宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第十九話 在りし日を求めて 後編

 『ナデシコC』と支援艦により構成される艦隊に、隠れ家たる小惑星基地を強襲されたテンカワ・アキトは、ボゾン・ジャンプにて火星近海へと転移したが、それを読んでいた『ナデシC』の追撃と共に、火星近海へ巨大な船が転移して来た――ナデシコをそのまま拡大したかのような艦体だが、艦体下部の円盤状の構造物は不自然なまでに大きい。だが船籍番号を見るまでもなくナデシコ・シリーズである事は容易に見て取れるが……つまり、このケタ外れの巨大戦艦はネルガルが極秘に建造した戦艦なのだろう。

 

 アキトの脳裏に軽薄な笑みを浮かべた、自身の後ろ盾でもあるネルガル会長アカツキ・ナガレの姿がよぎる。するとアキトの正面に新たなウィンドウが開いて青く長い髪を持った一人の女性の姿が映し出される――ミスマル・ユリカであった。

 

(……前はあれほど焦がれたのに、今は何も感じない)

 

『……アキト』

 

 あれほど焦がれた顔を、声を、見て、聞いて、感じているのに、今は心に全く響かない。

 

『アキト……変わっちゃたんだね』

 

 奴らと決着を付けた後から、自分の感情が平坦になっていくのが分かった。

 

『……けどね、私にとってどんなに変わってもアキトはアキトだよ』

 

 奴らを倒してユリカを救い出した今、このボロボロの身体を動かす理由もなく、後は朽ちるだけだと思っていたが。

 

「……テンカワ・アキトは死んだ、何処にも居ない」

『自分の事は忘れろと言うんですか? 巫山戯ないでください! みんなアキトさんの事を心配しているんですよ。イネスさんもエリナさんもユリカさんも私も、アキトさんの身体を直そうと必死になって努力しています……火星の後継者を逮捕したことによって、彼らが行った実験の資料も押収しています』

 

 後はその中からアキトさんの人体実験で使用されたナノマシンを特定して制御方法を突き止めるだけです、とルリが訴えてくるが何も感じない……おかしい。何故こんなにも心が動かない?

 

『アキトさん、完全に治るには時間が掛かるかもしれません、けど少しでも可能性があるんです。味覚だって戻るかも知れないんですよ』

『アキト、また一緒に屋台を引こうよ』

 

 味覚が戻る……何よりも絶望した味覚の障害が治るかも知れない。ルリとユリカが必死になって訴えてくるが、それでも何ら感情が湧き出ない。すると、それまで黙っていたイネス・フレサンジュが二人を止める。

 

『まずは落ち着きなさい、二人共。今のアキト君に何を言っても無駄よ』

 

 イネスの言葉にルリもユリカも口を閉じる。二人が黙ったのを確認すると、イネスは視線をアキトに向けたままルリとユリカに語り始めた。

 

『さて、ホシノ・ルリとミスマル・ユリカ。貴方は疑問に思った事はないかしら? 四年前に火星の後継者に誘拐されて救い出された後、火星の後継者の暗部の部隊と渡り合うほどまでに回復したアキト君の姿に』

 

 火星の後継者に囚われて過酷な実験に検体として強制参加させられたテンカワ・アキトが、幾ら医療の発達した二十三世紀とは言え一年弱で回復して暗部のトップと渡り合う程の修練を積むには時間が足りない。

 

『……何が言いたいんですか』

『アキト君は火星の後継者の実験で主に脳を――演算ユニットとのダイレクトな接続をする為のモルモットにされた』

 

 皮肉な事にテンカワ・アキトの実験データーにより、ミスマル・ユリカはスムーズに演算ユニットに接続されたのだ。

 

『イメージを明確に伝える為にIFSの補助脳を拡張したり、遺跡より発掘していたが機能の解析が終わっていないのにIFSに似ていると言う理由だけで未知のナノマシンを投与されて……結果、肥大した補助脳により脳が圧迫されてアキト君の身体には様々な障害が出ている』

 

 IFS――イメージフィードバックシステムとはナノマシンを体内に投与することにより、脳からのイメージを機体に繋げる補助脳を形成するものであり、テンカワ・アキトが受けたのは補助脳の機能を強化して、高度な技術であるボソン・ジャンプの制御システムである古代火星文明の残した遺跡の演算ユニットに繋げる事を目的としていたのである。

 

『けど、肥大した補助脳のお陰でIFSの能力は飛躍的に高まり、体内に投与された未知のナノマシンは本来なら動けるはずもない彼の身体を無理矢理動かしている』

『……無理矢理』

『しかも実験の弊害はそれだけではなく、補助脳から伸ばされたナノマシンの束が脳に侵食して彼の感情を希薄なものにしている……今までは、北辰達への憎しみと火星の後継者への怒り、そして艦長を取り戻すという執念だけで戦っていたけど、それを果たした今――貴方は感情を失い、呼吸するだけの身体になる』

「そんな分かりきった事を言って何になる……大体主治医をしていたお前なら知っているだろう――俺の身体はもう限界だって事を」

 

 イネスとアキトの発言は、『ナデシコC』艦橋に居るクルー達――特にホシノ・ルリに衝撃を与えた。この作戦でアキトをユリカと会わせれば昔には戻れなくても、それに近い何かにはなると思っていたのだから。

 

『……うそ』

 

 『ナデシコD』の艦橋ではユリカが顔面蒼白になっていた。

 やっと父親であるミスマル・コイチロウの許しを得て、幸福感に包まれながら新婚旅行に旅立ち――火星の後継者に拉致されて遺跡の演算ユニットの人間翻訳機として組み込まれてしまった……テンカワ・アキトや旧ナデシコ・クルーの尽力によって救い出されて、やっとアキトに出会えたと言うのに……。

 

「うそでしょう……やっと、やっと会えたんだよ? 回り道をした分これから二人で幸せにならなくちゃいけないのに……」

『艦長! 落ち着きなさい!!』

 

 見るからにショックを受けた様子のユリカが、よろよろと後ずさりその美麗な顔は真っ青になっている。だが変化はそれだけでは無かった――青ざめた肌に幾何学的な模様が浮かび上がり、それは瞬く間に全身へと広がっていった。

 

「艦長! どうしたの!?」

「ユリカ! 落ち着くんだ!!」

 

 ユリカの異変に『ナデシコD』の艦橋からジュンが落ち着くように諭す声が聞こえるがユリカの耳には届いておらず、彼女の異変に『ナデシコD』の艦橋にいたハルカ・ミナトやアオイ・ジュンがユリカに駆け寄るが、ユリカの全身に広がった幾何学的な模様は淡い光を発し始めて――それは『ナデシコD』の艦橋の床まで広がり、あっという間に艦橋全体に広がる。

 

「……これは?」

「……どういう事?」

 

 一面に広がった幾何学模様の淡い光に照らされながらアオイとミナトは突然の変化に驚く……思えばネルガルの会長アカツキ・ナガレから突然呼び出されて最新鋭艦『ナデシコD』の存在を聞き、その巨大な艦体に圧倒されながらも何時の間にこれほどの巨大な船を建造したのか疑問に思った――火星の後継者の乱から数ヵ月しか立っていないのに。

 

 アカツキの説明では、ナデシコCでワンマンオペレーション・システムはほぼ完成したが、この『ナデシコD』はそれの拡大発展型戦艦であり、『ナデシコC』の機能をコンパクトにした複数の無人艦を中継点としてハッキングによるシステム掌握の有効範囲を拡大するのが目的だという。

 

 それを聞いた時、最初はアカツキの正気を疑った。『ナデシコC』でさえ火星圏全域を掌握したというのに、それを更に拡大するなど人類圏全域を支配するつもりか、そんな事が可能な人材などルリですら不可能なのではないか、と。

 

 もっとも、それ以前に巨大企業が世界を支配するなど、三流SFでも流行らないだろうに。

 

 そんな疑念だらけの船にアオイもハルカも最初は乗り込む事を拒否したがユリカだけは何故か乗り気で、こんな巨大な物をジャンプさせるなど身体への負担が大きく、病み上がりの身体では無理だという説得へも耳を貸さず、まるで何かに取り付かれたかのように強引に『ナデシコD』への乗船を決めてしまった。

 

 それで仕方なくアオイとミナトも渋々乗船したが、この異常事態にやはり何か裏が有ったかと二人は舌打ちしたい気持ちになった――ネルガル会長アカツキ・ナガレ。若干二五歳の若さで巨大企業ネルガルの会長を勤め、必要とあらば冷徹な判断も下せる現実主義者であり、限りなくグレーな人物である。

 

 そんな事を考えている内に幾何学模様は三千メートルを超える『ナデシコD』の全体にまで広がり、『ナデシコC』からそれを見たルリがウィンドウ越しからユリカに声をかける。

 

『ユリカさん、落ち着いてください! 『ナデシコD』の艦体にまで幾何学模様が広がっています』

 

 しかし幾何学模様は一向に収まる気配はなく、それは『ナデシコD』の周囲の空間にまで広がると周囲にいた『ナデシコC』を幾何学模様で埋め尽くしてもなお広がり、離れた所に位置していたユーチャリスをも捉えた。

 

「……なんだ、これは?」

 

 漆黒の宇宙を埋め尽くす淡い輝きを放つ幾何学模様の異様さには、感情が希薄になりつつあるアキトも疑問の声を上げる。ユーチャリスのオペレーション室のラピスに状況を問いかけるが、解析不能との答えが帰ってきた。

 

 待機室のソファーに座りながらウィンドウの映し出された周辺の空間を見ていたアキトは、淡く輝く幾何学模様のパターンが古代火星文明の遺跡に彫り込まれたパターンに類似している事に気づいた。

 

「……火星の古代文明か、何時までも祟るな」

 

 


 

 

 『ナデシコC』ブリッジ

 

「ハーリー君、艦体に何か影響はありますか?」

「――いいえ艦長、艦体には何の影響も感知できません。また艦内のシステムにも異常は見受けられません」

 

 『ナデシコC』の艦橋でオペレーション・シートに座っているルリは、ウィンドウに映し出される幾何学模様を見ながら副オペレーター・シートに座るマキビ・ハリに周囲に広がる幾何学模様からの影響が無いか問掛けて、彼から問題がないとの報告を受けてルリはほっと一息付いた。

 

 ウィンドウに映る淡く輝く幾何学模様を見つめながらルリは、『ナデシコD』より周辺の宙域に広がる幾何学模様が火星の古代遺跡によく見られるモノと同一である事に気づいていた。

 

「……イネスさん。あの船は何なんです?」

「何とは?」

「おかしいとは思っていたんです。この船だけでも惑星圏の掌握が出来るのに、さらに掌握出来る範囲を拡げるなどナンセンスです。……大体あんなに巨大な船一隻を作るよりも、複数の船で範囲をカバーした方がよっぽど広い範囲を掌握出来るでしょうに」

 

 つまりシステム掌握の範囲を拡げるなど、真っ赤な嘘――あの船は別の目的で建造されたのでしょう? とルリは金色の瞳をイネスに向けるも彼女は眉一つ動かさなかった。

 

「答えてくださいイネスさん。ネルガルは何を考えてるんです?」

 

 張り詰めた空気の中、イネスは口を開いた。

 

「始まりは、今から二年前。アキト君が黒衣の復讐者として活動を始め、ネルガルのシークレット・サービスも協力して火星の後継者の拠点を制圧していた」

 

 火星の後継者のスポンサーを監視して資金の流れから彼らの拠点の存在する場所を特定し、囚われたミスマル・ユリカ救出を第一目標――A級ジャンパーを取り戻せば火星の後継者の目論見であるボソン・ジャンプの独占を阻止でき、アキトの目的とも一致する――として拠点に襲撃をかけながら、ネルガルは木連との戦争終結寸前に行方不明になっていた初代ナデシコに積み込まれたボソン・ジャンプの中枢『演算ユニット』を確保すべく、太陽系内を汲まなく調査をしていた。

 

「結果は火星の後継者に先を越されたけど、ネルガルの調査チームは土星の衛星圏で新たな遺跡を発見したわ」

 

 相変わらず話が長いと思いながらもルリは先を促すが、イネスは皮肉げに口の端を釣り上げると『時間切れ』だと告げる。

 

「……時間切れ? それはどう言う――」

「艦長! この宙域に広がる幾何学模様から未知のエネルギーが放出されています」

 

 突然警告の声を上げたマキビ・ハリ。その声を聞いたルリは『ナデシコC』のメイン・コンピューター『オモイカネ』から情報を表示させると、周辺に表示されたウィンドウにはこの宙域を埋め尽くす幾何学模様から強い振動数を持ちながらエネルギー量は低いという矛盾した観測結果が示されており、そんな危険なエネルギー放射現象に晒されているのに『ナデシコC』の艦体には何ら影響が計測できない――エネルギー放射の範囲や密度を調べている内にルリは、影響範囲が『ナデシコD』を中心とした円形に広がっている事に気づいた。

 

「……これは、ジャンプ・フィールド?」

 

 『ナデシコD』から発せられた幾何学模様は『ナデシコC』とユーチャリスを飲み込むとフィールド上に広がっており、このままではどんな影響があるか分からない――そしてそれは直ぐに現実のモノとなる。

 

「艦長! 周囲のフェルミオンがボソン変換されていきます!」

「ディストーション・フィールド出力最大!」

 

 ナデシコCの周囲に展開されていたディストーション・フィールドの出力が跳ね上がって艦体を守る強固な城壁となる。準警戒態勢であった艦内のシステムを最大級の警戒レベルへと上げて、ナデシコCに搭載されたあらゆる観測機器は周囲の変化を感知するべくフル稼働で動き出す。

 

「……続きは転移先ね」

 

 ルリは自身のナノマシンが活性化している事を感じながら、他人事のような表情でふざけた事を言うイネスにジト目を向けた。

 

「……イネスさん――アンタ、性格悪くなったでしょう」

 

 ジャンプ・フィールド内にいた『ナデシコC』と『D』そしてユーチャリスは、幾何学模様から発せられる光に包まれると通常空間より姿を消した。

 

 

 




 ――気を付けろ、甘い言葉と落ちめの女タラシ。

 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 ナデシコの元ネタがエンタープライズをひっくり返した姿だと聞いて、
 安易に入れちゃったんだよなぁ(遠い目

 次から少し残酷描写が入ります。避けて多れない話なので苦手な方はご注意を。

 次回 第二十話 それぞれの思惑……どうも、ナデシコが登場するとシリアスが……

 では、また近いうちに。
 
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