宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
デープ・スペース・13 展望室
間接照明で淡く照らされた展望室のソファーには小さな人影は一人。ぽつんと座っていた。薄い照明の光を受けて淡く輝く銀髪の持ち主は、本来なら金色に輝く瞳に鈍い光を灯しながらじっと宇宙に輝く無数の星々を見つめていた。
「失礼、マドモアゼル。隣よろしいかな?」
「……ピカード艦長?」
内面に沈み込んで人の接近に気付けなかったジャスパーは暗い瞳を向けると、そこには『エンタープライズ』の艦長であるジャン=リュック・ピカード大佐の姿があった。両手に温かい飲み物の入ったカップを持ったピカードは、少女の隣に座ると手に持ったカップの一つを渡す。思わず良い香りのするカップを受け取りながらも、『ボーグ』の重要施設への攻撃が決まって多忙な筈の彼が自分に一体何の用なのか、疑問に思ったジャスパーは小首を傾げながら問い掛ける。
「一体どうしたんですか? 今は忙しいと思うんですけど」
「……船に戻る前に君と話をしたいと思ってね」
「……私と?」
「まずは飲むと良い、温かい飲み物は気持ちを落ち着ける」
そう言ってカップに口を付けるピカード。それに倣うようにジャスパーもまたカップに口を付ける。仄かな甘みが口の中に広がり、飲み込むと身体の芯を温めていく――そこで初めて自分の身体が冷え切っている事に気付いた。
「……どうして?」
自分を気にかけてくれるのか? そんな疑問を口にすると、カップの中身に微妙な表情を浮かべていたピカードは小さな笑みを浮かべて答える。
「会談の際の君の様子が気になってね」
君の瞳が浮かべる色に覚えがある――ピカードがそう言った途端にジャスパーの瞳の色が濁る。せっかく温まった身体が急速に冷えていき、どろりっとした視線がピカードへと向けられる。
「覚えがある? 何に対して? 惑星連邦の大佐であり、大型航宙艦の艦長としてクルーの尊敬の念を一心に集める貴方に、一体何が分かるんですか!?」
ピカードの言葉がジャスパーの心の中の闇を刺激して、内に秘めた鬱積としたモノが零れだした。
「――『ボーグ』に同化されても、貴方のクルーが命を懸けて救い出した。そんなあなたが――」
「……そうか、君は助けられなかったんだな」
ひうぅ、とジャスパーは息をのむ。ただでさえ白い彼女の肌が死人のように青白くなり、全身が震えてガチガチと歯が音を立てる――それはまるで罪を暴かれる罪人の姿の様であった。
「……な、なんで」
そんなに難しい話ではない、とピカードは呟く。
「君はあの時に何度も繰り返したと言っていただろう? つまり君は何度も時間を渡らなければならない状態に追い込まれたと言う事だ」
そう告げられるとジャスパーの動きが止まり、彼女は唇を噛み締めて暫く俯いていたが、唐突に俯いていた顔を上げて金色の瞳に涙を浮かべながら、内に秘めていた己の罪を叩き付けるかのように捲し立てた。
「……そうよ――ええ、そうですよ! 私は『ボーグ』に敗北する度に時間転移を繰り返してきた! ユリカ艦長やルリ艦長達を見捨てて、まだ生きているあの人達を見捨てて! 只々創造者の命令を、テンカワ・アキトを救うという命令を遂行する為に……私は『仲間』を見捨てたのよ」
とめどもなく涙を流しながら、己が心情を、罪を告白するように、ピカードに縋りつきながら悔恨たる思いを吐露するジャスパー。そんな彼女の肩にそっと手を置いたピカードは静かに語り掛ける。
「それは必要な事だったのかもしれない」
「――必要な事って! こんな苦しみが必要な事だと貴方は言うんですか!?」
ピカードの言葉に激高するジャスパー。
「辛い経験をしたからこそ、君は私達に警告できたんじゃないのか、彼らの戦術を」
その言葉に顔を上げるジャスパー。
「長く宇宙を旅すると、不思議な現象に出会う事もある」
疑問を示したジャスパーにピカードは自らの体験を語る。
ある時に『エンタープライズ』の前に漂流しているシャトルが現れた。回収すると、それは『エンタープライズ』に搭載されているシャトルであり、調べると六時間後の未来からやって来た事が判明する。
「そのシャトルには私が乗っていたんだ」
シャトルの記録を解析すると、ピカードがシャトルで離脱した後に爆発する未来の『エンタープライズ』の姿が映像として残っていたのだ。
「当時、私は混乱した。指揮官である私がクルーを残して艦を離れるなど、考えられない事だった」
目の前で意識を失っている自分を見てピカードは、彼が同一人物だとは到底受け入れられなかった。自分一人だけが艦を脱出して生き残るなど、指揮官として全クルーの命を預かる自分がする筈がない――目の前にいる彼と自分は別の存在である、そう思ったほどであった。
「私は思ったよ。クルーを見捨てて何故シャトルに乗ったのか、こんな男が私である筈がないと」
そして六時間後に、『エンタープライズ』は強力なエネルギーの渦に囚われた。最大出力のワープを使用しても『エンタープライズ』は抜け出せずに完全に囚われてしまう。
「そしてエネルギーの渦から私個人が攻撃を受けて初めて分かったよ――彼は自らを囮にするべくシャトルに乗ったのだと」
彼の行動にヒントを得て、『エンタープライズ』は何とかエネルギーの渦から脱出する事が出来たのだった。
「脱出した後に私は思ったよ。未来から来た彼は私を諭しに来たのかもしれない、道を示しに現れたのかもと」
そしてピカードはジャスパーの金色の瞳をまっすぐに見る。
「ジャスパー君。君の悲しみを理解出来るとは言えない――だが、悲しみに捕えられていては、何時までも君は闇の中だ。勇気を持て、君のなすべき事をやり遂げるんだ」
展望室より基地通路に出たピカードは、外で待っていたミスマル・ユリカとホシノ・ルリに気付くと苦笑を浮かべる。
「ずっと待っていたのですか」
「ええ、気になって」
「どうでしたかジャスパーは?」
「もう少し一人で考えたいと、ね」
ジャスパーの異変にはユリカもルリも気が付いていたが、掛ける言葉が見つからず途方に暮れていた時に、『エンタープライズ』の艦長であるジャン・リュック・ピカードより申し出があったのだ――彼女ジャスパーと話がしたい、と。突然の申し出に驚いた二人はピカード艦長の真意を問うと、彼はジャスパーが抱えているであろう問題の解決の助けになれるかもしれないと答えたのだ。
木星戦役において特異な働きをしたナデシコの艦長として名高いミスマル・ユリカと、様々な事件を解決してきたホシノ・ルリとはいえ年齢的にはまだまだ若輩であり、名門故に箱入りであったり、幼年期から研究所で隔離されていたりして、更に言えば軍隊という特殊な環境に属している事も相まって人生経験がかなり偏っている二人では、思い詰めているジャスパーの重荷を軽減出来るだけの助言が出来ず、艦隊士官として様々な経験をして来たであろうピカード艦長に任せるのも妙案かもしれないと考えたのだ。
「私の言葉が彼女の道を照らす道標となればいいが…」
「大丈夫ですよ。後はどーんと任せてください、ブイ!」
「ありがとうございます、ピカード艦長。後は私とユリカさんで何とかします」
展望室への扉を見つめながら呟くピカードに、努めてお気楽に胸を張りながら太鼓判を押すユリカ。そんな彼女の何時ものボケに頭痛がして来たのか、片手で頭を押さえるルリ。なかなかの名コンビぶりに小さく笑みを浮かべたピカードは、その場を立ち去ろうと踵を返すが、何かに気付いたのか少し慌てた様子のユリカが呼び止める。
「……何か?」
「実はこの基地に記録されていた『ボーグ』との初接触からの資料を読んだんですが、その中で作戦に使えそうなモノが有ったのでピカード艦長のご意見を窺いたいと思ったんです」
「それに『ヤマト』が去る前に、あの子から興味深い提案をうけました」――そう言って微笑むユリカは、ナデシコを指揮していた時のように自信に満ちていた。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
今回は完全に蛇足回かなとは思いますが、ピカード艦長なら闇に囚われた彼女をそのままにはしないかな、と。最近の創作物では、中々良い大人に出会えないもんで。(汗
今回、ピカード艦長が語っていたのはTNGの39話『戦慄の未来』のエピソードですね。TNGは第七シーズンまであり、おいそれとはお勧めできない程の長さですからね。(しかも、古いし
次回 第四十七話 全てを掛けて 前編
未来を掴む為に、全ての力を結集して絶望的な戦いに挑む。
以前、私がボケをかました話ですので、四十六・四十七話は連続投稿します。(涙
では、また近いうちに。