宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第二十八話 部屋の奥で待つ者

 

 宇宙基地 深部エリア


 

 

 それは宇宙船の係留部である傘状の構造物の下にある円筒型の構造物にある巨大な工場のような場所であり、その工場の制御室に『ジャスパー』によって案内されたのは、アオイ・ジュンなどナデシコDのメインスタッフと、『ナデシコC』よりタカスギ・サブロウタとマキビ・ハリ。そしてウリバタケ・セイヤを中心とした『ナデシコC・D』の整備班という大人数がその場にいた。

 

「……で、ウチの艦長は本当に安全なんだろうな?」

「艦長に何かあったら、絶対許さないからな!」

 

 この場にいるのが不本意なのか剣呑な雰囲気を纏ったサブロウタとハーリーは、目の前に居る『ジャスパー』を睨みつけながら噛み付く。

 

「……だから言ってるでしょう、ホシノ・ルリの安全は保証するって」

 

 ――そう、この場には『ナデシコC』の艦長たるホシノ・ルリやミスマル・ユリカそしてイネス・フレサンジュの姿がなかった。

 

 


 

 

 会議室においてウリバタケ・セイや、その場にいる全員から糾弾された『ジャスパー』であったが、剣呑な視線を集めながらも彼女は肩を竦めると一言。

 

「知りたい?」

 

 にやりと笑いながら問い掛ける――その表情は禍々しく、半月を描く唇が語りだした。

 

「――西暦2204年、遺跡の演算ユニットとのリンクが切れていない事が発覚したミスマル・ユリカは地球連合政府の厳重な監視下に置かれていたが、自分のクローンがナビゲートシステムの中枢に使われる事態になって脱走。ホシノ・ルリ操る『ナデシコC』の支援を受けて地球圏よりは脱出できたが、連合艦隊の追撃を受ける」

「……突然何を言っているんだ君は?」

 

 突然訳の分からない事を言い出した『ジャスパー』を訝しげに見つめるジュンだったが、『ジャスパー』は構わず話を進める。

 

「追撃する艦隊はシステム掌握対策として外部との通信を完全に遮断して、昔ながらの光信号による簡単な意思疎通のみを利用して『ナデシコC』を追い詰める――その攻撃に一切の躊躇はなく、重要人物であるはずのミスマル・ユリカ諸共『ナデシコC』を撃沈しようとしていた」

「……それが、貴方が辿った歴史というワケですか?」

 

 問い掛けるルリに向けてにやりと笑う『ジャスパー』。

 

「正確には私ではないけどね。けれど、貴方達だって一歩間違えれば同じような結末を迎える可能性があったでしょう?」

 

 シニカルな笑みを浮かべた『ジャスパー』は語る――惑星圏一つを丸々システム掌握した事により人類の生存圏が意外に脆い事が露見してしまい、そこにボソン・ジャンプの全てを個人が掴む可能性がある事が露見し、その二つが連携する素振りを見せたとあれば“全てを無かった事にする”のは人間の常套手段ではないか、と。

 

 暗い笑みを浮かべたまま『ジャスパー』は語る――ミスマル・ユリカとホシノ・ルリの危機に、隠匿していたテンカワ・アキトが最後の力を振り絞って救援に向かい、ネルガルで保護されていたラピス・ラズリが解体を待つユーチャリスを奪ってテンカワ・アキトのサポートをするべく戦場へと飛び立った。

 

 だが圧倒的な物量を誇る地球連合艦隊は、その物量だけでなく蜥蜴戦争時代の無人艦艇を特攻兵器として使用――相転移エンジンを搭載した破壊兵器は動力炉を暴走させて、戦場に小規模ながらも無数の相転移現象を引き起こして『ナデシコC』とユーチャリスに大ダメージを与え、圧倒的な物量の前にテンカワ・アキトの乗るブラックサレナは宇宙の藻屑と化してしまう。

 

 それを見たミスマル・ユリカは遺跡の力を暴走させ、『ナデシコC』を中心に大破したユーチャリスや周辺の連合艦隊の艦艇を巻き込んでランダム・ジャンプを引き起こし――現実逃避をするミスマル・ユリカの精神に引きずられて次元の壁を飛び越えて、この平行世界に迷い込んでしまった。

 

「そして彼らは出会ってしまった――『ボーグ集合体』の船『ボーグ・キューブ』に」

 

 戦闘により疲弊していた『ナデシコC』とユーチャリスは瞬く間に『ボーグ』に同化され、巻き込まれた連合軍の艦艇も同化されてしまった。

 

「こうして一つの世界では貴方達は『ボーグ』に同化されてBAD ENDを迎えたのだけれど、その結末に納得できなかった“彼”は長い年月を重ねて運命に干渉する術を手に入れた」

「……まさか」

 

 誰の声なのか信じたくないという気持ちながらも、以前テンカワ・アキトがボソン・ジャンプを敢行した時に現行時間より二週間前に現れるなどタイムラグがあった事を思い出す――だがそれに異を唱える者がいた。

 

「過去に干渉してもタイムパラドックスにより現在は変えられないはずよ。あの時だって、二週間前に飛んだアキト君がナデシコに危険を伝えようとしても繋がらなかったようにね」

 

 科学者としてパラドックスは越えられないと主張するイネス。そう主張しながらも彼女の顔色は悪い……まるで答えが分かっているかのように。そして『ジャスパー』は何も感情の篭らない冷たい視線をイネスに向けた。

 

「……イネス・フレサンジュも分かっているんでしょう? この世界に取ってアナタ達の世界は並行世界であって、パラドックスは此方にもあるけど、この世界には時空連続体に干渉して過去へとぶ術がある。そして “彼”は『ボーグ・テクノロジー』を使って過去へと干渉する術を手に入れた――だから“彼”は望むべき未来を手に入れるため貴方達を導いた」

「……その導き手がお前か? つまり俺達はお前達が望む未来を手に入れる為の道具って訳かよ!?」

 

 説明の途中で激高したウリバタケは席を立って『ジャスパー』の胸ぐらを掴むが、『ジャスパー』は笑みを崩さなかった。

 

「私が干渉したのはこの世界に来てからだよ。それまでは貴方達が選択した結果でしょう?」

 

 冷たい光を湛えた金色の眼に見据えられて、ウリバタケは唸り声を上げながらも掴んでいた手を離す。

 

「とはいえ、こんな荒唐無稽な話しは信じられないでしょうね――だからホシノ・ルリ、会って欲しいのよ。“彼”もそれを望んでいるわ」

 

 


 

 

「大丈夫よ、“彼”はホシノ・ルリやミスマル・ユリカを傷つける事はないから――それよりも、ここに来た用件を済ませましょう」

 

 『ジャスパー』は制御室のコンソールを操作すると、ウィンドウの一つに一枚の設計図が映し出された。それはナデシコDの主船体に似た構造をしていたが、所々見慣れない機関が描かれていた。

 

「……これは? 見た所『ナデシコD』の構造と似ているが」

「――これが『ナデシコD』の新たな主船体の設計図よ」

 

 設計図を見たジュンの疑問に答える『ジャスパー』――彼女の話では、この宇宙ステーションはオリオン腕、ペルセウス腕、及び射手腕を含むを広大な宙域を支配する『惑星連邦』と言う八千光年を支配下に置いて百五十以上の惑星が参加する巨大な星間国家の基地であり、彼らの保有する超光速技術『ワープ・リアクター』や攻撃兵器『フェイザーバンク』『光子魚雷』、そして安全に宇宙を航行する為の『ナビゲーション・ディフレクター』などの技術を流用して、新ナデシコDは飛躍的な性能を発揮するという。

 

「……つまり宿主の居ない間に、勝手に資材を拝借しようって事か」

「……人聞きの悪い、放置されている資材を有効活用して上げるだけだよ」

 

 自分達の知らない技術に興味を惹かれたのか人の悪い笑みを浮かべたウリバタケの言葉に、にやりと笑みを浮かべながら返す『ジャスパー』であったが、急に笑みを消すとその場に居る一同を見回した。

 

「けれどね。強大な力を持つ『ボーグ集合体』からテンカワ・アキトを奪い返すなら、コレくらいの装備は必要だよ」

「アキトの奴が捕まっているのは、それほどの敵なのかよ?」

 

 ウリバタケの言葉に『ジャスパー』は答える――『ボーグ集合体』は、惑星連邦の存在するアルファ宇宙域から銀河を挟んで反対側の七千光年の彼方にあるデルタ宇宙域を本拠地として、数千の星系を同化している強大な種族であり、近年アルファ宇宙域にも侵略の手を広げているという。

 

「上の係留施設を見たよね? あそこに係留されている宇宙船、コチラでは航宙艦っていうんだけどね――惑星連邦が『ボーグ集合体』の侵略を受けた時、あそこに有った航宙艦と同規模の船が四十隻以上で迎撃に出たんだけど、結果はたった一隻の『ボーグ・キューブ』相手に全滅……相手はそれだけの戦闘力を秘めている『ボーグ・キューブ』が少なくとも三隻は相手にしなければいけないのよ――なりふり構っている余裕はないわ」

 

 聞けばこの世界の地球の時代は西暦で2300年代であり、自分達の歴史よりも百年以上も先だという――人類独自で手に入れたワープ技術と聞いた事もない兵器。だが、それでもあの『ボーグ』には侵攻を阻止するだけで精一杯だった。

 

「……そう考えると、あの『アルテミス』って船の力って凄かったのね――ねぇねぇ『ジャスパー』ちゃん、あの船に助力を頼めないの?」

 

 『ジャスパー』の説明を聞いていたミナトは、三隻もの『ボーグ・キューブ』を瞬く間に戦闘不能にまで追い込んだ『アルテミス』の助力が得られないのかと問うが、『ジャスパー』は首を横に振った。

 

「あの船にも目的が有るしね。ここまで連れて来てくれただけでも幸運だと思うよ?」

「……そういえば、あの時に君は『アルテミス』と何か話していたようだが?」

 

 『アルテミス』と直接接触をした際に、『ジャスパー』は何やらデーターを交換していたような行動を取っていた事を思い出したジュンは問いかけるが、彼女は人差し指を口元まで持ってくると、

 

「――それは秘密。今この場で明かしたら、これから先にどんな影響が有るか分からないからね」

「……君でも分からない事があるんだな」

「そうだね、私は神様でも高位存在でも無いんだから」

 

 色々暗躍していた事を揶揄したジュンに悪びれずに返す『ジャスパー』であった。

 

 


 

 

 宇宙基地内 居住施設

 

「742-B、ここね」

 

 紛糾した会議室より五階層下に広がる広大な居住スペース。『ジャスパー』に指定された部屋の前まで来たホシノ・ルリとミスマル・ユリカそしてイネス・フレサンジュの三人。

 

「……この部屋にルリちゃんを待っている人が居るんだね」

 

 ホシノ・ルリの側に立つユリカは、目の前にある部屋のドアを見ながらぽつりと呟く。暫くそのまま立っていた三人だったが、意を決したルリが促す。

 

「二人とも付いて来なくて良いんですよ? 先方はどうやら私に用があるようですし」

「ルリちゃん一人だけを行かせるわけにはいかないよ!」

「『ジャスパー』は危険が無いとは言っていたけど、あの娘の言葉を無条件で信じるほどおめでたくは無いわ」

 

 どうやら説得は不可能のようだと思ったルリは、小さく息を吐くとドアの横にあるインターフォンを押す……すると軽い音を立てながらドアは開いた。

 

「では行きます」

 

 そしてルリを先頭に三人はドアを潜って部屋の中に入るが、途中で奇妙な違和感に揃って眉を寄せた。液体の中を進むような、密度の違う空気の層をくぐり抜けるような息苦しさを感じたが、直ぐにソレもなくなって部屋の中へと足を踏み入れた。

 

「……今のは?」

 

  何が起こったのかと周囲を見回す三人の前に、一枚のウィンドウが開いた。そのウィンドウには見慣れた銅鐸のエンブレムが映し出され、ウィンドウの主が『オモイカネ』であるである事を示していた。

 

【やぁ三人共、ドリンクは飲んだかい?】

『……『オモイカネ』? あの『ジャスパー』特製ドリンクとかいう怪しげなモノですか? まぁ、必要だと言われたので渋々飲みましたが……』

 

 『ジャスパー』に指定された部屋へ行く事を決めた後、妙に輝いた笑顔を浮かべて会議室の端末を操作してドリンクを三つ用意すると、いい笑顔でそれを進めてきたのだ。

 

 何故それを飲まなければならないのかと最初は飲むのを拒否したが、『ジャスパー』は特殊な環境下の部屋で待っているので、“彼”に会うならこのドリンクを飲んでいった方が良いと言うので渋々飲んだのだった。

 

「『オモイカネ』で良いんですよね? 『ジャスパー』は特殊な環境下にあると言っていましたが、この部屋はどのような状態になっているのですか?」

 

 ドリンクの味を思い出して渋面を浮かべたルリであったが、気を取り直して『オモイカネ』に問い掛ける。すると『オモイカネ』は幾つかのウィンドウを展開する。

 

【この宇宙基地が無人なのには理由があるんだ。半年前にこの宇宙基地を時間衝撃波が襲って基地内にクロニトン粒子が蔓延した結果、各所で時間的位相がズレて時間変動の状態にあるんだ】

【数ブロック先の部屋は二十年前の過去――宇宙基地設置前の何もない宇宙空間に繋がっている】

【下層のブロックは三ヶ月後の宇宙基地と繋がっている】

【そして、この部屋は特に時間位相が乱れているんだ】

「……クロニトン粒子? そもそもクロニトンとは何ですか?」

 

 疑問の声を上げるルリに答えたのはウィンドウの文字ではなく、ウィンドウの奥より聞こえてくる落ち着いた張りのある声であった。

 

「クロニトンとは共に時間流に直接干渉する粒子で、この粒子に干渉された空間内は時間的位相のズレが生じるんだ。しかもクロニトンが放つ放射能に汚染される恐れがあったんでね、あの子に抑制剤を投与するように指示したんだ」

「……貴方は?」

 

 その声を聞いてルリ達は初めてウィンドウの奥に一人の男性が椅子に座っている事に気付いた。落ち着いた雰囲気を持った初老の男性であり、白と黒を基調とした連合宇宙軍士官の制服を纏った男性はヘイゼルの瞳に優しい光を宿しながらルリを見つめていた。

 

「この宇宙基地が時間衝撃波に襲われる事は知っていたからね」

【時間変動によって、各所で別々の時間と繋がっているこの状況は都合が良かったんだ】

「もっとも時間変動の影響を受けているこの場所なら、やっかいなパラドックスに縛られる事なく、ボクは懐かしい君達に会えるからね」

 

 ウィンドウを補足するように語る男性は、懐かしむように目を細めてルリ達を見ている。

 

【ボクは、君の『オモイカネ』ではない】

「そして、君もボクのルリではない。それでも、ボクは思いを込めて言うよ――ひさしぶりルリ」

 

 




どうも、しがない小説書きのSOULです。

 劇ナデの未来ってあまり良い未来になるとは思えないんですよね。
 惑星規模の範囲を掌握する『ナデシコC』とホシノ・ルリの存在を容認できるか? ボゾン・ジャンプの中枢にアクセス出来るミスマル・ユリカの人権を尊重する事が出来るのか? と。

 さて、ついに出てきました黒幕の一人が。クロス先にSTAR・TREKを選んだ理由一つは、この世界は良くタイムトラベルが題材として使用されているからなんですよね。

 裏設定では、当然のごとく黒幕は29世紀の時間統合委員会に目を付けられていますが、この時間軸で惑星連邦の存亡に関わっているので静観していることになっています。(というか、人間の手に負える相手ではないですからね)

 念の為に明記しておきますが、タイムシップUSSレラティヴィティもブラクストン大佐も出ませんからね。(汗

 次回 第二十九話 『あの忘れえぬ日々』を取り戻す為に。

 では、また近いうちに。

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