宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
デープ・スペース・13 中央部第五多目的ホール
以前にナデシコ勢が『ヤマト』や『エンタープライズ』のクルー達と協議を行った会議室に再び人々が集まる、ナデシコ側からはアオイ・ジュンとホシノ・ルリの艦長コンビと、ウリバタケ・セイヤとイネス・フレサンジュ、そしてミスマル・ユリカ覚醒騒動からそのまま参加したスバル・リョーコと、急遽招集されたタカスギ・サブロウタとゴート・ホーリーとサポート要員としてアゥインの計八名が参加し、ミスマル・ユリカは大事をとって静養している。
その反対側には、『エンタープライズ』の艦長ジャン=リュック・ピカード大佐とカウンセラーのディアナ・トロイ中佐、高級士官のデーター少佐とウォーフ少佐の四名が参加し……以前と違い、今回は『ヤマト』からの参加は無かった。
この会談は『エンタープライズ』側からの要望で行われる事となり、挨拶もそこそこに会談は始まった。ピカード艦長の指示により、データーは投影式の端末を操作して会議室に備え付けられた大型ウィンドウを起動する。
両陣営の間に展開された大型ウィンドウに映し出されたのは、巨大な『ボーグ・キューブ』の姿であった。だがそれは通常の無数の機械を雑多に組み込んだような外装だけでなく、分厚い船体外壁を持つ通常とは異なる船であった。それを見たナデシコ・クルー達は、先ほど無人偵察機によってもたらされた新しい『ボーグ・キューブ』の姿であると理解した。
「これは連邦では『クラス4・戦略キューブ』と呼称される『キューブ』です。交戦記録は僅かしかありませんが、強力な船なのは間違いありません」
そう告げるピカード艦長の顔は厳しく、他の『エンタープライズ』の士官達も一様に厳しい表情を浮かべている。
「我々も先ほど無人偵察機よりの報告で把握しています」
「ならばお判りでしょう、問題は彼ら『ボーグ』の『トランスワープ・ハブ』が稼働状態に入ったと言う事です。このまま座視すれば、戦力を増強した『ボーグ』によりアルファ宙域は『ボーグ』の軍門に下る事になる」
ジュンの言葉に、ピカードは問題点を指摘する――未だ建造途中と思われていた『ボーグ』の重要拠点『トランスワープ・チューブ』のハブ施設が稼働を開始し、一隻とはいえ新たな『ボーグ・キューブ』がアルファ宙域に送り込まれた。それは即ち、『ボーグ』の本拠地であるデルタ宇宙域と『トランスワープ・チューブ』で結ばれた事を意味している。
「艦隊司令部に問い合わせたが、迎撃艦隊を編成するのにはまだ時間が必要との事だ。周辺宙域に展開している連邦艦は、一番近い艦でも五日は掛かる。現状で動けるのは『エンタープライズ』一隻だけです」
厳しい表情のまま淡々と告げるピカードの眼は何かを決意したかのように硬い意志の炎が宿っている。恐らくは『エンタープライズ』一隻だけでも行動を起こすつもりなのだ。
何も四隻に増えた『ボーグ・キューブ』を相手取る必要な無い。
問題なのはアルファ宇宙域とデルタ宇宙域を結ぶ『トランスワープ・ハブ』だ。それさえ破壊、もしくは停止状態に追い込む事が出来れば、四隻の『ボーグ・キューブ』は孤立する。アルファ宇宙域と銀河の反対側にあるデルタ宇宙域とは、最大ワープでも七十年以上かかる程の長大な距離があり、本来ならおいそれと援軍を送り込める距離ではないのだが、それを可能とするのが『トランスワープ・チューブ』を束ねる『トランスワープ・ハブ』なのだ。
惑星連邦の艦隊士官としての責務を果たすべく覚悟を決めた『エンタープライズ』の士官達を見て、眩しいモノを見るかのように目を細めるジュン。地球連合宇宙軍の士官として今までにも覚悟を決めた者達を見て来たし、己も覚悟を決めて戦場に臨んだ事もあった。その戦士としての嗅覚が、ここが最大の賭け場だと告げている。
見るとルリも視線を此方に向けている。若輩とはいえ彼女も幼い頃から戦場に立つ心強い戦友の一人だ。何か感じるモノがあったのだろう。頷くことで了承の意を伝える。
「状況は理解しました、今事態に対処出来るのは『エンタープライズ』一隻だけなのですね」
「でしたら私達も協力します」
ジュンの言葉を継いで宣言したルリは、手元の投影式のパネルを操作して両陣営の間に新たな大型ウィンドウを展開する。そこにはデープ・スペース・13の係留ドックで静かに出撃の時を待つ多数の宇宙船の姿が映し出される。それを見たピカード艦長の眉が動く。それらの宇宙船は、『エンタープライズE』に現れた惑星連邦設立当初より存在している秘密諜報機関『セクション・31』の工作員によって語られた、無人艦の研究の為に集められた航宙艦達であった。
「この基地に辿り着いてから私達は『ボーグ』と戦う力を模索してきました。ナデシコの再建と、この基地にあった無人の航宙艦を戦力として使えるように改造を施したのです」
「元々、私達の世界では無人艦の制御技術が存在していました、と言っても敵側の技術ですけどね。戦後に有人艦のサポート用に制御技術の研究がなされていたので、それを転用してこの基地にあった三十四隻の航宙艦を改造したのですけど……あの、どうかしましたか?」
ジュンと共に説明していたルリだったが、『エンタープライズ』の士官達が微妙な表情を浮かべている事に気付いてコテンと首を傾げる。
「いえ、なんでもありません」
コホンと咳払いをしながら話の続きを促すピカード艦長。
事前に『セクション・31』のエージェントより聞かされていたとは言え、惑星連邦において長らくタブーとされてきたAIにより航宙艦の自立制御をこともなくやり遂げるとは、人工知能の分野では彼らナデシコの居た世界の方が優れているようだ。
「こちらの戦力は『ナデシコ』CとD、そして無人稼働する三十四隻の航宙艦の計三十六隻。と言っても複雑なコマンドは無理ですが……」
「いえ、それでも戦力が多いほうが助かります」
ジュンの言葉に感謝の言葉を述べるピカード。
「とは言っても、『エンタープライズ』を合わせても三十七隻で、新たな『キューブ』を含めた四隻の『ボーグ・キューブ』を相手取るのは難しいですが……」
「ホシノ艦長、まず問題なのは稼働を始めた『トランスワープ・ハブ』です。あれがある限り、『ボーグ』はデルタ宇宙域から『キューブ』を呼び寄せるでしょう。まずはそれを阻止しなければなりません」
ピカードの言葉に頷くルリ。彼女達の目的は『ボーグ』の殲滅ではなく、囚われ『ドローン』と化したテンカワ・アキトの救出である。一隻の『ボーグ・キューブ』には十万もの『ドローン』が存在しており、現在は六隻もの『ボーグ・キューブ』がアルファ宇宙域に来ており、『ドローン』の数もそれ相応の数になるだろう。
これは非常に不味い状況である……六十万プラスアルファからたった一人の人間を探す。幸いかどうかは微妙な所だが、イネス女史による精密検査により、回収した『ボーグ・ドローン』の体組織と並行世界からやって来たナデシコ・クルーの体組織では分子配列に微妙な違いがある事が分かり、その差異を検出する探知装置の構築も済み、惑星連邦でも対『ボーグ』の専門家であるとされる『エンタープライズ』号のピカード艦長とも協力関係を築けて、さあ反撃だと意気込んでいた所に新たな『ボーグ・キューブ』の到来だ……これ以上の『ボーグ・キューブ』の到来を阻止しなければ、テンカワ・アキトの救出は夢物語となるだろう。
「では、狙いは『トランスワープ・ハブ』施設ですね」
「ええ、まずは『トランスワープ・ハブ』施設を破壊ないし停止させ、後は我々に注意を引き付けて、増援部隊の到着を待ってケリを付ける」
「そうなると、どうやって『ボーグ・キューブ』の防衛網を抜いて『トランスワープ・ハブ』施設に肉薄するかだが……」
一隻で連邦艦数十隻分の戦闘能力を持つ『ボーグ・キューブ』、しかも四隻ものキューブ群を突破するか。その場にいる全員が思案していた時に会議室の入り口の扉が開く音がして、その場にいた全員の視線が向けられる。そこにはハルカ・ミナトと演算ユニットのアバターに支えられたミスマル・ユリカと、その後ろから続くジャスパーの姿があった。
「ユリカさん!?」
「ユリカ!? まだ休んでいなければ駄目じゃないか。ミナト君、何故彼女を連れて来たんだ」
昏睡状態から目覚めたばかりのユリカの体調を心配したジュンとルリにより私室での安静を言い渡され、さらにお目付け役として同性であり年の近いハルカ・ミナトに白羽の矢が立ったのだが、どうやら人選ミスだったようだ。
「ゴメン、止めたんだけど艦長に押し切られてね……」
「ミナトさんは悪くないの、私がどうしてもって言ったから」
バツが悪そうな表情をしたミナトが謝罪すると、それをかばう形でユリカが頭を下げるが、その表情は陰りがあり未だ本調子ではない様に見受けられる。ユリカの突然の来訪に驚いたルリであったが、我に返ると即座に椅子から立ち上がってユリカに近づいていく。ユリカを支える為とはいえ、妙にべったりな演算ユニットのアバターに軽く視線を向けたが、今は無茶を繰り返すユリカへの説教が優先される。
「ユリカさん、また無茶をして。本調子じゃないんですから、まだ休んでいなければ駄目ですよ」
「心配してくれてありがとう、ルリちゃん。いっぱい寝たから大丈夫だよ……それに、どうやらここが頑張り所のようだしね――ね、ジャスパーちゃん」
何故ここでジャスパー? 疑問に思ったルリが視線を向けると、何時になく真剣な表情を浮かべるジャスパーの姿があった。そんな、らしくない表情を浮かべるジャスパーに黄金の瞳を細めて問い掛けるルリ。
「どうしたのです、ジャスパー?」
問い掛けられたジャスパーは人知れず深呼吸をすると、周囲の人々を見回してからルリへと視線を向けて答える。
「ルリ艦長。そしてこの場に居る皆に話しておきたい事があるの」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
もたらされた新たな『キューブ』――しかも殆ど交戦記録もない『クラス4・戦略キューブ』の登場に、驚きの色を隠せない一同。何故『キューブ』がこれほど集まるのか?
もちろん、理由はあります――周辺の、例えばγ宇宙域でα宇宙域に近い『キューブ』を同化作業を中断しても派遣した真意は?
次回第四十五話 出撃
『エンタープライズ』と『ナデシコ』の首脳陣は、これ以上の『キューブ』の侵入を阻止すべく、敵拠点への攻撃を決定する――その会議の最中に、ユリカに伴い演算ユニットことソフィアと、決意を固めたジャスパーが現れる――彼女たちは何を語るのか?
最近仕事が忙しくて予約投稿を利用しており、この小説も10月20日の0時、全63話で終了となります。細かい修正は後日になりそうです。
では、今しばらくお付き合いくださいませ。