちゃ、ん…? 」

 

 

びっくりはしたが、笑顔をエルに向けるグラス。 目が合った。エルも同じようにグラスを見ていた。

見て分かるほどの冷や汗をかきながら……。

 

 

グラス「ど、どうしーーーー」

 

エル「グラス」

 

グラス「は、はい!」

 

エル「バットよりも硬い足。物で打つよりも極めた蹴りは……、バットで打つよりも飛ばないんデスか?」

 

グラス「?………………えっ!!?」

 

 

悟空の力を身に染みて知っている彼女達をも狂わせた現象、固定概念。

脚力が自慢のウマ娘でも、外野ですら飛ばすのは難しい事だと、彼女達は無意識にイメージしてしまっていた。

 

 

グラス「悟空さん、待っーーーー」

 

 

彼女は叫んだが結果は遅かった。

悟空が軽々しくボールを投げるとマウンドから彼の姿は消え、バッターボックスの中にいる彼が足を振り回していた。

これらは全て瞬間的に行われたため、気が付けばボールは空の彼方へ。

 

 

悟空「へへん。どうだ、おめぇ達。分かりやすく少しだけ遅くしてみたんだけど」

 

 

無邪気な顔で言うも、彼女達はグラウンド後方を見ていた。

 

 

グラス「エル!」

 

エル「だめデス!フェンス超えマシタ!」

 

 

何やら慌てた様子で叫んでいる。どうしたのかと思い、悟空が二人に近づいていくと、

 

 

エル「悟空さん守備!!!」

 

悟空「え、しゅ、しゅび?」

 

グラス「場外いきました! 何かに直撃すると危ないのでボールを取ってください!」

 

悟空「い"い"っ!! まじかよっ、くそ!」

 

 

彼は地面を踏み抜いた。

その瞬間から彼は誰の目にも映らなくなる。

 

 

悟空(っ、ボールは、どこだ…!)

 

 

一秒も経たずに外野のフェンスを過ぎたのは良いが、悟空は焦っていた。

蹴飛ばした方向を見ていないせいで行方が分からないのだ。足に受けた衝撃から大体の方向を予想つけるしかない。

そして事が事だけに彼は今、ーーーー金色の戦士へと変化している。

 

 

悟空(近くには誰もいねぇな。とりあえず最悪な事態はまぬがれたか……)

 

 

おそらくだが飛来しているボールは通り過ぎた。

後はフライ待ちの外野選手みたいにボールを待てば良いのだが、

 

 

悟空「…………………っ、見つけたぞ!!!」

 

 

見失ったボールを大空から見つけ出すのは奇跡に近い事だったが、視界に捉えた。

しかしだ。

ボールはすでに落下しており、校舎にぶつかる寸前だ。

 

 

悟空「よっ、と」

 

 

彼はボールと校舎の間にギリギリ割って入り、ボールを手のひらにおさめた。

視野にさえ入れば距離なんてあってないようなものだ。

異なる地球で最強と謳われた者に捕まえられないものはない。

 

 

悟空「ふぅ……。へへっ、オラとした事が飛ばしすぎちまったぜ!」

 

 

彼は安堵の表情を浮かべる。

 

 

 

パリィイイイイイイン!!!!! というガラスが砕け散った音を耳にするまでは。

 

 

 

悟空「は?………………え、なんで割れたんだ?」

 

 

彼の背にしている窓が崩壊した。手にはしっかりとボールを持っている。

脳内が困惑で埋め尽くされている悟空だが、これは至って当然の事。

とてつもない速度を出した際に発生したエネルギーが、真後ろにあるガラスに直撃したのだ。

 

 

悟空「……………、」

 

 

さらに、校舎内部を呆然と見つめる彼と視線が交錯する者がいた。

 

 

「……………………………………………、」

 

 

部屋の主である彼女は運良く席から離れていた。

別の机に置いていたティーポットでお湯を入れている。紅茶の葉を蒸らすためだ。

 

 

「……………、」

 

 

意外な事に、彼女は騒がなかった。

いつも腰をかけている席にガラスの破片が飛び散ろうとも、窓の外に金髪の男が浮いていようとも。

むしろ熱々の紅茶(蒸らし時間0分)を飲んでまで、強引に落ち着こうとしている。

 

 

「………………、」

 

 

そして彼女は机に体を寄せ、腕を組み、耳を後ろに絞った状態で、一言だけ言った。

 

 

「"彼女"と待っているよ」

 

悟空「っ、それだけは…!」

 

「ん?」

 

悟空「…………なんでもねぇ、です」

 

そう言って彼は再び姿を消した。

 

     

 

 

 

 

 

 

 

悟空がいなくなったグラウンドで。

 

 

グラス「………間に合ったのでしょうか」

 

エル「…………分かりマセン」

 

 

鬱々とした雰囲気が漂っている時、

 

 

悟空「オッス。無事にボールは取れたぞ」

 

 

シュン…という風切り音とともに彼が現れた。同時に結果も言ってくれたために二人は笑顔満点だ。

 

 

グラス「本当ですか! ありがとうございます!」

 

エル「良かったデェス! 改めて悟空さんの力がとんでもないと実感しマシタね」

 

悟空「はは」

 

 

彼女達はここで気が付かないといけなかった。

ボールを取ったと言っているにも関わらず、彼の笑顔がぎこちないのだ。

 

 

悟空「さあ、おめぇ達。ちょっと移動するから靴ぬげ」

 

エル「くつ? ぉわっ…!?」

 

 

疑問符を浮かべるエルを無視して、悟空は両脇に抱え込んだ。

急に宙吊り状態となった彼女達は思考が追いつかず、目をぱちくりさせる。

 

 

悟空「ほら。これなら汚れる事ねぇだろ」

 

グラス「ご、悟空さん? 一体何を……」

 

悟空「まあまあ。とりあえず靴ぬいで、手で待ってろ」

 

 

はーい……と、不満気に返事をしながら靴を脱いだ。

その時、

 

彼女達が見ていた景色が変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

エル「瞬間、移動?」

 

グラス「ここは……、生徒会室のようですね」

 

 

悟空に抱えられたままキョロキョロと見渡す。その途中で目の前にいる二人も視野に入れたが、グラス達はその奥の状態に目を奪われた。

 

 

グラス「…………、」

 

エル「……………、」

 

 

おかしいとは思った。室内に入ったのに外にいたときと寒さが変わらないのだ。認めたくない現実であったが、目の前の二人がこれ見よがしにコートを着用している。これが確定演出というものだろうか。

 

 

悟空「……連れて来たぞ、ルドルフ。たづな」

 

ルドルフ「ええ。お待ちしていました」

 

たづな「床に敷いた新聞紙の上に靴を置いてください」

 

 

後者の女性の声を聞いて悟空の手に力が入る。ぐいっとグラス達の腹部が締め付けられた。

だが彼女達はうめき声一つ出さない。というより出せない。

床には静かに降ろされた。言われたとおり靴を置いて、悟空を中心に自然と正座の形をとる。

 

 

悟空「…………、」

 

グラス「………、」

 

エル「…………、」

 

ルドルフ「さて、まずはーーーー」

 

 

「「「ごめんなさい」」」

 

 

ぺこり、と合図したのかと思うくらい同時に頭を下げる三人。

 

 

ルドルフ「あ、ああ……。その何と言うか、まずは経緯を聞きたいんだが、悟空さん達はグラウンドで野球をしていたという前提で合ってるか?」

 

悟空「ああ」

 

ルドルフ「………グラウンドから校舎までは結構距離がある。打ったのは悟空さんかな?」

 

悟空「……いや、蹴ったんだ」

 

ルドルフ「なぜ!? いや、まあいい……。ちなみに投げたのはグラスワンダーか?」

 

グラス「……いえ、」

 

悟空「オラだ」

 

ルドルフ「?……??……………二人を庇っているのか?」

 

悟空「本当だ。オラが投げて、打って、取った」

 

ルドルフ「なっ……、お前達!!!」

 

 

いきなり豹変したルドルフは、グラスとエルに鋭い視線を飛ばした。

 

 

ルドルフ「グラスワンダー! エルコンドルパサー!」

 

グラス「は、はい!」

 

エル「っ、ハイ!」

 

ルドルフ「投手に打者、挙句に野手までとは………っ、悟空さんに一人で野球をやらせるなんて何のつもりだ!!」

 

グラス「ご、誤解です!」

 

エル「これにはちゃんとした訳がーーーー」

 

ルドルフ「言い訳無用ッ! たとえ悟空さんが良いと言おうとも私が許さん!」

 

 

皇帝。トレセン学園生徒会長が放つ威圧感が部屋中に蔓延する。

すっかり体を小さくしてしまったグラスとエルだが、この状況に困惑していた。

一体自分達はなにを理由に怒られているのだろう、と。

 

 

たづな「ルドルフさん、あなたは何を言っているのですか?」

 

 

同じ事を思った彼女は切り込んだ。

 

 

ルドルフ「なに、とは…?」

 

たづな「悟空さんに一人で遊ばせて可哀想だとか、今はそのような気持ちは不要です」

 

ルドルフ「し、しかし………」

 

 

図星をつかれたのかルドルフは言い淀む。

 

 

悟空(オラ、可哀想って思われてたんか……)

グラス(会長。悟空さんに甘々ですね……)

エル(くっ、あ、足が痺れて…………っ、我慢、我慢デスよ。怒られてるのに足を崩したらダメ、それはグラスで経験済みデェス!)

 

 

三者三様そんな事を思っていると、

 

 

たづな「良いですか、グラスワンダーさん。エルコンドルパサーさん」

 

 

彼女は優しく語りかける。

 

 

たづな「あなた達が慣れ親しんでいる彼は、地球という大きな規模ですら収まりきらない人です………が、そのくせ当人には自覚がない」

 

悟空「…、」

 

たづな「彼と遊ぶのなら、あなた達が注意してあげてくださいね?」

 

グラス「……確かに、つい好奇心を優先して周りを配慮していなかったと思います」

 

エル「ごめんなさいデス」

 

グラス「申し訳ありませんでした」

 

たづな「よろしい」

 

 

彼女は笑みを絶やさずに頷いた。

 

 

たづな「ではグラスワンダーさんとエルコンドルパサーさんはお戻りください」

 

エル「えっ、もういいんデスか?」

 

たづな「はい。以後気を付けるという事を聞き入れてくださいましたので大丈夫ですよ。遊びに使った用具の片付けをお忘れないようにお願いしますね」

 

グラス「あの、悟空さんは?」

 

たづな「彼は少しお借りします」

 

悟空「……すまねぇけど、そういう事らしいから片付け頼むな」

 

エル「任せてください!」

 

悟空「おう。今日のやつはまたリベンジしようぜ」

 

 

はい! と、グラスはエルは元気に返事をして生徒会室から出ると、

 

 

ルドルフ「それでは私は窓ガラスの付け替えを業者に依頼してきます」

 

たづな「はい。よろしくお願いします」

 

悟空「あ……、ルドルフ」

 

ルドルフ「? なんでしょうか」

 

悟空「悪かったな」

 

ルドルフ「………ふふ。大丈夫ですよ。元々、年末のメンテナンスに向けて業者が来る予定だったので、すぐにでも直してもらえると思います。気になさらないでください」

 

 

では、と言って彼女も部屋から出た。

そして、

 

 

たづな「………………、はあ」  

 

 

軽くついたため息とは裏腹に、冷たく無感情な瞳が悟空に突き刺さる。

 

 

たづな「私は怒っています」

 

悟空「……ああ」

 

たづな「窓を割った事ではありませんよ」

 

悟空「分かってる。…………アイツは気にしてなかったけど、いつもの席にルドルフが座ってたら怪我じゃすまなかった。ありゃあオラの落ち度だ」

 

たづな「…………………、」

 

 

彼女はもう一度深く息をはいた。怒りを滲ませた先程のものとは違い、自分の心を落ち着かせようとする柔らかみのある吐息だ。

 

 

たづな「理解しているのならとやかく言うつもりはありません。ですが……、お願いですからあの子達の事はもっと気にかけてください。貴方の手が届くというだけで、私は安心出来ますから」

 

悟空「ああ……。心配かけてわりぃな。なんべんも言ってっけど気をつける」

 

 

ピリついた空気が流れると、

 

 

たづな「では次に参りましょうか」

 

悟空「……………やっぱそうなるよなぁ」

 

 

彼に疑問はない。

悪い事をした後には必ずしている事だ。

 

 

たづな「あら。意外にも受け入れ姿勢ですね」

 

悟空「今回ばかりはな。不甲斐ねぇことしちまった"罰"はちゃんと受けるよ。 今日の夜メシの食堂は禁止ってところか?」

 

たづな「いーえ。疲れる事になるでしょうから、夜ご飯はしっかりと召し上がってください」

 

悟空「へ? …………へへっ、何すんのか知らねぇけど、メシ食えるんなら何でも良いや」

 

たづな「そうですか」

 

 

コツコツと部屋に響くヒール音。

悟空は彼女の背中に目を向けず、安心した様子で正座を崩した。

 

 

悟空「でもよ、罰だってのにキツくねぇなんて、なんか悪い気すんなあ」

 

たづな「厳しい状況だけが罰という訳ではありませんからね。その人のためになるような事をするのが大切なんです」

 

悟空「ふーん。ま、オラ的にはありがてぇけど」

 

 

コト………、という小さな物音がした。

何だろうと悟空は見る。たづなが引き出しから紙を抜き取っているところだった。

 

 

たづな「では移動しましょうか」

 

悟空「ん。どこでなにすんだ?」

 

たづな「空き室で反省文を書いてもらいます」

 

 

言いながら手に持っている紙を揺らした。一枚四百字の紙が全部で三枚。

悟空は、部屋から出ようとするたづなの手を掴んだ。

 

 

悟空「待った!!!」

 

たづな「なんですか?」

 

 

彼はゆっくり首を振って、

 

 

悟空「……………分かった。明日の朝も食堂禁止で良い」

 

たづな「? ……自ら罰を加えるとは、悟空さんは自分に厳しい方なんですね。よい心掛けだと思います」

 

悟空「いやっ、加えてんじゃなくて、そっちの罰に変更しようぜってーーーー」

 

たづな「これからの時間、私はオフにしていただきましたからお付き合いします。ちゃんと教えますので簡単な漢字くらいは書きましょうね」

 

悟空「聞けよ!! 大体おめぇが近くにいたら怖ぇからいらねーーー」

 

たづな「は?」

 

悟空「ってのは冗談だけど、…………頼むっ! 文字を書くのだけは勘弁してくれ!」

 

 

腰が直角に折れ曲がる勢いで頭を下げた。1ミリたりとも隙間が出来ないくらいギュッと目を瞑り、両手を合わせる。

 

 

悟空「他に、出来る事なら何でもするからよ……」

 

たづな「……………なるほど。そうですか」

 

悟空「?…………っ、」

 

 

覗き込むようにして顔をあげると、薄く笑いながら見下ろしてくる彼女と目が合った。

 

 

たづな「つまり貴方は、自分にとって都合の悪い事があったらやろうともせずに諦める。 そういう背中をあの子達に見せると?」

 

悟空「…………言い方ズルくね?」

 

たづな「何も?」

 

悟空「………………………、」

 

 

悟空は顔を手で覆うと、それ以上何も言う事はなく、ただ肩を落とした。

 

 

たづな「他に言いたい事があるなら聞きますが?」

 

悟空「………夜、めちゃくちゃメシ食ってやる」

 

たづな「お皿が私の領域に侵入しないのであれば、お好きにどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 







最近の私。


10/24(最終投稿)
ネタがすっぽ抜けて何も書けなくなった。

11/24
気分を変えるために、小説サイトのハーメルンにて別作品を投稿。(題名。魔術と科学とサイヤ人が交差する物語)

2025.1/27
別作品もやる気が出ず、抜け殻状態の再来。

3/16〜4/10
初の試みであるオリジナル作品を執筆。カクヨムというサイトの電撃大賞作品に応募。(題名。アインスカーラ)


ーーーーーーー


それからというもの、ぐだぐたの日々が続きました。
長い間お待たせして申し訳ありません。
とりあえずリハビリがてらに書いた作品です。

これからは絶対に投稿し続けてみせる!………などと安易に約束が出来ない状態ではありますが、よろしくお願いします。
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