宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
『ナデシコD-β』 第二艦橋
α艦にある第一艦橋よりは簡素な二層構造で作られており、各種センサーを管理する第一階層と、航法や武装そして艦全体のコンディションを管理して指揮を執る第二階層で構成されている。
これは他のγ艦やδ艦も同じで、船体結合時にメインとなる第一艦橋に方がより各種センサーからの齎される大量の情報を処理できるようになっているのだ。
「『ナデシコD-β』、分離完了。フェイザー、光子魚雷装填。シールド出力上昇、グラビティ・ブラスト、チャージ開始。戦闘態勢完了です」
「よし、後部光子魚雷発射後に方位045マーク20に転身」
ジュンの指揮の下に迫りくる『ボーグ・キューブ』に向けて牽制の光子魚雷を発射しながら、『ナデシコD-β』は右へ大きく舵を切って振り切ろうと試みるが相手はそれほど甘くはなく、牽制の光子魚雷を物ともせずに追撃してくる。
「後部フェイザー全力斉射! そのまま方位30に進路変更、回せ!」
「了解!」
船体後部に装備されたフェイザー・アレイより断続的にフェイザーが発射される。惑星連邦において大型航宙艦に搭載されるタイプ12フェイザーを搭載しており、その破壊力は五十キロほどの厚さのある惑星の地殻を貫く威力がある。
だが、それほどの大出力のフェイザーも『ボーグ・キューブ』のシールドにより防がれてダメージを与える事が出来ずに牽制と割り切って攻撃している――すると熱い分子雲の中から『ナデシコD』の主船体の下半分であるγ艦が姿を現して物凄い速度で迫ってくる。
「!? 速度そのまま、右に半回転躱せ!」
『ナデシコD-』を指揮しているのはタカスギ・サブロウタであり、彼とはディファイアント級航宙艦γを指揮していた頃から交流があった――だからこそ、彼の思惑にピンっと来たのだ。
ジュンの指示を受けた操舵主がタッチパネルを操作して、スラスターを調整しつつ『ナデシコD-β』の船体を右に傾ける――するとγ艦も船体を大きく傾けて、二隻は高速で交差すると、γ艦はβ艦を追撃していた『ボーグ・キューブ』に光子魚雷を発射して攻撃を開始した。
「良く分かりましたね、衝突するかもと思いました」
「彼とはこの三年間の間に親交があったからね、考えも少しは読めるのさ」
『ナデシコD-γ』 第三艦橋
船体を大きく傾ける事によりβ艦と交差した『ナデシコD-γ』は、β艦を追撃していた『ボーグ・キューブ』の巨大な船体が迫ってくる光景は圧迫感があり、雑多な部品で組み上げられた巨大な船体が圧倒的な質量として威圧感を与えていた。
「う~ん、こりゃデートに誘うにゃ不向きな船だな」
「うちの船も大きさじゃ負けてない筈なんですが、細長いからねぇ」
正面のメイン・ビューワーに映し出される巨大な『ボーグ・キューブ』の威容に、γ艦を任されているタカスギ・サブロウタは肩を竦めてシニカルに呟くと、それに追従するようにオペレーター席で艦を統括するコンピューター『シタハル』を操作しているノゼアがボヤく。
だが二人とも臆す気配はない。それ所か不敵な笑みさえ浮かべていた。メイン・ビューワーに映る巨大な壁のような『ボーグ・キューブ』の威容を目前にした時、『キューブ』より大出力の通信が入る。
『我々は『ボーグ』だ、お前達の生物的特性や科学技術を同化する。シールドを下ろして降伏せよ――抵抗は無意味だ』
存在な物言いで降伏を迫ってくる。自分たちの優位を確信しているのだろう……だからこそ、その横っ面を殴り飛ばしてやりたくなる。チャラい恰好をしていても、タカスギ・サブロウタは地球連合という巨大な組織と戦った元木蓮士官なのだ。
「ふん、面白い。ノゼア、新兵器『変動型多連装グラビティ・ブラスト』の威力を見せてやれ!」
「はいはい、男の人って新兵器って言葉が好きだよねぇ」
ボヤキながらもコンソールを操作して、艦首に搭載された多連装グラビティ・ブラストに急速チャージを行う。そんなノゼアの近くで作業する女性クルーが顔を寄せて「そんな所がカワイイんじゃない」と悪戯っぽい笑みを浮かべて囁いてくるのを聞いて、私少女だから分かりません、とすました顔で答えると艦長であるタカスギ・サブロウタに報告する。
「艦長、新兵器のチャージが終了しました。何時でも発射出来ます」
……実はノゼアも新兵器と言う言葉が嫌いではないのだ。
変動型多連装グラビティ・ブラスト――並行世界に転移した直後に『ボーグ集合体』と戦い敗北したナデシコ勢が、対抗手段を模索した結果の一つである。謎の船により導かれた宇宙基地で対抗手段を模索した中で、先の大戦で活躍したナデシコ級二番艦『コスモス』が搭載していた多連装グラビティ・ブラストの話題が出たが、『ボーグ・キューブ』との戦いの折に支援艦群でグラビティ・ブラストの飽和攻撃を行ったが、全て無効化された事からグラビティ・ブラスト自体が効果が薄いのではないかと考えられて採用は見送られそうになった。
だが流れ着いた宇宙基地のデーターベースを検索して『ボーグ』との戦闘記録を調べてみると、『ボーグ』は最初の数度は攻撃を食らうが即座にその情報が末端のドローンにまで行き渡り、その攻撃に使用される周波数を完全無効化される事と、連邦航宙艦との戦いで『ボーグ』の防御シールドをフェイザーの周波数を変動させて攻撃を行ってダメージを与えた事が分かったのだ。
ならば今再建中の『ナデシコD』に搭載予定の新戦術『多重攻撃モード』により四隻に分離する船それぞれにグラビティ・ブラスト発射する為に重力波を収束させる際に、周波数をランダムに変動させて攻撃すれば『ボーグ』の防御を突破出来る公算が高い。
そこで再度脚光を浴びたのが多連装グラビティ・ブラストだ。コスモスに搭載されていた五連装グラビティ・ブラストを再現して、周波数を変動させるシステムを組み込めば、戦いを優位に持ち込める可能性が高いと見たのだ。
「変動型多連装グラビティ・ブラスト発射!」
「りょうかーい、ポチっとな」
サブロウタがやたら恰好つけて攻撃を指示すると、気だるげな表情を浮かべながらも目の前のコンソールを操作して、ノゼアはチャージが完了したグラビティ・ブラスト発射ボタンを躊躇なく押す――彼女も『ボーグ』の事は腹に据えかねていたのだ。
船体下部に装備された五連装の変動型グラビティ・ブラストが周囲の空間を歪ませながら発射されて、周りにある粒子を励起させながら『ボーグ・キューブ』に向けて突き進み、無敵と言われた『ボーグ』のシールドと激しく激突する。宇宙空間に存在している粒子を励起させている影響で青白く輝くグラビティ・ブラストが激突したことで激しく発光するシールドだが、特定の周波数のみを完璧に防御する事のより強固なシールドはグラビティ・ブラストの破壊の力をせき止めるが、変動型であるグラビティ・ブラストの一部が強固なシールドを突破して『ボーグ・キューブ』の船体を破壊しながら破片をまき散らす。
「『ボーグ』の船体にダメージを確認、成功です」
『ボーグ・キューブ』を観測していたクルーの報告に第三艦橋内が歓声に包まれる――一方的に追い込まれて、ただ逃げるしか出来なかった『ボーグ』を相手に戦える事が、これで証明出来たのだ。これまでの努力が無駄ではなかった事が証明されて、ナデシコ・クルー達の表情に明るい色が点る。
「よし、このまま『キューブ』を此方に引き付けるぞ」
手ごたえを感じたサブロウタはクルーに指示を出すと、オペレーター・シートに座るノゼアに問い掛ける。
「で、奴さんの反応は?」
「……これだけ近いのでセンサーで探っていますが、どうやらこの『キューブ』には居ないようですね」
「……そうか、だがこの『キューブ』に居ない事が分かっただけでも収穫だ――この情報を他の船にも送ってくれ」
「りょーかい」
『ナデシコD-α』 第一艦橋
上部円盤部を船体とするα艦は、ミスマル・ユリカを艦長として、艦内の機能を制御するのは『オモイカネ』型コンピューター『ウワハル』から株分けされた『アズサミ』とオペレーターとして配置されたのはジャスパーである。無言のまま空間投影型キーを操作するその姿は真剣であり、『オモイカネ』型コンピューターである『アズサミ』との親和性は未知数な事も相まって少し危ういような印象を感じさせる。
「大丈夫、ジャスパーちゃん?」
「問題ないよ、ユリカ艦長。ここまでは何度も経験しているから」
気遣うユリカにジャスパーは自虐的な笑みを浮かべて答える……その表情を見て若干の危うさを感じるが、『オモイカネ』型コンピューターを操るには専門の教育を受けてコンピューター管制に特化したIFSを持つ者に限られ、それを持つルリや他のオペレーターの子はそれぞれのオモイカネ型コンピューターに付いており、必然的にα艦のオペレーターは彼女となったのだが、思った以上に精神が不安定なのかも知れず注意が必要かもしれないと考えているユリカ。
「大丈夫だよ、ユリカ艦長。ここで成功させなきゃ、今までの事が無駄になる――なすべき事をする。そうでしょう?」
半ば己に言い聞かせるかのように呟いて気を引き締める姿に、一抹の不安を感じるユリカだったが、状況はそんな暇はないとばかりに流れていく。
「ミスマル艦長、前方より『ボーグ・キューブ』です」
センサーを阻害されている中でも、何とか数値を読み解いていたクルーが新たな脅威の存在を報告してくる。回避行動を取っている『ナデシコDα-』艦の進路を遮るかのように粒子の雲を掻き分けて巨大な壁の如き『ボーグ・キューブ』の姿が現れる。
『我々は『ボーグ』だ、これよりお前たちを同化する。シールドを下ろして降伏せよ。抵抗は無意味だ』
距離が近くなった所為か、相手の通信の出力が強い為か、忌々しいほどに鮮明に聞こえてくる『ボーグ』からの降伏勧告に、聞いていたクルーの表情が硬いモノへと変わる……デープ・スペース・13基地のデーターベース内には『ボーグ』との初遭遇以降の情報もあり、その中には接触した艦隊士官の証言も残されていたのだ。
ある士官は『集合状態において、『ボーグ』は一切の容赦をしない。彼らの目的はただ一つ、征服だ。相手への情けもなければ、理性もない』と語り、またある士官は『思うに『ボーグ』は、今まで遭遇した種族の中で最も純粋な悪に近い』などと、『ボーグ』の脅威を訴えるものが多い。
「シールド出力最大! フェイザー砲、連射しつつ左に避けて」
「了解、みんなしっかり掴まっててよ」
メイン・ビューワーに映る『ボーグ・キューブ』は巨大な壁の如き威容を現して、武骨な配管を粗雑に組んだような外壁の奥から漏れる緑色の輝きを見ると、暗闇に浮遊する機械の塊の如き圧迫感を受ける――その機械の奥から緑色の輝きが放たれると、α艦目掛けて撃ち出される。
当然それを予期していたα艦は、新設されたフェイザー・アレイよりフェイザーを発射しながら舵を大きく切って緑に光る光弾を躱すが、即座に追撃が来る。
「『キューブ』発砲! 後部シールド80パーセントに減衰しました」
「回避パターン3-1! なんてスキのない攻撃!?」
「艦長、『ボーグ』は機能を分散して船体各所に配備しているって話よ――つまり死角はないわ」
『ボーグ・キューブ』の追撃によって受けたダメージをブリッジ・クルーが報告し、それを受けたユリカがあらかじめ決めていた回避パターンを指示しながら、絶え間なく攻撃を行う『キューブ』の攻撃力の高さに改めて驚きを露にする。そんな中でサポート・ステーションで『キューブ』の分析をおこなっていたイネスは、以前の接触時に得た情報と宇宙基地のデーターベースに記載されていた情報を鑑みて、死角になりえる場所はないと伝える。
『ボーグ・キューブ』は、主要な施設や動力源が船体各所に分散している為、船体の78%がダメージを受けても正常航行に支障がないという脅威の耐久力も持つとされており、立方体の船体のどの面においても、攻撃力と防御力は変わらないのだ。
ミナトの操艦の妙もあって大した被害は出ていないが、先ほどから『キューブ』の激しい攻撃を受けて綱渡りのような状況が続く――『ボーグ』の技術はアルファ宇宙域で一大勢力を誇る惑星連邦の技術を遥かに超え、その技術力により作られた『キューブ』から強力なディスラプタービームや光子魚雷がα艦を航行不能にすべく無数に襲い掛かってくる。中でも時折混じってくる緑色をした光弾には要注意だ。
「ユリカ、後方よりシールド無効化弾が来るぞ」
「!? ミナトさん、躱してください!」
「! みんなしっかり掴まっててよ」
星雲内に突入するまえに、膝の上から隣の補助席に移された演算ユニットのアバターこと『ソフィア』が指揮を執るユリカに告げると、顔色を変えたユリカが即座に回避行動を指示すると、メイン・ビューワーに映る空間の星が流れてα艦の横を緑色した光弾が通り過ぎる。慣性制御により体に掛かるGは殆ど感じないが、船体にはかなりの負荷がかかり構造維持フィールドの出力を上げる事で対処したようだ。
『ボーグ』の攻撃の恐ろしい所は一撃の攻撃力が高い事も有るが、時折撃ち込まれる先ほどの緑色の光弾『シールド無効化装置』の存在も大きい。その攻撃は船体にダメージを与えるよりも船を守るシールドそのものにダメージを与える事に特化しており、記録によれば惑星連邦において大型艦であるギャラクシー級の航宙艦でも三発も食らえばシールドを消失してしまうとの事であった。
「緑色の光弾には注意して! ジャスパーちゃん、『キューブ』の防御に綻びはない?」
「……こちらの攻撃は殆ど効果がないみたい」
フェイザーの周波数を変調する事で、『ボーグ』が此方の攻撃に対応する前にダメージを与えようとするが、巨大な『ボーグ・キューブ』にとってはα艦の攻撃など針の一撃程度でしかないのか、殆どダメージを与えられていない。メイン・ビューワーに映る『キューブ』を見据えながら打開策を練るユリカに、先ほど進路が交差した『ナデシコD-δ』からの通信を受ける。
「δ艦より連絡。交戦中の『キューブ』内に対象者の反応はないとの事です」
通信士からの報告を受けたユリカは一瞬表情が曇るが、気を取り直してオペレーター席に視線を向ける。
「……ジャスパーちゃん、アキトの反応は?」
「……交戦中の『キューブ』からは反応なしです」
「……そう」
星雲内に無人航宙艦を突入させて、フェイザーや光子魚雷をばら撒かせた後に破壊された船の残骸やチャフによりセンサーの感度は著しく落ちているが、これだけ近距離ならばセンサーで相手の事を探ることが出来るが……いつも良い結果が得られる訳ではない。
イネス・フレサンジュの研究――この並行世界には様々な異星種族がおり、多数の種族を同化した『ボーグ集合体』の中からテンカワ・アキトを救い出す為には、まず彼の位置を特定できなければ話にならず、多様な種族から如何に見つけ出すかが課題となり、この三年の研究でこの並行世界の地球原産種族と自分達来訪者のDNAには太古の昔に感染した比較的無害なレトロウイルスに僅かな差異が確認されて、それを目標に識別する技術を開発したのだ。
「これでこの宙域にいる『ボーグ・キューブ』の中にはアキト君が居ない事が確認出来たわね――どうする、艦長?」
既に他のβ艦からもγ艦からも交戦中の『ボーグ・キューブ』からテンカワ・アキトの反応はなかったとの報告を受けており、これでこの宙域に居る三隻の『ボーグ・キューブ』には居ない事が確定した……ならば、彼は何処にいるのか? もっとも可能性が高いのは、これまでの『キューブ』とは一線を画く相手。
「残るは、例の装甲艦ね」
最近加わったと言う、惑星連邦の分類では『クラス4・戦略キューブ』と呼ばれる重装甲の『ボーグ・キューブ』。今の所は姿を現していないが時間の問題だろう……もっとも、それまで此方が“持てば”の話だが。
「『ナデシコC』に連絡して下さい、プランBに移行します」
『ナデシコC』 艦橋
『ナデシコD』が『多重攻撃モード』に移行する際に、密かに『ナデシコD』から分離して新装備の『
USS『アスタナ』から取り外して接続した
『ナデシコC』自体も改修工事により、この世界の超光速航法システム『ワープ・バレル』と『デイフレクター・シールド』を搭載して、単独ワープが可能となった。だが『ナデシコD』に施されたような武装の大幅な強化は見送られて、兵装はグラビティ・ブラスト一門のみであり、『ナデシコC』の改装は専らセンサーや通信機能の強化に向けられた――連邦航宙艦に搭載されている恒星間航法用の高感度センサー群の設置や、通信施設の大幅な強化と念の為の亜空間通信施設の設置――そして何より『ボーグ』の通信プロトコルの解析が大きい。
これは宇宙基地のデーターベースで『ボーグ』の事を調べる過程で、遭遇した連邦航宙艦の解析情報から彼ら『ボーグ』の使う相互通信規格を解析して、彼らのネットワークにアクセスする事が可能となった――更にデーターベースを読み解く事により、彼ら『ボーグ』の集合意識へとアクセスする周波数が判明したのだ。
最初の『ボーグ・キューブ』の侵攻時の記録に、『ボーグ』に拉致されて同化された『エンタープライズ』のピカード艦長を救出した際に、彼と『ボーグ集合体』の集合意識とのリンクが途切れずに常に亜空間シグナルでつながっていた事が記載され、その周波数も同じく記載されていたのだ――つまり、『ボーグ・キューブ』自体を掌握するだけでなく、『ボーグ』の集合意識そのものを掌握できる可能性が出てきたのだ。
作戦としては、『多重攻撃モード』で四隻に分離した『ナデシコD』が『ボーグ・キューブ』群と交戦しながらテンカワ・アキトの所在を掴み、時機を見て交戦状態にあるナデシコ分離艦を中継して一気にシステム掌握を行い、『ボーグ・キューブ』群を制圧する予定であった。
「α艦、『キューブ』との戦闘によりシールド60%に減少、β艦とδ艦は変調型多連装グラビティ・ブラストのお陰で戦いにはなっていますが、元から攻撃力が違いすぎて此方側が不利です」
「……分かってはいた事ですが、『ボーグ』の力は此方を遥かに超えていますね」
展開したオペレート―シートに座っているルリは、周囲に表示される様々な情報を読み解きながら嘆息する。たった一隻の『ボーグ・キューブ』」を相手に、アルファ宇宙域の一大勢力である惑星連邦の迎撃艦隊が二度も壊滅状態にされたのだ――そんな『ボーグ・キューブ』を三隻も相手にして、勝算など最初からある訳がない。
故に『ナデシコD』の艦長ミスマル・ユリカは、鬼札を切る――各分離艦が『ボーグ・キューブ』に肉薄して、ドローン同士が行っている亜空間通信へのアクセス・ポイントへの中継ポイントとして距離を維持しつつ『ニューロ・トランシーバー』を組み込んだ『ナデシコC』の『オモイカネ』のハッキングのサポートを行い、一気に四隻の『キューブ』全てを掌握する――火星圏のシステム掌握という離れ業を成し遂げたオモイカネとホシノ・ルリの妙技をもう一度、という訳だ。
だが、この作戦にも欠点がある。首尾よく全ての『キューブ』を掌握できれば良いが、一隻でも逃せば反撃を受ける可能性があると言う事だ。データーベースの情報によれば、『ボーグ』の集合意識の各コマンドは強固な防壁が施されており、掌握しても戦力としては期待できない――故に基本この作戦は『ボーグ・キューブ』が全艦揃うまで、『ナデシコC』は『
「α艦より入電、『プランB』に移行との事です」
ウィンドウに表示される情報を読み解いて戦況は此方が不利かと思い始めた矢先に、α艦を指揮するミスマル・ユリカから『プランB』へ移行するとの連絡を受けてルリは速やかに『プランB』を遂行するべく指示を出した。
「全艦、警戒態勢。これより『プランB』に従い、この宙域に居る『ボーグ・キューブ』群を掌握します」
『プランB』――『ボーグ・キューブ』が全艦揃わなかった時に、戦闘宙域に居る『キューブ』だけでもシステム掌握を行い、掌握した『キューブ』を盾に残りの『キューブ』を掌握するというものだ。
『
作戦通りに三隻の『ボーグ・キューブ』の周囲で戦闘を行っている各分離艦を中継点として四隻同時に掌握を行う――『キューブ』一隻に十万人前後のドローンが乗船しており、彼らの集合意識もそれに見合った規模になる。
彼らの意識を結び集合意識を形成する為の基盤である意識を繋ぐ亜空間周波数は判明しており、『オモイカネ』型コンピューターの祖である『ナデシコC』の『オモイカネ』と前ナデシコ時代から“彼”をオペレートしてきたホシノ・ルリは、分離艦に搭載されている『オモイカネ』から株分けされた同型コンピューターとオペレーター達と共に、増設された亜空間通信機を用いて未知の亜空間の海へと乗り出す。
亜空間とは、一口で言って我々の通常の物理法則が通じない時空連続体といえる。亜空間はどこかの「特定の場所」ではなく、どこにでも存在しうるのである。通常の物体のまわりにも検出されることもあるし、通信は亜空間を通して行われているし、人工的に作り出す事だって出来る――超新星など、大量のエネルギー放出があれば、必ず亜空間が存在しているといわれる。
亜空間の内部では相対性理論は通用せず、質量までもが小さくなるという信じ難い事象が観測され、ワープ航行船のエンジンは我々の空間と密接に結びついた亜空間フィールドを<船の外部に>作って船を包むのである。
そんな既存の理論の通用しない亜空間内を通して、ルリと『オモイカネ』は『ボーグ・キューブ』内に存在する集合意識の外側へと到達する。亜空間内にも存在する雑多なノイズをシャットアウトして『ボーグ』以外の全てを弾くファイア・ウォールが存在していたが、古代火星文明の研究から生み出された『オモイカネ』にとっては突破出来ない程ではなく、宇宙基地のデーターベースの資料や、当事者である『エンタープライズ』のデーター少佐の協力もあり、アクセスは比較的安全に行われた。
「……これが『ボーグ』の集合意識――なんて整然として無駄のない配列」
『オモイカネ』を通して映るのは、千年以上研鑽された『ボーグ』の集合意識。あまたの文明を取り込み、常にバージョン・アップを行い、機能的に洗練された無駄のない配置――事前情報通りに、『ボーグ』の集合意識はコマンドごとに別れており、必要に応じて遂行されるようになっている。防御・通信システム・ナビゲーションなど重要なコマンドはセキュリティが高いと聞いているが、防壁を突破すると同時にやる事がある――各分離艦からのデーターリンクを行った際に気になる報告があった。三隻の『キューブ』には、探し人であるテンカワ・アキトの姿がなかったと言うのだ。
所在不明である残りの一隻に乗船していれば良いが、『トランスワープ・ハブ』が稼働状態になった以上、彼らの故郷たる七万光年離れたデルタ宇宙域に言っているとなれば捜索は絶望的となる。デルタ宇宙域には何千と言う『キューブ』が存在しているという。そんな中で一人の人間を探し出すなど、砂漠の中から一粒の砂を探すようなものだろう。
「『オモイカネ』、検索してください――キーワードは『アキト』です」
『ボーグ』の集合意識の中でテンカワ・アキトの足跡を探せば、彼が今どこに居るのか判明する可能性が高い。そう考えて『オモイカネ』に集合意識内を探らせている時に、突然向こうからアクセスがあった。
『“それ”は前に見た』
強大な『ボーグ・キューブ』を相手に、各分離艦は一進一退の攻防を繰り広げていた。豊富な武装を持つ『キューブ』に不利な接近戦を行い、『ナデシコC』からのシステム掌握の中継ポイントとして常に『キューブ』と近距離をキープするというのは、ナデシコ・クルー特に操舵士に多大な心労を与えていた。
『ナデシコD-α』艦 第一艦橋
「四時の方向より魚雷多数接近!」
「ミナトさん!」
「主舵一杯。なんとー!」
センサーにて『キューブ』の動向を探っていたクルーよりの警告を受けて、操舵席に座るミナトの妙技によって直撃弾は最小限に抑えているが、メイン・ビューワーの左側を『キューブ』の発射した光子魚雷が通り過ぎると次の瞬間に第一艦橋が激しい振動に見舞われる。
「シールド、70パーセントに減衰!」
「みんな、ここが堪え所だよ、がんばって!」
『キューブ』からの猛攻にナデシコ・クルーの間にも疲弊の色が見える。
だが事態は彼らに非情であった。
「――あうっ!?」
「――ジャスパーちゃん!?」
新設されたオモイカネ型ゴンピューター『アズサミ』のオペレートを行っていたジャスパーが、突然悲鳴のようなものを上げて失神してしまい、驚いたユリカは即座に駆け寄りジャスパーの容態を見るが、完全に意識を失ってぐったりとしている。
「……一体、何が?」
「……激しいショックを受けて意識がブラックアウトしたようね」
「ユリカ。そいつは突然大容量のデーターを送り込まれて、目を回しているだけだ……ふん、“アレ”と一緒に位相空間に乗り込んできたくせに情けない」
戸惑うユリカに、同じく診察するべく来ていたイネスが容態を診察しながら答え、傍まで来ていたソフィアが冷めた目をしながら悪態をつく。そんなソフィアの様子に窘めようとしたユリカだったが、事態は更に悪化する――突如としてα艦全体に激しい衝撃が走って艦橋要員がそれぞれのシートに掴まるが、中にはシートから投げ出される者も居た。
「―――ゴメン、捉まった!?」
操舵席で必死に『ボーグ』からの攻撃を躱していたミナトだったが、突然幾つかのスラスターが制御不能となり、奇跡的なほどの操縦の妙技を以て『ボーグ』の猛攻を凌いでいた彼女と言えど、船がまともに動かなければ妙技も意味をなさずに『ボーグ・キューブ』のトラクタービームに捉まってしまったのだ。
「『アズサミ』のシステムがダウンした影響で各システムに障害が発生しています!」
「相転移炉出力低下! シールドが維持出来ません!?」
「――構造維持フィールドのパワーを回して!」
「ダメです! 全てのパワーが消失。兵装システム、航法システムも機能不全を起こしています!」
「……送り込まれた大量のデーターの中に悪質なモノも含まれていたようね。システム掌握の中継点をしていた『アズサミ』の機能に幾つかの障害が出て、それが艦内のシステムに悪影響を及ぼしているのね」
その障害の中に各部スラスターの制御プログラムも含まれていたのだろう。華麗とも言える手さばきで各部スラスターを操作して『キューブ』の攻撃を避けていたミナトだったが、突然スラスターのコントロールが乱れたその一瞬のスキを突かれて『キューブ』のトラクタービームに捉まって船体を完全に固定されてしまい、武装や防御シールドもダウンしてしまう。
「……イネスさん。『アズサミ』に障害が出たとしても補助システムがバックアップする筈ですよね? なのにここまで脆いなんて」
「……此方のシステムの弱点を的確に突かれたようね。まるで手の内を知られているようだわ」
四隻の分離艦もそれぞれ『ボーグ・キューブ』の放つトラクタービームに掴まり、頼みの『ナデシコC』もシステムに障害でも起こったのか推進力を失って漂流を始めている。恐らくシステム掌握の基点となった『ナデシコC』のメイン・コンピューターである『オモイカネ』も、『アズサミ』同様に大量のデーターの中に含まれていた“悪質なモノ”ウイルスによってシステム障害が起こったのだろう――しかも悪い知らせは続く。
「――他の分離艦も、システムに不調をきたした隙を突かれて『キューブ』のトラクタービームにより行動不能になったようです」
他の分離艦まで容易く捕らえられたこの状況を見れば、作戦は失敗。『ボーグ』の方が一枚上手だった。3年の時をかけて再建した『ナデシコD』は、彼らの力の前には無力だったと言う事になる。α艦の第一艦橋内では絶望的な状況に誰もが顔色を悪くしている中、艦長であるユリカは項垂れるクルーを必死に鼓舞していたが、更に最悪な報告がもたらされた。
「――分子雲に変化があります! 何かが、巨大な何かが分子雲を掻き分けて此方に近づいてきます!」
チャフの影響で未だセンサーが不調の中、非常用のパワーで周辺を監視していた観測班からの報告を受けてメイン・ビューワーに変化があった宙域が映し出される――渦巻く分子雲を掻き分けて巨大な人工物が姿を現す、それは雑多な部品で構成された壁であった。それは遭遇した数多の航宙艦を切り刻んで自らの船体を構成していた。それは、数多の絶望を飲み込んだ『キューブ』であった。しかも“それ”は他の『キューブ』と異なり表層に装甲版が取り付けられており、明らかに戦闘に特化していた――その名は、
「……『クラス4・戦略キューブ』」
メイン・ビューワーの画面一杯に映る『戦略キューブ』の無気味な姿に、乾いた声で呟くユリカ。その巨大な姿に誰もが声を失い、分離した『ナデシコD』の各分離艦をトラクタービームで捕えた『キューブ』群に半ば包囲された状況の中で、重苦しい雰囲気が支配する第一艦橋で打開策を思案するユリカだったが、突如として視界に白い霞のようなものが掛かる。
「――これって、転――」
「艦長!?」
それは誰の声だったのか、ナデシコ・クルーの精神的支柱とも言えるミスマル・ユリカの身に起きた異変に気付くも、何も出来ずに白い光に包まれて消えゆく彼女をただ見ている事しか出来なかった。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
全てを掛けて挑んだ結果、壁は高かった。
転送で拉致されたユリカ達はどうなるのか?
次回 第四十九話 LITTLR・QUEEN
『クラス4・戦略キューブ』の奥底で、ユリカとルリは彼女と相対する。
では、また近いうちに。