宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第三十話 再起動

 

 宇宙基地 造船ブロック


 

 

 施設内の移動手段であるターボリフトが造船エリアに到達し、ルリ達は通路へと降り立つ。他の通路と同じく落ち着いた色彩で統一された通路を歩いていると壁に案内図が設置されていたので、目的地である第三造船エリアの場所を確認してから暫く歩いていると扉が見えて来た――目的の第三造船エリアの制御室への扉だ。

 

「ここだね」

「ええ、ここで新しい船体を建造する手筈になっているはずよ」

「行きましょう」

 

 そう言ってルリは扉を開いて足を踏み入れる――そこはカオスだった。まず目に入るのは巨大な透明な窓であった。あの窓の先に『ジャスパー』の説明にあった船殻を形成するために必要な大型レプリケーターが設置されているのだろう……航宙艦をまるまる一隻レプリケーターで複製するのは膨大なエネルギーと時間を必要とするが、複製するものを限定すれば最初から建造するより早く航宙艦を作り出す事が出来るという。窓の奥には大型レプリケーター施設に鎮座する巨大な骨組みが見える――これから様々な部品をレプリケートして組み立てていくのだろう。

 

「で、あれは何をしているのかしら?」

 

 イネスの言葉に従い目を向ければ、部屋の側面に備え付けられた大型のディスプレイの前に集まっている『ナデシコC・D』のメカニック・クルーが大騒ぎ……いや何か議論をしているようで、此方にはまったく気付いていないようだった。

 

「――てっ事は、その『わーぷばれる』ってのを取り付けりゃ、光速を突破するのも夢じゃねぇって事だな!?」

 

 整備班の人達が円陣を組んで、その中に小さな人影が成人男性の勢いに引いている――その光景だけを見れば非常に頂けない事態に見える。嫌そうな表情をしながら距離を取ろうとしている小柄な人物は先ほど話題に出た謎多き来訪者『ジャスパー』と、血走った目で彼女を追い詰めているナデシコの整備班長『ウリバタケ・セイヤ』……ホント何をやっているのだろう、この人達は。

 

「ま、まぁね。新しく建造する主船体には船体内部に超光速航法用の『ワープ・バレル』を搭載することにより亜空間フィールドを発生させて、発生する亜空間フィールドが航宙艦を包み込んで周囲の時空連続体を歪めて艦を推進させる――しかも、船体は亜空間フィールド内の空間に対して静止しているから、やっかいなウラシマ効果も発生しないという優れ物よ」

「「「おおおぉぉおお!」」」

 

 ジャスパーの説明を聞いていたウリバタケと整備班の人達が雄たけびを上げている。示された新しい技術に興奮しているのだろう――ホント馬鹿ばっか、と子供の頃の口癖を思い出しながら嘆息するルリ。

 

「光速を突破って、実際どの位の速さなんだ? ボソン・ジャンプのように長距離を跳躍する訳じゃないんだろ?」

 

 整備班の一人が疑問を口にする――宇宙は広大であり、星と星との間には気の遠くなるような距離が存在する。太陽系を例にとるならば、一番近い恒星系であるプロキシマ・ケンタウリでも約4・3光年離れており、星々への旅とは例え光速であっても年単位の行程となる。

 

「そこは問題ないわ、船を包む亜空間フィールド・バブルは最大で第九次まで重複して張ることが出来るから。バブルの枚数に応じて船体の速度は枚数の10の3乗×光速ずつ増加していく――つまり、巡航速度であるワープ5なら光速の214倍、今いるペルセウス腕から地球まで三十年ちょっと、最大ワープ9・9なら3053倍で二年って所ね」

「「「おおおぉぉぉお!?」」」

「けどよ、そんな猛スピードで宇宙空間を飛んだら宇宙塵はおろか、原子の一つでも脅威になるんじゃねぇか?」

 

 惑星間航行を行うだけでもかなりの遠距離を走破する為に凄まじいスピードで航行しているが、一見何もないように見える宇宙空間といえども、大きなものでは小惑星から小さなものでも宇宙塵や水素原子などが漂っており、それらに猛スピードで飛ぶ宇宙船が激突すれば船体に大ダメージを与えるか、下手をすれば破壊されてしまうだろう。

 

 それを防ぐために航行中の宇宙船は電磁シールドや現在ではディストーション・フィールドで船体を包んで進路上の障害物からその身を守っているのだ……だからこそウリバタケは、想像すら出来ないスピードで宇宙空間を飛ぶ事の危険性を訴える。

 

 そんな疑問を浮かべながらも血走った眼をするウリバタケを筆頭に、興奮して前のめりになる整備班の野郎どもに引いた表情を浮かべながらもジャスパーは気押されるモノかと「ふふんっ」と無い胸を張る。

 

「その心配は無用よ。その為の『ナビゲーション・ディフレクター』技術の導入――これはね、強力な重力波発生装置により進行方向に反重力波を撃ち出して、船の前方の空間を完全な真空に保つ技術――これにディストーション・フィールド等の技術を使えば強固なナビゲーション・ディフレクターが作れるわね」

 

 何やらディスプレイの前で気勢を上げるメカニック達にうんざりした様な顔をしながらも、問われる疑問には丁重に答えるジャスパーの姿を、少し離れた所で見ている双子の姉妹アゥインとノゼアの眼は限りなく呆れていて、不信感丸出しの冷たい視線をしていた。

 

「……何を馴染んでるんだか」

「一つも羨ましくないけど、ね」

 

 呆れを含んだアゥインに半目のノゼアが不機嫌そうな声で答える……ナデシコDの出航前より『オモイカネ』型でデュアル・コンピューターのオペレート―をしていた二人にとって、『ジャスパー』は神出鬼没の胡散臭い存在であった。出航してから身元不明のメッセージを送り付けてきて、こちらの捜索を歯牙にもかけずに潜み続けた存在――言わば二人のプライドを傷つけた相手である……好意的にはなれないのだろう。

 

 とは言え、そんな少女の微妙な心情など気付きもせずに盛り上がる整備班の野郎どもを尻目に、アゥインとノゼアは呆れたような視線を向けると呟いた。

 

「整備班の人達は元気だねぇ、まったく」

 

 整備班といか、ウリバタケの血走った眼に引き攣りながらも、ジャスパーは周囲に居る人々を見回す。

 

「そこで、みんなに提案があるわ」

「提案?」

「メカニックのみんなにはココで新たな船体を仕上げて欲しいの。その他のみんなには、その間に係留施設にある航宙艦を使って放棄された主船体や破壊された支援艦から使える物――特に相転移エンジンなどを回収してきて欲しい」

「相転移エンジン?」

「ええ、動力としては航宙艦の『ワープコア』は核融合炉が主流だけど、相転移エンジン方がより高出力だからね。破壊された主船体だけど、使える物もあるかもしれないわ」

「おいおい、無茶言うなよ。異世界の宇宙船を動かせってか、制御系の解析だけでも何ヶ月掛かると思ってんだ」

 

 ジャスパーの無茶振りに苦い顔をしたウリバタケが噛み付くが、ジャスパーは“にたり”と笑い、それを見たナデシコ・クルーは引きつった表情を浮かべた。

 

「大丈夫、こっちにはマシン・チャイルドが4人も居るんだから♪」

 

 ……ああっ、この顔は自分を勘定に入れていないな。並行世界に来てから、疲れが倍増したように感じるナデシコ・クルーであった。

 

 


 

 

 宇宙基地 上層部 航宙艦係留施設

 

 長らく無人であった宇宙基地に明かりが点り、数十隻以上の航宙艦を照らし出す。全長四百メートル級の航宙艦や三百メートル級の航宙艦がひしめく中、大型の航宙艦の半分にも満たない二隻の航宙艦が出航準備に追われていた。

 

 全長百七十メートルの平べったい航宙艦で、両翼にエンジン部を持ち、突出した艦首には青い燐光を放つディフレクター盤が設置されている。

 

 惑星連邦宇宙艦隊所属 ディファイアント級航宙艦 USS『アスタナ』とUSS『ウィントフック』――『ボーグ』の驚異に晒される惑星連邦が純粋な戦闘艦として就役させたシリーズであり、特筆すべきなのは連邦で初めて『遮蔽装置』を搭載している事であった。

 

 『遮蔽装置』――重力レンズ効果を利用したものであり、遮蔽シールドに突入した光(電磁波)を、シールドに沿って人為的に誘導して反対側で再び宇宙空間に放ってセンサーに感知されないという技術である。

 

 USS『アスタナ』のブリッジでは、慣れないシステムに悪戦苦闘をしている『ナデシコD』のクルーがジャスパーより提供されたマニュアルを見ながら何とか出港準備を整えていく。

 

「航法システム正常、各スラスター異常無し」

「……え~と、船体に問題無し」

「生命維持装置正常」

「……インパルス・エンジン及びワープコア正常稼動中?」

 

 ナデシコでは『オモイカネ』のサポートを受けていたが、連邦の航宙艦もコンピューターからの音声によるサポートがあり、マニュアルと合わせて何とかシステムを操作しているという状況である。

 

(……練習航海の方がまだマシか、この調子では戦闘など無理だな)

 

 キャプテン・シートに座ったジュンは、オプス・コンソールに座るアゥインに視線を送る。小さな身体ながらもコンソールを操作して、艦内のシステムと各種センサーの調整を行っている……気のせいか、何時になく楽しそうに見える。乗り込んだ当初、センサーの高性能っぷりに珍しく興奮していた事を思い出した……何でもメインのセンサーは数光年先すらも詳細に探知可能であるという。

 

 アィウンの横ではコン・コンソールに座るミナトが、ニヤニヤしながらナデシコとの違いを調べながら出港の時を待っている……彼女の話では、ディファイアント級は船体に慣性制御装置だけでなく、構造維持フィールドという船体を強化するシステムがあり、小型の航宙艦ゆえに小回りが効いて、操縦士の腕の見せ所だと喜んでいた。

 

「アゥイン。『ウィントフック』のタカスギ少佐に通信を送ってくれ」

「了解」

 

 暫くして、艦橋の前面に備え付けられたメイン・ビューワーに艦長席に座ったサブロウタの姿が映し出される。

 

「そちらの準備はどうだい?」

『ええ、こちらはハーリーが頑張ってますからね。なんとかなるでしょう』

『――サブロウタさん!』

 

 サブロウタに認められた事が嬉しいのか、感極まった声を出すハーリー。その後、出航してからの日程を詰めた後に通信を閉じる。

 

「ミナト君。十分後に出航だ」

「りょーかい」

 

 軽い返事を返してくるミナトに苦笑しながら、コンソールを操るアゥインを見たジュンは悪戯心が湧いてくる。

 

「アゥイン、ノゼアが居なくて寂しくないか?」

 

 そう声をかけると、コンソールを操作していたアゥインは手を止めると振り返ってジュンにすました笑顔を向ける。

 

「ノゼアには良い薬です。ルリ姉さまに根性を叩き直して貰った方が本人の為ですよ」

 

 ――そう言えばルリがジャスパーの根性を叩き直すと宣言した時に、ついでにノゼアの根性も叩き直して欲しいと言って見捨てていたな、と思い出して苦笑するジュンであった。

 

 


 

 

 宇宙基地 第三造船エリア 制御室 三十六時間前

 

「大丈夫、こっちにはマシン・チャイルドが4人も居るんだから♪」

 

 いい笑顔で無責任な事を言うジャスパー。その顔を見たクルー達は理解した……ああっ、コイツはダメな奴だと。そんなやり取りを見ていたルリとユリカそしてイネスの三人は、三者三様の反応を見せる。

 

「……何か、いい笑顔で笑ってるね」

「……コッチが本性かしら?」

 

 ユリカとイネスはジャスパーの意外な姿に乾いた笑いを浮かべ、ルリは座った目をしてジャスパーを見ていた。

 

「待ってください」

 

 恐ろしく平坦な声がその場に響く――決して大きな声ではないが、奇妙な熱気に包まれたその場に居る者達の視線を集めるだけの力があった。

 

「あっ! 艦長、お帰りなさい」

「お帰りユリカ。ルリ君とフレサンジュ女史もお疲れ様」

 

 ルリの姿を見たハーリーが破顔して出迎え、無事に返ってきた事に安心したのかほっとしたような表情を浮かべたジュンとサブロウタもそれに続く。そんな三人に目で返礼すると、ルリは視線をジャスパーに向ける。

 

「別の歴史を辿った人類の作った宇宙船を、ろくに調べもせずに使おうなんて無茶です。ましてマシン・チャイルドなんてIFSとの親和性を高めただけの、オペレーションに特化しただけの人間です。何でも出来る訳ではないのは、貴方が一番分かっているんじゃないんですか?」

 

 淡々と理論整然に話すルリ。だがジャスパーはそんな反論を受けても表情を崩さない。

 

「そこら辺は問題ないわ。航宙艦を始めとする連邦のシステムは音声対話型だから分からない所は優しく教えてくれるし、ガイドラインがあるから操作技術の習得は容易よ――そして何より、時間はあまり残されて居ない」

 

 表情を一変させて真剣な口調で語るジャスパー。

 

「『ボーグ』に同化されたテンカワ・アキトは、今はまだこの宙域に居るけれど、彼の乗る『ボーグ・キューブ』が何時活動を再開するか分からない」

 

 ルリ達とは別の世界から乱入してきた巨大戦艦『アルテミス』によって『ボーグ・キューブ』は大ダメージを受けて撤退したが、ジャスパーによれば『キューブ』には自己修復機能が備わっており、時間を掛ければいずれダメージを回復して活動を再開するだろうと。

 

 それ故にコチラも早急に態勢を整えてテンカワ・アキトを奪還しなければならない。

 

「『ボーグ集合体』の本拠地はココから七万光年も離れたデルタ宇宙域――つまり、銀河の反対側よ。そこでは何千という『キューブ』が飛び交い、多くの恒星系が『ボーグ』の支配下にある。そして『ボーグ・キューブ』一隻には大体十三万人弱の『ドローン』が存在している……もしテンカワ・アキトの乗る『キューブ』がデルタ宇宙域に戻るような事態にでもなったら……」

 

 正しく砂漠から一粒の砂を探すような物だろう、と。それでなくても、デルタ宇宙域を勢力圏とする『ボーグ』がこのアルファ宇宙域に存在しているのは、惑星連邦を含むアルファ宇宙域にある星間国家を同化する為であり、その争いの中で一個の『ドローン』であるテンンカワ・アキトを失う可能性だって有るのだ。

 

 ジャスパーは語る――『ボーグ・キューブ』が活動を再開する前に、こちらも態勢を整えてテンカワ・アキト奪還に動き出す必要があると。

 

「なるほど、早急に動き出さなければならない理由は分かりました。貴方の言うように『ナデシコC・D』のクルーを二手に分けて、メカニックを中心とした新しい主船体を建造するチームと、連邦艦の操作になれる為にも上にある航宙艦を使ってサルベージに向うチームに分ける訳ですね」

「そういう事、いきなり超光速航行艦に乗ってもノウハウのない状態では混乱するでしょう? 慣熟航海に出ている間に、新しい主船体の建造に着手して、戦力を整えた後に今度はコチラから打って出る」

 

 航宙艦にはそれぞれマシン・チャイルドが一人乗り込み、主船体の建造にマシン・チャイルト二人によるオペレートを必要としていて、ジャスパーもそれに参加すると言う。

 

「……なるほど、思ったよりまともな理由だったんですね――なら、私は主船体の方に回りましょう」

「へっ? 私としてはルリ艦長には航宙艦の方に行って貰いたかったんだけど」

 

 突然のルリの宣言に一瞬呆けた表情を浮かべたジャスパーだったが、続く言葉に頬を引きつらせる事となる。

 

「作業の傍ら、ジャスパー貴方の性根を叩き直します」

「へっ?……はぁあ!? 何で? みんなを導く為に一生懸命頑張っているのに!?」

「……未来の『オモイカネ』に聞きました。本来ならもっとサポート出来たはずなのに変な癖がついたのか、傍観者を気取って最低限の干渉しかしなかったと」

 

 ジト目のルリと、あからさまに挙動不審になるジャスパー。

 

「そして、これは未来の『オモイカネ』……紛らわしいですね、仮に『ダッシュ』としましょうか。『ダッシュ』からも貴方の教育を頼まれていますからね」

「お、横暴だ!」

「あなたが言いますか」

 

 泡を食って抗議するジャスパーに冷たい視線を向けるルリ。

 

「『ダッシュ』によれば、あなたは『ダッシュ』から株分けされた言わば娘のようなモノ。ですが株分けされて直ぐに私達の世界に送り込まれて待機状態へと移行した――つまり、あなたは社会常識やコミュニケーション能力が欠如している状態……そんなあなたが対人インターフェイスを構築するなど笑っちゃいます」

「……なるほどな、そりゃお勉強が必要だな」

 

 ルリの言葉にぐうの音も出ずに、ぐぬぬと唸るしか出来ないジャスパーであった。そしてそんな二人を見ているナデシコ・クルーも生暖かい目でジャスパーを見ていた。

 

「でしたらルリ姉さま。ノゼアもこの基地に残しますので、ついでに性根を叩き直してください」

「――な、何を言い出すのよ、アゥイン!?」

「あなたは最近たるみ過ぎよ、ここらで矯正しないと将来が困る事になるわよ」

「え、偉そうに! 少し早く生まれたからって」

「……いつも、いつもゴミだらけになった部屋を片付けているのは誰だったかしら?」

「――うっ!?」

「……ああ、それでアゥインはノゼアと同室になるのを嫌がったのか」

 

 双子の銀色姉妹の言い合いを呆れたような顔で見ていたジュンは、『ナデシコD』の発進前の段階で居住区の部屋割りを考えていた際に、一人部屋では心細かろうと配慮して同室にしようとしたのだが、何処から聞きつけたのかアゥインが強固に反対をして別々の部屋になった経緯を思い出す。

 

 双子の姉の裏切りに抗議の声を上げるノゼアだったが、自身のぐうたらな性格故に次第にアゥインの正論に反論出来ずに論破されて、部屋の隅で膝を抱えてイジけたのだった。

 

 


 

 

 出港準備の最終段階に入ったUSS『アスタナ』のキャプテン・シートに座ったジュンは、オプス・コンソールに座って忙しそうにしているアゥインの後ろ姿を見ながら『アスタナ』に乗り込む前に、ユリカやルリと協議した内容を思い出す。

 

 ジャスパーとノゼアの性格矯正の為に放棄された宇宙基地に残ったルリと、ユリカそしてイネスがウリバタケ達と協力して『ナデシコD』の新しい主船体を建造する傍ら、基地のコンピューターシステムから必要なデーターを取り出して、これからの行動の指針を決定する際の一助にするべくノゼアと共に解析作業に入ると言う。

 

 主船体が完成して反撃の準備が整えば、『ボーグ』からテンカワの奴を取り戻す戦いを挑む事となる――だが、首尾よくテンカワの奴を取り戻した後は? この平行世界で生きて行くのか? ナデシコに乗るクルーには自分達の世界に家族を残している者が殆どである。

 

 指揮官として彼らの未来に責任がある以上、この先に付いて考える必要があった。

 

「アオイ副長、出港準備整いました」

 

 思考の海に浸っていたジュンは、その声に正面のメイン・ビューワーを見据える。

 

「分かった。アンビリカル・ディスコネクト、『アスタナ』発進」

「りょ~かい。ディスコネクト完了、反転180度、インパルス・エンジン始動、出力四分の一、グラウンド・ゲートへ向かいます」

 

 コン・コンソールに座るミナトは、優雅な動作でコンソールを操って『アスタナ』のスラスターを制御して船体の向きを変えると、船体後部に備え付けられた通常航行用のインパルス・エンジンが『アスタナ』をゆっくりと係留施設から外宇宙へと続くグラウンド・ゲートへと進める。

 

 インパルス・エンジンを全開にすれば光速の80パーセントまで加速可能だが、ウラシマ効果の影響を受けない光速の25パーセントを最大速度としている。ドック内では安全の為に四分の一の推力―光速の6・25パーセント程度で進む事が規定されているのだ。

 

 全長百七十メートルと周囲に係留されている航宙艦からみればコンパクトな船体が流れるように進んで、巨大な扉から宇宙空間へ飛び出す。その後ろには僚艦であるサブロウタ指揮のUSS『ウィントフック』が続く。

 

「宇宙ステーションより離脱完了。進路上に障害物無し、何時でもワープに入れます」

 

 『アスタナ』のブジッジでオプス・コンソールに座るアゥインは、センサーより齎される情報に内心で驚きながらもキャプテン・シートに座るジュンへと報告する――ディファイアント級航宙艦である『アスタナ』の艦首部に設置されたセンサーアレイは、航路上の数光年先の事象も探知可能であり、それだけでも自分達の技術とは桁違いだと分かる。

 

「分かった」

 

 アゥインの報告に短く答えると、ジュンはキャプテン・シートのアームレストを操作して艦内放送を起動させる。

 

「こちら臨時艦長のアオイだ。現在、『アスタナ』は宇宙基地より出発して宇宙空間を航行中だ。まもなく『アスタナ』はワープ航法に入り、目的地であるナデシコと『ボーグ』の戦闘宙域までの三十光年を四十日の日程で往復する――我々にとっては初のワープ航法だ、各自落ち着いて職務を遂行して欲しい。以上だ」

 

 艦内放送を停止すると、ジュンはコン・コンソールに座るミナトへと視線を向ける。

 

「ではミナト君、まずはワープ1だ」

 

 ジュンの指示を聞いて、ミナトは明らかに高揚したような表情を浮かべる――彼らナデシコ世界の人類が古代火星文明の超技術を用いてすら到達出来なかった超光速航法を初めて運用する――しかもそのスイッチを彼女が入れるのだ。

 

「――ではワープ1、発進」

 

 コン・コンソールに座るミナトは高らかに宣言してコンソールを操作する――USS『アスタナ』は『ワープ・バレル』を輝かせながら『超光速航行』へと移行した。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 衝撃の出会いをして居るルリとユリカをよそに、新技術を見て興奮する変態技術者達――そしてルリはジャスパーに一矢報います。

 次回 第三十一話 練習航海。

 では、また近いうちに。
 ……けど、なんでナデシコの話を書くとシリアスが崩れるのだろうか?
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