宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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決戦編
第四十七話 全てを掛けて 前編


 

 連邦の領域から銀河中心方面に向けて十二光年ほど進んだ所に存在する宇宙塵や星間ガスが偶々集まった名もなき星雲。周辺にある巨大星の光に浮かび上がる姿は、何の特徴もない、一見すれば何処にでもある、ただ星間ガスの吹き溜まりに分子が集まっただけにしか見えない。

 

 そんな名もなき星雲の近くの空間に幾つもの光が輝くと、惑星連邦の様式で建造された航宙艦群が次々とワープ・アウトしてくる。未知の宙域を行くべく技術の粋を集めて建造された強力な航宙艦が三十四隻――そして、航宙艦群の後方に一際大きな輝きが瞬いたかと思うと巨大な船体を持つ航宙艦がワープ・アウトしてくる――『ナデシコD』だ。

 

 


 

 『ナデシコD』 第一艦橋 第三層

 

『全艦、予定宙域にワープ・アウト』

『各艦自己診断システム問題なしです』

 

 第二階層に設置されたオペレーター席にて『オモイカネ』から株分けされたデュアル・コンピューター『ウワハル』と『シタハル』を操作しているアウィンとノゼアからの報告を聞いたユリカは、ほぅと安堵の息を吐くと、視線を目の前に映し出された名前も無い星雲へと向ける――星間ガスの吹き溜まりに溜まったガスや塵が集まって出来た星雲が周囲の巨大星の光に浮き上がっており、ある種の壮観さがあった。

 

「……とうとうここまで来たね」

「そうだねジュン君――ここからが本番だよ」

 

 『ナデシコD』の副官としてサポートするジュンの言葉に、ユリカはそう答えると視線を厳しくする。

 

「作戦の第一段階を開始します」

 


 

 星間ガスと塵が集まって出来た、語るべき特徴もない何処にでもある星雲内には密度の高い星間ガスが集まっており、いずれは原始星を生み出すのかもしれない。そんな高密度に集まった星間ガスを、剥き出しの配管が歪に絡まった巨大で不気味な外壁が掻き分けて姿を現す――粗雑に組み上げられた外壁が乱雑に集められて、小さな月ほどの巨大な立方体を形成している。

 

 だがそれは乱雑に見えて計算され尽くした船体は一つの意思で動き、船体の彼方此方から光が煌めいているが、そこに品の良さや優雅さなどは感じられずに、ただ機能のみが追求されている――それは間違いなく立方体『キューブ』であった。

 

 『ボーグ・キューブ』の中心部には大きな穴が存在していた。

 中心には巨大なパワーコアが存在しており、それを囲むように幾つもの階層が壁の様に聳え立っていた。その階層の中には幾つものアルコーヴが設置されており、無数のアルコ―ヴには無数の『ボーグ・ドローン』が接続されて、休息や不要な個体を休眠状態にしてベストコンディションを保つように『再生サイクル』が行われている。

 

 そんな機械的で人のぬくもりなど一切存在しない空間に、一枚のビューワーが立ち上がる。

 

『星雲内に侵入してくる船を発見。船籍確認……連邦航宙艦エネミヤ。これより同化を始める』

 

 『ボーグ・キューブ』よりUSSエネミヤに向けて同化作業に入る旨の通信が送られるが、エネミヤは同化に向けた準備をせずに逆に攻撃態勢に入る。エネミヤよりフェイザーや光子魚雷が打ち出されるが、その全てが『ボーグ・シールド』に阻まれて空しく虚空に消える。

 

 それでも必死の攻撃を続けるエネミヤをトラクタービームで補足して身動きを封じると、取り込むべく切断ビームを照射して船体をパーツに切り刻んで取り込もうとした時――突如エネミヤは大爆発を起こして宇宙の塵と化した。

 

 その結果に、『ドローン』達に感情が残っていたら眉を寄せていただろう。同化作業の為に切断ビームを使用した所、対象である航宙艦が爆発したのだ。今までにも何千、何万回と同化作業を繰り返して来たが故にミスはなかったと断言出来る……あの程度の出力の切断ビームでは航宙艦一隻を破壊する事など不可能な筈なのに……検証が必要だ。爆発の原因を特定しなければならない。

 

 そう結論づけた時、センサーが新たな侵入者を感知する。高密度の星間ガスを掻き分けて、姿を現す新たな航宙艦。照合の結果、ミランダ級航宙艦であると判明――前回と同じくフェイザーと光子魚雷を乱発しながら『ボーグ・キューブ』へと向かってくる。

 

 シールドで攻撃を防ぎながらスキャンを開始して何時もより詳細に調べ上げる……その結果、得られたのは中に乗り組む生命体の反応はフェイクであり、自立稼働する無人艦であると判明した――つまり先ほどの爆発は、無人航宙艦そのものを魚雷に見立てた自爆攻撃か、此方の認識を誘導して本命を欺瞞する為の囮か。

 

 相手の思惑にある程度目星をつけたその時、センサーが新たな侵入者を感知する――先程と同じく連邦艦だ。二隻とも同化ではなく破壊する為にインターセプトコースを取る。二隻とも同じようにフェイザーと光子魚雷で攻撃してくるが、『ボーグ・シールド』が全ての攻撃を完全に防ぎ、放たれた攻撃は二隻の連邦艦を完全に粉砕する。

 だがセンサーは新たな侵入者の存在を感知している。再びインターセプトコースを取ろうとした時、『ボーグ』の集合意識に声が響いた。

 

『グリット456の『キューブ』は、グリット358の『キューブ』の支援に向かえ、後の『キューブ』は周辺の警戒を厳にせよ』

 

 『ドローン』たちの精神が一つに集合した意識に響いた“命令”に従い、補足した目標を攻撃して破壊する……それは既に機械的に行われ、他の『キューブ』を含めて三十隻以上を破壊した時、センサーの精度が落ちている事に気付いた。

 

『周辺宙域の粒子密度の上昇を確認。センサーを調整せよ』

 

 戦闘の影響で周囲の星間ガスの密度が変化し、しかも連邦艦の残骸がセンサーの精度を狂わせる――だが、高々三十隻前後の連邦艦を破壊した位で、ここまでセンサーが阻害されるだろうか? 

 

 


 

 

 『ナデシコD』 第一艦橋 第三層

 

 『ナデシコD』の艦長席に座るユリカは、大型ビューワーに映る星雲を見ていた。三十四隻からなる無人航宙艦隊が星雲に突入してかなりの時間が経過したが、その間微動だにせずに星雲を見つめていた。

 

「三十四隻もの航宙艦を惜しげもなく全艦突入させるとか、相変わらず思い切りが良いというか、何というか」

「何かもったいなく感じるわね」

 

 副官としてユリカの傍に立っていたジュンのボヤくと、手持ちぶたさで暇をしているミナトが呆れたように呟く。

 

「大事な場面では出し惜しみは悪手になりかねないわ……それに今の私達では、あれだけの宇宙船を運用するには人手不足だしね」

 

 微動だにしなかったユリカの緊張を和らげる為か、努めて明るい口調でコントを繰り広げる二人に感謝しながら、ユリカも彼らのコントの流れに乗るが硬い表情は解れない。そんなコントに新たな乱入者が現れる――『オモイカネ』型コンピューター『ウワハル』と『シタハル』を使って無人航宙艦隊を操作しているアゥインとノゼアだ。

 

『大判振る舞いのお陰で、星雲内の敵戦力の配置をほぼ把握しました』

『南無南無。塵となった航宙艦の皆さん、成仏してね』

 

 新たに展開したビューワーの中で肩を竦めたアゥインと、手を合わせて冥福を祈るノゼアにより大型ビューワーに映る星雲に、概略図が上書きされる――そこには星雲内の星間ガスの分布と、三つの光点が表示されている。

 

『これまでの無人航宙艦隊の観測と戦闘のデーターを解析して、敵『ボーグ・キューブ』の予想位置を表示しています』

『『ボーグ・キューブ』の戦力も把握済みで、艦長の悪辣な罠の効果も上々です』

「あ~、ノゼアちゃん。悪辣なんてひどいなぁ~、プンプン」

「艦長、プンプンなんて年を考えなさい、年を」

 

 ノゼアの物言いに抗議の声を上げるユリカに、操舵席からミナトの突っ込みが入るが努めて無視するユリカ。

 

 『ボーグ』との決戦を前に、彼我の戦力差は歴然。ならば少ない戦力で戦うには何がネックになるか――『ボーグ』の持つ高い攻撃力? 此方の攻撃を無効にする無敵のシールド? 遥か彼方からでも此方を察知する高性能なセンサー?

 

 複数の移動要塞を相手にするような無謀な戦いを成立させる為に手段を模索していたナデシコ勢は、惑星連邦の航宙艦『エンタープライズ』と接触して、『ボーグ』との戦いにおいて経験豊富なキャプテン・ピカードの助力を得て、彼の経験談を聞いたミスマル・ユリカはある秘策を考えた――曰く、『ボーグ』が物凄いセンサーを持っているなら、それを使えなくしてしまえ、と。

 

 何を馬鹿な、と脱力する面々にユリカは説明する――高い攻撃力があろうと当たらなければ、どうと言う事は無い。無敵なシールドだろうと四六時中張っているわけではない、と。

 

 おいおい、勢いだけでモノを言うなよ、と誰かが嘆息するが。

 ユリカが示したのは古典的で稚拙な手段――金属片、チャフを用いる方法であった。航宙艦の船体構造は主にデュラニウムとトリタニウムの複合合金を使用しており、それらの金属片を無人航宙艦の積載量一杯まで載せて、『ボーグ・キューブ』付近で爆発拡散させれば、彼らの潜む星雲に含まれる粒子と相まって、『ボーグ』のセンサーを誤魔化せる可能性が高い――ついでに重力波センサーを誤魔化すための細工も乗せれば一石二鳥ではないか、と。

 

 そして作戦は功を奏して、見事に星雲内に大量のチャフがばら撒かれて、星雲の中はセンサーが全く効かない状態になっている。

 

 相手のセンサーは潰し、此方は事前の観測で『ボーグ・キューブ』の航路の予想は立っている。ついでに乗せた探査プローブを改造した重力場発生装置により、『ボーグ』に航宙艦の位置を誤認させる悪辣使用を揶揄したアゥインとノゼアの軽口に、必要以上に大きく反応するユリカ。和気藹々とした雰囲気が流れる艦橋内であったが、それはこれから始まるミッションを前に己が気持ちを奮い立たせる意味合いもあった――第一艦橋内にコールが鳴り、概略図が映るビューワーに小さなアオイ・ジュンの姿が映し出される。

 

『こちら第二艦橋アオイ、準備完了』

「さっすがジュン君、タイミングばっちりだよ」

『第三艦橋もOKですよ』

『第四艦橋ゴート、何時でもいけるぞ』

 

 第三艦橋に移動したタカスギ・サブロウタと第四艦橋のゴート・ホーリーからも準備完了の報告が入る。続いて『ナデシコC』のルリと、途中で合流した『エンタープライズ』のピカードの姿がモニターに映し出された。

 

『こちら『ナデシコC』、システムに問題なし。ジャスパーから渡された『ニューロ・トランシーバー』と言う怪しげな機械も組み込み済みです……『オモイカネ」が物凄く嫌がったけど』

『こちらは『エンタープライズ』のピカードだ。嫌がるコンピューターと言うモノも見てみたい気がするが、それは作戦成功後の楽しみにしよう』

 

 モニターに映るルリの顔には、『オモイカネ』の説得に疲れたのか疲労感が滲んでいた――『ボーグ』への対抗手段を練るユリカとルリに、ピカード艦長と話してから妙に吹っ切れた表情を浮かべる様になったジャスパーから、『ボーグ集合体』のドローン達の意識が結合されて構築された集団意識へアクセス出来る『ニューロ・トランシーバー』が提供されたのだ……どこから、こんなモノを入手したのか驚く二人に、ジャスパーはしれっとした顔で、知り合いから貰ったと答えたのだった。

 航海の間に『ボーグ』の集合意識へとアクセス出来るシステムを構築しようとしたのだが、出所不明のシステム『ニューロ・トランシーバー』を組み込んだシステムに、オモイカネが拒否反応を示したのだが、それを宥めて何とかシステムを構築して使用可能にするまで、ホシノ・ルリは多大な苦労をする羽目になったのだ。

 

「――では、最後に作戦の確認をしたいと思います」

 

 コホン、と喉を整えると姿勢を正すユリカ。

 

「前段階として無人航宙艦隊による攻撃により、敵『ボーグ・キューブ』の位置情報を得て、攻撃と同時に行われたチャフの散布によりセンサーの感度は著しく低下しています。これより『ナデシコD』は、敵予想進路を掻い潜りつつ、星雲深部へ向かい――途中で『ナデシコC』と『エンタープライズ』を放出します」

 

 ユリカの視線がモニターに映るルリとピカードに向けられる。

 

「星雲深部にまで進入された『ボーグ』の抵抗も激しいものとなるでしょう、それらの攻撃を『ナデシコD』が引き付け、『ナデシコC』のハッキング・システムで『ボーグ・キューブ』の掌握を行いつつアキトの所在を探します。そして私達が『ボーグ』の注意を引き付けている間に、『エンタープライズ』が『トランスワープ・ハブ』に攻撃――これを破壊します」

 

 そこで話を止めてユリカは大きく息を吸う。

 

「『ナデシコD』、星雲へ突撃!」

「りょ~かい! アゥインとノゼア、ナビ(索敵)よろしく」

『わかりました』

『まかせて』

 

 ユリカの号令の下、操舵席に座るミナトはスロットルを全開にして、『ナデシコD』はその巨体を進ませながらも、インパルス・エンジンの推力によりどんどん加速していく。

 

「全艦、RED ALERT!(非常警報!) 全武装装填!」

『艦首グラビティ・ブラスト、全フェイザー・アレイ装填! 光子魚雷、各種ミサイルも次々装填』

『シールド、戦闘出力へ! 各隔壁を閉鎖、構造維持フィールド、出力上昇、問題なし』

『推力最大! とつげーき!』

 

 白金の巨体が唸りを上げて、『ナデシコD』は恐るべき敵である『ボーグ・キューブ』の待つ星雲へと突き進んでいった。

 

 


 

 

 第一艦橋 第三階層

 

 星雲内に突入した『ナデシコD』は、星間ガスを掻き分けて深部へと突き進んでいくが、先の戦闘によりばら撒かれたチャフの効果が予想よりも船のセンサー感度を阻害している。第一階層のクルーが各種センサーの調整を行い、少しでも情報を得ようと努力するが芳しくはなく苦労しているようだ。

 

『星雲内のガスの温度が千度を超えていますし、チャフが予想よりセンサーを阻害しています』

『無人航宙艦達が突入した際に集めたデーターを基に作成した『ボーグ・キューブ』の予想進路ですが、『ウワハル』や『シタハル』の能力を以てしても精度は七十パーセント前後ですね』

 

 次の作戦の為に、第二階層のオペレーション・シートから離れて別室へと移動したアゥインとノゼアからの通信越しの報告に、少し困った顔をするユリカだったが、センサーからの情報が映し出されるモニターを睨むように見ているイネスの不機嫌そうな声には思わず腰を上げる事となる。

 

「……駄目ね。艦長の悪戯が予想以上の効果を出して、此方のセンサーも精度がガタ落ちよ」

「――それじゃ、アキトの居場所も?」

「……宇宙基地に残されていた各遺伝子と私達の遺伝子を比較解析していった結果――ノンコーディングRNA遺伝子にわずかな差異が確認されて、それで並行世界の人類と私達を見分ける予定だったんだけど、観測できなきゃ無理よね」

 

 ユリカの期待をばっさりと切るイネス。

 

「今のセンサーの感度だと、かなり近づかなきゃ無理よ」

「……結局、そうなるんですよね」

「そう悪い話ばかりではないわよ。これだけセンサーが効かないんなら、『ナデシコC』や『エンタープライズ』も察知される確率がかなり減るわ」

 

 意気消沈して肩を落とすユリカ。頭では理解していても、心情では愛する夫を早く見つけたいというのは誰もが思う事であろう。そんな心情を慮って話を変えるイネス――星雲内に突入して暫くして『ナデシコD』の係留設備より『ナデシコC』と『エンタープライズ』を放出していた。

 

 『エンタープライズ』は星雲の中心部にある『トランスワープ・ハブ』を破壊する為に、『ナデシコC』は星雲のガス雲に静かに潜り込み、ディファイアント級より取り外された遮蔽装置を用いてその姿を消していた。『トランスワープ・ハブ』の破壊は惑星連邦のみならずアルファ宇宙域全ての命運を握っている重要なミッションであり、『ナデシコ』勢にとっても圧倒的に不利な戦力差をこれ以上開かせない意味もあり、『エンタープライズ』の成功を祈るのみである。そして『ナデシコC』には、対『ボーグ』戦の命運を握る使命を帯びている――だが事態はそんな彼女達の心情などお構いなしに進んで行った。突如として『ナデシコD』の船体が揺れる――全長三千メートルを超える巨体が揺れたのだ、クルーに衝撃が走る。

 

「ど、どうしたの、今の揺れは!?」

『トリタニアムサインを探知しました。方位342 、マーク 55です』

 

 驚くユリカに、周囲を警戒していたアゥインより報告が入る。トリタニアムとは確か貴金属合金で、航宙艦特に『ボーグ・キューブ』の外装にも使用される合金であったはず――そこまで考えた時、ユリカの顔に緊張の色が走る。

 

「何だかわかんないけど、近すぎるわ!?」

「回避行動を取ってください!」

 

 各種センサーが阻害されて外部を移すビューワーも厚い雲に視界を奪われた状態で必死に船体を制御するミナトへ回避行動を行うように指示するユリカ。

 

『またトリタニウムサインを感知、今度は真下です! 』

「ディストーション・フィールド最大!」

『……艦長、デイフレクター・シールドです。最大っと』

「あ、そうだった」

 

 いつもの様に号令をかけるが、即座に通信越しにノゼアに突っ込まれてしゅんとなるユリカ。艦橋で漫才を繰り広げている間にも、『ボーグ・キューブ』より攻撃を受けているが、それらはシールドに阻まれている。

 

「最大船速! 振り切ってください」

「了解。エンジン全開、みんなしっかり摑まっていてよ」

 

 インパルス・ドライブを全開にして『ボーグ・キューブ』を引きはがすが、即座に別の『ボーグ・キューブ』が姿を現して攻撃やトラクタービームで進路を妨害しようとしてくる。

 

「前方に『ボーグ・キューブ』、後方から二隻の『ボーグ・キューブ』が追ってきます」

『ユリカ』

「分かってるよ、ジュン君」

 

 アゥインの報告に第二艦橋に移っているジュンが促すと、ユリカが頷く。膝に乗るソフィアを下したユリカは周囲を見回して、第三階層に新設された真新しいオペレーション・シートに座るジャスパーに微笑みかけた後に号令を下す。

 

「行くよ、みんな――『多重攻撃モード』、起動!」

『『『了解!』』』

 

 『ボーグ・キューブ』に前後を挟まれていた『ナデシコD』だったが、ユリカの号令の下に中央船体に亀裂が入り、連結部分のドッキングラッチが切り離されて巨大な『ナデシコD』の主船体が二つに分かれて上下に離れて行く――主船体だけでなく、それに付属していた二つの円盤部分も連結を解除して、主船体から離脱していく。

 

「ドッキングラッチ解除、『ナデシコD』多重攻撃モードに移行します」

 

 周囲に投影される無数のウィンドウに表示される様々な情報を読み解きながら、ジャスパーが報告をする。一つの巨大航宙艦から四つの航宙艦へと分かれ、第一艦橋にはアゥインが専属として運用するオモイカネ型デュアル・コンピューターの一つ『ウワハル』より株分けされたオモイカネ型コンピューター『アズサミ』と、それをオペレートするジャスパーの姿があり、この並行世界に迷い込んでから株分けされた新しいコンピューターと新米オペレーターのコンビは、今の所は問題なく機能しているようだ。

 

 そんな新米オペレーターを気にしながらも、ビューワーに表示された四つに分かれた航宙艦と迫りくる『ボーグ・キューブ』群の相関図を見据えるユリカの居る上層部の円盤を『ナデシコD-α』、アオイ・ジュンと、船体中央部に設置されている『ウワハル』を操作するアゥインの『エネミヤ』コンビが率いる第二艦橋が運用する主船体の上部が『ナデシコD-β』。

 同じく船体中央部に設置されている『シタハル』を操作するノゼアと、タカスギ・サブロウタ率いる第三艦橋が運用する『ナデシコD-γ』、簡易型コンピューター『クエビコ』にて船体を制御するゴート・ホーリー率いる第四艦橋が運用する下方円盤部『ナデシコD-δ』として、それぞれ独立した航宙艦として機能する。

 

 多重攻撃モード――惑星連邦の存在するアルファ宇宙域に侵攻してきた『ボーグ・キューブ』に対して連邦は四十隻の艦隊を以てウォルフ359にて迎撃戦を行い、たった一隻の『ボーグ・キューブ』により全滅したという事実は衝撃を与え、その後の連邦宇宙艦隊の建艦思想に大きな影響を与える事となり、ソヴェリン級やディフイアント級などの戦闘力を向上させた航宙艦の登場の一助となった。

 

 そして戦術においても様々な模索を行い、その結果の一つとして考案されたのが『多重攻撃モード』である。ウォルフ359の戦いの前哨戦となった『ボーグ・キューブ』と『USSエンタープライズ-D』の戦いの中で、船体を二つに分離して『ボーグ・キューブ』を翻弄した戦術を分析して発展させて、その新戦術を運用する為に試作艦として建造されたのがNX(プロトタイプ航宙艦のレジストリナンバー)―59650 USSプロメテウスであった。この船は試験航海の途中でアクシデントに見舞われたが、その上で敵対勢力の大型航宙艦を見事撃退した事から、その有効性を実証したのだった。

 デープ・スペース・13に漂着したナデシコ・クルーは、基地のデーターベースを検索して『ボーグ』への対抗手段を模索中にプロメテウス級の資料を発見して、再建中の『ナデシコD』の船体にも採用した――その真価が今問われる。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。
 
 全ての力を結集して星雲へする『ナデシコC・D』と『エンタープライズE』
 待ち受けるは四隻もの『ボーグ・キューブ』
 ――ミスマル・ユリカの奇策は『ボーグ』を打ち破る事が出来るのか?

 次回 第四十八話 全てを掛けて 後編

 続いて投稿します。
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