宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第四十五話 出撃

 

 デープ・スペース・13 上部係留施設

 

 

 宇宙基地内の広大な格納施設には、整備を終えて出航の時を待つ三十四隻の航宙艦が轡を並べている。すでに『ヤマト』の姿はなく、彼らは己が使命を果たすべく自分達の世界へと帰還する術を探しに旅立って行った。

 

 純粋な戦闘艦である『ヤマト』の助力を得られなかったのは惜しいが、代わりに惑星連邦所属USS『エンタープライズ』の協力を得られた事は目的達成には大きな力となるだろう。

 

 この並行世界において強力な戦力を持つ惑星連邦と縁を結べたのは、情報収集能力の強化や後詰めの戦力の確保、長期化した際の補給路の確保といった意味で最良と言えるであろう。

 

 そしてこの巨大な宇宙基地に辿り着いてから早三年、まったくの未知の技術で建造された宇宙船を解析してその技術を学び、操作方法を紐解いて操舵技術を訓練で習得して、その上で自分達の持つAI技術を用いて生み出された無人航宙艦艦隊がその真価を発揮するべく、出航の時を待っていた。

 

 待機する無人航宙艦群の真下にある格納施設のゲートが開いて、一際巨大な航宙艦が姿を現す――『ボーグ』との闘いで大破しながらも再生した『ナデシコD』だ。破壊された四本のディストーション・ブレードは再建され巨大な船体の前面には新設されたナビゲーション・ディフレクターが置かれて航行中の安全を守り、無数のフェイザー・アレイや魚雷ランチャーが増設されて高い攻撃力を誇る。そして側面には四対の大型ワーク・ナセルが設置されて超光速航法を可能としており、以前とは比べ物にならない程に強力な戦闘艦となった。

 

 艦上層部に設置された円盤型の構造物に設置されたブリッジでは、出航に向けた最終調整が行われている。今まで置かれていたコントロール・システムに加えて新たに増設されたシステムをも自在に操り、再生されて新たな機能も盛り込まれた『ナデシコD』をコントロールしている――新たな船体を建造している間にも何度もシミュレーションを行って身体に叩き込んで操作する指に迷いはない。

 

『全システム最終チェック完了、オールグリーンです』

『相転移エンジン一番から八番まで出力上昇、規定値です』

『各部スラスター問題なし、上昇します』

 

 第一層で働くオペレーター達からの報告が上がる。

 

『各部制御システム、オールグリーン。艦内施設を繋ぐバイオ神経回路も正常に稼働中』

『各無人航宙艦とのリンクも問題なしです』

 

 第二層からアゥインとノゼアの双子のオペレーターから報告が第三層のミスマル・ユリカに上がり、中央の艦長席に座るユリカは目の前の大型ビューワーに映る三十四隻の無人航宙艦群を見つめる。

 

「……やっとここまで来たね」

「……そうだね」

 

 この言葉にはどれほどの思いが込められているのか、一言一言を噛み締める様に呟くユリカに傍に居るジュンが答える。彼もまた思うものがあるのだろう――幼馴染が旦那を取り戻す為に無茶をすると知って参加したが、まさか並行世界に飛ばされるとは夢にも思わなかっただろう。だが、ここまで来たら必ずあの朴念仁を捕まえて幼馴染の前で土下座の一つでもさせなければ割に合わないと、彼は彼なりに闘志を燃やす……とはいえ、傍で繰り広げられている光景には眉を寄せているが。

 

「……では、無人艦を発進させますね」

 

 収納されている『ナデシコC』から『ナデシコD』の艦橋へと上がっているルリは、ユリカに断りを入れて第二層でオペレート―を行っているアゥインとノゼアに指示を出す。ルリの指示を受けた二人はオモイカネより株分けされたオモイカネ型コンピューター『ウワハル』と『シタハル』を操作する。

 

『了解しましたルリ姉さま、無人航宙艦一番艦から順次に出航します』

『出航後は艦隊を編成して、目的地十二光年先の『ボーグ・トランスワープ・ハブ』へと向かいます』

 

 映し出された大型ビューワーには格納庫内をゆっくりと進んで、宇宙へと出撃していく無人航宙艦群が映し出される。全長三百メートルクラスの航宙艦が音もなく進み、グランド・ゲートを潜って漆黒の宇宙へと進み出る。

 

「操舵は慎重にな、また“アレ”を用意するのは苦労するからな」

 

 艦橋内の緊張を解そうとしたのか、武骨な顔をしたゴート・ホーリーの下手なジョークにアゥインとノゼアは小さな笑みを浮かべた後、オペレートに集中する。そんな二人の妹分の姿を満足げに見ていたルリだったが、視線をユリカに向けた途端に麗しき眉がピクリと上がる。

 

「……いい加減、離れたらどうですか演算ユニット。不謹慎ですよ」

 

 整った表情が若干引き攣って見えるのは見間違いではないだろう。何故ならばルリの視線の先には、ユリカの膝の上に乗っている演算ユニットのアバターの姿があり、その表情がご満悦に見えるのは嫉妬で目が眩んでいる所為であろう。

 

「聞いているのですか?」

 

 ルリの声がどんどん冷たくなっていく。演算ユニットが自分の言葉をまったく歯牙に掛けておらず、ユリカの膝の上で目を閉じてリラックスしているようにしか見えないのだ。思わず半目になった所で、演算ユニットは目を開いて煩わしそうにルリを冷ややかに見つめる。

 

「……言った筈だよ強化人間。ユリカの身体の不調を緩和する為には体内の循環器系の調整が必要だと」

「それは聞きましたが、何もそんな恰好でしないでも良いじゃないですか」

「出来れば思い出したくもないが、アレがやったように密着状態で調整するのが効率が良いんだよ」

 

 若干嫌そうに眉を寄せながらも説明する演算ユニット。そんな演算ユニットのアバターの両頬を優しく包んだユリカだが、次に瞬間にはその頬をグニグニと揉み出す。

 

「こーら、そんな言い方したら駄目でしょう。人はね、ちゃんと名前で呼ぶものよ」

「そうなのか? それは失礼したホシノ・ルリ」

「そうそう、それとルリちゃんも何時までも演算ユニットなんて呼んでいないで、ちゃんとソフィアちゃんって呼んであげてね」

 

 演算ユニットのアバター改めソフィアの頬をムニムニしながら諭すユリカを見ていると、ルリは妙に肩の力が抜けて脱力した気分を味わう。

 

「……シリアスな雰囲気台無しじゃない」

 

 操舵席に着いて出航の準備を行っていたミナトは、後ろで繰り広げられているグダグダなやり取りを聞いて肩を窄めながらボヤいた。

 

 


 

 

 格納庫からの出航は順調に進み、最後には『ナデシコD』のみとなる。

 

『無人航宙艦は全て出航しました』

 

 アゥインの報告に頷いたユリカは、気合を入れて命じる。

 

「『ナデシコD』発進!」

「了解。インパルス・エンジン始動、各部スラスター準備。『ナデシコD』微速前進」

 

 ユリカの号令を受けて操縦席のミナトが新たに増設されたインパルス・エンジンを操作すると、巨大な船体がゆっくりと動き出す。今までにない大型航宙艦故に、このデープ・スペース・13のグラウンド・ゲートといえどサイズ的にはギリギリであり、操縦席上方に展開するウィンドウに表示された情報を読み取って、スラスターを操作しながらギリギリのラインを通って慎重に進んでいく。

 

「前回の初航海を含めて二回目か、流石にまだ慣れないな――ミナト君、慎重に頼む」

「まかせなさい! この子とは前のときからの付き合いだからね」

 

 『ボーグ』との初遭遇の戦闘で大破した船体を再建する間、様々なアイディアや操舵する者としての意見を練り込み、少しずつ形になっていくのを見守って来た彼女は、全長三千メートルを超える巨大な船体の隅々にまで神経が行き届いているかのように各部スラスターを屈指して細かな調整をしながらゲートを潜っていく。

 

 慎重にゲートを潜って宇宙空間へと出た『ナデシコD』の目前には、隊列を組んで待つ三十四隻の無人航宙艦の姿があり、状態をチェックしたアゥインより報告が上がる。

 

『無人航宙艦群より入電。ワープシステムの準備は完了、何時でもワープ状態に移行できます』

 

 それを聞いたユリカは号令を発する。

 

「これよりワープ航法に移行して、先行する『エンタープライズ』と合流します――全艦ワープ開始」

 

 待機状態だった無人航宙艦の両翼に設置されたワープ・ナセルに動力が伝達されて青白い光が灯ると、周囲にワープ・フィールドが展開されて次々にワープ航法へと移行していった。

 

 


 

 

 『ナデシコD』とAI制御の無人航宙艦隊は、標準的な航宙艦の巡航速度であるワープ6で宇宙を進んでいた。ワープ・フィールドで覆われた船体が進む速さは光速の三百九十二倍の速さであり、流れては消える星の姿がメイン・ビューワーに映し出されている。

 

「……不思議な光景だねぇ」

 

 幻想的な光景を無言で見ていたユリカは、感嘆の息を吐きながら膝の上に座る演算ユニットのアバター改めソフィアに語り掛けるが、当のソフィアの反応は芳しくないようだ。これは落ち着いたら情緒教育に力をいれようと心に誓うのであった。

 

「ボソン・ジャンプは不思議な光が満ちた空間だったが、ワープ航法で見る宇宙はある意味で風情がある光景だと思うよ」

「ジュン君は『アスタナ』で何度も見ているのでしょう?」

「まぁね」

 

 出航時の慌ただしさは過ぎて手持ち無沙汰となったユリカとジュンは、メイン・ビューワーから見える光景について語り合っているが、視線の端ではブリッジ・クルーから報告を受けているルリの姿があり仕事がないわけではないようだ。ルリから向けられるジト目の視線が痛い。

 

 ルリからの視線に愛想笑いで誤魔化しながらユリカはそろそろ現実逃避は止めようかと考えて、視線を少し離れた場所へと向ける。そこには流れる星々を眺めているジャスパーの姿があり、心此処に在らずと言った感じだ。

 

(……まあ、話を聞いた時には私達も驚いたけど)

 

 『トランスワープ・ハブ』の稼働を知って此方から打って出る、と決めて準備に入ろうとした時に、ユリカと共に来たジャスパーが話したい事があると言ってきたのだ。

 

 


 

 

 デープ・スペース・13 中央部第五多目的ホール

 

 

 『ボーグ』の戦略施設である『トランスワープ・ハブ』が稼働状態になった事を知り、対応策に頭を痛めていた時に突然現れたユリカ達の驚いたジュンとルリだったが、そんな二人も含めてこの場に居る全員に話したい事があるとジャスパーは硬い表情で告げる――しかも身内の話かと気を利かした『エンタープライズ』側へも、休憩の提案を止めて同席して欲しいと言い出したのだ。

 

「何を考えているんです、ジャスパー?」

「……良い機会だから全てを話しておきたいんだよ、ルリ艦長。これは『エンタープライズ』の人達にも関係する話だからね」

 

 不審に思いながらも『エンタープライズ』勢が席に戻り、ユリカの何時ものペースで説得されたナデシコ勢も席に着いた後、その場にいる全ての視線が向けられた少女は自己紹介の後、誕生した経緯と目的を話し出した。

 

「……つまり、君は未来からのメッセンジャーという事か」

「今までにも未来からの来訪者は居ましたが、これはなんとも……」

 

 少女―ジャスパーの話を聞いたピカードとライカーは揃って訝し気な視線を向ける。ローティーンの少女の姿をしているが姿形を自在に変化させる存在など掃いて捨てるほどに知っているが、どうもジャスパーと名乗る少女からは邪気は感じられず、ただ淡々と話すべき事を話しているように感じられた。

 

「そして君の創造者はテンカワ・アキトを救出するよう命令して、過去へと送り込んだ訳か」

「……正確にはこの世界の過去へではありません。私が送り込まれたのは並行世界の過去へとです」

「だが、それでは君の創造主の居る未来を変える事になる」

 

 そう問い掛けるライカー―にジャスパーは少し困った顔をすると、肩を竦めながら答える。

 

「創造者が言うには、『やられっ放しは癪に障る』との事です」

 

 その答えを聞いたピカードとライカー―は顔を見合わせて揃って肩を竦め、傍で聞いていたルリは久方ぶりに『バカばっか』とため息を付き、ユリカ『にゃはは』と笑う――そんな人々の表情を愛おしそうに、噛み締める様に見ていたジャスパーは、内に秘めていた秘密を語りだした。

 

「……けれど運命は非情だった。私はこれから起こる『ボーグ』との戦いを何度も経験しています、『ボーグ・キューブ』の艦隊を相手に柵を練り、奇を衒い意表を突こうとしても、『ボーグ』の分厚い防衛網は抜けずに敗北するという経験を」

「――つまり君は我々が敗北する、と? いや、それよりも君は何度も経験していると言ったな」

「――あなた達が、いえ私達が『ボーグ』に敗北する度に、私は時間を渡って繰り返してきた――テンカワ・アキトを救う為に」

「ジャスパー、貴方は……」

「……それでも幾つもの策を用いて『ボーグ』の死角を抜こうとして来たわ、けど全てが徒労に終わってしまった」

「もう良いよ、ジャスパーちゃん。そんなに辛いなら無理に話さなくても良いんだよ」

「そうね、そんな精神状態では負担がかかりすぎるわ」

 

 表情を歪めて己の罪を告白するように胸の内に秘めていたものを吐露するジャスパー。拳を固く握り、唇は渇いて所々にひび割れまで見える……『思念体』の意思を代行するインターフェイスとして生身の肉体を持つが故に、その精神状態に影響を受けてしまうのだ。そんな彼女の状態を心配してルリやユリカそしてイネスが声をかけるが彼女は話す事を止めなかった――そして彼女は語る。

 

「何度戦っても私達は勝てなかった……何故なら『ボーグ』には『LITTLR・QUEEN(リトル・クイーン)』が居たから」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。
 絶望的な状況でも足掻こうとする者達は、協力して脅威に立ち向かおうとしていた。


 次回 第四十六話 闇に囚われた少女
 ジャスパーの闇がほとばしる。

 次の回は完全に蛇速ですので読み飛ばしても問題ありません。

 では、また近いうちに。
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