宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第二十二話 ボーグの脅威

 照らし出す光もなく強烈な宇宙線が飛び交う、恒星風に守られた星系内とは違って過酷な恒星間空間に、今悪意が強烈な晄を放ちながら接近して来た――一辺が約三キロの立方体の船体を持ち、表面には無骨な機械部品を寄せ集めて外壁で覆っている三隻の巨大な宇宙船が凄まじいスピードで近づいて来ていたのだ。

 

「全長は『ナデシコD』とほぼ同じくらいか。本当に動く工場のようだな、映像の中でテンカワの奴が言っていた特徴と一致する」

 

 ウィンドウに映る未知の宇宙船の姿を見ながら、ジュンは厳しい表情を浮かべる――相手はユーチャリスをあそこまで破壊したかもしれない未知の勢力――初めて直接的に会う異星人の宇宙船だ。此方の常識が通用しない可能性がある……宇宙船を見る限り機械文明だと思うが、余計な先入観は持たないほうが良いかもしれない。

 

「……あれがアキトを襲った船」

「――ユリカ?」

 

 どのように対処するか考えている時にユリカの呟くような声が聞こえてきて、ぎょっとしたジュンは慌ててユリカの方を向くと、艦長席に座ったユリカが下を向きながら何かに耐えているようだった。

 

「……ふぅ、まずは落ち着きなさい艦長。相手は未知の存在、視野偏狭に陥れば致命的な事になりかねないわ」

「……イネスさん、復活したんですね」

「ええ、お陰様で……今まで掛かったけどね。ルリちゃんも頭を冷やしなさい。今の貴方の顔、アカツキ君みたいよ」

『えっ、そうですか?』

 

 長距離ボソン・ジャンプの影響でダウンしていたイネスだったが、ようやく復活したのかユリカとルリを諌める。ルリはイネスに指摘された事がよほど不本意だったのか、頬をペタペタと触っている。そんなルリをスルーしながらイネスは第二階層にウィンドウを繋げた。

 

「ノゼア、接近中の物体のエネルギー分布は分かる?」

『ふぇっ? あ、はい先生。三隻ともエネルギー分布は船の全体に均等に分布していますね。これでは何処が動力部かも分かりません』

 

 生真面目なアゥインに隠れてだらけていたノゼアは、突然イネスに呼びかけられて泡を食ってコンソールを操作して接近中の宇宙船のエネルギー分布を調べる……隣でジト目をした姉を見ないようにしながら。

 

「ユリカ、あの艦隊はユーチャリスを破壊した奴らかもしれない。警戒すべきだ」

「そうだね、ジュン君――全艦警戒態勢! ルリちゃん、『ナデシコC』緊急発進させて! アゥインちゃん、接触までの時間は?」

 

『了解、『ナデシコC』発進準備――ハーリー君、よろしく』

『分かりました! 『ナデシコC』発進準備、係留システム緊急解除!』

 

『――艦長、接近中の艦隊は後三十秒で有効範囲に入ります』

「分かったわ、ディストーション・フィールド展開! ノゼアちゃん、全支援艦も発進準備を急がせて」

『了解、全支援艦緊急発進』

 

 艦長ミスマル・ユリカの指示で『ナデシコD』は警戒態勢に入り、艦首ディストーション・ブレード内に係留されていた『ナデシコC』が係留を解かれてゆっくりではあるが進み始め、船体上下部に設置された係留装置が解かれて『ナデシコD』の船体から二百メートル級無人支援艦群が発進していく――だが『ナデシコC』を含む搭載艦が発進するより先に、三隻の未知の艦隊が『ナデシコD』から視認出来る距離まで近づいてくる。

 

『アンノウン艦隊十万キロにまで接近してきました、支援艦の発進間に合いません』

 

 ノゼアの報告にジュンは舌打ちをしたい気持ちを抑える……無人艦ゆえに即座に発進させる事が出来るとは言え物理的な係留装置を外して発進するには時間が掛かり、発進中に攻撃を受ければ支援艦はろくに反撃もできずに壊滅……『ナデシコD』も大ダメージを受けただろう――だが未知の艦隊は『ナデシコC』や支援艦群の発進を妨害するでもなく、『ナデシコC』と支援艦群は無事に『ナデシコD』から発進していく――『ナデシコC』は『ナデシコD』の前に陣取り、支援艦群は『ナデシコD』の周囲に展開して三隻の立方体状の未知の艦隊と対峙していた。

 

 二隻のナデシコ級に十隻の支援艦と計十二隻と戦力的には圧倒的にユリカとルリ側が有利に思えるが、三千メートル級の『ナデシコD』と同規模の宇宙船三隻で構成される未知の艦隊はけっして侮れるような相手ではない。

 

「さて、相手はどう出るかな?」

 

 膠着状態に陥ったと思いたいが、相手は未知の存在でありどのような思考形態をしているのか分からない。人跡未踏のペルセウス渦状腕で接触した初めての異星文明――火星にある古代遺跡とは違い異星人が運用する巨大な宇宙船――一体どのような能力をもっているのか? しかも相手はユーチャリスを破壊した相手である可能性が高く、既にユーチャリスからデーターを取っているはずだ。ならばそれだけでも相手の方が有利と言える――今、アゥインとノゼアがデユアル・コンピューターを使って未知の宇宙船を解析しているが、どれだけの情報が得られるか分からない。

 

「どうするユリカ?」

「……まずは接触してみましょう、話すだけでも相手のメンタルを知る手助けにはなるから」

 

 ジュンの問い掛けに、『ナデシコD』の艦長ミルマル・ユリカは対話による情報収集を提案する。ユーチャリスを破壊した可能性のある相手に対して冷静な対応に見えるが支援艦を全艦発進させるなど最大限の警戒をしての接触に、彼女の中のアキトの敵を取りたいという思いと未知の敵に対する警戒という二律背反が見て取れる……だが、ナデシコ側が動くより先に相手に動きがあった。

 

『――艦長。前方の船より映像通信が入りました』

「……此方に回して」

 

 アゥインからの報告に艦橋内に緊張した空気が流れる――どんな相手なのか? 言葉は、考え方は理解できるのか? 彼らがユーチャリスを破壊したのか? 色々な疑念はあるがまずは相手がどのようなメンタルであるか、発言に注視すべきである。

 

 艦橋の正面部に大きなウィンドウが展開されて『ナデシコD』の正面に位置する三隻の不明艦の真ん中の艦より送られて来た映像通信が映し出される――肉と金属の入り混じった顔が何列も果てしなく並び、おびただしい数の動かない身体が無数のケースに収められた無機質な世界――異様な光景に『ナデシコD』の艦橋内のクルーが息を呑む中、何千という巣室の中の一点がクローズアップされて一つの巣室が大きく映し出される。

 

「――アキト!」

 

 目を見開き口元を手で覆いながら驚きを隠せないユリカ――映し出された巣室には、ボサボサの黒髪と顔の半分を覆う特徴的なバイザーに形状の少し変わった黒いプロテクターを纏った彼らの良く知る男が収まっていた。巣室の中で身動き一つせず収まっていた男は唐突に動き出して巣室から出て来る……周囲にある様々なシステムが発する緑色の光に照らされて、変わり果てた男の姿が浮き彫りになってきた――輪郭はテンカワ・アキトの面影を宿しているが皮膚の色は灰色に変わり、大型のバイザーに覆われてない顔の部分には黒い金属が鈍い光を発していた。

 

『“俺”は『ボーグ』だ。シールドを下ろし降伏せよ。お前達の生物的特徴及び科学技術を俺達と同化する。お前達の文明は俺達の一部となる。抵抗は無意味だ』

 

 淡々とした声で降伏を促すテンカワ・アキト――否、テンカワ・アキトだった者の変わり果てた姿に、艦橋内にいる誰もが声を失っていた……その場にいる誰もが本能的に理解した。“アレ”は人間的な部分を削ぎ落とされた成れの果てであると。

 

「……テンカワは洗脳され……いや、書き換えられているのか」

「……何で、アキトばっかり」

 

 顔を顰めながらアキトの状態を推察しているジュンと、悲しげな表情を浮かべたユリカ。誰も何も言えない雰囲気の中、一人事態の推移を見守っていたイネスが口を開いた。

 

「……『ボーグ』というのが何なのか分からないけど、アキト君はあの巨大な船の一部――言わば部品の一つにされているようね」

 

 ウィンドウに映るアキトの姿を睨み付けるように厳しい表情を浮かべながら推察するイネス。

 

『これより同化を行う、同化にそなえよ』

「同化ねぇ、一体何の為に同化しているのかしら?」

『『ボーグ』は優れた生物的な特徴や科学技術を同化して完全な生命体になる事を至上の命題としている』

「……つまりユーチャリスを襲ったのは、船に使われている技術が有用だと判断した為ね」

『そうだ、あの船は『ボーグ』にとって有用だと判断された』

「で、アキト君を同化したのは?」

『…………この男の体内には『ボーグ』にとって有益と判断されたナノマシンがあったので同化された』

 

 返答までに若干タイムラグがあった事にイネスの美麗な眉が動く。

 

「アキト君の身体はもう限界の筈、そんな人間を使うほど人手不足には見えないけど?」

『……ナノマシンの悪影響など『ボーグ』にとっては問題にもならない』

「ならば貴方達にとって普通の人間は必要ないのかしら」

『お前達も同化する。拒否すれば船を破壊する』

 

 交渉の余地はないか、『ボーグ』を名乗るアキトの成れの果てとイネスの会話を聞いていたジュンは一戦交える覚悟を決めて艦長であるユリカを見ると、ユリカもまた何かを考えていたようだが瞳に強い光を灯してイネスに視線を送った。

 

「――つまり、今のアキトの身体を蝕むナノマシンは無いと言う事ですね」

「……もしくは乱雑に組み込まれたナノマシンを完全に制御下に置いているのかね」

 

 灰色の顔をしたアキトを見ながら呟くように答えるイネス――あの皮膚の色は『ボーグ』と言う存在によって肉体を改造された際に変化したものであり、こんなに短期間で全身に行き渡るには血流かリンパの流れに乗って全身に行き渡ったものと考えていた。

 

 彼女達は知る由もないが数多の知的生命体に恐れられる『ボーグ集合体』は、同化に値すると捉えた相手に腕に取り付けられた特殊な注射針からナノプローブを相手の血管に注入する。それらは最初に血球を攻撃し、その後あらゆる細胞を乗っ取って『ボーグ』仕様の細胞に変質させてゆく――その際に赤血球が変質するのでドローンの肌は灰色になるのだ。

 

「……つまり、あのメッセージはあながちホラではなかったという事か……もっともあの異星人の巨大戦艦から取り戻す事が出来ればの話だが」

 

 難しい表情を浮かべたジュンは、呟きながら如何にあの巨大戦艦からアキトを取り戻すか考えるが、事態は彼に十分な時間を与えてはくれなかった。

 

『――『ボーグ』艦隊動き出しました! 三方に分かれて『ナデシコD』を包囲しようとしています』

「支援艦は二手に分かれて左右の戦艦の対処を! 正面の戦艦には『ナデシコD』とCで対応します」

 

 観測担当士官より正面に陣取っていた未知の艦隊――三隻の『ボーグ』艦が動き出した報を受けたアゥインはウィンドウに『ボーグ』艦の予想進路を表示して、それを見たユリカがアゥインとノゼアに支援艦を二手に分けて左右に移動している『ボーグ』艦に対処するよう指示を出しつつ、『ナデシコC』と共に正面より迫る『ボーグ』艦と戦端を開こうとしていた。

 

「左右に展開した支援艦は全火力を持って『ボーグ』艦を迎撃、正面の艦には『ナデシコD』で対処します――ルリちゃん達『ナデシコC』はその隙に『ボーグ』の通信プロトコルを解析してシステムの掌握を!」

『了解しました』

「アゥイン、ノゼア。無人機動兵器も準備してくれ」

『『了解、副長。ネニュファール発進準備』』

 

 『ナデシコD』の元となった土星圏で漂流していた奇妙な遺跡宇宙船には、船内に複数の半自立型の機動兵器が搭載されていた――全長六メートルのスケールでエステバリスと同じく外部からの重力ビームによるエネルギー供給を受ける形になっており、既存の機体とは比べ物にならない程の大出力の推進機関を搭載していた。

 そして特筆すべきはコックピットブロックが省略され、木蓮で使用されている機動兵器のAIを発展させた超AIとも呼べるモノを搭載しており、驚いた事にその全てが休眠状態であり少しの整備で稼動状態へと移行出来る状態であったのだ。

 

 ネニュファール――スイレンの別名であり、ある地域においていくつかの野生種を交配して品種改良した経緯から、遺跡からの技術の寄せ集めであり機体自体も外来種と同じモノだと揶揄した技術者が皮肉を込めて命名した特異な機体である。フィールドランサーと携帯火器を持ち、背部に一門のレールガンと脚部にマイクロミサイルを装備しており接近戦用に格納式のクローを持つオールラウンダーな機体である。

 

 無人ゆえにボソン・ジャンプに問題なく対応しており、『ナデシコD』の格納庫にはチューリップ間を移動する通常型と異なる木蓮で跳躍砲にも使用された小型のチューリップを搭載しており、短距離ながらも直接敵施設内に機動兵器を送り込む事が出来るのだ。

 

 アゥインとノゼアに操作された十隻の支援艦は、五隻ずつの艦隊を組んでそれぞれ左右から接近する『ボーグ』艦へと向かっていく。

 

『各『コバンザメ』ディストーション・フィールド出力安定、火器管制システム正常稼動――全艦グラビティ・ブラスト発射態勢!』

 

 『ナデシコD』艦橋第二階層にあるオペレートシステムの前に陣取るアゥインの操作により五隻の支援艦が戦闘態勢を整え、隣に座るノゼアの操る残り五隻の支援艦もまた戦闘態勢を整える――『ナデシコD』の艦橋正面に展開された大型ウィンドウに表示された二隻の『ボーグ』艦の前では大海に挑む小舟の群れのようなものだが、二百メートル級の船体には強力な武装が施されている。

 

 醜い怪物のように金属の管や配線やコンジェットを剥き出しにした外壁を持つ『ボーグ』艦は、鈍く青みがかった光を放ちながらゆっくりと近づいて来る。

 

『『空間圧縮率限界突破、グラビティ・ブラスト発射します』』

 

 アゥインとノゼアの声に呼応するかのように十隻の支援艦艦首より収束された強力な重力波が放射されて、周囲の粒子を励起させながら輝く奔流となって『ボーグ』艦へと進んでいく――外壁の隙間より青い光を放つ『ボーグ』艦は、迫り来る五本の輝きを前に悠然と構えて外壁の周りに展開していたであろう防御障壁のようなもので防ごうとするが、相転移エンジンの膨大な出力から生み出された強力な重力波は『ボーグ』艦の張った障壁を容易く破って『ボーグ』艦の船体に突き刺さり、外壁を砕きながら爆発と共に金属の破片を周囲に撒き散らす。

 

「――効いてる!」

「続いて通常兵器による攻撃を開始します、ノゼア!」

『了解、畳み掛けます』

 

 グラビティ・ブラストによって船体にダメージを受けた『ボーグ』艦を見てジュンは安堵まじりの声をあげ、艦橋に居るクルー達からも歓声が聞こえる。グラビティ・ブラストに続いて『コバンザメ』から対艦砲やミサイルなどが発射されて『ボーグ』艦に襲い掛かるが、それらは外壁の前に展開されているであろうシールドのような物に阻まれて虚しく散らされた。

 

「通常兵器は牽制と割り切って! アゥインちゃんノゼアちゃん、グラビティ・ブラスト次弾までの時間は?」

『現在チャージ中、発射可能まで後六十秒です艦長』

『こちらも同じです』

「分かりました。グラビティ・ブラスト発射までは通常兵器で牽制しつつ、『ボーグ』艦の破損部分を狙いやすい位置まで移動してください。私達は『ナデシコC』を守りつつ正面の『ボーグ』艦に対処します。相手は他の二隻と違い装甲板で覆われているようですね――イネスさん、『ボーグ』艦の弱点は分かりませんか?」

「見るからに粗雑な構造体に見えるのだけど、ディストーション・フィールドのようなモノで防御している……その発生装置を破壊出来ればね」

 

 艦長席から迎撃の指示を出しながらユリカは、イネスに『ボーグ』艦の弱点についての助言を求める……二人の姿を見ながらジュンは唖然とした表情を浮かべた。先ほどまでボソン・ジャンプの影響による疲労と度重なる心労から幽鬼のような顔をしていたユリカとイネスが、此処に至って復活して精力的に指揮を取っている姿に戸惑いのような感情を感じたのだ……テンカワの奴を、惚れた男を救い出す為ならばここまで出来るのか。

 

「ユリカ、まずは一当てしてみよう」

「そうねジュン君。グラビティ・ブラスト発射用意! ミナトさん、ナデシコはここで固定。『ボーグ』艦に動きがあった場合は即座に回避行動を取れるようお願いします」

「OK、艦長」

 

 艦長席の前に設けられている操舵席に座ったハルカ・ミナトが振り返りながらウィンクしてくる――巨大な『ナデシコD』の操作を簡略化する為に各種スラスターや推進機関の制御などをオモイカネ型デュアル・コンピューターがサポートし、彼女は全長三千二百メートルの巨体を自在に操れる。

 

『――空間圧縮順調、照準固定、発射可能まで後二十』

『敵『ボーグ』艦進路変わりません、まっすぐ向かってきます』

 

 第一階層で各観測機器を担当するクルーより次々と報告が上がる――『ナデシコD』に搭載されている十基の相転移エンジンの実に五十パーセント以上の出力が注ぎ込まれ、支援艦に搭載されているグラビティ・ブラストを遥かに超える強力な重力波を『ボーグ』艦にぶつけようとしていた。

 

「ユリカ、発射準備完了」

「うん、グラビティ・ブラスト発射!」

 

 ミスマル・ユリカの号令の下、『ナデシコD』の四本あるディストーション・ブレードの根元にそれぞれ二門ずつ装備された発射口計八門が、周囲の粒子を励起させながら輝く槍となって正面から迫る『ボーグ』艦へと突き進んでいき――『コバンザメ』の数倍の威力を持つグラビティ・ブラストが、『ボーグ』艦の展開しているシールドと激しく激突した――その光景をみた誰もがグラビティ・ブラストがシールドを突破して『ボーグ』艦の外壁を破壊すると思った――だが『ボーグ』のシールドは、『コバンザメ』の数倍の威力を持つグラビティ・ブラストの攻撃を完璧に耐え切って見せたのだ。

 

「……えっ?」

 

 漏れた声は誰のものだったか、他の『ボーグ』艦には有効だったグラビティ・ブラストが効かないなど想定の範囲外であった……だが悪夢は続く。左右に展開して二隻の『ボーグ』艦と優位な戦闘を行っていた『コバンザメ』群から放たれた二擊目のグラビティ・ブラストも、『ボーグ』艦が張るシールドと激しく衝突したが今度は完璧に防がれた。

 

「グラビティ・ブラストが防がれただと!?」

『――艦長。『コバンザメ』のグラビティ・ブラストも効きません!?』

『……右に同じ』

 

 驚きの表情を浮かべたアゥインとノゼアがユリカに報告する。

 

「……そんな、さっきは効いたのに」

「……何らかの対抗手段を取られたと見るべきか……にしても早すぎる」

「……アゥインちゃんノゼアちゃん、支援艦を下がらせて! ミナトさん、『ナデシコD』も後退させてください!」

 

 驚きながらも後退の指示を出すユリカ。『ナデシコD』は通常兵器で牽制しながら、スラスターを使用して『ボーグ』艦から距離を置くべく後退をし、『コバンザメ』も『ボーグ』艦から距離を取ろうとするが『ボーグ』艦より無数の光弾が射出されて、数隻の『コバンザメ』を守るディストーション・フィールドに着弾するや激しい放電現象を引き起こした。

 

『艦長! 『ボーグ』艦の攻撃により『コバンザメ』のディストーション・フィールドに負荷が掛かってます……このままではシールドが停止してしまいます』

『……敵の攻撃はフィールドに負担を掛けることに特化していますね、後二、三発受けたらフィールドは崩壊します』

 

 『コバンザメ』を操作してフィールドに負荷の掛かっている艦を庇いながら、アゥインとノゼアは攻撃を受けた『コバンザメ』から送られてくるデーターを解析しながら報告する……巧みな操作によってフィールドが弱った艦を庇いながら通常兵器で牽制しながら後退するが、巨大な『ボーグ』艦相手ではエネルギー兵器やミサイルでは表面を焦がす事すら出来ずに無数の光弾が射出されると『コバンザメ』のフィールドに命中して遂には全ての『コバンザメ』のディストーション・フィールドが消失してしまう。

 

『『コバンザメ』、ディストーション・フィールドが消失! 『ボーグ』艦より未知のエネルギー波が照射されて『コバンザメ』のコントロールが効きません!?』

 

 ほとんど悲鳴のような声で報告するアゥイン――彼女達は知る由もないが、『ボーグ』は高度なサイバネティクスを施したハイブリッド生命体が集合意識で結ばれており、様々な種族を力づくで同化する事により高度な科学技術を持っている。

 

 『ボーグ』が同化する際に相手から反撃を受けても最適化されたシールドを展開して即座に対応するので攻撃が殆ど効かなくなり、相手のシールド破壊に特化したシールド無効化装置を用いてシールドを消失させると、トラクタービームで拘束して切断ビームなどを用いて同化を行う様は一切の容赦がなく、淡々と作業のように同化を行う事から多くの種族から最も恐れられているのである。

 

 シールド無効化装置によってディストーション・フィールドを消失した無防備な『コバンザメ』群はトラクタービームによって拘束されると、白熱したビームが照射されて『コバンザメ』の装甲を貫通して切断された部分が『ボーグ』艦に回収されていく。

 

『……『コバンザメ』が『ボーグ』艦によって解体されていきます』

『……他の『コバンザメ』は未知のエネルギー波によって移動不能です』

 

 スラスターを吹かし使用可能な火器によって船体を拘束するエネルギー波の発生源に攻撃を仕掛けるなど、あらゆる方法を試すが拘束から逃れる事は出来ずに『コバンザメ』群は船体を切り刻まれていく。

 

「まずいぞ、ユリカ。このままでは『ナデシコD』も同じ運命だ」

「敵艦を押し止める事は出来ませんか?」

 

 正面から迫る武骨な『ボーグ』艦を見据えながら距離が取れないか問うユリカだったが、帰ってきた答えは芳しくないものであった――全速で後退しているが『ボーグ』艦は余裕で追尾して来ており、複数の相転移エンジンによる強力なグラビティ・ブラストや搭載火器を使用しての足止めを仕掛けているが、全て『ボーグ』艦のシールドに防がれて全く効果はなかった。

 

「……こうなったら相転移砲で」

「――だめだよジュン君! 相転移砲だと威力が有り過ぎてアキトまで巻き込んじゃうよ!?」

 

 『ナデシコD』にも目標空間を強制的に相転移させる『相転移砲』が装備されているが、相転移砲では威力がありすぎて『ボーグ』艦自体を破壊しかねず、それではテンカワ・アキトも巻き込まれてしまう。

 

 有効的な策を見いだせず後退するしかないユリカ達の前に展開された大型ウィンドウに映る装甲に覆われた不気味な『ボーグ』艦より緑色の光弾が射出され、緑色の光はウィンドウ内で見る見る大きくなって『ナデシコD』を守るディストーション・フィールドに着弾――緑色の放電に覆われてその効果を消失する。

 

『ディストーション・フィールド消失! システムに負荷が掛かっており再起動まで後六十秒必要です』

「ダメ! 敵を振り切れない!?」

 

 艦内システムを管理する士官よりディストーション・フィールドが消失した報告が上がり、操舵を担当するミナトより『ボーグ』艦の追跡を振り切れず悲鳴にも似た声が上がる。

 

「……相転移砲発射準備! 目標を本艦と敵艦の中間点に設定、相転移砲発射と同時に本艦と『ナデシコC』はボソン・ジャンプにて戦線を離脱します」

『了解。全相転移エンジン出力上昇、相転移砲目標座標設定』

『『ナデシコC』より了承の通信あり』

『上下角プラス二度、船体調整完了』

 

 ユリカの決断を受けて『ナデシコD』は相転移砲の発射体制へと移行していく。

 

「ジュン君、私はボソン・ジャンプの準備に入るから後はお願い」

 

 ユリカは副長であるジュンにあとの指揮を頼むと、イネスにボソン・ジャンプの助力を頼む。

 

「イネスさん、ナビゲートのサポートをお願いします」

「ええ、分かったわ」

 

 十基の相転移エンジンが最大出力で唸り、『ナデシコD』の前方に取り付けられている四基のディストーション・ブレードが変形して相転移砲の発射態勢が整い、ユリカとイネスの思念を受けて船体の構成素材として組み込まれたチューリップ・クリスタルに似た物質が反応して『ナデシコD』の外壁に幾何学模様が浮かぶ。

 

『相転移砲発射準備完了』

「よし、撃て!」

 

 アオイ・ジュンの号令の下、『ナデシコD』より高出力の相転移砲が発射され、『ナデシコD』と『ボーグ』艦の中間点に到達して周囲の空間を相転移させる筈だったが、中間点の空間には何の変化も起きなかった。

 

「……まさかキャンセルされた?」

 

 変化の兆しも見せない空間を惚けたような表情で見つめるジュンの脳裏に、以前火星極冠遺跡に相転移砲をキャンセルされた光景が蘇る……そのデタラメな光景に、少しの間だが判断が遅れた事が致命傷となってしまう。

 

『『ボーグ』艦、発砲!』

 

 『ボーグ』艦より複数の光弾が射出されるとディストーション・フィールドを失った『ナデシコD』の船体を容赦なく襲って激しい振動が艦橋を揺らす――それはボソン・ジャンプの為にイメージを思い浮かべていたユリカとイネスも態勢を崩してしまい、何とか踏ん張って倒れる事は防いだが周囲に浮かんでいた幾何学模様は消えてしまう。

 

 そして『ナデシコD』が攻撃の余波から立ち直る前に、距離を詰めた『ボーグ』艦より緑色の光が照射されて『ナデシコD』の行動を阻害する。

 

『『ボーグ』艦より未知のエネルギー波が照射されて船体が固定されています!』

 

 

 




どうも、しがない小説書きのSOULです。
何故『相転移砲』がキャンセルされたのか? 裏設定ではアキトの記憶にあった『相転移砲』の概要を同化して、真空を相転移させる――ヒッグス場からエネルギーを取り出すのを阻害したからです。(ここら辺が独自解釈です)
詳しい事はいずれ。

 『ボーグ・キューブ』の圧倒的な力の前に危機に陥る『ナデシコD」
 そこに再びピーピング・トムからメッセージが入る。

 次回 第二十三話 ナデシコ絶体絶命


 では、また近いうちに。
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