宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
西暦2204年 地球 加藤邸
巨大な彗星と共に姿を現した、大帝ズォーダーに率いられるガトランティスとの絶望の戦いに、多大な犠牲を払いながらも辛くも勝利した地球は、表面上は落ち着きを取り戻したかのように見えた。
そんな地球の首都の一角に居を構える加藤 真琴とその一人息子 翼が暮らすそのマンションには、異星からの来訪者が訪れていた。
「あ~~、お茶がおいしい」
「……で、アンタは相手の迷惑も考えずに、別の地球の女子中学生にちょっかいをかけていた訳だ……どこぞのオヤジか、アンタは?」
「――失礼な、こんなに可愛い美少女をつかまえて」
「――なにっが美少女よ、自意識過剰なのよアンタは」
ジト目の真琴に突っ込みを入れられた翡翠は、隣にいる翼に「そんな事ないよねぇ?」「ね~~」と子供相手に同意を求めていた……けっして旗色が悪くなって来たから、子供に助けを求めた訳ではない。
「……で、その『マゼンタ』ちゃんだっけ? その『マゼンタ』ちゃんにちょっかいを掛けたアンタは、『マゼンタ』ちゃんのお友達にも毒牙を向けた訳ね」
「――毒牙だなんて失礼な、ちょっと遊ぼうって声をかけただけじゃない」
……どの口が言うのだろうか、このはた迷惑娘は。
『ヤマト』にいた頃から このはた迷惑娘の悪戯の被害を多く受けていた真琴は、そのはた迷惑具合に磨きがかかっている翡翠に呆れたような視線を向けるのであった。
「――直伝(大ウソ)、い・な・ず・まっ、キィィィイイイク!!」
無数の光の玉に襲われて、愛用の槍『マゼンタ・スピアー』で捌いていた正義の魔法少女『マジア・マゼンタ』は、頭上で大きな声がしたかと思うと――何かが猛スピードで急降下して来る事に気付いた――それは蹴りの体勢を取りながら、こちらに向かってくるクリスだった。
「――うっそぉぉおお!?」
落下するスピードも合わせて猛烈な勢いで迫るクリスに、あわあわとパニックになる『マゼンタ』――周囲には無数の光球が迫り、回避不可能なこの状況に『マゼンタ』は思わず目を瞑る。
「「――『マゼンタ』!」」
――『アズール』!? 『サルファ』! 大切な友達の声を聞いて目を開いた『マゼンタ』が見たものは、大量の氷剣を作り出して光球を迎撃する『マジア・アズール』と、『マゼンタ』を庇うように前に出てバリアを張る『マジア・サルファ』――落下速度も合わされて威力を増したクリスの蹴りが、『サルファ』の張るバリアに直撃する。
「――くっ! なんて威力や!?」
クリスが纏う白いボディスーツに散りばめられた蒼い結晶体『重力結晶』によって、十代前半の少女そのものが城壁を破る破砕槌と化して『マジア・サルファ』の張るバリアを打ち破ろうとしていた。
「――『サルファ』!?」
「――なめんんぁあ! ダボがぁあ!」
……情けなくも、一度は大切な友達を奪われた――だからこそ、あんな思いは二度と味わいたくない! 歯を食いしばりながら渾身の力を込めたバリアは、クリスの攻撃を凌ぎきった。
「……『いなずまキック』を止めるんだ、驚いたよ」
落下スピードも合わさった渾身の蹴りの威力を防ぎ切った『マジア・サルファ』に素直に驚きをあらわにしたクリスだったが、その真紅の瞳は限りなく冷めていた。
――けど、君には用がないんだよ。
未だ張られている『マジア・サルファ』のバリアへと、クリス渾身の右ストレートが叩き付けられる――右腕にて強烈な輝きを発する『重力結晶』が蒼く輝き、手加減無しの一撃が『マジア・サルファ』の張るバリアを粉砕して、その余波をモロに受けて彼女は吹き飛ばされた。
「――ああああああっ!?」
「――『サルファ』!」
吹き飛ばされる『マジア・サルファ』を受け止めた『マジア・マゼンタ』、彼女の持つ治癒の力を使用して『マジア・サルファ』の治療を行っている間、氷剣を構えた『マジア・アズール』が前衛として立つが、両腕を組んで此方を見ているクリスの視線はかぎりなく冷めていた。
「……はっきりと言うとね、君達にはそれほど興味がないんだ――邪魔だよ、引っ込んでなよ」
傲慢不遜な態度で告げるクリス……その物言いに『アズール』は眉間に皺をよせ、『マゼンタ』は「――そんな言い方って」と、憤りを露わにしていた。
「……ふざけんな」
――そして、そんなクリスを『マジア・サルファ』は睨み据える。
「……ふざけんなよ! ウチらを誰だと思ってるや、正義の味方『魔法少女』やぞ、お前なんぞに負けてたまるか!?」
突然現れて思いっきり引っ掻き回してくれた挙句、興味がないから引っ込んでろやて――ふざけんな! 『マゼンタ』を、大切な仲間を搔っ攫っただけでなく、あの子を傷つけようとする奴を前に黙ってられるか!
ギリギリと歯を噛みしめた『マジア・サルファ』の中に有るモノは、理不尽な相手への激しい怒りだった――それが彼女の中にあるモノに火を付け―― 一気に燃え上がらせた。
「――これはっ!?」
「「――『サルファ』!?」
――突然、その身から膨大な魔力を溢れ出す『マジア・サルファ』に驚きを露わにする『マジア・マゼンタ』と『マジア・アズール』――突然溢れ出した魔力に驚きながらも、『マジア・サルファ』は、胸の奥から湧き出る
――
誰よりも早く――あのむかつく女を超え、誰も追いつけないほど速さを――誰よりも強く――あのむかつく奴をブチのめせるほどの力を。
――マジア・サルファ『
放出された魔力が物質化してその姿が変わる――より動きやすいチャイナ風のドレスと頭の上には二つのシニヨンキャップがあり、少女らしい可愛らしさがあるが、その反面 両腕にはゴテゴテしい三対の腕輪が備え付けられており、可憐なその姿の中に戦う意思が込められていた。
「……変化、した?」
真化した『マジア・サルファ』の姿に戸惑いを覚えるクリスを尻目に、『サルファ』の両腕に備え付けられていた三対のリングが外れ――それぞれが魔力の拳を造り出すとクリスめがけて殺到していく。
「――くっ!?」
「――どうや! ちっとは堪えたか!」
予想を上回るスピードで殺到する魔力の拳を捌きながら―― 一つ一つの魔力の拳の威力の高さにクリスの眉間に皺が寄る……予想以上に重く硬い拳の威力に、彼女の攻撃方法はあのゴッツい手甲だけだと思っていたが、何故これほど急激に能力が上がったのかを観察しながら、今だ周囲に浮かぶ光球の群れに指令を送る。
「……やれば出来るじゃないか、黄色いの――ならば、これはどうかな?
――これまで『マジア・マゼンタ』に襲い掛かっていた光球の群れが、今度は『マジア・サルファ』に向けて殺到する――だが、目の前に迫る光の洪水を前に、『サルファ』は周囲に待機しているリングを両脚に装着して、一気に加速――迫る光球の群れを置き去りにして、クリスへと迫る。
周囲に浮かぶ光球を迎撃に向かわせるが、これまでとは比べ物にならない程のスピードと機動性を見せる『マジア・サルファ』……あらゆる方向から襲い来る光球を軽快な軌道で避ける彼女は、最初は驚きの表情を見せていたが、その唇の端がどんどん吊り上がっていく。
――なんやコレ、自分の身体やないみたいやっ! アイツの攻撃が眼で追える――まるで止まっているみたいやわっ!
変則的な軌道で全ての光球を避け切った『マジア・サルファ』は、両脚に装着されていたリングを展開すると、三対のリングから魔力で構成された拳が放電をはじめる。
「――これまでのお礼や、ありがたく受け取れぇええ!」
――
電撃を纏わせた拳がクリスに殺到し――シールドを張る間もなくクリスへと攻撃を仕掛ける……拳が着弾した衝撃と激しい放電により眩しい光が周囲の視界を奪い それが収まった時、そこには両腕をクロスさせて防御の姿勢をしたクリスの姿があった。
「……えらい頑丈やなぁ……やけど、次で終いや!」
右腕に雷を纏わせながら『マジア・サルファ』は、未だ両腕で防御の態勢のクリスに宣告する。
だが、そんな高揚感に浮かれた“戯言”など気にならないくらいに、クリスは驚いていた……先ほどの攻撃が彼女の防御を抜く事はなかった、だが未だ両腕が“痺れていた”のだ。
クリスが纏う『
……クリスの口角が上がり、笑みを浮かべる。
『マジア・マゼンタ』だけでなく黄色いの――『マジア・サルファ』が見せた変化……彼女たちとの戦いの中で、彼女たちの能力はその精神状態に左右されているように見えた。
『マゼンタ』を拉致した後に、青いのやら黄色いのの前に姿を晒して彼女たちの反応を観察したが、大切な仲間を取り戻す為に戦う彼女たちの能力は、前に戦った時よりも僅かばかりだが向上していた。
以前たてた仮説――彼女たちの能力の源は、個人の無意識の深層から集合的無意識領域へとつながり、そこから“何か”――魔法と呼ばれるモノを汲み上げたのではないかと考えたのだ。
――そして今、『マジア・マゼンタ』だけでなく、黄色いの――『マジア・サルファ』も予想外の力を見せた……つまり、彼女たちの精神に刺激を与えれば、残りの青いのも予想外の能力“輝き”を見せてくれるかもしれない……いや、それだけはなく、もしかしたら彼女たちと敵対関係にあるという『エノルミータ』のお笑いトリオも思わぬ“輝き”を見せてくれるかもしれない。
「……んふふふぅふ。やるじゃないか、黄色いの――いや、『
クロスさせていた両腕を解いたクリスの表情は不敵な笑みを浮かべ、真っ赤に染まった瞳は爛々とした輝きを放っていた。その表情を見た『マジア・サルファ』は「……まだ、ヤル気かいな」と好戦的な笑みを浮かべ、反面『マジア・マゼンタ』は「……もう止めようよ」とクリスに声をかけるが――無言の彼女――クリスから強烈な圧が放たれ、重苦しいプレッシャーが周囲を支配する。
クリスから放たれるプレッシャーは、『
「……正直、君達がここまでヤルとは思っていなかったよ……このまま戦っていけば、君達はどこまで能力を上げれるのかな?」
――さぁ、もっと君たちの可能性を、“輝き”を見せておくれよ。
獰猛な笑みを浮かべたクリスが初めて構えらしい構えを取る――それは、これまでのお遊びではなく初めて本格的な戦闘態勢に入った事を意味する――チュウガクセイという未成熟な相手故に加減していたが――ここからは本気で――異なる世界において、血と怨嗟をまき散らす愚蒙なりし『
――真紅の瞳は爛々と輝き、彼女の口から見える犬歯が心なしか大きくなっているように感じる……クリスの発するプレッシャーの影響か、この世界そのものが震えているかのように激しい地なりが響いているが、そんな中でも『トレスマジア』の三人はそれぞれの武器を構えて臨戦態勢を取ってはいるが、その表情には緊張の色が見て取れる。
「……いよいよ本気かいな」
「……止めようよ、クリスちゃん」
「……気を引き締めて『マゼンタ』!」
これまで街の平和を乱す魔物や、悪の組織『エノルミータ』の構成員と幾度となく戦ってきたが、これほどまでのプレッシャーは感じた事がない。
――クリスの纏う白いボディスーツに付いている蒼い結晶体――『重力結晶』が強烈な輝きを放ち――クリスの戦意が最大限に高まり、今まさに初撃を繰り出そうとしたその時、
「なんかエラいことになってるね――」
一触即発のこの戦場に、のんびりとした場違いな声が響く。
クリスと『トレスマジア』対峙する場所より少し離れた所から、一人の偉丈夫がゆっくりとした足取りで歩いてくる……それは見上げるような背の高い男性であった。
鍛えられ発達した筋肉を全身に纏い、例えるならば強靭な筋肉の塊――まさに歩く重戦車と呼べるほどの存在感を持ちながらも、髭に包まれたその顔には困ったものを見るかのように苦笑いを浮かべながら、こちらに歩いてくる一人の男性の姿があった。
「……だ、だれっ?」
「……まさか、一般人が巻き込まれていたの!?」
偉丈夫を見た『マジア・マゼンタ』と『マジア・アズール』は、この『
――そして『マジア・サルファ』と対峙していたクリスもまた驚愕の表情を浮かべ――
「――筋肉おっさんっ!? い、いや、高田厚志!? な、なんで居るのよっ!!」
「はははっ、実は魔界にある大渦の奥底に“別の世界”に通ずる穴が見つかってね」
「……ま、まさか…」
「……うっかり落ちてしまって、気が付いたら此処に居たという訳さ」
「――な、何というご都合主義! なんで、よりにもよって筋肉おっさんが来るのよっ!?」
はははっと笑っている偉丈夫――高田厚志に対して、思いっきり頭を掻き毟って混乱を露わにするクリス……ぐだぐだな空気の中、どういう状況なのかいまいち理解出来ない『トレスマジア』を置き去りにして状況は進んでいく。
「……まぁ、私も予想外の展開なんだが――君はまだ“懲りていない”ようだし――ちょっと、お灸を据えておくか」
偉丈夫――高田厚志の言葉にジト目で見ていたクリスは、一瞬で気持ちを切り替えて戦闘態勢へと移行する――
マジカル・トラァアアアンス!
どうも、SOULです。
--ようやく、ようやく出せました魔法少女(漢)『プリティ・ベル』!!!
彼こそが、この小説に「魔法少女にあこがれて」のタグが付けられ理由だったんですよね。クリスと「マジア・マゼンタ」とのじゃれ合いの裏で、忸怩たる思いを溜めていく「マジア・サルファ」の描写に文字数を取られ、ここまでかかりました。
次回! 理解不能な魔法少女(兄貴!)『プリティ・ベル』の無茶苦茶な強さに、翻弄される「トレスマジア」の三人と、一番被害を受けるクリスの葛藤にご期待ください!
……と、言いたい所ですが、仕事の関係で2,3日まったく書けないので、最終話の調整が出来ないんですよね……まぁ、8月中にはおわると思うで、しばらくお待ちくださいね。