宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

100 / 107
翡翠の苦手なモノ 第三話 だいたい翡翠の所為

 

 強大な白色彗星帝国を退けて一応の平穏を得た地球にある加藤家では、久々に姿を現したお騒がせ娘(翡翠)が出されたお茶を飲んで一息付いていた。

 

「――ああっ、お茶が美味しい」

「……ねぇ翡翠、アンタって何でそんなに喧嘩早いの?」

「――いや、あの子達も わざわざ郊外の空き地でにらみ合いをしていたんだよ、混ぜてくれても良いと思わない?」

「……で、本音は?」

「……お姉ぇの無茶ぶりでストレスが……」

 

 ジト目の真琴の詰問に『ヤマト』に居た頃のように後頭部をポリポリと掻きながら白状する翡翠。

 

「……ストレスって、わざわざ よその世界に行ってまで迷惑をかけなくても、アンタのやっている事は その世界の人達にとって はた迷惑なだけじゃない」

 

 真琴の指摘に聞こえないふりをして誤魔化す翡翠だったが、膝の上に乗せていた翼が服を引っ張って来るので「どうしたの?」と問い掛けると翡翠を見上げながら一言。

 

「……翡翠おねぇちゃんって悪い人?」

 

「――かっはぁ!?」

 

 見上げた翼の穢れを知らぬ純粋な目で悪人認定された翡翠は、テーブルに突っ伏しながら弱弱しい声で呟いた。

 

「……せめて悪党と言って……格調高く、悪党と……」

 

 


 

 

 『エノルミータ』の気配を察知した正義の魔法少女『トレスマギア』の三人は、空中に浮かびながら眼下で繰り広げられた攻防戦を見て表情を引きつらせる……これまでにも悪の組織『エノルミータ』とは何度も戦い、構成員である『マジア・ベーゼ』や『レオパルト』そして『ネロアリス』と激突してきた。

 

 『ネロアリス』が召喚するドールハウスには何度か捕らわれて訳が分からない状況に翻弄され、『レオパルト』には多数の銃口を召喚して無数の巨大な銃弾で攻撃して、威力と何よりその手数の多さに苦戦する恐ろしい敵であるのに、突如現れたクリスと名乗る少女は『ネロアリス』のドールハウスを力づくで破壊した後、二連装拳銃を向ける『レオパルト』を近接攻撃で吹き飛ばしていた。

 

 ……そして、そんな彼女は今目の前にいる。

 

 空中で所在なさげに浮かんでいた『トレスマギア』の三人の前に白いボディスーツに蒼い結晶体を散りばめた栗色の髪の少女が地上から急上昇してきて対峙するように浮かんでいた。

 

「やぁ、お待たせ」

 

 まるで待たせていた友人に対するかのような気安さで にこりと笑うクリスを理解出来ない不気味なモノを見るように引きつった表情で迎える『マジア・マゼンタ』と、未知の敵に対して厳しい表情を浮かべる『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』。

 

「……貴方の目的は何なの?」

「……最初に言ったでしょう、魔法と呼ばれる力に興味があるって」

 

 にやりと笑う翡翠……彼女の言動が気に入らなかったのか、戸惑う『マジア・マゼンタ』を押しのける形で前に出た『マジア・サルファ』が透き通るような笑みを浮かべ。

 

「アンタはんの事情など、どうでも良えねん」

 

 右腕を引き絞ると彼女の腕を紫電が覆い―― 一気に加速してクリスとの距離を詰める。

 

「あんまり ナメとったマネをしとったら――シバくで!」

 

 電光を纏った右腕をクルス目掛けて振り下ろす――が、インパクトの瞬間、『マジア・サルファ』の紫電の拳にそっと上げた右手を添えた――ただそれだけで『サルファ』の軌道が逸らされて紫電を纏った拳はクリスの傍を通り過ぎていく。

 

「――なっ!?」

「ざんねんだったね~」

 

 空振りした『マジア・サルファ』に向けて片手をヒラヒラした後、クリスは これまでの『マジア・サルファ』や『レオパルト』との交戦経験から右腕からプラズマを固定した即席の剣を生み出して『マジア・マゼンタ』と『マジア・アズール』の前まで飛翔すると、彼女達と対峙する形で停止する。

 

「やぁ、待たせたね」

 

 にこやかに笑ったクリスは「君達はどんな魔法を見せてくれるのかな?」と見るだけなら人懐っこい笑みを浮かべているが、その手に持った光剣がクリスの真意を語っている。

 

「……アナタ、何でこんな事をするの?」

「――最初に言ったでしょう、君達が使う『魔法』と言うモノに興味があると!」

 

 戸惑うような表情を浮かべながら問い掛ける「マジア・マゼンタ」にそう答えたクリスは、右手に持った光剣を構えると一気に踏み込んで振りかぶった光剣を『マジア・マゼンタ』に向けて振り下ろすが、その前に強引に身体を割り込ませた『マジア・アズール』が氷剣を持ってクリスの光剣を受け止めた。

 

「――くっ、なんて力……」

「ほう、受け止めるんだ。すごいね」

 

 剣に込める力を少しずつ強くしながら氷剣で受け止めた『マジア・アズール』を褒めるが、当の『マジア・アズール』はクリスの持つ光剣に対抗しようとするが、自力の差からかジリジリと光剣の圧力に押されて『マジア・アズール』の表情に焦りの色が浮かぶ。

 

「――たぁああ!」

 

 『アズール』を助けようと持っていた魔法のステックを槍状の武器へと変化させた『マジア・マゼンタ』が光剣を持つクリスに突撃していくが、突き出された槍をクリスは左手一本で()なされて『マゼンタ』の槍であるマゼンタ・スピアーは相手を捉えることなく空振りしてしまう。

 

「――くっ、もう一度……あれ?」

 

 攻撃を往なされた『マジア・マゼンタ』は もう一度攻撃しようとマゼンタ・スピアーを構え直すが、クリスは己の左手に視線を向けたまま微動だにしない……クリスの光剣の圧力から逃れた『マジア・アズール』が距離を取って氷剣を構えるも、相手の様子がおかしい……左手に視線を向けたまま動きを止めたクリスを警戒しながらも戸惑を隠せない。

 

 突然現れて攻撃を仕掛けて来た相手が あからさまな隙を見せている……本当に呆けているのか、それとも隙に見せた誘いなのか年若い彼女達には判断が付かなかった。

 

 


 

 

 『マジア・アズール』に光剣で圧力を加えながらおもちゃのような杖を変化させたピンク色の槍で吶喊してきた『マジア・マゼンタ』を左手で往なしたクリスだったが、槍を往なした左手に軽い痛みを覚えて視線を向ける……そこには手の平に小さな傷が付いていた事を見て思考が止まる。

 

 ――『SECOND・SKIN(第二の皮膚)』が抜かれた!?

 

 本来、『SECOND・SKIN(第二の皮膚)』は彼女達の力の顕現である『GRAVITY・ARMOR(グラビティ・アーマー)』を纏う際の負荷から肉体を守る為に纏っている。

 

 とある並行世界において発見された不可思議な性質を持つ素材を利用して生成され、装着者の意志に反応して透明性はおろか強度すらも変化させる『SECOND・SKIN(第二の皮膚)』を纏って居れば強烈な放射線が渦巻く宇宙空間で活動出来るだけでなく、急激な温度変化すらも遮断し――『GRAVITY・ARMOR(グラビティ・アーマー)』の強烈な負荷からも肉体を守る優れモノだ。

 

 事実、『SECOND・SKIN(第二の皮膚)』を纏ってからクリスは今までに傷を負った経験はほぼ無い――それこそ“奴ら”十二羅将を相手にしたとき以外には。

 

 なのに、あのピンク色をした何の変哲もない少女の槍は『SECOND・SKIN(第二の皮膚)』の守りを貫いて、小さいとはいえクリスの肉体に傷をつけた……“奴ら”とは比べるまでもない、それこそあのピンク色をより強大な力を持つ相手は今までに幾らでも居た……つまり、あの槍にはクリスの知らない能力――クリスの経験した事がない“法則に裏付けされた”威力を秘めているという事だ。

 

 ――クリスの表情が歓喜に変わる。

 

 ――見つけた。色々と紆余曲折があったが、ようやく自分達の知らない未知の法則を操る存在と出会った……ならば後は操る者を確保して、その未知の法則を解析して体系化するだけである……満面の笑みを浮かべたクリスは視線を『マジア・マゼンタ』へと向ける。

 

「いいね君、実に良い――」

 

 これまでとは打って変わったように態度を変化させたクリスに困惑する『マジア・マゼンタ』を尻目に、笑みを消して一瞬で真顔になったクリスは瞬きする間に『マジア・マゼンタ』の背後に回ると、その白い首筋に指先を這わし――『マジア・マゼンタ』はその意識を失って、落下しようとした彼女をクリスは優しく抱き留める。

 

「「――『マゼンタ』!」」

 

 『マジア・マゼンタ』が敵に捕らわれた事を見た『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』は顔色を変えて彼女を救おうとクリスに向かって行くが――後一歩という所で『マジア・マゼンタ』を光が覆って彼女はクリスと共に光の中へと消え、残されたのは腕を伸ばしながらも呆然とした表情を浮かべた『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』の二人が残されていた。

 

「……『マゼンタ』…」

 

 光に溶けて姿を消した仲間の安否を愁い『マジア・アズール』は何も出来ない自分の無力を痛感して拳を握り、爪が立って血が滲むのも構わず握り続ける。

 

「……あの女、一線を超えたな」

 

 その声に視線を向けると『マジア・マゼンタ』が光に消えた場所を睨み据える『マジア・サルファ』の姿があった。

 

 

 目の前で『マジア・マゼンタ』が連れ去られた事に忸怩たる思いを抱いている『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』……だが、クリスによって『マジア・マゼンタ』が連れ去られた事に衝撃を受けていたのは、二人だけではなかった。

 

「……あの人は何をした……『マジア・マゼンタ』を捕らえた? ……いけませんいけませんいけませんいけませんいけません……」

 

 正義の味方『トレスマギア』と戦うのは、悪の組織である自分達『エノルミータ』の役目――残された『トレスマギア』の二人にあんな顔をさせるのは自分達でなくてはならない。

 

「……あの人には、正義の魔法少女と戦う資格はない」

 

 

 ――そして、離れている場所から戦いの一部始終を見ていた者達も。

 

「……彼女達の現在地は分かるかい?」

「……ダメですね、感知出来ません。恐らく宇宙に居るだろう彼女の宇宙船に戻ったんだと思われます」

「……そうか」

「――けど大丈夫です、今度地上に降りて来た時には必ず感知して見せます!」

「……頼んだよ」

 

 筋肉隆々な見上げる程の巨漢は、流れるような長い髪を持つ色白の少女と健康的な肌とショートに整えた髪を持つ少女に全幅の信頼を込めて答える――未だ舞台の上に上らぬ者達も含めて物語は次の段階へとむかう。

 

 


 

 

 突如現れたクリスと名乗る謎の人物との戦闘の末、大切な仲間である『マジア・マゼンタ』を奪われた『トレスマギア』の二人は、『マジア・マゼンタ』を取り戻そうと魔力が尽きるまで必死で捜索したが、『マゼンタ』の姿や彼女を連れ去ったクリスとかいう女の行方すら掴めず、徒労感に打ちのめされていた。

 

 辺りが暗くなって疲労によって注意力も散漫になった事から仕方なく捜索は一時的に打ち切って、明日再び捜索する事にして帰宅する事になった……人気のない場所で変身を解いて『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』から普通の中学生である水神 小夜と天川 薫子へと戻った二人の少女はそれぞれ歩き出す……その胸の中に忸怩たる思いを抱えながら。

 

 

 翌日 中学校へ登校した水神 小夜は、教室の机の上で頬杖を突きながら窓の先にある街並みをぼんやりと見ていた……朝から『マゼンタ』の捜索に赴きたいと思っているが、『トレスマギア』として魔法少女をしている事を秘密にしている手前、両親に説明出来る訳もなく、さりとて学校に行くふりをして『マゼンタ』を探しに行こうものなら登校していない小夜を不審に思って家の方に連絡が行くだろう……なので学校が終わってから捜索を再開するしかない。

 

「……おはようさん」

 

 聞きなれた声がした事に意識を向けると友人であり『トレスマギア』の仲間である天川 薫子が席に付きながら教科書を取り出している姿があった……何時もクールで悠然とした姿をしているが、今の薫子は一見落ち着いた姿を見せてはいるが、どこか張り詰めて今にも爆発しそうな印象を受ける。

 

(……あの子もはるか(マゼンタ)の事が心配なのね)

 

「……放課後になったら一緒に探しに行きましょう」

「……そうどすな」

 

 二人の思いはただ一つ――クリスと名乗る女に連れ去られた『マジア・マゼンタ』こと花菱 はるかを見つけ出す事。

 

 担任の教師が教室内に入って来た事で前を向いた小夜と薫子は、教師より はるかが病気によって暫く欠席をすると連絡があった事を聞いて不審げに眉を寄せる。

 

 ……どういう事?

 

 思わず隣の薫子と顔を見合わしてしまう……クリスという女に連れ去られた はるかから連絡があったと言うのだろうか? 不審に思いながらも放課後になって薫子と一緒に はるかの家へと赴いた小夜は、対応に出て来た はるかの母親の様子が普段と変わらない事に不信感を持つ……クリスと名乗る女に娘が連れ去られて昨日は帰宅していない筈なのに、やっぱり連絡が有ったと言う事なのだろうか。

 

「――あら、二人とも はるかを心配してお見舞いに来てくれたの?」

 

 はるかの母親が言うには、急な腹痛を訴えた はるかが脱水症状を起こして念の為に病院に入院していると言う……はるかの家からの帰り道、考え込んでいた小夜は隣を歩く薫子へと顔を向ける。

 

「……薫子はどう思った?」

「……胡散臭さてんこ盛りやったな、相変わらず はるかのスマホは不通やし……あの女が何かしたんとちゃいますか?」

 

 突然襲い掛かって来て人を小馬鹿したような態度のまま『マゼンタ』を攫って行ったクリスの顔を思い浮かべた薫子の額に血管が浮かぶ。

 

「……薫子?」

「……好き放題しくさりよってからに、このままでは済まさせん――必ず、ぶちのめしたる!」

 

 


 

 

 こことは異なる世界に存在する、悪の組織『エノルミータ』の本拠地であるナハトベースの一角ある大きな白いテーブルの傍には構成員である『マジア・ベーゼ』こと柊 うてなと『レオパルト』阿良河 キウィそして『ネロアリス』杜乃 こりすの三人が集っていた。

 

「……先日 『トレスマギア』との戦いの最中に乱入してきた彼女は許されぬ罪を犯しました」

 

 悪の組織である私達と戦う『トレスマジア』の面々に戦いを仕掛け――あろう事か、『トレスマジア』の一人である『マジア・マゼンタ』を連れ去るという暴挙に及んだのだ。

 

「――正義の味方『トレスマジア』と戦い彼女達を輝かせるのは我々の役目、それを横から出て来て搔っ攫い……挙句の果てに『マゼンタ』を連れ去って、『アズール』や『サルファ』の顔を曇らせるなど――それはわたし達の役目だ」

「……うてなちゃん、本気なんだね」

 

 それぞれ立場が違うが彼女達は未知なる敵に対して戦う意思を見せる――だが、当の彼女は地球上にはいなかった。

 

 


 

 

 局部銀河系外縁部に位置する恒星系の第三惑星――地球の名を持つ並行世界の惑星の高度35,786Kmの静止軌道には、この惑星に発生した文明のレベルを遥かに超えた一隻の宇宙船が地球の警戒網に探知される事無く航行していた。

 

 黒く塗装された船体に赤いラインの入った600mほどの宇宙船の主船体より伸びたパイロンの先には四つの特徴的なシステムが接続されている。

 

 そんな未知のテクノロジィによって生み出された宇宙船の内部の一角に設置されている半円形のベッドには一人の少女が眠っていた――白とピンクのワンピースを着た十代前半の彼女は時折寝返りを打ちながらも暫く眠り続けていたが、ようやく覚醒して目を開けた時――彼女が最初に感じたのは困惑であった。

 

(……あれ? ここはドコ……あたし何してたっけ?)

 

 半円形のベッドから身を起こしたのは、悪の組織『エノルミータ』と戦う正義の味方『トレスマギア』の一人である『マジア・マゼンタ』であった……寝起きな事もあり、ぼーとした頭で周囲を見回すが、部屋の仲がまるで見覚えが無い事に小首を傾げる。

 

 蒼く塗られた壁にも周囲に見える妙にSFちっくな機械にも見覚えが無い……なぜ自分がこんな見覚えのない部屋にいるのか考えていると聞きなれない声が聞こえて来た。

 

「――やあ、ようやくお目覚めかい?」

 

 視線を向けると、そこには栗色の髪を肩口までに整えた翠の瞳を持つ少女がいた。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 今回も、ノリにノって悪役ブームをかましている翡翠によって、残された少女たちはモンモンとした日々を送っています――そして次回で激突、はたしてアズールやサルファは翡翠の魔の手からマゼンタを取り戻す事が出来るのか?


 次回 しょせん翡翠は翡翠であった。気長にお待ちくださいね~、ではでは~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。