宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第四十二話 一筋の涙

 

デープ・スペース・13 居住施設


 

 居住施設の中でも大きめな居住室にて、これからの事を協議していたジュン達だったが突然大きな音が響いた事に驚いて顔を見合わせる。何から倒れるような音がしたのだが、その音がした方が問題だった。

 

「な、何だ?」

「何かが倒れたような音だったが――ユリカの部屋の方から聞こえたぞ!?」

 

 何か異変が起きたのかと慌てた四人は席を立つとユリカの部屋へと向かう――意識を失ったまま目覚めないユリカに何かあったのか、未だ演算ユニットとのリンクは途切れず日々に弱っていく彼女の身にこれ以上不幸が訪れるなど神はいないのか。焦燥感に襲われながらもユリカの部屋のドアを開けた四人が見たものは、折り重なるように倒れた二人の少女――ジャスパーともう一人見知らぬ少女の姿だった。

 

「……ジャスパー? こんな所でなにをしているんですか? それともう一人の方は見ない顔ですね」

「一体ここで何をしているジャスパー! その子は誰だ? ココは病人の部屋だぞ、部外者を連れ込むなど何を考えているんだ!?」

 

 その光景を見たルリは努めて冷徹な声を。会談への参加を打診したが用事があると言って辞退した彼女が、いつの間にかユリカも眠る部屋に潜り込んでいたのだ。一体どんな思惑を以てこの場に居るのか? 疑念の籠った視線を向ける。そしてジュンの対応は感情の爆発という直接的な物であった。

 

 唯でさえもミスマル・ユリカと遺跡の演算ユニットとのリンクを切断する方法が分からず、少しずつ衰弱していく彼女の姿に忸怩たる思いをしていたが故に、眠り続けているユリカの部屋へ無断侵入したジャスパーに怒りが沸き起こり、さらに傍に居る見知らぬ少女の姿を見咎めたジュンは普段の温厚な彼では考えられない程の怒りを見せるが、二人の少女はまるで意に返さず周囲をキョロキョロと見回している。

 

「……おいおい。ジャスパーと、もう一人はあの『ヤマト』の子だよな? ここは病人が寝てるんだ、勝手に入って良い場所じゃないぞ……一体どうやって入ったんだ?」

 

 妻帯者であり比較的子供に慣れているセイヤは、呆れたような声を出しながら諫めるがその目は笑っていない。ユリカの眠る部屋へ行くには自分達の居た居住室の傍を通らねばならず、まったく気配を感じなかった事に不信感を抱いていたのだ。

 

 だが、そんな周囲の反応など素知らぬ顔で眉間を抑えながら起き上がったジャスパーの翡翠は、頭痛を振り払うかのように頭を左右に振りながらも何とか立ち上がる。

 

「痛たた、何が起こったの?」

「痛つつ、強制的に融合が切られたようね……やってくれるな、演算ユニット」

 

 ミスマル・ユリカとの精神融合を強制的に切断された翡翠は、未だ本調子ではないのかフラフラと覚束ない足取りながら起き上がり、何が起こったか良く分かっていないジャスパーに答える――だが、答えの中にあった聞き捨てならない単語にルリが反応した。

 

「……貴方。今演算ユニットと言いましたね、どういう意味です?」

 

 ルリの金色の瞳が強い光を放ち、嘘も言い逃れも許さぬとばかりに詰問してくる。色々と溜め込んでいるらしい彼女にどう説明しようかと考えていると、部屋の奥に設置されているベッドの方から声が掛かる。

 

「ふあああ、よく寝た。どうしたのルリちゃん、そんなに慌てて?」

 

 気の抜けるような声が聞こえて翡翠を除く全ての人間の視線が別途へと集中する。そこには部屋の主であるミスマル・ユリカが、寝ぼけ眼で身を起こしていた。

 

「ユリカさん!」

「ユリカ!」

「艦長!」

「ユリカ艦長!」

 

 ベッドから身を起こしたミスマル・ユリカの姿を見たルリとジュンそしてセイヤとジャスパーが驚きの声を上げて駆け寄って行く……火星の後継者から救い出された後も長い間仮死状態にされた後遺症から長期のリハビリを余儀なくされ、やっと歩けるようになったかと思えば今度はテンカワ・アキトを探す為に宇宙へと飛び出して、その結果並行世界に流れ着いた。そして、その間もユリカと遺跡の演算ユニットは途切れず、少しずつ彼女の体力を奪い衰弱させてきたのだ。

 

 その彼女が会談の際に感情を大きく乱した後に昏睡状態に陥ったのだ……彼、彼女らの心労は如何ほどだっただろうか。ルリ達は表情に安堵を浮かべてユリカの傍へと近付こうとしたが、その前に翡翠が両手を大きく広げてルリ達の行く手を阻んだ。

 

「何をするんですか、どけてください」

「ちょっと、その手をどけてよ翡翠」

 

 行く手を阻まれたルリとジャスパーが抗議の声を上げるが、翡翠は背を向けたまま反応を見せない――いや、ルリ達からは見えないが、翡翠は名の由来となった翠色の瞳を細めてユリカの座るベッドの傍の空間を見据えている。

 すると空間が渦上に歪んでいき、ぽっかりと穴が開いてその虹状の光に溢れた穴の中から白いワンピースを着た少女が姿を現す。長い白髪と何処かユリカに似た顔立ちながらも、輝く金色の瞳が見る者に強烈な違和感を与えていた。

 

 


 ミスマル・ユリカ私室

 

 昏睡状態にあったミスマル・ユリカが目覚めた。それは喜ばしい事であるが、その直後に異常事態に見舞われる――ユリカの座るベッド傍の空間が歪んでいき、虹状の空間から白いワンピースを着た一人の少女が姿を現した。一見すると幼い少女のように見えるが、普通の人間とは纏う雰囲気が決定的に違う。

 ミスマル・ユリカを幼くしたような出で立ちをしているが、まるで色素が抜け落ちたかのような白い肌に白髪が作り物めいたその容姿を強調しており、その中でも爛々と輝く金色の瞳が人でありながら人とは決定的に違う“何か”であると物語っていた。

 

「……人間、か?」

「……あなたは?」

 

 突然現れた少女の姿をした“何か”の登場に戸惑いを隠せないジュンとルリ。何者か? 目的は何か? 様々な疑念が沸き起こるが、それよりも戸惑いの気持ちの方が強く感じている。それは少女がユリカをダウンサイズしたかのような容姿をしている事が大きいのだろう。

 呆けた顔をしたセイヤは「……血縁、妹か?」などと的外れな事を呟いており、反対にイネスは九割の警戒心と一割の好奇心を混ぜ込ませた視線を向けていた。

 それそれの思惑をはらんだ視線が向けられている少女は、ゆっくりと一歩歩き出す。思わず緊張が走る中、少女の出現に目を大きく見開いていたジャスパーが眼を鋭く細めて少女の正体を呟いた。

 

「……演算ユニットのアバター……なんで実体を持って此処に?」

「……リターンマッチのお誘いかもよ?」

 

 緊張しているのか低い声でつぶやくジャスパーに茶化したような口調で答える翡翠であったが、その視線は位相の異なる世界で戦った演算ユニットから離れない。

 

 見知らぬ少女に止められたジュンは眉をピクリと動かす――また演算ユニットと言う言葉が出た。ジャスパーともう一人の少女――翡翠と言ったか、二人の会話の中に聞き捨てならない単語が出て来て思わず問い詰めようとしたその時、突然に湧き上がった刺々しい空気に気圧されてしまい機会を逃してしまう。

 両手を広げて押し留めるようにしていた翡翠が手を下ろして臨戦態勢に入ったようだ。彼女の表情を見ると唇の端を釣り上げているのが分かった。

 

「何しに現れた、演算ユニット?」

「君のような危険人物からユリカを守るために、とか?」

「……ほほう」

 

 翡翠の問い掛けに人を食ったような態度で返されて、彼女の額に怒りのマークが浮かぶ――睨み合いながら戦意を高める二人だったが突然柔らかな腕に抱擁されて、そんな奇行に走る第三者に視線を向ける。

 

「ダメだよ二人ともケンカしたら、めっ!」

「……は?」

 

 一体何を言っているのだろう? 豊満な胸に圧迫されながら翡翠は、何時の間にか起きて来て抱き締めて来るこの元眠り姫のトンチンカンな言動に微妙に白けた表情を浮かべる……見れば白い少女こと演算ユニットが間近にあり、達観したかのような表情を浮かべていた。

 

「――ユリカさん、起きて大丈夫なんですか?」

 

 体調を心配するルリにユリカはにこりと笑って見せる。

                                                                                              

「あはは。よく寝たおかげか、すっかり元気だよ」

 

 その言葉を聞いてもルリの顔から憂いが晴れる事は無かった。遺跡から彼女を解放してから三年、未だにリンクは途切れずに日々衰弱していく彼女を忸怩たる思いで見てきたのだ……それが突然元気になっただの、素直に信じられる訳がなかった。

 

「……心配しなくても大丈夫だよ」

 

 ユリカの抱擁から逃れようとしている翡翠へ視線を向けるルリ。ユリカの豊満な胸に窒息しそうになった翡翠は、抱き締める腕から逃れようと悪戦苦闘しながらも、反対側の腕に捕獲されている白い少女から視線を離さずに言葉を続ける。

 

「人は一人では生きられない。人格を形成するのに他人が必要なように、人として生きていくにはコミュニティーが必要となる――ほら、昔から言うでしょう? 『ウサギは寂しいと死んでしまう』って」

「……いや、微妙に意味が違うから」

「……だから其処ら辺を、そのトンチンカンに教育してやったわけよ」

 

 思わず突っ込むジャスパーを無視して何とかユリカの抱擁から逃れた翡翠は、ユリカに抱かれてされるがままになっている演算ユニットのアバターを指差しながら無い胸を張る。

 

「……危険人物からの言とはいえ、聞く所があれば考慮する位の柔軟性はある」

「……流石の骨董品、言う事が堅苦しい」

 

 鼻を鳴らしながらも答える演算ユニットのアバター、よほど不本意なのか作り物めいた表情を不快げに歪ませながらも答え、返す翡翠も鼻を鳴らしながら毒を吐く。そんな二人の様子を呆れた顔で見ていたルリだったが、会話が途切れた所で口を挟んだ。

 

「横からすみませんが、貴方が本当に演算ユニットのアバターだと言うのならなら言いたい事があります」

 

 二人の不毛な言い合いに横から口をはさむ形になったルリは、厳しい表情で演算ユニットのアバターを見据えながら努めて冷静な口調で話し出す。演算ユニットとのリンクが切れない事による弊害――ユリカの状態が如何に悪化したか、そんなユリカを心無い人々から守る為に如何に苦心したかを。

 

「何故、ユリカさんを助け出した後もリンクを切らなかったのですか? 私達はリンクを切断する為に考えられる全ての手段を講じたけど全てが徒労に終わりました」

 

 リンクを切る為にあらゆる波長を遮断するスペースを用意したり、リンクを成立されていると思しきナノマシンに対してアンチ・マシンを作成したりと思いつく限りの手段を用いたが、その努力をあざ笑うかのようにリンクを切断する事は出来なかった――まるでユリカを逃さないよう、演算ユニット側から積極的にリンクを継続しているようにしか見えなかったのだ。

 

「……ボゾン・ジャンプなんて禁断の果実の味を知った人間は、あらゆる手段で独占を狙うでしょう。今はまだユリカさんが制御出来る事は一部の人間しか知られていません……けれど秘密は漏れるものです」

 

 どんなに厳重に情報を秘匿しようとも人の欲望は際限なく、情報の価値が高ければ高いほどそれを知ろうとするのが人の業でもある……そのせいで何人が不幸になろうとも。

 

「そうなればユリカさんに安息の地はなくなるでしょう」

「そうだな、あの時は幾つかの企業と軍部内の派閥そして金の匂いに釣られた政治家達が嗅ぎ回っていたからな」

 

 金色の瞳を揺らしながら淡々と語るルリに、演算ユニットのアバターは嘲るでもなく只事実として告げる――火星の後継者の乱の終息後に水面下で起きた醜い権益の争奪戦を――何故、異星人のシステムである演算ユニットが人類社会の動きに詳しいのかという疑問には、得意げにない胸を張ったジャスパーが説明してくれる――いわくボソン・ジャンプの重要性が増し、それを制御する為に古代火星文明の技術を模倣したものが人類社会に組み込まれていった。そして遺憾ながら古代火星遺跡の中でも特異なシステムとも言えるボゾン・ジャンプの演算ユニットならば人知れず人類の模倣したシステムに侵入する事など児戯にも等しい事であると。

 

「……そして並行世界に転移しても貴方からの呪縛は消えなかった――もう、これ以上ユリカさんを縛り付けないで、解放してください」

 

 遺跡の演算ユニットの呪縛という眼に見えぬモノに絡み取られていたが故に手出し出来ず、考えうるあらゆる手段が徒労に終わり悲壮感と無力感に囚われていたルリの金色の瞳に浮かぶ涙には様々な感情が込められた悲しいものであった。

 

 


 

 

 巨大なステーションであるデープ・スペース・13。

 キノコ状の上部構造物内には多数の宇宙船を係留する設備が、その下部に接続された円筒形の構造物内には傷ついた船を修復する修理設備や造船ドックがあり、それらにパワーを供給する大型の動力炉が設置され、そして施設を稼働させる為に必要な人員が快適に暮らせるように居住施設も充実していた。

 

 そんなデープ・スペース・13に設けられた多くの大会議室の一つに難しい顔をしたナデシコ・クルー達が集まっていた。ナデシコ・クルー達にとって精神的主柱とも言えるミスマル・ユリカが目覚めた事は喜ばしい事であるが、目覚めた彼女の傍に現れた“異物”の存在が彼らの表情を曇らせる。

 

「まさか、ボゾン・ジャンプの演算ユニットがアバターを作って直接乗り込んでくるとはよ」

「一体、何でそんな事になったんだよ?」

 

 後頭部を掻きながらユリカの私室から以前に『エンタープライズ』や『ヤマト』の首脳陣との会談に使った大会議室へと移ったウリバタケ・セイヤは、ため息を付きながらボヤく。その言葉に反応したのは、ユリカが目を覚ましたとの報を聞いた時には喜びを露わにした機動兵器パイロット達のまとめ役であるスバル・リョーコ。他の席には渋面を作ったアオイ・ジュンや、目の周りを少し赤くしたホシノ・ルリ。そして空中に投影したデーターに目を通しながら難しい表情を浮かべるイネス・フレサンジュ。最初は笑みを浮かべて上機嫌なリョーコだったが、会議室に入り詳細を聞くにつれてその笑みは消えて周囲にいる人間達と同じく頭を抱える事となった。

 

「そうね、センサーから得られたデーターでは私達人類とほぼ同じ肉体を持っていた。けど“アレ”は特定の人物にしか反応を示さなかった……他の人間など欠片も興味がないみたいね」

 

 ユリカの私室に現れた演算ユニットの対応は他の者に任せ、イエスはユリカに異変が起こった場合に備えて携帯していた小型診断システムを用いて密かに演算ユニットのアバターを解析していたのだ。空間に投影されたデーターや、現出してからの行動を撮影した映像を見ながら彼女は思考する。

 

 “アレ”は未だにミスマル・ユリカに執着している。ジャスパーの話では、ユリカの意識が喪失していたのは演算ユニットの仕業だと言う。脳内に存在している特殊なナノマシンを用いてユリカの魂とも言うべきモノを抜き去り、位相空間に連れ去って干渉していたと言う情報はこの場に居る全ての者に共有されている。

 

「“アレ”は艦長の精神を変質させて自分の傍に置こうとしたけれど、それを力づくで邪魔されたから路線変更でもしたのかしらね?」

 

 イネスは投影された資料から視線を外すと、少し離れた場所に座る荒くれチビッ子コンビに向ける。件のコンビの内の一人であるジャスパーはイネスとは反対側の方に顔を向けて下手糞な口笛を吹いて誤魔化そうとしているし、もう一人の翡翠はテーブルに顔を伏せて寝たふりをして逃れようと言う始末だ……OK、反省の色なしだ。

 

「そして件の演算ユニットは、此方の話に聞く耳を持たずに何処かに行く始末――ああ、ちゃんと行動はトレースしてるわよ」

 

 資料に視線を戻しながら話すイネス。するとテーブルに突っ伏していた翡翠が顔を上げる。

 

「……て事は、アイツまだミスマル・ユリカを諦めていないんだ。しつこいな」

 

 にやりと邪な笑みを浮かべる翡翠を見たイネスは、『ヤマト』から来た一見普通の少女に見える不可思議生物への対抗策を講じていて良かったと彼女からは見えない角度でほくそ笑んだ。

 

「こっちとしては、これ以上不確定要素に引っ掻き回されるのは勘弁してもらいたいのだがな」

 

 渋面のまま唸るような声を出すジュンだが、そんな嫌味にも素知らぬ顔をする翡翠を見て彼の眉間のシワが増える。

 

「……つまり、ややこしい状況になったのは、そこのチビッ子の所為って訳だな――所で、そいつは誰なんだ?」

「私は、『ヤマト』のマスコット・ガールの翡翠ちゃんだよ」

 

 今更ながらに翡翠が外部の人間である事に気付いたリョーコの問い掛けに、得意げな顔をしながら無い胸を張るが、その隣にいるジャスパーが微妙な表情を浮かべていた。

 

「そうか、とはいえ部外者にこれ以上引っ掻き回されるのは容認出来ねぇ、引っ込んでてもらおうか」

「けど、あの骨董品に対抗する術はないんでしょう?」

「ぐっ!?」

「あの骨董品からユリカ艦長のカルマを取り戻した手腕は評価して欲しいと思うんだけどな」

 

 痛い所を付かれて呻くリョーコに、追い打ちを掛ける翡翠――だがそんな彼女の後方にある扉が音もなく開いて二人の人物が入室して来た事には気付かない。『ヤマト』で使用されている青い制服を着たポニーテールの女性は絶好調でノリノリな翡翠を見て頭を抱え、ピンク色の制服とニーハイソックスを着た女性は音を立てずに翡翠の真後ろまで来ると右の拳を振り上げる。

 

「で実際問題なんだけど、お姉さんにあの骨董品をどうにか出来るの?」

「――それはだな」

「アレは長い時の末にやっと話しかけてきたユリカ艦長を離す気がないストーカーだよ? ユリカ艦長以外どうでもいいと思っているから聞く気がないし」

「――そん時ゃ、力づくで!」

「出来るの?」

「――ぐっ!?」

「ほら、ほら、どうなの―――ふぎゃ!?」

「何を調子に乗ってんの!」

「な、なに!? って真琴ねえちゃん?」

 

 唸りを上げた怒りの鉄拳が翡翠の頭にヒットして、激痛に頭を押さえながら涙目のまま振り返ると、そこにはピンクの大魔神が鎮座しており、その横では貧乏くじを引いた桐生御影が「ウチのバカ娘がすみません」と頭を下げていた。

 

「ほら、バカやってないで帰るわよ」

「痛たたたっつ、耳引っ張らないで真琴ねえちゃん!」

 

 真琴に耳を引っ張られながら席を立った翡翠が抗議の声を上げながら視線でジャスパーに助けを求めるが、ジャスパーは両手を合わせて合掌している……成仏してねと言う事だろう。この野郎と内心歯ぎしりしても、現実は耳を引っ張られて情けなく扉の前まで行くと強制的に頭を下げられる。

 

「ご迷惑をおかけしました。行くわよ、翡翠」

 

 嵐のような勢いで問題児を連れて会議室より退出した『ヤマト』の女性クルー達のバイタリティに、唖然とするナデシコ勢。そんな騒動の中で一人モニターに視線を向けていたイネスが、ニヤリと笑う。

 

「あの娘の存在を知った時点で、保護者に引き取りを依頼していたのよ」

 

 手回しの良さに唖然とする一同を見回してイネスは肩を竦め、そのあまりの軽い態度に一同は頬をひく付かせる。一体、何時の間に連絡を取ったのだろうか。戦々恐々とする一同を尻目にイネスは美麗な目を細めて、ある一点――すなわち、今回の騒動の片棒を担いだ存在へと向ける。

 

「さて、この際だから色々と隠している事を話してもらいましょうか?」

 

 視線の先に居る片棒を担いだジャスパーはまるで蛇に睨まれたカエルのように額に汗をかきながら、どうやって逃れようかと思考を巡らせていると、ジュンの個人端末が起動してウィンドウが展開される。そこには青い表情をしたアゥインが映し出された。

 

「どうしたアゥイン、急用か?」

「大変です、アオイ中佐。『ボーグ』の拠点に強行偵察に出していた無人偵察機より新たな『ボーグ・キューブ』の存在が確認されました。しかも計測されるエネルギー数値は今までの三隻とは桁違いです」

「なんだって!?」

 

 突然もたらされた報告にジュンは顔色を変える。すると、報告を聞いて驚いた表情を浮かべていたルリの個人端末も起動して、ウィンドウが展開されるとノゼアの姿が映し出される。

 

「ルリ姉さま。『エンタープライズ』のピカード艦長より会談の要請が入っています。何でも緊急の要件だとか」

 

 報告を聞いたルリは、思わずジュンの居る方向に視線を向ける。そこには驚愕の表情を浮かべたまま固まるジュンの姿があった。そんな中でセイヤが唸るような声を上げた。

 

「……どうやら正念場のようだな」

 

 凶報に誰もが緊張した表情を浮かべる中で、ただ一人ジャスパーだけは何故か達観したかのように眼を閉じていた。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 翡翠が本性丸出しで暴れましがた、ナデシコで猛威を振るっていた小さな台風は、ピンクの大魔神により無事鎮圧されました。
 そして新たに表れた『ボーグ・キューブ』……出て来る『キューブ』これで最後です。『ヤマト』を欠いた『エンタープライズ』と『ナデシコ』の連合艦隊は、四隻の『ボーグ・キューブ』を相手に勝利する術はあるのか?

 次回 第四十三話 不器用な歩み寄り。
 ヤマアラシの棘を力づくでへし折る翡翠にご期待ください。


 では、また近いうちに。
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