宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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 西暦2202年 7月 ネルガル重工月面地下ドック

 火星の後継者の反乱を平定してから数ヵ月後、月にあるネルガルの秘密ドックに係留されているナデシコ・フリート級最新鋭戦艦『ナデシコD』は、艦長にミスマル・ユリカを迎えて出航準備に追われていた。



過去語り編
第十八話 在りし日を求めて 前編


『ナデシコD』 第一艦橋


 

 巨大戦艦である『ナデシコD』の艦橋は、その巨体故に複数の指揮所が設置されている――全長三千メートルを超える巨体を制御する第一階層、周辺宙域の情報を解析して第三階層に上げる第二階層、艦内の環境を調整する指揮所のある第三階層に分けられ、第一艦橋には様々なシステムの制御パネルをオペレートする専門のクルーの常駐する第一段層、中央統括システムとしてオモイカネより株分けされたデュアル・コンピューターシステム『ウワハル』・『シタハル』と、それを制御する二人のマシン・チャイルド 水色の髪を持つ少女『アゥイン・カネミヤ』と、黒髪だが同じ顔を持つ『ノゼア・カネミヤ』の双子の少女が座る第二段層、操舵席や通信席など主要システムと艦長席が存在する第三階層に別れていた。

 

 『ナデシコD』の第三階層に存在する艦長席に座るユリカは、出航準備で慌ただしいクルー達と打ち合わせをしながら、空間ディスプレイに投影された『ナデシコC』の艦長であるホシノ・ルリと最終打ち合わせを行っていた。

 

『……いいですかユリカさん、体調に異変を感じたら直ぐに言ってくださいね』

「大丈夫だよ、ルリちゃん。そんなに何度も言わなくても」

 

 艦長席に座るユリカは元気、元気と笑っているが、その姿を冷めた眼で見ていたルリは視線を操舵席のハルカ・ミナトへと向ける。

 

『ミナトさん、艦長が無理をしないよう見張っておいて下さい』

「OK。分かっているよ、ルリルリ」

 

 A級ジャンパーの自分が居れば単独でボソン・ジャンプが出来るから便利であるし、初代ナデシコ艦長としての実績があるからと言って強引に『ナデシコD』の艦長職に就任したユリカに、ルリは何度も地球で療養しているように勧めたが、本人は頑なに拒んで夫であるテンカワ・アキト捜索のメンバーに加わっていた。

 

 自分は元気であるとアピールするユリカに説得を諦めたルリは、ミナトにユリカの事を頼むと通信を切った。それを見てほっと一息付いたユリカは、改めて『ナデシコD』の艦橋を見回す。

 

 全長三千二百メートル、十基の相転移エンジンを搭載して長期の作戦行動を行え、ナデシコ・フリート構想である電子制圧戦仕様の『ナデシコD』を中心に、人間を必要としない完全自動制御である為に空いたスペースをハッキング戦時の中継ポイント用の高性能なセンサーと大出力な通信設備を乗せて、グラビティ・ブラスト等の戦闘能力を持たせた二百メートル級の無人支援戦闘艦を十隻搭載した、正に一つの都市を内包しているとも言える巨大戦艦――否、移動母艦である。

 

「ユリカ、出航準備は整ったよ」

 

 副長を務めるアオイ・ジュンに了承の意を伝えると、ユリカは宣言する。

 

「ボソン・ジャンプ準備!」

「ディストーション・フィールド出力正常」

「フェルミオン、ボソン変換順調」

 

 ユリカの身体に光の線が浮かんだ。

 

「ジャンプ!」

 

 


 

 

 火星・木星間アステロイドベルト宙域

 

 テンカワ・アキト捜索の為、『ナデシコC』は残存しているヒサゴ・プランのターミナルコロニーを経由して木星圏近辺までジャンプをすると、某会長よりリークされたネルガルの秘密ドックがある小惑星を目指して宇宙空間を航行していた。

 

 途中で『ナデシコD』より派遣された支援艦十隻と合流すると、程なくして目的地である小惑星をセンサーに捉え、ルリはステルスモードにした支援艦を操作して小惑星を包囲するように布陣させる。

 

「……アキトさん、もう逃げられませんよ」

 

 『ナデシコD』に搭載された十隻の支援艦が小惑星を包囲する中、包囲網の後方に待機しているナデシコCの艦橋よりルリは小惑星に向けて通信を送るが返答はない…。

 

「アキトさん出て来てください。出て来ないならコチラにも考えがあります」

 

 ……再度通信を送るが返答はない。ハッキングを恐れているのか、通信はおろかセンサーの電波すら発信しておらず、天の岩戸のように固く閉ざされている。

 

「……そうですか、仕方ありませんね――全艦、グラビティ・ブラスト発射準備」

 

 突然のホシノ・ルリの号令、ナデシコCのクルーがぎょっとした表情でルリを見るが、当人はすました表情を浮かべており何か考えが有るのだと無理やり納得をした副長のマキビ・ハリとタカスギ・サブロウタは、ブリッジ・クルーに指示を出してコントロール下にある支援艦に指令を送るとグラビティ・ブラストの発射準備を促す。小惑星を包囲した支援艦がグラビティ・ブラストを発射する為にエネルギーのチャージを始め、完了するとルリは静かに発射を命令下した。

 

「発射」

 

 計十本のグラビティ・ブラストが発射され、空間に存在する水素原子などの粒子を励起させた眩い光となって小惑星に到達すると小惑星の表面を砕いて内部構造を崩壊させて破壊した。

 

「……艦長、『ナデシコD』より通信が入りました。ユーチャリスのボソン・ジャンプを確認、指定座標にジャンプされたし」

 

 『ナデシコC』の艦橋にて天球モニターで支援艦の制御をしているホシノ・ルリへ通信担当士官より報告が入る。

 

「……予定通りですね」

 

 そう呟くルリであったが、その表情は芳しくない――今回の作戦には本人の強い希望でユリカが参加しており、新鋭艦『ナデシコD』の艦長に就任している。だが火星の後継者達によって遺跡の演算ユニットに組み込まれた後遺症か、演算ユニットとのリンプが完全に切断出来なかったのだ。

 

 時空を超越してリンクしている為に遮断方法がなく、今はひと握りの関係者だけで止まっているが何時情報が漏れるか――特に軍上層部や企業のみならず、ボソン・ジャンプに関わる者に知られたら……また彼女の身が危険になるかもしれない。

 

 そうでなくても遺跡に組み込むために長い間仮死状態にされていたユリカの身体は衰弱しており、一年経った今でも本調子とは言えないのだ。そして、本作戦のターゲットであるテンカワ・アキトもまた火星の後継者のデーターや、ネルガルを脅して開示させた医療データーによれば、安全性を無視した実験によって、何時倒れてもおかしくない状態であるという……時間をかける訳にはいかないのである。

 

 


 

 

 火星圏近郊空間

 

 宇宙空間にボース粒子が集まり、一隻の白い流線型の船が現れる――テンカワ・アキトが乗るユーチャリスだ。太陽系外縁部に向けて航行する為に小惑星ドックにて準備をしていると、突然『ナデシコC』と巡航艦群が現れて問答無用でグラビティ・ブラストを放ってきたので、ボソン・ジャンプで逃れていたのだ。

 

(……無茶をする)

 

 常に沈着冷静なルリにしては、グラビティ・ブラストを放って小惑星ごとドックを破壊するなど、ユリカの悪影響を受けたかとアキトは苦笑を浮かべた。

 

「……ラピス、周囲に反応はないか?」

 

 ユーチャリス艦内に設置された待機室のソファーに座っていたアキトは、ウィンドウ越しにユーチャリス内のオペレーション室にて艦を制御している桃色の長い髪を持った金色の瞳の少女に問掛ける。確かにルリはクールな印象を受けるが、初代ナデシコに乗っていた頃から妙に思い切りの良い所があった……あの攻撃はコチラを炙り出す為だろう。

 

 アキトの言葉に従いユーチャリスに装備されている4枚のセンサー・バインダーを使って周辺の宙域を走査するが、周辺宙域に人工物の反応は無い。アキトの傍に浮かんだウィンドウ内で首を振る事で、ラピスは周囲に反応が無い事を伝える。

 

(……流石にジャンプ先を明確にイメージする事は出来ないか)

 

 咄嗟の事だったので、強くイメージ出来た火星圏にボソン・ジャンプしたが、流石にジャンプ先を特定する事は出来ないだろうが切迫した状況化ではイメージし易い場所に出てくる事は予想出来るだろう……ならばグズグズしていたら包囲されてしまう。

 

「ラピス、直ぐにこの場を離れる。準備が出来次第にジャンプに入るぞ」

 

 頷いたラピスはユーチャリスを火星圏より離脱するコースへと進めるが、方向転換を終えて加速しようとした矢先にユーリャリスの前方にボース粒子が集まり、光と共に『ナデシコC』の艦体が現れた。

 

(……ルリだけでは単独でのジャンプは出来ない……誰だ、イネスか)

 

 正面に陣取る白亜の船を見ながら、『ナデシコC』に乗り込んでいるA級ジャンパーを予想する……無意識にもう一人の人物の事を考えないようにしながら。

 

 そんな事を考えている間に『ナデシコC』より通信のコールが入り、まずは相手の出方を見て情報を得る為に通信を受ける――するとウィンドウにルリが浮かび上がった。

 

『やっと顔を見せてくれましたね』

 

 ウィンドウに映るルリは初代ナデシコに乗っていた頃から成長して、ますます綺麗になったと思うが――アキトの感情は、それ以上は動かない。火星の後継者との決戦で北辰との決着を付けてユリカの救出された姿を見た後は、大きく感情が動く事がなくなってしまったのだ。

 

 やるべき事を終えて、後は自分の身の処し方を残すのみとなり、ラピスをネルガルの会長秘書であり協力者のエリナ・キンジョウ・ウォンに託した後は、自分の愛機ブラックサレナで当て所もない旅に出ようとした矢先の出来事であった。

 

「……言った筈だ。君の知っているテンカワ・アキトは死んだ」

 

 冷たくそう告げるがルリに変化はない。

 

『アキトさんこの数ヵ月の間、何故ユリカさんの所へ帰らなかったのですか? ユリカさんはアキトさんの事をずっと待っていたんですよ』

 

 尚もルリは言い募るが、アキトの心にはまったく響かない。

 

『アキトさん、聞いているのですか!? 二年も仮死状態のまま最後には遺跡の演算ユニットに組み込まれて、助け出した後もベッドから起きられずにアキトさんの事をずっと待っていたんですよ。それなのに――』

『落ち着きなさい、ホシノ・ルリ』

 

 もう一枚ウィンドウが展開されると、予想通り元ナデシコの医療・科学担当のA級ジャンパーイネス・フレサンジュの姿が映り、ルリを止める。

 

「やはりお前か、イネス」

『あら、想像通りだったかしら――それとも、どうでもいいのかしら?』

『何を言っているんですか、イネスさん?』

 

 シニカルな笑みを浮かべながら話すイネスに訝しげな表情を浮かべるルリ。こほんっ、一つ咳をするとイネスはアキトに向けて話し出した。

 

『さてアキト君。ごらんの通り、ホシノ・ルリや艦長は諦めていないわ。文字通りアナタを捕まえるまで、この娘達は止まらないわよ――ほら、来たわ』

 

 イネスがニヤリと笑うと、ユーチャリスと『ナデシコC』の近くに一際大きなボソン反応が現れて巨大な船を形作る――三千メートルを超える巨艦『ナデシコD』である。

 

(……聞いてないぞ、アカツキ)

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。
 ついに始まりました『ナデシコ』過去編
 ……これの所為で話が膨れ上がったんですよね。(なみだ~

 ネルガルが用意した巨大戦艦『ナデシコD』、これほど巨大な船を
 いつの間に建造したのか? 
 いくら時間がないとは言え、グラビティ・ブラストをぶっ放すなど
 ユリカの悪影響を受けていないかホシノ・ルリ。

 次回 第十九話 在りし日を求めて 後編
 残酷な事実がユリカとルリを圧し潰す。

 ナデシコ編には独自解釈とオリキャラが多々入っております。
 どうか、広い心でお許しください。

 では、また近いうちに。
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