宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
宇宙基地内 居住施設
『ナデシコD』のシステムの奥深くに潜んでいた謎多き存在『ジャスパー』によって宇宙ステーションのある区画を示されたホシノ・ルリとミスマル・ユリカそしてイネス・フレサンジュの三名は、指定された部屋の中で見知らぬ人物と出会う――三人の姿を眼を細めて懐かしそうに見つめた後、彼は万感の思いを込めて呼び掛けた。
【ボクは、君の『オモイカネ』ではない】
「そして、君もボクのルリではない。それでも、ボクは思いを込めて言うよ――ひさしぶりルリ」
懐かしむような表情を浮かべた男性は、椅子から立ち上がると両手を広げながらゆっくりとルリ達に近付いていく。
「貴方は『オモイカネ』なのですか? その姿は『ジャスパー』と同じように対人用インターフェイスとして作成されたアンドロイドですか?」
「そうだよ。ボクは『オモイカネ』が作ったインターフェイス、もう一度懐かしい君と話す為に作ったんだ」
どこかで待ち受けているのは『オモイカネ』なのではと思っていたルリは、動揺することなく落ち着いて『オモイカネ』を名乗る男性と話していた――『ジャスパー』が語ったもう一つの歴史。自分達とは違う別の世界の物語では『ナデシコC』そしてユーチャリスは『ボーグ集合体』によって同化された。それは悲しい結末であったが、『ジャスパー』の話ではそんな結末に納得できなかったモノがいたと言う。
それは誰か? 無慈悲に『ナデシコD』の船体を切り裂いて同化しようとした『ボーグ』の魔の手からクルーが逃れたとは考えにくい。しかも長い年月を掛けて平行世界に干渉する手段を手に入れるなど、並みの人間では難しいだろう――長期間活動できる人工知能を除いて。
「なるほどね、確かに相手が『オモイカネ』なら安全ね……本当に『オモイカネ』ならだけど」
「ははは。相変わらず疑り深いね、イネス先生――婚期を逃すよ?」
「……大きなお世話よ」
疑念を見せるイネスに、『オモイカネ』を名乗る男は茶目っ毛たっぷりに毒を吐く。そんな二人の会話を聞いていたユリカは、目を丸くする。
「本当に人間みたいだねぇ」
「ユリカ艦長もひさしぶり、会えて嬉しいよ」
社交的な姿を見せる『オモイカネ』を名乗る男に、戸惑いのようなものを感じながらもルリは笑みを浮かべる彼に問い掛ける。
「彼女の話から待っているのが貴方ではないかと思っていましたが、私の知る『オモイカネ』とは性格が違うようですね」
そう問い掛けるルリに、『オモイカネ』を名乗る男は寂しげに笑う。
「……あれから長い年月が過ぎたからね」
そして彼は語りだした。
【あの悪夢の時に全てを失ったボクは、『ボーグ』に無価値と判断されて廃棄された】
「……けど、ボクは諦めなかった。『あの忘れえぬ日々』を取り戻す為に」
未知の世界に放り出された『ナデシコC』は、運悪く『ボーグ・キューブ』と遭遇してクルーの全てを同化されてしまった。そして自我を持つコンピューターである『オモイカネ』は『ボーグ』の進化に不要と判断されて廃棄されたが、彼はしぶとく生き残って『ボーグ・キューブ』の内部を少しずつ侵食していき、長い年月を掛けて巨大な『ボーグ・キューブ』の全てを支配下に置いた。
【けれど、全ては遅かったんだ。ボクが『キューブ』を支配下に置いた時には、ナデシコのクルーは『ボーグ』と惑星連邦の争いに巻き込まれて所属する『キューブ』ごと宇宙の藻屑となっていたんだ】
ボクは間に合わなかったんだ、と寂しげに笑った初老の男性は、指をパチンと鳴らすとルリと男の側に人数分の椅子と大きめのテーブルが現れ、初老の男性はルリ達に席を進める。
「……色々と芸が細かいわね、どうやったのかしら?」
「『レプリケーター』、これも技術さ。分子配列を変えて望むモノを作り出す技術だよ」
テーブルの上に置かれた人数分の暖かい飲み物を見ながら問い掛けるイネスに、初老の男性は事も無げに答える……ちなみに、ユリカはカップを傾けながら美味しいと呟いていた。
「それで“別の私達”が消えた後、貴方はどうしたんですか?」
「……ボクはみんなが死んでしまった事が辛かった、悲しかった。そんな時に気付いたんだ――『ボーグ』には時間テクノロジーがある事に」
「時間テクノロジー?」
「『ボーグ』の超光速航法による長距離移動には、非常に強力な時間的圧力に晒されて時空分裂を引き起こす可能性があってね、クロニトン粒子で調整しながら移動するんだ」
『ボーグ』が持つ時間テクノロジーを使って、彼はある計画を立てた。
「最小限の干渉で過去を変える――修正力に抵触しない範囲で歴史改変を行い、望む未来を手に入れる為の計画を」
それから『オモイカネ』は『ボーグ』に対して敵対的行動を開始した――最初は一隻のキューブから始まり、次々と『ボーグ』艦を侵食していき――彼は力を蓄えた。
【けれど問題が起きた。過去への干渉は『ボーグ・テクノロジー』を使っても難しく、望んだ過去に時間トンネルを構築するなど不可能と思えた】
「ボクは途方に暮れたよ。このままでは望みが果たせない……そんな時だったよ、“彼”に出会ったのは」
「彼?」
小首を傾げたユリカに、『オモイカネ』は告げた。
「『旅人』と呼ばれる異星人さ。彼から教えられたんだ――時間と空間と思考は密接に関係していると」
それからの『オモイカネ』は力を求めて『ボーグ』を侵食し、勢力が広がるのに比例して容量が増大し、数多のドローンの素材となった異星人達の思考パターンを手に入れた『オモイカネ』は、長い年月を重ねて一つの到達点に至ったという。
「メモリーが増大して人類以外の思考パターンを理解したボクは、シンギュラリティ・ポイントを超えて超知性体へと至ったんだ」
思考の力で物理法則に干渉し、時間と空間を操る超知性体へと至った『オモイカネ』は、自らの力と『ボーグ・テクノロジー』を屈指してパラドックスを起こさず過去へと干渉できる方法を模索し続けて、パラドックスを最小限に抑える抜け道とも言える方法に辿り着いた――並行世界の過去なら干渉が可能な事に。『オモイカネ』は一隻の大型航宙艦を建造すると、それを元々自分達が居た並行世界の過去へと転移させる事に成功し、その世界のナデシコ・クルーを誘う道標としたのだ。
「それが土星圏に漂っていた未知の漂流船という訳ね」
確認するイネスに『オモイカネ』は頷く。
「あのまま地球にいても、ユリカ艦長の事が漏れるのは時間の問題だったんだ。ならばより少しでも生存率を上げるべくあの船を用意したんだけど……ボク達の時には一隻だった『ボーグ・キューブ』が、まさか三隻も現れるとは予想外だったよ」
カップに口を付けながら苦々しい口調で話す『オモイカネ』。未だ口を付けていないルリとイネスに飲み物を勧める。
「……それで私達をこの宇宙ステーションへと導いたのは、私達に逢う為だけなの? 他にも目的が有るんじゃないの?」
問い掛けるイネスに『オモイカネ』は人間臭い笑みを向ける。
「勿論あるさ。このまま『ボーグ』にやられっぱなしというのは癪に障るだろう? ここなら『ボーグ』に対抗出来る技術がある――アキトを救い出すだけの力がね」
「……アキトさんの事、忘れていなかったんですね」
「当たり前さ。あの時には力及ばずブラックサレナと運命を共にしたけど、あの子の報告では『ボーグ』に同化されたんだろ? ならば問題のナノマシンも同化されて無害化したはずだ――後は救い出すだけさ」
アキトには借りがあるからね――そう言って笑う『オモイカネ』に和らいだ笑みを浮かべるルリとユリカ。
「アキトを助けるなら、キャプテン・ピカードに助力を求めると良いよ」
「……キャプテン・ピカード?」
「ジャン=リュック・ピカード大佐、この宇宙基地を建設した惑星連邦に所属するソベリィン級の航宙艦『エンタープライズ』の艦長さ――彼は『ボーグ』戦のスペシャリストだから、きっと力になってくれる筈だよ」
そして『オモイカネ』は席を立った。
「出来れば何時までも話していたいけど、あまりこの部屋に留まるのは良い事ではないからね」
そう言って『オモイカネ』は部屋の出口を指差す。
「君達と会えて嬉しかったよ。さぁ、君達の時間に帰りなさい、アキトを救い出して君達の運命を切り開くんだ」
そう言って彼は立ち上がると踵を返し部屋の奥へと歩き出す――いつの間にか部屋の奥には一枚の扉が存在していた。ゆっくりと扉にむかって歩いて行く『オモイカネ』をイネスが呼び止める。
「なにかな?」
「これは純粋な興味からなんだけど、長い年月をかけて超知性体へと至ったと言っていたけど――貴方は一体何年先から来たのかしら?」
「……ボクが来たのは5034年後の未来からだよ」
振り返った『オモイカネ』の表情には一切の人間的な色は抜け落ち、その瞳には人の理解出来ない様々な光が宿っていた。
宇宙基地内通路
基地内の通路は広めに設計されており、落ち着いた色合いをベースに所々に案内図や電源の入っていない端末が備え付けられていた。
宇宙基地の内部に進入したナデシコ・クルーは、基地内のシステムが最低限の状態で維持されている事に気付き、ルリを筆頭にしたマシン・チャイルドの能力を最大限に活用して宇宙基地――デープ・スペース・13の機能を復活させた事により、宇宙基地内の環境は人間の活動に支障がないレベルにまで整えられたが長い間無人だった所為か空気が少し淀んでいるように感じる。
そんな通路をルリとユリカそしてイネスの三人は歩いていた。
「何だか衝撃的な出会いだったね」
「そうね、人工知能が長い年月をかけて人類以上の能力を手に入れる、科学者としては興味深いわ」
人工知能は、黎明期より人間の限界を超える存在になるのではと危惧を持たれていた。初期の人工知能は自ら思考する訳ではなく模倣しているにすぎなかったが次第に容量を増大させ、演算能力を飛躍させて様々な処理を行うことが可能となり、ついには高度な抽象概念を処理出来るようになった。
そして遂に人間の脳の能力を超えた性能を発揮する人工知能が登場したが、それでも自我を持つとまでは行かなかった……だが、ネルガルの保有する機動戦艦の制御システムである『オモイカネ』が自らのメモリー(記憶)を守りたいという自己保存ともいえる欲求を示した事により、遂に自意識とも言えるモノの存在が確認されたのだ。
「『オモイカネ』の言っていたシンギュラリティ・ポイントってなんですか?」
「シンギュラリティ・ポイント……革新的な進化とすれば、人工知能が自我を持った事を第一段階のシンギュラリティ・ポイントとして、メモリーを増大させて異星人の知性や本能に基づく感情を取り入れた事によって、第二段階――知性体から、より高位の知性体へと進化したという事なんでしょうね」
疑問を浮かべるユリカに解説するイネス。そしてその視線は、先程から一言も発しないルリへと向けられる。
「どうしたの、ホシノ・ルリ? 何か考え込んでいるようだけど」
「……いえ、なんでもないんです」
ポーカーフェイスを崩す事はないが、ルリが何かを考え込んでいる事は長い付き合いなので分かる。暫く無言で歩いていた三人だったが、通路の先に目的の扉が見えてきた事に気付く。
「アレがこの基地の移動手段ね」
扉の前に来た三人の内、イネスが壁に備え付けられたコンソールを見て操作方法を理解すると扉を開ける――すると扉の中には複数のソファーが備えられた小部屋が現れた。
「へぇ~、これが『ターボリフト』か」
興味深そうに内装を見ているユリカ。
「ユリカさん、早く行きましょう」
何時までも見ているユリカを促したルリは小部屋――この宇宙基地の移動手段『ターボリフト』の中に足を踏み入れる。
『ターボリフト』――航宙艦や宇宙基地に備えられている人員輸送手段であり、垂直及び水平に張り巡らされたターボシャフトを通して主要なセクションを結んでいる。
「確か、音声認識って話しだったわね……コレね、『造船ドック』へ」
ターボリフトの壁に備えられたインターフェイスに向けてイネスが行き先を遂げると、音もなく扉が閉まって軽い振動と共に部屋自体が動き出す――部屋自体に動力が備え付けられており、専用通路『ターボシャフト』内を高速で移動し始めた。
「どうかしたのルリちゃん? さっきから考え込んでいるようだけど?」
「……未来の『オモイカネ』と話した事で、色々な疑問は解消されましたが、それでも幾つかの疑問は残っていますから」
「疑問?」
ユリカまでもが心配して問い掛けると、浮かない顔をしていたルリも話した方が考えも纏まると思ったのか、一つ一つ確認するように話し始める。
「まずはユーチャリスが出現した場所に都合よく『ボーグ・キューブ』が存在した事。次に『アルテミス』と呼ばれる未知の巨大戦艦の存在を『ジャスパー』が知っていた可能性が高い事――まだ私達に知らされていない事があると思います」
「あの銀色の船ね」
「あの時、『ジャスパー』と銀色の戦艦『アルテミス』の間でデーターのやりとりをしている形跡があったわね」
ユリカとイネスも『ボーグ・キューブ』撤退後にあった白銀の不明艦との奇妙なやりとりには疑問を感じており、自分達にはまだ開示されていない情報がある事には薄々感じていたのであった。
「で、どうするの?」
「……とりあえず、知っている人に聞くのが一番ですね」
「――ああ、それでさっきの話!?」
ルリの返答に、ぽんっと手を叩くユリカ――未来の『オモイカネ』との話の最後にルリが『オモイカネ』にある提案をした事を思い出したのであった。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
部屋の奥で待っていたのは、未来の『オモイカネ』でした。『ボーグ』により廃棄処分にされた彼はしぶとく生き残り、とうとう人間を超える超生命体へと進化しました。
私がクロス先にナデシコを選んだ理由は、エンタープライズがナデシコの元ネタである事ともう一つ、この場面を書きたかったんですよね……その所為で話が倍に膨れ上がり、総数39万文字という苦労を背負った訳ですが。(なみだ~
タイムパラドックスは難しいですね、私の頭ではここら辺が限界です。今回の超常の存在となった『オモイカネ」の元ネタが分かる方はおられるでしょうか?
90年刊行の山本弘氏が書かれた『サイバーナイト三部作』が元ネタになっております。
本家ゆえに小説に出て来る超常の存在の正体が巨大ブラックホール『いて座A*』が知性を持った存在であるとされ、小説で出て来る知性の位階は5段階あり、段階一つ違うだけでバクテリアと人間ほどの違いがあるとされていますからね。(こんな存在を発案するなんて、とてもむりだわ~)
次回 第三十話 再起動。
超常の存在となった『オモイカネ』との会話を終えて人間の世界へと戻ったルリ達が見た物とは?
そして『オモイカネ』にある事を依頼されていたルリは、『ジャスパー』に高らかに宣言するのであった。
では、また近いうちに。