宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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翡翠の苦手なモノ 第四話 しょせん 翡翠は翡翠だった

 無数に存在する並行世界の局部銀河系外縁部に位置する恒星系の第三惑星 地球と呼ばれる星の静止軌道を一隻の600mほどの宇宙船が周回していた――『探査艦ー03』、今回の『魔法』と呼ばれる未知の現象を調査する為に(クリス命名 『魔法』を求めてぶらり旅)クリスに用意された探査航宙艦である。

 

 これまでクリスが使用していた『実験艦―02』は、強大な生体航宙艦である『破滅の獣』や宇宙を席捲したガトランティスとの戦いで無理をさせすぎて基本フレームに歪みが出た事のよって使用不可となり、それを知ったプロフェッサーと実の姉が悪ノリして用意した新たなる乗艦『探査艦ー03』の医療室に立ったクリスは、翠眼に冷たい光を浮かべて投影型ウィンドウに示された調査結果に目を通していた。

 

「……肉体的には他の現地生命体と大差なく、アストラル・スキャンの結果も空振りか……」

 

 医療用のベッドですやすやと眠る『マジア・マゼンタ』にクリスは冷たい視線を向ける。

 

 医務室の設備で出来る最高レベルであるレベル4の精密スキャンを用いて『マジア・マゼンタ』を調べたが、ウィンドウに表示されているスキャン結果では『マジア・マゼンタ』の肉体と精神構造は地表に居る原住生命体どもをスキャンして得た平均的数値から大きく離れた所はなく、典型的な原住生命体と言える……つまり、『魔法』と呼ばれる未知のエネルギーを扱う為に必要な要素は何なのか、どうやって『魔法』を使うのか肉体および精神面からは分からないと言う事だ。

 

「……どうしてやろうかしら……そうだ!」

 

 クリスは口に端を吊り上げてにやりと笑う……スキャンで調べきれないのだとしたら、『マゼンタ』と呼ばれる少女に協力してもらえば良い。未知の現象を求めての探査任務(クリス命名 血も涙もないお姉ぇの無茶ぶり旅)の合間に暇を持て余したクリスがこれまでの経験から幾つか試作した代物(オモチャ)に計測装置を内蔵して、あの『マゼンタ』と呼ばれる少女が喜んで使用せざる負えない状況を作り出してしまえばいい。

 

 ……ろくでもない事を考え付いたクリスは――とても悪い顔をしていた。

 

 


 

 

「やあ、ようやくお目覚めかい?」

 

 蒼く塗られた見知らぬ部屋で戸惑う『マジア・マゼンタ』こと花菱はるかに声を掛けて来たのは、鮮やかな蒼さを持つ結晶体を指先でクルクル回している栗色の髪をウルフカットに整えたエメラルドグリーンの瞳を持つ同年代と思しき少女であった。

 

「――ア、アナタは、あの時の――」

 

 通り魔女と続けられて、クリスはガクッと肩を落とした……目覚めたお姫様は中々愉快な性格をしているようだと苦笑を浮かべた後、回していた蒼い結晶体をテーブルの上に置いて柔らかそうな素材の椅子から立ち上がったクリスは半円形のベッドの傍まで来て身を起こしている『マジア・マゼンタ』を改めて見つめる

 

「……君達と出会った時は落ち着いて話せなかったからね。改めて名乗ろう、私はクリス・エム。遠い世界からの探究者だよ」

 

 クリスの名乗りを聞いた『マジア・マゼンタ』は、クリス……クリスちゃんね、と呟いており ちゃん付けかよと思わず苦笑いを浮かべたクリスの表情にも気付かずに『マジア・マゼンタ』は何故一方的に襲い掛かって来たのかと問い掛けてきた。

 

「――ねえ、クリスちゃんは何であたし達に襲い掛かって来たの?」

「――ん? 最初に言ったでしょう、君達が使う『魔法』という力に興味があると」

「だからと言って突然襲い掛かってこなくても、話して仲良くなってからでも遅くはないでしょう!」

 

 『マジア・マゼンダ』の指摘に後頭部をポリポリと掻きながらクリスは、これまでの経験から『魔法使い』の事を知るには ぶつかり合うのが一番手っ取り早いと答える。

 

「……私達が『魔法』と呼ばれる未知の現象を観測してから、その力を求めて無人探査機を色々な世界に送り込み、複数の並行世界で『魔法』を操るモノ……人達を観測した」

「……並行世界?」

「――世界は一つじゃない、一杯あるんだよ」

 

 どこから取り出したのか黒縁の眼鏡を掛けたクリスは、上手く呑み込めずに小首を傾げている『マジア・マゼンタ』に向けて並行世界に付いて説明し、自分は別の並行世界――この世界の外からの来訪者であると告げると『マジア・マゼンタ』は目を丸くして驚いていた。

 

「最初は私もわくわくした。私達の知らない未知のエネルギーを使って、どんな技術体系を生み出しているのだろうと……」

 

 そこまではにこやかに話していたクリスだったが途中から表情を曇らせ始める……いわく、最初に接触した種族は魔力をチャージして放出する事で対象にダメージを与える――いわゆる砲撃系魔法や、次に接触したのは己の肉体に魔力を循環させる事で肉体のスペックを上げる肉体強化系であった。

 

「……他にも『魔法使い』と自称する種族と接触したけど、大体他の技術で再現出来るモノが大半だったんだよ」

 

 ……中には『魔法使い』と名乗りながら詐欺のような戦い方をする輩も居た、と疲れたように話すクリス。

 

「……どんな戦い方だったの?」

 

 怖いモノ見たさで聞いてくる『マジア・マゼンタ』に翠眼を細めたクリスは重い――とても重いため息を付いた……アレはひどかった。何がひどいって、『魔法少女』を名乗りながら完全に詐欺のような相手に、全方向に飛んでくる魔力弾の雨……。

 

「……悪いけど、思い出しくないわ」

「――ぷっ!」

 

 よほどひどい顔をしているのだろう、渋面を作るクリスの顔を見ていた『マジア・マゼンタ』がたまらず噴き出す……襲った側と襲われた側、本来なら決して相容れない筈の二人は朗らかな雰囲気の中で笑い合う……何かがおかしい事に気付かぬまま。

 

 

 しばらく話し込んでいたが、ウトウトとし始めた『マジア・マゼンタ』は再びベッドにて眠りに付き、その姿を細めた翠眼で見ているクリスは「……まさしく眠り姫だな」と唇が半円を描きながら冷たく笑う……この部屋の中には別の並行世界に迷い込んだ際に使用したケミカル物質の中でも睡眠導入作用があるモノが残っていたので それを散布しており、クリスの体内にはプロフッサー謹製の抗体システムが存在しているからケミカル物質ごとき完璧に分解してくれるのだ。

 

「……さて、会話の中でも色々と感情を揺さぶってみたが、結果はどうだった?」

『――個体名『マジア・マゼンタ』の感情レベルは確かに上昇しましたが、未知の現象およびエネルギーの発露は確認出来ませんでした』

「……そう簡単にはいかないか……やはり彼女達の『魔法』とやらも戦闘時に効果を発揮するのか……ならば、彼女の仲間である青いのとか黄色いのを突いてみるか」

 

 地表に乱入して彼女達――『マジア・マゼンタ』が言うには自称“正義の魔法少女”『トレスマジア』と交戦した時、彼女達の能力はその精神状態に左右されるように感じた……どのように突いてやろうかと思案している時に、この『探査艦ー03』の制御コンピューターが『標本』として保管する事を提案して来た。

 

『――未知の現象である『魔法』を行使するサンプルを確保したのですから、今後の研究の為にもサンプルを『標本』として保管する事を提案します』

 

 合成音声とは思えない程に流暢に提案して来るが、それを聞いたクリスは小さな溜息を付く……新たに用意されたこの『探査艦ー03』の制御コンピューターはまだ経験が浅く、急遽お姉ぇ怒りの探査任務に駆り出された事もあって経験不足が目に付く……まったくコイツは、何の為に人がこんな手の込んだ芝居を打っていると思っているのだろうか。

 

「……却下よ、却下」

『――ですが』

「聞きなさい――彼女達『トレスマジア』や、地上で戦った涼しげな格好をした奴らも、彼女達が『魔法』らしき力を行使する際に、その威力は感情――想いと言っても良いモノに左右されていた」

 

 軍服姿ながら風邪を引きそうな奴や黄色いのが力を行使する時に、その威力は感情の増大に比例していた……感情を発露させるには、彼女達に生きていてもらわなければならない――戦いの中で相手を観察していたクリスは彼女達の『魔法』はどこから発現しているのかを考察し、仮説として無意識領域から発現しているのではと考えた。

 

 無意識領域――集合的無意識と呼ばれ、人間の無意識の深層に存在する個人の経験を越えた先天的な構造領域であるとされる――『マジア・マゼンタ』達は戦闘時に明らかにテンションが高い時や、仲間を助けようとした時に『魔法』と呼ばれる現象の発現が強くなった――彼女達の想いが極限にまで強くなり、それが個人の無意識の深層から伝わり、集合的無意識領域から“何か”を汲み上げたのではないかと考えたのだ。

 

「……私達の目的は『魔法』と呼ばれる現象を解明する事、こんな少女が『SECOND・SKIN(第二の皮膚)』を貫くほどの威力を見せた……その力の根源を解明する為には、彼女達が生きている事が必要なのさ」

 

 


 

 

 地球の静止軌道に位置する『探査艦ー03』に来てから、『マジア・マゼンタ』が目を覚ますたびに傍にあるテーブルで蒼い結晶体を手で回しながら見守っていたクリスと他愛も無い話に興じていたが――その日、目を覚ました『マジア・マゼンタ』は何時になく頭がすっきりしている事に気付く……周囲を見回すも何時も居るクリスの姿はなく、テーブルには彼女が何時も触っていた蒼い結晶体が置かれているだけで、その部屋には『マジア・マゼンタ』の他には人の気配は無かった。

 

 部屋の中に散布されていたケミカル物質の散布を停止した事により濃度が急速に希薄になるにつれて正常な判断力を取り戻して行った『マジア・マゼンタ』は、自分がこの宇宙船に来たのはクリスとの戦いに敗れて拉致されてきたのだと改めて思い出し――自分はなぜ能天気にもこんな場所で会話に花を咲かせていたのかと愕然とする。

 

 ……な、なんで、なんであたしは戦っていた“敵”と和気藹々としていたの!?

 

 自分があまりの無警戒すぎて頭を抱える『マジア・マゼンタ』。

 クリスの姿が見えない事も彼女の不安を冗長させる……まさか?

 

「――コンピューター!」

 

 以前クリスから教えられた、この宇宙船の全てを制御するコンピューターを呼び出すと、彼女の傍に投影型のウィンドウが立ち上がってウィンドウ内のデフォルメされた『探査艦ー03』のアイコンが応答する。

 

『どうしました『マゼンタ』?』

「――クリスちゃんはどこにいるの!?」

『……現在マスター・クリスは、惑星上で作戦行動中です』

「作戦? コンピューター、クリスちゃんと連絡が取れる!?」

『……現在 作戦行動中ですので連絡は取れませんが、映像ならモニター出来ます』

「――それでも良いから、出して!」

 

 悪い予感がして必死な顔の『マジア・マゼンタ』の要望に、『03』を制御するコンピューターは事前にクリスから定められた設定に従って惑星上に降り立っているクリスの姿を投影型のウィンドウに映し出す

 

 ウィンドウ内に映し出されたのは『マジア・マゼンタ』達が暮らす住宅街から少し離れた場所にある再開発の予定地である何もない空き地であった……あの日 悪の組織『エノルミータ』の気配を感知した『マジア・マゼンタ』達は、悪の野望を阻止するべく気配の下へと向かい――突然乱入してきたクリスに手痛い敗北を喫した。

 

 そして今、その空き地では『マジア・マゼンタ』の大切な仲間である『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』が、冷たい笑みを浮かべたクリスと対峙している……見れば『マジア・アズール』も『マジア・サルファ』もボロボロで彼女達が不利な事は一目瞭然だった。

 

「――『アズール』!? 『サルファ』!?」

 

 ――行かないと。大切な仲間が、友達が戦っている場所に行かなければと焦る『マゼンタ』はこの宇宙船からみんなが戦っている場所へと向かおうとするが、このまま戦いの場に赴いたとしても前回はクリス相手には手も足も出なかった事もあり、このまま向かってもまたクリスにあしらわれて終わる可能背が高い……焦燥感に駆られた『マゼンタ』は何かないかと辺りを見回した時、いつもクリスが座っていた場所のテーブル上に蒼い結晶体が置かれている事に気付いた。

 

「……これは…」

 

 


 

 

 麗らかな日差しが差し込む午後、市街地から少し離れ再開発予定地区の更地にされた場所に栗色の髪を風に靡かせながらクリスは一人立っていた……周囲には人影はなく邪魔が入る心配は無いようだ。

 

 見ればこの惑星の主星は頭上を少し外れた場所に位置している……『03』に招待した『マジア・マゼンタ』のメディカル・チェックした際に記憶領域を除いて彼女とその大切な仲間達はこの惑星でいう所のチュウガクセイと呼ばれる成人前の幼生体である事は確認している――故に騒ぎが大きくならないように『マゼンタ』こと花菱 はるかの保護者に接触して催眠誘導など小手先の技を行うなど手をまわしていた。

 

 チュウガクセイとやらはこの時間帯ではガッコウと呼ばれる集団教育組織に参加しているそうだから、あの青いのやら黄色いのに此方の存在を気付いてもらわなければいけない……『マジア・マゼンタ』こと花菱 はるかの記憶領域をサーチした結果、あの子達は敵対勢力を探す時に主に気配を感知していたらしい……ならば青いのやら黄色いのに自分の存在をアピールすればおのずと寄って来るだろう。

 

 クリスは己の胸の上に手を置く――彼女が手を置いた胸の奥には、彼女たち種族の中でも一部の者だけが持つ“領域”が存在する……彼女たちが“ソレ”に気付いたのは文明を発展させる前――それこそ神話が語る時代から漠然としたものであるが“ソレ”を認識していた。

 

 神話の時代には“ソレ”は神の世界に繋がるモノだと考えられてきたが、文明が進み時代が進むにつれて“ソレ”は未知の世界と繋がる路である事が分かって来た……宇宙に進出し、銀河を超える頃には“ソレ”を持つのは自分達だけであり――それ故に、あの恐れ多くも賢くも”クソッたれな”かの存在に目を付けられる遠因となったのだ。

 

 そこまで考えた所でクリスは思考の修正を行う……折角これから青いのやら黄色いのと楽しくジャレるのだから、あんな“どうしようもない”相手の事は考えるのを止めよう――胸の奥に存在する“領域”を活性化させ、それに伴って翠眼が深紅の輝きを放ちながら彼女から放たれる雰囲気が圧を増して行って、物理的な力が有るかのように周囲の大気にまで影響を与え始めた。

 

 深紅の瞳を天に向けてクリスは己が存在感を増して待ち人達への道標とする――さあ、私はここだ。『マゼンタ』を大切に思うなら、力づくで取り戻すがいい……程なくして天空を猛スピードで此方に向かって来る複数の人影があった。二つの人影はクリスの近くまで来ると、スピードを落としてクリスと距離を取って対峙する。

 

「――やっと見つけた!  『マゼンタ』はどこ!?」

 

 白地に青のワンピースを着た少女は、腰まである長い髪を乱しながらようやく表れた行方知れずとなった友達に繋がる唯一の手掛かりを前にきつい視線を向けながら詰問する。

 

「……この前はえらい世話になりましたな、お返しにギッタンギッタンにして『マゼンタ』の居場所を吐かせたるさかいに覚悟せぇや!」

 

 白地に黄色のワンピースを着た少女はウェブのかかった長い髪を振り乱して啖呵を切ると、両手に巨大な手甲を具現化して両腕を組んで不敵に笑うクリス目掛けて吶喊する。

 

「……さあ、君達はどんな『魔法』を見せてくれるのかな?」

 

 深紅から翠眼へと戻ったクリスは、心底楽しそうに嗤った。

 

 




  どうも、しがない小説書きのSOULです。

 実の姉の無茶ぶりにストレスを溜めていた翡翠は、例の如く色々と画策しております……大雑把な性格をしている故に致命的に向いていないのに。

 --そして次回、マゼンタを欠いた『トレスマジア』の前に翡翠が姿を現します--果たしてマジア・アズールとマジア・サルファは翡翠に打ち勝つことが出来るのか!?

 なるべく早く投稿したいとは思いますが、あまりの酷暑に体力が……では、では~。
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