宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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 デープ・スペース・13 展望室



 巨大な宇宙基地であるデープ・スペース・13には数万人規模のクルーが生活するための施設があり、生命維持装置や食料の生産プラントなどは余裕をもって設置されている。そしてクルー達のストレスを軽減する目的で様々なレクリエーション施設が存在しており、この展望室もその一つだ。

 そんな目的で作られた展望室だが、現在この基地に居るのはナデシコでやって来たクルーのみであり、彼らは再建した『ナデシコD』の船体チェックに忙しく、せっかくの施設だが利用する者はごく限られている――だが、今この展望室には一人の少女の姿があった。

 銀の髪を肩口で揃えて金色の瞳は展望室の窓に映る宇宙をただ見つめていたが、右手を目の前にまで持ってくると握ったり開いたりする動作を暫く繰り返していたが、吐息を吐いた後に右拳を展望室の窓に叩き付ける。しかし少女の力では傷を付けるどころか微動だにすらしなかった。


「……何をやっているんだろう、私は」




迷走編
第三十三話 不穏なる空気


 

 宇宙戦艦『ヤマト』艦内 舷側展望室


 

 『ヤマト』の舷側から少し張り出した展望室は『ヤマト』の乗組員達に取って数少ない休息の場であり、勤務時間外のクルーが集う憩いの場でもあった。そして今その場所には、衛生士の原田真琴に連れられた翡翠の姿があった……だが真琴の表情は不機嫌そうに眉を寄せており、それを宥める翡翠という年齢からいえば反対の構図が出来上がっていた。

 

「――まったく! 翡翠を見るなり出て行くなんて」

「まぁまぁ仕方ないよ、真琴ねえちゃん。実際不審人物だしね」

 

 艦内に侵入した『ボーグ・ドローン』を素手で何体も打倒した翡翠の話は瞬く間に艦内に広がり、噂が噂を呼んで尾びれが付属して、何時しか翡翠は迷い込んだ異星人の少女から、恐ろしい力を持つ地球人とは違う化け物として恐れられ始めていたのだ。

 

「翡翠は悔しくないの!? 翡翠はみんなを守る為に頑張ったっていうのに!」

「……いや、ムカついたから、ぶっ飛ばしただけなんだけどね――って、痛ったたたった!?」

 

 真琴の怒りにどこ吹く風の翡翠の頬っぺたを、真琴は力一杯に引っ張る。暫くジタバタ暴れていた翡翠だったが、ようやく解放されてヒリヒリする頬っぺたを押さえて涙目になる翡翠……頬を押さえながら真琴から距離を取っていた翡翠の目に、展望室の窓から見える巨大建造物の姿が映った――『エンタープライズ』のクルーにより未知の現象により放棄された事が判明した、連邦の様式で建造された巨大宇宙基地であった。

 

「――ん? なにアレ?」

「ああっ、アレ? あそこで船体の補修が出来るって話だったんだけど、原因不明の疫病か何かで放棄されたらしくてね。検査結果が出るまで入れないってサブちゃんが――」

「サブちゃん?」

「――あっ!?」

 

 首をかしげる翡翠。顔を真っ赤にした真琴が頬っぺたを引っ張ろうと手を伸ばすが、その手からするりと逃れた。

 

「ねぇ、真琴ねえちゃん。あの建造物のデーター、手に入らない?」

「えっ? う~ん、美影なら何とかなるかも」

「よし、それじゃ行こうか」

「ちょ、翡翠待ちなさい――こら待て、翡翠!」

 

 スタスタと一人で歩いていく翡翠を呼び止めた真琴だったが、構わず展望室を出て行く翡翠を慌てて追いかけていく……ようやく追い付いた真琴だったが、翡翠から桐生美影の居場所を聞かれて戸惑いを覚えた。振り返った翡翠の眼が――彼女の名前の元となった翠瞳から真紅の瞳に変わっていたから。

 

「……その眼は」

「――ああっ、ちょっと気合を入れていたからね」

 

 翡翠の瞳から紅い輝きが消えて元の翠眼に戻る。

 

「……翡翠、今のは」

「ちょっと珍しい現象の残照を感じたんでね、何があったのかデーターが欲しいと思ったんだ」

 

 肩を窄めて答える翡翠。だから情報を持っている人を教えて欲しいと言われ、思ったよりまともな理由に真琴は近くにあった艦内通話器を操作すると桐生美影に連絡を取り、翡翠を連れて彼女が居る技術解析室へと向かう。

 

 


 

 『ヤマト』艦内通路

 

 真琴と翡翠は並んで艦内通路を歩いているが、すれ違うクルーは翡翠の顔を見ると通路の脇に逃れたり中には露骨に顔を歪める者も居て、その都度真琴は眉を吊り上げるが、同時に仕方のないと言う事も理解出来てしまう……人類は初めて接触した異星人『ガミラス』との戦争に破れて、地球は放射能に汚染された死の大地へと変貌して多くの犠牲者を出した事による異星人『ガミラス』への激しい憎悪と怒りが人々には蔓延しており、それがエイリアン・リゼクション(異星人拒絶反応)とも言うべき拒絶意識を生み出している。

 

 そしてそれが今、得体の知れない異星人として認識されつつある翡翠へと向けられようとしていた……幸いというか彼女の見た目が年端もいかない少女の姿をしている事が、浅慮な行動を自制させる事となってはいたが。

 

 あれこれ考えている内に目的地である技術解析室のドアが見えて来た事に気付いた真琴は、翡翠を伴って入室する。

 

「失礼しまーす、美影居る?」

 

 解析室の内部は各種モニターと共に大掛かりな測定装置が設置されており、モニターの一つの前に栗色の髪を束ねてポニーテールにした特徴的な女性の姿があった。集中しているのかモニターを見ながら何か唸っており、真琴達が入室してきた事に気付いてはいないようだ。

 

「何見てんの、美影?」

「――うわぁあ!? なんだ真琴か、びっくりした」

 

 突然声をかけられて椅子から飛び上がるかのような勢いで驚いた美影は、振り返ると後ろに立っていた真琴を睨む。暫く戯れ合いのような問答をしている二人を呆れたような目で見ていた翡翠だったが、終わらない戯れ合いだんだん焦れてきていた。

 

「ねえちゃん達、そのつまんない漫才何時まで続くの?」

 

 呆れたような言葉に真琴と美影はびしっと固まり、あわあわと彷徨った美影の手は翡翠の頬に伸ばされた。

 

「痛たたたたたぁあ! 何でいつも頬を引っ張るの!?」

「……いやぁ、伸びそうだったんで、つい」

「柔らかそうだったから、つい」

 

 頬を引っ張る手から逃れた翡翠が猛然と抗議するが、美影と真琴は後頭部を掻きながら笑って誤魔化そうとする。しばらく頬を押さえながらも睨んでいた翡翠だったが、この二人のダメな姉貴分にこれ以上何を言っても無駄と判断したのか、まだヒリヒリする頬を押さえながら本題に入った。

 

「さっき展望室からデカイ建造物が見えた時、何か時間的な位相がズレた事による時間変動の痕跡らしきモノが見えたんだ。だからあの構造物のデーターがないか、美影ねえちゃんに聞きに来たんだけど」

「時間変動?」

 

 翡翠の言葉に疑問の声を上げる美影だったが、頬を引っ張られる事になるとは思わなかったと、恨めしげに睨む翡翠のジト目から逃れるようにコンソールを操作して件の構造物――正式名称デープ・スペース・13の詳細なデーターを呼び出した。

 

「これね。全長は百三十キロ、傘状の上部構造物は宇宙船の係留施設になっていて、下部の円筒状の構造物は動力施設だと思うけど詳細は不明ね」

「美影ねえちゃん、周囲の重力分布図を出してみて」

 

 突然職場にやって来て、そんな事を言い出す翡翠に抗議しようと振り返るが、硬い翡翠の表情を見て何か理由があるのかと考えて、美影は別のモニターに重力分布図を映し出す。

 

「……これは……周囲の空間湾曲率は?」

 

 言われるがままに情報を映し出した美影は、考え込む翡翠を見て何か知っている事があるのではと思い問い掛ける。

 

「翡翠、何か分かるの?」

 

 問い掛けられた翡翠はしばらく考え込んでいたが、考えが纏まったのか話し始めた。

 

「このステーションは強力な時間衝撃波に襲われたようね。あちらコチラの時間的位相がズレているのよ」

「時間衝撃波?」

「どこかで時空構造内で衝撃波が発生したのね。それが運悪くステーションに直撃したんだと思う」

「そんな事が起こりうるの?」

「非常に稀だけどね」

 

 半信半疑の美影に説明する翡翠……その横では、難しい顔をしながらも話について行けない真琴は理解を諦めたようだ。未だ信用しきれないのか美影は幾つも質問するが、翡翠はステーションの周囲の空間湾曲率の歪みを指摘し、これ以上は時間センサーがなければ証明のしようがないと肩を竦める。

 

「とはいえ時間変動も収まっているようだし、ステーションに入っても大丈夫だと思うよ」

「ホント?」

 

 未だ半信半疑の美影に、無い胸を張って太鼓判を押す翡翠だったが、内心では別の事を考えていた。

 

(……時間衝撃波か……時空侵略艦のようなゲテモノでも居たのか……何、この到れり尽くせりな状況は)

 

 亜空間跳躍実験後の『ヤマト』への予期せぬ接触と、量子的に不安定になっても自分達の宇宙と類似した宇宙へと転移した幸運。そして拠点として申し分ない施設の存在……何か途方もない存在の干渉を疑っていたが、それは確信へと変わっていった。

 

 


 

 

 惑星連邦の領域の外縁部に設置された宇宙ステーション デープ・スペース・13の周囲には、惑星連邦所属USS『エンタープライズE』と平行世界からの来訪者である宇宙戦艦『ヤマト』がステーション付近で停泊しながら船体の補修作業を行っていた。

 

 


 

 艦長日誌 宇宙歴54978(西暦2378年7月15日)

 

 並行世界からの来訪者である宇宙戦艦『ヤマト』との衝撃的な出会いから、惑星連邦を始めとする星間文明最大の脅威である『ボーグ集合体』との予期せぬ接触により、我々は人知れず『ボーグ』の再侵攻が始まっていた事を知った。

 

 彼らは再侵攻にあたり三隻もの『ボーグ・キューブ』を投入しており、一隻だけでも連邦に取って存亡の危機になりえるのに、三隻ものキューブの出現は連邦の終焉を思わせた。

 

 ――だが、先に交戦状態にあった『ヤマト』との共闘により二隻の『ボーグ・キューブ』を撃破する事に成功したが、最後の一隻は『エンタープライズ』と『ヤマト』のシステムに侵入して機能不全を引き起こして、我々は対抗手段を失った。

 

 もはや同化されるしかないのかと思った時、我々の前に新たな平行世界からの来訪者が現れる――ナデシコを名乗る、巨大な航宙艦を要する勢力の参戦である。

 

  我々はナデシコ勢との接触の折に齎された――未だ五隻の『ボーグ・キューブ』が存在しており、アルファ宇宙域に彼らの橋頭堡――トランスワープ・ハブを建造しているという恐るべき情報を入手した我々は宇宙艦隊司令部に情報を送った後、対抗策を協議しようと会議室へと集まった。

 

 


 

 

 USS『エンタープライズE』会議室

 

「で、艦隊司令部は何と?」

「大混乱に陥っているよ、とりあえずは情報収集を命じられた」

 

 『ナデシコD』より齎された情報をライカーより報告されたピカードは、すぐさま艦隊司令部に連絡して指示を仰いだ。

 

「この情報はクリンゴンのみならずロミュランにも送られ、協力して対処に当たろうという事になっている」

 

 ピカードは会議に出席しているメンバー、副長のライカーとカウンセラーのディアナ。そして臨時で保安部員のウォーフと機関部よりラ=フォージと医療部よりビバリー。彼の意見が必要だろうと緊急の呼び出しで『ヤマト』より帰還したデーターの六名を前に、艦隊司令部との会話の内容を話す――『ボーグ集合体』は技術と生物的な特徴を同化していく彼らの侵攻は宇宙域全体の問題であり、惑星連邦のみならず周辺にある同盟国のクリンゴン帝国や、緊張状態にあるロミュラン帝国にも艦隊の派遣を要請するという。

 

「それだけ複数の『ボーグ』艦は脅威だという事だ」

「確かに一隻だけでも厄介な『ボーグ』が艦隊を組んで侵攻してきたら太刀打ち出来ないでしょうね」

「しかもトランスワープ・ハブが完成したら、どれほどのキューブが襲来するか分かりませんからね」

「完成前に攻撃を仕掛けるべきです」

 

 ピカードの言葉にライカーとデーターは『ボーグ』の脅威を指摘し、ウォーフは即時攻撃を進言する。

 

「問題は『ボーグ』が建造しているという『トランスワープ・ハブ』だが、三隻もの『ボーグ』艦に守られている以上、並大抵の戦力では返り討ちに合うのが関の山だろう」

「では、『ヤマト』に協力を要請しては? あの船の火力は『ボーグ』との戦いに有効です」

「いや、『ヤマト』と共闘したといえど、三隻もの『ボーグ』を相手にするのは無理だ」

 

 苦笑しながらもピカードは、『ヤマト』との共闘案に難色を示す――宇宙戦艦『ヤマト』は既に『ボーグ・キューブ』と交戦しており、その戦いで『ヤマト』の切り札の『波動砲』の使用されている……『ボーグ』の能力は尋常ではなく、もしも『波動砲』に対する防御策を講じられていたら最悪の事態になる。

 

「……それに、もし『ヤマト』が同化されて、彼らの言う『次元波動エンジン』が『ボーグ』の手に渡ったとしたら、それは最悪の結果を齎すだろう――それだけは防がねばならん、どんな手を使ってでも」

 

 それに自分達の世界への帰還を望む『ヤマト』も、この世界の争いに巻き込まれる事を望まないだろう、と。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 ……オリキャラが色々な動きをしております。こんな事で話は終息するのか?
 (……したんだけどね)

 次回 第三十四話 蝕まれる『ヤマト』。
 『ボーグ』が残した爪痕は『ヤマト』を蝕み、乗組員達は昼夜を問わず復旧作業に従事していた。不調を訴える『波動エンジン』を回復させる手立てを求めて、徳川と山崎は翡翠に話を聞きに行くのだが…・・・。



 では、また近いうちに。
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