宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
惑星連邦の辺境宙域の一角に建造された大規模な宇宙基地。その規模はセクター001に存在するスペースドックと遜色なく、辺境に似つかわしくないほどの充実した設備を有している。
だがその宇宙基地は、人の活動の証である明かりが殆どついておらず、不気味なほどに静寂に包まれていた。
宇宙基地 内部施設
照明が落ちて非常灯のみの薄暗い室内に転送の光が灯り、複数の人影が実体化する。念の為に宇宙服を着用したライカー副長を中心として宇宙服姿のエンジニアのジョーディ・ラ=フォージと医療部長のビバリー・クラッシャー。保安主任のウォーフと部下の保安部員二名の計六名の『エンタープライズE』の上陸班である。
ラ=フォージとクラッシャーはトリコーダーを出すと周囲の環境を調査する――放棄された原因が分からない今は万全を期す必要があり、空気中に有害な物質が含まれていないか調査した結果は呼吸可能で生存に適したコンディションであるとの結果が出た。
「みんな、ヘルメットを取っても大丈夫よ」
医療部長クラッシャーの言葉に、全員がヘルメットを取るが周囲に漂うカビ臭さにライカーは思わず顔を顰める。
「長期間放置された様だな。ジョーディはパワーを回復させてくれ、ドクターは日誌を探して何があったのか原因を探れ」
二人は了解の意を伝えると、ラ=フォージは動力を回復させるべくエンジニアリング・ステーションへと向かい、クラッシャーは司令官室らしき部屋へと向かった。
「ウォーフ達は私と共に周囲の調査だ」
ライカーは保安部員の一人と、ウォーフはもう一人とペアを組んで探索に入った。
大型宇宙基地 通路
「副長、周辺には争った形跡はありません」
「分かった、注意して進むぞ」
「アイ・サー」
非常灯の明かりの中、誰も居ない通路の中を宇宙服を脱いで身軽になったライカーと保安部員は注意しながら進む……手にはハンドフェイザーを麻痺モードに設定し、トリコーダーで周囲を調べながらしばらく歩いていたが、ライカーはトリコーダーの数値を読みながら呟いた。
「生命反応を感知しない……やはり誰もいないようだな」
「一体何があったのでしょう?」
「分からない……だが、人が居なくなってから久しいようだ」
突然現れたナデシコを名乗る勢力の主要人物であろうホシノ艦長によれば、この宇宙基地は放棄されて久しく無人なのだからちょっとお借りしているだけです、と言っていた。
中々良い根性をした艦長である、と口角をにやりと上げていると、ライカーは通路の脇に置かれているプランターに注目する。そのプランターに植えられていた植物はとうに枯れ果ててはいたが、彼の記憶が確かならあの植物はメリダ四号星に自生する乾燥にも強い植物のはずだ。
「あの植物はしばらく水をやらなくても枯れない強い植物のはずだ」
「……副長。植物に詳しいのですね、意外です」
「はははっ、昔付き合っていた女性に送った事があってね」
「カウンセラーにですか」
「……いや、その前だ」
ディアナには内緒で頼む。にやりと笑いながらライカーは進む。しばらく道なりに進んだが通路には破壊の後はなく、手入れをすれば直ぐにでも使用出来るようだ――ライカーは胸のコムバッチを起動する。
「ライカーよりウォーフ」
『こちらウォーフ』
「こちらには手掛かりはないようだ、ソッチはどうだ?」
『こちらも手掛かりはありません』
「分かった、司令部で合流しよう。ライカー・アウト」
保安部員に司令部に戻る事を伝えるとライカーは元来た道を戻り始める。しばらく歩いていると、胸のコムバッチが鳴り始めた。
「こちらライカー」
『ラ=フォージです。動力のチェックが終了しました、これより再起動します』
「分かった、やってくれ」
『了解』
コムバッチが切れて暫くすると通路に明かりが灯り始める。周囲が明るくなると、周囲の光景がより一層分かり易くなる……一体何故クルーが一人もいないのか。何の痕跡もなく大勢のクルーが消えたのか、今は何も判らない。
宇宙基地 司令部
ライカー達が司令部に戻ると、遅れてウォーフ達も戻って来た。お互いに何の成果もないままであり、後は司令官室の日誌か回復したパワーで基地内の監視システムを再起動して調べるかしかない。
「副長」
ライカーが戻ってきた事に気付いたラ=フォージは彼の元へ近付いて行く。
「どうだった、ジョーディ?」
「妙なんです、この基地の融合炉は生きてはいたのですが、繋がる回路が所々劣化していてバイパスするのに苦労しました」
「劣化?」
「ええ、まるで虫食いのように所々の回路が劣化しているんです」
「何故、そんな事になっているんだ?」
「分かりません」
「引き続き調べてくれ」
「アイ・サー」
ライカーの指示を受けてラ=フォージはエンジニアリング・ステーションへと向かって行く。その後ろ姿を見送ったライカーはウォーフ達に周囲を警戒するように伝えると、司令官室で日誌を探しているクラッシャーが何かを探し当てている事を祈りながら向かった。
司令部の奥にある司令官用の執務室へと入ると、そこにはデスクに腰掛けながら難しい顔をしたクラッシャーがいた。そんな彼女の表情を見たライカーは、入口近くの壁を軽くノックして自分の来訪を伝えた。
「あら、ウィル」
「ビバリー、昨日は夜更かしでもしたのかな?」
『エンタープライズE』の前身であるD型艦の時代からの付き合いでもあり、同じ階級である事も相まって二人は気安い関係でもある。ライカーが来訪したことからクラッシャーはデスクの端末を回してライカーに向ける。
「何かあったか?」
「有るにはあるんだけど……」
そう言ってクラッシャーは端末から最後の日誌を再生する――そこには目つきの鋭い陰気な雰囲気を持つヒューマノイド・タイプの男性が映し出される。
「宇宙歴49005・4 現在この基地は理解不能な状況に陥っている。突然、この基地内の至る所でクルーが灰になるという不可解な現象が起きているのだ――我々はこの未知の現象を防ぐために有効な手段を見つけなければならない」
最後に記録された日誌には未知の現象に襲われている状況が記録されていた。それを聞いたライカーは顎に手をやり考え込む。
「49005・4。およそ六年前か……何が起きたというのか」
「さあ、判らないわね」
「だが、このままではエンタープライズを入港させる事は出来ないな……危険すぎる」
「そうね、何時同じ現象が起きるか分からないわ」
「一旦船に戻ろう――ライカーよりジョーディ」
胸のコムバッチを起動してエンジニアリング・ステーションにいるラ=フォージを呼び出すと即座に返答があった。
『こちらジョーディ、どうぞ』
「ジョーディ、宇宙歴49005・4以後の艦内監視システムとセンサーの記録を取ってくれ。終わり次第に船に戻る」
「アイ・サー」
ラ=フォージに指示を出した後にライカーは日誌をコピーしてクラッシャーと共に司令官室を出て、指令室内を捜索していたウォーフと保安部員に船に戻る事を告げている間に記録のコピーが終わったラ=フォージがやって来る。
全員が揃っている事を確認すると、ライカーは『エンタープライズE』に連絡を取った。
「ライカーより『エンタープライズ』」
『此方『エンタープライズ』、どうぞ』
「上陸班を転送収容してくれ」
『アイ・サー』
通信が切れると上陸班は光に包まれて、謎多い宇宙基地より姿を消した。
宇宙戦艦『ヤマト』 中央作戦室
『ボーグ集合体』との悪夢の連戦をくぐり抜けたが艦体に深刻なダメージを負った『ヤマト』は、手助けしてくれた戦艦ナデシコの案内で放棄された宇宙基地で修理をするべく共に転移したが、『エンタープライズ』のクルー達の調べによって、宇宙基地は原因不明の現象により全滅した可能性があり、原因が判明するまで宇宙基地の付近で待機することになった。
待機する時間を使って甲板部のクルーが総出で艦体の補修作業を行っており、沖田艦長を始めとした主要クルーは中央作戦室に集まっていた。中央作戦室の中心には『ヤマト』の立体映像が映し出されており、その所々が赤く記されていた。
「最初の『ボーグ・キューブ』との遭遇戦で『ヤマト』の艦体には複数の亀裂が入り、その後の波動砲発射と緊急ワープの影響で波動エンジンの冷却装置がオーバーヒートしましたが、現在は仮復旧と言った具合です」
真田が赤く表示された破損部分を指差して、『ヤマト』の損傷部分の説明を行う。そして真田の説明は『ボーグ・ドローン』の侵入による被害へと移る。
「そして三隻目のキューブとの戦いで艦内に『ドローン』の侵入を許し、艦内の至る所が破壊されたり、独自の方法で改造されて、それを阻止すようとした乗組員が『ボーグ』の犠牲になりました」
「あ~、その事なんじゃがの」
真田の説明が終わったのを見計らって佐渡が発言をする。
「翡翠から『ボーグ』化を治療する薬を提供されての……もちろん効果は折り紙付きじゃ」
「翡翠から?」
佐渡の発言に南部が訝しげに眉を寄せる……これまでの翡翠の立場は、『ヤマト』に迷い込んだ記憶喪失の異星人であったが、『ボーグ』侵入の折に次々と『ドローン』を無力化していった得体の知れない存在へと変わっていった。
「確かに『ドローン』に同化されかけた徳川機関長は、翡翠のおかげで助かったのですから」
現在医務室で治療を受けている徳川機関長に変わってブリーフィングに出席している山﨑応急長が眼の前で行われた徳川が助かった経緯を改めて説明する。そしてそれを受けた佐渡は、言いづらそうに逡巡した後に話し始めた。
「あ~、実はその薬なんじゃが、原料は翡翠の血液でのぉ……」
「そんな得体の知れないものを使おうって言うんですか!? ……あっ」
佐渡の話を聞いて太田が思わずっと言った感じで反論するが、オフザーバーとして出席している岬百合亜に憑依しているユリーシャがむつとした表情を浮かべ――何よりその横に居る小さな人影の存在を思い出して声が小さくなる。そう件の翡翠もまたこのブリーフィングに参加と言うか、今回の件で生じた疑問への回答を求められて此処に居るのである。
「別にかまわないよ、大田のおじちゃん。得体が知れないっていうのは自覚しているから」
ニヤニヤと笑いながら翡翠は、薬は期限付きであると追加の説明をした。そんな翡翠のおじちゃん発言に傷ついた顔を浮かべる太田健二郎 二十一歳。だが、誰もそんな大田の事を気にしている余裕は無かった。
「翡翠、期限付きとはどういう事だ?」
「あー真田くん。翡翠が言うには、あの娘の血には緊急用として『抗体システム』と言うのが入っとるらしくての」
「せんせ、後は私が説明するわ。元々コレは緊急時のリカバリーシステムとして後から投与された物なの。だから私の身体から出るとあまり持たないのよね」
佐渡の説明を引き継ぎ翡翠はそう説明する。
そしてその説明を聞いていた沖田艦長は静かに話し出した。
「翡翠」
「……なに、艦長のおじいちゃん」
話し掛けられた翡翠は沖田艦長をまっすぐ見つめ返す。
「つまり君は、何らかの危険がある事に従事していたという事だな」
沖田艦長の鋭い視線にも臆さず、だが何も答えない。
「翡翠、君は一体何者だ?」
「……私は翡翠だよ。それ以上でも、それ以下でもない……今はね」
沖田艦長の問い掛けに翡翠はそう答える――つまり本名、所属を明かすつもりはない。だが『ヤマト』に居る間は翡翠で有り続ける、と。
「……では、何故『ヤマト』に来たのだ? それは答えて欲しい。ワシは『ヤマト』が平行世界に迷い込んだのは、君が関係しているのではないかと考えている」
沖田艦長の発言に、その場の雰囲気が一気に緊張していく――元々、『ヤマト』が平行宇宙に迷い込んだのは銀河間の中継点であるバラン星の亜空間ゲートへ突入した後からであり、翡翠は並行世界に迷い込んだ後に迷い込んできたとされて来た。
時期もほぼ同じであり、翡翠と並行世界へ迷い込んだ事を結びつける者も確かに存在していたが、見た目が幼い子供である事も手伝って本気で結びつける者は居なかった……今までは。
「……『ヤマト』に来たのは偶然だった、これは本当よ」
「説明してくれるか」
沖田艦長の言葉に翡翠は話し始める。
「元々私は亜空間跳躍航行の新しい可能性を検証する実験に参加していたの」
「新しい可能性?」
翡翠の説明に真田が興味を示す……翡翠はそんな真田の態度に苦笑を浮かべると話を続ける。
「そう、真田のおじちゃんなら分かるでしょう? 亜空間は一つじゃない。亜空間は幾つもが同じ場所に折り重なるように存在しているの」
『ヤマト』が跳躍に使用した亜空間とは別の亜空間を航行する為の実験であったと翡翠は語った。
「別の亜空間……」
特別に参加しているデーター少佐のつぶやきに答えるように翡翠は続ける――便宜上、通常の亜空間航行に使用している物を『風の回廊』、今回の実験で使用したモノは『炎の回廊』と呼んでいる、と。
「『炎の回廊』? それはどういうモノなの?」
興味を惹かれたのかユリーシャが話に割り込んできた。
「『炎の回廊』とは空間内のエネルギー係数が非常に高い、全てが炎に包まれてる灼熱の世界よ」
その世界を通れば『風の回廊』――通常の亜空間航行とは比較にならない距離を一気に跳躍出来るという。
「私達は『炎の回廊』を使えば、銀河から別の銀河に一瞬で移動出来ると考えて実験したの」
「……銀河間航行」
「途方もない話だな」
翡翠の説明を聞いて真田と沖田艦長だけでなく、中央作戦室に居る全ての人間がその途方もない話に言葉を失っていた。そんな周囲の反応を見て翡翠は実験の本当の目的は話さないでおこうと考える。
彼女達の真の目的は『炎の回廊』――その先の空間なのである。
「……けど、実験には一つの問題があった」
「問題?」
疑問を浮かべる古代に顔を向けると、翡翠はその問題点を告げる。
「『炎の回廊』を航行可能な船は有るんだけど、中の人間が耐えられない」
驚きの表情を浮かべる古代に、同じく驚きの表情を浮かべながらも寄り添う森雪の姿に、何でそんなに近づくんだろうと思いながらも翡翠は話を続ける。
「『炎の回廊』を航行している間は、どんなシールドで保護しても中にいる人間は精神が崩壊してしまう事が初期の実験で判明したわ。だから精神に特殊な耐性を持つ私で記録を取って、誰でも通れるようにするのが目的だった」
その為に特殊な装甲を施した宇宙船に計測装置を積み込んで実験に臨み、『風の回廊』から『炎の回廊』へと転移して記録を取った後は帰還するだけになり、『炎の回廊』から『風の回廊』に転移したその時に目の前に別の船影が現れて、回避する間もなく翡翠は緊急の脱出装置を起動するが、
「……間に合わずに『ヤマト』に激突したという訳か」
思わず苦笑した沖田艦長は、肩を竦めながら翡翠の説明を途中から奪って締め括る……当の翡翠はバツが悪いのか、唇を尖らせてすねていた。
「じゃが、『ヤマト』が並行世界へと迷い込んだ理由が分からん」
「それは多分、激突した衝撃で次元流に巻き込まれて量子的に不安定になったのが原因だと思う」
量子的に不安定になった『ヤマト』は自分達の世界から放り出されて、この世界へと流れ着いたのだろうと翡翠は締めくくった。
「それで我々は元の世界に帰れるのだろうか?」
鋭い視線を翡翠に向ける沖田艦長――『ヤマト』は人類の命運をかけた航海の途中であり、平行世界に骨を埋める訳にはいかないのだ。沖田艦長の問い掛けは、この場に居るクルーのみならず『ヤマト』に乗り組む全乗組員の願いでもあるのだ。
視線が集中する中、翡翠はゆっくりと口を開く。
「そうね、私が流されたのは判っているはずだから、流された位相を特定して次元転移機能を持つ艦が迎えに来ると思うわ」
その時に共に帰れるように取り計らう――それくらいの発言力は有るから安心して良いと翡翠は宣言した。
「いっよしゃぁぁああ!」
宣言した途端に誰の声かは分からないが雄叫びのような声があがり、見ると中央作戦室に居る誰もが喜びの表情を浮かべており、厳しい表情をしていた者達すらも表情が綻んでいるように感じる。
喜びの表情を浮かべる『ヤマト』のクルー達を、笑みを浮かべてみている翡翠だったが内心では別の事を考えていた。
(……回廊から出て直ぐに宇宙船と激突するなんて、天文学的な確率でしょうに)
何か途方もない存在の干渉を感じて、翡翠は人知れず拳を握り締めた。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
今回、『ヤマト』が並行世界に紛れ込んだ原因が判明しました――気を付けろ翡翠は急には止まれない、と。
今回の亜空間『炎の回廊』の元ネタが分かる方はいらっしゃいますかね? 90年代に小説家 嵩峰龍二氏によって書かれた『若き竜王の伝説』(ソルジャークイーン・シリーズ)の設定をアレンジしたものです。結構面白いのですが、未完である事が悔やまれる。
宇宙基地の調査をする『エンタープライズE』のクルー達であったが、謎はさらに深まる結果となる。そんな『ヤマト』と『エンタープライズ』にナデシコ側から会談が申し込まれる。
次回 第十七話 撫子。
では、また近いうちに。