宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第三十六話 接触

 

 宇宙戦艦『ヤマト』 左舷格納庫


 

 空間汎用輸送機コスモシーガルの機内には会談に向かうべく沖田艦長を始め戦術長古代進や船務科長森雪。そして技術科より宙士長の佐野史彦と、医療用ナノマシンへの造詣が深いと言う事で医官の佐渡酒造と、その補佐として衛生士の原田真琴も参加し、護衛として保安部より十名が乗り込んでいた。

 

「エアロック閉鎖。機内の気密確認」

「操縦系問題なし、各電気系統オールグリーン」

 

 操縦席に座る航空隊の篠原と副操縦席に座る古代が、コスモシーガルの発進準備を進める中、後部座席に座る沖田艦長と佐渡の間には今回の目玉とも言える人物が座っていた。

 

「翡翠、今回はおとなしくしていてくれよ?」

「……艦長のおじいちゃんは私を何だと思っているのかな!?」

 

 茶目っ気たっぷりな口調で釘を刺す沖田艦長に頬を膨らませて抗議する翡翠だったが、反対側に座る佐渡は「がははは」と大笑いし、後ろに座る真琴には「艦内でイタズラばかりしているからでしょう」と冷たく諭す……それが更に翡翠の機嫌を悪化させたが。

 

 副操縦席に座っている古代は、後ろの座席で繰り広げられる和気藹々と言った会話を聞きながら彼女が参加している理由に思いを馳せる――翡翠の気付きから『デープ・スペース・13』が放棄された理由に仮説は立ったが、それだけではない可能性もあり地球人には分からない感覚を感知出来ると無い胸を張る翡翠も参加が要請されて今回の会談に同行する事となった。さらに言えば、現在『ヤマト』艦内に広がりつつある不穏な空気に翡翠がキレて暴れる可能性もあり、気分転換も兼ねて『ヤマト』以外の場所へと連れ出すと言った意味合いもあるのだ。

 

「艦長。シーガル発進準備整いました」

「やってくれ」

「了解」

 

 沖田艦長の了承を得て格納庫の管制室は、『ヤマト』格納庫と宇宙空間を隔てる扉の開閉スイッチを押して開くと、アームが稼働して電磁パットで固定したコスモシーガルを宇宙空間へと誘う――暇そうに足をプラプラさせていた翡翠がふと管制室の方へ眼をやると、そこには岬百合亜に憑依したイスカンダルの第三王女ユリーシャと、護衛任務で同行している星名の姿があった。

 

(……ケガは大したことないようだね、流石体力勝負の保安部。けど……)

 

 『ボーグ・ドローン』からユリーシャを守るとした星名は『ドローン』に吹き飛ばされた時のケガで頭に包帯を巻いているが、管制室の窓からシーガルを見ているユリーシャは、何時もの活発さは鳴りを潜め、逡巡しながらも視線はしっかりこちらを見ている。

 

(……何か気付いたかな? さっすが、自称王族だねぇ)

 

 記憶をなくした時には鬱陶しい位に構いに来たのに、目の前で『ドローン』を倒した後は目に見えて此方を避けている……思考を巡らしている内にシーガルは格納庫から宇宙空間に出たようだ。アームの先端に付いている電磁パットから解放されたシーガルはスラスターを吹かして姿勢を安定させると、一路中央部へと進路を取った。

 

(……さて、どうなることやら)

 

 


 

 

 デープ・スペース・13 中央管制室

 

「――いよいよですね」

「……ああ」

 

 巨大な係留施設をコントロールする管制室の窓からは、ボーディング・ブリッジに接続された『エンタープライズ』の姿と中央施設近くに停泊している『ヤマト』から小型艇が発進する姿が見える。それを真剣な眼差しで見ているホシノ・ルリに、隣に居るアオイ・ジュンは静かに語りかけた。

 

「『エンタープライズ』側には、君の言うピカード艦長が居る。『ボーグ』対策のスペシャリストだと言う彼の協力は是非とも欲しい所だ」

「そうですね。この世界に基盤のある組織の協力は、『ボーグ』との戦いには必要な事だと思います」

 

 話しながらもジュンはウィンドウを呼び出すと、時間の確認を行ってルリに会談場所として用意した会議室へと向かう事を告げて、共に歩き出す。

 

「あの『ヤマト』とは言う船も協力してくれるだろうか?」

「見るからに重武装の戦闘艦ですし、エネルギー係数もかなりの高さを計測しましたから。味方は一隻でも多い方が良いですね」

 

 ジュン達にとって、宇宙戦艦『ヤマト』は未知の存在であった――全身に武器をまとった強力な戦闘艦であり、そのスペックはこの基地のデーターには無く彼らの話ではジュン達とは別の並行世界から迷い込んできたとの話であった。その時には時間もあまり無く、彼らのメンタル的な部分は触り程度しか分からなかった。

 

「此方の参加者はボク達の他にはフレサンジュ女史、タカスギ副長、そしてウリバタケ班長の五名。エンタープライズ側からはピカード艦長以下四名。『ヤマト』側からは艦長のオキタ・ジュウゾウ以下八名……三勢力の集まりとして多いのやら少ないのやら」

「私としては、あの娘も参加させたかったんですけどね」

「……ジャスパーか。不確定要素になりそうで、ボクとしては不参加で有難いんだけどね」

「……あの娘の様子を見ていると私達との間に壁のようなものを感じます。恐らくですけど、まだ何か情報を隠していると思うんです」

「……会談の場を利用して、それを引き出そうと思ったのかい?」

「ええ。大体、不参加の理由が他にやる事があると言うんですから不安です」

 

 金色の瞳を伏し目がちにしながら不安を吐露するルリ。

 

「……それは確かに不安だな」

「……時折ですけどあの娘は努めて冷静に対処しようとしている節がありますね……全然隠せていませんけどね」

 

 ナデシコDの再建をしながら、経験不足を指摘して強制的にコミュニケーションを取っているルリは、ジャスパーの言葉の端々に躊躇いというか遠慮が見える事を指摘すると、ジュンはこれまで未来から送り込まれた謎多き対人インターフェイスと名乗る彼女の行動思い出して渋面を浮かべる……確かにジャスパーは、必要最低限の関わりしか持とうとしていなかった。

 

「なのでアゥインとノゼアそしてハーリー君に、ジャスパーを見張るように頼んでいますけど」

「……苦労をかけるな」

「今更ですよ」

 

 くすっと笑うルリに、ジュンも苦笑を返した。

 

 


 

 

 デープ・スペース・13 展望室

 

 巨大な宇宙基地であるデープ・スペース・13は長期滞在を視野に入れた設計をされており、生活環境もストレスを軽減出来るように各所に配慮がされていて、佐渡から会談の間は施設内でも見学させてもらいなさい、と送り出された翡翠と真琴はブラブラと手持無沙汰で基地内を物見雄山のお上りさんのように歩いていた。

 

 本来なら衛生士である真琴も補佐として会談に参加してなければならないが、空気が悪くなった『ヤマト』の艦内でストレスを抱えているであろう翡翠の気分転換も兼ねて、この基地内を散策する事によりストレスの軽減に繋がればと言う沖田や佐渡の心遣いであった……お目付け役を付きであるが。

 

 『ヤマト』艦内の翡翠に対する視線は好意的な物もあれば、異星人であること自体を嫌悪する視線もあり、それは『ボーグ』の攻撃の折に彼女が『ドローン』を撃退した事実が逆に彼女を孤立させる要因となっているのだ……まあ、当の本人はまったく気にしていないのが救いだったが。

 

 とは言え、そんな翡翠であっても流石に好んで騒ぎを起こそうとは思っていないようで、『ヤマト』艦内に居る間は医務室で閲覧許可の出ているデーターを読み漁って暇をつぶしているようだが……意外だが翡翠はデーターを閲覧するのが好きらしく、色んなジャンルのデーターを読み漁るばかりか友好的な人物からおすすめのデーターや印刷本を借りて読んでいる……しかし、もっとも好んで読んでいるのが『般若心経』なのは枯れていると思う……一番笑ったのは、副長の真田からおすすめの印刷本を借りて頭から煙を出していた時だった。

 

 

 暫く気ままに基地内を散策していた翡翠と真琴であったが、通路の先に開いたままのドアがあり、落ち着いた照明に照らし出された内装が休憩出来そうな予感を感じさせた。

 

 二人が立ち寄った部屋は展望室として設置された部屋であり、かなり広いスペースの中に座り心地の良さそうなソファーがいくつも設置されていて、窓から見える広大な宇宙空間を見ながら、備え付けられた『エンタープライズ』にも設置されているレプリケーターがら提供されるドリンクを持ってきて休息を取れるような場所として作られたのだろう。

 

「どう、翡翠?」

「う~ん、ここら辺は影響が無いみたいだけどね」

 

 する事もない翡翠とお目付け役として同行している真琴は、会談が終了するまでの間に基地内を散策する事にしたのだが、いざ散策を始めると所々の施設が立ち入り禁止になっており、こっそり翡翠に確認すると時間変動の影響が至る所に残っているようで、この展望室にしても所々に置かれた観葉植物も殆どが枯れて放置されていた。

 

 思わぬ不便に興が削がれた二人は備え付けられたソファーに座って飲料設備からドリンクを取り出してチビチビ飲んでいると、入口近くが何やら騒がしくなった……声は妙に高く、女性か子供だろうか。

 

「ちょっと待ちなさい、ジャスパー!」

「どこへ行くんだ、ジャスパー!」

「……子供は元気だねぇ、あ~めんどい」

 

 展望室に入ってきたのは、銀色の髪を短めのボブカットに揃えた眠たげな金色の瞳を持った十代前半の少女と、それを追って来たのか銀色の長い髪ポニーテールに束ねて金色の瞳を持った少女と、同じ顔立ちを持った三つ編みに髪をまとめた少女。そして短めの黒髪と黒い瞳を持った十代前半の少年の三人だった。

 

「おろ? 誰だろう」

 

 先頭を行くボブカットの少女の金色の瞳がソファーに座った翡翠達を見つけると、頭をポリポリ掻きながら近づいてくる。

 

「はろ~、私はジャスパー。よろしく」

「こんにちは。私は宇宙戦艦『ヤマト』の原田真琴、こちらは翡翠よ」

「よろ~」

 

 にっこりと笑いながら自己紹介する真琴とヤル気なさげに挨拶を返す翡翠。ポニーテールに髪を束ねた少女はアゥイン・カネミヤと、長い黒髪を二つに編んで三つ編みにしている少女ノセア・カネミヤは双子の姉妹だと言い、そして黒髪の少年はマキビ・ハリと名乗り、三人ともナデシコ級のオペレーターだと言う。

 

「へぇ~、三人ともその年齢で正規のオペレーターなんだ、すごいね」

 

 感心する真琴であるが、十代前半であれほど巨大なナデシコDの正規オペレーターを務める事がどれほど異常な事なのか理解出来ていなかった……ハチャメチャな行動をして感覚を麻痺させた元凶とも言える、横に座った翡翠が妙に大人しい事を訝しんだ真琴が視線を向けると、やって来た四人の中の一人ノゼアと名乗る少女と視線を合わていた。

 

「どうしたの翡翠?」

 

 真琴の呼びかけにも答えずにノゼアと見つめ合う翡翠。ノゼアの側に居る二人も不思議そうな顔をして呼びかけるが彼方も返答がない……会話もないまま見つめ合う二人だったが、暫くすると。

 

「――ふしゃあああ!」

「――きしゃああ!」

「……はいはい、見つめ合っていた訳ではなくって、睨み合っていた訳ね」

 

 産毛を逆立てて威嚇し合うバカ猫二匹を見て呆れたような表情を浮かべる真琴だったが、何時までも威嚇を止めない翡翠の両脇に手を入れて持ち上げる。

 

「ほら、何時までもバカな事やっていないで」

「ノゼアも何時までやっているつもりですか」

 

 向こうもアゥインとハーリーの二人がかりでノゼアを引き剥がしていく……真琴に持ち上げられてぶらーんとしている翡翠に近づいたジャスパーが苦笑を浮かべる。

 

「えらくノゼアちゃんと仲良しになったね」

「――ん?」

 

 眠たそうな目をしながら話しかけてくるジャスパーを見た翡翠の翠瞳が細まった。するりと真琴の腕からすり抜けると翡翠は改めてジャスパーを見る。

 

「あっちに面白いモノがあるんだけど、一緒に行ってみない?」

「……いいよ」

 

 暫く見つめ合っていたジャスパーと翡翠は、そう言うと展望室から繋がる部屋へと向かっていく――一瞬追い掛けようかと思った真琴だったが、子供同士で親交結ぶのも良いかと思って二人っきりにしてみようかと考える。

 

 目の前でノゼアという少女を諌めるアィウンとハーリーを見ながら、大人たちに囲まれた『ヤマト』艦内という環境は翡翠の情緒教育に悪影響があるのではと考えていた真琴は、ナデシコ側とは言え近い年代の子供と交流を持つ事は良い事のように思ったのだ。

 

 それに何かあっても“あの翡翠”だし、余程の事がなければ問題ないだろうと考えていた。『ヤマト』が『ボーグ』に襲われた時にはクルーを助ける為に尽力してくれた事を考えると、正体不明だとしても悪い子ではないと思っていたのだ。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 ついに翡翠とジャスパーが出会いました――ここから物語は加速します。

 次回 第三十七話 対ボーグ同盟。
 ジャスパーに誘われて別室へと向かった翡翠は、彼女の真摯な願いを聞いた後に己が半身と再会する。一方宇宙基地で行われた会談は、三者の未来を決める……すべては大切なモノの為に。

 では、また近いうちに。
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