宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
『ヤマト』 第一艦橋
「艦内の様子はどうか?」
「艦内の至る所で『ボーグ・ドローン』と交戦状態にありますが、苦戦していますね」
沖田艦長の問い掛けに技術支援席にて艦内の様子をモニターしている真田は難しい表情を浮かべながら答える――データー少佐からの情報では『ボーグ』は同化する為に『ドローン』を送り込んで来る事は聞いていたが、『エンタープライズ』にも装備されているという転送システムを使って次々と送り込んで来る手法のなんと悪辣な事か。
倒しても攻撃方法を解析して全『ドローン』が即座に対応する為に彼らの排除は困難を極める。また倒したとしても敵艦から増援が『ヤマト』艦内に次々と転送されており隔壁を下げても意味がない……どこかで流れを変えなければ『ヤマト』は『ボーグ』に制圧されてしまうだろう。
「データー少佐、『ボーグ』の攻撃に対して何か有効的な手段はないか?」
「……まずは『ドローン』の増援を食い止めるべきでしょう。『ヤマト』の防御システムである波動防壁ならば『キューブ』からの転送を阻害する効果がありますから、まずは波動防壁の復旧を考えた方がよいでしょう」
「……艦長、敵の増援を断つ為にも波動防壁の復旧が急務です。自分は復旧作業の指揮を執りたいと思います」
「……わかった」
沖田艦長の許可を取ると真田は主幹エレベーターに乗り込んでコンバーターのある第三艦橋を目指す。
そうしている間にも第一艦橋内は艦内に進入した『ドローン』への対処に追われていた――艦内で対応している保安部隊に『ドローン』の最新位置情報を伝えつつ、的確な配置を指示しているが『ドローン』を守るシールドを破れず苦慮していた。
通信席で各保安部隊からの報告を受けていた相原は、その報告をうけた時に一瞬惚けたような表情を浮かべた。
「……すまない、もう一度繰り返してくれ……何だって!? 見間違いじゃないのか?」
「――どうした、相原」
通信を受けて混乱している様子の相原に沖田艦長が問い掛けると、通信の内容に困惑しているのか相原は戸惑った表情のまま報告する。
「……先程から『ボーグ・ドローン』に対処している保安部員からの報告なのですが、艦内に進入した『ドローン』を子供が倒していったと言うのです――あっ! 古代一尉から通信が入りました」
「……私が出よう、スピーカーに繋げ」
「了解」
相原は通信席のコンソールを操作して第一艦橋内に古代の声が響く。
『こちら古代。居住区近くの主幹エレベーターホール近くで『ドローン』と交戦していましたが……その……』
「どうした?」
『……突然、翡翠が乱入してきて『ドローン』を全て無力化していきました』
言いづらそうにする古代を促した沖田艦長は、報告して来たその内容に一瞬絶句する。そしてそれは同じく報告を聞いていた艦橋内の乗組員達も同様で、妙な静寂が艦橋内に流れた。
「……で、翡翠はどうした」
『居住区方向へ向かいました』
「そうか、引き続き『ドローン』への対処をせよ」
『了解』
通信を終えると戸惑いの表情を浮かべた乗組員達がひそひそと小声で話していた……翡翠に関する情報を最小限しか公表していないとはいえ、あれほど手ごわい『ボーグ・ドローン』を見た目は小さな女の子が無力化したというのだ。
「皆、思うところもあるだあろうが今は艦内に進入した『ドローン』を排除するのが先だ」
沖田艦長に言われて皆慌ててそれぞれの仕事に戻る……すると通信席でやり取りをしていた相原が慌てたような表情を浮かべて報告する。
「保安部の星名より緊急連絡! 『ドローン』に遭遇してユリーシャと共に居住区で篭城中との事です」
「すぐに保安部を向かわせろ!」
沖田艦長の命令を受けて相原は保安部に連絡を取り、ユリーシャを救出するように伝える――イスカンダルの要人である彼女に何かあれば、『ヤマト』の目的であるコスモリバースの受領に悪影響が出かねない……誰もが間に合う事を祈り……しばらくして相原の通信席に連絡が入る。
「こちら艦橋……そうか、分かった」
通信席で二言三言話した後に相原は報告する。
「保安部の星名より報告。篭城していた居住室のドアは破られたが、乱入してきた翡翠により『ドローン』は無力化されたとの事です」
「……そうか」
微妙な表情を浮かべて報告する相原にしばらく無言だった沖田艦長は短く答える。すると第三艦橋の真田より通信が入った。
『こちら真田。数十秒ですが波動防壁の展開が可能です』
「分かった――データー少佐、『ボーグ』の転送範囲はどうか?」
「そうですね、後50万キロも後退すれば範囲外になるでしょう」
「分かった。真田君、波動防壁を展開してくれ。島、直ぐに後退だ」
『わかりました』
「『ヤマト』後退します」
艦首に搭載されているスラスターを使用して『ヤマト』は『ボーグ・キューブ』から距離を取る。当然『ボーグ』が見逃すはずもなく追って来るモノと思っていたが、キューブは動きを見せず時間は掛かったが『ヤマト』はキューブの転送範囲より離脱する事が出来た。
「……変ですね、『ボーグ』は同化すると決めたら生半可な事では諦めません」
予備科員席に座っているデーター少佐は首を傾げながら呟く……彼の説明では『ボーグ集合体』は自らの完全性を常に求めており、完全性を満たす為に必要な技術や生物的な特性を同化しているので『ボーグ』が同化を諦めるというのは考えにくいと言う。
ならば尚の事『ボーグ』に対抗する為にも波動エンジンの修理を急がねばならない。幸いにして再び翡翠の介入によって『ボーグ』に占拠されていた機関室が開放されたという報告が上がっており、あと数分で応急処置が完了するという。
目にもの見せてくれる、と第一艦橋内で好戦的な雰囲気が流れている中、相原より『エンタープライズ』から通信が入ったとの報告が入り、沖田艦長はパネルに投影するように命じる――すると天井のパネルにピカードの姿が映し出された。
『『エンタープライズ』より『ヤマト』へ。そちらの状況はどうですか?』
「こちら『ヤマト』。艦内に進入した『ボーグ』は全員拘束しました、そちらはどうですか?」
『こちらも『ボーグ』は全て排除しました』
『エンタープライズ』内に『ボーグ・キューブ』と空間を繋げられて進入を許したが、シールドを調整する事により空間接続を乱してそれ以上の進入を阻止したのだ。
『『ヤマト』の機関部の修理はどの位かかりますか?』
「後数分で応急処置が完了します」
『では修理が完了しだい、ワープで撤退しましょう』
「わかりました」
両艦長の間で意見がまとまった時、『ボーグ・キューブ』より強烈な割り込み通信が入りピカードを映していたパネルに先ほどの黒づくめの男の姿が映し出された。男は黒いバイザーの下の唇を皮肉げに歪めた。
『相談は終わったか? どの道同化されるのだから無意味だ』
「我々は決して屈したりはしないぞ」
『……その行為も無意味だ』
皮肉げに口を歪ませたまま男は通信を切る。
「来るぞ! 攻撃準備!」
「了解! 主砲一番、二番、三式弾装填――艦首魚雷発射管装填!」
「主砲仰角プラス五度、自動追尾装置よし」
沖田艦長の号令の元、戦闘指揮席に座った南部が指示を出して砲雷撃管制席に座っている交代要員の北野哲也が各砲座の準備が完了した事を告げた。
「『ボーグ・キューブ』が移動を開始しました」
技術支援席に座った森の交代要員としてコスモレーダーで監視していた西条未来から、ついに『キューブ』が動き出した事が伝えられて第一艦橋内に緊張が走る――誰もが『キューブ』の動きを、固唾を飲んで見つめる中で遂に待ちに待った報が機関室より伝えられた。
『こちら機関室、波動エンジンの応急修理が完了しました』
負傷した徳川機関長に変わり修理を指揮していた応急長の山﨑より波動エンジンの修理が完了したとの報を受けて、第一艦橋内の空気が明るい物になる。
「よしっ! これで目に物見せてやる!」
南部がガッツボースをしながら戦意を見せる。第三艦橋の真田によれば波動防壁は即時展開可能だが波動砲発射には不安が残るとの事だが十分戦えるだろう。
「『エンタープライズ』の様子はどうか?」
「エネルギー係数が高くなっています、戦闘態勢に移行した模様」
沖田艦長の問いに技術支援席の森が『エンタープライズ』の様子を答える……撤退するにしてもそう簡単には逃がしてはくれないだろう――ならば強力な一撃を加えて怯んだ隙にワープで脱出する。
「『ボーグ』に一撃を加えた後にワープする、準備を怠るな」
「了解!」
沖田艦長の指示に操縦桿を握った島が答え、航路監視席にて太田がワープ航路の算出を始める――そして攻撃命令を出そうとしたその時に“それ”は起こった。
「な、なんだ!? 突然、舵がきかなくなった!?」
「は、波動防壁が解除されます――ダメです、此方のコントロールを受け付けません!?」
「火器管制システムダウン! 再起動もできません」
主操縦席の島が、突然操舵がきかなくなったと叫んだのを皮切りに次々と艦のシステムが制御不能になったとの報告が入る……混乱するクルーを一喝した沖田艦長は落ち着いて再起動するように促すが、事態は一向に改善には向かわない……混乱する第一艦橋に真田から通信が入り、艦橋クルーはその内容に困惑する事となる。
「……ハッキング?」
『はい、外部からメインフレームに干渉を受けて各機能がダウンしています』
「……しかし、『ヤマト』のシステムには何十にもプロテクトが掛かっているはずだが」
「相手は我々よりも遥かに技術の進んだ『ボーグ』です、我々の想像もつかない手段を持っていても不思議ではありません」
真田と沖田艦長のやりとりにデーター少佐が加わる。
「これまで『ボーグ』は同化するなど直接的な手段を用いてきましたが、システムを乗っ取るような回りくどい手段を取ったと言う話は聞いた事がありません」
興味深い、と顎に手をやりながら呟くデーター少佐。他人事のような物言いにむっとするクルーもいたが、状況を思い出して乗っ取られたシステムが復旧できないかあらゆる手段を試すがどれも上手くいかない。
「ダメだ! 全く反応しない!?」
「このまま何も出来ないままなぶり殺しかよ!?」
「希望を捨てるな! 諦めなければ道は有るはずだ」
絶望的な状況に諦めかけているクルーに希望を持つように諭す沖田艦長だったが状況は一向に好転せず、ただ時間だけが過ぎている――そしてこの絶望的な状況は『ヤマト』のみではなく『エンタープライズ』もまた同じ状況に陥っているのか、武装に装填されたエネルギーは減少して動きを見せない。
「『エンタープライズ』に連絡は取れないか?」
「だめです、通信設備がまったく反応しません!」
通信すらも出来ない状況で顔をしかめた時、『ボーグ・キューブ』に新たな動きがあった。『キューブ』の巨大な艦体の上部よりトラクタービームが照射されて『ヤマト』と『エンタープライズ』の艦体を捉えると、ゆっくりと引き寄せ始める。
航法システムと武器管制システムを奪われた二隻は、逃れる事すらできずに『ボーグ・キューブ』へと引き寄せられて行く……すると巨大な『キューブ』の艦体の中央部分が開口していき、トラクタービームに囚われた二隻は開口部へと誘導されていく。
「あの中に入ったらオシマイだ……」
誰かが絶望的な声を出した時、『ボーグ』との戦闘宙域の近くに突然無数の光が集まっていき何かを形作る――それは一隻の白亜の船であった。全長は四百メートル位か、推進機関らしきモジュールが船体に二基接続されており、上下に補助機関らしき物を装備したモジュールが接続されて機能的なスタイルをしている。
「……な、何だ?」
「……連邦の船?」
突然現れた白い船を見て戸惑いの表情を浮かべる『ヤマト』の乗組員達。現れた船の形状から『エンタープライズ』に類似する物を感じた森のつぶやきをデーター少佐は否定する。
「いや、連邦艦にあのようなタイプは存在しない。設計思想は我々の船と類似する所もあるようだが、ワープ・ナセルに相当するシステムも見当たらないし。我々とは異なる技術によって稼働しているようだ」
惑星連邦に属する航宙艦は艦体の中心部近くにワープ用の亜空間フィールド発生機関『ワープ・ナセル』を持っており、それは連邦の属するアルファ宇宙域のほぼ全ての勢力に共通するものである。
そんな事を話している内に前方の不明船に動きがあった――船体の先頭部が三つのブレード状に展開されると、展開したブレードにて保護されていた三基のシステムが稼働を開始して前方の空間に負荷が掛かり歪んでいく――そして臨界に達すると、前方の『ボーグ・キューブ』へ向けて一気に発射された。
不明船より発射された白き奔流は、周囲の水素原子を励起させながら突き進んでキューブ のシールドと一瞬拮抗状態に陥ったが、シールドを食い破るとキューブの開口部へと吸い込まれていき、次の瞬間には大爆発を起こす――『ボーグ・キューブ』は各所で爆発を起こしてかなりのダメージを受けたように見えた。
『ヤマト』第一艦橋
「――これは、舵が戻った!?」
「――各システムのコントロールが此方に戻ってきました!」
「恐らく今の攻撃で、『ボーグ』のハッキングする機能が停止したのだと思います」
各部署より『ヤマト』の機能が次々と復旧したとの報告が入る。
「――艦長! 前方の船より映像通信が入りました」
「……パネルに繋げ」
相原より回復した通信機に前方の白い船より通信が入ったとの報告が入り、沖田艦長は天井のパネルに投影するように指示する。
そしてパネルには一人の人物が映し出される――白を基調とした軍服のような服を着た金色の瞳と銀色の長い髪が特徴的な、まだ成人まえの少女の姿だった。地球人にはありえない髪と瞳の色に異星人かと身構える乗組員達だったが、少女は小さく頭を下げた後に話し出した。
『皆さん、はじめまして。私は地球連合宇宙軍 戦艦ナデシコCの艦長 ホシノ少佐です』
どうも、しがない小説書きのSOULです。
ついに登場した、三作目のクロス先 機動戦艦ナデシコ。
……コイツの、コイツの、コイツの所為で、話は倍に膨れ上がり、
書き上げるのに無茶苦茶苦労したんです! ……失礼。取り乱しました。
新たな勢力の登場で物語は新たな展開を見せる。
ナデシコは何を求めてやってきたのか?
次回 第十五話 深まる謎。
では、また近いうちに。
……せっかくシリアスに話を進めていたのに、コイツと翡翠の所為で。(涙