宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第三十八話 闇に潜む者たち

 

 USSエンタープライズE 艦長私室


 

 同盟締結の会談を終えた後、船に戻って艦隊司令部への報告や上級士官への説明などを終えたピカードは、全ての仕事を終えたのを確認して私室へと戻ってきた。

 

「コンピューター、何か音楽を」

 

 ピカードのリクエストに応えて室内に落ち着いた曲が流れ始め、制服のジャケットの前を開けて楽になると腰のフェイザーなどをテーブルの上に置いて、壁に設置されたレプリケーターよりアールグレイを取り出してシックな色合いのソファーに座る……疲れた身体を包み込むように受け止めるソファーが心地よい。

 

 同盟はナデシコ側と惑星連邦の間では速やかに締結されたが、予想通り『ヤマト』側は難色を示した――無理もない話だ。彼らの目的は故郷へと帰る道を探す事であり、『ボーグ』などというこの世界の驚異と戦うというのは彼らの目的を考えれば容認出来ないだろう。

 

「……ナデシコ側の協力を得られたとは言え、厳しい戦いになるな」

 

 ナデシコ側の目的は『ボーグ』に同化されたテンカワ・アキトの奪還ただ一点であり、ピカードが『ボーグ』から救出された件に付いて熱心に聞いてきたので、信頼の置けるナンバーワンに丸投げした。

 

 同盟を組んだ事を報告した惑星連邦宇宙艦隊司令部は、単純に戦力が増えた事を歓迎していたが、迎撃の為の艦艇を集めるのに苦労しているようで、応援の艦の派遣要請は無下もなく断られてしまった。

 

「……ままならないモノだな」

「――まったくだ」

「――誰だ!?」

 

 誰もいない筈の部屋の返答が帰ってきた事で一瞬驚いたピカードだったが、艦隊士官としての長年の経験が彼をソファーから一瞬で跳ね起きさせて腰のハンドフェイザーを取ろうとしたが、テーブルの上においてしまった事を思い出して顔を顰めながらもフェイザーを取ると不審者へ向けて構える。

 

「止めておけピカード。そのフェイザーはロックした。もちろんこの部屋のシステムも」

 

 冷静な不審者の声に訝し気に眉を寄せたピカードは、フェイザーを起動するが反応はなく。ピカードは内心の動揺を押し殺してフェイザーのシステムを確認する……声の主の言う通りシステムはロックされて解除する事は出来なかった。ピカードは声の主に視線を向ける――部屋の奥に居る侵入者は全身に黒い制服を着込んでおり、顔は暗くてよく見えなかったが制服の線から男性である事が分かる。ピカードはジャケットのコムバッチを起動する。

 

「ピカードよりブリッジ、侵入者だ!」

 

 だがコムバッチから返答はなかった。

 

「ブリッジ! どうしたブリッジ!?」

「無駄だ、ピカード。今この部屋の中は私の支配下にある」

「……何者だ?」

「君の疑問に答える者だ」

 

 男がそう答えた途端に男とピカードは転送の光に包まれ、その部屋から姿が消えて次の瞬間には別の場所へと移動していた。

 

 


 

 デープ・スペース・13 最深部 特殊兵器開発セクション

 

 光と共に転送されたピカードは突然周囲が暗闇になった事で一瞬状況が分からなかったが、鼻に付くかび臭くも埃っぽい空気に自分が別の場所に転送された事に気付く。恐らくそれを成したのはあの侵入者だと思うが、一体彼の目的は何なのか、自分を拉致してどうするつもりなのか、皆目見当が付かなかった。

 

 何かあっても即座に反応するべく腰を落として周囲の気配を探っていると、唐突に照明の光が灯ってピカードはその眩しさに手で光を遮る。

 

「そう警戒するなピカード。言っただろう、君の疑問に答えると」

 

 声のする方向へ顔を向けると、黒い見慣れない制服を来た地球人らしき男が近付いて来ていた。胸に装着されているバッジを見るに惑星連邦のようだが偽装と言う線もある。年の頃は三十代位だろうか、短く刈った金髪に彫りの深い顔立ちをしており瞳の色は青く、典型的なコーカソイドだったがこの時代において種族を偽るのは難しいことではない。

 

「君は誰だ、私に何の用だ?」

 

 厳し視線を向けるピカードと向かい合う男は、にやりと笑って自己紹介を始める。

 

「私はジョン・スミス。君と同じく連邦の脅威足り得るモノを探し出して対処する事を生業にする者だ」

「……ジョン・スミス。まともに名乗る気はないという事だな」

 

 苦々しい声を出すピカード――ジョン・スミス。古来より身元不明の遺体などに付けられる仮初の名前であり、その名乗りだけで目の前の男が信用ならない事を意味した。

 

「だが、私が連邦の存続の為に動いている事は真実だ」

「君は連邦の士官か?」

「そうだ。宇宙艦隊情報部の、まぁ別セクションになるがね」

「……別セクション――そうか! 君はセクション31の工作員か」

 

 セクション31――惑星連邦設立当初より存在しているとされる連邦宇宙艦隊情報部の非公式な下部組織であり、惑星連邦及び宇宙艦隊の安全保障を担保するために存在する組織の名称である。彼らは連邦の脅威を探し出し、突き止め、処置することが彼らの任務であり、それらの活動はすべて水面下で密かに行われていると言う。

 

「この未曾有の危機に、我々は君に情報を開示する事にした」

「情報?」

「『ボーグ』の艦隊を倒す力だ」

 

 そう言って男――ジョン・スミスは顎を刳ってピカードに道を示す。男を信用した訳ではないが、全ての装備の制御を握られて他に道がないピカードは仕方がなしにジョン・スミスの後を追って歩き出した。

 


 

 会話のないまま黙々と歩くピカードとジョン・スミス。

 時折周囲を見回してみると、何かの設計図のような物が投影されているディスプレイが有ったり、むき出しの基盤に接続された試作機のような物が置かれていたりしている。

 

「ここはデープ・スペース・13なのか?」

「そうだ。デープ・スペース・13の最深部にある特殊兵器を開発している部署になる」

「詳しいな。もしかしてこの基地を建設したのは?」

「そう、我々だ」

 

 先行する後ろ姿を睨むように見つめながら問い掛けるピカードに、ジョン・スミスはあっさりと認める。

 

「ピカード、君も読んだだろう? デルタ宇宙域を旅したUSSヴォイジャーの航海日誌――『ヴォイジャー・レポート』を。デルタ宇宙域には『ボーグ』だけではなく、他にも連邦の脅威となるような種族が多数存在する」

 

 未踏の宇宙域である銀河の反対側デルタ宇宙域に突然飛ばされたUSSヴォイジャーは、故郷であるアルファ宇宙域へと帰還する為に長い航海を旅してきた――その航海で彼らは多種多様な種族と出会った――死体を再生して増殖する種族、生きる為に健康な臓器を狙う全てが死病に犯された種族、戦いに命を懸ける狩猟種族、かつて地球で繁殖した恐竜が生き延びて進化した種族、そしてこの宇宙とは別の流動空間に生きる種族など、デルタ宇宙域には危険な種族が数多く存在しており、それらの侵入を阻止する為にこの巨大宇宙基地デープ・スペース・13は建造されたと言う。

 

「幾つかの探査衛星が哨戒網を作り、何かあればステーションから即応部隊が急行する――筈だったのだが、デープ・スペース・13は未知の現象に襲われて放棄せざるおえなかった」

「突然、人体が灰になるというあれか……」

 

 未知の現象にエンタープライズも原因を探っていたが、『ヤマト』側からデープ・スペース・13の近くで何らかの要因により時間衝撃波が発生し、基地内に時間変動が生じて時間的なモザイクが出来てしまった事が原因であると伝えられた。

 

「その為にデルタ宇宙域への警戒網構築は大きく後退してしまった――だが失われた訳ではない」

 

 ジョン・スミスを名乗る男は振り返り、ピカードに不敵な笑みを向けるのだ。

 

 


 

 

 デープ・スペース・13 居住施設

 

 宇宙基地デープ・スペース・13にたどり着いて早3年、把握しているだけでも居住施設は広大であり、少なくとも一万人以上の人員が生活するだけの施設が整備されている。『ナデシコC・D』のクルー達は無人の居住施設の一角を生活の場として使用していた。

 

 ここはそんな居住施設の中でも各班長を務めるクルーが居住している区域であり、司令室に近い所に位置している。そんな居住区の中で一番大きな居住室は公用スペースとして利用されており、何時の間にか人が集まってお茶を飲んだりしているのだ……このようなスペースは他にもあり、未知の宇宙に飛ばされてクルー達は孤独感を感じているのかもしれない。

 

 現在、公用スペースにはアオイ・ジュンとホシノ・ルリやイネス・フレサンジョとウリバタケ・セイヤなど、先の会談に参加したメンバーが集まっていた。

 

「どうやらキャプテン・ピカードの協力は得られそうですね」

「そうね。『ドローン』にされた個人を取り戻すには注入されたナノプローブを除去して、埋め込まれた機械を取り除く。経験者を紹介してもらえるのは有難いわね」

 

 誰の趣味だか広い間取りのリビングの真ん中に畳を敷いて設置したコタツに潜り込んで、何処からか調達したミカンに似た果実を食べながらピカードから聞いた『ボーグ』との戦いの話を思い出す――ピカードが属する惑星連邦は多大な犠牲を払いながら『ボーグ』の侵略を退けてきた。その中には『ボーグ』に同化された者を確保して『ボーグ』から開放したケースもあったと言う。

 

「今『ボーグ』が作っている『トランスワープ・ハブ』は連邦にとっても脅威だからな。出来るだけ早くに攻撃部隊が送り込んでくるだろう」

「『ボーグ』と連邦が戦っている間に、アキトの奴をかっ攫おうって訳か……そう、上手くいくかねぇ?」

 

 同じくコタツに潜ってミカンを食べているジュンとウリバタケが今後の展開を予想する――『トランスワープ・ハブ』の完成は、連邦にとって喉元に刃を突き付けられたに等しい。ならばそれを破壊する為に大兵力を送ってくるだろう。そして戦いは激しいモノになるはずだ。

 

「問題はアキトの奴がどの船に居るかなんだが……」

「そこはウリバタケさんの手腕に期待しているよ」

「……中々良い性格になったじゃねぇか――んっ?」

 

 にやりと他力本願な事を言うジュンに苦笑を浮かべたウリバタケだったが、突然顔を上げて周囲を見回す。

 

「どうしたんだ?」

「……いや、何でもねぇ……気のせいだったみたいだ」

 

 ウリバタケの突然の奇行に訝しんだジュンが問いかけると、後ろ頭を掻きながら何でもないと告げる。その顔は釈然としないながらも、気のせいだったと自分を納得させていた。

 

「所で艦長の方は、その後どうなんだ?」

「……今も眠っているよ」

 

 そして話題は艦長ミスマル・ユリカの容態へと変わる……『エンタープライズ』や『ヤマト』との初接触の折に、アキトの事で取り乱したユリカはルリ達に連れられて会場から退出したが、精神的に疲労が溜まっており別の部屋で休ませていた――だが時間が経ってもユリカが目を覚ます事はなかったのだ。

 

 最初は何時ものボケかと皆軽い気持ちでいたのだが、何時まで経ってもユリカは目を覚ます気配はなく、眠り続けているユリカを心配したルリがイネスに診察を依頼したが、身体的には何ら異常は見られないと言う。

 

「定期的に診察しているけど、栄養失調気味ではあるけど身体的には異常は無いのよね」

「……ですが何日も眠り続けているなんておかしいです」

「……艦長だから何日も眠りこけているなんてのも、あるんじゃねぇか?」

「……流石のユリカでも、それはないだろう」

 

 乾いた笑いを浮かべるジュンだったが、後ろに気配を感じて振り返った。が、そこには何もなかった。

 

「おかしいな、気のせいか?」

 

 


 

 ミスマル・ユリカ私室

 

 ジュンとウリバタケ達が話している公用スペースから続く通路を少し歩くと、個人に宛てがわれた私室が見えてくる。他の居住施設に存在する個室と同じく人一人が生活するには十分な広さを持ち、そこがミスマル・ユリカの休んでいる彼女の個室となる――個室の前のスペースには何も存在していないはずなのだが、何もない空間が波立つと空中に特徴的な栗色の髪を持つ少女の生首が浮かぶ。

 

「中々面白い装備を持っているじゃない」

「……これはこの基地にあった装備で、未開文明の調査の時に着用するホログラム・スーツよ」

 

 すると生首の傍の空間が波立つと、銀色の髪を持つ少女の生首が現れた。栗色の髪を持つ少女は面白そうに笑いながら、後から現れた銀色の髪を持つ少女に語りかける――栗色の髪を持つのは翡翠であり、銀色の髪を持つのはジャスパーであった。

 

「ふ~ん。で、これを使って色々やっている訳だ?」

「失礼な、私がそんな不真面目な人間に見える?」

 

 にやにやと笑いながらスーツのホログラムを解除する翡翠に、ジャスパーは不本意だと言いながら解除したスーツを脱ぐ……眠り続けるミスマル・ユリカを救ってくれと頼まれた翡翠は、まずは彼女の状態を見てからだとジャスパーに答えた。

 流石に『ヤマト』に属する一見普通の少女にしか見えない翡翠を、ナデシコの主要人物であるミスマル・ユリカの寝室へ誘う訳にはいかず、仕方なしにジャスパーが用意したホログラム・スーツを使用してミスマル・ユリカの眠る私室の前へと来たのだった。

 

「……この部屋に眠り姫が眠っているのね、私より医者の出番じゃないの? 良いせんせ、紹介しょうか?」

「……医学ではユリカ艦長を救う事は出来ないわ」

 

 肩を竦める翡翠にジャスパーは首を横に振りながら答え、後は中に入れば分かるとばかりに私室のセキュリティを解除すると扉を開いて中へと入って行く。それを見た翡翠はため息を一つ付いた後に後頭部をぽりぽりと掻きながら中へと入っていった……部屋の中に入ってまず目に付いたのは、落ち着いた色彩の家具の上に置かれた小物が女性らしさを醸し出し、ワンポイントで置かれた生花が部屋の雰囲気を柔らかい物にしていた。

 

 何気ない風で素早く部屋の配置を確認した翡翠の目に、壁側に置かれたベッドとそれに眠る青い髪をした女性――ミスマル・ユリカの眠る姿を映ると、翡翠の緑色をした瞳が細まる。

 

「……なるほどね」

 

 翡翠の緑の瞳が紅い輝きを放ちながらユリカを見る――彼女の瞳には、ユリカの身体から精神の一部が抜き取られて別の位相へと引き込まれているように見えた。

 

「……起きないはずだわ。ミスマル・ユリカのカルマが抜き取られているじゃない」

「カルマ?」

「魂の一部とでも言うべきか、ミスマル・ユリカをミスマル・ユリカたらしめているモノよ」

「……演算ユニットの影響がそこまで深刻なモノだったなんて」

 

 翡翠の話を聞いたジャスパーは顔を顰める。

 

「……何とか出来る?」

「……まぁ、何とかなると思うけど。それより例の“モノ”は用意出来た?」

「情報量が多くて苦労したけど、こんな偏った情報なんてどうするの?」

 

 ジャスパーの問い掛けに顎に手をやって考え込んでいた翡翠は右手を向けて催促すると、この状況を打破するには不要に見える資料を『ナデシコD』のデーターベースからかき集めさせられたジャスパーは疑問に思いながらも集めたデーターを纏めた記録媒体を翡翠に渡すと、それを受け取った翡翠は記録媒体の内容を速読して無言のままユリカに近づく。少し頬が痩けたユリカの顔に翡翠は優しく右手を当て――ただ手を当てるだけでなく、指と指の間を開いた特徴的な形でユリカの頬とこめかみを軽く押すように当てていた。

 

「……何をしているの?」

「……昔、知り合いに悪魔のような修行僧がいて、強制的に覚えさせられた技『精神融合』だよ。これでミスマル・ユリカの精神に潜って演算ユニットとのリンクを――」

 

 そこまで言った時だった――突然ミスマル・ユリカの顔に幾何学模様が浮かび上がると、光度を増しながら周囲の空間に波及して至近距離にいた翡翠とジャスパーを包み込んだ。

 

「――これは!?」

「――遺跡のナノマシンの発光パターン!?」

 

 幾何学模様の光が消えた後は、ミスマル・ユリカに覆いかぶさるように眠る翡翠とジャスパーの姿があった。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 今回、惑星連邦の闇に潜む『セクション31』のエージェントが登場しました。
 『セクション31』は、ロミュラン帝国のタルシアーやカーデシア連合のオブシディアン・オーダーと同じく惑星連邦の闇に存在する諜報機関であり、惑星連邦の利益の為に独自で活動しており、その存在は連邦の中でも一部の者しか知らない秘密組織であります。

 最初は『セクション31』のエージェントが『エンタープライズE』の中におり、暗躍するエージェントを探し出す展開も考えましたが、話が長くなりそうなので、その部分はすぱっと破棄しました。なので、彼らはあまり話に関わっては来ません。


 次回 第三十九話 精神世界
 ミスマル・ユリカの精神世界に引きこまれた翡翠とジャスパーは、そこに巣食うモノと対峙する。


 では、また近いうちに。
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