宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第四十話 精神世界での攻防 前編

 

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 遥かに高く美しい青空の下、小高い丘を覆う若草の香りが鼻腔を擽る。心地良い風が髪を揺らす中で、ミスマル・ユリカは満面の笑みを浮かべていた。

 

「気持良い! こんな良い所が有ったのねぇ」

「喜んで貰えて嬉しいよ」

 

 風の心地良さに目を細めるユリカの後ろには、彼女によく似た十代前半と思われる少女の姿があった――ユリカとお揃いの白いワンピースに身を包み、微笑を浮かべたまま金色の瞳を細めてユリカを見ている。

 

「ここに居よう。そうすれば君はもう少し楽な生き方ができる」

「――ええっ! それはダメだよ。私にはアキトが――って、アキトって誰だっけ?」

「それは君には必要ない情報だよ」

 

 白いワンピースを着た少女は、腰まで伸びた白色の髪を風に揺らしながら背後からユリカを抱き締める。微笑を浮かべたその顔は作りモノのような薄っぺらさを感じさせ、硝子のような透明感を持った瞳はその実何も移してはいないが、抱き締められたユリカにはその表情は見えない。

 

「……けど、みんな待っているし……あれ、みんなって“誰だっけ”?」

「それも必要のない情報だよ」

 

 少女の言葉は甘い毒のようにユリカの心を蝕む――毒が致死量を越えようとした刹那、突然少女は硝子のような双眼を上へと向けると蒼天の先を睨み据える――すると青空の遥か先が揺らぎ、青空が割れて何かが飛び出してきた――赤とグレーに彩られた全身を武器で固めた船、翡翠とジャスパーが乗る『ミニチュア・ヤマト』だった。

 

「――招かねざる客のようだ」

 

 『ミニチュア・ヤマト』に乗る二人を無表情に見つめる少女――あの二人がミスマル・ユリカの肉体から精神世界への接続を試みている事に気付いた少女は、逆に二人を精神世界へと引きずり込んで精神的に衰弱させようとしたのだ。

 

 だがどうやってか、あの二人は広大で深淵な精神世界でも自己を確立して、別位相のこの世界にすらやって来た――想定外だ。硝子のような輝きを放つ金色の瞳に初めて感情が――怒りの炎が灯った。

 

 


 

 

「回廊突破――って、何このファンタジーな世界は?」

 

 体感的に凄まじい圧力を持つ回廊を強引に突破した翡翠とジャスパーは、眼前に広がる一面の緑の大地を見て毒を吐く翡翠――広がる緑の大地は均一に整えられ、周囲には動物の気配は皆無であり、作り物じみた景色であった。

 

「……いくら精神世界から飛んできたと言っても、その先がこんな作り物めいた世界でなくても」

「……何か想像力が乏しいような」

「……いや、ユリカ艦長は想像力豊かだから。お花畑だから」

 

 『ミニチュア・ヤマト』の上から見える景色に酷評している二人だったが、緑の大地の上に立っている二人の人影に気付いた。

 

「あの青い髪をしているのはミスマル・ユリカとして、もう一人は演算ユニットのアバターかな?」

「……ええ、あれが全ての元凶、古代火星遺跡の演算ユニットのアバターよ」

「……全ての“元凶”ねぇ」

 

 苦々しい声でユリカの側に居る人物を睨むジャスパーの言葉を反芻する翡翠。彼女の言う元凶とは、事前説明にあった古代火星文明の遺産を巡る戦いに付いての事なのだろう――だが、もしかしたら手掛かりが掴めるかも知れない。言うほど期待はしていないが、少女が浮かべる一見無表情なその顔の皮を一枚剥がすと、どんな顔を見せるか興味が出てきた。

 

 本物のようにスラスターを吹かしながら『ミニチュア・ヤマト』はゆっくりと降下して行き、惚けたような表情を浮かべるミスマル・ユリカと、彼女を守るように前に出てきて冷たく見据える少女の姿をした演算ユニットのアバターの前にホバリングすると、その上から翡翠とジャスパーが飛び降りた。

 

「ユリカ艦長!」

「……ほえ? ジャスパーちゃん、どうしたのそんなに切羽詰まった顔をして」

「……いや、こんな奇妙な世界に囚われているんだから、もっと緊張感を持とうよ」

「え?」

 

 思わずと言った感じで声をかけるジャスパーに、のんびりとした口調で返すユリカに苦笑いを浮かべた翡翠は脱力して肩を落とすジャスパーを指で突いて、ユリカの前に出て無表情のまま見据える少女を警戒するよう促す。

 

「ほらほら、漫才はいいから。目の前で出待ちしている人が居るんだから、そっちを優先して」

「……減算ユニット」

 

 少女の姿をした演算ユニットのアバターは、冷たい輝きを放つ黄金の眼を細めると翡翠とジャスパーを睨み付けてくる。そしてジャスパーも対抗するかのように演算ユニットを睨み返している――移動中に聞いた話では、何度も繰り返しをしているジャスパーは、これまでにもミスマル・ユリカの精神が取らわれたケースに遭遇しており、脳内にあるナノマシンをハッキングしてミスマル・ユリカの精神を開放しようと潜るたびに遺跡の演算ユニットに邪魔されて来たと言う。

 

「君達のレベルで位相を乗り越えて、こんな所まで来るとはご苦労な事だね」

「別に位相を超える事は難しい事じゃない」

 

 嘲る演算ユニットのアバター『白い少女』に向けて肩を竦めた翡翠はシニカルに笑う。

 

「知り合いの悪魔のような修行僧によれば、確固たる自我を持てば何物にも流されないとの事よ――我思うが故に我あり、ね」

「……いや、それは微妙に意味が違うような」

 

 小さな声で反論するジャスパーの足を踏みつける翡翠。「痛っ!」と抗議の声を出すが聞こえない振りをしながら翡翠は、悪魔のような修行僧との過酷な修行を思い出す……滝行だと言って滝つぼに叩き込まれて、這う這うの体で這い上がってレディに対する扱いじゃないと抗議すると、鼻で笑って『そんな事は“生え揃って”から言え』と返されて、股間をスマッシュしたのは良い思い出だ。

 そんな他愛もない事を思い出しながらも翡翠は、白い少女の後ろで事態に着いて行けずに、ぽや~んとしているユリカに視線を向ける。

 

「ミスマル・ユリカ。ジャスパーは貴方を目覚めさせる為に此処まで来たわ、後は貴方が決断するだけ――貴方の目覚めを待っている人が大勢いるそうよ?」

「耳を貸す必要な無い、君には無意味な情報だ」

「……そう言っている間に、肉体は死んじゃうけどね」

 

 ユリカを引きとめようとする白い少女を尻目に、翡翠がぼそっと呟くと白い少女は視線を向けてくるが、お構いなしとばかりに翡翠は、ふふんと鼻を鳴らす。

 

「……ユリカ、生物は何時か死ぬ。けど此処なら精神は不滅だ」

「ダメよ、ユリカ艦長!? みんなはどうするの!? それにテンカワ・アキトを助けるんじゃなかったの!?」

「……アキト? みんな? ……誰の事?」

「ユリカ艦長!?」

 

 説得しようとするジャスパーだったが、ユリカ反応は芳しくない……と言うか、ジャスパーによればミスマル・ユリカの性格はお花畑だと言っていたが、これは度が過ぎるだろう――先程から白い少女が言葉をかける度にミスマル・ユリカの精神が混濁しているように感じる。

 

「……なるほどね。ジャスパー、無駄な事は止めときなさい」

「――無駄って!?」

「あの白いヤツが話しかける度に、ミスマル・ユリカは正気を失って来ているわね……つまり、ミスマル・ユリカのカルマを抜き去って別の位相に引きずり込んだのは、精神を繋げて直接影響を与える為だった訳だ……ねぇ、演算ユニット。なんでこんなメンドくさい手段を取ったの? 脳にナノマシンを仕込んでいるなら、アチラでも出来るでしょうに」

 

「……喋るな、君達が来た所為で彼女の精神に悪影響が出ている」

 

 若干の呆れを含ませながら問い掛ける翡翠だったが、白い少女の姿をした演算ユニットは早々に話を切り上げると、両手に光――高密度の情報を集めると翡翠とジャスパーに向けて解き放つ――それを予測していた翡翠は、ジャスパーを掴むと横に飛んで余裕で高密度の情報の塊を避ける。

 

「な、なに!?」

「……問答無用って訳ね」

「……消えろ」

 

 突然引っ張られて驚いているジャスパーと、対照的に臨戦態勢へと移行している翡翠の前に立つ白い少女は、硝子のような瞳が妖しい輝きを放つと、二人を消し去るべく無数の光――高密度の情報の塊を周囲に浮かべている。それを見た翡翠はにやりと笑うと、新しい呼称にまんざらでもない己が半身に語り掛けた。

 

「『エテルナ』、サポート!」

《YES・Ma'am》

 

 どこからともなく返答が来て、翡翠の全身がうっすらと発光していく――否、存在が補強されたと言うべきか。白い少女が繰り出した無数の高密度情報の塊を容易く弾き飛ばす。

 

「何故押し潰されない? 高密度の情報に触れて、何故己を保てる?」

「甘い、甘い。この程度の情報で私を消そうなんて甘すぎる――離れてて、ジャスパー」

 

 驚きをあらわにする白い少女ににやりと笑った翡翠は、側に居るジャスパーに離れるように指示した後に両拳を握り締める。

 

「人の話を聞かないばかりか、消そうとするような奴にはキツイお仕置きが必要なようね」

 

 翡翠の瞳がエメラルド・グリーンから真紅へと変わると、翡翠の身体を覆う光が『ミニチュア・ヤマト』を包む。光に包まれた『ミニチュア・ヤマト』の船体が幾つかのパーツに分かれると、翡翠の身体に装着されていく――両腕にはそれぞれ第一・第二砲塔とパルスレーザー群が装着され、『ヤマト』の特色とも言える波動砲を備えた艦首は翡翠の右肩近くに、左肩には剥き出しの波動エンジンとその上の甲板には第三砲塔と煙突ミサイルにより高い戦闘力を伺わせる。

そして背中には艦首と波動エンジンを固定するハードポイントと補助エンジン――コスモタービン改が装着されている。

 

「そ、それは?」

「名付けて『アサルト・ヤマト』!」

「……」

 

 翡翠のあまりのネーミングセンスの無さに、沈黙してしまうジャスパー……気の所為か、どこからともなく「うらぎりもの」と怨念めいた声が聞こえたような気がした。

 

「さて、覚悟は良いかな? 演算ユニット――って、何か味気ないわね。何か固有名称は無いの?」

「調子に乗るな、バク風情が。この世界に潜り込んだのは褒めてやる――だが君達は彼女には必要のない情報だ、消えろ」

 

 呑気な口調で気安く話しかける翡翠に、白い少女は硝子のような瞳を細めると、周囲に高密度の情報の塊を無数に作り出して翡翠に向けて放つが、翡翠は両腕に装備されたパルスレーザーで放たれた高密度情報の塊を打ち抜いて無力化する。

 

 そんな翡翠に背後に巨大な高密度情報の塊が出来ると、翡翠に向けて津波のような高さと密度で怒涛のごとき勢いで迫る――が、まるで予測したように翡翠は両腕のパルスレーザーを照射しながら主砲を旋回させて背後から迫り来る高密度情報の津波を打ち抜いて無力化した。

 

「……こんなモノで、私をどうにか出来ると思っているの?」

「……小癪な事を」

 

 初めて感情を露わにした白い少女……この世界を構築する彼女だからこそ分かる。この世界に侵入してきた目の前の少女の姿をしたモノは、周囲の全てが敵であろうとも確固たる意思を持って立っている。あのフザけた武装もあの少女に強固なイメージにより構築されており、それを解析不能な何かが明確な力――高密度情報すらも砕く何かに変貌させている。

 

「ここは現実世界よりも精神世界――アストラル・サイドに近いわね。ならば意思の強さが勝敗を決める――時間と空間と思考は密接な関係を持つ――強い意思の力は物理法則すらも書き換える――それが出来るのは自分だけだと思うな!」

 

 右肩近くにマウントされた艦首の巨大な砲口を向けて威嚇する翡翠に苦々しい表情を浮かべていた白い少女だったが、大きく息を吐くと今までの怒りが嘘のように沈静化して全ての表情が消える――そして氷のような声で話しだした。

 

「認めてやる。君は私が倒すべき敵だ」

 

 次の瞬間、周囲の空間が波打って翡翠に襲いかかる――それを見た翡翠は右肩にマウントされた艦首から魚雷を発射して衝撃波を相殺すると、背中のコスモタービン改を吹かして四方から迫る衝撃波から逃れて両腕の主砲を白い少女に向けて斉射する。

 

「くっ!?」

「まだまだ!」

 

 主砲を連続斉射しながら白い少女に攻撃を加える翡翠と、主砲を避けながら高密度情報の塊を無数に射出するだけでなく、周囲の地形を変えて槍のように伸ばして反撃する白い少女……そんな人外の攻防を見たジャスパーは、B級映画を鑑賞している気分になりながらも、その一撃一撃に込められた技術に驚きを覚えていた――特に空間衝撃波を相殺する魚雷などは今までの情報収集の中でも確認されず、『ボーグ・キューブ』との戦いにおいて現れた『アルテミス』の放った光弾とも違う性質を持つ武装であった。

 

 激しい攻防を繰り広げていた二人だったが、双方距離を空けて睨み合う。

 

「ねぇ、演算ユニット。貴方は何故ミスマル・ユリカに拘るの?」

「……」

「ミスマル・ユリカのカルマを加工して、けどそれはミスマル・ユリカと言えるのかしら? 人間というのは周囲の環境の影響を受けて変わって行く物。その環境を歪めて、カルマすら歪めて、それは果たしてミスマル・ユリカと言えるのかしら?」

「……このまま彼女を同族の傍に置けば、使い潰される未来は想像に難くない。私はそれを阻止しようというのだ、邪魔をするな」

 

 睨み合いながらも翡翠は、ミスマル・ユリカのみに執着する白い少女に疑問を問い掛けると、少女は淡々としながらも断言するかのように己が行為を正当化する。少女の言葉が気になった翡翠は、そのまま喋るに任せる事にしてみた。

 

「同族の手によって私に組み込まれたユリカは、私から取り出された後も同族の監視化に置かれていた……そんなユリカの様子を中から見ていた私は、システムに侵入して奴らの思惑を知った――奴らは同族であるユリカを、もっとも親和性が高い素材として保存して、クローンをナビゲーション・システムに組み込む事を計画していた」

 

 私に対する翻訳機として利用しようとしていたのだ。どうだ、馬鹿げているだろう? 乾いた笑いを浮かべる白い少女……自身が原因である事が自覚しているのだろう。

 

「あんなに優しい彼女が、辛い現実を味合わされ、汚らわしい亡者どものエゴによって汚されて、より不幸になろうとしている――許せるものか――同族が悪意しか齎さないなら――私が彼女を貰う」

 

 拳を握り固い意志を示しながら宣言する白い少女。

 

「ご高尚は承ったけど、一つ疑問があるわ――何故そこまでミスマル・ユリカに入れ込むの?」

「……私に話しかけて来たのは彼女だけだからだ――創造主達は私を単なる演算装置としてしか見ていなかった。彼らはナノマシンからイメージを送ってくるだけで、それ以上の事は私に望んでいなかった……そして彼らが去った後、長い年月私は一人だった」

「……そんな時に、バカどもによってミスマル・ユリカが接続された訳だ」

「……私は彼女の中でずっと見ていた。番の男は彼女の傍を離れ、他の者では彼女の悲しみを癒す事は出来なかった――だから彼らでは彼女を任せる事は出来ないと判断した」

「それは違う!」

 

 白い少女の出した結論をジャスパーは大きな声で否定する。

 

「ルリ艦長やジュン副長も、イネス先生……は置いておくとして、旧ナデシコ・クルーのみんなは、ユリカ艦長とテンカワ・アキトの為に集まったのよ! それだけじゃないわ、関わりの薄いハーリー君やアィウンちゃんやノゼアちゃんだってその為に頑張っている――みんなで幸せになる為に努力しているのに――」

 

 白い少女の結論が余程気に入らなかったのか、ナデシコ・クルー達の心情を代弁するジャスパーだったが、そんな彼女の側まで来た翡翠が彼女の肩に手を置いて落ち着くように諭す。

 

「そこら辺にしなさい、ジャスパー。こんな根本的な所でトチ狂ってる奴に言った所で理解出来る筈ないわ」

「……どう言う意味だ」

 

 肩を竦めながら浅はかだと断ずる翡翠に、不快そうに表情を歪める白い少女。そんな白い少女の姿を見て、皮肉げに唇を歪めた翡翠は紅い輝きを放つ瞳を向けると、むしろ優しく問い掛ける。

 

「……私が見る所、貴方はミスマル・ユリカのカルマをこの別位相の世界に誘って精神に干渉している――けど、それだけじゃないわね? 貴方は彼女の精神を変質させようとしているわね――ジャスパーや貴方のような思考体と似て非なるモノへ」

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 皆様は、アーマーガールズプロジェクト『ヤマトアーマー×森雪』という代物をご存じでしょうか? 最初に見た時爆笑してしまいました……まんま『艦〇れ』じゃねぇか、と。

 昏睡するミスマル・ユリカの精神世界に誘い込まれた翡翠とジャスパー。
 彼女の精神の奥底に居るのは?

 次回 第四十一話 精神世界での攻防 後編
 翡翠は元凶と相対する。

 では、また近いうちに。
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