宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
『ナデシコD』艦橋 第三階層
絶え間なく続く振動に耐えながらもアオイ・ジュンは絶望的な状況を打開する術を必死になって考えていた……ちらりと艦長席の方を見れば席にしがみつきながらもユリカも打開策を考えているようだ……彼女が諦めていないのだから自分もまた諦めるわけにはいかない……半ば意地になって考えているジュンの前にウィンドウが開く――第二階層でダメージコントロールを行っているノゼアの姿が映った。
「どうした、ノゼア?」
『……アオイ副長、また“何か”からメッセージが届きました』
「このタイミングでか!? ……メッセージはなんと?」
『……現在地から十時方向にある青い星に向けて飛べ、と』
「えらくアバウトなメッセージだな、その青い星までの距離は?」
『……光学観測では約五光年です』
ノゼアの報告にジュンは難しい顔をする……前に届いたメッセージは確かにユーチャリス発見に役に立ったが、それは結果的に『ボーグ』という災厄をも呼び込んだ。今回もまた何かとんでもない厄介事を呼び込む可能性があるのではないか、と考えてしまうのだった――しかも五光年もの遠距離を移動する方法といえば明確なイメージを伝えられるA級ジャンパーによるボソン・ジャンプに頼るしかない……だが、そんな遠大な距離を飛ぶなどジャンパーであるユリカの体力をどれだけ奪うか想像も付かなかった。
「……飛ぼう、ジュン君」
ユリカの突然の発言に、ジュンはぎょっとした表情を浮かべて艦長席の方へと向く……いつの間にか此方に顔を向けたユリカの姿を見てジュンはノゼアとの会話を聞かれていた事に気付き顔を顰めた。
「……聞いていたのか、ユリカ。ダメだ、五光年なんて距離を明確にイメージするなんて無理だよ。それにそんな長距離を飛ぶなんてどれだけ負担が掛かるか分かったもんじゃない」
「大丈夫だよ、ジュン君。イネスさんにも手伝ってもらって二人でイメージすれば、なんとかなるよ」
「だが、今のナデシコは『ボーグ』艦に行動を阻害されていてジャンプ出来るかどうか分からない」
「――ならば『ボーグ』艦ごと飛ぶだけだよ、イネスさんサポートをお願い!」
突拍子もない事を言い出したユリカがイネスに協力を要請して精神統一を始める傍らで、呆けたような表情を浮かべていたジュンだったが我を取り戻すと止めようとしたが、ユリカを中心に幾何学模様が広がり艦橋を通り越して『ナデシコD』全体を覆った後に周辺の空間に広がってトラクタービームで捕らえられている『ナデシコC』周囲の空間はおろか三隻の『ボーグ』艦周囲の空間をも埋め尽くす……流石に周囲の空間を埋め尽くす幾何学模様に驚いたのか、『ボーグ』艦からの攻撃は一時的にだが止まって幾何学模様の解析を始めていて、ユリカとイネスに具体的なイメージを思い浮かべる時間を与えてしまった。
「――ジャンプ」
ユリカの宣言と共に周囲の船はボソン変化されて姿を消した。
名も無き青色巨星――ペルセウス腕に位置するこの青く巨大な恒星の直径は太陽の六倍程度だが数百倍は明るく、周囲にあるもの全てを熱く照り焦がしていた。しかもそれは一つではなく同規模の青色巨星が側に存在しており、それぞれの恒星の重心の周りを軌道運動して複雑怪奇な円運動をしていた――その巨大な青色連星の近くに光が集まり、光の中から『ナデシコD』と『C』だけでなく三隻の『ボーグ』艦も通常空間へと現れた。
主星と伴星の距離が近い為に互いの潮汐力によって形状が楕円体型に歪み、強大な重力を持つ連星の複雑な軌道により周囲の空間は歪に歪んでいる。しかも強烈な恒星風が吐き出されており、放出された可視光の中には太陽よりも強烈な紫外線が含まれていて長時間留まれば戦闘でディストーション・フィールドを失い装甲を破壊されている『ナデシコD』の艦内にも悪影響を及ぼしかねなかった。
『ナデシコD』 艦橋第二階層
「――船体外縁部に居る人は直ぐに船内中央部へ避難してください。クルーの退避を確認後、隔壁を閉鎖します」
「ウリバタケさん、皆さんと一緒に格納庫から避難してください――えっ? そんな事出来るかって……馬鹿な事言ってないで早く避難してください! 黒焦げになっちゃいますよ!? ああっ、何でこんなめんどくさいハメに!」
攻撃を仕掛けてきている『ボーグ』艦共々大規模ボソン・ジャンプを敢行した『ナデシコD・C』は、巨大な青色巨星の連星を中心とした恒星系へとジャンプ・アウトした。だがその恒星系は彼らの知る太陽系とは違って二つの巨大な恒星が放出する恒星風が嵐のように吹きすさみ、強烈な紫外線が『ナデシコD』の傷ついた船体を容赦なく照り付けて艦内に居るクルーに取って危険なレベルにまで達していた。
コンソールを操作しながら的確にクルーを避難されるアゥインを見ながら人知れずため息を付くノゼア……突然のボソン・ジャンプで出た先は青い恒星が生み出す地獄のような空間だった。強烈な可視光に照らされた恒星風が目に見える密度で吹きすさみ、照り付ける紫外線が『ナデシコD』の外壁を蝕んでいる。
差出人不明のメッセージに一抹の望みを掛けて『ボーグ』艦ごとボソン・ジャンプを敢行したユリカ艦長は、極度の疲労でジャンプ後に倒れて心配したアオイ副長と比較的疲労の少ないイネス先生に介抱されており、操舵手であるミナトさんは船体を安定させるべく生き残っているスラスターを操作している……突然の環境の変化に戸惑っているのか、三隻の『ボーグ』艦は不気味に沈黙しているが何時攻撃を再開してくるか分からない。
性格の悪いピーピング・トムのメッセージは吉と出るか凶と出るか……突拍子もない事をしでかす頼りになるのかならないのか分からないユリカ艦長と、堅実な戦術を繰り出すアオイ副長がいる第三階層の方を見ながらノゼアはせめて皆が生き残れる未来がありますようにと祈るしかなかった。
『ナデシコD』 艦橋 第三階層
三隻の『ボーグ』艦と共にボソン・ジャンプを敢行したユリカは、極度の疲労により意識を失い、駆けつけたジュンにより艦長席のシートを倒して安楽な姿勢にして介抱を受けていた。
「どうです、フレサンジュ女史」
「……見た所では前回と同じく疲労による意識の喪失ね。大丈夫、命に別状は無いわ、直ぐに目を覚ますはずよ」
イネスの見立てを聞いてジュンはほっと一息付いた……前回のジャンプの時は極度の疲労で数日は寝たきりとなったが、フレサンジュ女史のサポートがあったおかげか今回はそこまで負担にはならなかったようだ――ジュンは立ち上がり艦橋正面にある大型ウィンドウに視線を向ける。
巨大な青い星がウィンドウ一杯に映りこんで輝度を下げなければ直視する事も出来ない。青い星の周辺では目に見えるほど密度の濃い恒星風が吹き荒れて生き残っているスラスターを全開にして姿勢を制御しなければ、『ボーグ』艦から照射されている光線に囚われているとはいえ吹き当たる恒星風の影響で戦闘により破壊されて強度の弱っている船体に致命的な崩壊を及ぼしかねない状況だった。
「……これで『ボーグ』艦も揺れていれば可愛げがあるんだがな」
忌々しそうに呟くジュンの視線は、ウィンドウに映る『ボーグ』艦――全体を歪な構造物で形成された『ボーグ』艦へと向けられる。『ナデシコD』と同規模の巨大な『ボーグ』艦の船体は微動だにしておらず、これでは隙を突いて逃れる事も難しい……そこまで考えていた時、クルーの退避をサポートしていたノゼアが少し緊張した趣で報告してきた。
『アオイ副長、前方の青色巨星と伴星の間に空間異常が検知されました』
「空間異常?」
『はい、二つの青色巨星の中間点が異常なまでに空間が歪んでいます。目に見えない高重力を持つ“何か”が空間を歪ませているとしか考えられません』
ウィンドウに映るノゼアの表情は報告している間にも困惑している表情へと変化している……『ナデシコD』に搭載されている重力波センサーが感じ取った情報が理解できないのだろう。事実ジュンもまたあんな大きな連星の間を歪ませるような目に見えない高密度な“何か”など想像できなかった。
『ニュートリノが異常に増大、それと共に重力勾配がマイナスになっています――このままでは三次元空間が崩壊します!』
「何が起こっている!? 全速後――そうか、『ボーグ』に捉えられているんだったな。『ボーグ』艦の様子はどうだ、離脱の気配はないか?」
『……残念ながら『ボーグ』艦に変化はありません』
アゥインの報告に小さく舌打ちをするジュン……ふと気付くと隣にイネスの姿があった、科学者として興味が出たのだろう。振り返ると意識を取り戻したユリカが気だるげな様子で艦長席に座っている。視線を戻すとイネスがノゼアに指示を出して色々なデーターをウィンドウに投影させていた。
「どう見るフレサンジュ女史」
「そうねぇ、数値を見る限り空間が何らかの干渉を受けているわね……次元の外――宇宙の外から何かが現れようとしているのかもね」
イネスの見解を問うジュンにシニカルな笑みを浮かべながら答える――そうこうしている内に連星の間に現れた重力異常は空間に影響を与えてある一点に小さな穴が開き、そこから空間が波打って穴はどんどん広がっていく。
「――これは」
「……ホワイトホール、いえワームホールかしら」
そして穴の直径が数百キロにまで達した時、そこから“何か”ゆっくりと姿を現した。
「な、何だアレは?」
「……見た所、人工物のようだけど」
宇宙に空いた穴から出てきたのは、細長くほぼ平らな円錐形をした白銀の物体であった。磨き抜かれたかのように輝く表面は傷一つなく輝き、その大きさは『ナデシコD』遥かに上回る持つ巨大な構造体であった。
「ここに来て第二の異星勢力か……とても楽観的になる気にはなれないな」
半目になりながらジュンは呟く……突然現れた未知の物体はゆっくりと進んで青色巨星から離れて此方に近付いて来る。その進みは何者にも干渉されず、阻むモノなど何もないかのような不敵な印象を見る者に与えていた。
そんな未知の物体が近付いて来る中、左右から『ナデシコD』を固定していた二隻の『ボーグ』艦が動き出して未知の物体へと向かって行く。それを見たジュンは、アゥインに急いで未知の物体に警告を発するように指示を出す。
「アゥイン、近付いて来る船に『ボーグ』の事を警告しろ!」
『――了解、全周波数で警告をします』
ジュンの指示を受けてアゥインは全ての周波数で複数の言語を用いて『ボーグ』艦の驚異を伝える……こうすれば言語が理解出来なくても、現状をみれば何かがあると考えるはずである。
あらゆる言語、周波数で警告を送っているが未知の物体からは返答は無く、二隻の『ボーグ』艦が攻撃可能圏内まで近付いた所で緑色の光を照射する。
「――あの光はユーチャリスの記録にあった」
「……恐らくあの光で相手の情報を収集しているのね」
だが『ボーグ』艦が発した光は未知の物体の手前で何かに阻まれて白銀に輝く表面には届かなかった。しばらく緑色の光を照射し続けていた『ボーグ』艦だったが、業を煮やしたのか緑色の照射を止めると外壁の隙間から緑色の光弾を射出した――ディストーション・フィールドを無効化した光弾が未知の物体へと進んで行く。だが未知の物体の手前で何かに阻まれて緑色の放電を引き起こして虚しく消えていく。それでも『ボーグ』艦は緑色の光弾を射出し続けるがその全てが見えない何かに阻まれ虚しく消えていった。
「……凄いな、あの物体――恐らく船だろう。あれだけ『ボーグ』艦の攻撃を受けてもビクともしない……ディストーション・フィールドは数発で使用不能になったというのに……アゥイン、あの船の防御システムがどんな物か分かるか?」
『あの船の周囲に張り巡らされているフィールドはあらゆる干渉を阻むのかもしれません。先ほどから各種センサーを使って未知の船の情報を得ようとしているのですが、どのセンサーもまったく感知出来ないんです』
ウィンドウ上では眉を八の字にして困惑しているアゥインが困り顔で報告してくる……すると思案顔をしていたイネスが大型ウィンドウに映る未知の船を見ながら見解を話し始めた。
「恐らくだけど特定の波長のモノしか通さないんでしょうね。可視光とか、彼らの推進システムとか、そう言ったモノしか通さず。他の全て……例えば赤外線とか重力波とかは通さず、『ボーグ』艦が放つ光弾の爆発の時の衝撃波の波長も完全にシャットアウトしている……ほんとどうやって防いでいるのやら教えてもらいた物だわ」
ボヤくようなイネスであったがジュンを始め誰も着いて来ていない事に気づいて、どこからともなくメガネを掛けると詳細な説明を始めた。
「まずは私達のよく知るディストーション・フィールドから始めましょうか――ディストーション・フィールド、木蓮では時空歪曲場と呼ばれており相転移エンジンの膨大な出力を用いて周囲の時空を歪ませて攻撃を防いでいる……けれどね、四六時中時空を歪ませていたら星の光や周囲の状況などディストーション・フィールドの中からはまともに見えなくなるわね。それだけではなく現在の地球文明はまだ反動推進が主流であり、当然ナデシコシリーズひいては『ナデシコD』も反動推進が用いられている」
『つまり、ディストーション・フィールドが常時展開していたら反動推進も上手く出来なくて進めない、と』
「正解よアゥイン。ご褒美にレポートを二倍にしてあげるわ」
『いえ、結構です』
真顔で罰ゲームのような事をいうイネスに真顔で断りを入れるアゥン……もう一枚のウィンドウに映るノゼアは沈黙を守っている……ここで余計なちゃちゃを入れてレポートが倍になっては敵わないから。
「そう言う意味では『ボーグ』艦も地球の技術と類似点が多いと言えるわ。金属の管や配線やコンジットを乱雑に配置した立方体の船体の異様さに目が奪われるけど推進機関は反動推進を用いており、強固なフィールドはまだ分からないけど攻撃方法は多弾頭ミサイルを進化させた物とも言える……けど、あの未知の宇宙船には推進機関らしき痕跡は無いし、光学観測ではその姿が見えるけどセンサーには映らない……可視光には照らし出されているのに赤外線センサーでは温度分布も分からない……一体何がどうなっているのやら」
はぁ、とため息を一つ吐いてイネスは続ける。
「話が逸れたわね。完全に閉じてしまうと可視光はおろか推進機関も使えないから隙間を開けなければならない。時空を湾曲する為に重力波を利用しているけど、波である以上それには波長がある――だからその波長に同調させて反動推進を有効にしているの」
その為に補助機関は『核パルスエンジン』が採用されていると締め括った……長い説明に流石説明おばさん、などと疲れた表情を浮かべたアゥインやノゼアは思ったが口に出す事は出来なかった。だが、ユリカが倒れて意識不明となっている状態で長々と講釈を述べている事に眉間にしわを寄せたジュンは遮る。
「――ありがとう、フレサンジュ女史。残りは生き残ってからにしてくれ」
流石に悠長に講義をしている場合ではないと思ったのか、軽く肩を竦めたイネスは視線を大型ウィンドウへと向ける――そこでは、未知の宇宙船と『ボーグ』艦の戦いが繰り広げられていた。未知の船に向けて二隻の『ボーグ』艦が無数の光弾を射出しているが、どれも船の手前で見えない何かに阻まれて無効化されているようだった。
未知の船は『ボーグ』艦の攻撃を全て無効化していたが、いつまでも攻撃を止めない『ボーグ』艦を明確な敵と定めたのか、不明船は進路を変更して二隻の『ボーグ』艦へのインターセプトコースを取る――二隻の『ボーグ』艦に真正面から突っ込んで行き――白銀の表面の内部に無数の輝きが灯ると光度を上げて一気に射出された。
打ち出された光弾は途中で進路を変えて二隻の『ボーグ』艦へと襲い掛かり、『ボーグ』艦が張ったフィールドを容易く食い破って剥き出しの配管や配線を砕きながら内部へと到達して爆発を起こす――今まで幾ら攻撃しても傷一つ付かなかった『ボーグ』艦の外壁に大きく深い穴がぽっかりと空き、その後も無数の光弾が二隻の『ボーグ』艦のフィールドを次々と食い破って外壁を砕きながら内部に到達して爆発を起こす――外壁に無数の穴を開けられた『ボーグ』艦はコントロールを失って脱落していき、未知の船は『ナデシコC・D』を捕らえている残りの『ボーグ』艦の前まで進むとその場で停止して対峙する。
『ナデシコD』 艦橋 第三階層
「……此方の攻撃がまったく効かなかった『ボーグ』艦二隻をあっという間に航行不能に」
「見た所、『ボーグ』艦のフィールドを侵食して突破したようね……言うなれば侵食弾と言った所かしら」
短期間の内に二隻の『ボーグ』艦が行動不能となった事に驚きを隠せないジュンに、ウィンドウ上で見えた事実のみで推察を告げるイネス。
艦橋内を沈黙と戸惑いの感情が支配していた――強固な防御力と恐るべき攻撃力を持つ未知の宇宙船が目の前に存在している……どのような種族が運用しているのか、何一つ分からない未知の存在が至近距離に居ると言う事が、クルー達に多大なストレスを与えていた。
異様な雰囲気が艦橋を支配している中、ナデシコを捕らえている『ボーグ』艦が行動を開始する――『ボーグ』艦より無数の緑色の光弾が射出され、外壁の隙間から複数の緑色の光線が未知の宇宙船に照射されるが、その全てが未知の宇宙船の手前で阻まれた。
阻まれようとも攻撃の手を緩めない『ボーグ』艦に向けて未知の宇宙船はその白銀の船体の内に無数の輝きを灯すと、一斉に船体の外に飛び出して装甲に覆われた『ボーグ』艦に殺到する――展開される『ボーグ』・シールドと接触する寸前に光弾は掻き消え、次の瞬間にはシールド内に姿を現して装甲板や外壁を砕きながら内部へと侵入してその恐るべき力を開放して無数の爆発を起こした。
二隻の『ボーグ』艦をあっという間に行動不能にした光弾の一斉射撃を受けた『ボーグ』艦は一瞬で満身創痍の様相となり外壁には光弾により無数の穴が空いており、船を守る装甲板は内部からの爆発により無残にも吹き飛ばされている所が多々有り、化け物じみた強さを見せていた『ボーグ』艦がなす術なく破壊されて所々機能障害を起こしているのか、『ナデシコC・D』を捉えていた緑色の光も維持出来ずに光が途切れて二隻とも行動の自由が戻った。
「光が途切れたおかげで操舵が戻ったわ!」
今まで船の行動を阻害されていた事がよほどのストレスだったのか、各スラスターを使用して船の安定を取り戻したミナトは弾んだ声を出しながらも操舵用コンソールを操作して『ナデシコD』をゆっくりと後退させる。
「……これで何とか助かりそうだな」
『ボーグ』艦からの拘束から逃れた『ナデシコD』は『ボーグ』艦から距離を取るべく逆噴射を行い、同じく逃れた『ナデシコC』も『ボーグ』艦から離れている。艦橋の大型ウィンドウで離れていく『ボーグ』艦を見ながらジュンは副長席のリクライニングに身体を預けて深く息をした。
行動を阻害されてなす術なく『ボーグ』艦の圧倒的な攻撃を喰らい続けた時には、内心では最早これまでかと思ったが――今は『ボーグ』艦が未知の宇宙の攻撃の前になす術なく攻撃を受け続けており、大型ウィンドウでは無数の爆発を起こす『ボーグ』艦が少しづつ小さくなっていく……大型ウィンドウに映る『ボーグ』艦を見ていたジュンの耳にか細い声が聞こえた。
「……ユリカ?」
よろよろと艦長席から起き上がったユリカは必死に声を紡ぐ。
「……ダメ、戻って」
「何を言っているんだユリカ? 『ナデシコD』のダメージは大きい、一旦距離を取るべきだ」
「……それじゃぁ……アキトが死んじゃう……」
「……テンカワが?」
途切れ途切れにだが必死に訴えるユリカの姿に戸惑うジュン――そこに『ボーグ』艦と未知の宇宙船との戦いをモニターしていたノゼアから未知の宇宙船に変化が現れた事が告げられる。
大型ウィンドウの視点が『ボーグ』艦から未知の宇宙船へと移る――今まで光弾を撃ち出して『ボーグ』艦を攻撃していた未知の宇宙船だったが、光弾を撃ち出すのを止めるとその巨大な船体の全てが淡い輝きに包まれている――輝きがどんどん激しくなると全体を覆っている輝きは船首部分へと集まっていき、輝きも眩く白熱したモノへと変化していった。
その光景を見た誰もが未知の宇宙船の意図を理解した――『ボーグ』艦を撃ち抜いて破壊するつもりだと――それを見たユリカは艦長席からよろよろと立ち上がると、必死な表情を浮かべて大型ウィンドウに映る未知の宇宙船へ向けて叫んだ。
「や……止めて…お願い……止めてぇぇええ!」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
突如現れた白銀の巨大戦艦は、攻撃して来た『ボーグ』艦隊を瞬く間に蹴散らし、
その牙を『ナデシコD」へと向ける。
次回 第二十五話 ピーピング・トム。
ではまた近いうちに。