宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第四十一話 精神世界での攻防 後編

「……私が見る所、貴方はミスマル・ユリカのカルマをこの別位相の世界に誘って精神に干渉している――けど、それだけじゃないわね? 貴方は彼女の精神を変質させようとしている――ジャスパーや貴方のような思考体と似て非なるモノへ」

 

 声を上げるジャスパーの側まで来た翡翠が肩に手を置いて止めると視線を白い少女に向けて、透き通るような笑みを浮かべ――嘲りを込めて囁く、私はそんな存在をよく知っているわ、と。

 

「精神思考体、あるいはエネルギー思考体と呼ばれる存在ね。肉の身体を持たず、私達とは別のカテゴリーになるモノ達――まぁ、大体堅苦しい奴ばかりだけどね」

 

 翡翠の話を無言で聞く白い少女。

 

「けどね、演算ユニット? 変質したミスマル・ユリカは、以前の彼女なのかしら? 人間の精神は肉の身体に覆われて、その寿命は百年位。人間はそれ以上生きるようには出来ていないわ」

 

 そして翡翠はなおも慈愛に満ちた、あるいは嘲るように――白い少女に優しく語り掛ける。

 

「そんな肉の身体に覆われた精神が、貴方たち思考体と同じように長期間の活動が出来ると思う? 百年位しか存在出来ない肉体に付属している精神が百年以上持つと思う?」

「――その程度の問題」

「解決したら、それは人間といえるのかな?」

 

 癇に障ったのか目を怒らせた白い少女は一瞬で翡翠の懐に移動すると右拳を光らせて直接打撃を打ち込むが、それを予期していたのか左腕に装着している砲塔に薄青い膜を纏わせて打撃をガードする。

 

「あら、怒った?」

「口を開くな」

 

 ガードされたにも関わらず、両拳を光らせてガードの上から猛撃を叩き込む白い少女。その圧力は凄まじく、『アサルト・ヤマト』を纏った翡翠がジワジワと後退していく。

 

「――くっ!」

 

 白い少女の猛攻を薄青い膜を纏った両腕で弾いた翡翠は、背中のコスモタービン改を吹かして距離を取る――が、それを予期していたかのタイミングで距離を取る翡翠の周囲に無数の光弾が輝くと、光で焼き尽くさんばかりの勢いで襲い掛かって来た。

 

「――タチの悪い!」

 

 両肩にマウントしたパルスレーザーを照射して光弾を撃ち抜くが、撃ち落とす端から倍以上の光弾が翡翠に襲い掛かる。立体的な機動と速射性に優れた武装を屈指して襲い来る無数の光弾を掻い潜って右腕の主砲を白い少女の居る方向へと向けるが、その場所には少女の姿はない。

 

「――後ろか!?」

 

 思考体の分際で殺意を撒き散らしてと悪態を付きながら翡翠は、白い少女が振り下ろした右拳を左腕に纏わせた薄青い障壁でガードするが、少女の小柄な身体からは想像もつかない程の衝撃が翡翠を襲い、背中のコスモタービン改を全開にして対抗するが衝撃を相殺する事が出来ずに吹き飛ばされて大地に叩きつけられた。

 

 衝撃により大地に深い亀裂を生み出しながら、大量の土煙を撒き散らすその光景を冷めた目で見ている白い少女は、次の瞬間に両手に大量の高密度情報を発生させると振り向きざまに打ち出す――あまりに高密度故に眩い輝きを放ちながら大地に降り注ぐ高密度情報の無数の塊は、地中を進んで白い少女の背後を取ろうとして大地より飛び上がった翡翠に殺到する――否、飛び上がったソレは翡翠を守っていた『アサルト・ヤマト』のみであった。無数の高密度情報の直撃を受けて『アサルト・ヤマト』は直撃部分より崩壊していく。

 

「――何処に!?」

「――此処だ!」

 

 古典的な手に引っ掛かった己に歯噛みしながら周囲を探す白い少女の背後を取った翡翠は、蛇のように両手をしならせて白い少女の関節を極める――翡翠のやった事は単純明快、大地に叩き付けられた翡翠はその場で『アサルト・ヤマト』をパージすると、遠隔操作で白い少女の背後から飛び出すようにした後、土煙を煙幕にその場に潜んでチャンスを待った――白い少女が囮に気を取られる瞬間を――そして飛び出した『アサルト・ヤマト』に気を取られたその隙に、潜んでいた翡翠は一気に飛び出して背後から白い少女に肉弾戦を仕掛けたのだ。

 

「この、離せ!」

「嫌なこった」

 

 逃れようともがく少女を更なる関節技で拘束する翡翠は、いかなる手段を使ったのか少女と共に凄まじいスピードで大地に向けて落下する――少女を下にしている所から叩きつけようと言うのだろうが、それを易々と許す少女ではなく関節技から逃れると逆に翡翠を拘束して叩きつけようとしている。

 

 落下中に攻防を繰り返しながら、大地に叩きつけられる寸前で双方大きく距離を取り、お互い獰猛な笑みを浮かべた次の瞬間には一気に距離を詰めて肉弾戦へと移行する翡翠と白い少女を呆れたような眼差しで見つめるジャスパーであったが、内心では白い少女と互角に戦いを繰り広げて居るように見える翡翠に驚いていた。

 

 翡翠が見た目に反して途轍もない存在である事は“前回”で嫌というほど味わったのだが、対峙する白い少女の姿をした演算ユニットもまたジャスパーや他の『オモイカネ』・シリーズなど歯牙にもかけないほどの演算能力を有しており、IFSを使って白い少女にアクセスして演算を妨害しようとしたが、彼女の行っている演算の複雑さとあまりのスピードに太刀打ち出来ずに断念せざる負えない存在であった。

 

 演算と対峙した時、彼女は問答無用で翡翠とジャスパーを分解しようと精神干渉を仕掛けてきたが、前に出た翡翠の強固な精神障壁にあっさりと跳ね除けられた。その後はこの世界全てが敵となってあらゆる方法を使って侵食しようとしてきたが、翡翠はその全てを撥ね退けて演算ユニットを挑発する。

 

 業を煮やした演算ユニットは、遂に翡翠を消去すべく直接的な攻撃を仕掛け始めてが、翡翠は『アサルト・ヤマト』なるネーミングセンス・ゼロなモノを纏って対抗する――そして戦いは長距離からの攻撃から肉弾戦へと移行していた。

 

 攻防一体の『ヤマト・アーマー』を脱いだ翡翠は、何と演算ユニットに関節技を決めるという暴挙に出たのだ。無力ゆえに傍観者と化していたジャスパーもそれを見た時は「なにしてんの!?」と驚いたが、翡翠は構わず次々と関節技を掛けながら急降下していき最後には演算ユニットを放り投げて大地に叩きつけた。

 

 流石にその程度でダメージを受けることはないが、プライドを傷つけられたのか即座に復活した演算ユニットは憤怒の表情を浮かべると翡翠に殴りかかるが、振り抜かれる拳を往なすとその腕を取った翡翠はくるりと身体を回転させて演算ユニットを投げ飛ばす。

 

 そして追い打ちを掛けるように投げ飛ばされた演算ユニットを追撃すると、翡翠は両の拳を振り上げて演算ユニットの背中に叩き付けようと振り抜くが、それは空振りに終わる。

 

「ぬっ?」

「何度も同じ手が通じるか」

 

 独楽のように身体を回転させた演算ユニットの足が加速して翡翠に襲いかかる――咄嗟に腕でガードした翡翠だったが、衝撃は凄まじく小柄な身体は弾き飛ばされた。

 

 ……こんどはローリング・ソバット。しかも仕掛けたのは演算ユニットである。意表返しにしても程があるとジト目になってしまうジャスパー。

 

「やってくれるじゃない、ならばお返しよ!」

 

 翡翠の宣言と共に握った拳が輝き、演算ユニットに向けて駆け出す。それを見た演算ユニットは無数の光弾を生み出すと、一気に放出する。それを驚異的なフットワークで回避した翡翠は、遂に演算ユニットに肉薄するが、演算ユニットの表情に焦りはなく恐ろしい速さで光弾を生み出すと、翡翠の顔めがけて打ち出す――が、それを予期していたかのようにしゃがむと光弾が頭上を飛んでいく。

 

「くらえ!」

 

 身体が沈み込むよりも早く地面に付いた片手一つで飛ぶと、輝く拳を演算ユニットのアバターめがけて叩き込んだ。その威力は凄まじく、身体を九の字に曲げて吹き飛ばされていく。

 

 それを追いかけて追撃を仕掛けようとした翡翠だったが、即座に体勢を立て直した演算ユニットに追撃のパンチを絡め捕られて放り投げられて距離を開けられた。それからも別位相において展開された仮想現実内で、二人は技の応酬し合って遂には低レベルな殴り合いの様相になっていた。

 

「ぐっぬぬうぬ!」

「うにゅにゅう!」

 

 ……遂にはお互いの頬っぺたを抓り上げていた。

 

「……何をやっているのよ、あのバカ共は」

 

 思わずボヤくジャスパーであったが、子供の喧嘩のような事をしていた翡翠と演算ユニットが示し合わせたかのようなタイミングでそれぞれの頬から手を離して飛び退いた時点で表情を引き攣らせる――飛び退いている途中でボロボロになった艦装を回収した翡翠は未だ崩壊を免れている波動砲を模した砲口を構え、反対側に着地した演算ユニットは両掌の間に今まで以上に圧縮した光弾を浮かべる。

 

「ガンマ・レ――じゃなかった、波動砲だ!」

 

 翡翠が構えた艦首の砲口に光が溢れ出し、対峙する演算ユニットの両掌の間で輝きを増す高密度情報の塊が苛烈なる光を放つ――双方とも持てる力の全てを使って必殺の一撃を繰り出そうとするその瞬間、演算ユニットの背後から伸びた腕が優しく抱き締めた。

 

「――ユリカ?」

「ありがとう、私の為に怒ってくれて。けどね、ナデシコのみんなを置いて私だけこの世界で暮らす訳には行かないわ」

「ユリカ、あの船のクルーだって人間だ。これから先どんな心変わりをするか分からない」

「みんなとは木蓮との戦争の時から苦楽を共にしてきたし、アキトを連れ帰る為に集まってくれた訳だしね。異世界に放り出したままには出来ないし――何よりアキトをこのままには出来ないわ、だって私はアキトの奥さんだもの」

「……ユリカ」

 

 抱き締めながら自らの心情を語り掛けるユリカに悲しそうな表情を浮かべる演算ユニット……そんな演算ユニットの頭をユリカは優しく撫でる。

 

 その光景は母娘の語らいか、姉妹の抱擁か、戦闘意欲を失くしたかのようにユリカの抱擁に抱かれている演算ユニット……が、それを冷めた眼で見ている翡翠。艦装の砲口を下ろしながらも油断無く警戒している翡翠は、良かった良かったと言いながら近づいてくるジャスパーに視線を向ける。

 

「……ねぇ、ジャスパー。アンタは、ユリカ艦長はお花畑だって言っていたね?」

「え? ま、まぁ、ナデシコでは皆そんな認識だよ?」

「……アンタ達の目は節穴か。アレはウチのお姉ぇと同類じゃない」

「お姉ぇって、お姉さんの事? どんな人?」

「お腹の中真っ黒」

「……マジ?」

「いや、ユリカ艦長のパーソナル・データを見た時からおかしいとは思ったんだよ? 高級軍人のご令嬢が鳴り物入りで士官学校に入るなんて、悪目立ちしすぎじゃない。それが優秀な成績で卒業したんでしょう? やっかみも大変だったろうに、そんな人間が楽天家の天然の性格をしているなんて無理があるでしょう」

 

 渋面を浮かべた翡翠は、そうボヤいた。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 今回少女たちによる『キャット・ファイト』をお送りしました。(おい

 ミスマル・ユリカに対する考察――高級軍人のお嬢様がシミレーションで負け知らずで、優秀な成績を収めるような目立つ存在が、周囲のやっかみを受けないわけがないのに、天真爛漫? そして『ボゾンジャンプ』の中枢であり、悠久の時を膨大な演算に費やして来た『演算ユニット』は何時しか自我を持つようになったが、古代火星文明を創った異星人は『演算ユニット』にはただ演算機能のみを求め、それゆえに芽生えた自我は成長する事なく、いまだ幼いままであり――それを象徴するのが精神世界での戦いでの頬の引っ張り合いなんですよね。
 
 ここら辺が独自解釈のタグをつけた理由の一つなんですよね。

 次回 第四十二話 一筋の涙
 現実世界へと帰還した翡翠とジャスパー。
 ――だが、現実に現れたのは彼女達だけではなかった。


 では、また近いうちに。
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