宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第五十一話 牙は未だ折れず

 

  『ナデシコD』α艦 第一艦橋


 

『貴方達を同化する。抵抗は無意味だ』

 

 メイン・ビューワー映し出されたラピスを見ていたイネスは、彼女が宣言する姿を見て麗眉を寄せて視線を鋭くする……月のネルガル秘密ドックを拠点としていたラピスとはそれほど接点はなく、健康診断やアキトの容態が急変した時などに顔を合わせていた……無表情ながらもアキトの容態を心配して傍を離れないなどアキトに依存している傾向があり、過酷な生体実験を受けて荒んだアキトの傍にラピスを置く事により、自暴自棄な行動を抑制させる効果を期待したのだ。

 

 以前と違い驚くほど無口になったアキトであったが、武骨ながらもラピスを気遣う姿を見せる事も有り、二人を組ませたのは正解だった――そう思っていたが、まさかラピスがこんな暴走をするとは想定外の事態だった。ユーチャリスを操作していた頃よりテンカワ・アキトのサポートを第一にしており、先ほどの会話でもアキトの壊れた自我を再生する事を目的にしている事は分かる……だがその為に他者を犠牲にする事に何の躊躇いを見せないのは、幼子を戦場へと送り込んだ自分たち大人の罪であり、扇動した『ボーグ・クイーン』なる人物の悪意の所為であろう。

 

 ユリカが見抜いた通り、ラピスは連邦にではなく自分達に向けた代弁者に仕立て上げられたのだろう。並行世界へと転移するプロセスは分かっていないようだが、もしその手段を『ボーグ』が得ればそれは多くの人々――並行世界に不幸をまき散らす事になるだろう。それは阻止しなければならない。

 

「前方の『ボーグ・キューブ』よりトラクタービームが照射されました、引き寄せられます!」

「――ダメ! 抵抗できない!?」

 

 思考の海に沈んでいる間に艦橋内では動きがあったようだ。サブのビューワーには緑色の光を照射する装甲に覆われた『戦略キューブ』の姿が映っている。周囲のガス雲の上に浮かぶように停止しているその姿は強固な防壁に守られた難攻不落の城塞のようであった。

 

 トラクタービームによって引き寄せられている影響で装甲に守られた『キューブ』の姿がどんどん大きくなっていく――画面一杯に映る『キューブ』の外壁に亀裂が入って開いて行き、『キューブ』の内部構造が見える……どうやら格納庫のようだ。

 

「……あの中に入ったらお終いね」

 

 どんどん近付いて来る格納庫を睨み付けながらイネスは傍で歯噛みしているジャスパーに落ち着くように告げた後に、クルーに向けて艦内中央部へ退避するように指示を出す。

 

「……艦の機能は沈黙し、艦長は連れ去られ、目の前には巨大な顎が開いている……状況としては最悪ね――けどね、慢心していると手痛い逆襲を食らうわよ」

 

メイン・ビューワー一杯に映る無機質な外壁に大きく開いた格納庫へと通ずるゲートを睨み付けながら、イネスは口角を釣り上げて獰猛に笑う。

 

「“例の仕掛け”って奴ね、効果はあるの?」

「……相手の裏をかくって事は保証するわ」

 

 操舵席から振り返ってそう問い掛けるミナトに、イネスはマッド・サイエンティスト特有の無気味な笑みを浮かべて答える……異性には見せられない顔で笑い合う二人を見ながら、イネスの近くで作業していたジャスパーは「悪い顔っしているな~」と戦々恐々してドン引きしていたが、ふと何かに気付いたイネスが周囲を見回した事に気付いて問い掛ける。

 

「……どうしたんです、イネス先生?」

「……艦長が拉致されたのに、一番初めに騒ぎそうなあの演算ユニットが大人しいなぁと思ってね」

「……そういえば――どこに行ったの、アイツは!?」

 

 


 

 

 星雲内 『エンタープライズE』ブリッジ

 

 全長七百メートル近い巨体を制御する『エンタープライズE』の部脳とも言えるブリッジの中は、通常の照明は消されて非常警報を現す赤い光に照らされていた。ブリッジに詰める上級士官達も皆緊張した趣で、それぞれ任されたコンソールを見つめているが、その殆どは機能を休眠させており、最低限の機能しか動いていなかった。

 

 そんな緊張感漂うブリッジに軽い振動が伝わる。

 

「……方位23マーク40より気流が接触。進路が0・2ズレました」

「――第六格納庫の隔壁を0・3秒解放して軌道を修正します」

 

 コン・コンソールの操舵士からの報告を受けて、オプス・コンソールのデーターがパネルを操作すると、左舷の格納庫の外壁が少しの間開いて、内部の空気を放出して逸れた軌道を修正する。本来ならスラスターを噴射して対応するものだが、今はスラスターはおろか推進機関であるインパルス・エンジンも停止しており、艦の機能も最小限のモノしか機能していない状態である。

 

 『ボーグ・キューブ』に察知されない為に、航宙艦の機能を極限にまで絞っての慣性航行は艦隊士官達の精神に多大な負担を与えているようだ。航宙艦の制御システムが集中するブリッジで、各制御ステーションを担当する士官達は表情を強張らせながらも各自の責務を果たそうとしている。様々な星間物質や微細とは言え衝突すれば甚大な被害をもたらす小惑星群が飛び交う星雲内を、シールドはおろか推進機関すら停止した状態で慣性航行を行う事は多大なストレスとなっているようだ。

 

「……何とも落ち着かないモノですな」

 

 副長席に座るライカー中佐が何とも言えない顔で零す。

 

「ナデシコが派手に動いて囮となっている隙に、我々が『トランスワープ・ハブ』に接近して破壊する。その為にも『ボーグ』に察知されるリスクは最低限に抑えたい」

「……『トランスワープ・ハブ』の破壊の成否は、連邦のみならずアルファ宇宙域全体の命運が掛かっていますからね」

 

 艦長であるピカード大佐と副長であるライカー中佐の会話は、周囲で働く上級士官達にも聞こえてそれぞれの胸に響く――集団と化した『ボーグ・キューブ』に対抗する術は、今の連邦にはない。ここで『ボーグ』を止めなければ悲惨な未来が訪れるだろう――それを阻止するのは連邦宇宙艦隊に属する士官である自分達の使命である、と。

 

 奮起あるいは瞳に強い光を取り戻した士官達を見て、ピカードは満足げに頷く。副長が発言する事により周囲の意識を誘い、艦長である自分が今一度この任務の重要性を説く事により、ブリッジに居る士官達の士気を上げる……即興にしては効果があったようだ。

 

「艦長、観測班より連絡です――『トランスワープ・ハブ』を確認したとの事です」

「データー、ビューワー起動しろ」

「アイ・サー」

 

 ピカードの指示を受けたデーターがオプス・コンソールを操作して、正面に備えられたメイン・ビューワーを起動する。そこには膨大なエネルギーを放出する巨大な青白い天体と、その表面にへばり付いている蜘蛛の巣のような構造物……間違いなく目的地である『トランスワープ・ハブ』だ。

 

「……変ですね。我々が来る事は分かっていた筈なのに護衛の『キューブ』が見当たりません」

「……これは、ジャスパーの予想が的中したようだな」

「……あの、『LITTLR・QUEEN』は経験が少なく精神的に幼いと言う?」

 

 ライカーの言葉に頷くピカード。幾度となくタイム・ループを繰り返してきたと言う自称コンピューター思念体を名乗る少女ジャスパーは、過酷な運命が待ち受けるナデシコ・クルーを救う為に遥か未来から来訪したと言う。

 

 だが、彼女の前に立ち塞がったのは、様々な文明を同化してきた恐るべき種族『ボーグ集合体』であり、何故か『ボーグ』の代弁者になっていた『LITTLR・QUEEN』ことラピス・ラズリという少女であったと言う。ミスマル・ユリカやホシノ・ルリと同じく並行世界からの来訪者である彼女が何故『ボーグ』の代弁者になったのかは分からないが、ミスマル・ユリカの夫であるテンカワ・アキトと行動を共にしてきたラピスはナデシコの事を良く知っており、ラピス率いる『ボーグ・キューブ』の前に敗北してはタイム・リープを繰り返して来たと言う――ジャスパー曰く「あのピンクの悪魔は、『ボーグ』に同化されてから、更に性格が悪くなったのよ!」と小さな手足をバタつかせて憤慨していた。

 

 だが何度か戦っている内にジャスパーは、ラピスが意外と搦手に弱い事に気付く……ラピス・ラズリという少女の生い立ちを聞くに、それほど人生経験はなく、ただ与えられた任務をこなしていただけなのだろう事は容易に想像がついた。

 

「『ナデシコD』という大きすぎる餌に全力で食いついたのだろう。つまり今がチャンスと言う事だ――全システム起動!」

「アイ・サー。システム起動します」

「全兵装装填!」

「アイ・サー。フェイザー、量子魚雷装填します」

「キャプテン、攻撃コースに乗りました」

 

 ピカード号令の下、『エンタープライズE』のシステムが立ち上げられて巨大な航宙艦が息を吹き返す。続いて武装システムにエネルギーが充填されて、フェイザー・アレイや魚雷ランチャーが本領を発揮すべくその時を待つ。完全覚醒した『エンタープライズE』は、回頭しながら艦首を青白いエネルギーを放出する天体の表面に掬う『ボーグ』の『トランスワープ・ハブ』へと狙いを定める。

 

「センサー起動――周囲に『キューブ』の存在はありません」

「両舷全速、トリコバルト弾頭を装填しろ」

「アイ・サー。トリコバルト弾頭を装填します」

 

 『エンタープライズE』の魚雷発射管に謎の組織『セクション31』のエージェントより提供された試作型弾頭が装填される。これは通常の弾頭とは全く違い、エネルギーを放射して対象を破壊するのではなく、瞬間的に強力な亜空間フィールドを発生させて通常の空間に干渉し、大規模な空間変動を引き起こして対象物を破壊するモノである。

 

「『トランスワープ・ハブ』を射程に捕らえました」

 

 メイン・ビューワーに青白い光を放つ天体の表面に広がる蜘蛛の巣のような巨大な構造体の中に一つだけ六角形の構造物が見える――あれこそ超超光速航行を可能とする亜空間トンネルへの入り口『トランスワープ・コンジェット』であり、今その『トランワープ・コンジェット』が手の届く距離まで来た。

 

「――FIRE(撃て)

 

 ピカードの号令の下に船体各所に設置されたタイプ12フェイザー・アレイより大都市すら蒸発させるエネルギーが撃ち出され、魚雷ランチャーより発射された量子魚雷が真空フィールド・チャンバー内に格納された時空連続体膜と零点フィールドより抽出されたエネルギーを反応させて『トランスワープ・コンジェット』内で凄まじい爆発を起こし、とどめとばかりにトリコバルト弾頭が強烈な空間変動を起こして『トランスワープ・コンジェット』を支える構造物を崩壊させる。

 

 ソヴェリン級の打撃力を遺憾なく発揮した攻撃は、コンジェットを支える構造物のみならず天体に張り付いた『ボーグ』の施設そのものを崩壊へと導いていく。

 

「これでこれ以上の増援は無くなる。後はこの宇宙域に侵入している『キューブ』を排除するだけですね」

「……それがこの上なく難問だがな」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 『戦略キューブ』の巨大な顎に飲み込まれようとする『ナデシコC・D』
 だが、彼らは諦めていなかった。


 次からは『ヤマト』SIDEで話が進行します。

 次回 第五十二話 かくも世は残酷なりけり。

 元の世界へ戻る術を探す『ヤマト』は、世界の残酷さを知る。

 では、また近いうちに。
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