宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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 突然現れて、瞬く間に『ボーグ』艦隊に大ダメージを与えた未知の巨大戦艦――そしてその矛先は傷いた『ナデシコD』にも容赦なく向けられ、『ナデシコC』共々メインフレームを掌握されてしまう。

 かの船の要求は一つ――『ボーグ』との戦闘の折に干渉して来た存在を明らかにすること。

 困惑するクルーたちだったが、彼らの脳裏に一つの存在が浮かぶ……『ナデシコD』のシステムに潜み、時折意味深なメッセージを寄越す“ピーピング・トム”。

 予想だにしない事態に困惑を深めるクルー達を尻目に、意外と素直に姿を現したピーピング・トムこと『ジャスパー』は、巨大戦艦との間に何らかの交渉をして――避難しているナデシコ・クルーを乗せた円盤部が、外部からの操作で傷ついた主船体から分離して離脱を始めたのだ。




第二十六話 目の前に広がるのは――

 『ナデシコD』艦橋 第三階層

 

 

「……どこへ連れて行く気なのかしらね?」

 

 操舵系の機能を奪われて何も出来ない事にため息を付いたミナトは、コンソールに頬杖を付きながらボヤく……だが目的地は直ぐに分かった。円盤部の艦橋に備え付けられている大型ウィンドウにはどんどん大きくなる未知の宇宙船の姿が映る。コントロールされた円盤部と『ナデシコC』は前方に鎮座する全長十万万六千メートルを超える未知の宇宙船に近付いて行き、その巨大な船体の上を航行している。

 

 薄く発光しているのか漆黒の宇宙空間にあってもその姿はしっかりと分かり、画面一杯に白銀の船体が広がってその全容はもはや窺い知ることは出来なかった。

 

「……流石にデカイな」

『十万六千メートルの巨体は伊達ではないですね。表面には突起物も無く、鏡面加工されているのかまるで巨大な鏡のようです』

 

 未知の宇宙船の船体は傷一つなく、まるで一枚の鏡のようだった――未知の宇宙船の船体には周囲の星々が鏡に写されたかのように浮かび、その中を『ナデシコD』より分離した円盤部分と『ナデシコC』が並行して航行している――全長四百メートルの円盤部と三百メートル強の『ナデシコC』に取って未知の宇宙船の船体は正に天空の鏡のように見えた。

 

「……何とも不思議な光景ね、素材はなんだろう?」

『ある種の金属なのは分かりますが詳細になるとセンサーがまったく動かないので分かりません……』

 

 ウィンドウ一杯に広がる映し出された星空を見ながら疑問を口にするユリカに申し訳なさそうに答えるアゥイン。

 

『……三隻もの『ボーグ』艦の攻撃にも傷一つ付かないんですから……少なくとも真っ当な金属じゃないですね』

【まぁた、ノゼアちゃんっばそんな事を言って。ヘコんじゃうよ、あの船】

『……ヘコむくらいの可愛げがあれば良いんだけどね。と言うか、やっと戻ってきたね『ピーピング・トム』』

【ピーピング・トムは酷いなぁ、私には『ジャスパー』て言う可愛いかどうか微妙ながらも個体名があるんだよ?】

 

 未知の宇宙船が見せる理不尽な性能の一旦にボヤいていたノゼアだったが、突然開いたウィンドウに表示される丸まった文字に半目で冷たい応対を行う……見れば円盤部の艦橋内の全ての階層にウィンドウが表示されていた……どうやら『ジャスパー』と名乗る思考体とやらは目立ちたがりのようだ。

 

「『ジャスパー』……碧玉(へきぎょく)ね、つまりそういう事?」

 

 大人の女性としての嗜みか、宝石について一定の知識を持っているミナトがボヤくように呟く――ジャスパーとは微細な石英の結晶が集まって出来た鉱物の事であり、古代より装飾品などに用いられていた。石英の中でも無色透明な物は水晶と呼ばれ、古くは玻璃と呼ばれていた。

 

「で、僕達をどうするつもりだ?」

 

 丸っこい文字を並べるウィンドウに冷たい視線を向けるジュン。

 どうもこの『ジャスパー』と名乗る思考体は信用ならないように感じていた。今まで『ナデシコD』のシステムの影に隠れて、差出人不明のメッセージを送信しただけでなく他にも暗躍していそうだ……だがそんなジュンが向ける疑惑の視線に答えることなく、『ジャスパー』はウィンドウに言葉を描く。

 

【これより円盤部と『ナデシコC』は、宇宙船『アルテミス』のコントロールで着艦するわ】

「『アルテミス』?」

【ええ、あの未知の宇宙船の名称を地球の言葉に変換すると、銀の光の矢を放つ月の女神の名前でもあり、原像では多産と死を齎す神でもある『アルテミス』の名に翻訳できるの】

 

 『ジャスパー』によって初めて未知の宇宙船の名称が告げられる。

 三隻の『ボーグ』艦を多数の光弾で滅多打ちにして敗走させた巨大戦艦『アルテミス』――ギリシャ神話に登場する『アルテミス』は、古代ギリシャにおいては月の女神だけではなく狩りの女神でもあり、『遠矢射る』の称号を持って放たれた矢は、疫病を広げる恐るべき女神としての側面も持つ。

 

 『ナデシコD』より分離した円盤部と『ナデシコC』は、そんな恐ろしい女神の名を持つ巨大戦艦の表層近くを航行しているのだ。

 

 スラスターが勝手に機能して円盤部を降下させていく……眼下に広がる白銀の船体がどんどん近付いて来て、艦橋前面の大型ウィンドウには未知の宇宙船の表面に映る円盤部と『ナデシコC』の姿が映り込む。まるで磨きぬかれた鏡の如く二隻を映し出す船体に、艦橋内にいるクルーが目を奪われていると、白銀の船体がどんどん近付いて来た。

 

「艦長! 着陸用パッドが展開されないし、相対速度が早すぎる! このままじゃ激突しちゃうわ!」

 

 何とか船の操舵を取り戻せないかコンソールを操作していたミナトが顔色を変えて叫ぶ ――『アルテミス』にシステムを掌握されているとはいえ計器類は正常に稼働しており、『アルテミス』との相対速度は減速しているとはいえ着陸するには早く、しかも円盤部下部に設置されている着陸用の大型パッドが展開されておらず、このままでは『アルテミス』の表層に着陸ではなく激突してしまう勢いだった。

 

「アゥインちゃん、ノゼアちゃん。円盤部のシステムを何とか取り返せない? 操舵系だけでも良いから」

『……ダメです……『ウワハル』もフリーズして、何処から侵入したのか見当もつかないんです』

『……何処かに未発見のセキュリティホールがあるはずなのに、それが見つけられないの』

 

 ユリカの問い掛けに答えながらも、アゥインとノゼアは必死にコンソールを操って『アルテミス』からのハッキングポイントを発見しようとしているが、ハッキングによってシステムを統括するデュアル・コンピューター『ウワハル』『シタハル』はフリーズしてしまい、二人は残されたサブ・コンピューターを用いてハッキングの侵入口を探しているが、双子のマシン・チャイルドと言えどもサブシステムでは『アルテミス』という強大な相手からシステムを取り返すのは至難の業であった。

 

「みんな落ち着きなさい。向こうから招いている以上、激突させて破壊するなんて回りくどい方法を採るなんて事は無いわ。そんな事をするより、『ボーグ』艦を追い込んだあの光弾を使った方が早いしね」

 

 『アルテミス』の船体への激突を危惧して右往左往するクルーに向けてイネスの声が響き渡る。その美麗な顔は不機嫌そうに目を細めていた。

 

 一応の落ち着きを取り戻した艦橋内のクルーだったが、大型ウィンドウに映る『アルテミス』の船体は一面に広がっており、比較対象が無い為に分かり辛いが円盤部と『ナデシコC』は『アルテミス』の船体の表面近くを航行していた――各種センサーが機能していないとはいえ、これだけの速度で『アルテミス』の船体と激突すれば、その衝撃は円盤部の強度ではとても耐える事は出来ずに、円盤部の構造体に致命的な破壊を齎すだろう。

 

 『アルテミス』の巨大な船体の上を航行する円盤部と『ナデシコC』は、船体の中央部近くまで進むと船体表面と接触する――円盤部と『ナデシコC』は『アルテミス』の白銀の船体に接触すると、船体表面はまるで水の如く跳ね上げて円盤部と『ナデシコC』を『アルテミス』の内部へと招き入れた。

 

 ユリカとジュンは、大型ウィンドウに映る幻想的な光景に目を奪われた。まるで海の中に居るかの如くに周囲を物質に満たされて、上方には宇宙との境界線があるはずなのにまるで合わせ鏡の如く円盤部と『ナデシコC』の姿を写し出していた。

 

「はへぇ、何かすごい光景だねぇ」

「……ああ、まるで海の中のようだ」

 

 恐るべき力を持った『ボーグ』の攻撃を歯牙にも掛けなかった『アルテミス』の船体ならば強固な防御システムを持っているだろうと思ったが、実際には水の如く船体の内部へと招き入れられた――センサーが未だ回復していないので遠くまでは分からないが、周囲には何ら構造物のような物は見受けられず、言うなれば宇宙に浮かぶ巨大な湖の中に居るようだ。

 

『艦長、相転移エンジンの出力が下がっていきます』

「イネスさん、これって」

「ええ、地球でも大気圏内では相転移エンジンの出力が下がったでしょう、どうやら『アルテミス』の船体内部でも同じような現象が起きるようね」

『それにしては出力の低下が大きいです……現在相転移エンジンの稼働率は三十パーセント前後です』

「そんなに下がっているの!?」

 

 アゥインの報告を聞いてユリカは驚きを露にする――確かに木蓮との戦争時、地球や火星の大気圏内に降下した時に相転移エンジンの稼動効率が低下して出力不足によりグラビティ・ブラストの発射回数は限定されて危機的な状況に追い込まれたが、それでもここまで低下はしなかった。

 

「恐らくだけど、この『アルテミス』の内部を満たす物質は細工がされているのでしょうね」

 

 そう予想しながらイネスは、興味深そうに外が映っている大型ウィンドウに視線を向ける。そこには仄かに発光する外壁に照らされて、遥か先まで見通せる透明度を持つ不思議な物質が円盤部と『ナデシコC』の周囲を満たしている。

 

【流石はイネス先生。『アルテミス』の船体は普通の金属分子とナノマシンを混ぜ込んだ物で、特殊な性質を持った流体金属で出来ていると言う中二病なシロモノだからね】

「流体金属?」

 

 誰の声なのか、『ジャスパー』の説明文に疑問を浮かべる。

 

「……なるほどね、だから宇宙空間においても凍結しない訳だ。誰よ、こんな非常識な物を考えたのは?」

【さあ?】

 

 『ジャスパー』の人を食ったような答えに、イネスの額に血管が浮かぶ……どうしてやろうか、と考えている時に円盤部の船体に軽い衝撃が走った。

 

「……今の衝撃は?」

【流体金属の一部を硬化させて船体を固定したのよ】

 

 『ジャスパー』の答えに何人かのクルーは顔色を変える。

 固定された――つまりそれは拘束されたと同義語に取ったのだろう。だが、その予想に反して『アルテミス』に掌握された円盤部のシステムが開放されてクルーは戸惑った。『ボーグ』艦の攻撃から始まり、目まぐるしく事態が推移していって最後には巨大船の中で拘束されてしまったと思ったら突然船の自由が戻ったのだ、困惑するのも仕方がないだろう。

 

 センサーが回復したことにより周囲の詳細な情報が分かるようになって来た――『アルテミス』の船体を構成する物質は解析不能だったが、船体表面部以外は水と変わらない粘度で、温度は絶対零度マイナス237度からプラス十度と言う狂った計測結果が算出され、円盤部の周囲一キロ以内には構造物は存在しないが数キロ先にはエネルギー係数の高い構造物が複数観測されている……多分それが『アルテミス』を構成する重要施設なのであろう。

 

 そうしている内に『アルテミス』を構成する流体金属に変化が起こる――流体金属内で複数の渦運動が起こり、周囲の物質が電荷を帯び始める。

 

「『ジャスパー』何が起きるの?」

【……超光速航法に入るのよ】

 

 そして『アルテミス』の艦首方向から青白い光が走ると、一瞬で艦尾方向へと流れていく。そして静寂が場を支配する中でウィンドウの中に『ジャスパー』が文字を紡いでいった。

 

【超光速航法終了】

「えっ!? もう終わったの?」

 

 ウィンドウに書かれた文字を読んだユリカは、驚きの声を上げた――彼女からしてみれば、ほんの一瞬周囲が光っただけでしかなかったのだから。

第一階層の観測手から、円盤部と『ナデシコC』が『アルテミス』の流体金属層内から上層へと浮き上がっているとの報告が上がる。

 

「浮き上がっている? どういう事だ?」

『周囲の流体金属の流れが上方へと向かっていて、円盤部と『ナデシコC』を表層へと押上げているんです』

 

 状況を問うジュンにアゥインが答える。

 

「その割には振動が少ないけど、ミナトさんが調整してくれているの?」

「いいえ、艦長。私は何にもしてないわ」

 

 流体金属の流れに押上られている割には、円盤部の船体があまり振動していない事を疑問に思ったユリカは操舵を担当するミナトに問い掛けるが、彼女は両手を上にあげて何もしていない事をアピールした。

 

『円盤部と『ナデシコC』の周囲の流体金属が硬度を増している影響で、船体自体に直接流れが当たっていないから振動が少ないみたいです』

「そうなんだ、ノゼアちゃん」

 

 補足説明をするノゼアに感心したように頷くユリカ。

 

 暫くすると円盤部と『ナデシコC』は『アルテミス』表層近くにまで押し上げられた。それと同時に円盤部のコントロールがナデシコ・クルーの手に戻り、困惑するクルーを尻目に円盤部は流体金属に押し上げられる形で上昇している。

 

「そちらはどう? ルリちゃん」

『システムは此方の手に戻りましたが、機能の三割は破壊されて使用不能状態ですね』

「……手酷くやられちゃったね」

『……これからの事を考えると頭が痛いです』

 

 『ナデシコC』との通信を行いながらユリカは今後の行動指針を考える――目的はテンカワ・アキトの身柄確保であったが、彼は『ボーグ』と言う未知の種族に囚われて此方に牙を剥いた。『ボーグ』の攻撃によって『ナデシコD』は支援艦の全てと主船体を失い、『ナデシコC』も攻撃によりかなりの被害を被っている……ならば自分達のするべき最優先は生存環境を整えて、戦力を蓄えてからテンカワ・アキトを奪い返す事であった。

 

【そんなに悲観する事は無いよ、ユリカ艦長】

「……『ジャスパー』ちゃん」

【前を見てごらん】

「――えっ?」

 

 

 『ジャスパー』の言葉にユリカは大型ウィンドウへと視線を向ける――ちょうど円盤部の船体が『アルテミス』の流体金属層から浮上した状態であり、大型ウィンドウには漆黒の宇宙空間が映り――巨大な構造物が映し出された。それは傘状の大型構造物と円筒状の構造物で構成された、ユリカ達には馴染みのない様式の宇宙ステーションのようであった。

 

「……何だかキノコみたな形をしているね」

『ユリカ艦長、キノコはキノコでも全長一〇〇キロ以上ありますよ』

「ふへぇ、そんなに!? 凄いね、ノゼアちゃん」

 

 緊張感の無い会話を繰り広げている間に、円盤部と『ナデシコC』は『アルテミス』の流体金属層より完全に分離して宇宙空間へと進む。そして二隻が『アルテミス』の船体から十分に離れた所で、『アルテミス』の船体が陽炎のように揺らぎ始めると巨大な白銀の船体は幻のように消え去って、後にはその存在を示すものは何一つ残っていなかった。

 

「消えちゃった」

「馬鹿な! あんな巨大な船が何の痕跡も残さずに消えるなど……」

『ですが、センサーには何の反応もありませんし。ステルスにしては何の痕跡も感知出来ません』

「けど、ジュン君。姿が全然見えないんだけど?」

 

 『アルテミス』の突然の消失に、ユリカ達は驚きと戸惑いの中にいた。あれほど巨大な船が突然姿を消してしまい、回復したセンサーにはなんの痕跡すら見つけ出す事すら出来なかったのだから、彼女達にはあれほどの巨大な質量がどうやって消えたのか皆目検討が付かなかったのだ。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 謎の戦艦『アルテミス』を構成する流体金属――元ネタはもちろん”あの”要塞です。防御に良し、流体金属を材料に攻撃にも使える優れモノです。(w
 この艦はオリ勢力に属しており、当分出てきませんので数少ない『アルテミス』不安……失礼、ファンの方は気長にお待ちください。


 『アルテミス』により未知の宇宙ステーションに誘われたナデシコ・クルーは、これまで暗躍していたピーピング・トムこと『ジャスパー』により、ある場所で待つとの連絡を受ける。

 次回 第二十七話 『ジャスパー』。

 では、また近いうちに。
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