宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
USS『アスタナ』 ブリッジ
慣熟訓練を順調に消化して漆黒の宇宙をワープ6で疾走していたディファイアント級航宙艦『アスタナ』のブリッジでは、キャクテンシートに座っているジュンがメイン・ビューワーに映る流れる星空を見つめていた。片道20日の練習航海により、最初は慣れない異世界の技術に途惑っていた『ナデシコD』のクルー達も、経験を蓄積して精力的に任務に従事している。
「『アスタナ』、ワープ・アウト。まもなく目標ポイントに到達します」
「ああ」
ミナトの操作によりワープを終えた『アスタナ』のブリッジでコン・コンソールに座っているアゥインがジュンに報告する。その報告を聞いたジュン視線をビューワーに向けた――そこには青い二つの点が現れてどんどん大きくなっていく。航法装置が示す情報から、『アスタナ』が二連青色巨星の星系内に到達したことを示しており――ビューワーに巨大な二つの青い輝きと、強烈な恒星風をまき散らしている巨星の姿が大きくなる。星系内を進んでいくが、記録されたポイントに大破したナデシコDの船体は無かった。
「……これは青色巨星が放出した恒星風に流されてしまったようですね」
センサーを操作して周辺宙域を捜索していたアゥインは、眉を寄せるとブツブツと独り言を言いながら大破した船体を探す。暫くすると、センサーが少し離れた宙域に浮遊する複数の残骸を感知する――放棄されたナデシコDの主船体の反応であった。
「見つけました。方位024、マーク35、0・3光秒先に流された船体を感知しました」
「そうか、ミナト君」
「りょ~かい」
ミナトが航法用コンソールを操作して船体の向きを微調整した後に、『アスタナ』のインパルス・エンジンに火が点る。恒星風の流れに沿って進むと、暫くして無残な姿をさらした大型宇宙船の残骸が見えてくる……船体の所々に亀裂が入り、艦首の構造物などは見る影がない程に損壊している。
「……戻って来ちゃったね」
「そうだな」
あの時は一ただ逃げるだけしかできなかった。圧倒的な技術を持つ『ボーグ・キューブ』達に対抗する力は無かったが、数奇な運命に導かれるかのように再起の機会が与えられた。
「目標ポイントに到達、機関停止します」
インパルス・エンジンを停止させた『アスタナ』と『ウィントフック』は、慣性航行へと移行して漂流する主船体の残骸へと近付いて行く。センサーによれば周囲に『ボーグ』を始めとした宇宙船の存在は感知されておらず、一応の安全は確保されていた。
「『ウィントフック』のタカスギ少佐に連絡してくれ」
「了解」
ジュンの指示に応えた通信士官がコンソールを操作して僚艦である『ウィントフック』に通信を送り、程なくメイン・ビューワーにサブロウタの姿が映る。
『アオイ中佐。センサーによれば、主船体の損傷は艦首から中央部にかけてに集中してますね』
「切り刻んで取り込もうとしていたからな。おかげで比較的艦尾の損害は少ないから相転移エンジンも無事の可能性が高いな」
そこでセンサーで主船体の損傷具合を調べていたアゥインによれば、相転移エンジン八基の内で無傷なのは三基ほどあり、残りの五基も修理すれば使用可能な状態にあるとの報告が上がる。
『それだけでは無くてですね。後部船体はほぼ無傷なので使えそうな部品もありそうなんですよ』
『ウィントフット』のセンサーを使って調べていたハーリーが報告してくる。ふと、コン・コンソールの方に視線を向けると、微妙に頬を膨らませたアゥインの姿が映る。ハーリーに先に報告されて不貞腐れるとは、ローティーンの少女らしさを垣間見てジュンは小さな笑みを浮かべ、ビューワーのサブロウタも肩を竦めている。
「そうなると持ち帰りたくなるのが人情だが、アゥイン何とかならないか?」
ジュンの無茶ぶりを受けたアゥインは、暫く何かを計算しながらコンソールを操作して確認を取っていたが、ようやく纏まったようでコンソールから顔を上げる。
「 計算では破損している艦首部分のディストーション・ブレードをフェイザーで四基とも切断すれば、『アスタナ』と『ウィントフック』のトラクタービームで固定出来ます。その後は二隻のワープ・フィールドで包めば運ぶ事が可能です」
「どれくらいの速度が出せる?」
「ディストーション・ブレードを撤去したとはいえ、二千メートル以上の主船体を抱えて飛ぶ訳ですからワープ5が精一杯ですね」
「ワープ5か、基地に戻るまでどれくらいかかる?」
「ワープ5ですと、光速の125倍――約四十日位かかりますね」
アゥインの算出を聞いたジュンは思案する。
『どうします? 担いで帰りますかね』
ビューワー越しのサブロウタも巨大な荷物を抱えて飛ぶという事によるデメリットを考えて、思案顔で聞いて来る……『アルテミス』という未知のファクターの介入というか、無謀にも喧嘩を売った『ボーグ』が返り討ちに会って撤退したとはいえ、何時再遭遇するか分からないのだからリスクはあるが、宇宙基地にたどり着いて一応の安息を得たとはいえ使える資材があるのなら持ち帰りたい所だが。
「……持ち帰ろう」
『良いんですか、帰還の途中で『ボーグ』に出会うかもしれませんよ?』
「そのリスクは考えたが、新しい船体を早く建造する為にもコレは有用だと思う。最低三隻の『ボーグ・キューブ』を相手にしなければならないのだから、備えるだけ備えなければならない」
『……分かりました』
その後実務的な手順を詰めた後に通信を終了し、ジュンはブリッジに居るアゥインに『遮蔽装置』や武装の点検を命じ、ミナトには航法装置の再点検を命じる……そして通信担当の士官にはデープ・スペース・13への亜空間通信を開くように命じて、放棄した主船体の状態が思ったより良い事と帰還が一ヶ月以上伸びる事を告げる。
『そうなんだ、気をつけて帰ってきてね』
『こちらは気にせず、十分に注意して帰ってきてください』
メイン・ビューワーに映るユリカとルリの話では、向こうでも色々模索しているというが詳細は通信を傍受された場合を考えて基地に戻ってからという事になった。
「アオイ中佐、準備が出来ました。『ウィントフック』も位置についたようです」
「コッチは所定の位置についたわよ」
「――わかった。やってくれ」
「了解、トラクタービーム照射します」
アゥインがコンソールを操作すると『アスタナ』の船体下部よりトラクタービームが照射されて、フェイザーでディストーション・ブレードを切断された主船体の残骸を固定する。そして同様の行動を反対側に待機していた『ウィントフック』も取り、『ウィントフック』の船体下部よりトラクタービームが照射されて主船体の固定を補強する。
「主船体の固定が完了しました――これよりフィールドを形成してワープに入ります。方位023マーク35、速度ワープ5に設定」
「『ウィンフック』より準備完了との連絡がありました」
アゥインと通信担当士官がコンソールを操作しながら準備が完了した事を告げる。それを聞いたジュンはビューワーに映し出された主船体の残骸を一瞥するとアゥインに視線を向ける。
「よし! 直ちに発進だ」
「了解。『ウィントフック』のシステムと同調開始、ワープ・フィールドの同調を確認、ワープ・コイルにエネルギー伝達――ワープ!」
アゥインの宣言と共にミナトがコン・コンソールを操作して、『アスタナ』と『ウィントフット』の両舷にあるワープ・コイルが青白き光を放って巨大な残骸と共に光となって消えていった。
『ナデシコD』艦内 中央部第五多目的ホール
「そしてボク達は『ナデシコD』の新しい船体を建造して、この三年間『ボーグ』からテンカワの奴を取り戻すべく戦っていたんだが、未だ取り戻すことは出来ていない」
この宇宙に来てからの経緯を話したジュンは、苦々しい表情を浮かべる。
「この宙域に進入した『ボーグ・キューブ』は三隻だけではなかったんだ」
「なんだって!?」
ジュンの言葉はその場にいた者達に衝撃を与える。ライカー達は驚愕に歪み、真田達も苦々しい経験が思い出されて同じく歪む……『ボーグ・キューブ』と初めて遭遇した『ヤマト』は、無知ゆえにクルーに犠牲を出して同化寸前にまで追い込まれた。そしてライカー達『エンタープライズE』のクルー達は、二度の侵略を受けて多大な犠牲を払ってきた――そんな恐るべき『ボーグ』の船が三隻もアルファ宇宙域に進入してきた事に危機感を感じているのに、アオイ・ジュンと名乗る男性の話は彼らに更なる危機感を齎した。
「他にも『ボーグ・キューブ』が存在したとは」
「馬鹿な。『ボーグ』の本拠地であるデルタ宇宙域とは七万光年も離れているのに、四隻目も存在するというのか」
顎に手をやりながら何かを思案する真田と、顔色も悪く呟くように言葉を口にするライカー。その横ではディアナが心配そうに見ているが、今のライカーには彼女に配慮するだけの余裕がない。それ程までに新たな『ボーグ』の存在は、彼にとって衝撃だったのだ。
元々『ボーグ集合体』は銀河系の反対側デルタ宇宙域に生息する種族であり、デルタ宇宙域において一大勢力を築いている――数百の星系を支配下に置き、数千の『ボーグ・キューブ』が飛び交っていると言う彼らはデルタ宇宙域で最も恐れられている種族である。だが彼らの勢力圏と惑星連邦の存在するアルファ宇宙域には、七万光年という連邦の航宙艦がデルタ宇宙域に到達するまで七十五年もかかるという距離の壁があり、それ故に『ボーグ』の侵攻は散発的なものになっているのではないかと推察されていた。
「これを見て欲しい」
そう言ってジュンは手元に浮かんだコンソールを操作して一枚のウィンドウを呼び出すと、それを全員が見える場所まで送り出して拡大する――そこには巨大な発光する球体の周りを飛び交う数隻の『ボーグ・キューブ』の姿が映し出される。
「……一隻ではないのか」
「……これは、何かを建造していますね」
ウィンドウに映し出された光景に絶句するライカー達『エンタープライズE』のクルー。そして同じくその光景に驚きを表にしながらも、『ボーグ・キューブ』の行動が一定の範囲に収まっている事に気付いた真田は、『ボーグ・キューブ』が何の為にその場に存在しているのかを理解するべく飛び交う範囲を凝視すると、飛び交う『ボーグ・キューブ』の下――発光する球体の表面に黒い建造物らしきものが見えた。
「これは此方の無人偵察機が捉えた映像だ。途轍もないエネルギー係数を持つ天体の周囲に三隻のキューブが存在していて、天体の表面に何かを建造している姿が確認された」
「つまり、建造を優先しているので周辺星域に被害が出なかったという事か?」
『ヤマト』と接触した後に『エンタープライズ』は三隻もの『キューブ』と遭遇し、『ヤマト』の決戦兵器『波動砲』により二隻の『キューブ』は破壊され、残る『キューブ』は一隻と考えていたのに、アルファ宇宙域の辺境部には未だ三隻の『ボーグ・キューブ』が存在していたとは。
だがそんな三隻の『ボーグ・キューブ』は天体の周りのみを航行してるようで、映像で『ボーグ』が何を建造しているのか気になったライカーは、ジュンに詳細が分かるデーターはないか尋ねると、至近距離から撮影されたと思われる映像へと切り替わる――輝く天体の表面に蠢く黒い六画形を基準とした構造物がアメーバーのように広がっている。
「――これは……データー?」
「……ええ、間違いありません『ヴォイジャー・レポート』に記載された『トランスワープ・ハブ』です」
拡大された映像を凝視していたライカーが確かめるようにデーターに確認すると、同じく映像を見ていたデーターが同意するように頷く。
「『トランスワープ・ハブ』?」
アオイ・ジュンの発した疑問の声に答える形で語りだすデーター。
『トランスワープ・ハブ』とは、未知の現象によってデルタ宇宙域へと飛ばされた惑星連邦所属のUSSヴォイジャーのキャスリン・ジェインウェイ艦長による航海記録『ヴォイジャー・レポート』に記載された、『ボーグ集合体』が保有する戦略拠点である。
現行のワープを遥かに超える速度を出すトランスワープ技術。限られた種族のみが運用するその超技術を用いたトランスワープ・コンジェットと呼ばれる亜空間トンネルを数千も設置し、銀河系全域に数分で『ボーグ・キューブ』を送り込める、『ボーグ』の戦略の要である――だが、『トランスワープ・ハブ』は、USSヴォイジャーの活躍により破壊された筈である。
「……恐らくこの『トランスワープ・ハブ』はまだ稼動していないのでしょう――もし稼動していたら、『ボーグ』は大群を持って惑星連邦の領域に侵入しているでしょうから」
一切の感情が感じられないデーターの言葉は部屋の温度が下がったかのような感覚を、その場に居る全員に齎した。いずれ来る『ボーグ』の大攻勢を予感して誰かが身震いを起こす。
「……これは、とんでもない事になってきたな」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
ついに明らかになった『ボーグ』の目的――いま、惑星連邦は存亡の危機を迎える。
これ位の危機的な状況でもなければ、『ナデシコ』などと言う未知の勢力と同盟を組もうとすれば様々な横やりが入るでしょう。
次回 第三十三話 不穏なる空気。
『ボーグ・ドローン』蹴散らしてその実力の一旦を見せた翡翠に『ヤマト』艦内の不穏な空気が近付いて来る。
では、また近いうちに。