宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
「艦長。我々の旅の目的はこの平行世界から自分たちの世界へと帰り、イスカンダルへの航海を再開する事です。ですので、私は即時撤退を具申します」
『ナデシコD』での会談から戻った真田は、艦長である沖田にこれ以上の戦闘には参加せずに本来の目的である元の世界へ帰還する術を見つける事に全力を注ぐべきだと締めくくった。
『ボーグ』との戦闘は身を守る為であったが、あの恐るべき戦闘力を有する『ボーグ・キューブ』が複数存在しており、戦いはこれからも続く事は容易に想像できた。
それに――酷な言い方だが、『ボーグ』の問題はこの世界の問題であり、別な世界から迷い込んだ自分達にとっては『ボーグ・キューブ』を倒した所で自己満足にしかならず、逆に時間を掛ければ掛けるほど自分達の地球のタイムリミットが迫るという悪循環に陥る可能性が高い。しかも、今回姿を現したナデシコ勢は仲間を『ボーグ』から取り戻す事に固執しており、戦いが激化する事はあっても早期決着が付くとはとても考えられなかった。
「確かに、『ボーグ』を相手にするよりイスカンダルへの航海を再開する方が重要だな」
「航海スケジュールは遅れ気味だったからな、亜空間ゲートで稼いだ日数もこのままでは無駄になる」
古代と島も真田の意見に理解を示す。元々『ボーグ』と戦闘に陥ったのは彼らが技術や生物的特性を同化する種族であり、『ヤマト』に使われている技術を同化しようとしたから抵抗しただけであり、彼らとの間に戦う理由は無い――あれは例えるならば軍隊アリを相手にするようなものだ。
「じゃが、今のままでは直に波動エンジンは使い物にならなくなるじゃろう。じゃから、それまでに修理に必要なナノマシンを確保しておきたい」
渋面を浮かべる徳川――イスカンダルへの航海を優先する事に彼も異論はない。だが現実問題として『ボーグ』の置き土産によって波動エンジンはいつ強度不足に陥って停止してしまうか分からない状態であり、機関長としては撤退の前に波動エンジンの修理に目処を付けておきたいのだ。
作戦室に集まっているクルーたちの視線が集中する中、沖田艦長が口を開いた。
「『ヤマト』の目的は地球を救う為にイスカンダルへたどり着き、コスモリバースシステムを受領して帰還すること。その為にも我々がしなければならな事は、この平行世界から元の宇宙へと戻り航海を再開すること……だが、その為には波動エンジンは必要不可欠なものだ」
そして沖田艦長は周囲に集まるクルーをゆっくりと見回した後に決断を伝えた。
「ワシはまず『エンタープライズ』に話をしてみようと思う」
大型宇宙ステーション『デープ・スペース・13』は『エンタープライズ』の属する陣営が建造したものであり、エンタープライズを通じてならナノマシンの備蓄の量が分かるかもしれない。そうすれば『ボーグ』と敵対関係にある『ナデシコ』勢から『ボーグ』の同化技術に対抗する術をカードに、『デープ・スペース・13』からナノマシンを融通してもらう事も可能かもしれないから。
USS『エンタープライズE』ブリッジ
巨大な宇宙基地『デープ・スペース・13』の付近で待機している『エンタープライズE』は基地が放棄された理由を探るべく、各種観測機器を用いて慎重に調査していた――そもそも、この宙域に惑星連邦の様式で巨大宇宙基地が設置されたという記録はなく、それが未知の現象で放棄されたと言うのだ――きな臭い匂いしかしないではないか。
「データー。『デープ・スペース・13』周囲に変化はないか?」
「……半径三光年には空間の異常は見受けられませんが、ステーション周辺には微弱な空間の湾曲が見受けられますね。航行には支障はないレベルですが」
キャプテン・シートに座るライカーの問いに、『ヤマト』より帰還して任務に復帰したデーターはコンソールの表示を読み取りながら答える……先程まではピカードが指揮を取っていたが、『ヤマト』から通信が入って艦長室で対応している為に、副長のライカーが調査の指揮を引き継いでいた。
「……外的要因により『デープ・スペース・13』は放棄されたが……もはや脅威は去ったのか?」
「サー、それは早計だと思います。空間の湾曲という痕跡がある以上、何かが有った可能性は高く、“それ”が再び脅威となるかもしれません」
考え込んでいたライカーの呟きを聞いて、データーは驚異の正体を突き止めるべきだと進言する。それを聞いたライカーも原因不明のままでは対処のしようもないと考えて引き続き調査を命じたが、艦長室より出てきたピカードが調査の中止を命じる。
「艦長?」
驚きの顔を浮かべながらもキャプテン・シートより立ち上がったライカーはピカードにシートを返す。キャプテン・シートに座ったピカードは、副長席に座ったライカーに説明する。
「先ほど『ヤマト』から『デープ・スペース・13』異変の原因に付いて情報がもたらされた」
「『ヤマト』から?」
「説明によれば『デープ・スペース・13』は時間衝撃波に襲われて、『デープ・スペース・13』の内部は時間変動状態になって時間がまともに流れなくなったらしい」
「……そんな事が」
「基地の周辺には空間異常が残照として残っているが、それ以外は数年前の事なので残ってはいないそうだ」
「それが本当だとすれば、『ヤマト』の情報収集能力は侮れませんな」
ピカードとライカーが『ヤマト』の高い解析能力について話していると、『デープ・スペース・13』へと戻っていった『ナデシコD』より映像通信が入った事を伝える。ピカードはメイン・ビューワーに写すように指示すると、程なくしてビューワーに先ほどまで話していたナデシコの副長アオイ・ジュンの姿が映し出された。
「『ナデシコD』の副長のアオイ・ジュンです」
「『エンタープライズE』の艦長ジャン=リュック・ピカードだ」
ピカードが名乗るとビューワーのアオイ・ジュンは少し驚いた顔をするが、直ぐに取り繕う。
「いかがですか、基地への嫌疑は晴れましたか?」
「ええ、どうやら放棄された理由は疫病の類では無いようですが、我々にはこの宙域に基地が建設されたというデーターはありません。ですので調査をさせて頂きたい」
ピカードの要求に、アオイ・ジュンは暫し思案した後に了承の意を告げる。ならば基地内にエンタープライズを入港させて心ゆくまで調査をされてみては、と提案した。
「こちらとしても対『ボーグ』への同盟に付いて話し合いたいと思ってますので」
アオイ・ジュンの提案について考えたピカードは了承を告げる。
「分かりました。ではこれより『デープ・スペース・13』へ向かいます」
「では直接会えるのを楽しみにしています」
そう言ってアオイ・ジュンは通信を切る。そしてピカードは交代要員としてコン・コンソールに座るエスタード准尉に発進準備を整えるように指示した後、戦術ステーションに居るウォーフに『ヤマト』に『デープ・スペース・13』に向かう事を通信するように指示する。
そうして指示を飛ばしていると、『デープ・スペース・13』に変化が起こった。上方の航宙艦の係留施設のある傘の部分の一角に備え付けられた巨大なゲートが開閉し始めたのだ。
「艦長。『デープ・スペース・13』のグラウンド・ゲートの開放を確認しました」
「センサーの反応は?」
「グラウンド・ゲート周辺にエネルギー変動はありません」
キャプテン・シートに座わったピカードは、入口付近に仕掛けが施されていないかセンサーで探らせていた。これまでに様々な文明や組織を相手にしてきたピカードだけに、同盟を申し込んできた相手とは言え無警戒に艦を前進させるような事はせず、不測の事態に備えることを怠らなかった。
「よろしいのですか、艦長」
「あの基地に色々と不可解な面が有るのは承知している。だからこそ、詳細な調査が必要だ」
難色を示しているライカーにそう応えるピカード
「それに『ヤマト』は『ボーグ』に埋め込まれたシステムを復旧する為に大量のナノマシンが必要だそうだ。ならば話の持って行きようによっては此方の味方になるだろう」
「ナノマシン、そんな物でどうやって?」
「ナノマシンを使って『ボーグ』のシステムを書き換えるそうだ。だが、必要な量のナノマシンは本艦だけでは生成するのに時間が掛かる。ならば基地の設備を使うしかないだろう。『ヤマト』にもそう伝えてある」
そう答えるとピカードは、戦術ステーションのウォーフに『ヤマト』の状況を問う。
「『ヤマト』はどうか?」
「『デープ・スペース・13』に向けて移動を開始しています」
「そうか、我々も行こう。操舵手、推力四分の一。発進」
ピカードの号令を受けて、エンタープライズはその巨体を静かに進める――先行する『ヤマト』に続いてゆっくりと『デープ・スペース・13』に接近すると、上部構造物の扉『グラウンド・ゲート』がゆっくりと開いていく――巨大な航宙艦も余裕で入れる程のゲートに向けて『ヤマト』と共に細心の注意を払いながら進んで行った。
宇宙戦艦『ヤマト』 第一艦橋
「とんでもない大きな扉だな」
「これだけの規模の基地を建設するなんて、かなりの国力と技術が必要だ」
『ヤマト』が通ってもかなりの余裕がある巨大な扉を潜りながら、その巨大さに圧倒された太田の呟きに、計測装置を操作している真田もこれだけの規模の基地を建設するのに必要な労力を思い浮かべて感心したように頷く。そして巨大な扉をくぐり抜けた『ヤマト』の眼前に広大なスペースが広がった――天井に設置された照明器具が扉の内部を照らし、『デープ・スペース・13』内部に広がる空間の奥には円筒状の渓流設備が設置されて、幾つかの宇宙船が繋がれていた。
「副長、あの船は」
「ああ、形状から見るに惑星連邦の航宙艦のようだ」
やはり、元は惑星連邦が建設した宇宙基地のようだ。だが『エンタープライズ』のライブラリーには、この宙域に大型宇宙基地を設置したというデーターは無いと言う……何やらきな臭いモノを感じるが、背に腹は変えられない程に『ヤマト』のダメージは酷いのだ。
USS『エンタープライズE』ブリッジ
今、艦長であるピカードと副長であるライカーは、係留施設の内部を映すメイン・ビューワーの映像を見て眉を顰めていた。
「艦長、係留されているミランダ級は……」
「USSフリゾン、確か五年前に磁気嵐に遭って遭難した筈だな」
『ヤマト』に続いて『デープ・スペース・13』上層部のスペースドックのグランド・ゲートを抜けたエンタープライズは、内部へと進んでいく内に中央部にある係留施設に繋がれた航宙艦の登録番号を見て驚きに包まれていた。
「データー。ほかの船はどうか?」
フリゾンの他にも数隻の航宙艦が係留されているのを見たピカードは、『ヤマト』から帰還して通常の任務に戻ったデーターに係留されている他の航宙艦の経歴を洗うように命じ、コンソールを操作して情報を集めたデーターはシートを回してピカードへ向き直る。
「艦長。係留されている航宙艦は、USSアタラクタ、シンリョウ、エネミヤなど既に廃艦になっていたり、行方不明になっている船ばかりです」
「……つまり、大規模な隠蔽工作が行われた可能性が高い訳か……いよいよこの基地がまっとうな存在ではない可能性が強まったな」
「どうしますか艦長?」
「
「アイ・サー」
ライカーはイエローアラート発令に基づき、各セクションに連絡を取って警戒を現にするよう命令を伝える。警戒態勢を取りながらも『エンタープライズ』は巨大な空洞の中央部にある係留施設へと近づくと、施設からボーディング・ブリッジ(橋状構造物)が伸びてきて『エンタープライズ』のエアロックに接続される。
「エアロック接続完了しました」
「ナデシコ側より通信。三時間後にこれからに付いて話したいとの事で、艦長の出席も要請されています」
接舷が完了した報告と共にナデシコ側から会談の要請が入り、それを聞いたライカーは難しい顔をしているピカードに問い掛ける。
「どうします、艦長?」
「……受けよう」
「よろしいので?」
「今問題なのは、ナデシコ側の思惑と、ありえない場所に存在するこの基地の事だ。それは分けて考えた方が良い様だな」
「……ナデシコ側は艦長が。そして基地の方は……」
「私が彼らの注意を引き付けている間に君達で調べて欲しい」
宇宙戦艦『ヤマト』 ブリッジ
「――3,2,1、逆噴射」
眼前に広がる宇宙基地『デープ・スペース・13』内の係留施設に向けて減速しながら近付いていく。操舵を担当する島の手腕によって船体を微かに揺らしながら『ヤマト』は、中央部に位置する円筒形の係留施設へと近づいて各種スラスターを噴射してゆっくりと減速する。
「『ヤマト』停止します」
島の報告の通りに『ヤマト』の船体は、係留設備と相対速度をゼロにしてその場に停止する。報告を受けた沖田艦長は、第一艦橋に居る上級士官を見回した後に指示を出した。
「『ヤマト』は現地点で待機。真田君は徳川君と協力して『ヤマト』の船体の修理を頼む」
「分かりました」
真田に修理の陣頭指揮を命じると、沖田艦長は戦術席に座る古代に視線を向ける。
「ワシはこれより『デープ・スペース・13』に行き、ナデシコ側やエンタープライズ側と会談に望む。古代、君も同行してくれ」
「分かりました」
どうも、しがない小説書きのSOULです
それぞれの勢力が、それぞれの思惑を以て宇宙基地へと集まってきます。
次回 第三十六話 接触。
様々な勢力が、それぞれの思惑を以て会議室に集い――その裏で二人の少女が出会う。
では、また近いうちに。