宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
住宅街から少し離れた所にある再開発地区。再開発に備えて更地にされたその場所では、正義のヒロインである『トレスマジア』の内 『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』が片膝を付いて荒い息を吐きながらも目の前で腕を組んで翠眼で見下す“敵”を睨み据えていた。
「……おやおや、怖い顔だね」
「……このダボが! そんなすまし顔をしてられるのも今の内やで」
「……私達は負けない、必ず『マゼンタ』を取り戻すわ!」
『マジア・マゼンタ』こと花菱 はるかが連れ去られてから三日が過ぎ、表面上は普段と変わらないよう学校生活を送りながら放課後は『マゼンタ』の行方を捜して町中を捜索していた……幸いな事と言うかその間は何故か『エノルミータ』に動きはなく捜索に力が入れられたが、一向に『マゼンタ』は見つからず手掛かりすらもない状況は幼い彼女達の心身に多大な負担となり、焦燥感が募るばかりで『マゼンタ』が――はるかが見つからない状況に忸怩たる思いを抱えながら登校して授業を受けている時に“あの時”と同じ巨大な気配を感じ――隣の薫子と顔を見合わせた。
この気配、忘れもしないアイツだ!
頷きあった二人は授業を行う教師に適当な理由を述べて教室から抜け出すと、『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』へと変身して巨大な気配を感じる方向――人が住む街並みから少し離れた場所にある再開発地区……あの女と戦った場所へと向かう。
硬い表情のまま再開発地区へと向かい――程なくして広い空き地に一人佇む白い服を着た女の姿が見える……間違いない、『エノルミータ』との戦いに乱入して来て双方に攻撃を加えて来たあの女だ!
前回は相手のペースに乗せられて苦い経験をさせられた……未知の相手ゆえに困惑している間に翻弄され、大切な仲間である『マゼンタ』を攫らわれた……白いボディスーツに蒼い結晶を散りばめた女から距離を開けて降り立った『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』は、腕を組みながら不敵な笑みを浮かべる相手を睨み据える。
「――やっと見つけた! 『マゼンタ』はどこ!?」
大気中の水分を凝縮して作った氷剣の切っ先を向けながら不敵な笑みを浮かべるクリスと名乗った女に向けて詰問する『アズール』。
「……この前はえらい世話になりましたな、お返しにギッタンギッタンにして『マゼンタ』の居場所を吐かせたるさかいに覚悟せぇや!」
額に青筋を浮かべた『サルファ』は両手に巨大な手甲を具現化させると、不敵な笑みを浮かべるクリスへと吶喊した。
「さて、君達はどんな『魔法』をみせてくれるのかな?」
クリスは翠眼を愉快そうに細めて巨大な手甲で殴り掛かって来る『サルファ』をひらりと躱しながらプラズマを固定して剣状にすると、氷剣を構える『アズール』に向けてプラズマの剣を振り被って一気に振り下ろし、それを氷剣で受ける『アズール』……奇しくも前回と同じ形になる。
「――くっ!? アナタ何でこんな事をするの……」
「……言ってるだろう、君達が使う『魔法』と言うモノに興味があると。だから君も遠慮なく『魔法』を使ってくれて良いんだよ」
「だからって、『マゼンタ』を連れ去らなくても――『マゼンタ』は無事なんでしょうね!?」
「……さあね」
押し込まれる力に抗いながら『アズール』は『マゼンタ』の無事を確認するがクリスは仲間の心配をする『アズール』を煙に巻き、鍔迫り合いをするクリスの背後から態勢を整えた「サルファ」が迫って巨大な手甲を振り上げる。
「――ダボが! 御託はええから『マゼンタ』を返せや!」
裂帛の気合と共に『サルファ』は巨大な手甲を繰り出すが、その拳はクリスを捕らえる前に見えない何かに阻まれてそれ以上進む事が出来ない。
「な、なんや、これは!?」
「……初めてかい、『
「――んな訳あるかい、このボケが!」
プラズマを束ねた剣で『アズール』に圧力をかけながら振り向いたクリスは拳を振り抜いて障壁を破壊しよう力を籠める『サルファ』を煽り、意固地になった『サルファ』が障壁を破壊しようとする様を冷めた目で見つめていると、渾身の力で剣圧から逃れた『アズール』が周囲に無数の氷剣を作り出してクリス目掛けて撃ち出した。
「――『サルファ』!」
「な! 無茶しよってからに!?」
『アズール』からの警告を聞いた『サルファ』は『アズール』の周囲に浮かぶ無数の氷剣を見て彼女の意図を瞬時に理解すると、巨大な手甲を組んでクリスの張る障壁に向けて渾身の力で振り下ろす――その反動で距離を取ると同時に撃ち出された大量の氷剣がクリスを捉えるべく次々と着弾していく。
「――やった!?」
「……油断せん方がええで『アズール』、あの女がこれくらいで死ぬようなタマかいな」
無数の氷剣が一点に殺到した事により衝撃で砕けた氷の結晶がクリスの居た地点を中心に覆った氷霧となり、『アズール』と『サルファ』の視界を阻む……それでも二人に油断はない。突然襲い掛かって来た正体不明の危険な相手であり、前回戦った時には『マゼンタ』を含めて三人がかりでも手玉に取られてしまった……今度は前のようにはいかせない、取って付けたような笑みを浮かべるあの女の鼻をへし折ってやる。
「……どこや、あの女は!?」
「――上よ!」
氷霧が風に流されて見えるようになった所にクリスの姿はなく、相手の気配を探して周囲を見回す『マジア・サルファ』に向けて、一瞬早く相手の気配を察知した「マジア・アズール」が上空の一点を指さす――そこには氷剣の暴風より逃れたクリスが腕を組んだ姿で悠然と浮かんでいた。
「……さて、そろそろ返礼といきましょうか」
組んでいた両腕を広げると、その先に無数のスフィアを生成して浮かべる…… 一つ一つは単なる砲撃用のエネルギーを内包した固定砲台である……『マジア・マゼンタ』こと花菱はるかの記憶領域をサーチした時、彼女達が現地ではチュウガクセイと呼ばれる基礎教育を受ける存在であり、これから才能を伸ばしていく幼生体――守られるべき存在である事が分かった。
それを知った時にクリスは頭を抱えた……これまで彼女が相手取ってきた高位生命体を代表とする超存在や、自らの意志で判断して挑んでくる相手だったが故に此方も遠慮なく戦えたが、幼生体……この惑星でいう所のミセイネンとやらを相手に『ロンゴミニアド』のような凶悪な槍を向けるには過剰戦力と言うモノだ。
「――では、踊ろうか」
その言葉を合図に、天空に浮かぶ無数のスフィアが輝いて『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』に向けてエネルギー弾を射出する――それは正にエネルギー弾による豪雨もしくは天空より地上に向けて撃ち出される無数の逆花火の群れ、自分達を狙って次々と着弾するエネルギー弾を避ける『アズール』と『サルファ』。
「――くっ!?」
「――調子に乗ってさかいに!?」
空から降って来る無数のエネルギー弾を必死に避ける『アズール』と『サルファ』。そんな二人を執拗に狙って降り注ぐエネルギー弾。必死の形相で避ける二人に反して、上空に留まりながら翠眼を細めて眼下の二人を監察しているクリスは、冷めた表情をしながら“その時”を静かに待っていた。
……前回の戦闘の時には状況に付いていけずに戸惑いながら戦った故にか、魔法少女としての能力をほとんど感じられず失望感が広がった時――玩具のような槍を持って吶喊してきた『マゼンタ』が見せた『
眼下で必死な様子に避けている『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』の二人も追い込めば『マゼンタ』のように思わぬ輝きを見せるかも知れない……そう考えて見た目は派手だが当たった所でピリっとしびれる程度の弾幕で追い立てているが……どうやら輝く姿は見られないようだ。
……ここまでか。
周囲に浮かぶ無数のスフィアから撃ち出されるエネルギー弾を必死な形相で避ける『マジア・アズール』と『マジア・サルファ』を冷たい目で見ていたクリスは小さく息を吐く……どうやら輝きは見せて貰えないようだと見切りをつけた彼女は周囲に浮かぶスフィア群に向けて生成するエネルギー弾の出力を上げるように指示をする。
『マジア・マゼンタ』が示した可能性の光を『マジア・アズール』や『マジア・サルファ』が見せてくれるかのしれないと考えて仕掛けてみたが、どうやら徒労に終わったようだ……終わらせよう。指揮下のスフィアに強化版エネルギー弾を射出するように指示を出そうとした時――声が響いた。
――爆撃はアタシの専売特許なんだぜぇ。
「……これは」
何時の間にかクリスの周りには無数の巨大な銃口が出現して照準を合わせていた……周囲を警戒していたにも関わらず何時の間にか鈍い光を放つ巨大な銃口がクリスを取り囲むように包囲している……やれやれ、千客万来なことで。
『マジア・マゼンタ』の仲間である青いのや黄色いのに対する興味を失っていたクリスは、周囲の空間の位相に微弱な変動を感知したが放置していた……これはアレだな、前回の時に遭遇したあの涼し気な格好をした奴だろう……唇が弧を描いて半月を作る。
――フッ飛べ、クソ女!
気合の入った声と共に、クリスを包囲する無数の巨大な銃口が一斉に発砲――無数の銃弾がクリスに殺到して彼女は爆炎の中に消えた。
「……これは、『レオパルト』の攻撃?」
上空に召喚された無数の巨大な銃口から耳を劈《つんざ》く轟音と共に撃ち出された弾丸の嵐は、空中に浮かびながら周囲のスフィアに指示を与えていたクリスに殺到し、彼女は爆炎の中に消えた。
無数のスフィアを操り強力なエネルギー弾の嵐を降らせていた彼女を捉えたあの巨大な弾丸――魔力で召喚した無数の銃口より連続して攻撃を仕掛けて来る……アレは、悪の組織『エノルミータ』の構成員である『レオパルト』の手法、様々な火器を召喚して多彩な攻撃をしてくる彼女の魔法だ。
「……なんでアイツが出て来んねん……」
この戦いは、自分達が大切な仲間である『マジア・マゼンタ』を取り戻す戦いであり――悪の組織だか何だか知らないが、アイツらの出る幕じゃない――あの女を倒すのは、自分達『トレスマジア』だ。
空中に突然現れた無数の銃口からの集中砲火によってクリスは爆炎の中に消えたが、炎が収まり風によって煙が晴れたその場所には半透明な球状の防壁に包まれたクリスの姿があった――薄っすらと光を放つ球体の中でクリスは にやりと笑みを浮かべる。
「――私に『
『
クリスと対峙するのは、頭部に大きな二本の角状の突起物とコウモリと星の意匠が施されたチョーカーを持つ白と紫の衣装を纏った少女と、緑の軍服をモチーフにしたこれまた露出が激しい衣装を纏った少女の二人……『マジア・マゼンタ』こと花菱はるかの記憶領域をスキャンした結果、『マジア・マゼンタ』達 正義の魔法少女『トレスマジア』と敵対する悪の組織『エノルミータ』の構成員たち。
頭に二対の角を持つ『マジア・ベーゼ』と軍服姿の少女が『レオパルト』と呼ばれる敵側の魔法少女……趣味の悪い魔法生物を使って街中で悪さをしたり、戦闘中に妙な事をしたりする訳の分からない相手として認識されていた。
「……君達は彼女達と敵対関係にある『エノルミータ』だっけ? 何用かな、まさかあの青いのとか黄色いのを助けに来たのかな?」
「――んな訳有るかタコ! テメェをブッ倒しに来たに決まっんだろうが!」
蒼いのとか黄色いのとかが中々魔法を見せてくれない事で退屈していたクリスは、わざわざ向こうからやって来てくれた二人の少女に軽いジョーク交じりの挨拶を送るが、二人の内の軍服を着た『レオパルト』が二連装拳銃の銃口を向けながら高い戦意を見せる。
「――『ベーゼ』ちゃん!?」
「――ええっ!」
魔力を高めた『レオパルト』の周囲に複数の手榴弾が召喚される――彼女の戦闘スタイルは無数の巨大な銃口を召喚するだけでなく、周囲に多種多様な火器や爆発物を召喚して攻撃を行うモノである。
――そして、その召喚された無数の手榴弾を前に『マジア・ベーゼ』は手に持った騎馬鞭『支配の鞭《フルスタ・ドミネイト》』を振り被ると手榴弾群を叩いて――ソレらに仮初の命を与える。
彼女『マジア・ベーゼ』の能力は、『支配の鞭《フルスタ・ドミネイト》』を用いて対象物に仮初の命を与えて魔物と化して相手を攻撃する――『マジア・ベーゼ』によって魔物化した手榴弾の群れは多彩な軌道を描きながらクリスへと殺到する。
仮初の命を与えられて羽を生やした手榴弾の群れをクリスはギリギリの見切りで躱すが、魔物と化した手榴弾は羽を巧みに動かして軌道を変えると背後からクリスに襲い掛かって来る。
「――おっ!? 嫌らしい軌道を取って来るね」
背後から襲い掛かって来た魔物を身を捻って避けると、事前に予測していたかのように別の手榴弾の魔物が四方からクリスを襲う――だがクリスは苦笑を浮かべるだけで巧みな身のこなしで死角から襲ってる手榴弾の魔物を避けていると、高高度より急速に接近する何かを感知し――避けようとした所で未知のエネルギー体を検知したクリスは、それが頭に二対の角を持つ『マジア・ベーゼ』が撃ち出した物で、しかも避けるクリスの回避先を潰すようにしている。
……『マジア・ベーゼ』だっけ、中々エゲつない事をしてくれる。
『マジア・マゼンタ』こと花菱はるかの表層記憶を探った時、彼女『マジア・マゼンタ』は『マジア・ベーゼ』の事を良く分からない存在と認識していた……世界征服を掲げる悪の組織『エノルミータ』の構成員であるが、実際彼女と戦った際には妙な魔物に拘束させて訳の分からない攻撃を仕掛けてきたり、本当に自分達を倒すために戦っているのか分からない存在である、と。
……ちょっと、揺さぶってみるか。
『マジア・ベーゼ』が放ったエネルギー弾を避けながら攻撃をしてきた当人に迫った所で、高高度から急速接近してきた物体—―不気味な見た目の可愛くない巨大なぬいぐるみがその勢いのままタックルして空中に召喚された巨大な扉の中へと消えて行った。
「――やったぁ! やったよ、『ベーゼ』ちゃん……あれ、『ベーゼ』ちゃん?」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
マジア・アズールとマジア・サルファと激突したクリスは、これまで戦ってきた相手との差に戸惑いながらも、『魔法」を解析するべく戦っている最中に乱入してきたエノルミータの面々……戦いは乱戦模様になってきました。
次回でそろそろ翡翠が最大の危機を迎え……この小説に「魔法少女」のタグが付けられない理由が明らかになります。
と言う訳で、気長にお待ち下さませね~。ではでは~。