宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第三十九話 精神世界

 

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 眩い光に潰されないように瞼を閉じた翡翠は、周囲の気配を油断なく探っていた……が。

 

「……と言うか、私精神体じゃない」

 

 身体の感覚がなく、目を開けようにも開ける目がない。周囲には気配はおろか感覚を感じる皮膚もない為、何も感じられない……はずなのだが、翡翠はどうやっているのか周囲に消えそうな弱い精神体が存在している事を感知していた。

 

 我の心を汝に――

 

 悪魔のような修行僧に叩き込まれた精神統一を行い、翡翠は消えそうな精神体――コンピューター思考体にカトラがある事には驚いたが、それ故か未だ幼い精神に語りかける。

 

 思い出せ、汝の姿を――

 作り出せ、汝の姿を――

 

 自らも精神を統一して自らの姿を強く思い浮かべて――“目を開ける”目の前に弱々しい光を放つ精神体、ジャスパーへと“口を開いて”語り掛けた。

 

「ここはナノマシンによって繋がっているミスマル・ユリカの精神世界でもあると共に、私達の精神世界でもある――自らの姿を強く思い浮かべなさい」

 

 翡翠は慎重に弱々しい光に手を伸ばして触れる――すると光は形を変えて人の姿を取り始める――光は銀色の髪を持つ少女の姿ジャスパーへと変わっていった。

 

「……気分はどう? コンピューター思念体(笑)」

「……おい、(笑)とはどういう意味!?」

「モデリングで仮想の肉体を作るのはコンピューターの十八番でしょうに」

 

 笑いを堪えている翡翠のツッコミに、ジャスパーは不貞腐れてそっぽを向く。そんなジャスパーの子供っぽい仕草に笑いを堪えていた翡翠だったが、ようやく笑いの発作が収まったのか、軽く深呼吸をすると目を閉じて精神を統一する。

 

「……何をする気?」

「ここは精神世界――ならば強くイメージすれば、それは形となる」

 

 この言葉と共に翡翠の前に何かが形作られていく。

 

「……これは貴方が乗っている船のミニチュア?」

 

 そこに現れたのは、全長が一メートル位の模型のような宇宙戦艦『ヤマト』の姿であった。流石にこれは予想外だったのか、目を開けた翡翠も思わず間の抜けた表情を浮かべた。

 

「……あれ、『ヤマト』? てっきりアイツが出ると思っていたのに……『ヤマト』での生活が長かったからなぁ」

 

 後ろ頭をポリポリと掻きながらボヤく翡翠だったが、気を取り直すと『ミニチュア・ヤマト』に乗ると、童心に帰って遊んでいるのかと呆れ顔をするジャスパーに乗るように促す。

 

「いやよ、恥ずかしい」

「何言っているの、人の精神世界は広大よ。しかもミスマル・ユリカのカルマは別の位相に送られているから、これに乗って効率良く探すのがベターよ」

 

 説明するが、なんやかんやと嫌がるジャスパーに焦れた翡翠がジャスパーの腕を掴んで無理矢理『ミニチュア・ヤマト』の上に乗せる。

 

「『ヤマト』発進! ……なんちゃってね」

「いやぁああ!」

 

 ミニ波動エンジンより動力を送られて噴出口に火が点り、『ミニチュア・ヤマト』は素晴らしい加速で精神世界を疾走する――振り落とされそうになって、必死にアンテナに捕まるジャスパーの悲鳴を響かせながら。

 

 


 

 

 暫く精神世界を飛びながら『ミニチュア・ヤマト』の上で翡翠は、連れ去られたミスマル・ユリカのカルマを探す――恐らくはミスマル・ユリカの脳幹にまで侵入していたナノマシンの仕業であろう事は明白である。

 

「……どうやらあの変な渦巻きの向こうのようね」

 

 レーダーを使うまでもなく、周囲の空間は光が渦を巻いて回廊を形成している。一本道なのだから間違えようがないだろう。

 

「……随分余裕ですね、翡翠」

 

 『ミニチュア・ヤマト』の上で何とか体勢を立て直したジャスパーが恨みがましい目で睨みつけながら皮肉る……暫く無言で進んでいた二人だったが、回廊の終着点らしきモノが見えて来た。

 

「……どうやら、あれが別の位相への入口のようね」

「入口?」

「貴方たちがボソン・ジャンプと呼ぶモノ――ナノマシンでイメージを伝えて、どこぞの演算装置が周囲に変換フィールドを発生させるシステム――けど、アレは普通のフィールド発生装置とは違うようよ?」

「違うって?」

「恐らくアレは、アストラル体に干渉する事に特化しているんだわ」

 

 精神体であるにも関わらず、翡翠の緑色の瞳は紅く輝く――力を行使する際には瞳が紅くなると自覚している影響だろう。彼女の瞳には別の位相に繋がったまま開いているように見える……ミスマル・ユリカのカルマを別位相に送ったまま閉めると、精神に悪影響を及ぼして肉体的にも衰弱死する可能性があるのだろう。

 

 翡翠の推測に頷くジャスパー。

 

「――行きましょう、翡翠」

「――そうね」

 

 覚悟を決めた二人は『ミニチュア・ヤマト』を加速させて、回廊の先へと進んだ。

 

 


 

 

 デープ・スペース・13 最深部 特殊兵器開発セクション

 

 ジョン・スミスと名乗る男に連れられたピカードは、モニターが幾つも置かれていた研究棟らしき場所から通路へと進んで行く。最小限の照明に照らされた通路は不気味な様相を醸し出し、長らく人が通っていないようだ。ほの暗い通路を通り、ピカードとジョン・スミスは特殊兵器開発セクションの最深部へと到達する。

 

「着いたぞ、ピカード」

 

 通路の奥にある部屋へと到達したジョン・スミスは、振り返るとにやりと笑う。その皮肉げな顔を見ながらピカードは、この見るからに怪しい士官の目的を測りかねていた……セクション31.連邦の黎明期より存在し、連邦をあらゆる驚異から守る為に活動している人々であり、その為には連邦を連邦たらしめている連邦憲章すらも無視する危険な存在でもある。

 

 その工作員である彼は、『ボーグ』が『トランスワープ・ハブ』を建設しているという脅威に対処する為に自分達を利用しようとしているのは分かるが、こんな所に連れてきて何をしようというのか? そして彼らが建設したという、このデープ・スペース・13を不法に占拠しているナデシコ勢を何故そのままにしていたのか? 未知の現象に襲われたこの基地にたどり着いた彼らを、未知の現象へのサンプルとして監視していたのだろうか?

 

「あの厚かましい不法占拠者達も、ここまでは把握していないようだな」

 

 デープ・スペース・13に流れ着いて暮らしているというナデシコ勢を揶揄しているのだろう、毒を吐きながらジョン・スミスは部屋の中に入ると、あるディスプレイの前に立ってピカードを呼び寄せ、警戒しながらもディスプレイに近づくピカードに向けてディスプレイに表示したモノを見せる――それは航宙艦に装備されている光子魚雷や量子魚雷に似ているが、それよりも一回り大きな兵器だった。

 

「……これは?」

「試作型のトリコバルト弾頭だ」

「……トリコバルト?」

「そう、連邦艦でも数隻にしか配備されていない試作型の弾頭だよ。話には聞いた事があるんじゃないか?」

「……」

 

 トリコバルト弾頭――この弾頭は通常の弾頭とは異なり、エネルギーを放射するのではなく瞬間的に強力な亜空間フィールドを発生されるものである。瞬間的に発生した亜空間は、通常の空間に干渉し、大規模な空間変動を引き起こして目標を破壊するのだ。

 

「試作型ゆえ弾頭は二発しかない、有効に使ってくれ」

 

 そしてジョン・スミスはディスプレイを操作して別の画像を映し出す――それにはデープ・スペース・13の上部係留設備に鎮座する無数の航宙艦群の姿があった。

 

「ピカード。これらの航宙艦は何の為に集められたと思う?」

 

 意味ありげに問い掛けるスミスに、ピカードは顎を癪って続きを促す。そんな態度に特に反応するでなくスミスは話を進める。

 

「M-5システムという言葉に覚えは?」

「もちろん有るさ。宇宙艦隊にとっては悪夢のような出来事だからな……まさか?」

 

 突然謎かけのような事を言い出すスミスに答えたピカードは、言葉の裏を考えてある考えに思い至って驚きの表情を浮かべた。スミスはそんなピカードの驚きに口の端をつり上げる。

 

「元々無人艦構想は昔から有ったが、百年以上前のコンピューターM-5の暴走により多数の死傷者が出た事件の影響で、ほとんどタブーとなっていた。だが七年前の『ボーグ』によるウォルフの大虐殺で、我々は多くの航宙艦と一万人近くの艦隊士官を失った」

 

 『ボーグ』の侵攻を阻止する為に迎撃に出た宇宙艦隊は、たった一隻の『ボーグ・キューブ』により壊滅状態に陥り、多数の犠牲を出した宇宙艦隊は再建に尽力したが、航宙艦は建造できても失った人材を補充する事にはかなり苦労していた……専門知識を持つ優秀な艦隊士官を育てるにはかなりの時間が必要であり、その事に頭を悩ませていた艦隊上層部は以前より存在した無人艦構想に注目していた――主力艦には出来なくても、辺境警備や初期探査などの任務を有人艦の肩代わりをする事で人的コストを下げようとしたのだ。

 

 だが状況は悪化の一途を辿る――『ボーグ』の存在するデルタ宇宙域のみならず、別の宇宙域との接触による戦争状態への突入。そして『ボーグ』による二度目の侵攻により連邦宇宙艦隊はさらに多数の航宙艦を失うという打撃を受けたのだ。

 

「連邦はこれ以上の戦争には耐えられない……『ヴォイジャー・レポート』によれば『ボーグ』のみならず恐るべき種族は複数存在すると言う――ならば早急な戦力の回復は急務だった」

「その為の無人艦か」

「ああ、ココだけでなく別の基地でも研究は進んでいる――だが、デープ・スペース・13を不法占拠している彼らは、上にある航宙艦の制御システムを利用して安定したシステムを構築した」

 

 我々の努力はなんだったのだろな、とスミスは自嘲気味に失笑をこぼす。そしてスミスはピカードに視線を向けた。

 

「掴んだ情報では、現在艦隊は編成作業に追われており、増援が到着するには早くても一週間は掛かる」

 

 我々が出来るのはここまでだ、そう言い残してスミスは突然照射された転送ビームの中に消えた……後には難しい顔を浮かべたピカードが残された。

 

「……言いたい事だけ言って消えたな」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 ユリカの精神世界に取り込まれた翡翠とジャスパーは、位相の奥へと向かう。
 一方、暗闇から姿を現した男は、ピカードに何をもたらすのか?
 
 次回 第四十話 精神世界での攻防 前編
 位相の奥に、かの者は居る。

 では、また近いうちに。
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