宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第二十三話 ナデシコ絶体絶命

 三隻の『ボーグ・キューブ』との戦闘に入った『ナデシコC・D』の連合艦隊は、支援艦の全てを失って切り札の『相転移砲』すらも無効にされて窮地に陥っていた。

 目の前には『相転移砲』を無効化した『ボーグ・キューブ』が存在しており、更に支援艦を切り刻んで行動不能にした二隻の『ボーグ』艦も左右より近付いて、緑色の光を照射して『ナデシコD』の船体を完全に固定する。

 

『『コバンザメ』は全滅……左右から『ボーグ』艦よりエネルギー波が照射されて『ナデシコD』は完全に移動不能です』

『……『ナデシコC』が『ボーグ』艦に攻撃を仕掛けていますが、効果がありません』

 

 三方から『ナデシコD』を固定する『ボーグ』艦に『ナデシコC』が攻撃を仕掛けているが、『ナデシコC』だけでは蟷螂の斧に等しく全く効果が出ておらず攻撃の全てが『ボーグ』艦の張り巡らせているフィールドに阻まれてダメージを与えることは出来なかった。

 

『――ユリカさん、どうにか脱出する事は出来ないんですか!?』

 

 『ナデシコC』から通信が入り、ウィンドウに映し出されたルリが問い掛ける……その表情には冷静沈着な普段では有り得ない程に焦燥感が浮かんでいた――攻撃もまったく効果が無く十隻もの支援艦を行動不能にした『ボーグ』艦が三方から『ナデシコD』を包囲しているのだ。

 

 しかも相手は『相転移砲』すら何らかの方法で防いでいる異星の戦艦……どれほどの技術格差があるのか想像すら出来ない。

 

「ミナトさん?」

「……ダメ、身動き一つすら出来ないわ」

「こちらは打つ手無しね。ルリちゃんの方はどう?」

『……相手の通信プロトコルには未知の構成要素が含まれており、解析には時間が掛かりそうです』

「……そう分かったわ。無理はしないでねルリちゃん、危なくなったら迷わず撤退して」

『ユリカさん! そんな事は言わないでください! 何か方策があるはずです』

 

 ルリの報告にユリカの表面上は平静を保って答える。しかし彼女の頭脳はこの現状を打破する方策を何度もシュミュレートしているが、支援艦を失い船自体も身動きが取れない状態では打つ手が思い浮かばなかった……ならば『ナデシコD』自体を囮にしてクルーを『ナデシコC』に移してボソン・ジャンプで離脱するしかないか、と考えている時に最悪の報告がもたらされた。

 

「――『ナデシコC』が捕まりました!」

 

 クルーの声に顔を上げたユリカが慌ててウィンドウを見ると、正面から迫っていた『ボーグ』艦に攻撃を加えていた『ナデシコC』が緑色の光に包まれて動けなくなっている所であった。

 

「ルリちゃん!?」

 

 驚きと共に逡巡が最後の手段を失わせた事に顔を顰めるユリカ。

 

「ユリカ、このままではマズイ……脱出も視野に入れるべきだ」

「……それは考えたけど、この辺りに友軍は居ないから追撃を受ければ結果は同じ……ならば最後の手段を使うしかないわね」

「――最後の手段? ……まさか自爆する気か!?」

「違うよジュン君」

 

 顔色の悪いジュンにそう答えるとユリカは第二階層のアゥインとノゼアに顔を向けて問い掛ける。

 

「アゥインちゃんノゼアちゃん、『ボーグ』艦にネニュファールを送り込める?」

『ネニュファールですか? ……残念ですけど『ボーグ』艦は転移範囲外です』

 

 『ナデシコD』に搭載されている半自立型機動兵器ネニュファールは格納庫に設置されている小型チューリップで短距離ながら別の空間へと転移可能だが、転移出来る距離は短く今迫り来る三隻の『ボーグ』艦との距離は転移範囲外であった。

 

「ならば私とイネスさんでネニュファールをボソン・ジャンプで敵艦の中にジャンプさせて騒ぎを起こせば――」

「止めておきなさい艦長。あれだけの技術を持つ相手よ、艦内のセキュリティも高レベルでしょうね」

「けどイネスさん、そうでもしないと……」

「いっそ爆弾でも抱えたネニュファールを送り込んだ方がましね……もっともあのフィールドを突破出来ればの話だけど」

「それです!……『ボーグ』の目的は私達を同化する事……同化が具体的にはどのような手段で成されるのかは分からないけど、恐らく必要な部分を艦内に取り入れるはず……それに爆弾を抱えたネニュファールを紛れ込ませることが出来れば」

「……フィールドは突破できる……大昔の戦で用いられたトロイの木馬の変形と言った所ね」

「はい。現状最大の問題は身動きが出来ない事、『ボーグ』艦の内部にネニュファールを送り込んであのビームの発生源を破壊できれば――」

 

 絶望的な状況の中でユリカとイネスが起死回生の案を話し合っている時、艦橋内第三階層に突然光が発生して人影を形作る――それは灰色の肌をしたヒューマノイド・タイプの男性だった。体の所々に機械が移植されて全身が黒いプロテクターで覆われたその姿は、『ボーグ』艦から通信を送ってきたテンカワ・アキトと同じであった。

 

 突然未知の男が現れた事に驚きを隠せないナデシコ・クルーを尻目に、男は棒立ちに立つナデシコ・クルーには興味を示さずにコンソールに近づいて様々な機械が移植された右腕をコンソールに近づける。すると右腕とコンソールの間に微弱な放電が発生する。

 

「……はっ!? 何をしている!」

 

 呆然とそれを見ていたナデシコ・クルーであったが、我に返ると男の暴挙を止めようとして右腕をコンソールから遠ざけようとするが男が腕を無造作に振ってクルーを弾き飛ばす。

 

「大丈夫か! そこの男、コンソールから離れろ!」

 

 吹き飛ばされたクルーに駆け寄ったジュンは、クルーが単に弾き飛ばされただけと判断すると腰のホルスターから拳銃を抜いてコンソール近くに居る男に警告するが、男はそれを無視してコンソールの側から離れようとはしない為にジュンは拳銃の狙いを右腕に定めて発砲する――放たれた銃弾は男の右腕に命中して火花を散らした。

 

 火花を吹き出す右腕をみた男はコンソールから離れるとジュンの方を向いて歩き始める……何ら感情の乗らない無機質な目を見たジュンは、拘束などという生易しい手段では男は無力化出来ないと判断して男に狙いを付けると拳銃のトリガーを引く――だが今度は男の前に半透明な壁のようなモノが現れて銃弾を弾いた。

 

「なっ!?」

 

 突然目の前に現れた半透明な壁のようなモノに攻撃を阻まれて驚きの声を上げるジュン――『ボーグ』より送られてくる尖兵『ドローン』は攻撃を受けた場合、その攻撃がどのような物であるか瞬時に解析して攻撃を防ぐのに適したシールドを『全てのドローン』に装備させるのだ。

 

 ゆっくりと近づいて来る男に向けてジュンは拳銃を発砲し続けるが、男の前に展開されたシールドに虚しく弾き飛ばされる。そしてジュンの側まで近づいた男は鈍く光る右腕をゆっくりと振りかぶる――だが、男を中心に光が発生して男を包むと光の玉となってその姿を覆い隠す……そして光が消えた後には男の姿は何処にもなかった。

 

「……ボソン・ジャンプ?」

「ジュン君! 大丈夫、怪我はない?」

 

 駆け寄ってくるユリカの姿を見ながらジュンは命が救われた安堵よりもこの現象を引き起こしたのがユリカであると確信して焦燥感に背中を震わせた――ボソン・ジャンプの中枢である演算ユニットとのリンクが切れていない事は知っていたが、相手を強制的にボソン・ジャンプで飛ばすなど……この得体の知れない船が関係しているとは思うが、それでも何か拙いものがあるように感じられたのだ。

 

「……ユリカ、今のは?」

「……分からない。ジュン君を助けなきゃと思ったら頭にイメージが浮かんできて」

 

 困惑気味なユリカの説明を聞きながらジュンは彼女の中で何か深刻な事が起こっているのではないかと懸念を感じた……ボソン・ジャンプは体内に古代火星文明の影響を受けたナノマシンを体内に持つ者が演算ユニットに跳躍先のイメージを伝達してジャンプを行うが、彼女の話ではイメージが送られてきたと言う――つまり演算ユニットか、この得体の知れない船を通じて何者かがユリカの脳にアクセスした可能性が高いという事だ。

 

 本来ならユリカの体内にあるナノマシンの詳細な検査が必要だが、今は三隻の『ボーグ』艦への対処を優先しなければならない――そして遂に直接的な攻撃が始まった。

 


 

 緑色の光――トラクタービームで『ナデシコC・D』を拘束している『ボーグ』艦から白い光――切断ビームが照射されて『ナデシコD』の艦首、ディストーション・ブレードの部分の外壁をブロック状に切り裂いて『ボーク』艦の中へと取り込んで行く。

 

『『ボーグ』艦より高エネルギー波が照射されて、船体を切り刻んで取り込んでいます』

『……『ボーグ』艦の攻撃は強力で『ナデシコD』の装甲では防ぎきれません』

 

 周囲に浮かぶウィンドウに表示される数値を読みながらアゥインとノゼアは淡々とした口調で報告する。それを聞きながらユリカはジュンとイネスと共に事態打開に向けて協議するが良い案は浮かばない。

 

「さっきも言ったようにネニュファールを艦首部分に待機させて取り込まれる船体と共に『ボーグ』艦に送り込めば」

「相手の船内のセキュリティは高度な物だと推察出来るわ、ネニュファールを送り込んでも無意味よ」

「だが、打つ手がないのも事実だ。やれる事はやるべきだと思う」

「それに取り込んだ部分にネニュファールが居ると分かれば『ボーグ』も警戒すると思うわ」

「……艦首部分にネニュファールを配置するとして、そう上手く『ボーグ』艦に送り込めるかしら?」

「それは大丈夫です。あの白いビームが来たら格納庫の小型チューリップを使って切断されるブロックに送り込みます。」

 

 これなら迅速に配置が出来ると胸を張るユリカであったが、反応がない事に訝しんで二人を見ると二人共目を丸くしていた。

 

「……どうしたんです?」

「……ユリカ、艦内の仕様書読んでいたんだね」

「どういう意味、ジュン君!」

 

 ぷんぷんと怒るユリカ。

 

「……それなら格納庫で対艦ミサイルを待機しているネニュファールに持たせると良いわ」

 

さぞ花火は大きくなるでしょうね、と苦笑いを浮かべるイネス。

 

 早速ユリカは格納庫に連絡を取って整備班長のウリバタケ・セイヤに作戦を説明して、機動兵器ネニュファールに対艦攻撃用のミサイルを装備させて格納庫内にある移動用の小型チューリップの前に待機させる――準備の間にも『ボーグ』艦より切断ビームが照射されて艦首部分がどんどん切り取られているが、ウリバタケ・セイヤを筆頭に整備班のメンバーは短時間で三十体のネニュファールに対艦ミサイルを装備させた。それを『ウワハル』と『シタハル』のサポートを受けたアゥインとノゼアが操作して格納庫内の小型チューリップの前に待機させた。

 

『艦長、準備出来ました』

「分かったわ、アゥインちゃん。次のタイミングでネニュファールを送って」

『了解』

 

 ユリカ達の目の前では切り取られた船体がトラクタービームで『ボーグ』艦内へと取り込まれている所であった。そして再び切断ビームが『ナデシコD』の艦首部分へと降り注ぐ。

 

『『ボーグ』艦より切断光線が第二十三ブロックに照射されています。第二十三ブロック、四十六ブロック、五十八ブロック周辺の隔壁を緊急閉鎖します』

『ネニュファール起動、格納庫より当該ブロックへ順次ボソン・ジャンプ開始します』

 

 ノゼアの操作で切断ビームによって切り取られていく周辺の隔壁を閉じて空気の流失を防ぎ、アゥインの操作でネニュファールが格納庫の小型チューリップを通って切り取られていくブロックへと送り込まれていく。

 

「……後は上手くいくように祈るしかないな」

 

 切断ビームに切り取られた『ナデシコD』の船体が『ボーグ』艦に収容される様を見ながら呟くジュン。周辺に張られているであろうフィールドを透過して『ボーグ』艦の艦内へと取り込まれると、切断された船内に隠れているネニュファールをモニターしていたアゥインが異変に気づき報告する。

 

『艦長! 『ボーグ』艦のフィールドは重力波ビームを阻害する効果があるようで、侵入したネニュファールのエネルギー数値が回復しません――あっ!? ネニュファールからの通信が途絶しました……』

「――ユリカ!」

「大丈夫だよ、ジュン君。こちらから操作が出来なくなったら自爆するようセイヤさんにプログラムしてもらっているから」

 

 焦ったような表情を浮かべたアゥインとジュンに不敵な笑みで答えるユリカ――その言葉が終わらない内に、『ボーグ』艦の表面で複数の爆発が起こる――全長三キロの巨体からすれば微々たる損害だが取り込んだナデシコの船体に爆発物があり、格納庫の小型チューリップを用いて切り取られた部分に送り込む為に事前に爆発物を感知出来ないのだから迂闊に取り込む事は出来なくなる筈である。

 

「そうして時間を稼いでいる間にナデシコの行動を阻害している『ボーグ』艦の装置にネニュ――きゃあ!?」

 

 ユリカが作戦を説明している時に、『ナデシコD』自体が衝撃によって揺さぶられた。

 

「――どうした!?」

『……『ボーグ』艦からの攻撃です! 『ボーグ』艦よりエネルギー兵器が射出されて第二ディストーション・ブレードに命中、甚大な損害が出ています!』

「……まさか、バラバラにして取り込む気か!?」

 

 副長席に捕まって振動をやり過ごしたジュンに向けてアゥインが『ボーグ』艦からの直接攻撃が始まった事を告げた。取り込んだ『ナデシコD』の船体に爆発物が含まれている事に気付いた『ボーグ』は、同化方法を直接的な取り込みから攻撃によってバラバラに砕いた後に取り込む方法に変更したようだ。

 

 装甲に覆われた『ボーグ』艦より緑色の光弾が射出されると『ナデシコD』の四本あるディストーション・ブレードに命中し、爆発を起こして船体にダメージを与える。その一撃を始めとして『ボーグ』艦より幾つもの光弾が射出されて次々と『ナデシコD』の船体に命中する。

 

『――『ボーグ』艦の攻撃は至近距離に到達すると幾つものパケットに分かれて攻撃力を増しています……このままでは幾ら巨大な『ナデシコD』といえども撃沈は免れません』

 

 次々と繰り出される緑色の光弾によって絶え間ない振動に見舞われる艦橋では、必死にコンソールにしがみつきながらも『ボーグ』艦の攻撃を分析するアゥイン……本来なら攻撃から身を守る為にディストーション・フィールドを展開していたが、最初の攻撃で発生装置に負荷が掛かって消失した後も再起動する度にシールド無効化装置が射出されて再び消失してしまい、今ではディストーション・フィールド発生装置が過負荷で使用不能となっており『ナデシコD』は『ボーグ』艦からの攻撃にその船体を直に晒している状態であった。

 

「……くそっ! なぶり殺しかよ」

 

 副長席にしがみつきながら悪態を吐くジュン。各砲座で果敢に反撃したが、圧倒的な『ボーグ』艦の攻撃力の前に殆どの砲座が沈黙していた……このままでは『ナデシコD』の命運も尽きるかと思われた時、振動に必死に耐えながらクルーに避難経路を示していたノゼアが担当している『オモイガネ』型コンピューター『シタハル』に謎のメッセージが送られている事に気付いた。

 

「――ア、アゥイン」

「――なに、ノゼア」

「……ピーピング・トムからメッセージが」

「……このタイミングで!?」

 

 驚きに目を見開くアゥイン。この絶望的な状況の中に送られて来くるなど、メッセージを送ってきた相手はそうとう性格が悪いのではないかと考えたが――以前送られてきたメッセージは災厄を呼び込んだが、確かにユーチャリスの位置特定の助けにはなった――アゥインは覚悟を決めてノゼアに告げる。

 

「ノゼア、そのメッセージをアオイ副長に伝えて」

 

 

 




どうも、しがない小説書きのSOULです。

次回 ピーピング・トムのメッセージに一抹の希望を抱いて未知の大ボゾン・ジャンプを敢行した『ナデシコD」が見た物は、凄まじい恒星風が吹き荒れる地獄の世界だった。

次回 第二十四話 輝く凶星。

では、また近いうちに。
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